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第一部千葉市憂愁

1(oSPKo):2020/12/15(火) 04:47:32
チバシティ・ブルース

2(oSPKo):2020/12/15(火) 05:01:08

港の空の色は、空きチャンネルに合わせたTVの色だった。
「別に用ってるわけじゃないんだけど―」
と誰かが言うのを聞きながらケイスは人込みを押し分けて《チャット》のドアに入り込んだ。
「―おれの体がドラッグ大欠乏症になったみたいなんだ」
《スプロール》調の声、《スプロール》調の冗談だ。
《茶壷》は、筋金入り国外移住者用のバーで、だからここで一週間飲みつづけても、日本語はふた言を耳にしない。

3(oSPKo):2020/12/15(火) 05:10:27
ラッツがバー・カウンターの中にはいっていて、義手を単調に揺さぶりながら、トレイに並べたグラスにキリンの生を注いでいる。
ケイスに眼をやってニヤッと笑った。
歯が東欧の鋼と茶色の虫食いとで網目模様になっている。
ケイスはバー・カウンターに空きを見つけた。
ロニー・ゾーンのところの娼婦の、まゆつばものの陽灼け肌と、背の高いアフリカ人のパリッとした海軍軍服との狭間だ。
このアフリカ人の頬には、キッチリした部族模様の傷痕が刻みこまれて、畝になっている。
「さっきウェイジが来たぜ、若い衆ふたりを連れて」
とラッツが義手でない方の手で、生ビールをバー・カウンターの上に滑らせてよこし、
「何かあんたとの仕事だろ、ケイス」

4(oSPKo):2020/12/15(火) 05:13:24
ケイスは肩をすくめた。
右側の娘がくすくすと笑いながら小突いてよこす。

5(oSPKo):2020/12/15(火) 05:21:46
バーテンダーの笑みが大きくなった。
この男の醜いことは伝説ものだ。
金さえ出せば美が購える時代だというのに、この男の美しくないことといったら紋章めいてすらいる。
年代物のの義手を唸らせながら、別のマグに手を伸ばした。
これはソ連の軍事用義肢であり、七機 能(ファンクション)の強制フィードバック人工操作手(マニピュレータ)を薄汚いピンクのプラスティックで覆った代物だ。
「あんた、あんまり凝り性(アーティスト)なんだよ、ケイス大人」

6(oSPKo):2020/12/16(水) 17:09:00
とラッツは唸るーこの声が笑い声ということになっているのだ。
白いシャツの下の腹の張り出しを、ピンクの鉤爪で掻きながら、「ちょいとおかしな件で凝り性(アーティスト)なのさ」
「そうとも」

7(oSPKo):2020/12/16(水) 17:11:44
とケイスは言い、ビールを口に含んで、「このあたりじゃ誰かしら、おかしくなくちゃならないんだ。おまえさんは金輪際そうじゃないもんな」


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