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黒月

3小説好きな名無し:2011/01/05(水) 01:24:12 HOST:p02a4f3.tokynt01.ap.so-net.ne.jp
第2話

 もう鍵はかけられていなかった。家の中は外と変わらない程の黒一色。
 歩は手さぐりに二階へ上がれる階段を探し、部屋へと入った。
 何となく歩はホッとした気分になった。もしこんな汚れたおもちゃの刀を持っている所を母親か父親にでも見られたらすぐ捨てて来いなどと言われたに違いない。
 それにしてもこの刀についていた猫のキーホルダー。黒々とした毛並み、パッチリと開いた眼。まるで本物の猫のようだ。
 刀はとりあえず見つからないようにベッドの下に。猫のキーホルダーは携帯につけてみることにした。
 今日は疲れているのだろう。瞼が重い気がする。歩はベッドの上に倒れ込むと数秒程で深い眠りについてしまった。

***

 翌日、眠い目をこすりながら枕元の目覚まし時計を見ると、長針が10、短針が25を指していた。
 十時二十五分。
 一瞬再び目を閉じた。だがすぐにサッと起き上る。

(遅刻だ!!)

 焦りに焦りながらカバンに教材を詰め込む。

「バカかお前は。 つい昨日退学させられたばかりだろうが」

 その声で歩はハッとして手を止めた。
 そうだ、自分は学校を退学させられたんだ。
 だが次の瞬間、次なる疑問が歩の頭の中をめぐる。

(今……誰が喋った!?)

 歩の両親は今仕事に出ているはずだった。なら今彼に話しかけたのは誰なのか?
 辺りを見回しても誰もいない。
 空耳?
 まだ起きたばかりだから幻聴を耳にしたのかもしれない。そうだ、それしか考えられない。そうであることを願いたい。
 だがそんな歩の願いは届かず、再び謎の声は何処からとなく聞こえてくる。

「こっちだよこっち。 お前の携帯の近く」

 携帯。
 布団に埋もれていた携帯を取り上げ、確認するが、特に異常は見当たらなかった。
 携帯の方は。
 異常があったのはそのストラップの方だった。黒猫のキーホルダーが動いている。

「え? ……え?」

「まあこんな代物を見るのも初めてだろう。 驚くのも無理はない」

 頭の中がどんどん混乱して行く。昨日拾った刀と一緒についてきた黒猫のキーホルダーが今ここで突然喋り始めた。
 自分の頬を思い切りつねってみる。痛みは確かに感じる。どうやら夢ではないようだ。

「ワシは八咫(やた)。 儀式具の一つだ」

「儀式具?」

「お教えしよう。 儀式具と言うのは人と魂の宿った儀式具とが契約をすることでその人間の潜在能力を極限まで引き出し、特別な能力を手に入れることのできる、いわば魔法の道具。
 どうだ? これもなんかの縁。 契約を交わしておかんか?」

 べらべらと喋るその儀式具とか呼ばれる黒猫を見ているとだんだんと気味の悪さが退いていった。
 特別な能力が貰えると言われると興味を示さない者は多分いないだろう。当然歩もその話に対してかなりの興味を持った。

「お前と契約するとどんな能力が手に入るんだ?」

「そいつはワシと契約してからのお楽しみだ。 さあ、どうする? 人生を変える転機にもなるかも知れんぞ?」

 人生を変える……。丁度つまらないと思っていたこの人生。これはまさに自分にピッタリな設定じゃないだろうか?
 歩の口は自然と動いていた。

「契約……しよう。 それでオレ、また新しい生き方を探してみるよ!」

「新しい生き方か。 いいだろう。 それでは契約のため、まずワシとお前の間に誓いを立てさせてもらう」

「誓い?」

「1つ。 ワシの名前……八咫と言う名前は絶対に人に教えるな」

 歩は思わず「え?」と聞き返してしまった。誓いなどと言うほどだからもっと恐ろしい言葉を想像していた。

「儀式具と契約しているのはお前だけではない。 他の能力者にワシの名前を呼ばれた時、ワシは消滅してしまう」

「なるほど、それは重要だな」

「もう一つ。 ワシを常にお前の身近に置くこと。 これは能力者とか関係なくホントに頼む。 一人では寂しいんだ……」

 これもまたつい「え?」と聞き返してしまった。八咫は恥ずかしそうに歩から目をそらしている。
 道具でも寂しくなることがあるのか、と歩はそれでとりあえず納得した。


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