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百物語改め四十四話ラジオ

31その:2009/08/31(月) 16:33:28 ID:KUA7elBk
2/フジツボ

その日、私は久しぶりに高校時代の親友と海まで遊びに来ていた。
親友の名前は里美。

海に着くと気温はまだ暑かったが、九月ということもあり、余り人はいなかった。

はじめは二人で砂場で遊んだりしていたけれど、いい加減体が熱くなってたあたりで
「ねぇ、今からあそこの岩場まで競争しない?」
と里美が提案してきた。
見ると、浜辺から数百メートルほど離れた場所に、針のような岩が突き出ていた。
岩と言っても決して小さな物ではなく、大人が十人以上、余裕で上れそうな物だ。
私がうなずくと、里美は真っ先に海に飛び込んで行った。

里美は泳ぎが得意な子だった。
そして私はどちらかと言うと泳ぐのは苦手、更に里美より遅れてスタートしていたので、勝ち目は無かった。
けれど意外な事に、先に岩場についたのは私だった。
岩場に登り、辺りを見回す。けれど、里美の姿を見つけることは出来なかった。

しばらく待ったところで私は里美がおぼれたのではないかと心配し始めた。
私は里美の名前を呼びながら辺りを泳ぎ、海にいた他の人にも里美を探すのを手伝ってもらった。
最終的には警察も来たが、とうとう里美を見つける事は出来なかった。
やっとの事で家に帰った頃には、翌日の朝になっていた。
私は里美の事が心配だったけれど、疲れ切っていたせいか、いつの間にか眠ってしまっていた。
「……響子」
誰かが私の名前を呼ぶのを聞いて目が覚めた。
まだ陽が射しているのを見ると、眠ってからそれほど時間は経っていないようだ。
誰に名前を呼ばれたのか気になったけれど、ただ寝ぼけていただけだろうと考える事にして、しばらくベッドの上に横になっていた。
「……響子」
しばらくしてまた自分の名前が呼ばれるのが聞こえた。
目はもうすっかり覚めていたので、今度は聞き間違いではないと確信した。
声は心なしか里の声に似ていた。

「里美なの?」

私が言うと、声は「ここよ」と返事をした。
それは私の足元だった。 私が足元に視線をやると、自分の足が大きく切れている事に気がついた。
傷口は大きく、まるでかみそりで切ったようにキレイだった。ただ、痛みは感じなかった。
また、里美の声がした。声は、傷口の中からしていた。

「響子、ここよ」

私は意を決して傷口を手の平で押さえつけた。すると掌に奇妙な感触が伝わってきた。
硬い何かが、私の傷口から入り込んでいるようだった。
恐ろしくなった私は半狂乱になりながら傷口に入り込んだ異物を取り出そうとした。
傷口に触れたとたん、先ほどまで感じなかった鋭い痛みが私を襲った。それでも私は傷口に手を入れた。
「響子、止めて、痛い、痛い!!」
里美の声が部屋の中にこだました。
私はかまわずに異物を掻き出そうとした。既に足からは大量の血が出ていた。
バリッ、
と言う音と共に私の足に入り込んでいた異物が出てきた。
見るとそれはフジツボだった。
もう、声は聞こえてこなかった。部屋に再び静寂が帰って来た。

しばらくして私は自力で近所の病院へ行った。
血はかなり出ていたが、幸い命に別状は無かった。

数日後、里美の遺体が発見された。
彼女の体には大量のフジツボが付着していて、唇の部分だけが、まるで誰かに剥ぎ取られたかのように無くなっていたそうだ。


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