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係争の異能力者(アビリター)
281
:
ライナー
:2012/01/21(土) 14:47:31 HOST:222-151-086-008.jp.fiberbit.net
やけに静まった大通りは、腕時計の秒針の音さえも大きく表現する沈黙だった。
まるで、水中のような沈黙。
暫くして、捜索から熱也が戻ってきた。何処まで走っていったのか、少し息が荒い様子だ。
そして、戻ってきた後の答えはやはり―――
「居らんかった」
まあ、そうだろうとしか返しようがない答えだった。だが、啓助は何か考えるように間を置いて、そうか、と静かに言う。自分の想定が少し外れたような言い方だ。
その言葉の後に、熱也は付け足すように言葉を続けた。
「と言っても、直径1キロメートル位を隅々調べたんやけどな」
確かに街一つと比べたら、直径1キロメートルは小さい範囲内かもしれない。しかし、熱也の捜索時間は約25分。隅々まで調べると言ったら充分過ぎるほどの時間だ。
「ああ、それもう一つ。道路に車が投げ出されるようにあったんやけど、やっぱ人が移動したって言うより消えたっちゅうのが本命らしいな」
消えた。それなら意図的に誰かが消したか、消すような事態を起こしたに違いはない。人が自分から消えるようなことは出来ないし、存在自体を消すのは無理な話だ。
行方の真相を深く考え込みそうになって、啓助は思考回路にストッパーを掛けた。深く考える前に、まず麻衣を安静な場所に移さなければならない。
「ハァ……」
溜息を吐きながら、啓助は貴重品を扱うように麻衣を持ち上げる。状況が状況でなかったら、このお姫様抱っこは批判されていただろう。
現在地、旅館の一室。
啓助は勝手に旅館の布団を使い、その上に麻衣を寝かせる。
「ヌッ! 何やこの扇子! ゴッツ重いんやけど!!」
熱也はどうやら、麻衣の武器『風華乱扇(ふうからんせん)』を運ぶのに苦労しているようだ。というか、麻衣は啓助より小さいあの体にどのようにしてあんな扇を振り回す力を持っているのだろうか。腕を掴んでみてもそれ程筋肉があるとは思えないし、年齢としても啓助と同じ16、15歳くらいの外見だ。
扇を両手にした玄関前の熱也に、啓助は手を貸す。
二人で両端を持って、玄関の段差を越えたものの、長刀のような扇は重量としてはまあまあ。これほど重く感じるのは長さのせいだろう。二人で運ぶと案外軽かった。
「……ふー、外に調べて行きたいが、怪我人から目を離すわけにも居かねえな」
額にうっすらと浮かんだ汗を、啓助は服の袖で拭う。
「しゃーないから、ワイがヘッドホン娘の面倒見たるわ。さっきの出来事もそうやけど、〈キルブラック〉が関係しているのは明かや。ワイは結構な切傷負ってもうてるし、一番怪我の少ないお前が行ってくれ」
俺も相当火傷負ってるんだけどな、と一言言い返し、啓助は麻衣の手当を終えた。
麻衣の手当を終えた啓助は、今度は自分の手当に方向を変える。
「……今は何が起こるか分からねえ。呉々も気を付けろよ」
啓助は、自分の腕に包帯を巻きながら熱也に言った。言葉からして、行動に出ることは確かなようだ。
「分かっとるわそんな事! それよりも、ワイがここにワープして来てもうた分、キッチリ解決するんやぞ」
了解。そんな言葉と僅かな笑みを残して、啓助は旅館を去る。
必ず戻らなければ。第三番隊B班のメンバーのため、そして、残していった熱也と麻衣のために。
大通りに出ると、「当然」と言うべきなのだろうが、人が居ない。
辺りには、霊現象でも見えてしまいそうなカーブミラー、車道のど真ん中に不自然に止められた車。やり尽くされていないゴーストタウンを、啓助は当てずっぽうに走る。ちなみに路上の車は全てアイドリングストップされていないようだ。消えているのだから当たり前なのだが、何となく環境が気になる光景ではある。
それにしても、走っても走っても人の気配一つ感じない。一体何処までの範囲の人間が消えているのか。しかし、日本全国の人間が消されたという選択肢はない。不自然に路駐された車のラジオが通常に役割を果たしていたからだ。
すると、人の話し声をキャッチする。
「ん?」
その話し声は、カーブミラーから少し姿が見える。
話し声を立てている者の姿は、〈キルブラック〉の下っ端が纏う黒装束を着ていた。
282
:
ライナー
:2012/01/29(日) 14:48:43 HOST:222-151-086-012.jp.fiberbit.net
「いやー、白闇様と黒明様の技は凄いね」
声が聞こえると同時に、啓助はカーブミラーの死角に寄り、耳を澄ませる。
「そうだなー。この周囲の人間を全て異空間に収納とか……俺らには意味不明だよ」
やはり〈キルブラック〉の者の話らしい。それに、白闇と黒明がまだ動ける状態であったのが、啓助には酷く驚きを呼び起こした。
「ボスが異空間から人々を助け出すような演技をやって、今の時代に必要なアビリターをここに示す。そう言ったことで、会社を引き立てトップクラスの営業会社を作り出す。凄すぎて俺らには判断が付かないな」
黒装束の話を頭の中で整理しながら、啓助はあの言葉を思い出す。
「「タダの会社だし」」
白闇と黒明、あの双子が言った言葉だ。どうやら偽りではなかったらしい。
しかし、会社と言うからには今までも敵も雇われた人間が多数を占めるだろう。すると、〈キルブラック〉のボス堂本はたった一つの会社を引き立てるためだけに、多くの人間を巻き込んでいる。そうだとしたら、一刻も早く堂本を止めなくてはならない。
「〈キルブラック〉の下っ端にしては随分オシャレ脱線した格好してるじゃない」
突然、後ろから声が掛かる。
「……!」
唾を呑み、啓助はゆっくりと首を背後へ回した。すると、その目に入ってきたのは――――
「れ、麗華……!!」
啓助はそう声を漏らし、硬直する。
そこにいた麗華も同様に衝撃的だったらしく、『白鳥夢掻(しらとりむそう)』を握ったまま立ち尽くしている。
突如な再開。しかし、これは双方にとって重大なことだった。
啓助は逃亡者、麗華はユニオン隊員。この身分は、関係図で表すと「敵」という矢印で結ばれているのだ。つまり、今互いが出会うことは戦闘に発展してしまうという事だ。
思わず、啓助は背にある剣の柄に手を伸ばす。
「辻……アンタ、まさか〈キルブラック〉の一員なわけないわよね?」
そんなこと一目見れば分かるのだが、今はお互いを信用することは難しい。啓助は〈キルブラック〉の作戦現場にいて、麗華は恐らくそれを止めるために派遣されたのだろうから。
『白鳥夢掻(しらとりむそう)』を握る麗華の手が、ほんの僅かに力が込められる。
「ああ」
言葉と同時に『氷柱牙斬(つららげざん)』を鞘から抜き出した。
「(今はお互いやるべき事を優先するしか他ない。こうなったら――――
――――戦うしかない。
そう、選択肢は一つだけ。戦うことしか許されないのだ。
麗華は今ここでユニオンを裏切り、啓助を助けるようなことをすれば同罪になる。しかし、啓助はそんな迷惑掛けられるはずもなかった。
たとえ任務を任されても、指名手配犯などと遭遇した場合はそれを優先する。そうして、自分の出来る範囲内のことを実行する。それがユニオンのオキテだった。一見仲間を裏切るような行為に見えるが、それは仲間を信じて任務を任せるという事にも繋がる。そして、多くの仕事をこなさなければいけないプレッシャーでもある。
そして戦う。
――――仲間の元へ帰るため。第三番隊B班のチームルームに再び戻るために。
そのためには、麗華を戦闘不能に追い込まなければいけない。
以前の試合による負けがあり、緊張感がさらに増す。
「………」
啓助は剣を構える。仲間だった者に。
麗華はナイフを握る。任務を遂行するために。
戦うことは互いのため、これが神の作り出した越え辛い運命(さだめ)。
二人は同時に足を踏み出した。
互いの武器は激しくぶつかり合う。まるで、金属が奏でる交響曲が如く。
「(クソッ……!)」
そして、啓助は願った。
――――交響曲の中断を。
283
:
燐
:2012/02/19(日) 16:33:28 HOST:zaqdb739e54.zaq.ne.jp
コメしますねノシ
全体の4分の一を読み終わりました!!
いや〜ライナーさんの小説はハンパないですよね(*^_^*)
私の小説とは桁違いな上手さです!!
最終回まで読みますから、辞めないでくださいよ!!
こっちはこっちでとても楽しみなんですから!!←
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