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仮投下スレpart2

611 ◆EA1tgeYbP.:2008/09/25(木) 13:36:05 ID:vE6MOeus0
[思考]
基本-1:ねねね達と協力して実験から脱出し、この世界では「堪える」を選んだ者の行く末を見届けたい。
    自分は彼らから負を追い払う剣となる。(元の世界でまた国家錬金術師と戦うかどうかは保留)。
基本-2:螺旋力保有者の保護、その敵となりうる存在の抹殺。
1:ジンの仲間と合流。
2:各施設にある『お宝』の調査と回収。 及び螺旋力保有者の守護。
3:ギアスを使用したヴィラル、チミルフへの尋問について考える
4:螺旋王に対する見極め。これの如何によっては方針を変える場合も……。
[備考]:
※言峰の言葉を受け入れ、覚悟を決めました。
※スカーの右腕は地脈の力を取り入れているため、魔力があるものとして扱われます。
※会場端のワープを認識。螺旋力についての知識、この世界の『空、星、太陽、月』に対して何らかの確証を持っています。
※清麿達がラガンで刑務所から飛び出したのを見ていません。
※ねねね、ドモンの生き方に光明を見ました(真似するわけではありません。自分の罪が消えないことはわかっています)。
※ルルーシュ、ニコラス、東方不敗、ヴィラル、シャマルを殺し合いに乗っている参加者だと判断しました。
※螺旋界認識転移システムの存在を知りました。


【ドモン・カッシュ@機動武闘伝Gガンダム】
[状態]:全身に打撲、背中に重度の火傷、全身に軽度から重度まで無数の裂傷、疲労(大)、やや強めの罪悪感、明鏡止水の境地
[装備]:なし
[道具]:支給品一式
[思考]
基本:己を鍛え上げつつ他の参加者と共にバトルロワイアルを阻止し、師匠を説得した後螺旋王をヒートエンド
1:ジンの仲間たちと合流する
2:積極的に、他の参加者にファイトを申し込む(目的を忘れない程度に戦う)
3:ゲームに乗っている人間は(基本的に拳で)説き伏せ、弱者は保護し、場合によっては稽古をつける
4:カミナを探し、ニアを守れなかったことを謝罪したい。
5:東方不敗を説得する。

612 ◆EA1tgeYbP.:2008/09/25(木) 13:36:23 ID:vE6MOeus0
[備考]:
※本編終了後からの参戦。
※ゲイボルクの効果にまるで気づいていません。
※ループについて認識しました。
※カミナ、クロスミラージュ、奈緒のこれまでの経緯を把握しました。
※第三放送は奈緒と情報交換したので知っています。
※清麿メモについて把握しました。
※螺旋力覚醒
※シータのロボットのレーザービーム機能と飛行機能についてスパイクから聞きました。
※シータの持つヴァルセーレの剣の危険性を認識しました。
※ニアをカミナの関係者だとは確認しました。

613 ◆EA1tgeYbP.:2008/09/25(木) 13:39:15 ID:vE6MOeus0
以上です。

投下の遅れや一言の断りも無しの投下中断
さらに丸々一晩にも渡る二回目の投下中断など大変ご迷惑をおかけしたこと
心より謝罪します。
大変申し訳ありませんでした

614Over soul ◆1sC7CjNPu2:2008/09/29(月) 00:17:59 ID:55xSZiMw0
 口で言っても無駄だとやっと学習したのか、カミナは無言で腕を振り回す。
 言葉にしない分、その拳からは怒りが見える。
 もっとも、それは東方不敗に避けやすい攻撃としか写らない。

「支えるもの、支えてくれるものがあってこそ貴様は強くなる。しかし――」


「裏を返せば、貴様は一人では何も出来ない愚か者よ!」


 ブチッと、頭の何かが切れる音がした。
 それは、きっと事実だろう。
 シモンがいなければ今のカミナはいなかっただろうし、これまで出会った者たちがいなければ、自分は生きてはいなかった。
 だが、それでもカミナには自負がある。
 あいつらの前で胸を張って、引っ張ってきたという自負が。

「……てめぇの言う通りだ。俺はきっと、一人じゃ強がることしか出来ない馬鹿野郎だ」

 ガシンッと、ゴッドガンダムが怒りの声を立てる。
 胸部中央の装甲が開き、背部の羽状のエネルギー発生装置が展開して日輪のような光の輪を描く。
 ゴッドガンダムのカラーリングが、燃えるような灼熱の色に変わった。

「だがなっ! その強がりを支えてくれた奴のためにもな! そのセリフにただ黙っている訳にはいかねぇんだよ!」

 これまでは比べ物にならない速度で、カミナの両腕が動く。
 相変わらず、どの東方不敗が本物かは分からない。
 だから、カミナは極めてシンプルに考えることにした。

――全部、取っ捕まえる!

「……愚か者め」

 先ほどよりも、ずっと避け安い攻撃だ。
 呟き、東方不敗はカミナの脇をすり抜けて高く飛び上がる。
 ちょうどゴッドガンダムの胸部当りの壁に、蜘蛛のようにピタリと張り付いた。

「さあ、捕まえられるなら捕まえて見せろ!」
「てめぇ俺を舐めるんじゃねぇぞハンドォ!」

615Over soul ◆1sC7CjNPu2:2008/09/29(月) 00:19:01 ID:55xSZiMw0
 怒りにかられ反射的にカミナは掌を突き出し、東方不敗はそれをヒラリと上に避け――壁に、火花が散った。

「何っ、だ!」
「ゴッドガンダムが必殺の一つ、爆熱ゴッドフィンガー。超高熱の手で敵を掴み、確実に破壊する技よ」

 見れば、ゴッドガンダムの両手は赤く輝いている。
 東方不敗はゴッドガンダムの二の腕に着地し、哀れむようにカミナを見やった。

「怒りは、時に強大な力を与える。だがその反面、致命的なほど視野を狭くさせる」
「……っ!」
「貴様は、儂を殺さぬつもりではなかったのか?」

 当然、意図して殺そうとした訳ではなかった。
 だが、殺しかけたという事実がカミナを硬直させる。

「だから貴様は、阿呆なのだ」

 東方不敗はゴッドガンダムの腕を駆け上り、その首を切断した。




616Over soul ◆1sC7CjNPu2:2008/09/29(月) 00:20:55 ID:55xSZiMw0
[soul Gain]


「よう、辛気臭い顔してるな」
「……今度は誰だよ、どこだよ」

 既に、何度経験したことか。
 目が覚めた時、カミナはそれまでと違う場所にいた。
 地平線まで見える、砂と岩だらけの荒野――ジーハ村を出て、すぐに見た光景だ。
 見覚えのある光景の筈なのに、カミナにはそこが初めて訪れた場所のように感じられた。
 そしてカミナの目の前に一人、初老の男が呆れたように立っている。

「何を悩んでるんだ?」
「何も悩んじゃいねぇよ」
「嘘を付け、顔に出てるぞ」

 馴れ馴れしく話しかけてくる男を、カミナは三白眼で睨みつける。
 そこでふと、目の前の男に見覚えがあることに気がついた。
 だが、具体的な顔と名前が浮かんでこない。

――誰だ?
 
「どうだ、ここで会ったのも何かの縁だ。俺に話してみないか」
「……まあ、詰まらねぇ話だけどな」

 奇妙な、デジャブにも似た感覚に押され、ぽつりぽつりとカミナは話出した。
 ジーハ村から始まった、ダイガンザンを奪い取る前夜までの話。
 そして唐突に集められ告げられた、バトルロワイアルでの話。
 カミナが要領悪く話す言葉を、初老の男はただ静かに聴いていた。

「……俺は、ただ単に怖いのかもしれない」

 気がつけば、カミナは普段は絶対に口にしないことまで口にしていた。

「死ぬとか、生きるとかの話じゃなくてよ。そういうもんじゃなくて、俺は膝をついて折れた自分を見られるのが怖いかもしれねぇ。
 シモン、ヨーコ、、ニア、クロミラにビクトリーム。俺はさ、俺が折れちまったら、そいつらに顔向け出きねぇ気がするんだ」

 いつだって、片意地張って生きてきた。
 弱気になったり自信を失くしそうになった時もあるが、そんな時は支えてくれる確かなものがあった。
 それでもカミナが折れてしまった時は、その支えてくれる確かなものは何だったのか?

617Over soul ◆1sC7CjNPu2:2008/09/29(月) 00:22:14 ID:55xSZiMw0
「それだけは、出来ねぇんだよ」

 だけどよ、とカミナは続ける。

「折れねぇで何も出来ず、死んじまったら、それはどうなんだ? それも、あいつらに顔向け出きねぇじゃないか」

 東方不敗マスターアジア。
 あの男がカミナに何を期待しているかは分からないが、何時までも生かしている訳ではないだろう。
 圧倒的な実力差を考えれば、東方不敗が本気になっていない今が一番の勝機だ。
 だが殺さずの攻撃では、埒が明かない。

「なんだ、簡単な話だろ」

 ずっと黙っていた男が、口を開く。
 今晩のおかずは何がいいかと聞かれ、ふと口に出したかのように、あっさりと言った。

「殺さず、ぶん殴ってやればいい」

 カミナは反射的に人の話を聞いてなかったのかと言い掛けて――止まった。
 なぜだか、男の目が怒っていることに気がついからだ。


「無理を通して道理を引っ込めるのが、俺たちグレン団だろうが」


――俺たち、グレン団?

 疑問符を浮かべるカミナに構わず、男は続けて言う。
 その語気に怒りが混じるのを、男は隠そうともしない。

「そもそも、余計な心配をし過ぎだ。ちょいと自分らしくなさ過ぎるんじゃないか?」
「何だとてめぇ!大体俺のことをどんだけ知ってんだよ!」
「知ってるさ、一番間近で見ていたのは俺だぞ」

618Over soul ◆1sC7CjNPu2:2008/09/29(月) 00:23:28 ID:55xSZiMw0
 男の言葉は意味不明で、カミナはあーっと叫んで頭を抱える。
 一方の男は、仕方ないといった風にため息をつく。
 よく見ればその口元は懐かしくて仕方ないといった風に歪んでいるのだが、これは本人すら気がついていなかった。

「第一な、折れると思ってるのか」
「……あんだと」
「馬鹿を言え。俺を――俺たちを誰だと思ってやがる」

 ふと、男の周りに見知った人影が増えていた。

「お前を支えているものが、そう簡単に折れるものだと思ってるのか?
 俺たちが信じる、お前が信じた、おまえ自身が、安々折れるようなちっぽけなものだと思ってるのか?」

 カミナは、答えない――いや、答えられない。
 男の周りにいる人影に目を奪われ、動けないでいた。

「信じろよ。お前が信じる、お前を」

 シモン、ヨーコ、ビクトリーム、そして、ニア。
 シモンは少しバツが悪そうで、ヨーコはやっと気がついたかと呆れている。
 ビクトリームは相変わらずV字に倒立していて、ニアはそのビクトリームの影に隠れていた。

「おい、お前ら……」

 カミナの視線に気がつくとニアは少し申し訳なさそうな顔になり、意を決してビクトリームの前に出る。
 それから一呼吸置いて、心配するなとばかりに笑顔を浮かべた。
 大丈夫、一緒ですよ。そう言われた気がした。

――ああ、そうか。
――そういう、ことか。

 ニアは、死んだ。
 理屈も理由も分からないが、なんとなくカミナは理解した。
 守れなかったという後悔があるが、目の前で胸を張っているニアを見ると沈んではいられない。
 トンッと、男がカミナの胸を小突く。

「さよならじゃない、ずっと一緒さ」
「……ああ」

 顔を上げ、男の顔を見る。
 結局誰かは分からないが、大切なことを教えてくれた。
 それだけで、今は十分だった。
 真っ直ぐ――ひたすら真っ直ぐ天を仰ぎ、叫ぶ。


「行くぜ、ダチ公!」


 ■

619Over soul ◆1sC7CjNPu2:2008/09/29(月) 00:24:27 ID:55xSZiMw0
[Over soul]


「っ、何だと!」

 ゴッドガンダムの首を切り落とし、してから束の間。
 これからどうするかと思案する東方不敗が、驚きの声を上げた。
 カミナが気絶から目覚めたのか、ゴッドガンダムが動き出す。これはいい。
 だが、次の瞬間にゴッドガンダムが黄金色に輝き出したのだ。

「……信じられん、ハイパーモードだと! 気絶している内に、滴る水の一滴を掴んだというのか!」

 教えた身であったが、東方不敗はカミナがこの修行で明鏡止水の境地にたどり着くとは思ってもいなかった。
 狙っていたのは、怒りのスーパーモードによる不殺の決意を折ること。
 折れた骨は、より強靭なものとなって復活する。それを狙ってのことだったが――

「一足飛びに、本当に修行を完成させたと言うのか!」
「うるせぇぞ、ジジイ。まったく、おちおち寝られねぇじゃねぇか」

 狼狽した東方不敗に、カミナは身を起こしながら余裕を持って声を掛ける。
 つい先ほどとは、まったく逆の構図だ。

「……黙れ、青二才が! そのメッキ、すぐに剥がしてくれる!」

 吼え、東方不敗は壁を伝い、蹴り、縦横無地にコンテナ内を駆け巡る。
 時に緩急をつけ、フェイントを混ぜ、話術を乗せ、カミナに東方不敗が分身したかのように錯覚させる。
 首輪が外れて制限が緩み、コンテナという閉鎖空間だからこそ出来る技。
 それが先ほどカミナを苦しめた正体であり――今は、なんの壁にもなりはしなかった。


 ひょいとカミナは腕を伸ばし――当然のことのように、東方不敗を掴み取った。


「なんだ、簡単じゃねぇか」
「馬鹿なっ……こんなことが!」
「ま、ちょっと大人しくしてやがれ」

 東方不敗を捕まえたことを特になんでもなかったかのように、カミナは次の行動に移る。
 つまり、ここからの脱出だ。
 東方不敗を捕まえた方とは逆の手で腰元のビームソードを掴み、高く掲げる。

620Over soul ◆1sC7CjNPu2:2008/09/29(月) 00:26:19 ID:55xSZiMw0

「壁を、切り裂くつもりか」
「馬鹿を言え、振り上げたドリルは切り裂くためじゃねぇ。……天を、衝くためさ」

 それはドリルではないという突っ込みは、直ぐにかき消された。

「シモンも、ヨーコも、ビクトリームも、ニアも、死んだっ!もういねぇ!
 だけどよ、俺の背中に、この胸に、一つになって生き続ける!」

 その口上に、東方不敗は完全に飲まれていた。
 目の前の男が、つい先ほどまで青二才と呼んでいた人物だとは到底思えない。

「俺を、誰だと思ってやがる」

 頭上に掲げたビームソードが、その形を変える。
 黄金色の輝きが収束し、ビームソードへと集まる。
 その黄金色の輝きに、緑の輝きが混じる。
 黄金と緑の、二重螺旋――それは、ドリルだ。

「俺は、カミナだ! シモンが、ヨーコが、ビクトリームが、ニアが――俺が信じたっ、カミナ様だ!」

 光の奔流が渦を巻き、コンテナの天井を削る。
 頑丈に作られた特別仕様のコンテナが、軋む。

「必殺――」

 そして、カミナがトドメの一言を紡いだ。


「ギガドリルブレイク!」


 ■

621Over soul ◆1sC7CjNPu2:2008/09/29(月) 00:27:22 ID:55xSZiMw0
 ショッピングモールにある、コンテナだらけの空間。
 ドモン・カッシュが去ってからの静寂は、一つのコンテナが爆発することで破られた。

「ったく、やっと出てこられたのにどこだよここは」
「おそらく、ショッピングモールにあったコンテナ群であろうな」

 元より切り取られていた頭部は爆風で大きく転がり、ゴッドガンダム自身も余波で酷い有様だった。
 カラーリングは元のトリコロールカラーに戻り、全身の間接からは時折に火花が散っている。
 その中で東方不敗が軽症で済んでいたのは、流石と言ったところか。

「ショッピングモール……クソッ、ヴィラルたちがどっかに移動するには十分か」
「機体に自身があるなら、今の爆音を聞きつけてこちらに向かってくるかもしれんがな」

 普通にカミナと会話を交わす老人に、カミナは訝しげに目を向ける。
 先ほどは失われていた余裕が、東方不敗には戻っていた。

「さて、そう言えば修行が完成したら答えてやると言ったことがあったな」
「……そう言えばあったな、まあ話したいってんなら聞いてやるぞ」

 実のところ話を聞くのが億劫な程にカミナは疲れていたが、あえて気を引き締めて尋ねる。
 本能的に、カミナは予見する。
 このジジイ、何か仕掛けてきやがるな。

「その前に一つ聞いておこう。カミナよ、図書館にある転移装置の存在を知っているか?」
「……ああ、知ってる」

 会話と東方不敗の動向に注意しながら、カミナは転移装置を思い出す。
 転移装置のおかげでグレンを発見出来た訳だが、同時にニアにガッシュと分かれてしまう結果になったものだ。

――そう言えば、クロミラの作戦はダメになっちまったな。

「知っているなら話は早い。儂はその転移装置を使い、我が愛機マスターガンダムの元へ飛ぶつもりだった。
 だが、途中で馬鹿弟子とその愛機を思い浮かべてしまってのう」
「……そう言えば、こいつはドモンの奴の相棒だったな」

 所々が損傷している上、首無しだ。
 本人が見たらさぞ嘆くだろう。

622Over soul ◆1sC7CjNPu2:2008/09/29(月) 00:28:12 ID:55xSZiMw0
 ショッピングモールにある、コンテナだらけの空間。
 ドモン・カッシュが去ってからの静寂は、一つのコンテナが爆発することで破られた。

「ったく、やっと出てこられたのにどこだよここは」
「おそらく、ショッピングモールにあったコンテナ群であろうな」

 元より切り取られていた頭部は爆風で大きく転がり、ゴッドガンダム自身も余波で酷い有様だった。
 カラーリングは元のトリコロールカラーに戻り、全身の間接からは時折に火花が散っている。
 その中で東方不敗が軽症で済んでいたのは、流石と言ったところか。

「ショッピングモール……クソッ、ヴィラルたちがどっかに移動するには十分か」
「機体に自身があるなら、今の爆音を聞きつけてこちらに向かってくるかもしれんがな」

 普通にカミナと会話を交わす老人に、カミナは訝しげに目を向ける。
 先ほどは失われていた余裕が、東方不敗には戻っていた。

「さて、そう言えば修行が完成したら答えてやると言ったことがあったな」
「……そう言えばあったな、まあ話したいってんなら聞いてやるぞ」

 実のところ話を聞くのが億劫な程にカミナは疲れていたが、あえて気を引き締めて尋ねる。
 本能的に、カミナは予見する。
 このジジイ、何か仕掛けてきやがるな。

「その前に一つ聞いておこう。カミナよ、図書館にある転移装置の存在を知っているか?」
「……ああ、知ってる」

 会話と東方不敗の動向に注意しながら、カミナは転移装置を思い出す。
 転移装置のおかげでグレンを発見出来た訳だが、同時にニアにガッシュと分かれてしまう結果になったものだ。

――そう言えば、クロミラの作戦はダメになっちまったな。

「知っているなら話は早い。儂はその転移装置を使い、我が愛機マスターガンダムの元へ飛ぶつもりだった。
 だが、途中で馬鹿弟子とその愛機を思い浮かべてしまってのう」
「……そう言えば、こいつはドモンの奴の相棒だったな」

 所々が損傷している上、首無しだ。
 本人が見たらさぞ嘆くだろう。

「コンテナの内部だとは分かったが、ゴッドガンダムを使ってもそれを突破することは叶わんだ。
 そしてどうするかと悩んでいる所に、お主が飛ばされて来た」

 そして、コンテナから出るためにカミナを利用した。
 その結果は、見ての通りだ。
 東方不敗は、今もゴッドガンダムの腕に拘束されている。

「……カミナよ、貴様は本当に大したものよ」

 不意に、東方不敗はしんみりとした表情でそう言った。
 はるか遠くを見つめるような、儚いものを見つめるような、そんな表情だ。
 それまでに見たどんな表情とも違う顔に、カミナは戸惑いを覚える。

「見事だったぞ……儂の、負けだ」

 どう答えたらいいものかと考え――結局、聞えないふりをした。
 照れくさいというのもあるし、相手はヨーコとビクトリームの敵。
 素直に賛辞を受け止める気にはならなかった。

「そうそう、お主に一つ言っておこう」

 引き続き無視しようとして――急激に手に走った痛みに、自分の甘さを痛感させられた。
 東方不敗を拘束していたゴッドガンダムの掌、その指の付け根がまとめて吹き飛んでいたのだ。

「人間の手とは違い、所詮はメカの手よ。構造さえ知っていれば、破壊は容易い」
「っ、ジジイ!」

 東方不敗はゴッドガンダムの手から抜けて、周囲のコンテナの上に立つ。
 腰元にあった、マスタークロス。それが指を吹き飛ばした凶器だった。

「甘いぞカミナ。強大な力を手にしたとしても、それを使いこなせぬようでは死あるのみ。
 黒髪の男に引き続き、貴様もそうなる運命なのだ」
「……黒髪の男だと、まさかてめぇが清麿を殺しやがったのか!」
「さてな、名前を聞く暇などありはしなかったからな」

 カミナの詰問に、東方不敗はそれがどうしたと言わんばかりに答える。
 一方で、カミナは自分の言葉を内心で撤回していた。
 清麿を殺したのは、銃を持った人間だ。
 目の前の男は、銃なんてものを必要とせず人を殺せる。

――少しでも、気を許した俺が馬鹿だった!

623Over soul ◆1sC7CjNPu2:2008/09/29(月) 00:29:17 ID:55xSZiMw0
 ゴッドガンダムの残った腕で拘束するのは、先ほどの二の舞になる。
 ではどうすうかとカミナが考えた所で――唐突に、螺旋王のアナウンスが流れた。

『――螺旋力なき者よ。その愚かさを悔いるがいい――』

 その言葉の意味を考える間もなく、コンテナが一斉に爆破を始めた。
 カミナは、本当に反射的に東方不敗に何かを叫んだ。
 何を叫んだかは、カミナ自身が覚えていなかった。


 ■


「ヒデェなあ、おい」

 コンテナが一斉に爆破した後のショッピングモールで、カミナは呟く。
 ショッピングモールは、その様相をすっかり様変わりさせていた。
 既にショッピングモールと呼べるような施設は存在せず、辺り一面瓦礫の山だ。

「なんだってあんな強力なもん用意してたんだ、螺旋王は」

 コンテナが並んだ一室には、空港と同じシステム――螺旋力に反応する装置があった。
 その装置は操作する者にコンテナを一つ選ばせ、残りの選ばれなかったコンテナを灰燼に帰す機能を備えていた。
 そしてもう一つ。何らかの強大な、螺旋力以外の方法でコンテナの中身を得ようとする者へのカウンターとしての機能。
 それが、今しがたの大爆発の正体だった。

「……流石に、生きてる訳ねぇか」

 カミナはゴッドガンダムの胸部――ちょうど、コクピットの出入り口付近に座り込んでいた。
 ゴッドガンダムはあの爆発でどこか故障したのか、それともエネルギーが切れたのか、まったく動かない。

「あばよ、ジジイ」

 東方不敗が炎に飲まれた瞬間を思い出し、カミナは仰向けに倒れこむ。
 ヨーコとビクトリームの仇は、あまりにもあっさりと死んでしまった。
 先ほどの激闘とも相まって、なかなかすっきりとはしない。

「好きになれねぇ奴だったけどよ……まあ、忘れないでおいてやるよ」




「行くぜ、ダチ公」

624Over soul ◆1sC7CjNPu2:2008/09/29(月) 00:30:14 ID:55xSZiMw0
【A-7/ショッピングモール跡地/二日目/昼―放送前】
【カミナ@天元突破グレンラガン】
[状態]:疲労(極大)、全身に青痣、左右1本ずつ肋骨骨折、左肩に大きな裂傷と刺突痕(簡単な処置済み)、
    頭にタンコブ、強い決意、螺旋力増大中、明鏡止水
[装備]:ファイティングスーツ
    【カミナ式ファッション"グラサン・ジャックモデル"】   
    アイザックのカウボーイ風ハット@BACCANO! -バッカーノ!-、アンディの衣装(靴、中着、上下白のカウボーイ)@カウボーイビバップ
[道具]:なし
[思考]基本:殺し合いには意地でも乗らない。絶対に螺旋王を倒してみせる。
0:あー疲れた。
1:ガッシュとクロミラと合流しねぇとなぁ。
2:チミルフだと? 丁度いい、螺旋王倒す前にけりつけたら!
3:ヴィラルの野郎、グレンラガンとクロミラを返しやがれ!
4:もう一回白目野郎(ヒィッツカラルド)と出会ったら今度こそぶっ倒す!
5:ドモンはどこに居やがるんだよ。
[備考]
※文字が読めないため、名簿や地図の確認は不可能だと思われます。
※シモンの死に対しては半信半疑の状態ですが、覚悟はできました。
※ヨーコの死に対しては、死亡の可能性をうっすら信じています。
※シャマルを殺し合いに乗っているヴィラルの仲間と認識しました。
※第二放送についてはヨーコの名が呼ばれたことしか記憶していません。
※溺れた際、一度心肺機能が完全に停止しています。首輪になんらかの変化が起こった可能性があります。
※禁止エリアに反応しない首輪に気がつきました。
※会場のループを認識しました。
※ドモン、クロスミラージュ、ガッシュの現時点までの経緯を把握しました。
 しかしドモンが積極的にファイトを挑むつもりだということは聞かされていません。
※クロスミラージュからティアナについて多数の情報を得ました。
※ニアと詳細な情報交換をしました。夢のおかげか、何故だか全面的に信用しています。
※ロニー・スキアートとの会話は殆ど覚えていません。
※カミナのバリアジャケットは、グレンラガンにそっくりな鎧です。
※ニコラス・D・ウルフウッドこそが高峰清麿殺害犯だと考えています。ただしルルーシュ・ランペルージに関しても多少の疑いは持っています。
※東方不敗が死んだと思っています。
※明鏡止水に覚醒しました。




 ■

625Over soul ◆1sC7CjNPu2:2008/09/29(月) 00:31:07 ID:55xSZiMw0
「ふう、死ぬかと思ったわ」

 バトル・ロワイヤルの開幕を告げた、王の間。
 そこで東方不敗はパンパンと服に残る炎を払い、疲れたように呟いた。
 所々火傷が残るが、五体満足の上にダメージは少ない。
 これなら直ぐに回復出来るだろうと零す東方不敗に、ルルーシュが手を叩きながら近づく。
 
「ご苦労だったな。火傷のことはすまない、転移のタイミングが中々掴めなくてな」
「いやいや、中々上手いタイミングだったぞ。おかげでカミナの奴もすっかり騙されたであろう」
「これも東方不敗、貴方の演技の賜物だ」

 事の真相は、簡単なことだ。
 ルルーシュがタイミングを押し計らって転移のためのスイッチを押し、東方不敗を回収したのだ。
 当初の予定では、カミナが東方不敗を殺す直前に回収する手はずだった。
 だがカミナが明鏡止水に目覚めるというイレギャラーにより、タイミングを見極めなくてはならなくなったのだ。

「しかし、予想通り……いや、予想を超えて上手く行くとは思わなかったわ」
「確かに。カミナというサンプルの熟成、ゴッドガンダムの使用不可、そして死者の発表の違和感も軽減できる。
 もっとも、死者の発表に関してはカミナに他の連中と合流してもらう必要があるがな」

 ルルーシュ自身も懸念していたことだが、放送でルルーシュ、チミルフ、ウルフウッド、東方不敗の名を告げるに当たって問題があった。
 ルルーシュ以外の全員が殺し合いに乗っていることを知られており、ルルーシュ自身もマーダーであることを疑われている。
 その危険人物と言える四名が、誰にも目撃されることもなく死んだと放送されれば?

「流石に看破されることはなくても、可能性が疑われることもある」
「石橋を叩いて渡れという言葉もある、予防線は張っておいて悪くはあるまい」

 カミナの前で東方不敗が死んだと思わせ、さらに東方不敗が黒髪の男――ルルーシュか、ウルフウッドを連想させる特徴の男を殺したと喋らせる。
 この時点で二人の死亡の証言の裏が取れ、少なくとも真相にたどり着く可能性は低くなるだろう。

「まあ、こんな馬鹿げた真相を想像出来る奴がどれほどいるかは疑問だがな」
「まったくだ。さて、儂はそろそろ傷を治しに行かせてもらうか」

 首をコキリコキリと回し、東方不敗は部屋の出口の一つへと向かう。
 ふと気がつき、ルルーシュは声をかける。

「そちらは、メディカルルームへは遠回りだと思ったが?」
「マスターガンダムを使う。あれの調子も確かめておかねばな」

626Over soul ◆1sC7CjNPu2:2008/09/29(月) 00:31:56 ID:55xSZiMw0
 答え、東方不敗は出入り口付近でチラリとルルーシュを見やる。

「ルルーシュよ、流派東方不敗を習ってみるつもりはないか?
 お主の世界のNMFなど、素手で撃破できるくらいにはなれるぞ」
「謹んで、遠慮させてもらおう」

 そうかと呟き、今度こそ東方不敗は出入り口の奥へと消えた。
 その背中を見送ってからしばらく間を置き、ルルーシュは玉座へと戻る。
 そして、グアームとの通信を開いた。


「グアーム、カミナが明鏡止水に目覚めた時と同時に仕掛けられたハッキングの出所は分かったか」


 ルルーシュの言葉通り、カミナが明鏡止水に目覚めたと同時にテッペリンは何者かのハッキングを受けた。
 現在は沈静化し被害も酷いものではなかったが、情報がごっそりと持っていかれた可能性がある。

『今のところ、外部からとしか言えん』
「アンチスパイラルの可能性は?」
『あるにはあるが、限りなく低いじゃろう。アンチスパイラルが情報通りの存在だとしたら、今更なぜハッキングなどする』

 ルルーシュは即座に三桁程の可能性を検討するが、どれも正解に断定するには情報が足りない。
 忌々しく、ため息をつく。

「他の同士に不安材料は与えたくない。もう少し情報が集まってから、この情報は開示したい」
『まあ、儂としても特に異論はない。ハッキングは太陽石の爆発で結界が乱れている間だけのこと。
 二度も同じことが起こると思えんからな』

 それから二、三言同様の状況が起きた時の対応を交わし、グアームとの通信を終了した。
 玉座にもたれ掛かり、ルルーシュを天を仰ぐ。

「……まったく、前途多難だな」

627Over soul ◆1sC7CjNPu2:2008/09/29(月) 00:32:50 ID:55xSZiMw0
【チーム:七人の同志】
(ルルーシュ、チミルフ、アディーネ、シトマンドラ、グアーム、ウルフウッド、東方不敗)



[共通方針]:各々の悲願を成就させるため、アンチ=スパイラル降臨の儀式を完遂する。内容は以下の通り。
1:螺旋王の残した実験(儀式)を続行。真なる螺旋力覚醒者(天元突破)を誕生させ、アンチ=スパイラルを誘き出す餌とする。
2:ルルーシュの指揮の下、頃合を見計らって『試練』となる戦力を投入。参加者たちに意図的に逆境を与え、強引にでも螺旋力の覚醒を促す。
3:投入する戦力は現在のところチミルフ、ウルフウッド、東方不敗の三名を予定。生存者たちの状況により随時対応。
4:試練を与える前に真なる螺旋力者が現れた場合、また別途にアンチ=スパイラルとの接触の機会が訪れた場合には、逐一対応。
5:同志七人の立場は皆対等であり、ルルーシュとチミルフを除いて支配従属の関係にはならない。
6:アンチ=スパイラルとの接触に成功した後は、ルルーシュが交渉を試み、その結果によって各自行動。
[備考]
※その他、詳細な計画の内容は「天のさだめを誰が知るⅢ」参照。
※ルルーシュの推測を含めた実験の全容については、「天のさだめを誰が知るⅡ」「天のさだめを誰が知るⅣ」参照。
※多元宇宙を渡る術は全て螺旋王が持ち去りましたが、資料や実験を進める上で必要不可欠な設備、各世界から強奪した道具などは残っています。
※ルルーシュら実験に参加していた四名は、テッペリンの設備で体力と怪我を回復しました。



【ルルーシュ・ランペルージ@コードギアス 反逆のルルーシュ】
[状態]:首輪解除、健康
[装備]:ベレッタM92(残弾11/15)@カウボーイビバップ、ゼロのコスチューム一式@コードギアス 反逆のルルーシュ
[道具]:支給品一式(-メモ)、メロン×10個 、ノートパソコン(バッテリー残り三時間)@現実、消防服 、
    アンチ・シズマ管@ジャイアントロボ THE ANIMATION、予備マガジン(9mmパラベラム弾)x1、
    毒入りカプセル×1@金田一少年の事件簿、支給品一式(一食分消費)、ボン太君のぬいぐるみ@らき☆すた、
    ジャン・ハボックの煙草(残り15本)@鋼の錬金術師
    『フルメタル・パニック!』全巻セット@らき☆すた(『戦うボーイ・ミーツ・ガール』はフォルゴレのサイン付き)
    『イリヤスフィール・フォン・アインツベルンに捧ぐ』@アニロワ2nd オリジナル
    参加者詳細名簿(ルルのページ欠損)、詳細名簿+(読子、アニタ、ルルのページ欠損)
    支給品リスト(ゼロの仮面とマント欠損)、考察メモ、警戒者リスト、ダイヤグラムのコピー、携帯電話@アニロワ2ndオリジナル
    ゼロの仮面@コードギアス反逆のルルーシュ、ゼロのマント@コードギアス 反逆のルルーシュ
[思考]
基本:何を代償にしてでもナナリーの下に帰る。七人の同志の一人として行動。
1:当面は実験場の監視に務め、試練投入のタイミングを見定める。
2:同時に、手持ちの情報を再度洗い直す。
3:螺旋王の擬似声帯によって第六回放送に取り掛かる。
4:他の同志たちの行動にも目を配る。特にウルフウッド、東方不敗を要注意。
5:もし終盤まで生き残り、機会があったとするならば、ヴィラルに対しスザクの仇を取る。
6:アンチ=スパイラルのより詳細な情報が欲しい。
7:謎のハッキングについて警戒する。
[備考]
※螺旋王の残した資料から、多元宇宙や実験の全容(一部推測によるものを含む)を理解しました。
※謎のハッキングについては外伝「かつてあったエクソダス」参照。

628Over soul ◆1sC7CjNPu2:2008/09/29(月) 00:33:19 ID:55xSZiMw0
【不動のグアーム@天元突破グレンラガン】
[状態]:健康、螺旋王に対する強い憎悪
[装備]:不明
[道具]:不明
[思考]
基本:七人の同志の一人として行動。
1:謎のハッキングの調査



【東方不敗@機動武闘伝Gガンダム】
[状態]:首輪解除、螺旋力覚醒、疲労(小)、火傷
[装備]:天の鎖(エルキドゥ)@Fate/stay night、ボロボロのマント、マスタークロス@機動武闘伝Gガンダム
[道具]:ロージェノムのコアドリル×1@天元突破グレンラガン、ファウードの回復液(500ml×1)@金色のガッシュベル!!、
    風雲再起(首輪解除)@機動武闘伝Gガンダム、ゼロの衣装(仮面とマントなし)@コードギアス 反逆のルルーシュ
[思考]:
基本方針:現世へ帰り地球人類抹殺を果たす。アンチ=スパイラルと接触、力を貸す。七人の同志の一人として行動。
0:アンチ=スパイラルの力を得たい。
1:マスターガンダムの調子を見るついでに、傷を癒す。
2:アンチ=スパイラルとの接触を図るため、ルルーシュに賛同。が、完全には信用しない。
3:アンチ=スパイラルを初め、多元宇宙や他の参加者、実験の全容などの情報を入手したい。
4:ルルーシュがチミルフを手懐けられた理由について考える。
5:ドモンと正真正銘の真剣勝負がしたい。
6:しかし、ここに居るドモンが本当に自分の知るドモンか疑問。
7:ジン、ギルガメッシュ、カミナ、ガッシュを特に危険視。
8:カミナに……
[備考]
※螺旋王は宇宙人で、このフィールドに集められているの異なる星々の人間という仮説を立てました。本人も半信半疑。
※クロスミラージュの多元宇宙説を知りました。ドモンが別世界の住人である可能性を懸念しています。
※ニアが螺旋王に通じていると思っています。
※クロスミラージュがトランシーバーのようなもので、遠隔地から声を飛ばしているものと思っています。
※螺旋遺伝子とは、『なんらかの要因』で覚醒する力だと思っています。『なんらかの要因』は火事場の馬鹿力であると推測しました。
 Dボゥイのパワーアップを螺旋遺伝子によるものだと結論付けました。
※自分自身が螺旋力に覚醒したこと、及び、魔力の代用としての螺旋力の運用に気付きました。
※カミナを非常に気に入ったようです。
※チミルフから螺旋王の目的やアンチスパイラルについての情報を入手しました。
※計画に参加する上で、多元宇宙や実験に関する最低限の情報を入手しました。

629かつてあったエクソダス ◆1sC7CjNPu2:2008/09/29(月) 00:55:33 ID:55xSZiMw0
 初老の男は頭に装着したヘッドセット――小型の脳波通信装置を外し、満足そうに笑みを浮かべた。
 同時に、男の体から妖精を思わせる華麗な少女が出現する。
 ユニゾンデバイス――使用者と融合することで、内部から術者を補佐する古代ベルカ式特有のデバイスだ。

「やりました!今ので結界内部のデータが大漁ですよ!」
「本当!?……って、これはやっかいね」
「そうなんですか?」
「三重の、それぞれ属性の違う大規模な結界よ。しかも自己修復機能も備えている。
 ……空間ごと抉り取るぐらいしないと綻びすら出ない訳だ」
「データは『あっち』のアースラにも転送しますね。たぶん成功したのはこっちだけでしょうし」

 男の周囲は、蜂の巣を突いたかのような大騒ぎだ。
 その喧騒を他所に、男はただ静かに佇んでいる。

「……よろしいでしょうか?」
「ん、ああ」

 つい先ほどまで融合していた妖精に話しかけられ、男は少し戸惑う。
 無愛想な見かけから、声を掛けてくるとは思っていなかったのだ。
 それではと妖精は前置きし、男に話しかける。

「あれで、よかったのですか」
「……ああ、あれでよかったさ」

 一瞬何を言っているか分からなかったが、すぐに心当たりが一つしかなかったことを思い出す。
 かつて憧れ、その背中を追いかけた人物。本当に久しぶりに会って、まったく印象が変わってなかったことに驚いた。

「――そう、ですか」
「……俺の持論だが、過ぎ去ったものは元には戻らない。だから抱えて生きていくんだ、そいつの分まで」

 男の言葉に、妖精はきょとんとした顔になる。
 一方の男は、妖精がそんな顔も出来たことに微笑みを浮かべた。
 その笑みに気づいてか、妖精が気恥ずかしげに頬を染める。

「お姉さまをナンパしちゃダメー!」
「待て、今のは別にそんなのでは!」
「フッ、ハハハハハハハ」

 嫉妬でもしたのか、妖精と同じ顔をした妖精が突撃してくる。
 姉と呼ばれた妖精が慌てて訂正を入れ、それを見ていた男があまりの微笑ましさに笑う。
 そこに、黒髪のロングストレートの女性と、金髪の同じくロングストレートの女性が近づき初老の男に声をかけた。

630かつてあったエクソダス ◆1sC7CjNPu2:2008/09/29(月) 00:56:18 ID:55xSZiMw0
「ロージェノムの追跡に必要なデータが浚えたので、私たちはロージェノムの追跡を優先します」
「……そうか」
「そんな、マイスター。中にはまだ人が」
「突入の手段がない以上、私たちがこの場にいて出来ることはないの。
 それよりロージェノムが同じことを繰り返さないために確保する方が、被害を抑えることが出来る」
「……そうですけど、中にはお姉さまのマイスターが」
「いいんだ」

 納得が出来ないといった感じの妹を、姉が諭す。
 黒髪の女はその光景を少し悲しげに見つめ、気を取り直して男に向き合う。

「引き続き、アドバイザーとして協力して頂きたいのですが」
「ああ、むしろこっちからお願いしようと思ってたところだ」
「そうですか……ありがとうございます」

 黒髪の女と金髪の女は男に一礼し、作業へと戻っていった。
 その場にはむくれる妹妖精と、それをなだめる姉妖精、そして初老の男が残される。

「むー。言いたいことは分かりますけど、薄情ですよ」
「……きっと、彼女たちも信じてるんだろう。中にいる、違う世界でも、仲間だった奴らを」

 妹妖精はきょとんとした顔で、初老の男をまじまじと見つめる。
 その顔が先ほどの姉妖精とそっくりで、初老の男はまた顔を綻ばせた。

「笑うなー!」
「……そうですね、信じましょう。彼女たちが、エクソダスを成功させることを」
「エクソダス?」

 妹をなだめる姉が零した聞きなれない言葉を、男が拾う。
 姉は、何かをなつかしむように言葉を紡ぐ。

「あそこから、脱出すること。それを彼女たちはエクソダスと呼び、彼女たちはそれを成功させました」
「……そうか」

631かつてあったエクソダス ◆1sC7CjNPu2:2008/09/29(月) 00:57:17 ID:55xSZiMw0
 そこで妖精のような姉妹にお呼びがかかり、男は一人その場に取り残された。
 ふと、今自分がここにいる元凶に思いを馳せる。

「言ったぞ、ロージェノム」

 かつては敵で、かつては友だった男。
 愛した女の、父親でもあった。

「お前が壁となって俺の前に立ちふさがるなら、いつだって風穴開けて突き破る」

 違う世界の、同じ仲間だった。


「それが俺の、ドリルだ」


 これは、箱庭の外の物語。
 既に終わったエクソダスの続きの一端であり――
 一人の男の、壮大な物語の蛇足である.

632状態表修正 Gガンダムg補足  ◆1sC7CjNPu2:2008/09/29(月) 09:36:28 ID:55xSZiMw0
【A-7/ショッピングモール跡地/二日目/昼―放送前】
【カミナ@天元突破グレンラガン】
[状態]:疲労(極大)、全身に青痣、左右1本ずつ肋骨骨折、左肩に大きな裂傷と刺突痕(簡単な処置済み)、
    頭にタンコブ、強い決意、螺旋力増大中、明鏡止水
[装備]:ファイティングスーツ
    【カミナ式ファッション"グラサン・ジャックモデル"】   
    アイザックのカウボーイ風ハット@BACCANO! -バッカーノ!-、アンディの衣装(靴、中着、上下白のカウボーイ)@カウボーイビバップ
[道具]:なし
[思考]基本:殺し合いには意地でも乗らない。絶対に螺旋王を倒してみせる。
0:あー疲れた。
1:ガッシュとクロミラと合流しねぇとなぁ。
2:チミルフだと? 丁度いい、螺旋王倒す前にけりつけたら!
3:ヴィラルの野郎、グレンラガンとクロミラを返しやがれ!
4:もう一回白目野郎(ヒィッツカラルド)と出会ったら今度こそぶっ倒す!
5:ドモンはどこに居やがるんだよ。
[備考]
※文字が読めないため、名簿や地図の確認は不可能だと思われます。
※シャマルを殺し合いに乗っているヴィラルの仲間と認識しました。
※第二放送についてはヨーコの名が呼ばれたことしか記憶していません。
※溺れた際、一度心肺機能が完全に停止しています。首輪になんらかの変化が起こった可能性があります。
※禁止エリアに反応しない首輪に気がつきました。
※会場のループを認識しました。
※ドモン、クロスミラージュ、ガッシュの現時点までの経緯を把握しました。
 しかしドモンが積極的にファイトを挑むつもりだということは聞かされていません。
※クロスミラージュからティアナについて多数の情報を得ました。
※ニアと詳細な情報交換をしました。夢のおかげか、何故だか全面的に信用しています。
※ロニー・スキアートとの会話は殆ど覚えていません。
※カミナのバリアジャケットは、グレンラガンにそっくりな鎧です。
※ニコラス・D・ウルフウッドこそが高峰清麿殺害犯だと考えています。ただしルルーシュ・ランペルージに関しても多少の疑いは持っています。
※東方不敗が死んだと思っています。
※東方不敗に修行をつけられました。格闘家としての基礎的なものを習得しました。
※明鏡止水に覚醒しました。
※シモンの死、ヨーコの死を受け止めました。
※ニアが死亡したことをなんとなく理解しました。
※死に掛けた時に出てきた老人が誰か分かっているのか、いないのか……

※ショッピングモールが壊滅しましたした。
※折れたなんでも切れる剣は爆風に飛ばされたか、ショッピングモール残骸の下です。

633状態表修正 Gガンダム補足  ◆1sC7CjNPu2:2008/09/29(月) 09:37:03 ID:55xSZiMw0
【ゴッドガンダム@機動武闘伝Gガンダム】
 ドモン・カッシュの愛機であり、第13回ガンダムファイト決勝戦を優勝した機体。
 武装はビームソード、バルカン、ゴッドフィンガーとしょぼいものだが、元々ガンダムファイトのための機体なのでこれでいいのである。
 モビルトレースシステムにより搭乗者のフィードバックを受けることから、ドモンとかが乗ると常識的なことは忘れた方がいい。
 あと個人的にゴッドよりシャイニングの方が愛機という感じがする。

※頭部欠損、片手が破壊された状態です。どちらの手が破壊されたかは次の書き手にお任せします。
※エネルギー切れ、もしくは故障により動きません。
※ゴッドガンダムはショッピングモール跡地に座り込んでいます。


【不動のグアーム@天元突破グレンラガン】
[状態]:健康、螺旋王に対する強い憎悪
[装備]:不明
[道具]:不明
[思考]
基本:七人の同志の一人として行動。
1:謎のハッキングの調査
2:東方不敗に渡す資料を製作中
[備考]
※東方不敗に渡す資料は、ギアスの情報など一部隠して渡すつもりです

634第六回、あるいは“ゼロ”の放送 ◆EA1tgeYbP.:2008/10/07(火) 13:00:39 ID:ITnWLGoY0
 ――王の玉座。
 ほんの一時ほどの間に、新しい主を迎えたその場所で。
 新たな主―――盤上の駒から指し手へと成り上がった少年、ルルーシュ・ランペルージ。
 いや、その衣装に身を包み「ゼロ」の名前で呼ばれる彼は、少し前までは自らが同じ駒であった者達へとロージェノムの声を借りて語り、騙る。

 ……これより先は名実ともに殺し合いの舞台は彼ら七人の同志が成果を見守る実験場へと成り代わる。

 ◇ ◇ ◇

 ―――これで六度目。
 未だに生き延びつづけている貴様達には、ひとまずおめでとうと伝えよう。
 力を持って殺し合いを進めるもの、知略を以って強者に取り入り牙を磨くもの。
 己が我を張り通し殺し合いを否定するもの、仲間を集め殺し合いに抗おうとするもの。
 それぞれの道を歩みつづける貴様達に一つ知らせておかねばならんことがある。

 前回の放送より六時間。
 残念なことに新たな螺旋力の覚醒が認められなくなった。
 貴様達はあるいはこう考えているのかもしれんな。
 この仲間と共にあればこのような殺し合いから脱出できる、こいつだけは殺したくない、と。
 思うのは勝手だ。貴様達がどう思おうが殺し合いは続けられるのだからな。
 だが、そのような停滞は私としても望むところではない。
 貴様たちとて少しでも早く元の世界に戻りたいであろう?
 そこでだ、現状の禁止エリアに加えてこの放送より12時間の後、この舞台を廃棄することにした。
 ああ、貴様達が想像した通りだ。
 貴様達の命は自分以外の参加者を殺し尽くさない限りは残り12時間しかないというわけだ。
 殺し合いに乗っていたものはこれまで以上に急ぎ、怯え身を隠していたものは穴倉より這い出て、そして仲間と共にあるものは下らぬ思いに惑わされずに殺し合いを続けて欲しい。

 さて死者の発表に移る。
 とはいえ、あるものにとってはすでに知らせる必要すらないかも知れんがな。
 
 高嶺清麿
 Dボゥイ
 ニア
 シータ
 柊かがみ
 結城奈緒
 怒涛のチミルフ
 ニコラス・D・ウルフウッド
 ルルーシュ・ランペルージ
 東方不敗


 以上10名だ。
 次に禁止エリアだ。

 以上だ。

 さてと残りの12時間、貴様達が私にとって満足いく結果を出してくれることを期待しよう。
 生き残りが一人もいない、というのは私としてもあまり面白い結果ではないのでな。
 生き残った一人と対面するそのときを楽しみに待たせてもらうとしよう。

635第六回、あるいは“ゼロ”の放送 ◆EA1tgeYbP.:2008/10/07(火) 13:01:11 ID:ITnWLGoY0
 ◇ ◇ ◇

「……で?」
 ルルーシュが語り終えるのと同時に不満げな顔をしたウルフウッドは声をかけた。

「どうかしましたか」
 その彼にルルーシュはあくまでも慇懃な態度で応じる。

「どうかしましたか、じゃないわボケ。何でわざわざワイがおどれの下らん演説を聞かされんとあかんねん、それもこんな時間に」
 ―――こんな時間。
 現在の時間は放送予定時間の十分前。すなわち今のルルーシュの演説は会場へと届くことなく、ただウルフウッド一人のみに伝えられるためのものであったのだ。
 宛がわれた一室にて休んでいたウルフウッド、その彼が急に呼び出されたかと思えば、ルルーシュの用件はただ、いまの演説を聞かせることであった。
 彼が不機嫌になる理由は言うまでもない。
「何、万に一つの不具合があってはいけないのでね。会場で放送を聞いたことがある者の意見を聞いておきたかっただけですよ」
「そんならあのじいさんでもいいやろ」
「彼、東方不敗はつい先ほどまで別の用事を片付けてくれていたのですよ」
「……けッ!」
 舌打ちを一つするとウルフウッドはきびすを返す。
 その彼の背中にルルーシュは声をかけた。

「ウルフウッドさん、今の放送案を聞いて何かおかしなところはありませんでしたか?」
「むかつき具合はあのおっさんとかわらへんわ」
 ウルフウッドの返答は簡潔にして合格点を与えるもの。

「お時間を取らせてすみませんね」
「次からはこんな下らんことにワイを呼ぶな、ボケ!」
 それだけ言うとウルフウッドの姿は完全に玉座の間から消える。

「……さて」
 ウルフウッドの姿が消えるとルルーシュは今しがた語った放送案について考える。
 ジンやスパイクといった参加者はこの放送を聞いても脱出に動こうとするはずだ。
 その仲間達もそれと同様と判断していい。
 そしてヴィラルとシャマル。
 現状ただ一組限りの殺人者達、彼らはこの放送を聞きどう動くか……。

(……醜くお互いに殺しあってくれでもすれば愉快ではあるがな……)
 まあ、スザクを殺した報いは必ずくれてやる。
 今は実験を円滑に進めることだけ考えればいい。

 ―――そして放送時間が来る。


 ―――これで六度目。

 ロージェノムの声を借りたルルーシュの言葉が会場内に響いていった。

636第六回放送・崩壊序曲――Jacta alea est―― ◆vHXqfHd//2:2008/10/11(土) 20:47:18 ID:pVuCPkfw0
 既に実験場の日は高く昇っている。もう間も無く、冷徹にして無常な『放送』が行われる。
 傲岸にして無慈悲な『放送』が人々に与える影響は、幾度繰り返されても変わりはしない。
 或る者には怒りを。或る者には焦燥を。或る者には無念を。或る者には絶望を。
 その精神的作用自体は、何ら変わるものではない。
 しかし、間も無く行われる第六回放送に於いて、一つだけそれ以前の『放送』と異なる要素があった。



 主催者にして憎むべき敵であった筈の男――螺旋王ロージェノムの逃亡、と言うイレギュラー。



(もっとも、そのお陰で俺はまだしもマシな立場に立ったとは言えるがな)
 一つ一つの映像を見つめながら、『代行者』ルルーシュ・ランペルージは放送までの残り僅かな時間を思索に費やしていた。 
 彼等が『放送』の準備を整えている間に、強力にして凶悪な殺人者達が揃って死んだ。
 片や精神の均衡を失った哀れな王女。片や人間としての心を失った無様な不死の人形。
 いずれは死んで貰わねば困る連中ではあるが、それにしてもこうもあっさりと死なれると、脱出を目論む人間達にとって余りにも有利過ぎる。
 彼女達には、良い捨て駒になって貰いたかったのだ。特に、計画をぶち壊す危険のある人物を、ある程度弱らせて欲しかった。



 それは、英雄王ギルガメッシュ。傍若無人にして唯我独尊、傲岸不遜極まりない無茶苦茶な男にして、恐らく最強の『英霊』であるウルクの王。
 彼は既に自分の強大な武装を殆ど手に入れ、むしろ鬼札三枚を撃破する可能性も充分ある。何しろ、チミルフが乗るダイガンザンを、この男は一瞬で破壊して見せた。
 天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)と言う、実験場のバランスすら壊しかねぬ出鱈目な切り札の力によって。
 そんな輩は危険だ。モルモットに簡単に死なれるのも困るが、鬼札を容易に退けるだけの力の持ち主が生き残っているのはもっと困る。
 螺旋力の覚醒は、ギリギリの攻防によって促されるものであるのに、圧倒的な力で殲滅などされては、何の意味もありはしない。
 よって、ギルガメッシュは総力を結集してでも討ち取らねばならない。この強大過ぎる男をいつまでも生かしておくメリットは本来皆無である。


 だが、実際にはそう簡単に、短絡的に彼を殺す訳にも行かない。
 彼が菫川ねねね達脱出派にとっての大いなる希望の一だと言う事が、事を紛糾させる元だった。
 ダイガンザンを破壊し、大怪球フォーグラーを半壊せしめ、射線上のあらゆる物体を塵に還した英雄王の恐るべき切り札。
 幾ら制限が掛かっているとは言え、それ程の力があれば、結界は愚か、会場そのものを破壊しかねない鉄の暴風。
 危険ではあるが、それだけの力を放っておく道理があろうか。懐柔出来れば、絶望を打ち砕く為の鬼札となり得るのだから。
 つまり、この男を殺すタイミングを間違えれば、脱出不能になったと判断した連中が、絶望に陥ってしまう恐れが多分にあると言う事だ。
 彼が死んでも、菫川ねねね達が絶望に陥らないで済む時。それがこの男を殺すべき時だ。

637第六回放送・崩壊序曲――Jacta alea est―― ◆vHXqfHd//2:2008/10/11(土) 20:50:18 ID:pVuCPkfw0
 しかし、ギルガメッシュを弱らせる事が出来なかったと言うデメリットを差し引いても、彼女達の死は矢張りルルーシュにとっては大きなメリットだった。
 特に、『天元突破』に至り得る有力候補達の無為な死が避けやすくなった事が大きい。


 一人目はカミナだ。この男は先刻のやり取りの中で、いよいよ『天元突破』への下地が整ったと言っても良いだろう。
 元々『奇跡』の世界でも彼は重要な立役者だった。彼の死が、『英雄』がその力を発揮する重大な切欠になったのだから。
 並々ならぬバイタリティの強さも見逃せない。ヴィラル達との戦いと言い、東方不敗との戦いと言い、この男の底力は是非にでも役立てたい所だ。



 二人目はドモン・カッシュだ。
 東方不敗の弟子である彼の戦闘能力は極めて高水準だ。そして師匠たる東方不敗との因縁は、螺旋力の覚醒に大いに役に立とう。
 どうも実験場に於ける師弟激突時の映像等を見る限り、この男は『東方不敗を倒した後の世界』からやって来たらしい。
 
 ならば好都合だ。それだけの実力があるのならば、今一度東方不敗をぶつけたとしても簡単には死なないだろう。
 傷だらけではあるが、窮地はしばしばそれを打ち破る活力となる。この男ならばそれを最大限活用出来る筈だ。
 実際に、既に実績を挙げているのだから。師弟対決の土壇場で見せた明鏡止水の境地、そして究極秘奥の絶招技。
 それこそが、この男が見せた螺旋力の大いなる片鱗。覚醒への前兆と言うべき事象。
 生き残りの中で、『天元突破』に至り得る有力候補と言えよう。この男は最大限に利用し、生かしておかねばならない。


 そして――。


(忌々しい話だ。まさか事もあろうに、スザクの仇が、あの取るに足りない筈の連中が、こうまで粘りを見せるとは)
 ルルーシュにとっては皮肉な話だが、ヴィラル達も無視出来ぬ存在になりつつある。
 スザクを殺した後の彼等は、一言で言えば無様な敗残兵の一言に尽きた。誰と戦っても敗北を重ねるばかりで、何も良い所が無い様に思える。
 だが、彼等は生き残っている。何度も死んでいて当然なのに、まだ生き長らえている。
 最初ルルーシュは、彼等の映像を見て口の端に侮蔑の笑みさえ浮かべていた。同時に、こんな連中に殺されたスザクの無念を思い、怒りを内に抑えてもいた。
 しかし上記の事実に気付き、そしてカミナとの決戦の映像を見た後には、憎悪も混じった警戒を抱くに至ったのだ。

(頃合を見てチミルフを派遣し、絶望を嫌と言う程に味わわせてからなぶり殺しにしようと思っていたが、まさかこうまでしぶといとは。
 しかも奴の螺旋力はますます増大している様に思える。万が一、と言う事もあり得る。下手に手は出せんか。
 奴をアンチ=スパイラルへの供物にすると言うのも、それはそれで良かろう。今は貴様を見逃してやる。だがな、ヴィラルッ!!)


 黒き王でもなく、黒き代行者でもない一人の少年が、血が吹き出んばかりに唇を噛んだ。その秀麗な顔を憤怒と憎悪に染めて。

(貴様が覚醒しようがしまいが、或いは他の参加者の覚醒を促す役に立とうが立つまいが、いずれ必ず殺してやる!
 スザクを一方的に殺し、また仲間を裏切って自分達だけ幸せになろうとする貴様等二人が生き残ろうなどと、そんな不条理は断じて許さん。
 今は休むが良いさ。力を蓄える時間はくれてやる。貴様達にはもうひと働きして貰わねばならないんだからな。
 だが、いつまでも安息の時を過ごせるとは思うなよ。この『放送』を聴けば、貴様等は嫌でも動かねばならん。
 精々俺達の『儀式』の役に立て。ボロ雑巾になり、その生地が擦り切れるまで戦い抜け! 他の者に殺される事は許さん。貴様達には、俺が必ず断罪を下してやる……ッ!!)
 
 それは、稀代の戦略家の貌でもなければ、冷徹にして非情なる策士の貌でもない。王の貌でも、まして神の貌でもない。
 それは、実の兄弟以上の絆を持っていた一人の親友を失い、その怒りに燃える一箇の復讐鬼の貌。未だ精神的成熟に至らぬ、一人の少年の貌そのものだった。
 その怒りを理性で押し殺し、少年はその時を待つ。その任務は、冷静でなければ成し遂げられないのだから。感情を、極力殺さねばならないのだから。


 今の自分は、怒りに燃えるルルーシュ・ランペルージでは無く、届かぬ高みから冷静に事態を見届ける螺旋王に、成り切らねばならぬのだから。

638第六回放送・崩壊序曲――Jacta alea est―― ◆vHXqfHd//2:2008/10/11(土) 20:52:30 ID:pVuCPkfw0

 正午を迎えた。
 偽りの『螺旋王』は一つ咳払いをし、淡々と、しかし他人を上から見下ろす傲岸さを以って、放送を始める。


 貴様達がこの地に来て、二度目の正午を迎えた。
 この六時間の間に行われた闘争は、規模こそ違えども以前のそれに何ら劣る事の無い激闘と言えよう。
 どうやらますます以って、貴様達は内なる力に目覚めつつある様だな。
 覚醒した者どもは、その力を精々有効活用する事だ。最後の勝利者になるにせよ、私を出し抜くにせよな。
 だが、貴様達の思惑がどうであれ――未だ貴様達の力の発現は、私の望む力には遠い。


 内なる螺旋の力の覚醒を促す為にも、現状を正しく理解させる為にも――貴様達に、重大な『告知』を行う。
 先に死者の名を読み上げぬのは、動揺によって私の『告知』を聞く事が出来なかった、と言う事態を避ける為だ。
 今更そんな事で放心に陥る愚者が居るとも思えぬが、それで自失のまま無駄死にされるのも不本意なのでな。
 薄々感づいている者も居るかも知れんが、この実験場は、決して永久不変の存在ではない。
 つまり、『制限時間』が存在すると言う訳だ。
 その『制限時間』が尽きたら、貴様達の生命ごと、この実験場は跡形も無く消滅する事になろう。
 私がこの実験場に設けた『制限時間』は四十八時間。
 そう。貴様等に残された時間は残り『十二時間』だ。
 十二時間と言う時間を多いと考えるか少ないと考えるか。その解釈は貴様達に委ねよう。
 だが、最早無駄に出来る時間は多くないのだと言う事は、理解しておくのだな。


 さて。時間を無駄にせぬ様、死者の名を読み上げる事にしよう。
 先程も言った通り、この六時間で行われた闘争の質は、それ以前に比して何ら劣るものでは無かった。
 志半ばにて散った者達の死に様も、実に見事なものだったぞ。
 もしその中に貴様達の仲間が居るのならば、その事を誇りに思い、糧とするが良い。想いの力は時として、凄まじい爆発力を生むのだからな。
 では、死者の発表を行う。


 シータ
 高嶺清麿
 Dボゥイ
 東方不敗
 怒涛のチミルフ
 ニア
 ニコラス・D・ウルフウッド
 柊かがみ
 結城奈緒
 ルルーシュ・ランペルージ


 次に、禁止エリアだ。


 以上だ。我が忠実にして勇猛な部下たる怒涛のチミルフまでもが、激闘の中に散った。
 私にとっては手痛い犠牲だが、貴様達にとっては僥倖と言うべきかな?
 だが、例え我が家臣が斃れたからと言って、ゆめゆめ油断はせぬ事だな。
 今読み上げた者はいずれも歴戦の猛者。最早、誰がどんな相手を斃そうとも、何も不思議では無いのだから。


 繰り返すが、貴様達に残された時間は、客観的に見て決して多いとは言えん。
 殺し合いを続け、勝利者になるのも良いだろう。
 崩れ行く世界からの脱出を図るも良かろう。
 いずれの道を選ぶのか、それとも第三の道を選ぶのか。それは貴様達の自由だ。
 だが、くれぐれも忘れるな。事態は確実に、貴様達にとって最悪の方向に流れつつあるのだと。
 最早、時を浪費する余裕など、残されてはいないのだと。
 さあ、追い詰められた勇者達よ。私に貴様達の限界を超えた底力を見せてみよ。
 内なる螺旋の力を解き放ち、絶望に閉ざされた『天』を打ち破って見せろ。
 それこそが、私が貴様達に望む事だ。
 これが、私が実験場に流す最後の『放送』になる事を、切に願うものだ。



 賽は投げられた。滅びの運命に、全力で抗って見せるが良い。

639第六回放送・崩壊序曲――Jacta alea est―― ◆vHXqfHd//2:2008/10/11(土) 20:56:43 ID:pVuCPkfw0
(……そうだとも。賽は投げられた。もうこれで後戻りは出来ん。ナナリーの下に還るか、無様なピエロとして死ぬか、二つに一つだ)
 
 最後の言葉は、参加者に対して向けられた言葉では無い。これはルルーシュ・ランペルージの、アンチ=スパイラルに対するひそかな宣戦布告であった。

(俺達を観察しているアンチ=スパイラルよ。お前達は今頃俺を嘲笑っているかも知れんな。無謀な事をと、呆れ返っているかも知れんな。
 だが、俺は滅びの運命など断じて認めない。俺にはやらねばならん事が山程あるんだからな。
 あの男を斃し、ナナリーの未来を確かなものにするまで、俺は絶対に死ぬ訳には行かないッ!
 その為なら、俺は喜んで外道の道に堕ちてやろう。利用出来る者は全て利用し、後は弊履の如く捨ててやる。
 アンチ=スパイラル! お前達もそうだ。身の程知らずと嗤いたくば嗤え。その嘲笑をそっくりそのままお前達に返してやる。
 お前達は高みに在って万物を見通す聖人か神のつもりなのだろうが、お前達が居座る岩盤を、俺の手で突き崩してやるぞ。
 お前達が絶対者で、俺達が生贄の祭壇に捧げられた子羊だなどと、思い上がるなよ。その思い上がり、必ず後悔させてやるからなッ!!)


 アンチ=スパイラルが如何なる存在であるか、彼は殆ど知らないと言って良い。しかし、その本質は何処か『あの男』に似ている様に感じられた。
 だからこそ、心の奥底からアンチ=スパイラルに対する敵愾心に近い感情が湧き上がって来るのだ。
 自らを無謬の絶対者と認識し、万物を見下す傲慢なる存在。それが現時点でルルーシュがアンチ=スパイラルに対して抱いている認識だった。
 理性では、決して敵対すべき相手では無く、最低でも好意的中立を勝ち取らねばならぬ相手だとわかっている。
 しかし、彼の心の奥底では、その現実的判断に抗いたくなる気持ちが確かに存在した。どうして、『あの男』と同じ性質の輩に膝を屈しなければならないのか?
 その目的はどうあれ、彼等が万物を支配し抑制する存在であり、かつその立場と目的の為なら生命を粗末に扱う姿勢が『あの男』と酷似している時点で、感情的には嫌悪の念しか浮かんで来ないのだ。


 そう、本来『天元突破』を実現する駒として利用せねばならない一組の夫婦に対する、異常なまでの殺意と同じく。

640第六回放送・崩壊序曲――Jacta alea est―― ◆vHXqfHd//2:2008/10/11(土) 20:58:11 ID:pVuCPkfw0
 かくして再び時は動き出し、崩壊への序曲が奏でられる。果たして最後に勝利を得るのは誰であるのか。
 
 盟友が死んで尚、年齢に似合わぬ不敵さを崩す事無く、惨劇を盗んで喜劇を創らんとする若き盗賊の王であるのか。
 
 自分の存在価値を再び見出させてくれた恩人を喪って尚、物語をハッピーエンドへと導かんとする稀代の天才作家であるのか。
 
 相棒を己が無力によって失い、それでも尚己の意志を貫かんとする、不屈の勇者であるのか。
 
 掛け替えなき相棒の死を受け止め、尚も『やさしい王様』への道を歩むのを止めぬ、小さくも勇敢な魔物の子であるのか。
 
 数多の敗北を味わいながら、泥をもすすって生き延び、何者の干渉も許さぬ安寧を求める人外の夫婦であるのか。
 
 神への復讐を志し、人間に試練を与える事で盟友の事を振り切ろうとする、道を外れた牧師であるのか。
 
 再び闇に堕ちた師の道を今一度正し、今度こそ師を完全に救い出さんと欲する、若きキング・オブ・ハートであるのか。
 
 人類殲滅による地球救済を完遂し、全宇宙の『統制者』にならんと欲する悲しき求道者であるのか。
 
 ただ一人の家族と親友の事を誰よりも想い、であるが為に悪鬼外道の道を突き進む黒き代行者であるのか。
 
 そもそも、数多の屍が折り重なった果てに得られた勝利は、真の勝利たり得るのか。


 それを知る者は、まだ居ない。今はただ、崩壊への時が淡々と刻まれるのみであった。

641嘆きのロザリオ ◆vHXqfHd//2:2008/10/11(土) 21:02:14 ID:pVuCPkfw0
「いや、なかなか見事なものじゃったな。随分と様になっとったぞ。もし儂らがやっとったら、それはそれは様にならなかったじゃろうな」

 全てが終わり、ルルーシュが一息ついた時、巨大なアルマジロがぬっと姿を現す。不動のグアーム。螺旋四天王の筆頭格にして、ロージェノムの旧友だった男。
 そして、獣人の中で最も警戒すべき人物。だが、不用意に警戒させる訳にも行かない男でもある。ルルーシュはひとまず笑みを作って応じた。

「螺旋王との繋がりが最も深いお前にそう言われたのならば、どうやら擬似声帯は上手く用いる事が出来た様だな」
「ああ、それは問題無い。永年ロージェノムと共に戦って来たこの儂が言うのじゃ。まず、参加者に悟られてはおるまいよ。
 儂自身、一瞬本当にあやつが帰って来て、自ら放送を行っておるのではないかと、そう思ってしまったからのう」

 グアームは何処か悲しげに、肩を竦めてみせる。盟友たるロージェノムの裏切りは、この老獪な男の心にも暗い影を落としている――どれだけこの男の腹が知れないとしても、それだけは確かだと思われた。
「して、どうする? そろそろ動き時かの? 殺し合いに乗った参加者も残る所、我々の部下だと言っておった若造達だけになったが」
「いや、まだだ。あの男――ヴィラルはまだ役に立つ。奴は奴で不屈の男。まだ優勝を諦めてはいないだろう。
 あの男は元来獣人だと言うが、既に螺旋力に覚醒している。或いは、大番狂わせと言うのもあり得るぞ。
 真なる螺旋力の覚醒者に何より必要なのは不屈の心だ。その意味では奴にも覚醒の資格はある、と言える」


 もっとも、例えそうなったとしても、俺がなぶり殺しにしてやるがな。


 一瞬だけ、ルルーシュの眼に昏い意志が宿る。しかしグアームはそれに気付かぬ様子で、うんうんと鷹揚に頷いてみせた。
「成程、それも一理ある話じゃな。じゃが、そろそろ準備はした方が良いじゃろう。今の『放送』で、一段と事態が早まる可能性が高い」
「そうだな……ならばグアーム。実験場内時間で午後二時になったら全員を招集する。もし事態が更に早まった場合は、直接俺から連絡して緊急招集を掛ける。その事を全員に伝えて貰いたい」
「良かろう。そのくらいの事はお安い御用じゃ」
 グアームの返事を聞いた後、ルルーシュは二、三度辺りを見回す。その意味を悟ったのか、グアームの表情も少し厳しいものとなった。

「ハッキングの件はどうなっている? 進展はあったか?」
「平行世界のいずれかからハッキングを仕掛けたらしいと言うのには間違いない。
 あやつも……ロージェノムもハッキングの類を警戒していたのか、テッペリンの対ハッキング設備は充実しておるからな。大まかな出所ならばわかる。
 しかし、それ以上の詳しい事はまだ解明出来ておらん。かなり巧妙な手法でハッキングを行ったと見える」
「……チミルフやアディーネが接触した『奴等』である可能性は?」
「かなり低いじゃろうな。そちらにも探りは入れてみたが、どうもハッキングの出所は『その』世界とは違うらしい。
 それに、もし『奴等』だとした場合、何故一向に結界の破壊なり攻撃なりが無いのかの説明が出来ん」

642嘆きのロザリオ ◆vHXqfHd//2:2008/10/11(土) 21:05:35 ID:pVuCPkfw0
 ルルーシュ達の知る限りに於いて、現時点で外敵になり得る勢力は二つある。一つはアンチ=スパイラルで、もう一つは『チミルフとアディーネが接触した』機動六課だ。
 アンチ=スパイラルがハッキングをした可能性が限り無く零に近い以上、真っ先に二人が警戒したのは機動六課だった。
 チミルフとアディーネの接触と同時期に、ティアナ・ランスターら四名の隊員が謎の失踪を遂げている。この二つの事件を結びつけて考えるのは子供でも出来る。
 そして、ロージェノムが遺した対ハッキング設備でさえ追跡し切れぬ巧妙なハッキング手法も、魔法で行われたと考えれば一応の説明はつく。


 もし機動六課がハッキングをしたのならば由々しき事態だった。
 チミルフとアディーネを完膚なきまでに粉砕した戦女神達ならば、こんな結界など紙切れ同然に吹き飛ばしてしまうかも知れないのだ。
 そして結界が破壊されたが最後、ここは火の海となるだろう。アンチ=スパイラルの様に、一時的にでも見逃してくれるとは思えない。
 或る意味アンチ=スパイラル以上に恐るべき外敵に、二人は最悪の事態も覚悟していた。
 しかし来るべき攻撃が行われぬ以上、その可能性は考慮しなくても良さそうだ。それを知ったルルーシュは流石にふっと息をついた。


「しかし、『奴等』でないとすると一体誰がこんな真似をしたんだ? あの『精霊王』の追跡者達ではあるまい。
 そんな技術があるならば、『精霊王』如き小物に後れを取ったりはしないだろう」
「その辺は現時点では何とも言えんな。調査は儂の方で進める。同志達にはまだ、この件については話さん方が良いじゃろう」


 結局は、先刻と殆ど変わらないと言う訳か。グアームの意見に頷きながら、ルルーシュはそんな事を思った。
 戦いに於いて最も厄介なのは、情報の不足だ。情報無くして勝利はあり得ない。正体不明の敵に備える事ほどに困難な仕事も無かった。
「では、俺はこれで失礼させて貰う。こんな事態になった以上、手持ちの資料を今一度整理する必要があるからな。ハッキングへの対処はくれぐれも頼むぞ」
「わかっておる」
 その返事に満足して一旦ルルーシュは彼に背を向けたが、不意に何かを思い出したのか、くるりと踝を返した。


「グアーム。お前はロージェノムと旧知の間柄だろう? お前自身がアンチ=スパイラルに対して知っている事は何か無いのか?
 奴等についての情報も、現状では余りに乏し過ぎる。せめてもう少し判断材料は欲しい所なのだが……」
 これは本音だった。戦略を何よりも重視する彼としては、情報が喉から手が出る程に欲しい。情報が無ければ、アンチ=スパイラルの意志と目的を探る事も出来はしないのだ。


 しかし、グアームの反応は芳しくなかった。
「さあて、の……確かに儂はロージェノムと永年共におった。まだロージェノムが子供だった時からな。
 しかし、生憎その時の儂はただのアルマジロに過ぎんかったのじゃよ。
 儂がこうして何かを喋ったり考えたり出来るのも、奴と共に悠久の時を過ごして来たからに他ならん。残念じゃが、お主の希望に答えてやる事は出来ん」
「……そう、か」
 グアームの返答はある程度予想はしていた。しかし、流石に落胆は隠せない。これで恐らく、新たにアンチ=スパイラルの情報を得る機会は訪れないだろう。


 彼等自身が、再びこちらに接触でもしない限り。

643嘆きのロザリオ ◆vHXqfHd//2:2008/10/11(土) 21:07:09 ID:pVuCPkfw0
「仕方あるまい。矢張りロージェノムが遺した資料を丹念に見るしか無いか。無駄な時間を取らせて済まなかったな、グアーム」
「なに、気にする事は無い。お主の懸念は当然の事じゃ。儂としても、役に立つ事が出来んのは心苦しい限りじゃよ」
「知らないものは仕方無いだろう。お前はお前の任務を果たしてくれれば充分だ。差し当たっては、ハッキングの調査に専念してくれれば良い」
「承知した。難しい仕事ではあるが、何とか尻尾を掴んでみよう」
 ルルーシュは今度こそグアームに背を向け、資料室に歩き去って行く。グアームはその後姿を一見すればぼんやりと、しかし実際には複雑な表情でじっと見据えていた。


(やれやれ。あの坊主、頭は確かに切れるが、少しばかり感情を抑えるのが苦手な様じゃの。あの若造達に対する殺意を、隠しきれておらんぞ)
 グアームは知っている。彼の親友を殺したのが、あの若造――ヴィラルである事を。
 他の四天王にとって、死者などは記号でしかない。監視役を務めていたシトマンドラも、今はまだ感情の整理がつかずそれどころでは無い。
 しかしこの老獪な策士はルルーシュ達と手を組む段になった後、彼等の関係者について密かに洗い直していたのだ。


(東方不敗はまだしも、あのウルフウッドと言う若造とルルーシュには爆弾がある。ヴァッシュ・ザ・スタンピードと枢木スザクと言う爆弾がの。
 肝心な時に妙な事になって貰っては儂らとしても困るのじゃがな。ウルフウッドは、少なくとも戦いに迷いを見せたりはせんじゃろうが……あの坊主は、どうじゃろうな。
 若造達に何をする気かは知らんが、『目的』を忘れて貰っては困るのじゃぞ、ルルーシュ・ランペルージよ)
 ゆっくりと歩みながら、グアームは想う。ルルーシュと『奴』は、何処か似ている所がある、と。
 それは、冷静に見えて感情を完全に抑え切る事の出来ぬ性分の人間だ、と言う所。
(よもや、とは思うが、万一にでも悪影響があるのでは困る。『奴等』の性質については言わぬ方が良いかも知れんな)


 グアームの脳裏に、あの忌まわしい光景が蘇る。天を覆うアンチ=スパイラルの軍勢の威圧感は、当時ただの小動物に過ぎなかったグアームでさえ、戦慄せずにはいられない光景だった。
 それは正しく、『世界最後の日』と呼んで差し支えない代物だったのだ。
 だが、それでも螺旋族は立ち上がった。グアームもまた、少年から青年へと成長したロージェノムに従い、アンチ=スパイラルとの戦いを見届けて来た。
 戦いは、螺旋族が有利に進めていた。戦力で言うならば、『奇跡』の世界でシモン達が用いた戦力とは比較にならぬ程に強大だった。勝利は、目前と思われていた。
 しかし――勝利への道は、突如として終わりを告げる。アンチ=スパイラルの反攻によってでは無く、一人の戦士の余りに突然の裏切りによって。

644嘆きのロザリオ ◆vHXqfHd//2:2008/10/11(土) 21:09:27 ID:pVuCPkfw0
(なかなかやるものだな、螺旋族の戦士ロージェノムよ。我々がこうまで押し込まれるとは思いもしなかった)
 何の前触れも無く艦橋に現れた、万物の統制者。その男の姿は虚ろで、そもそも実態を伴っているのかさえ明らかではない。
(しかし、だからこそ危険なのだ、お前達の力は。お前達の進化は、いずれ宇宙を食い潰す事になる。それを何故理解しようとしないのだ?)
 ――ほざくな、アンチ=スパイラル。俺がそんな言葉で惑わされるとでも思っているのか。有無を言わせず俺達を滅ぼそうとした奴の言葉など、誰が信じるものか!
 その青年は、『統制者』に対する怒りを剥き出しにする。しかし『統制者』はその顔に哀れみを浮かべ、静かに首を振る。
(矢張り、聞く耳を持たぬか。ならば、理解らせてやろう。お前達の進化が、一体何をもたらすのかを。
 どんなに認めたくなかろうが、お前は見届けねばならない。進化の果てに待つ、滅びの結末をな)
 次の瞬間、青年は瞠目する。瞬く間に『統制者』がガンメン並の巨体となり、彼を握り潰さんばかりの巨大な手で、青年を包み込んでしまったのだ。
 そして、青年は否応なしに見せ付けられる。開けてはいけないパンドラの箱の中身を。螺旋族の、果て無き進化の末路を。


(見るが良い。これが螺旋の力が引き起こす宇宙の破滅――スパイラル・ネメシスだ――)





 玉座に座し、気の無い表情で下界を見下ろす王が居た。その傍には小さき獣と、数多の獣とも人ともつかぬ者達が控えている。
「ニンゲンどもの掃討は半ば以上完遂致しました。ただ、彼奴等の中には地下に逃れ、尚も生き長らえようとする者どもが居ます。如何なさいましょうか?」
 配下の報告に、王は何の反応も返しはしない。首に掛けられたドリルに見えるペンダントも、所在無く微かに動くばかりだ。
「……私がお前達に命じたのは、人間どもをこの地上から一掃する事だ。奴等が地上を捨て、日の差さぬ地に無様に逃れるのであれば、追わずとも良い」

 漸くに王が反応を示す。一見寛容に見えるその言葉は、しかしある意味単なる絶滅よりも過酷な内容だった。
「だが、奴等が身の程知らずにも再び地上に上がって来るのならば、その時は上がって来た者を皆殺しにしろ。
 誰一人この地上に残すな。あの愚かなる種族は地の底で眠るが運命。それを骨身に叩き込むには、見せしめが必要だ。
 二度と地上に上がる気を起こさせぬ様、徹底的に殺すのだ。地上は楽園などでは無く、人間にとっての地獄であると理解させよ。
 それこそが、地上を支配する種たるお前達獣人の至上の使命だ。誰が支配者であるのかを、その力で以って証明して見せよ」
 

 偉大なる王の言葉に、獣人達の鬨の声が上がる。王は無言で手を振り、猛き獣に出撃を命ずる。その命令により、獣達の咆哮は最高潮に達した。
 一人、また一人と退出し、玉座の間に残されたのは、王と小さき獣のみ。王は言葉を発する事無く、静かに玉座に佇んでいる。
 不意に、獣が王を見上げて鳴き声を発した。王はその声の方向を見る。その瞳には、何の感情も無い様に見えた。
 獣は尚も、鳴き声を発し続けた。それはまるで、王に何事かを必死に訴えているかの様であった。
「……最早、終わった事なのだ」
 ぽつりと、まるで死に掛けの老人の様なかぼそい声で王が呟く。その瞳に、微かに感情が宿る。
「そう、全ては終わった事だ。俺はもう、戦士になどなれはしない」
 王はドリルを握り、眼を閉じた。それはまるで、罪びとが十字架を手に、懺悔を行うかの如き光景だった。
「俺は、愚かな罪びとだ」
 四半刻は経っただろうか。漸く王は、その眼を開く。王の瞳には、悲しみとも無念とも違う、底知れぬ昏さが漂っていた。
 いつしか獣の声は止んでいた。しかし、尚も何かを訴えるかの如き凝視までは、止めていなかった。そして、その趣も以前とは微妙に異なっていた。
「俺は決して、自らの『罪』を忘れはしない。だが……」



 償う事も、出来はしない。何故なら俺は裏切り者だから。無様に逃げ延びた敗残兵だから。アンチ=スパイラルの操る道化に過ぎないから。



 アンチ=スパイラルの示した真実に耐えられなかった負け犬なのだから。

645嘆きのロザリオ ◆vHXqfHd//2:2008/10/11(土) 21:11:20 ID:pVuCPkfw0
(あの時、儂が言葉を発する事が出来たなら、お主の力になる事が出来たなら、こんな事にはなっとらんかったろうか)
 
 埒も無い戯言を、と己を嘲りながら、老いた獣はそう考えずには居られない。この事態は避けられた筈だと、心の何処かで訴えるものが今でも残っていた。

(のう、ロージェノム。お主の無念と絶望は、儂も良く知っておるつもりじゃよ。
 今でもはっきり覚えておる。アンチ=スパイラルの天を埋め尽くさんばかりの大軍団が、儂らの住む街と言う街を焼き払う光景を。
 宇宙空間を埋め尽くすアンチ=スパイラルの軍勢は、さしずめ敵が七分に宇宙が三分、と形容出来るくらい、いっそ壮観なものじゃったなぁ。
 お主は他の誰よりも強かった。他の誰よりも勇敢だった。他の誰よりも同胞の事を案じていた。アンチ=スパイラルへの対抗心は、他の誰にも負けてはおらんかった。
 だからこんな事になってしまったのかのう?
 あの最終局面でお主が螺旋族を裏切り、立ち塞がる同胞を悉く打ち倒していったのと同じく、
 お主自身が生み出し、手駒として来た獣人達を裏切ったのか? 永年共に過ごして来た、この儂さえも裏切る決意を下したのか?)


 螺旋族とアンチ=スパイラルとの全面戦争。それを敗北に導いたのは、誰あろう螺旋王ロージェノムだった。
 それは、今の状況と殆ど変わりなかった。彼は余りにも悲惨極まる現実を目の当たりにし、そこから逃げ出してしまったのだ。
 一度目の過ちは『スパイラル・ネメシス』と言う、進化の果ての破滅と言う事実に耐え切れなかったが故に。
 二度目の過ちは、アンチ=スパイラルの襲来と言う事実に耐え切れなかったが故に、犯してしまった。
 それまで共に戦って来た友を見捨て、自分独り裏切ると言う、最悪の形で。



(ロージェノムよ。儂らはそんなにも頼りなかったか? そんなにも信用出来なかったか?
 取り返しの付かぬ過ちも、一度だけならばまだやり直しは利くかも知れん。だがな、それを二度も三度も繰り返したら、最早どうしようも無い事じゃぞ。
 自分が罪びとであると自覚しているのなら、何故同じ過ちを繰り返す。何故再び、昨日までの友を背中から撃つ様な真似をするんじゃ。
 今頃お主は、別の場所で実験の準備を進めておるのじゃろうな。しかし、何度やった所で結果は同じじゃよ。
 きっとお主は、また実験の半ばでそれを放棄し、また同志達を裏切る事になるじゃろう。そして、真なる螺旋力の覚醒者など、出ては来んさ。
 ロージェノム。お主はいつから、他人の力に依存する様な負け犬に成り下がった? 
 あの時のお主はそうでは無かった。自分の力に依って立ち、常に自ら先頭に立って戦っておった。だからこそ螺旋族は、お主に付き従ったのじゃ。
 だのに、お主と言う男は……!)

646嘆きのロザリオ ◆vHXqfHd//2:2008/10/11(土) 21:14:23 ID:pVuCPkfw0
 情けなかった。これが嘗て、豪放さと勇敢さで皆を引っ張り、螺旋族のリーダー的存在として奮戦していた偉大な戦士の成れの果てだと言うのか。
 自分は、そんな情けない男を今まで友とし、主君と定め、報われぬ忠誠と友情を注いでいたと言うのか。


(奴でさえこうまで堕としてしまうアンチ=スパイラルと言う存在……あの細っこい坊主が、その重圧に耐え切れるものじゃろうかな……)
 

 ルルーシュには言わないが、彼はアンチ=スパイラルの本当の恐ろしさを知っていた。嫌と言う程に。
 彼等の本当の恐ろしさは圧倒的戦力では無い。敵を如何にして絶望させるか。それを主眼に置いた戦い方を好む事だ。
 あのアンチ=スパイラルが、自分達の交渉に本当に応じるのだろうか?
 否だ。少なくともグアームの知るアンチ=スパイラルはそんな寛容な敵では無かった。彼等は螺旋族最強の戦士たるロージェノムの心を、完膚なきまでに打ち砕いたのだから。そう、あの『スパイラル・ネメシス』の有様を、嫌と言う程見せ付ける事によって。
 

 螺旋力の発現を目的としなければ交渉出来るか、と言う問題についてもグアームは本音を言えば懐疑的だった。
 アンチ=スパイラルは神の如き存在であるが、生憎慈悲を与える神では無く罰を与える神だ。『やさしい神様』などではあり得ない。
 圧倒的な力で屈服させれば良いだろうに、わざわざロージェノムの心を砕く方に力を注いだのがその証左だ。
 彼等の本性は、慎重にして狡猾極まりない策士。人に絶望を与える破壊の神。
 彼等に打ち勝つには、強靭な精神力が不可欠だろう。戦うにしても、交渉するにしても。


(だが、あやつは高嶺清麿とも明智健悟とも違う男だ。胸の内には底知れぬ野心と残忍性を秘め、そのくせ家族への並々ならぬ情愛と激情をも有しておる。
 扱いにくい事この上ない小僧じゃが、この際そうした一筋縄では行かぬ輩の方が良いのかも知れぬな。
 元々はロージェノムを捕縛する為に連れて来たが、もしアンチ=スパイラルと相対する事になったとしても、あやつならば或いは……)
 

 奴等を出し抜く事も、出来るかも知れない。そんな馬鹿げた考えが老いた獣の脳裏に浮かび、すぐに消えた。


(不本意ではあるが、今はお主に全て託す他に無い。お主が何を考えていようが、儂は少しも構う所では無い。
 儂等を利用したければ、存分に利用するが良かろう。それが『目的』の助けになるのならば、喜んで利用されてやる。
 だがな、ルルーシュ・ランペルージよ。くれぐれもロージェノムと同じ過ちは犯してくれるな。
 よもやとは思うが、儂はもう手放しで誰かを信じる事が出来んからな。
 どんな清廉な者も腐敗堕落し、どんな勇猛な男も臆病に成り下がる事がある。それが人間の弱さだ。
 奴も、ロージェノムもそれに呑まれてしまった。お主も奴と同じ道を辿ってくれるなよ、黒き反逆の皇子よ)



 そこに居たのは、嘗て螺旋四天王として猛威を振るった『不動のグアーム』では無かった。絶望を味わい、老友にも裏切られ、心傷つき果てた、無力な老いたアルマジロが居るだけだった。その後姿は、心なしか小さく思われた。

647嘆きのロザリオ ◆vHXqfHd//2:2008/10/11(土) 21:16:23 ID:pVuCPkfw0
【チーム:七人の同志】
(ルルーシュ、チミルフ、アディーネ、シトマンドラ、グアーム、ウルフウッド、東方不敗)



[共通方針]:各々の悲願を成就させるため、アンチ=スパイラル降臨の儀式を完遂する。内容は以下の通り。
1:螺旋王の残した実験(儀式)を続行。真なる螺旋力覚醒者(天元突破)を誕生させ、アンチ=スパイラルを誘き出す餌とする。
2:ルルーシュの指揮の下、頃合を見計らって『試練』となる戦力を投入。参加者たちに意図的に逆境を与え、強引にでも螺旋力の覚醒を促す。
3:投入する戦力は現在のところチミルフ、ウルフウッド、東方不敗の三名を予定。生存者たちの状況により随時対応。
4:試練を与える前に真なる螺旋力者が現れた場合、また別途にアンチ=スパイラルとの接触の機会が訪れた場合には、逐一対応。
5:同志七人の立場は皆対等であり、ルルーシュとチミルフを除いて支配従属の関係にはならない。
6:アンチ=スパイラルとの接触に成功した後は、ルルーシュが交渉を試み、その結果によって各自行動。
[備考]
※その他、詳細な計画の内容は「天のさだめを誰が知るⅢ」参照。
※ルルーシュの推測を含めた実験の全容については、「天のさだめを誰が知るⅡ」「天のさだめを誰が知るⅣ」参照。
※多元宇宙を渡る術は全て螺旋王が持ち去りましたが、資料や実験を進める上で必要不可欠な設備、各世界から強奪した道具などは残っています。
※ルルーシュら実験に参加していた四名は、テッペリンの設備で体力と怪我を回復しました。



【ルルーシュ・ランペルージ@コードギアス 反逆のルルーシュ】
[状態]:首輪解除、健康
[装備]:ベレッタM92(残弾11/15)@カウボーイビバップ、ゼロのコスチューム一式@コードギアス 反逆のルルーシュ
[道具]:支給品一式(-メモ)、メロン×10個 、ノートパソコン(バッテリー残り三時間)@現実、消防服 、
    アンチ・シズマ管@ジャイアントロボ THE ANIMATION、予備マガジン(9mmパラベラム弾)x1、
    毒入りカプセル×1@金田一少年の事件簿、支給品一式(一食分消費)、ボン太君のぬいぐるみ@らき☆すた、
    ジャン・ハボックの煙草(残り15本)@鋼の錬金術師
    『フルメタル・パニック!』全巻セット@らき☆すた(『戦うボーイ・ミーツ・ガール』はフォルゴレのサイン付き)
    『イリヤスフィール・フォン・アインツベルンに捧ぐ』@アニロワ2nd オリジナル
    参加者詳細名簿(ルルのページ欠損)、詳細名簿+(読子、アニタ、ルルのページ欠損)
    支給品リスト(ゼロの仮面とマント欠損)、考察メモ、警戒者リスト、ダイヤグラムのコピー、携帯電話@アニロワ2ndオリジナル
    ゼロの仮面@コードギアス反逆のルルーシュ、ゼロのマント@コードギアス 反逆のルルーシュ
[思考]
基本:何を代償にしてでもナナリーの下に帰る。七人の同志の一人として行動。
1:当面は実験場の監視に務め、試練投入のタイミングを見定める。
2:同時に、手持ちの情報を再度洗い直す。
3:他の同志たちの行動にも目を配る。特にウルフウッド、東方不敗を要注意。
4:アンチ=スパイラルのより詳細な情報が欲しい。
5:謎のハッキングについて警戒する。
6:カミナ、ドモンを『覚醒者』候補として重点的に監視する。
7:不本意ではあるが、ヴィラルも『覚醒者』候補として慎重に取り扱う。但し機会があれば必ず断罪する。
8:ギルガメッシュに対して強い警戒心。利用価値が無くなったら全力で排除する。
9:アンチ=スパイラルに対するひそかな敵愾心。生殺与奪を握られたままで終わるつもりはない。
[備考]
※螺旋王の残した資料から、多元宇宙や実験の全容(一部推測によるものを含む)を理解しました。
※謎のハッキングについては外伝「かつてあったエクソダス」参照。



【不動のグアーム@天元突破グレンラガン】
[状態]:健康、螺旋王に対して……。
[装備]:不明
[道具]:不明
[思考]
基本:七人の同志の一人として行動。
1:謎のハッキングの調査を続行する。
2:東方不敗に渡す資料の選別。
3:ルルーシュの招集指令を全員に伝える。
4:ロージェノム……。
5:ルルーシュに対する漠然とした不安あり。
6:アンチ=スパイラルに対する強い警戒心。
[備考]
※東方不敗に渡す資料は、ギアスの情報など一部隠して渡すつもりです。
※現時点でルルーシュにアンチ=スパイラルの情報(特にその『絶望を誘う』性質)を語るつもりはありません。

648嘆きのロザリオ ◆vHXqfHd//2:2008/10/11(土) 21:19:08 ID:pVuCPkfw0
◇ ◇ ◇


 その男は、夥しい数のモニターに映し出される映像を眺めている。その瞳に、特別な感情は見受けられない。
 それはまるで、科学者がフラスコの中に収められたモルモットの状態を見るかの様な眼だった。



 ――若者達よ、健やかに、そして何処までも美しくあれ!
 それは、気の遠くなる程の時を自らの罪と戦いながら過ごして来た一人の男が、罪の意識から解放され、全てを終わらせた時に発せられた言葉。



 ――民主主義に、乾杯!
 それは、余りにも愚かしく腐り果てた政治屋達に翻弄され、それでも尚最後まで自分達の信念を曲げなかった男達の、最後の杯。



 ――その幻想を、ぶち殺す!
 それは、『右手』以外に何の能力も持たぬただの少年が、自分の信念と大切な人々を護る為に、渾身の一撃を繰り出す時の言葉。



 ――うおおおおーっ!! 今日こそ動かしてやるぜぇっ!! 山よ! 銀河よ!! 俺の歌を聴けえぇっ!!!
 それは、敵を倒そうとする事を望まず、ただ自分の歌を誰かに聞かせ、自分の想いを伝える事だけを望んだ、一人の自由奔放な歌い手の魂の叫び。



 ある世界には、罪を背負い続け、その責任を全うする為にその生命を永らえていた男が居た。
 
 ある世界には、軍人としての規範を守りながらも、最後まで権力に屈せず、反骨と民主主義の精神を貫いた不器用な男達がいた。
 
 ある世界には、記憶を失い、度々悲惨な目に遭いながらも尚、自分の信念を曲げぬ『不幸な』少年が居た。
 
 ある世界には、如何なる規律に縛られる事も拒み、我が道を突き進む異端にして熱き『歌い手』が居た。

649嘆きのロザリオ ◆vHXqfHd//2:2008/10/11(土) 21:22:51 ID:pVuCPkfw0
「羨ましいものだな」
 ぽつりと、男は呟く。
「今の私は、彼等の内の誰が相手でも、肩を並べ共に歩む資格を持ち合わせては、おらぬのだろうな」

 偽りの姿を捨て、義兄の呪縛を乗り越えて自らを取り戻した金髪の伯爵の如き責任感と不屈も無い。
 今の社会が『最悪な民主政治』である事は百も承知で、それでも『最良の独裁政治』に従う事を拒む鋼の信念も無い。
 無謀な戦いと知りながらも、自ら前に進み、皆を助ける事しか考える事の出来ぬ、青臭い愚直さも無い。
 ただ自分のやりたい事だけをすると言う自由な精神も、歌を通して誰とでも心通わせたいと言う純粋な熱意も無い。



 今の自分には、その全てが無い。それは千年前に、全て捨ててしまったから。



「……矢張り、私の所業は客観的に見れば許されざる事なのだろうな」
 今までのものとは別の映像を見ながら、男は自嘲混じりの言葉を発する。
 映像の中では、『魔術師』と謳われながら戦争を心から憎む男が、政治屋達を相手取って辛辣な批判を繰り広げている所だった。
 

 ――人間の行為の中で何が最も卑劣で、恥知らずか。
それは権力を持った人間や、権力に媚を売る人間が、安全な場所に隠れて戦争を賛美し、他人には愛国心や犠牲精神を強制して戦場に送り出す事です――。


 その男のある種過激な思想に同調するか否かは別として、彼の発する言葉の辛辣さは、男にとっても無縁では無かった。
「お前にとっては、今の私の行動も『卑劣で恥知らず』なものに映るのかな? 矛盾の塊と言われた英雄よ」
 男は自らの半生を振り返る。崩壊した市街から見つけ出した、顔型のマシン。それを動かしてからの、疾風怒濤の如き戦いの日々。それは、今自分が身を置いている環境とは、まるで正反対だった。
「確かに、昔の私と今の私とでは雲泥の差と言うものだ。私を知る者は、矢張り今の私の行動を許さぬ……そう言う事か」
 

 再び映像が切り替わる。今度は二つの映像に分けられていた。
 片や、裏切りに揺れる『盟友』だった獣。片や、浮浪者の様な外貌でありながら、その眼に底知れぬ力を秘める初老の男と『精霊王の催し』の生き残り。



「矢張り、お前達も動くか。この私を止める為に。私の『過ち』を阻止する為に。どうあっても、今の私を認めるつもりは、無いと言う事か」
 男の顔に、憤りは無い。むしろ、その顔には笑みさえ浮かんでいる。不敵さと悲愴さを滲ませながら。


「止めたければ、止めるが良い。アンチ=スパイラルは愚か、お前達にさえ私の行動が阻止されるのであれば、私はそれまでの男だったと言う事。
 だが、例え今の私がどれ程に卑劣で恥知らずで無能な敗残兵であるとしても、退く訳には行かぬ。
 幾度実験に失敗しようと、私は何度でも立ち上がって見せよう。それが今の私に出来る唯一の行動だ。
 それが、今の私に残された最後の希望と矜持だ。この悪足掻き、そう簡単に止められるとは思わぬ事だな」


 そして、男は嗤う。感情を表す事は久しくなかった。それがどれだけネガティブなものであっても、今の彼にとっては、奇妙に心地良いものだった。



 さあ、壁を突き破ってみろ。私は私の最後の誇りの為、全力を賭してお前達に立ちはだかろう。それが――私の歩む果て無き地獄の道なのだからな。

650嘆きのロザリオ ◆vHXqfHd//2:2008/10/11(土) 21:24:52 ID:pVuCPkfw0
【螺旋王ロージェノム@天元突破グレンラガン】
[状態]:健康
[装備]:不明
[道具]:不明
[思考]
基本:次の『実験』への準備を進める。
1:次の『実験』を進める為、新たな候補者の選別を行う。
2:『エクソダス』組と元の世界の獣人達が自分を狙っている事を察知。自分からは手を出さないが、『実験』の阻止はさせない。
3:何度失敗したとしても、大望の成就を諦めるつもりは無い。
4:自分の『罪』(千年前の裏切りと、今回の裏切り)を自覚。但し贖罪をするつもりは無い。
[備考]
※螺旋王は既に第一の『実験』を放棄しており、それに何らかの関与をする意志を持っていません。
※螺旋王が逃亡した先は、獣人が支配する多元宇宙の何処か。既にその世界の螺旋王と入れ替わっており、『実験』の準備を進めています。
※実験を行うのに必要な道具は、オリジナルと量産品含め、全て持ち去りました。消失の痕跡も残していません。
※螺旋王が残した推測

 ・アンチ=スパイラルは実験に介入できないのではなく、しないだけ。観察が目的と考えられる。
 ・実験の成果が現れたとき、アンチ=スパイラルは実験場に踏み込み、人類殲滅システムを発動する。

651獣人と人  ◆DzDv5OMx7c:2008/11/09(日) 23:36:08 ID:we1SabhU0
case1 獣人:アディーネ

月面、獣人の根城テッペリン。
すべてが螺旋の法則に従って作られたその城は、本来真っ直ぐであるはずの廊下も螺旋くれている。
そして今、その螺旋の廊下を進む一人の女がいる。
蠍の尾を持つ女の名は螺旋四天王が一人、流麗のアディーネである。

彼女が歩みを止めたのは、螺旋城内の施設の一つ……武闘場と呼ばれる場所であった。
通常ならば大観衆の中、獣人同士が互いに武技を競い合うのがこの施設の役割だ。
だが螺旋王消失という緊急事態である今、そこに観客はいない。
いるのはコロッセオの中心に佇む一人の獣人のみだった。

円を描く戦場の中心で荒れた息を整えるのは青銅色の肌を持った獣人。
元はアディーネと同じ四天王、名をチミルフといった。
東方不敗と名乗るあの老人と手合わせしたのだろう。
全身から発する闘気は彼女の知るどのチミルフよりも武人としての凄みを放っていた。
だが……

「アディーネか……持ち場はどうした」

こちらを一瞥もせず、声だけで問いかけるチミルフ。
彼女が担当していたのは外部勢力……アンチ=スパイラルに対する警戒だ。
だがルルーシュは『今は真なる螺旋力覚醒者が出現するまで、むしろ変に刺激しないほうが良い』と判断。
よってその任を解かれ、シトマンドラのサポートを言い渡されていたのだが――

「アンタも知ってるだろ、シトマンドラの性格を?
 下手な手出しはアイツの誇りを刺激して邪魔するだけさね」

あの年若い獣人は人一倍プライドが高い。
サポートに回ればそのプライドを妙な方向で刺激し、事態をこじれさせない。
アンチスパイラルの尖兵との邂逅、螺旋王の離反、参加者の小僧と手を組む……
ここ数時間でこれだけの異常事態が起こっているのだ。
正直、これ以上の面倒ごとは御免こうむりたい――そう判断したのも嘘ではない。
そう、嘘ではない、が……

「ふむ……ならば久方ぶりに手合わせでもするか?」

元々彼女はチミルフと同じ、武によって功を成して来た女傑である。
故に時にぶつかり合いながらも、盟友として共に歩んできたのだ。
遥か昔にはアディーネとも幾度と無く手合わせしたものだ。
だがその提案に対し、歴戦の女武将は目を伏せる。

「……今はそんな気分じゃないんでね、やめとくよ」

アディーネのその様子にも気にした風は無く、
「そうか」と、言葉少なに背を向け、チミルフは再び巨大な槌を振りかぶる。
そして終わりの無い修練は再開される。
二人の間に残されたのはハンマーが空を切る音のみ。
その音から逃げるように、アディーネはコロッセオを後にした。

652獣人と人  ◆DzDv5OMx7c:2008/11/09(日) 23:37:04 ID:we1SabhU0
*    *     *


螺旋の廊下に再び足音が響き渡る。
だがその足取りは更に重く、表情に走る苦味は増している。
彼女の脳裏に浮かぶのはチミルフのことだ。
一見しただけでわかった。チミルフはこれ以上ないぐらいに研ぎ澄まされている。
それは強敵を求め、どこか燻り続けてきた彼を見てきたアディーネにとって喜ぶべき事態でもあったはずだ。
――それが自分たちと共に歩んだ栄光を捨て去った結果だとしてもだ。

だが、今の彼は誇り高き武人ではない。
ルルーシュの、ニンゲンの下僕と化してしまったのだ。
一方的な、ギアスという名の暴力によって。
そしてチミルフが武人として尊ければ尊いほど、その在り様は哀れな道化に堕ちていく。
余りにも無様。余りにも惨め。
そしてその姿を否応無く見せ付けられる彼女にとって、それは拷問以外の何者でもなかった。

……そう、アディーネがシトマンドラのサポートに付かなかった最大の理由。
それはルルーシュ・ランペルージへの不信、である。
ギアス。ルルーシュの持つ絶対遵守の魔眼。
しかも事前にグアームから聞いた情報によれば、条件を設定をすることで遅効性の発動も出来るらしい。

『それは後々説明するさ。――では同志諸君! これより『螺旋王捕獲作戦』の全容を発表する!』

まったくお笑いだ。それでよく"同志"だなどと嘯けたものだ。
そんな力がある限り、決して対等などにはなりえないことは貴様が一番知っていることだろうに。
今この瞬間も自分が操られているという可能性は、ルルーシュ以外、誰も否定できないのだ。
自分が自分で無くなる。哀れな人形に成り下がる。
それは、戦場で無双を誇った女傑の胸に消えない恐怖を刻み付けた。

そしてその恐怖は次第にルルーシュに対する苛立ちへと変わっていく。
貴様はチミルフを、獣人を、いや、他でもないあたしを侮辱した。
胸の中で渦巻く靄が全身へと広がっていく。
だが――

「まったく見ていられんのう、チミルフの奴め……」
「!! 覗き見とはいい趣味をしてるじゃないか、グアーム……!」

いつの間にかやってきた顔なじみに顔をしかめ、不快の色を露にする。
チミルフのことを口にするとは、少なくとも闘技場でのやり取りから見ていたのだろう。
だがグアームはそんなことを気にした様子も無く、言葉を続ける。

「あのニンゲンが気に食わんのは分かる。
 じゃが……あの小僧は紛れも無い天才よ。
 螺旋王への復讐をなすには必要不可欠な人材――」
「わかってるんだよ、そんなことは!」

アディーネという獣人は決して愚鈍ではない。
その理性はあの少年が必要な存在であることを認めている。
しかしだからこそ、苛立ちは消えない。
ルルーシュに対する敵意は、それを跳ね除けられない自己嫌悪となってそのまま自身に返る。
理性と感情が鬩ぎ合い一層、彼女を追い詰めていく。

「ふむ、ルルーシュ・ランペルージ……今や奴は情報と言う力を手に入れた知の化け物じゃ。
 特にあの箱庭の中に関してはまさに神に等しい存在といってもいいじゃろう」

グアームはそこで言葉を切ると、懐から"鍵"を取り出す。
怪訝な表情になるアディーネを前にグアームは口の端を吊り上げ、更に言葉を重ねる。

「だが我らが求めているのは王の代わりであって神ではない。
 じゃから――"保険"が必要だとは思わんか?」

その笑みは、ただ、深い泥のような陰湿な色を持っていた。

653獣人と人  ◆DzDv5OMx7c:2008/11/09(日) 23:37:25 ID:we1SabhU0
case2 獣人:チミルフ

「はあああああああっ!」

裂帛の気合とともにハンマーが空を切り裂く。
疲労から回復したチミルフは一心に槌を振るっていた。

先ほどの東方不敗という男との戦いは心躍るものであった。
だが同時に自分の"弱さ"を感じ取る結果でもあった。

――認めよう、我が実力はあの老人に遠く及ばない。

さほどのショックも無く、事実をありのまま受け止める。
しかしてチミルフは絶望することも無く修練を続ける。
怒涛の二つ名と慢心を捨てたチミルフは、まるで己を一つの武器とするかのようにひたすらに己を鍛え続ける。

もっと強く、もっと剛く。
武人である自分がルルーシュの役に立つにはこの道を突き詰めるしかない。
先ほどのアディーネの様子が気にならないといえば嘘になる。
だがそれすら振り切って、ただひたすらに心を研ぎ澄ませて行く。
だが視界の端に白い影が映り、視線を上げる。
そこにあったのは孔雀の羽を持つ同僚の姿であった。

「どうした、シトマンドラ」
「あ、ああ……」

歯切れが悪い。
いつも過剰なまでに自信を振りまくこの男らしくもない。

「……チミルフ、お前はどう思う。
 この作戦、成功すると思うか?」

シトマンドラの口から出たのは不安を帯びた弱弱しい声色。
確かに賭けというにも分が悪い勝負だ。
チミルフ自身も不安になる気持ちがないといえば嘘になる。
だが彼はそれを惰弱と切って捨てる。

「知らんな。俺は信じるだけだ、我が王を。
 そして獣人が優れている種であると存在するためにも、な」

何という矛盾だらけの言葉。
人を頂きに擁き、どうして獣人の誇りを証明できるのか。
チミルフの中には螺旋王ロージェノム……あの男に仕えていた記憶はある。
だがその記憶があったとしても、ギアスによる思考誘導は細かな矛盾を無視する。
ニンゲンがそれほど長生きできるはずがないと言う事実も、
そもそもルルーシュが参加者の中にいるのがおかしいと言う矛盾にさえチミルフは気づかない。
同僚であるはずのこの男が同じ王に仕えていないという明らかな矛盾にすら気づくことは無い。

「そう、だな……我らに出来るのはすべきことをなすだけ、か」

それだけ言い残すとシトマンドラはどこかぼんやりとした足取りで立ち去った。
気を取り直し再び修練に戻ろうとしたチミルフの視界に入るのはシトマンドラとは正反対の黒いシルエット。
十字架を背負ったあの男。
生身でビャコウと互角に戦ったニンゲンの戦士。
そういえば、あの男は……

654獣人と人  ◆DzDv5OMx7c:2008/11/09(日) 23:39:02 ID:we1SabhU0
case3 人間:ニコラス・D・ウルフウッド


足元に転がる吸殻の数を数えるのは10でやめた。
腹減ったら飯食って、眠くなったら寝る――そうは言ったものの現状眠たくもないし腹も減っていない。
パニッシャーの弾丸補充は済み、念願の煙草も手に入れた。
適当にその辺りをぶらついてみたが特に興味を引かれるものも無い。
そう、平たく言ってウルフウッドは暇を持て余していた。
だから普段なら相手しないような、相手の相手でもしようかと思ってしまったのかもしれない。

「……何や用か、ワレ」

目を上げればそこにあるのはゴリラ獣人の姿。
名は確かチミルフと言ったか。それしか知らないし、知りたいとも思わない。
以前の奴ならともかく、どんな事があったのか黒もやしの駒に成り下がった奴になど興味は無い。
だが、

「お前に聞きたいことがある」
「何や、つまらん事やったら――」
「ヴァッシュ・ザ・スタンピードについて詳しく聞きたい」

その口から発せられた名前に、マッチを擦ろうとした手が止まる。

ヴァッシュ・ザ・スタンピード。
その正体は人によって作られた、人を超えたもの。
そのコンセプトは獣人に通じるものがある。
戦闘の最中、目の前の男自身から聞いた名前。
生き残りのニンゲンから話を聞こうと思ったが、この状況下では難しい。
また、元の世界からの知り合いであるこの男に聞いたほうが一番いいだろう、とチミルフは判断した。
意外な人物が口にした意外な人物の名前に言葉を失うウルフウッド。
だがそんな彼らの前に新たな来訪者が現れる。

「……ふむ、それはワシも聞きたいところよ。
 あの赤外套……どうやらなかなか面白い経歴の持ち主であるようだな」

いつの間にそこにいたのか、東方不敗がウルフウッドの背後から現れる。
その右手に紙の束をいじりながら。
まだ暖かいコピー用紙に書き込まれたのはグアームによってまとめられた参加者の情報の数々。
そしてその紙束の一番上に重ねられているのはヴァッシュ・ザ・スタンピードのものだった。

人のエゴによって生み出された人ならざるもの。
だがその出生とは裏腹に人を愛し、人という種を信じ続けた。
言うなれば、人であり人を信じることが出来なくなった自分とは真逆の存在。
故に東方不敗はその違いが知りたかった。

2人の視線を受け、ウルフウッドは大きくため息をつく。

……ヴァッシュ・ザ・スタンピード。
ラブ&ピースが口癖の、史上初の災害認定された男。
あの男との縁は奇縁、としか言いようが無い。
敵であり、味方であり、そして――

『――お前には死んで欲しくないんだよ』

思い出すのはいつものバカみたいに笑う笑顔と、あの時向けられた本当に暖かい微笑みだけ。
だから、

「――や」

言葉は口をついて出た。
何かを考える間もなく、息をするように極々自然に。

「あいつは――人間や。
 とんでもなくお人好しでアホウな、ただの、な……」

その言葉に万感の想いを滲ませて、それ以上何も言うことは無いとでも言うように。
言外に何かを感じたのか、問いかけた2人ともそれ以上は何も言わない。
そして最初にチミルフが、そして次に東方不敗がウルフウッドの元から去る。

そしてその場に残されたのは十字架を背負った一人の男。
男は自身に問いかけるように、呟く。

「せやから決着をつける……つけなきゃアカンのや」

あの時、人をやめなくて良かったと、彼は思う。
ヴァッシュは人間、彼が信じたのも人間。
であれば立ち塞がるべき自分も人であるべきだ。
決着は人間の手で。
神だろうと悪魔だろうとこの世界に入ることは許されない。

気を取り直し、新しい煙草に火をつける。
漂う紫煙の先に浮かんだのは愛しい女性の面影。
ミリィ・トンプソン。
その表情は悲しみの色を放っている。

だがそれでもウルフウッドの心は揺るがない。揺るぐはずも無い。
何故ならここは男の世界。
ウルフウッドとヴァッシュしかいない、他人を拒絶する灰色の世界。
人間に試練を与える外道牧師こそ我が天命。
彼にとってアンチ=スパイラルの降臨も、ルルーシュの思惑も、世界の命運すらどうでもいい。
彼がこだわるのは最後の瞬間まで人を信じた男との一世一代の大勝負のみ。

「……勝負や、ヴァッシュ・ザ・スタンピード」

ニコラス・D・ウルフウッド。
処罰するもの(パニッシャー)と共に、今はただ、来るべき"勝負"の時を待つ。

655獣人と人  ◆DzDv5OMx7c:2008/11/09(日) 23:40:13 ID:we1SabhU0
case4 獣人:シトマンドラ


モニタ室に戻ったシトマンドラは椅子に深く腰掛ける。

薄暗い闇の中、モニタには残りの参加者たちの様子がリアルタイムで映し出されている。
だが、今の彼にはまるで意味の無い光景のように目の前を通り過ぎていく。
茫洋とした意識の中で彼が考えるのはただ一つ。
"王"のことだ。

シトマンドラは智謀・策謀を何より好む。
だが己自身がトップに立ち、支配するようなやり方ではそれを最大限に生かせないことも理解している。
だから彼の行き着く結論は、一つ。

――やはり自分には王が必要だ。

だが"王"のことを考える時、荘厳な雰囲気をまとった螺旋王のヴィジョンと同時、
どうしても黒髪の少年が玉座に着く光景を幻視してしまう。
その少年はただの人間であるはずだ。それなのに、だ。

「ルルーシュ・ランペルージ……」

その名を持つのは脆弱で、愚鈍なはずのニンゲン。
だが垣間見せた智謀は彼を遥かに上回っていた。

そして自身の反論をことごとく封じられたその瞬間のことを思い返すと、
屈辱に締め付けられると同時、胸が高鳴る自分を自覚する。

それに言葉では説明できない、人を惹きつける"何か"。
王に必要な力――それはカリスマと呼ばれる、"不可能を可能にする"力。
ゼロとして数々の軌跡を作り出した彼は間違いなくそれを持っていた。
そして獣としての本能か……シトマンドラは如実にそれを感じ取っていた。

だから期待してしまう。
自分が今まで見ることの無かった何かを見せてくれるのではないかと。
自分の知らぬ、次のステージへと押し上げてくれるのではないかと。
その期待は止まらない。逸る心を抑えきれない。
嗚呼、何故こんなにも心が躍るのか……!


――憎いのか、まだ慕っているのか。
今だ自分たちを捨てた螺旋王への感情の答えは出ていない。
同様にルルーシュへの感情も答えは出ていない。
今だ下に見ているのか、対等にありたいと思っているのか。
それとも……自らの上に、王として据えたいと思っているのか。

闇の中でシトマンドラは自らに問いかける。
自分が仕えるべき、否、"仕えたい"王は、いったいどちらなのかと。

656獣人と人  ◆DzDv5OMx7c:2008/11/09(日) 23:40:36 ID:we1SabhU0
case5 人間:東方不敗マスターアジア


(――なるほど、そういうことであったか)

ウルフウッドに感じていた親近感。
それは"救い"だ。
自分はドモンに、あの男はヴァッシュに"救い"を求めていたのだろう。
人をくだらないと思いながら、愛着を持つ。
何とも青臭い感情だ。

「フ……あ奴もワシもまだまだ青い、ということか……。
 だが、ワシは一足早くそこから抜けさせてもらうぞ」

表情は苦笑から一変し、厳しいものへと変わっていく。
グアームから受け取った資料は何よりも螺旋王の技術力の高さが読み取れた。
彼の世界も相当に科学技術が進歩していたとはいえ、瞬間転移や別次元へ渡るといった技術は聞いた事も無い。

だがしかしそれだけの力を持ってしてもアンチ=スパイラルに対しては逃げの一手を取らざるを得なかったのだ。

不意にまぶたを閉じれば浮かぶのは瓦礫の山。
"理想的な戦争"と称し、人類が起こしてきたガンダムファイトの負の遺産。
アンチ=スパイラルの力それさえあればあの光景を無くす事ができる……
肩を並べ戦えば、すべての平行世界からなくすことも可能だろう。
ああ、それは何と心躍る夢だろうか。

だがその時、胸の奥からせり上がってくる熱に足を止め、咳き込む。
思わず口元に添えた手に付いたのは粘り気のある真っ赤な液体――血だ。

(……くっ、何故今になって……)

会場で兆候すら出なかった持病が何故今更芽を出したか?
その原因はルルーシュたちが先ほど受けた"治療"にある。
獣人はその生態構造上、1日1回は調整槽で調整を受ける。
定期的なメンテナンス……それ故に進行の進んだ病気に対する対策は概念として薄い。
その結果、体力を回復させる際に東方不敗の体を蝕む病魔を加速させてしまったのだ。
そして先ほどのカミナとの一戦はその口火を切る結果となってしまったらしい。
だが、

「……かまうものか」

そう、そんなことは最早些事。
口の中に広がる鉄の味を飲み下し、視線を横に走らせる。
その視線の先にあるのはこちらを見下ろす監視カメラ。
七人の同志……とはいえ所詮は利益だけで寄り集まった烏合の衆だ。
そんな奴らに自らの弱みを晒せばどうなるか、考えるまでも無い。
今の自分が考えるべきはアンチ=スパイラルとの接触のみ。

そもそもアンチ=スパイラルの力を得さえすれば、寿命など大した問題ではない。
そのために螺旋力覚醒者を出すために今は尽力しよう。
どちらにせよ、この実験が成功しなければ自分は、否、自分たちは八方塞なのだ。

(あと少し、あと少し持てばよい……)

それまでならば何としても持たせてみせよう。
アンチ=スパイラルという天元を見据え、東方不敗は再び歩き出す。
一分の迷いも無い、しっかりとした足取りで。

657獣人と人  ◆DzDv5OMx7c:2008/11/09(日) 23:43:31 ID:we1SabhU0
case6 人間:ルルーシュ・ランペルージ

「ふぅ……」

ルルーシュは息をついてモニターから目を放す。
如何に彼が天才とはいえ、肉体がある以上、頭脳を使うことに疲労を覚えないわけではない。
自分の知る世界とは大きく操作系統の異なる機械群相手であればなおさらだ。
だが、ルルーシュはそれでも第3回放送まで何があったかを大体把握していた。
そして情報を把握したその顔に浮かぶのは疲労と――苛立ち。

「本当に許しがたい存在だよ……ヴィラル」

スザクを殺しておいて、のうのうと女と乳繰り合う姿はルルーシュの神経を嫌が応にも逆撫でした。
たとえそれが本人達にとって必死の打算的行動の塊であったとしても、だ。
だがしかるべき罰を与えるにしても、本来の目的を優先するべきだ。
私情に囚われ、本来の目的――ナナリーの元へ帰ることが不可能になったのでは笑い話にもなりはしない。

ルルーシュの前のモニタに浮かぶのは、会場に残された12人の参加者の顔写真。
そしてその横に並ぶのはルルーシュ自身が製作した体力や知力といった彼らの固有ステータス。
それらを眺めながら、彼は考える。

――この中から真なる螺旋力覚醒者、天元突破をなしえるものを出さなければならない。

故にルルーシュは彼ら……贄について思考を巡らせる。

普通に考えれば天元突破に最も近い可能性を持つのはやはりカミナであろう。
螺旋力に最も近しい存在。別世界の螺旋王のいた世界に存在した男。
最も覚醒する可能性の高かったシモンが潰えた今、目覚める可能性は最も高いと言えるだろう。

だが、前も考えた通り本来の"螺旋力"と"真なる螺旋力"は似て非なる可能性がある。
その証拠がガッシュ=ベル、そしてシャマルの存在だ。
元々人間である戦闘機人や調整されたというヴィラルなら螺旋遺伝子を持っている可能性もあろう。
だが異界である"魔界"出身であるという魔物や擬似魔法生命体に螺旋族のDNAが入ってる可能性は……恐らく無い。
しかしその彼らは螺旋力に覚醒している。
これは彼らが通常とは異なる覚醒――"天元突破"に一番近いという証拠ではないのか?

通常と異なるといえば、菫川ねねね、スカーの両名が螺旋力に覚醒めた状況も特殊だ。
彼女らが螺旋力を発現させたのは戦いの中ではない。
ねねねは本を書き始めたとき、スカーは結界に触れたとき。
どちらも戦闘、命の鬩ぎ合いとは程遠い行為だ。
故に考え方を変えれば、"天元突破"する可能性が高いといえなくも無い。

658獣人と人  ◆DzDv5OMx7c:2008/11/09(日) 23:44:26 ID:we1SabhU0
一方で螺旋力が想定どおりのものならば"彼女"が近いのではないか、とルルーシュは考える。
ルルーシュの視線の先にあるのは一際幼く見えるその容貌。
生き残りの中で何の力も持たず、最も弱い少女……小早川ゆたか。
彼女は弱い……体力に関しては平均値にすら届いていない。
だがそれは逆に言えば逆境に陥りやすいということでもある。
その証拠に最も早く螺旋力に覚醒したのも彼女だ。
ならば"天元突破"を更なる覚醒と仮定するならば最も覚醒に近いのは彼女ではないか?

だが戦いの中で目覚めるのは、生存本能だけではない。
純粋な闘争本能――そう仮定するならばドモン・カッシュが最も近い。
一方で、それを野性と考えるならばヴィラルが最も近いだろう。

また、エレメントとチャイルド……
人の想いによって力を引き出すその在りようは螺旋力に一番近いと言える。
事実、4人のHiMEは全員螺旋の力に覚醒している。
ならばHiME最後の生き残りである鴇羽舞衣。
彼女もまた、"天元突破"する可能性が高いと考えることが出来る。

そして真なる螺旋覚醒がまったく方向性が違うというのならば
いまだ覚醒していないスパイク、ジン、ギルガメッシュ……彼らこそ相応しいのではないか。

……つまるところ螺旋力そのものの定義が曖昧な現状では、誰もが天元突破する可能性があるということだ。
やはり新たな情報が入らない限り後発は進みはしない、か。


到達した結論を心の隅に追いやり、放送を終えた会場の状態に移る。
温泉を禁止エリアに指定した今、ヴィラルは彼らに対し最後の侵攻を仕掛けるだろう。
もしも天元突破をするものが出なかった場合、カードを切らざるを得ない。
だが、投入のタイミングには慎重を期さねばならない。
最初の一手を打った時点で放送に載せた偽情報のアドバンテージは消える。
カードを切れるのは一度きり、そして選択肢は今のところ3種。

チミルフ。
ギアスのおかげで3人の、いや七人の同志の内で最も忠実に任務をこなしてくれる。
だが、あの二人にギアスのことが知られてないとはいえ、
確実に裏切らない手駒が手元にあるのと無いのでは安心度が大きく違う。
さらに切れるカードのうち戦闘力が一番低いのも不安要素だ。
ガンメンという機動兵器をに乗ることで底上げを図ることは出来るが、
あのエヌマ・エリシュという一撃が相手では、大きな的以外の何者でもない。

ニコラス・D・ウルフウッド。
生身であればチミルフ以上に働いてくれるだろう。
単身で機動兵器と互角に戦ったその実力……相手にしても引けはとるまい。
また目的が試練となる、である以上反意を抱く可能性も低いと考えられる。
だが……恐らく手加減とは程遠いだろう。
覚醒前に全滅させてしまう可能性すらある。
唯一アンチスパイラルとの接触を目的としていないだけに、そうしてしまう可能性があるのが懸念材料か。

東方不敗マスターアジア。
実力は文句なしに最強であろうし、目的が一致している以上、手加減もするであろうしと申し分ない。
またマスターガンダムを与えればまず負けることは無いだろう。
だが……一番信用が置けないのもまたこの男なのだ。
今一何を考えているか読みきれない。
万が一裏切ればこちらの手持ちのカードでは対処しきれない可能性がある。

そのどれもが一長一短、持ち手を吟味するルルーシュ。
だがその思考を途切れさせるように、来訪者が現れる。

「少し良いかの、ルルーシュ?」

来訪者の名はグアーム。
最も古き獣人であり、ルルーシュを"こちら側"へと誘った張本人。
そして――4人の獣人の中で最も油断ならない相手だとルルーシュは判断する。

「どうしたグアーム? 見てのとおり俺は忙しい。
 用件があるのなら手短に済ませてくれ」

事実、やらなければならないことは山ほどある。
螺旋力に関する考察は完璧とは程遠いし、アンチ=スパイラルとの交渉内容もシミュレートする必要がある。
だが、その口から出てきた言葉はルルーシュの手を一瞬止めさせた。

「わしも情報の整理を手伝おう、と思ってのう」

その行動に対し、ルルーシュが思うのは

(――何を考えている?)

疑惑。それ以外に持ちえる感情は無い。
疑いの眼差しを向けるルルーシュに獣人は笑みを返す。
左右に避けた口を大きく曲げて。

659獣人と人  ◆DzDv5OMx7c:2008/11/09(日) 23:44:42 ID:we1SabhU0
「おや、まさか疑っておるのかのう?
 お前さんらしくも無い。少し頭を使えば分かることだろうに。
 今更協力しないのであれば最初から呼びつけんわい」

グアームの言うとおり、目的が一致している以上、彼らが裏切る可能性は低い。
でなければ最初から俺をこの空間に呼ぶ必要など無いのだから。
少なくとも、アンチ=スパイラルとの交渉まではこちらの不利になることをやるとは思えない。

「どうしても信用できないのであれば、ギアスとやらを使ってこう命令すればよい。
 "何をたくらんでいるか洗いざらい話せ"、とな」

グアームはそう言って、今まで合わせなかった視線をしっかりと合わせた。
そのまま数秒の沈黙の後、折れたのはルルーシュの方であった。

「……わかった。手伝ってもらおう」

ギアスは切り札の中の切り札。使うべきときは今ではない。
それに先程のように時間はいくらあっても足りはしない。
何を考えているかは知らないが、その時がくるまで利用するだけだ。
ルルーシュは短い休憩を終え、グアームと共に第3回放送後の情報に目を通し始めた。

だから若いヒトは気づかない。
背を向けた先で獣が哂うのを――

660獣人と人  ◆DzDv5OMx7c:2008/11/09(日) 23:45:38 ID:we1SabhU0
case7 獣人:グアーム


(……そう、"今は"協力するがな)

声に出さずに不動のグアームは呟く。

グアームは思い出す。
彼がまだ獣人ですらなかった時代。
小さく、弱く、ただの獣であった時代のことを。
ロージェノムの肩に乗り、無限の敵に立ち向かっていたときのことを。

そう、不動のグアームは四天王の中で、獣人の中で唯一アンチスパイラルとの面識があったのだ。
肝心の記憶は時の流れの果て、奥底にこびり付くだけになってしまっているが、あのプレッシャーは体が覚えている。
意思すら感じさせない無機質な殺意……あの存在と対話が可能だとはどうしても思えなかった。

さらにグアームはルルーシュのことを信用はすれど、信頼してはいなかった。
基を返せばルルーシュとてこの実験に参加させられたものの一人。
今は元の世界に帰還することを優先しているためその兆候を見せていないが、
アンチ=スパイラルとの交渉が成功した瞬間ならばどうだ?
その瞬間手のひらを返し、我ら獣人に対して牙を剥かないという保障は無いのだ。
故にグアームは"保険"をかける。
アンチ=スパイラル、ルルーシュ・ランペルージの両名に対して。
そしてアンチ=スパイラルに対しての保険はアディーネに託した。
故にルルーシュに対する保険は自分が担当するほかあるまい。

ルルーシュに対する保険……
それは他でもない、自分という疑心暗鬼の種を傍に置いて、ルルーシュの思考を削ることだ。
この作戦、下手をすればルルーシュを追い詰めてしまい、実験の失敗という本末転倒の事態を招いてしまうかもしれない。
だが先程見せた逆境すらチャンスに変える明晰な思考――
あれならば間に合うだろう、とグアームは高い評価を与えていた。

さて、この作戦におけるメリットは主に3つ。
一つは自分という懸念事項を傍に置くことで"獣人に対する制裁"という余計なことを考えさせないようにすること。
二つ、自分の行動如何によってアディーネの動きを隠すこと。
そして3つ目は渡す情報に志向性を持たせること、である。
これによって操作とまでは行かなくとも、思考の方向性を傾けることぐらいは出来るはず……
グアームはそう考える。

それに今のルルーシュは見たところ先程までより幾分か感情的になっている。
会場で起こったことを把握しているグアームはその原因に心当たりがある。
ルルーシュの怒りの視線の先にいるのは鮫の歯を持った男。
異世界で別の螺旋王に作り出された見知らぬ獣人。

(ヴィラルとか言った見知らぬ同胞よ。我ら獣人のためにせいぜいこの男の憎しみを引き出すがいい。
 この智謀の魔人はその視線を向けるときだけ矮小な人となる。
 そしてその隙に我々は付け入らせてもらうとしようか……)

現在、混沌と化した実験場に残された情報はあまりにも多い。
渡す情報の取捨選択を行うことで、ごくごく僅かながら思考は誘導できるだろう。

例えば"捨"と決めた情報の中に実験場中央……【E-6】ブロックの"異常"があった。

――それは偶然だった。
東方不敗に話した外部からの謎のアクセスを調べていくうちに気づいたのだ。
会場を包む多重結界に穴が開いていることに。

その原因は今から時間前、スバル・ナカジマが命と引き換えに放った螺旋振動の一撃。
その一撃は皮肉にも本来の持ち手が貫けなかった結果をもたらしていた。
存在確立を100から0に、0から100に変えることで転移を果たす螺旋転移システム。
だが螺旋の力の込められた破壊の渦は、その数値を変化させた。
大半は転移して消失したが、3割弱は転移せず結界を直接揺らがしたのだ。

その力、まさに天元突破。
少女の一念は無理を貫き通し、天を突き破ったのだ。
一瞬のことだったので、よくよく調べてみないと気付かれなかった一撃。
これは今のところ、自分しか知らない事実でもある。
それがどんな意味を持つのかは分からない。
だが一つだと意味を成さない綻びも、複数集まれば致命的な傷になるやも知れない。
1000年以上の時を生きた獣人は経験則としてそれを知っている。

それは東方不敗やグアームが持ち得て、知能で上回るはずのルルーシュがまだ持ち得ないもの。
長い時間を生きたものだけが持つ、"老獪"と呼ばれるアドバンテージであった。

661獣人と人  ◆DzDv5OMx7c:2008/11/09(日) 23:45:51 ID:we1SabhU0
それに自分自身が何をしなくても、自分がここにいるというだけでアディーネの動きを隠すことになる。
そう、アンチ=スパイラルとの交渉が失敗に終わったとしても、移動する際に時限に穴を開けねばなるまい。
であれば、『アレ』があれば万が一にでも逃れる可能性がある。
次元移動に耐える力を持つ『アレ』ならば。

螺旋王は、ロージェノムは確かに憎い。
考えるだけもで腸が煮えくり返りそうではある。
だがそれも自分という存在があってこそだ。
自身の命と秤にかければ生存に傾く。
何故ならばロージェノムを倒した後も獣人という種族は生きなければならないのだから。
故にグアームは仮初の王の頭上にダモクレスの刃を吊るす。

(悪く思うなでないぞ、ルルーシュ。
 ワシらは生きねばならん。
 そう、生き残るのだ、どんな手段を使っても、な……)

――その想いはとてもよく似ていた。
極めて近く、限りなく遠い世界である男が言った言葉に。
だが涙を呑み多のために少を切り捨てた男とは違い、その裏に巨大なエゴを滲ませて。

662獣人と人  ◆DzDv5OMx7c:2008/11/09(日) 23:46:56 ID:we1SabhU0
  *   *   *



――同時刻、螺旋城テッペリン地下


「なんなだい、これは……」

テッペリンの地下……すなわち月の地下に足を踏み入れたアディーネは思わず口にしていた。
背中を汗が伝い、知らず知らずのうちにゴクリ、と唾を飲み下す。

アディーネの目の前にあるもの、それはあまりにも巨大。
彼女は己の目で巨大な"それ"の全貌を見ることはかなわない。
だがそれも仕方の無いことかもしれない。
その物体の大きさは月――ここ、テッペリンが突き刺さる場所と同じなのだから。

これこそグアームの用意した切り札。
単体で次元跳躍能力を持たないが故に、螺旋王から見捨てられた箱舟。
だが次元移動に耐えうる力を持つ超々弩級巨大戦艦。

その舟はかつて――カテドラル・テラ、と呼ばれていた。


【王都テッペリン/二日目/日中(実験場内時間)】

【チーム:七人の同志】
(ルルーシュ、チミルフ、アディーネ、シトマンドラ、グアーム、ウルフウッド、東方不敗)


[共通方針]:各々の悲願を成就させるため、アンチ=スパイラル降臨の儀式を完遂する。内容は以下の通り。
1:螺旋王の残した実験(儀式)を続行。真なる螺旋力覚醒者(天元突破)を誕生させ、アンチ=スパイラルを誘き出す餌とする。
2:ルルーシュの指揮の下、頃合を見計らって『試練』となる戦力を投入。参加者たちに意図的に逆境を与え、強引にでも螺旋力の覚醒を

促す。
3:投入する戦力は現在のところチミルフ、ウルフウッド、東方不敗の三名を予定。生存者たちの状況により随時対応。
4:試練を与える前に真なる螺旋力者が現れた場合、また別途にアンチ=スパイラルとの接触の機会が訪れた場合には、逐一対応。
5:同志七人の立場は皆対等であり、ルルーシュとチミルフを除いて支配従属の関係にはならない。
6:アンチ=スパイラルとの接触に成功した後は、ルルーシュが交渉を試み、その結果によって各自行動。
[備考]
※その他、詳細な計画の内容は「天のさだめを誰が知るⅢ」参照。
※ルルーシュの推測を含めた実験の全容については、「天のさだめを誰が知るⅡ」「天のさだめを誰が知るⅣ」参照。
※多元宇宙を渡る術は全て螺旋王が持ち去りましたが、資料や実験を進める上で必要不可欠な設備、各世界から強奪した道具などは残って

います。
※ルルーシュら実験に参加していた四名は、テッペリンの設備で体力と怪我を回復しました。




【ルルーシュ・ランペルージ@コードギアス 反逆のルルーシュ】
[状態]:首輪解除、健康
[装備]:ベレッタM92(残弾11/15)@カウボーイビバップ、ゼロのコスチューム一式@コードギアス 反逆のルルーシュ
[道具]:支給品一式(-メモ)、メロン×10個 、ノートパソコン(バッテリー残り三時間)@現実、消防服 、
    アンチ・シズマ管@ジャイアントロボ THE ANIMATION、予備マガジン(9mmパラベラム弾)x1、
    毒入りカプセル×1@金田一少年の事件簿、支給品一式(一食分消費)、ボン太君のぬいぐるみ@らき☆すた、
    ジャン・ハボックの煙草(残り15本)@鋼の錬金術師
    『フルメタル・パニック!』全巻セット@らき☆すた(『戦うボーイ・ミーツ・ガール』はフォルゴレのサイン付き)
    『イリヤスフィール・フォン・アインツベルンに捧ぐ』@アニロワ2nd オリジナル
    参加者詳細名簿(ルルのページ欠損)、詳細名簿+(読子、アニタ、ルルのページ欠損)
    支給品リスト(ゼロの仮面とマント欠損)、考察メモ、警戒者リスト、ダイヤグラムのコピー、携帯電話@アニロワ2ndオリジナル
    ゼロの仮面@コードギアス反逆のルルーシュ、ゼロのマント@コードギアス 反逆のルルーシュ
[思考]
基本:何を代償にしてでもナナリーの下に帰る。七人の同志の一人として行動。
1:当面は実験場の監視に務め、試練投入のタイミングを見定める。
2:同時に、手持ちの情報を再度洗い直す。
3:他の同志たちの行動にも目を配る。特にウルフウッド、東方不敗を要注意。
4:もし終盤まで生き残り、機会があったとするならば、ヴィラルに対しスザクの仇を取る。
5:アンチ=スパイラルのより詳細な情報が欲しい。
6:謎のハッキングについて警戒する。
[備考]
※螺旋王の残した資料から、多元宇宙や実験の全容(一部推測によるものを含む)を理解しました。
※謎のハッキングについては外伝「かつてあったエクソダス」参照。

663獣人と人  ◆DzDv5OMx7c:2008/11/09(日) 23:48:02 ID:we1SabhU0
【怒涛のチミルフ@天元突破グレンラガン】
[状態]:敗北感の克服による強い使命感、ギアス(忠誠を誓う相手の書き換え)
[装備]:愛用の巨大ハンマー@天元突破グレンラガン
[道具]:デイパック、支給品一式、ファウードの回復液(500ml×1)@金色のガッシュベル!!
    ビャコウ(右脚部小破、コクピットハッチ全損、稼動には支障なし@天元突破グレンラガン)
[思考]
基本A:獣人以外を最終的には皆殺しにする上で、ニンゲンの持つ強さの本質を理解する。
  B:王であるルルーシュの命に従い、ルルーシュの願いを叶える。
0:ルルーシュの臣下として務めを果たす。七人の同志の一人として行動。
1:来るべき試練のときに備え、自己鍛錬に励む。
2:螺旋王の第一王女、ニアに対する強い興味。
3:強者との戦いの渇望(東方不敗、ギルガメッシュ(未確認)は特に優先したい)。
[備考]
※ヴィラルには違う世界の存在について話していません。同じ世界のチミルフのフリをしています。
※シャマルがヴィラルを手玉に取っていないか疑っています。
※チミルフがヴィラルと同じように螺旋王から改造(人間に近い状態や、識字能力)を受けているのかはわかりません。
※ダイグレンを螺旋王の手によって改修されたダイガンザンだと思っています。
※螺旋王から、会場にある施設の幾つかについて知識を得ているようです。
※『怒涛』の二つ名とニンゲンを侮る慢心を捨て、NEWチミルフ気分です。
※自分なりの解釈で、ニンゲンの持つ螺旋の力への関心を抱きました。ニンゲンへの積極的交戦より接触、力の本質を見定めたがっていま

す。(ただし手段は問わない)
※『忠誠を誓うべき相手は螺旋王ではなく、ルルーシュである』という認識の書き換えをギアスで受けました。
 螺旋王に対して抱いていた忠誠が全てルルーシュに向きます。武人たる彼は自害しろとルルーシュにいわれればするでしょう。獣人とし

ての誇りは持っていますが、螺旋王に対する忠誠心は失っています。
※夜なのに行動が出来ることについては余り考えていなません(夜行性の獣人もいるため)。


【流麗のアディーネ@天元突破グレンラガン】
[状態]:健康、螺旋王に対する強い憎悪、ルルーシュに対する不信
[装備]:不明
[道具]:不明
[思考]
基本:七人の同志の一人として行動。
1:カテドラル・テラを調査する
2:ルルーシュのギアスに対して警戒する

【神速のシトマンドラ@天元突破グレンラガン】
[状態]:健康、螺旋王に対する強い憎悪
[装備]:不明
[道具]:不明
[思考]
基本:七人の同志の一人として行動。
1:任務に戻る。
2:ウルフウッドや東方不敗が情報を欲したとしても、ルルーシュのギアスに関しては悟られないよう根回しする。
3:螺旋王とルルーシュ、どちらが自分の"王"に相応しいか考える。

【不動のグアーム@天元突破グレンラガン】
[状態]:健康、螺旋王に対する強い憎悪、ルルーシュに対する不信
[装備]:不明
[道具]:不明
[思考]
基本:七人の同志の一人として行動。
1:自身の生存を最優先とする
2:ルルーシュの行動を手伝うと見せかけ、コントロールする。

664獣人と人  ◆DzDv5OMx7c:2008/11/09(日) 23:48:37 ID:we1SabhU0
【ニコラス・D・ウルフウッド@トライガン】
[状態]:首輪解除、軽いイライラ、聖杯の泥、自罰的傾向、螺旋力覚醒
[装備]:アゾット剣@Fate/stay night、デザートイーグル(残弾:8/8発)@現実(予備マガジン×1)、
    パニッシャー(重機関銃残弾100%/ロケットランチャー100%)@トライガン
[道具]:支給品一式、ヴァッシュ・ザ・スタンピードの手配書@トライガン、予備弾セット@アニロワ2ndオリジナル
[思考]
 基本思考:自分を甦らせたことを“無し”にしようとする神に復讐する(①絶対に死なない②外道の道をあえて進む)。
      人間を“試し”、ヴァッシュへの感情を整理する。七人の同志の一人として行動。
1:ぶらぶらする。
2:試練役を買って出る意志はある。が、もやしっ子の言いなりになるんは癪や。
3:売られた喧嘩は買うが自分の生存を最優先。チミルフ含め、他者は適当に利用して適当に裏切る。
4:神への復讐の一環として、殺人も続行。女子供にも容赦はしない。迷いもない。  
5:自分の手でゲームを終わらせたいが、無謀なことはしない。
6:ヴァッシュに対して深い■■■。
7:ヴァッシュの意思を継ぐ者や、シモンなど自分が殺した人間の関係者に倒されるなら本望(本人は気付いていません)。
8:チミルフに軽く失望。
9:生きる。
[備考]
※迷いは完全に断ち切りました。
※ヴッシュ・ザ・スタンピードへの思いは――――。
※シータを槍(ストラーダ)、鎌鼬(ルフトメッサー)、高速移動、ロボットの使い手と認識しました。
※言峰の言葉により感情の波が一定していません。躁鬱的な傾向が見られます。
※シータのロボットは飛行、レーザー機能持ちであることを確認。
※螺旋界認識転移システムの場所と効果を理解しました。
※五回目の放送を聞き逃しました。
※チミルフから螺旋王の目的やアンチスパイラルに関する情報を聞きました。
※螺旋力覚醒

【東方不敗@機動武闘伝Gガンダム】
[状態]:首輪解除、螺旋力覚醒、疲労(小)、火傷
[装備]:天の鎖(エルキドゥ)@Fate/stay night、ボロボロのマント、マスタークロス@機動武闘伝Gガンダム
[道具]:ロージェノムのコアドリル×1@天元突破グレンラガン、ファウードの回復液(500ml×1)@金色のガッシュベル!!
    風雲再起(首輪解除)@機動武闘伝Gガンダム、ゼロの衣装(仮面とマントなし)@コードギアス 反逆のルルーシュ
[思考]:
基本方針:現世へ帰り地球人類抹殺を果たす。アンチ=スパイラルと接触、力を貸す。七人の同志の一人として行動。
0:アンチ=スパイラルの力を得たい。
1:マスターガンダムの調子を見るついでに、傷を癒す。
2:アンチ=スパイラルとの接触を図るため、ルルーシュに賛同。が、完全には信用しない。
3:アンチ=スパイラルを初め、多元宇宙や他の参加者、実験の全容などの情報を入手したい。
4:ルルーシュがチミルフを手懐けられた理由について考える。
5:ドモンと正真正銘の真剣勝負がしたい。
6:しかし、ここに居るドモンが本当に自分の知るドモンか疑問。
7:ジン、ギルガメッシュ、カミナ、ガッシュを特に危険視。
8:カミナに……
[備考]
※クロスミラージュの多元宇宙説を知りました。ドモンが別世界の住人である可能性を懸念しています。
※ニアが螺旋王に通じていると思っています。
※クロスミラージュがトランシーバーのようなもので、遠隔地から声を飛ばしているものと思っています。
※螺旋遺伝子とは、『なんらかの要因』で覚醒する力だと思っています。
『なんらかの要因』は火事場の馬鹿力であると推測しました。
 Dボゥイのパワーアップを螺旋遺伝子によるものだと結論付けました。
※自分自身が螺旋力に覚醒したこと、及び、魔力の代用としての螺旋力の運用に気付きました。
※カミナを非常に気に入ったようです。
※チミルフから螺旋王の目的やアンチスパイラルについての情報を入手しました。
※計画に参加する上で、多元宇宙や実験に関する最低限の情報を入手しました。
※治療のせい病状が加速していることが判明しました

665始まりは終わりの始まり ◆EA1tgeYbP.:2008/11/21(金) 22:11:54 ID:0fh9QIOw0
 テッペリンの廊下。螺旋状に螺旋くれた廊下をニコラス=D=ウルフウッドは進む。目指すは玉座、つい先ほどルルーシュに呼び出された場所だ。
 東方不敗、チミルフの二人と別れてしばらく後、することもなくぶらつきを再開したウルフウッドは突然ルルーシュから大至急玉座へと来るように指示されたのだ。

(――今度は何の用やねん、あのもやしっ子)

 歩くウルフウッドの顔には不満げな表情がありありと浮かんでいた。何せつい先ほど呼び出されたときの用事は放送のリハーサルの観客役というものだ。仮に今度の用事もまたふざけたものだったら苛立ちのあまり、あの細っこいボディに一発ぐらい喰らわせかねない。
 まあ、ルルーシュもそこまでバカでもないだろう。実際のところ考えられる用件としては「試練」のメンバーに関してあたりだろうか。

「今度は何の用や、もやしっ子」

 そう言いつつ玉座の間へと入ったウルフウッドを六対の視線が迎え入れる。

「……何かあったんか?」
 空気の違いを感じ取り、瞬時に意識を切り替えたウルフウッドは真正面にいる人物、玉座に座るルルーシュへと問い掛ける。

「シトマンドラ、頼む」
 だが、ルルーシュはその問いには答えず、自らの傍に立つシトマンドラへと何か指示を出す。
 ……ここでようやくウルフウッドは今、この玉座の間にいる同志のメンバーが大きく二種類に別れたことに気がついた。

 努めて表情を出さないシトマンドラ、何か苦虫を噛み潰したかのように不機嫌な気配が見え隠れするルルーシュとグアーム。彼ら三人はおそらく何かを知っている。
 そうして、待つことしばし。玉座の間にいる事情を把握していない残り4人。東方不敗、アディーネ、チミルフ、そしてウルフウッド、彼らの前にモニターの映像が映し出される。
 
「――これは今から少し前の『箱庭』の出来事だ」
 補足するルルーシュの言葉と共に、モニターの中では真っ赤なガンメンと対主催を志すメンバー達との間で戦いが繰り広げられいた。

 ウルフウッドも一度やりあったことがあるスカー。
 王ドロボウ、ジン。
 彼らがガンメンの気をひく間にガッシュ・ベルが放つ光球が2つ、3つとガンメンへと着弾していく。

666始まりは終わりの始まり ◆EA1tgeYbP.:2008/11/21(金) 22:12:32 ID:0fh9QIOw0
 ―――そして。

「バオウ・ザケルガァアアアアアアアアアア!!」
 ねねねの叫びと共にガッシュが放つ黄金色の雷竜がガンメンを蹂躙する。
 
「――終わったな」
 東方不敗が短く呟く。
 あの一撃はこの東方不敗をして避けるも防ぐもあたわず、と感じ取った一撃だ。たとえ機械に守られていようともあのような未熟者達に防ぎきれるようなものではない。
 これで実験場内の殺人者達は一掃された。とはいってもまあ、あの甘い者達のことだ。殺すとまではいかずにせいぜいが行動不能にする程度ではあろう。
 さておき、マーダー達が動けないとなれば次はようやく自分達の出番となる。
 東方不敗やウルフウッドはモニターから視線を外すとルルーシュへと向ける、……が。

「……ある意味、終わってくれていればよかったんだがな」
 試練役として、まず誰が行くのだ? そう尋ねようとした東方不敗の機先を制するかのようなタイミングで告げられる、やや疲れた感じのルルーシュの言葉。

「……?」
 その言葉に東方不敗達は再びモニターへと視線を移す。
 するとそこには。

「「 愛 情 合 体 ッ ! 天元突破グレンラガン!! 」」

『勇気だの誇りだの、そんなものはちっぽけだ。愛こそ至高。愛こそ……天下だぁあああああああ!!』

 ヴィラルの叫び声と共に人型の機体の全身から碧色の――いや、碧混じりの〝桃色〟の輝きが、天に向かって迸る。
 天壌を埋め尽くす螺旋の奔流。大気を巻き込み捻れを成すほどの、逆流。
 螺旋力の渦巻き、それ自体が巨大なドリルとなって、空間を穿つ。
 空を、天を、大気圏を、月まで届く勢いで、宇宙を制す。
 
 ……そのような光景が繰り広げられていた。

「王よ、これは一体?」
「見てもらった通りだ。つい先ほど『箱庭』の中において、計算よりもはるかに早いタイミングで我々が……その、待ち望んでいた天元突破の覚醒が果たされた」
 チミルフの問いにルルーシュは答える。

667始まりは終わりの始まり ◆EA1tgeYbP.:2008/11/21(金) 22:13:26 ID:0fh9QIOw0
 そんなやり取りの合間にもモニターの中では事態は進んでいき、

『ギィイイイイイガァアアアアアアアア!!』
『ラァアアアアアブラブゥウウウウウ!!』


 機体、グレンラガンの右腕が高く突き上がり、先端が巨大なドリルと化す。
 ドリルは瞬く間に高速回転を始め、唸りを上げ。


「「ドリル――ブレイクゥウウウウウ!!」」

 そして、唐突に静止する。

「とりあえず、ここまでが今の状況だ。現在シトマンドラによって会場内の空間は凍結をかけられているが、天元突破者が出てきた以上、凍結それ自体が破られるのも時間の問題だろう」
「……」 
「……」
「……」 
「……」
「……」 
「……」
 そう、ルルーシュが言い切ると玉座の間には微妙な沈黙が落ちた。
 何せ待ち望んだ結果というのがあんなモノ、だったのだ。皆どう反応していいのかわからなかった。

「……アホらしい」
 そんな中、ウルフウッドはポツリと呟く。
 当事者達がどれほど真剣であろうとも、彼らがやっていることは愛の告白をしてパワーアップという三文芝居に他ならない。傍から見ている限りは馬鹿馬鹿しいことこの上ない。


(……まったくだ)
 表には出さないもののルルーシュも内心ウルフウッドに同意する。
 さらにルルーシュにはもう一つ、この状況を馬鹿らしく思う理由があった。
 それは他でもない、天元突破を成したのがヴィラルであるというこの事態そのものだ。
 確かに可能性の上だけではヴィラルが天元突破を果たすという事態をルルーシュも考慮していなかったわけではない。しかし、同時にその可能性は極めて低い――それこそ未だに螺旋力の覚醒を果たしていないギルガメッシュやスパイク、ジンといった参加者より――筈だった。

668始まりは終わりの始まり ◆EA1tgeYbP.:2008/11/21(金) 22:14:53 ID:0fh9QIOw0
 何故ならばヴィラルは改造を受けたとはいえ元々は獣人だ。それが天元突破を果たせるというのなら、ロージェノムの配下に候補はいくらでもいたはずだ。
 そう、シャマルという追加要因があったことが天元突破の一因となったのだと仮定しても、配下の獣人全てを使い潰すつもりで試しておけばこのような殺し合いにこのルルーシュや、スザクが巻き込まなければならない必然性があったのかどうか。
(愚かにも程があるぞ、ロージェノム!)
 改めてルルーシュはのうのうと逃げ出したロージェノムに対して怒りを燃やす。

「……それでどうするのじゃ?」 
 あらかじめ何が起きたのかをある程度知っていたが故に立ち直るのも早かったのか、場の沈黙をグアームが破る。
 その問いかけの言葉にルルーシュも我に返った。
 そう、今はまだ優先すべきことが他にある。

「おぬしがわしらに聞かせた話によると、この場合は逐一対応するとのことじゃったが」
「そうだな……その前にまず、アンチ=スパイラルの動きはどうなっている?」
「前と変わらず、だ。今のところ動きはないね」
「……そうか」
 アディーネからの返答を聞きルルーシュは少し考える。 
 天元突破が成された以上すぐにでもアンチ=スパイラルは動いてもおかしくはないというのが、彼の予想の一つだったのだが……。
(……そうなると、だ)

「ふむ、当てが外れたか?」
「いや、そうでもない。確かに予想していた中の一つは外れたが、ただそれだけだ」
 東方不敗からの問いにルルーシュはかぶりを振る。


(ならば次の一手は……)


「アンチ=スパイラルが動かないというのであれば、こちらが動こう」
 ややあって、ルルーシュは六人の同志に告げる。

「その前にこの状況下、もっとも困る事態というのはなんだかわかるか?」
「そりゃあ、敵さんが突然気を変えてあたし達に襲いかかって来る事じゃないか」
 ルルーシュの突然の問いかけにややあって、戸惑いながらもアディーネが答えを返す。
 その答えにルルーシュは苦笑を浮かべた。

669始まりは終わりの始まり ◆EA1tgeYbP.:2008/11/21(金) 22:16:35 ID:0fh9QIOw0
「確かにその通りと言えばそうだが、それならばもっと前か、天元突破の時点で動くだろう。この問いの正解はせっかく覚醒した天元突破者が倒されてしまうこと、だ。アンチ=スパイラルが危険視するような存在さえをも滅ぼすようなものがこの会場内にいるという確証を与えてしまえば会場後と俺達主催陣が消し去られることになったとしても何の不思議もない」
「はっ! なんだいそりゃあ。あのロージェノムさえ恐れるアンチ=スパイラル。それさえも倒しうる奴が一体どこのどいつに負けるって?」
 アディーネの失笑を無視してルルーシュはモニターを操作する。

 画像が変わり映されたのは黄金の青年が螺旋状の剣を振りかざすシーン。
 彼の相手を馬鹿にしたような余裕に満ちた表情からはとても彼が戦いの場に身を置いていると考えるのは難しい。
 だが、彼が剣を振り下ろすや否や、剣から膨大なエネルギーが解き放たれ、アディーネもよく知るダイガンザン、もっとも正確にはダイグレンという名の戦艦型ガンメンが無残に破壊されていく。

「……英雄王か」
 東方不敗が呟いた。この場においては彼とチミルフのみがかの英霊の強さを己が身で感じ取っている。

 続いてルルーシュはモニターを操作する。

 次にモニターに移ったのは全身に傷を負ったショートカットの少女だ。
 彼女は赤と銀に彩られ逆立つ髪をもつ、まさに悪魔と呼ぶにふさわしい相手と対峙する。
 一見、先の映像との共通点は見当たらない。ただ一つ少女がその手に握る螺旋状の剣を除いては。
 
 そして、彼女の手の中で剣の円柱が回転し、暴風を引き起こす。

「天地乖離す(エヌマ)――――」
「――――開闢の星(エリシュ)!!」

 螺旋を帯びた暴風が全てを消し飛ばしていく。

「…………」
「英雄王ギルガメッシュと、彼の武器たる乖離剣エア。特にエアの威力はあの会場に影響をも及ぼすことはデータ上ほぼ間違いないだろう。しかもそのときのエアの使用者は別人だ。あの武器の本来の使用者、言い換えればあの武器を最も使い慣れているものが全力でその力を振るった時は一体どれほどの威力になるのかは予想もつかん。
 ならば、万が一の事態というのは当然想定せねばならん」

670始まりは終わりの始まり ◆EA1tgeYbP.:2008/11/21(金) 22:17:06 ID:0fh9QIOw0
 今度はルルーシュの言葉に反論するものはいなかった。

「そこでだ。チミルフ、グアーム、東方不敗の三人には会場内に行って天元突破覚醒者たるヴィラルとシャマルの両名。ならびに彼らが騎乗しているガンメン、グレンとラガンを回収してきてもらいたい。」
「……構わんが、いいのか?」
 東方不敗は問い掛ける。
 何せつい先ほどわざわざ自分達が死んだと見せかけるために一芝居うったばかりだ。それを台無しにしていいのかと。

「ああ、だから東方不敗、あなたに関してはあくまでもバックアップということで。チミルフ・グアームのみで対処しきれん事態。……そうだな、例えばヴィラル達が抵抗して回収が困難、あるいは回収前にギルガメッシュがやってきてその対処に手間取るなどといった事になるまでは表には出ないでいて欲しい。
 それから、チミルフに関しては問題ないだろう。なにせ『偉大なる螺旋王』様は死者を蘇らせる事さえ容易いことらしいからな。」
「なるほどな」
 ルルーシュの言葉に東方不敗は嗤う。
 

「もっとも、ヴィラル、シャマルの両名に関しては問題はないだろう。確実に理解しているかどうかまでは知らんが、一応ヴィラルは高嶺清麿の考察を聞いている。殺し合いの途中であれ、真の螺旋覚醒を果たしたものをわざわざ回収しにくるといった事態にも納得するだろう。
 そうだな、真なる螺旋覚醒を果たした戦士ヴィラル、褒美としてその伴侶シャマルと共にこの舞台より脱出する権利を与える、とでもチミルフより伝えてやればのこのこ従うことだろう。
 まあ、そうした細かい交渉はチミルフ、グアーム二人に任せる」
「ふむ、請け負おう」
「はっ、了解いたしました」
 グアームはあっさりと、チミルフは恭しくルルーシュの言葉に同意する。
「東方不敗もかまわんな?」
「無論」

 
「シトマンドラ、アディーネ、二人は引き続き会場内とアンチ=スパイラル、この二つの監視を続けてくれ。さすがに大きな動きはないとは思うが念のためだ。万が一、新たな動きがあればどんな小さなものでも構わん。大至急知らせてくれ」
「……異論はない」
「わかったよ」
 シトマンドラ、アディーネの両者もまたあっさりと首肯する。

671始まりは終わりの始まり ◆EA1tgeYbP.:2008/11/21(金) 22:17:31 ID:0fh9QIOw0
「今のところはこのぐらいだな。新しい動きがあれば、それに応じて指示は出す。では、頼んだ通り動いてくれ」
「……おい」
「なんだ?」
 ただ一人、指示を与えられなかったウルフウッドが不機嫌な声を出す。

「なんだ? じゃないわボケ。わいはどないしたらええんや?」
「今はまだやってもらうことはないな」
「……は?」
 
 ルルーシュの返答に一瞬呆けたような表情を見せるウルフウッドだったが、それは一瞬の内に怒りに取って代わられる。
 先のリハーサルの一件も相まってその怒りは強くなる。

「ふざけんのも大概にせえよ、このもやしっ子! だったらワイは何のために呼ばれたんじゃこのボケ!」
「今はまだ、そう言っただろう? 貴様の出番はこの後、正確に言うと会場内からヴィラルとシャマルを回収してからだ」
「……おどれはワイにないをしろっていうんや?」
 ウルフウッド、いやその場の全員が疑問の表情を浮かべる中ルルーシュは言葉を続ける。

「交渉においては圧力も立派な手札のひとつということだ」 
「……?」
 疑問を浮かべる一同に対し彼はさらに言葉をつむぐ。

「つまりだ、我々の目的はアンチ=スパイラルとの交渉。
 だが、向こうからしてみれば今のところ我々に協力するだけのメリットが少ないのも事実だ。今現在、我々の手札は天元突破覚醒者ヴィラルという一枚しかない。交渉が目的であるこちらからしてみれば、例え相手が攻撃に出てきたからといって天元突破覚醒者という札は簡単に切れる札ではないのだ。
 故にだ、切れる札が一枚しかないというのであれば札の枚数を増やせば良い」
「つまり……」
「そう、ウルフウッドにはもう少し後になってから試練として会場にいってもらう。天元突破者が二人、三人と出てくるとあっては、そしてこちらの主たる目的が交渉にあるということ……そのためならば覚醒者を排除するだけの意思もあるということを見せれば向こうもこちらと交渉しようとするだろう。むやみに争うだけのメリットはおたがいにないのだからな。
 そしてわざわざ天元突破覚醒の場を見せたのはそういうことだ。まあ、あそこまで馬鹿らしい覚醒を果たすものはもう現れはせんだろうが、アレに近い感情の高ぶりは覚醒のきっかけ、

672始まりは終わりの始まり ◆EA1tgeYbP.:2008/11/21(金) 22:18:08 ID:0fh9QIOw0
その一つになるかもしれないということだけは頭に入れておいてくれ」
 ルルーシュの言葉に今度こそ全員納得した表情を見せる。

「では、全員頼んだぞ」
 玉座の間から6つの影が去っていった。





 ――しばしの沈黙。
 自分を残して誰もいなくなった玉座の間の中でルルーシュは視線を落とした後、手元にあるものを見て小さく笑みを浮かべる。

 状況は大きく動いた。ろくな予想も立てることはできないが、この状態でアンチ=スパイラルとの交渉はやる他ないという覚悟は決まった。
 ――ならば、アンチ=スパイラルとの交渉をその主な目的としてきた彼ら7人の同志達、その目的の第一段階が果たされることがほぼ確定した今、ギアスの制御下にあるチミルフを除いた他5名の動向、とりわけグアームに関しては確実に把握しておく必要がある。

 確かに東方不敗やニコラス=D=ウルフウッドに関しても警戒をする必要はある。だが、仮に何かたくらんでいるとしてもこの両名がルルーシュが知り得ぬ事実を知っている可能性は低い。そして知りえる情報から動きを予想、知恵比べならばこの二人に負けることはない。
 だが、情報という見地から見て6人中唯一ルルーシュを上回っているのがグアームだ。
 ルルーシュのもつ情報のほとんどはグアームから与えられたものだ。もちろん、状況が状況だけに与えられた情報に嘘があるとまでは思わない、しかし与えられた情報が全てではない、隠されている情報があることもまた間違いない。

 そして今、ルルーシュの手元にはつい先ほど機械から引き出したデータ、とある資料がある。
 それはこの月そのものに偽装されている戦艦、カテドラル=テラのものだった。

 グアーム、そしてアディーネの二人は未だ隠しおおせているつもりなのかもしれないがこまめに全員の所在をチェックしていたルルーシュにとってアディーネが見せた動き、突然単独で無意味なエリアへと移動したことからカテドラル=テラのことを掴むのはそれほど難しいことではなかった。

(事を成す前から逃げ出す算段か……。ふっ、その用心深さは認めてやらんでもない……。
が、死を覚悟して事を成すという気概で挑まねばならないこともあるということを学んでおくべきだったなグアームよ)

673始まりは終わりの始まり ◆EA1tgeYbP.:2008/11/21(金) 22:18:56 ID:0fh9QIOw0
 心の内においてルルーシュはグアームを冷笑する。
 
(しょせんは獣か、成すべきことを成さずに逃げ出した後、一体貴様はどう生きるつもりなのだグアームよ)
 自分は違う、ナナリーが平和に笑って過ごせる世界を作るため、そして皇帝に復讐するためならばそのほか全てのものを犠牲にするだけの覚悟がある。 
 そう、ナナリーが笑って暮らせる世界を作るためならどんなものをも犠牲にするはずだった。

 彼の作る世界には欠かせないはずだった少年スザク、それを奪ったヴィラルは先ほど彼自身が言った通り一枚きりの手札であるが故に今はまだ手を出せない。
 しかし、他の天元突破覚醒を果たしたものが現れれば、その時はアンチ=スパイラルへの贄として彼自身の手でヴィラルを……。

 どの道、すでにヴィラルの運命は決まっている。
 アンチ=スパイラルとしてもスパイラル=ネメシスを引き起こしかねない存在となったヴィラルを生かしておくだけの理由はない。 

 つまり、後はそれ、ヴィラルの運命に幕を下ろすのを果たすのが自分か、アンチスパイラルかの違いでしかない。
 とはいえできるものならば彼自身の手で始末をつけたいのもまた事実だ。

(ウルフウッド……貴様には期待しているぞ) 
 闇の中、少年はただ嗤う。





「……ふっ」
「なんだい急に、気持ち悪いねえ」
 通路を共に歩くアディーネとグアーム。
 そのグアームが突然浮かべた笑いに言葉通りアディーネは心底気持ち悪そうな表情を浮かべた。

「いや何、少々思い出したことがあっての。まあ、おぬしが気にするようなことではない。それよりもアディーネ、アレのほうはどうなっている?」 
「……起動するだけなら今すぐにでも。ただ、あいつに気がつかれないように起動まで持っていくには正直もう少し時間が欲しいね」
 アディーネは答える。

674始まりは終わりの始まり ◆EA1tgeYbP.:2008/11/21(金) 22:20:22 ID:0fh9QIOw0
 アレ、すなわち戦艦カテドラル=テラ。
 実際のところその起動だけならばそれほど時間はかからない。だが、そのシステムの一部はこの会場の運営に利用されているのだ。
 具体的にはこのテッペリンから会場内への転移システム、図書館に隠してある螺旋界認識転移システム。

 これらのシステムの制御の大元はカテドラル=テラの制御システムに依存している。

 よってルルーシュに気がつかれないようにカテドラル=テラを起動しようと思えばそれら複数のプログラムから一気にシステムの制御を抜き取り、起動まで持っていく必要がある。

「なるほどな、では引き続き任せてよいか」
「ああ」
 それだけ聞くとグアームはアディーネと別れ格納庫、そこにおいてある彼専用ガンメンたるゲンバーの元へと向かう。

「……思惑通り、そうおぬしは思っておるのかもしれんの?」
 アディーネと別れ一人になったグアームはにいと、その口を大きく歪ませる。その口から出てくるのはルルーシュへの嘲りの言葉だ。

「じゃがのう……、アンチ=スパイラル。アレはそんなに生易しいものではないぞ? おぬしの頭では及びもつかぬ相手というものも世の中には存在するのじゃ。
 確かに天元突破者を作り出すというおぬしの考えは一応今のところ成功しておる。じゃが、あれを相手に圧力をかけるなど言うのは少々身の程を知らなさ過ぎじゃ」

 今となってはただ一人、アンチ=スパイラルのことを知るが故にグアームはロージェノムが逃げ出した気持ちも理解できないわけではない。彼がロージェノムに怒りを覚えるのはその逃げ出したということ、それ自体ではなく、彼を置いて自分ひとりで逃げ出したこと、そこに尽きる。

「ルルーシュよ、お主はお主でせいぜいあがくが良い。ワシは一足先に逃げ出させてもらうかがの」

 ヴィラルが覚醒したことはグアームにとってはある意味幸運であり、ある意味不幸なことではあった。
 
 幸運な点はヴィラルへの復讐をルルーシュが諦めていないこと。本人は気が付いていないかもしれないが第二、第三の天元突破者を作ろうという考えは当初ルルーシュから聞かされた考えからすれば余分だ。ヴィラルへの復讐心がある限り、彼の目は曇りつづける。

675始まりは終わりの始まり ◆EA1tgeYbP.:2008/11/21(金) 22:21:17 ID:0fh9QIOw0

 不幸な点はヴィラルをグアームが利用できるだけの余地がゼロになったという点だ。

「まったく……新たに二人も都合つけなければならんとはやっかいじゃのう」

 人数の都合。それこそがグアームがルルーシュに隠している最大の秘密だ。
 戦艦カテドラル=テラ、最悪、その存在まではルルーシュにばれても構わない。その真の機能を悟られることさえなければルル―シュは単にグアームたちが逃走の準備をしているだけと考えるに違いない。
 
 だが、その真の機能までは決して彼には知られてはならない。
 もし、ルルーシュにカテドラル=テラの真の機能がばれてしまうようなことこの状況の全てがひっくり返りかねない。

 それはすなわち、カテドラル=テラに搭載されている螺旋界認識転移システム。
 その最初の目的は螺旋の戦士達が別次元に潜むアンチ=スパイラルを討つ、その為に搭載されたものだったのだ。

 ――これはつまり。
 十分な螺旋力さえあれば、カテドラル=テラによって別次元に移動できるということだ。

 とはいえ、生半可な螺旋力では別次元に移動することは不可能だ。
 目安として最低でも図書館の封印を破るほどの量、平均的な螺旋戦士4人分の螺旋力が必要となる。
 ……逆にいうならそれだけの数の螺旋覚醒者さえいれば、元の世界に帰還することも、ロージェノムの後を追いかけることも不可能ではない。

(ワシは一言も嘘をついておらんぞ?)
 グアームは笑う。
 確かにルルーシュに協力を要請した際、彼に語ったロージェノムが次元移動に必要な道具を持って行ったために彼を追いかけることは不可能という話は嘘ではない。
 何せ獣人には螺旋力がないのだから。
螺旋界認識転移システムが残されていようともそれは彼らにとってはロージェノムを追う役には立たない。ロージェノムが奪っていったのはガンメンに搭載されているものと同じく、獣人でも扱える電力で作動する転移装置の類だった。
 
 そしてもう一つ、ルルーシュによってアンチスパイラルの動向が明らかになるまでうかつに動くこともできなかった。

676始まりは終わりの始まり ◆EA1tgeYbP.:2008/11/21(金) 22:22:13 ID:0fh9QIOw0
 ロージェノムの逃亡が発覚した直後、グアームがてきとうな螺旋覚醒者を会場内から回収せずにルルーシュ達少数をアドバイザーにするという方法をとったのもこちらが下手に動けばアンチ=スパイラルに襲撃される恐れがあったためだ。

(せいぜいおぬしはアンチ=スパイラルを相手に好き勝手やるが良い) 
 だが今や、それらの問題は解決された。
 今のルルーシュにとっての関心事はアンチ=スパイラルとヴィラルに向いている。
 そしてアンチ=スパイラルも単なる螺旋覚醒者程度を引き連れて逃亡するグアームにはそれほどの注意を払いはすまい。
 どれほど上手く行くかまではわからないが天元突破覚醒者が出てくるであろう会場内にその注意は向けられるはずだ。
 すなわち、これ以上ないほどに上出来な脱出と復讐のチャンスが回ってきた。

(……あまりやりすぎてくれるなよ?)
 ウルフウッドへ胸中でそっと呟く。
 彼が襲撃するのは後々彼の手ごまとなりうるもの達だ。適当に死にかけたところでルルーシュにばれないように回収して螺旋力を搾り出すエンジンとなってもらわねば困る。
 それともあるいは……
 天元突破覚醒者の可能性があるものとしてルルーシュが纏め上げた残る参加者のデータ。
 その中の螺旋遺伝子の覚醒を果たした何人かをグアームは思い出す。

 カミナやガッシュ・ベルといったものたちは強い螺旋力とは裏腹に甘く、愚かだ。
 小早川ゆたかや菫川ねねねといったもの達はその螺旋力と裏腹にその戦闘能力は脆弱だ。
 
 こういった参加者を利用することもあるかもしれない。

 思惑を胸に獣は進む。
 己のために他の全てを犠牲にして。





(……そういうことか)
 目の前を歩いていくグアームを前に東方不敗は心の中で納得する。
 
 ……人であれ、獣であれ、その瞳に映っていようともまるで気配を発しないものは意識の中に入ってこない。俗に隠行と呼ばれる技術によって東方不敗はグアームの傍らに潜む。

677始まりは終わりの始まり ◆EA1tgeYbP.:2008/11/21(金) 22:22:55 ID:0fh9QIOw0
 先に会談の最中から感じ取っていたグアームの余裕。
 それが気になった東方不敗はこっそりとグアームの後を追尾しその余裕の正体に思い当たる。

(おそらくは宇宙船か、何か……。アンチ=スパイラルの襲撃をも想定済みだとするならば宇宙船艦とでも言ったところか)
 そのようなものがあると知れたのは二重に僥倖だ。

 一つは、東方不敗自らがアンチ=スパイラルの元に行くことができる手段の確保。
 そしてもう一つ。

(ふむ……こやつが戦艦の起動をも視野に入れておるならば、ワシもある程度動く準備をしておかなくてはならんな)
 このままルルーシュの指示に従ったままアンチ=スパイラルとの交渉を待つ、などという甘い考えでは気がついたときには彼らの攻撃目標へと成り果てていることは十分考えられる。

(どうせお主もそうなのであろう?)
 目の前をある獣人に東方不敗は届かぬ言葉を投げつける。
 目の前の獣人がアディーネ以外他の誰にも宇宙船艦のことを語ってはいない以上、いざという時、自分達だけが逃げ出すつもり、自分のために他者を利用し使い捨てるつもりでいることは明白だ。
 ならば何を遠慮することがあろうか。
 他者を利用しようとするものは己もまた利用されるものであると知るが良い。

 交鈔に使える天元突破者とアンチ=スパイラルの下へ移動するだけの手段。
 その両方が今や東方不敗の間近に転がっている。

(あと少し、もう少しだ)
 目指すものはもう少し。
 東方不敗はグアームから距離をとる。

(おぬしは破滅の道をいけ。ワシはワシの道を行く)
 最後にそう呟くと東方不敗もまた自らの道を歩みだす。
 その先にある未来を見据えて。

678始まりは終わりの始まり ◆EA1tgeYbP.:2008/11/21(金) 22:23:27 ID:0fh9QIOw0



(……なあ、トンガリ。おどれは一体どう思っとるんや)
 心の中で、ウルフウッドはヴァッシュへと問い掛ける。

 先の天元突破の場においての構図、対主催陣とヴィラル・シャマル達との戦いはウルフウッドにとっては特別な意味合いがあった。

 片や元獣人と元戦闘プログラム。
 片や異能を持ちこそすれどただの人間。

 そして

「愛こそ至高。愛こそ……天下だぁあああああああ!!」
 愛を叫ぶモノ達と

「バオウ・ザケルガァアアアアアアアアアア!!」
 容易く相手、いや全てを破壊し尽くすだけの力を持ちながらも、他者の命は奪わずに戦闘能力を奪い去るだけに留めた甘い者達。

 それら全ての要素がウルフウッドの中で一人の男のイメージと結びつく。

「ラーヴ アーンド ピース!!」
 争いに満ちたあの星でそんなふざけた言葉を叫びながら数多の争いを何とかして止めようと首を突っ込みつづけた男。
 話をするために、その手に敢えて銃を取りながらも、決して誰一人としてその手で命を奪うことなどなかった男。

 ヴァッシュ・ザ・スタンピート。

 ヒトではない「プラント」の人型の突然変異種という存在でありながら、誰よりも人間らしくあろうとし的その通りに生きてきた男。
 
 結局人間らしくあろうとした彼はこの殺し合いの舞台のさなかにその命を失った。

 そして、彼の代わりにこの殺し合いの場において愛を叫び、そのために平気で他者を傷つける人でなき者達がこの舞台における切り札、その輝きを手に入れた。

「なあ、トンガリ。おどれの代わりにワイが確かめたるわ。おどれが本当に正しかったのか。おどれが本当はどんな生き方をするべきだったのかをな」

679始まりは終わりの始まり ◆EA1tgeYbP.:2008/11/21(金) 22:24:33 ID:0fh9QIOw0
 ヴィラルとシャマルの回収に成功した後、会場内に残されるのは基本的には平和を貫く人間達のみだと考えて良い。
 他者を傷つけることがあっても命を奪うことを避けようとする彼らの生き方は、ある意味ヴァッシュ・ザ・スタンピーとのそれと変わらない。

 もし仮に残された者たちがウルフウッドに敗北、あるいは勝利したとしても天元突破の輝きを持ち得ないということになれば、それはヴァッシュの生き方が誤りだったことの証明。
 あの男がもっと傲慢に自分のために力を振るってさえいれば、より早くこの殺し合いを止めることも可能だったということ、結果的により多くの命を救うことができたということだ。

(そん時はあの世のあいつを思いっきり嘲笑ったる。おまえの人生はこんな下らんやり直しをさせられたワイなんかよりももっと下らんものやったんや)

 そして、万が一にも残された者たちが新たな輝きを手に入れるというのであれば、それはウルフウッドの敗北だ。

(そうやな、そん時はおどれに思いっきり謝った後。おどれみたくラーブアンードピースとか叫びながら争いを止めるために戦ってやってもええわ。誰一人として殺さんとな)

 ――そうして、男は再び会場へと向かう準備を整える。

 男が背負うは罪の証たる十字架。
  
 最強の個人用兵装バニッシャーを背負って男は進む。

 その先に待つのは新たな血の道かあるいは――。

680始まりは終わりの始まり ◆EA1tgeYbP.:2008/11/21(金) 22:35:54 ID:0fh9QIOw0
【王都テッペリン/二日目/日中(実験場内時間)】

【チーム:七人の同志】
(ルルーシュ、チミルフ、アディーネ、シトマンドラ、グアーム、ウルフウッド、東方不敗)


[共通方針]:各々の悲願を成就させるため、アンチ=スパイラル降臨の儀式を完遂する。内容は以下の通り。
1:真なる螺旋力覚醒者(天元突破)をアンチ=スパイラルを誘き出す餌とする。
2:ルルーシュの指揮の下、頃合を見計らって『試練』となる戦力を投入。参加者たちに意図的に逆境を与え、強引にでも螺旋力の覚醒を

促す。
3:投入する戦力は現在のところチミルフ、ウルフウッド、東方不敗の三名を予定。生存者たちの状況により随時対応。
4:試練を与える前に真なる螺旋力者が現れた場合、また別途にアンチ=スパイラルとの接触の機会が訪れた場合には、逐一対応。
5:同志七人の立場は皆対等であり、ルルーシュとチミルフを除いて支配従属の関係にはならない。
6:アンチ=スパイラルとの接触に成功した後は、ルルーシュが交渉を試み、その結果によって各自行動。
[備考]
※その他、詳細な計画の内容は「天のさだめを誰が知るⅢ」参照。
※ルルーシュの推測を含めた実験の全容については、「天のさだめを誰が知るⅡ」「天のさだめを誰が知るⅣ」参照。
※多元宇宙を渡る術は全て螺旋王が持ち去りましたが、資料や実験を進める上で必要不可欠な設備、各世界から強奪した道具などは残って
います。
※ルルーシュら実験に参加していた四名は、テッペリンの設備で体力と怪我を回復しました。

681始まりは終わりの始まり ◆EA1tgeYbP.:2008/11/21(金) 22:36:27 ID:0fh9QIOw0
【ルルーシュ・ランペルージ@コードギアス 反逆のルルーシュ】
[状態]:首輪解除、健康
[装備]:ベレッタM92(残弾11/15)@カウボーイビバップ、ゼロのコスチューム一式@コードギアス 反逆のルルーシュ
[道具]:支給品一式(-メモ)、メロン×10個 、ノートパソコン(バッテリー残り三時間)@現実、消防服 、
    アンチ・シズマ管@ジャイアントロボ THE ANIMATION、予備マガジン(9mmパラベラム弾)x1、
    毒入りカプセル×1@金田一少年の事件簿、支給品一式(一食分消費)、ボン太君のぬいぐるみ@らき☆すた、
    ジャン・ハボックの煙草(残り15本)@鋼の錬金術師
    『フルメタル・パニック!』全巻セット@らき☆すた(『戦うボーイ・ミーツ・ガール』はフォルゴレのサイン付き)
    『イリヤスフィール・フォン・アインツベルンに捧ぐ』@アニロワ2nd オリジナル
    参加者詳細名簿(ルルのページ欠損)、詳細名簿+(読子、アニタ、ルルのページ欠損)
    支給品リスト(ゼロの仮面とマント欠損)、考察メモ、警戒者リスト、ダイヤグラムのコピー、携帯電話@アニロワ2ndオリジナル
    ゼロの仮面@コードギアス反逆のルルーシュ、ゼロのマント@コードギアス 反逆のルルーシュ
[思考]
基本:何を代償にしてでもナナリーの下に帰る。七人の同志の一人として行動。
1:ヴィラルの回収を待ってアンチ=スパイラルとの交渉を開始する。
2:それまで、手持ちの情報を再度洗い直す。
3:他の同志たちの行動にも目を配る。特にウルフウッド、東方不敗、グアームを要注意。
4:アンチ=スパイラルのより詳細な情報が欲しい。
5:謎のハッキングについて警戒する。
[備考]
※螺旋王の残した資料から、多元宇宙や実験の全容(一部推測によるものを含む)を理解しました。
※謎のハッキングについては外伝「かつてあったエクソダス」参照。
※カテドラル=テラの存在を知りました

682始まりは終わりの始まり ◆EA1tgeYbP.:2008/11/21(金) 22:36:58 ID:0fh9QIOw0
【怒涛のチミルフ@天元突破グレンラガン】
[状態]:敗北感の克服による強い使命感、ギアス(忠誠を誓う相手の書き換え)
[装備]:愛用の巨大ハンマー@天元突破グレンラガン
[道具]:デイパック、支給品一式、ファウードの回復液(500ml×1)@金色のガッシュベル!!
    ビャコウ(右脚部小破、コクピットハッチ全損、稼動には支障なし@天元突破グレンラガン)
[思考]
基本A:獣人以外を最終的には皆殺しにする上で、ニンゲンの持つ強さの本質を理解する。
  B:王であるルルーシュの命に従い、ルルーシュの願いを叶える。
0:ルルーシュの臣下として務めを果たす。七人の同志の一人として行動。
1:ルルーシュの命に従い会場内からヴィラル、シャマル、グレンラガンを回収。
2:螺旋王の第一王女、ニアに対する強い興味。
3:強者との戦いの渇望(東方不敗、ギルガメッシュ(未確認)は特に優先したい)。
[備考]
※ヴィラルには違う世界の存在について話していません。同じ世界のチミルフのフリをしています。
※シャマルがヴィラルを手玉に取っていないか疑っています。
※チミルフがヴィラルと同じように螺旋王から改造(人間に近い状態や、識字能力)を受けているのかはわかりません。
※ダイグレンを螺旋王の手によって改修されたダイガンザンだと思っています。
※螺旋王から、会場にある施設の幾つかについて知識を得ているようです。
※『怒涛』の二つ名とニンゲンを侮る慢心を捨て、NEWチミルフ気分です。
※自分なりの解釈で、ニンゲンの持つ螺旋の力への関心を抱きました。ニンゲンへの積極的交戦より接触、力の本質を見定めたがっていま

す。(ただし手段は問わない)
※『忠誠を誓うべき相手は螺旋王ではなく、ルルーシュである』という認識の書き換えをギアスで受けました。
 螺旋王に対して抱いていた忠誠が全てルルーシュに向きます。武人たる彼は自害しろとルルーシュにいわれればするでしょう。獣人とし

ての誇りは持っていますが、螺旋王に対する忠誠心は失っています。
※夜なのに行動が出来ることについては余り考えていなません(夜行性の獣人もいるため)。

683始まりは終わりの始まり ◆EA1tgeYbP.:2008/11/21(金) 22:37:55 ID:0fh9QIOw0
【流麗のアディーネ@天元突破グレンラガン】
[状態]:健康、螺旋王に対する強い憎悪、ルルーシュに対する不信
[装備]:不明
[道具]:不明
[思考]
基本:七人の同志の一人として行動。
1:カテドラル・テラを調査する
2:ルルーシュのギアスに対して警戒する

【神速のシトマンドラ@天元突破グレンラガン】
[状態]:健康、螺旋王に対する強い憎悪
[装備]:不明
[道具]:不明
[思考]
基本:七人の同志の一人として行動。
1:任務に戻る。
2:ウルフウッドや東方不敗が情報を欲したとしても、ルルーシュのギアスに関しては悟られないよう根回しする。
3:螺旋王とルルーシュ、どちらが自分の"王"に相応しいか考える。

【不動のグアーム@天元突破グレンラガン】
[状態]:健康、螺旋王に対する強い憎悪、ルルーシュに対する不信
[装備]:不明
[道具]:不明
[思考]
基本:七人の同志の一人として行動。
1:自身の生存を最優先とする
2:ルルーシュの行動を手伝うと見せかけ、コントロールする。
3:カテドラル=テラのエンジンとなりうる螺旋覚醒者を見繕う。
【ニコラス・D・ウルフウッド@トライガン】
[状態]:首輪解除、軽いイライラ、聖杯の泥、自罰的傾向、螺旋力覚醒
[装備]:アゾット剣@Fate/stay night、デザートイーグル(残弾:8/8発)@現実(予備マガジン×1)、
    パニッシャー(重機関銃残弾100%/ロケットランチャー100%)@トライガン
[道具]:支給品一式、ヴァッシュ・ザ・スタンピードの手配書@トライガン、予備弾セット@アニロワ2ndオリジナル
[思考]
 基本思考:自分を甦らせたことを“無し”にしようとする神に復讐する(①絶対に死なない②外道の道をあえて進む)。
      人間を“試し”、ヴァッシュへの感情を整理する。七人の同志の一人として行動。
1:もうすこしぶらぶらする。
2:試練役を買って出る意志はある。が、もやしっ子の言いなりになるんは癪や。
3:売られた喧嘩は買うが自分の生存を最優先。チミルフ含め、他者は適当に利用して適当に裏切る。
4:神への復讐の一環として、殺人も続行。女子供にも容赦はしない。迷いもない。  
5:自分の手でゲームを終わらせたいが、無謀なことはしない。
6:ヴァッシュに対して深い■■■。
7:ヴァッシュの意思を継ぐ者や、シモンなど自分が殺した人間の関係者に倒されるなら本望(本人は気付いていません)。
8:チミルフに軽く失望。
9:生きる。

684始まりは終わりの始まり ◆EA1tgeYbP.:2008/11/21(金) 22:39:35 ID:0fh9QIOw0
[備考]
※迷いは完全に断ち切りました。
※ヴッシュ・ザ・スタンピードへの思いは――――。
※シータを槍(ストラーダ)、鎌鼬(ルフトメッサー)、高速移動、ロボットの使い手と認識しました。
※言峰の言葉により感情の波が一定していません。躁鬱的な傾向が見られます。
※シータのロボットは飛行、レーザー機能持ちであることを確認。
※螺旋界認識転移システムの場所と効果を理解しました。
※五回目の放送を聞き逃しました。
※チミルフから螺旋王の目的やアンチスパイラルに関する情報を聞きました。
※螺旋力覚醒

【東方不敗@機動武闘伝Gガンダム】
[状態]:首輪解除、螺旋力覚醒、疲労(小)、火傷
[装備]:天の鎖(エルキドゥ)@Fate/stay night、ボロボロのマント、マスタークロス@機動武闘伝Gガンダム
[道具]:ロージェノムのコアドリル×1@天元突破グレンラガン、ファウードの回復液(500ml×1)@金色のガッシュベル!!
    風雲再起(首輪解除)@機動武闘伝Gガンダム、ゼロの衣装(仮面とマントなし)@コードギアス 反逆のルルーシュ
[思考]:
基本方針:現世へ帰り地球人類抹殺を果たす。アンチ=スパイラルと接触、力を貸す。七人の同志の一人として行動。
0:アンチ=スパイラルの力を得たい。
1:マスターガンダムの調子を見るついでに、傷を癒す。
2:アンチ=スパイラルとの接触を図るため、ルルーシュに賛同。が、完全には信用しない。
3:アンチ=スパイラルを初め、多元宇宙や他の参加者、実験の全容などの情報を入手したい。
4:ルルーシュがチミルフを手懐けられた理由について考える。
5:ドモンと正真正銘の真剣勝負がしたい。
6:しかし、ここに居るドモンが本当に自分の知るドモンか疑問。
7:ジン、ギルガメッシュ、カミナ、ガッシュを特に危険視。
8:カミナに……
[備考]
※クロスミラージュの多元宇宙説を知りました。ドモンが別世界の住人である可能性を懸念しています。
※ニアが螺旋王に通じていると思っています。
※クロスミラージュがトランシーバーのようなもので、遠隔地から声を飛ばしているものと思っています。
※螺旋遺伝子とは、『なんらかの要因』で覚醒する力だと思っています。
『なんらかの要因』は火事場の馬鹿力であると推測しました。
 Dボゥイのパワーアップを螺旋遺伝子によるものだと結論付けました。
※自分自身が螺旋力に覚醒したこと、及び、魔力の代用としての螺旋力の運用に気付きました。
※カミナを非常に気に入ったようです。
※チミルフから螺旋王の目的やアンチスパイラルについての情報を入手しました。
※計画に参加する上で、多元宇宙や実験に関する最低限の情報を入手しました。
※治療のせいで病状が加速していることが判明しました
※カテドラル=テラの存在を察知しました。(細かい機能などに関しては未だ理解していません)

685始まりは終わりの始まり ◆EA1tgeYbP.:2008/11/21(金) 22:40:11 ID:0fh9QIOw0


 彼、彼ら、それ、それら。
 その存在を指し示すのにこれらの呼び方は全てが正しく、全てが間違っている。
 
 アンチ=スパイラル、螺旋族からはそう呼ばれる存在。元は螺旋の民でありながらも螺旋の力の進化の果てにある破滅を知って自らの進化、肉体をさえをも封印し、他の螺旋族を統制しつづける道を選んだ存在。

 彼はアンチ=スパイラルというただ一つの思念体であり、それらはアンチ=スパイラルという名の螺旋の民を管理するためのプログラムの塊だ。

 彼らは進化の先にある破滅、スパイラル=ネメシスからこの宇宙を守るという総意であり、それはそのための単一的なプログラムだ。

 そうして今、便宜上彼と呼ぶその存在はとある箱庭の様子を注視する。
 
 螺旋族の元戦士、ロージェノムによって数多くのの世界から螺旋遺伝子を持つ者どもを集めて、行われた殺し合い。
 無数の多元世界の中においてただ一つアンチ=スパイラルを打ち破った存在、天元突破覚醒者を自ら作りださんとしたその試みはロージェノムの逃走によって、その幕を下ろした。……はずだった。

「……愚かなる螺旋の者達よ、何を持って螺旋の進化を促す?」
 事実、アンチ=スパイラルとしてはロージェノムが逃亡した時点でかの箱庭に残された螺旋の者に対しての興味はほとんど失っていたのだ。
 力も数も足りぬ螺旋族なぞ、わざわざ滅ぼしに行くまでもない。

686始まりは終わりの始まり ◆EA1tgeYbP.:2008/11/21(金) 22:40:41 ID:0fh9QIOw0
 逃げ出したロージェノムに対しても同様だ。
 無駄な試みで螺旋遺伝子を持つ者を無駄に使い潰すだけの存在など放置しておいてもかまわない。

 だが、ロージェノムの逃亡したあと、わずかな時を経て殺し合いという名の実験は再開された。

 ――そして。

「……まさかあのような試みで真なる螺旋覚醒が引き起こせるとはな」
 驚きとわずかの哀れみを込めてアンチ=スパイラルは呟く。

「ほとほと理解に困る存在だよ、螺旋族というものはな」
 放置しておいて構わなかったはずの実験は真の覚醒を果たしうることが判明した時点で一気にその危険度は跳ね上がった。
 だが箱庭にいる者達、その数の少なさゆえにあの世界に埋め込んである殲滅プログラムは作動しない。
 つまり、あの螺旋覚醒者はアンチ=スパイラル自らが滅ぼさなければならないということだ。 
 無論、その様子は箱庭に残されし螺旋族どもに見せつける。
 それによって絶望を引き起こし箱庭の中の螺旋の力をそぐためだ。

 そして、逃げ出したロージェノム。
 彼自身は未だ気がついてはいないだろうが、螺旋覚醒を果たすだけの舞台を作り出すことが可能な彼を放置しておくこともできなくなった。
 それはあの実験を続けるもの達も同様だ。
 いかなる意図があってロージェノムの実験の後を引き継いだのかまでは理解できないが、それでも螺旋覚醒を引き起こすすべを知る者を生かしておくのは危険すぎる。
 いや、ロージェノムの逃亡後螺旋覚醒が果たされたことを鑑みれば、その危険度は未だに無知なるロージェノムより高いとさえ言えよう。

 ――そして最後に後一つだけ確かめることがある。
 
「はたしてあの螺旋覚醒者は箱庭から抜け出せるのかな?」
 真なる螺旋覚醒を果たした箱庭の螺旋族。
 だが、その覚醒にはあの特別な箱庭の空間、螺旋遺伝子の覚醒を促す特殊なフィールドもその要因となっている。

 わかりやすく言ってしまえば、子供が自転車に乗るときに補助輪を付けて乗っているのと同じ事だ。

687始まりは終わりの始まり ◆EA1tgeYbP.:2008/11/21(金) 22:41:23 ID:0fh9QIOw0
 だが、真なる螺旋覚醒を果たし、そのまま箱庭の外に出るということはその補助輪を外すということに他ならない。
 ただの螺旋遺伝子の覚醒というだけならばめざめた螺旋遺伝子のバランスはそれほど崩れることはないだろう。
 だが、真なる螺旋覚醒ともなれば話は別だ。
 その圧倒的なパワーを御し損ねればそれはスパイラル=ネメシスには及ばぬとはいえ大きな破壊を引き起こす。その破壊に螺旋覚醒者のからだ自体も耐えられまい。
 アンチ=スパイラルの見立てではその可能性はおよそ5割。

「……さて、どうなるかな?」 
 ロージェノムによって行われた今回の実験。
 その真なる観察者としてアンチ=スパイラルはその結果が導き出されるのを待ちつづける。

688始まりは終わりの始まり ◆EA1tgeYbP.:2008/11/21(金) 22:47:47 ID:0fh9QIOw0
 【アンチ=スパイラル@天元突破グレンラガン】
[状態]:???
[装備]:???
[道具]:???
[思考]スパイラル=ネメシスをくい止める。
0:真の螺旋覚醒者が箱庭から無事に出てこれるかどうか見極める。
1:出てこれるようなら実験を続けた者達ごと攻撃を加える。その際そのシーンを箱庭に残る者たちに見せつけることによって彼らの絶望を誘う。
2:事が終わったらロージェノムを補足する。
3:一応、箱庭に残る者達の監視は続ける。

689改定 ◆EA1tgeYbP.:2008/11/23(日) 22:28:59 ID:D23wfd.g0
 ――そして。

「……まさかあのような試みで真なる螺旋覚醒が引き起こせるとはな」
 驚きとわずかの哀れみを込めてアンチ=スパイラルは呟く。

「ほとほと理解に困る存在だよ、螺旋族というものはな」
 放置しておいて構わなかったはずの実験は真の覚醒を果たしうることが判明した時点で一気にその危険度は跳ね上がった。
 だが箱庭にいる者達、その数の少なさゆえにあの世界に埋め込んである殲滅プログラムは作動しない。
 つまり、あの螺旋覚醒者はアンチ=スパイラル自らが滅ぼさなければならないということだ。 
 無論、その様子は箱庭に残されし螺旋族どもに見せつける。
 それによって絶望を引き起こし箱庭の中の螺旋の力をそぐためだ。

 そして、逃げ出したロージェノム。
 彼自身は未だ気がついてはいないだろうが、螺旋覚醒を果たすだけの舞台を作り出すことが可能な彼を放置しておくこともできなくなった。
 それはあの実験を続けるもの達も同様だ。
 いかなる意図があってロージェノムの実験の後を引き継いだのかまでは理解できないが、それでも螺旋覚醒を引き起こすすべを知る者を生かしておくのは危険すぎる。
 いや、ロージェノムの逃亡後螺旋覚醒が果たされたことを鑑みれば、その危険度は未だに無知なるロージェノムより高いとさえ言えよう。

 ――だが、動くにはまだ早い。最後に後一つだけ確かめることがある。
 
「はたしてあの螺旋覚醒者は箱庭から抜け出せるのかな?」
 真なる螺旋覚醒を果たした箱庭の螺旋族。
 だが、その覚醒にはあの特別な箱庭の空間、螺旋遺伝子の覚醒を促す特殊なフィールドもその要因となっている。

 わかりやすく言ってしまえば、子供が自転車に乗るときに補助輪を付けて乗っているのと同じ事だ。
 だが、真なる螺旋覚醒を果たし、そのまま箱庭の外に出るということはその補助輪を外すということに他ならない。

690改定 ◆EA1tgeYbP.:2008/11/23(日) 22:30:27 ID:D23wfd.g0
 ただの螺旋遺伝子の覚醒というだけならば目覚めた螺旋遺伝子のバランスはそれほど崩れることはないだろう。
 だが、真なる螺旋覚醒ともなれば話は別だ。
 その圧倒的なパワー、普通の螺旋覚醒とは比較にならないそれを御し損ねればそれはスパイラル=ネメシスには及ばぬとはいえ大きな破壊を引き起こす。その破壊に螺旋覚醒者のからだ自体も耐えられまい。

 アンチ=スパイラルの見立てではその可能性はおよそ5割。

「……さて、どうなるかな?」 
 ロージェノムによって行われた今回の実験。
 その真なる観察者としてアンチ=スパイラルはその結果が導き出されるのを待ちつづける。
 
【アンチ=スパイラル@天元突破グレンラガン】
[状態]:???
[装備]:???
[道具]:???
[目的]スパイラル=ネメシスをくい止める。
0:真の螺旋覚醒者が箱庭から無事に出てこれるかどうか見極める。
1:出てこれるようなら実験を続けた者達ごと攻撃を加える。その際そのシーンを箱庭に残る者たちに見せつけることによって彼らの絶望を誘う。
2:事が終わったらロージェノムを補足する。
3:一応、箱庭に残る者達の監視は続ける。

692ネコミミの名無しさん:2009/02/21(土) 10:55:03 ID:DuiLlEbE0
test

693ソング・フォー・スウィミング・バード ◆10fcvoEbko:2009/03/05(木) 01:11:41 ID:fRJ0ldBs0
ラフィング・ブルが言った。

「泳ぐ鳥よ、お前の体が何でできているか知っているか?」

俺は言った。

「知らねえよ。きっとどこにでも転がってる鳥のフンだろうさ」

ブルが言った。

「泳ぐ鳥よ、お前の魂は何でできているか知っているか?」

俺は言った。

「知らねえよ。きっとどこにでも転がっている綿ぼこりだろうさ」

ブルは言った。

「その答は間違っていて合っている。お前の体は宇宙の全てと繋がっていながら、お前にしかなり得ない。お前の魂は宇宙の全てを含んでいながら、お前でしか有り得ない。それはこの私も、そして誰しも」

「誰かが憎ければ、お前は自分を憎んでいる。誰かを愛していれば、お前は自分を愛している」

俺は言った。

「――――――――――――」

694ソング・フォー・スウィミング・バード ◆10fcvoEbko:2009/03/05(木) 01:12:22 ID:fRJ0ldBs0



フェイ・バレンタインがヒバップ号の傷んだソファーにだらしなく身を預け無為な時間を過ごしていたとき、その男はいつかと同じようにふらりと戻ってきた。

「なんだ。お前まだいたのか」

長いこと放置されている捨て猫を見たときのような中途半端な興味の声だ。
ずっと忘れていて、見た瞬間になってようやくそう言えばそんなものもあったと思い出すような、程度の低い存在。
目を離せば、すぐにまた忘れられる。

「あら……幽霊かと思った」
「酒を隠したのを忘れたまんまじゃ死んでも死にきれなくてな」

スパイクが掲げてみせたのは確かに赤銅色に鈍く光る酒瓶だった。秘蔵にする程の上物とも思えなかったが、この男がそれを求めるためだけに戻ってきたのは本当らしい。
実際そんな用事でもなければこの場所を訪れることもないだろう。
廃棄寸前で打ち捨てられたのビバップ号は廃屋同然で、修理しようとする者もいない。
空調用のプロペラだけがからからと意味もなく回っている。幽霊と言ったが、それをただぼうっと見ていただけのフェイの方が余程幽霊らしかった。

「手、治ったんだ」

酒瓶はスパイクの右手にぶら下げられていた。

「てっきり義手にでもするのかと思った。ジェットみたく」
「あんな骨董品抱える方が珍しいんだよ、いまどき」

695ソング・フォー・スウィミング・バード ◆10fcvoEbko:2009/03/05(木) 01:12:48 ID:fRJ0ldBs0
ひらひらと振られた手は再生手術に拠るものとは思えないくらい違和感なく馴染んでいるように見えた。
そう言えば前に会ったときにも義手にはしないと言っていたように思う。
何がどうなってそんな大怪我を負うに至ったのか、フェイは詳しいことを聞かされていない。
ただ、同じ事件に捲き込まれたジェットとエドは命を落としたとだけ聞かされた。それを初めて聞かされたときには面食らったものだが、流石に70日近く経ってもまだ引きずるような仲だったかと聞かれれば否定せざるを得ない。
それきりアインの姿が見えなくなったのが気がかりと言えば気がかりだった。
ともかくちょっとした集団失踪の後、帰ってきたのはやはり一番死にそうにない男一人だけだったという訳だ。

「腹でも減ったか?前は犬みてぇにきゃんきゃん突っ掛かってきたくせに」

それを適当にあしらって姿を消したのはどこの誰だ。何かあればすぐに食べ物に結び付ける。男って本当に馬鹿。
女はそうじゃない。更に大人の女ともなれば、人には言えないことも色々あるのだ。
いちいち、教えてなんてやらないけど。

「あたし、記憶戻ったの」

なのに、唇は勝手に言葉を紡いでいた。視線はいつの間にか反対側のソファーに座っていたスパイクのところにまで落ちている。

「でも、良いことなんて何にもなかった。帰る場所なんて、どこにもなかった。
ここしか帰る場所がなかった」

故郷はなく。家もなく。一方的な知り合いは居てもただ胸が詰まった。
唯一戻ることのできたこの場所も、もうすぐなくなろうとしている。
何も、なかった。

「こんな話を知ってるか」

だからと言って、何故スパイクなんかに話してしまったのだろう。
言葉が勝手に漏れた理由はよく分からなかった。
スパイクとフェイ。二人の何が変わったという訳でもない。

696ソング・フォー・スウィミング・バード ◆10fcvoEbko:2009/03/05(木) 01:13:25 ID:fRJ0ldBs0
「あるトラ猫がいた。
その猫は世界中をあっちこっち転々としながら百万年生きた。
猫には寿命がなかった。そして何より、その猫は喧嘩が嫌いだった。
あちこちの騒ぎに首を突っ込んでは怒られ、怒られると猫は謝り倒して逃げた。
やがて月日が経ち、ほうぼうに迷惑ばかりかけた猫は事故に遭ってあっけなく死んだ。
最期の瞬間まで猫が考えていたことは、皆が幸せになれば良い、ただそれだけだった」
「……なにそれ」

幼稚というレベルなく、話として成り立ってさえいない。
感想など持てよう筈もない。そんな馬鹿猫の話に、一体何を思えと言うのだ。

「俺はこの話が嫌いだ」

少しだけ、妙な感じがした。
こんな風に、無駄話をするくらい。
落ち込んでいる相手と意味のない会話をするくらいに。
自分やこいつはお節介だっただろうか。

「俺は猫が嫌いだ」

そうして、今度こそスパイクはビバップ号を去った。もう戻ることもないだろう。
二度と、会うこともない。
本当に一人になってしまった。再び固いソファーにもたれ掛かる。

少しだけそのまま眠るようにしていたが、やがてフェイは小さいが良く通る声でぽつりと呟いた。

「……この船いくらで売れるかしら」

上を見るのを止め、取り敢えず煙草に一本火を付けることから始めた。

697ソング・フォー・スウィミング・バード ◆10fcvoEbko:2009/03/05(木) 01:14:22 ID:fRJ0ldBs0



翼を繋ぐ拘束具から解き放たれたソードフィッシュが迷いなく火星の空を駆ける。
所々塗装の剥げた高速船は風を切るのを楽しむかのように舞う。
その速力を遺憾なく発揮した鳥はやがて小さな町に降り立った。
色の付いた晴天の町を進み、カラコロと鳴るドアベルの付いた一軒の家に入る。
オルゴールの音が止んだ部屋には、生きている女がいた。

「……ビシャスが居なくなったそうよ。長老派は大喜び」
「ああ、知ってる」

いつかと同じ、女にしては低めの、憂いを帯びた声。
墓地でさえない現実の場所でスパイクはジュリアと再会した。

「何故来たの?どうして……来たの」
「約束があったのを思い出した。どっかで自由に暮らそう、ってな」

いつ思い出したかは分からない。
あいつが死んだときか、あいつが命を散らしたときか。
それとも、奴の命を奪ったときか。

「夢でも、見るように……?」

ジュリアはスパイクの方に視線だけを向けていた。
何かを恐れるように、その唇が震える。

「いや」

狂乱があった。
馬鹿騒ぎは眠る男さえも叩き起こし、静かに続く覚めない夢を奪った。
そしていつしか、男は再び眠ることを忘れた。


「夢なんかじゃないさ」

色の違う二つの瞳が、真っ直ぐにただ前だけを見ていた


ADIOS SPACECOWBOY LOVE&PEACE

698副社長は自身が知ることについてしか語らない   ◆DzDv5OMx7c:2009/03/07(土) 02:18:38 ID:5C.6M81M0
――193X年・アメリカ合衆国 イリノイ州 シカゴ





突き抜けるような晴天の下、大きな道沿いのオープンカフェにて
片眼鏡をかけた壮齢の男と首にカメラをぶら下げた幼い少女が向かい合って朝食をとっている。
男の名はギュスターウ・サンジェルマン、15にも満たない少女の名はキャロル。
一見親子のような2人だったが、2人の間柄は上司と部下、記者と助手というものであり、
2人ともニューヤークの地方紙・デイリーデイズ誌の記者であった。

「副社長、凄いですね!」

少女が手に持つ新聞の見出しにはでかでかと『大陸横断鉄道フライング・プッシーフットの先頭車両盗まれる』
『またも王ドロボウの仕業か? ――警察関係者は否定』などといった文字が躍っている。

そう、ここ最近アメリカ全土を一人の怪盗が騒がせていた。
その怪盗の名は――『王ドロボウ』。
予告の前には独特のデザインの予告上を出し、無益な殺生はせず、奇抜な手口で何でも盗み出す。
更に言うならば噂ではまだ年若い少年だという。
まるで幻想小説の中から飛び出したかのような存在。
そして何より凄いのは、調べれば調べるほどその正体が不明になっていく点である。
どこから来てどこへ行くのか……そのミステリアスさもまたキャロルの心を掴んで離さなかった。

「キャロル、"凄い"とはなんだ?」

浮かれるキャロルに対し、沈黙を保っていた片眼鏡の紳士が厳かな顔を上げる。

「"凄い"……とは確かにわかりやすい言葉だ。
 だが我々は記者だキャロル。
 その凄さをわかり易く、かつ独自のセンスを持って読者に対して伝えなければならない」
「わかってます! 真実は人の数だけ姿を変える、ですよね?」
「そうだ。ではキャロル、お前ならこの記事にどういう見出しをつける?
 お前の真実から見たこれはどういう側面を持つかを表してみたまえ」

いきなり振られた無理難題に少女は目を白黒させる。

「えー、ええと……『霞の中に消えたフライングプッシーフット号!
 それは王ドロボウの企みか、それとも全米を震撼させるギャングの野望を阻止しようとする神の手か』……とか?」
「――244点」
「何点満点中で!?」

699副社長は自身が知ることについてしか語らない   ◆DzDv5OMx7c:2009/03/07(土) 02:19:41 ID:5C.6M81M0
そんないつも通りのやり取りをする2人。
だが大通りの方から微かなざわめきが聞こえてくる。
しかもそのざわめきは次第にこちら側へと向かってきている。

そちらの方に視線を向けたキャロルはそのざわめきの理由を瞬時に理解した。
そこにいたのは一人の東洋系の女性だった。
肩まで伸びたワインレッドの髪、猫を思わせる切れ長の瞳。
年の頃は10代後半にも見えるし、20代にも見える。
瑞々しさと妖艶さを奇跡的なバランスで実現した存在。
ありていに言うなら絶世の美女がそこにいた。

一流の職人によってカットされたルビーを思わせる美貌にキャロルは思わずため息をつく。
だがギュスターヴはそんな女に対しても、平然とした態度を崩すことなく応対する。

「ふむ、どうやら情報屋としての我々に用があるようだね。まぁ座りたまえ」

そう、彼らの所属するDD新聞社は"情報で金を買う"、情報屋としての一面を持っている。
彼らが本気になれば例え大陸の反対側で起こったことでもゼロコンマ後には知れ渡っている。
……そんな噂がまことしやかに囁かれるほどなのだ。
それを聞きつけたからこそ"彼女"は、最も近くにいたこの男に接触したのだ。
だがさっき不愉快な出来事があったせいで、座って話をするよりもさっさと帰りたかった。

「ふむ、さっき妙に明るい車掌にしつこくナンパされたからさっさと帰りたい?
 ……とはいえ、それなりに長くなりそうだからね。
 貴女の望む情報が……"これ"に関する情報であるならば」

そう言って新聞の一面に記された見出しを指差す。
その指先には『KING OF BANDIT』の文字。
女は大きくため息をついた後、キャロルに一言断りをいれ、優雅な仕草で椅子に腰掛ける。
何気ないその動作も一つ一つが洗練されており、キャロルはますます見とれてしまう。
女は懐からいくらかの宝石を取り出す。
どれも一流の細工がしてあり、キャロルの素人目にも一級品であることがわかった。

「ああ、御代は結構」

だが、それをギュスターヴは軽く手で制する。
その対応に女は訝しげな表情になる。

「……と言ってももちろん只であるわけは無い。
 只より高い物は無い……嘘偽り無い情報の受け渡しのためには必要だ」

副社長は更に言葉を紡ぐ。

「あなたも知っての通り、我々は情報を扱っている。
 故に今回は"貴方たち"の情報を価値あるものとして認め、それを代償として支払っていただきたい。
 そう、例えば"貴方たち"の出会いなどは……どうだろうか?」

その言葉に、女は心底疲れきった表情になる。
だが変人の相手は散々してきているためか、抵抗を無駄だと悟ったのだろう。
諦めがわりに盛大なため息をつき、そして物憂げな表情のまま、訥々と語り始めた。

700それが我の名だ〜actress again   ◆DzDv5OMx7c:2009/03/07(土) 02:20:31 ID:5C.6M81M0
*   *    *


そこは球体の内側だった。
唯一の足場は宙に浮く円柱。
そしてその壁一面には世界地図が姿が映し出されている。
まるで地球儀の内側のようなそこの名は、BF団本拠地・作戦室。
その中央で壮年の男――十傑集の長、混成魔王樊瑞は思考にふける。

「……」

『地球静止作戦』と呼ばれたBF団史上最大の作戦。
だが、ある男は敵味方共に甚大な被害を出したそれすらも大いなる『GR計画』の前座であったと言い放った。
その男の名はBF団軍師、諸葛亮孔明。
彼らの主であるビッグファイアから全権を任されたという、胡散臭さを塗り固めたような男。

だがしかし、数日前、孔明は姿を消した。
後にも先にも、一切の前触れも音沙汰もなく。
更には時を同じくして、その側近『コ・エンシャク』、
及び十傑集の『マスク・ザ・レッド』と『直系の怒鬼』も突如として行方をくらませたのだ。

この異常事態にBF団は混乱し、GR計画準備の中断を余儀なくされた。
彼らにとって幸運だったのは敵対する国際警察機構でも同様の事態が発生していたということ。
静かなる中条、そして草間大作とジャイアントロボ、
その他、九大天王を含む複数名のエージェントの失踪が確認されている。

だがそれすらも樊瑞にとっては、不安をあおる要因にしかならない。
まるで神の見えざる手によって、突如世界を書き換えられてしまったのかのような違和感……
普段なら馬鹿げていると一笑に付すその考えが、ここ数日の間、樊瑞の頭から片時も離れないのだ。

「――何を考えておる、樊瑞よ」

半透明の足場に現れたのは老人と言っても差し支えない年齢の男。
だが矍鑠とした動作、全身から漲るその英気はただの老人ではないことを物語っている。
男の名は激動たるカワラザキ――BF団創生期からいる最古の十傑集にして、樊瑞らが最も信頼する男だ。

「……あの男がこちらの考えを姿を消すのは今に始まったことではなかろう。
 であれば、今は来るべき日に向けて"アレ"を奪い返すことに全力を尽くすべきではないか?」

確かに。、神ならぬ身にすべてを見通すことは出来ない。
人に出来ることは今、最善を尽くすことだけなのだから。

「……そうだな、まずは"アレ"を取り返さねばならんか。
 すべては、ビッグファイアのために……!」

見上げた視線の先、モニタに映し出されるのは、黒いアタッシュケースを抱えた赤い髪の少女だった。


*     *     *

701それが我の名だ〜actress again   ◆DzDv5OMx7c:2009/03/07(土) 02:21:45 ID:5C.6M81M0
あたしは走っていた。そりゃあもう全速前進ってな具合に。
バサバサ自慢の赤色の髪が乱れるし、服には汗が滲むし。
ニーソックスが少しずり下がって来たような気もするけど気にしない。
あたしを突き動かすのはとある本能的な衝動。
生命の危機という、単純極まりない"それ"だった。

「フハハハハハハ! どこへ行こうと言うのかね?」

その声は遥か頭上から。
ごちゃごちゃした町を見下ろす様に走る線路の上。
いい年こいて黒いタイツを被ったオッサンが、列車の上からこっちを見下ろしている。

「――ったく、いい加減しつこいっての……!」

その視線を遮る様にビルの隙間に身を滑り込ませれば、
今度はオートジャイロに乗った全身黒タイツの連中が追いかけてくる。

黒タイツの連中の名はBF団。
冗談抜きで世界征服を狙っている連中だ。
そしてあたしは運び屋なんかをして日銭を稼いでいるしがない女の子。
さて、そんなあたしが何故追われているのかと言うと、

「さぁ、大人しくアタッシュケースを渡してもらおうか!」

なんか怪我だらけの坊主のオッサンから受け取った黒いアタッシュケース。
これを国際警察機構のところまで届けるのが今回のお仕事ってワケだ。
この仕事……危険度が高いのはわかっていたが、“とある理由”があって、二つ返事でOKした。

「誰が渡すか、バーカ!」

毒舌を返しながら、目指すは線路から大きく外れたところにあるマンホール。
下調べ済みのあそこに入ればエージェントとの合流場所まで一直線。
そう、ここさえ切り抜けられれば――!!

「フン……まさかBF団から逃げられるとでも思ったのかね?」

男の声にいやな物を感じたあたしは首だけで振り返り、
そして振り返ったことを後悔した。

「――起動せよ、維新竜・暁!!」

その声を切欠に、大音量を響かせながら列車が変形する。
腕が伸び、首をもたげたそれはまるでゲームに出てくるドラゴンみたいだ。
鉄の塊が軋む音がまるで叫び声の如く、夜空に響き渡る。

あたしは前だけを見て、その場を全力で逃げ出そうとする。
けれど列車ロボットは重そうな見かけとは裏腹に、機敏な動きであたしの前に立ち塞がる。
ヤバイ、と思ったときにはもう遅く、伸びてきたアームにあたしの身体は捕らえられた。
そしてそのまま空高く――ビルと同じ高さぐらいまで吊り上げられる。

「散々手間をかけさせてくれたな小娘」

ロボットの肩に乗る男は苛立ちを隠そうともせず、あたしを睨み付ける。
が、余裕の表れか、マスク越しでもわかるような笑みをその顔に浮かべた。

「だが……我らとて鬼ではない。
 貴様が持ち逃げした"GR3"のコントローラーさえ渡してもらえば、
 お前は見逃してやってもかまわんぞ?」

普通に考えれば十分魅力的な提案だ。
100%嘘だろうけど、隙ぐらいは作れるかもしれない。
元々雇われの身であるあたしには国際警察機構に協力する義理なんてこれっぽっちもありはしない。
何だろうと指一本動かせないこの状態よりはマシなはずだ。
だけど、

「誰が……誰があんた達なんかに!」

だけど、それだけはありえない。
脳裏に浮かぶのは包帯にグルグル巻きにされたママの姿。
BF団のテロで大怪我を負ったあたしの大切な人。
ママの手術台と入院費用、それに『そいつらの鼻を明かせるなら――』という気持ち。
それが今回の仕事を請けた大きな理由。
だから、BF団だけには屈するわけにはいかなかった。
そしてその答えは目の前の男の最も望む物であったらしい。

「そうか……では仕方がない。予定通り、力づくで行かせてもらうとしよう!
 すべては我らが偉大なるビッグファイア様のために!!」

702それが我の名だ〜actress again   ◆DzDv5OMx7c:2009/03/07(土) 02:22:27 ID:5C.6M81M0
少しずつ締め付ける力が強くなる。
徐々にに迫り来る死の恐怖に押しつぶされそうになる。
だけど、視界の隅に映るのはマスク越しでも分かる酷薄な笑み。
こいつらに弱みだけは見せたくないという一欠けらの意地だけで、相手をにらみ付ける。
だけど圧力は次第に増して行き、体中の骨と言う骨が限界を超えるその瞬間、
突如として機械の指が緩み、あたしの身体は空中に放り出される。
でも何てことはない。死に方がちょっと変わっただけ。
酸素不足で朦朧とした意識もそれだけは理解できた。

「いづっ!?」

だけど次の瞬間、全身に走った痛みに無理やり意識が覚醒させられる。
偶然ビルの上とかに落ちたのだろうか……と思いながら周囲を見渡して、
それがまるっきり見当違いだということをあたしはようやく理解した。

光り輝く絨毯みたいな何かが空中に浮いており、あたしはそこに不時着したのだ。
同じく光の絨毯の上に転がるのはさっきまであたしを掴んでいたロボットの腕。
人間で言う肘の辺りがすっぱりと切断され、まるで鏡みたいに綺麗な断面を晒している。
驚きの表情のまま固まる黒タイツたち。
これらが意味するところはただ一つ――第三者の介入。それ以外にありえなかった。

「ふむ……この"レバケン"とやら……悪くない切れ味だな。気に入ったぞ」

そして光の絨毯の先頭、更なる高みにそいつはいた。
月明かりに照らされたのは目も眩むような金ぴかの鎧。
右手には陽炎を立ち昇らせる真紅の剣。両足には水晶をはめ込んだ真っ黒な靴。
華美を極めたその格好の中で唯一みすぼらしく映るのは、背中に背負った黒いバック。

突如として現れた金ぴかの男は、圧倒的な存在感を撒き散らしながら、
だがしかしこっちのことなどお構い無しに自分の剣を一心不乱に眺め回している。
次に話したのは金ぴかの足元――黒い靴から声が聞こえた。

『どうやら北欧神話におけるレーヴァンティンの概念を内包しているようですね。
 この持ち主であった"Konatan"には悪いことをしたと思いますが』
「間違えるな具足。すべてのものは元々我の財なのだ。
 故に盗人の手から"レバケン"も我が手元に戻ってきただけなのだ」

空気を読まずに暢気に靴と会話する金ぴか。
めんどくさそうに剣をディバックの中にしまう……って、明らかにディパックより長くなかった?
整った容貌に蛇みたいな笑みを浮かべながら、ルビーのような二つの目でこちらを見下ろしている。

「さて……光栄に思うがいい雑種ども。王の問いに答える事を赦す。
 このあたりでコソドロを見なかったか?」
『黒髪を逆立てた少年で、年齢は10代中ごろ。格好は黄色いコートと……奇妙な面をつけていることもあるようです』

すかさずフォローをする黒い靴。
なんか慣れてるっぽいなぁ、とかあたしは場違いなことを考える。
けどいきなりすぎる乱入にオトナ連中は大騒ぎ。

「だ、誰だ貴様は!」
「国際警察機構のエージェントか!?」
「誰でもかまわん! 邪魔立てするのなら――」

次々と上がる雑多な声に金ぴかの表情が心底うんざりとしたものに変わっていく。

「聞いているのは我だ。それとも貴様らは王の言葉が分からぬ狗畜生どもか?」
「……どちらにしろ、貴様には関係ないだろう?」

ビルの上から声がかけられる。
そこに居たのはさっきまで列車ロボットの上に立っていたスーツ姿の黒マスクだ。
顔が見えなくても青筋立てていることぐらいは分かる。
が、金ぴかはそんなこと知ったこっちゃないとばかりに不機嫌な視線を向ける。

「ほう、それはどういう意味だ雑種?」
「それは――こういう意味だ、馬鹿めが!!」

いつの間にか列車ロボットが、金ぴかの背後に回っていた。
そう、男が前に歩み出たのは金ぴかの注意をひきつける囮だったのだ。
その作戦は功を奏し、避けようのないタイミングで超重の拳が振り下ろされる。

『Protection』

けど、その拳はあっさりと止められた。
金ぴかの周りに発生したフィールドによって。

「ば……ばかな、アレだけの高出力フィールドだと!?」

驚くオジさん。
確かにアレだけ強力なフィールドなんてあたしも見たことがない。

703それが我の名だ〜actress again   ◆DzDv5OMx7c:2009/03/07(土) 02:23:01 ID:5C.6M81M0
「褒めて遣わすぞ具足。我が魔力の生かし方が分かってきたようではないか」
『……それはどうも、King』
「やれやれ……我からの賛辞を賜ったと言うのにもう少し悦ぶがいい。
 しかし――」

こっち側に向き直り、真紅の目であいつらを睨み付ける。

「雑種風情が、随分と不戯けた真似をしてくれたものだな」

男が口を開く。
たったそれだけで周囲の温度が一気に下がったような錯覚を覚える。
絶対零度を言葉にしたら、きっとあんな感じになるのだろう。

「王が直々に判決を下してやろう。身に余る光栄に歓喜するがいい」

金ぴかはディパックの中に手を突っ込むとそれを取り出した。
それは一言で言うなら大きな筒だった。
もっと細かく言うなら、戦車とかロボットについている馬鹿でかい大砲。
明らかにディパックの容積を無視したそれを金ぴかは取り出すと、
まるでおもちゃの拳銃のように軽々と構える。

「――死を賜わす。遠慮はいらぬ、謹んで受け取るがいい」

その顔に浮かぶのは子供のような無邪気な笑み。
あたしだけじゃない。この場に居た全員が理解する。
こいつが息をするように相手を甚振ることのできる、生まれ尽いての鬼畜野郎だってことに。
所詮、圧倒的戦力差がないとそう振舞えないマスクの男などとは――酷薄のレベルが違う。

「か……かかれぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

号令の元、一斉に襲い掛かる黒タイツたち。
だけど、どう見てもあいつらに勝ち目があるようには思えなかった。
まぁ、それを一番理解しているのは、あいつらだったのかもしれないけど。

『――Enormous Cannon、Fire!』

そして、前言どおり判決が下される。
大砲から放たれたエネルギー弾は、列車ロボットをあっさりと撃破。
それどころか、砲撃の余波はビル風を巻き込んで暴風を巻き起こす。

「バ、ばかなぁああああああああああああああああ!!!」

ビルの屋上にいた黒タイツスーツも、オートジャイロに載っていた男たちも。
突如発生した衝撃波に吹き飛ばされ、ビルの側面やコンクリートの地面に為すすべなく叩きつけられる。
――かく言うあたしも、吹き飛ばされないように伏せるので精一杯。
ツルツルしてる割に滑らない不思議素材の光の絨毯のおかげで落ちずにはすんだが。
……かくして事が収まったときその場に立っているのは金ぴか一人だった。

「ふむ……威力は申し分ない……が、やはり好ましい武器ではないな。何より優美さに欠ける」
『……この武器を使うために、複雑な出力調整を行った私の労力は一体……』
「我に尽くせたのだ。それ自体が褒美であろう?」

漫才のようなやり取りを繰り返す2人だがまわりは阿鼻叫喚。
かろうじて生き残ったヤツラのうめき声が耳に届く。
それを聞き取った金ぴかは眉を上げる。

「手心を加えたな、具足」
『当然です。私は"人を守る"という機動六課の使命を"彼"に託されたのですから』
「フン、あれだけの世界を巡り、人の愚かさを見ておいて、まだ下らぬ夢を捨てきれぬか。
 ――まぁいい。それならそれで使い出はある。
 さて、もう一度聞くぞ雑種ども。
 その耳障りな呻き声を今すぐ止めれば、我が問いかけに応える栄誉を賜わすぞ?」

相手の状態など一顧だにしない傲慢な態度。
我侭にもほどがある。こいつらだって別に好きで呻いてる訳じゃないでしょーに。
誰も答えない……というか答えられないだろーな、とか他人事みたいに考えてその時。

704それが我の名だ〜actress again   ◆DzDv5OMx7c:2009/03/07(土) 02:23:33 ID:5C.6M81M0
「――少なくとも、我等は会った事がないな」
「!?」

正面、右左の両後ろにそれぞれ位置する三つのビルの屋上。
いつの間にかあたしたちを取り囲むように、それぞれ人影がいたのだ。

向かって正面。12時の方向にいたのは黒いスーツの男。
学者さんが被るような帽子と一緒になった仮面をつけている。
向かって右後ろ。4時の方向にいたのもスーツの男。
ただその顔色は死人かと見間違うぐらいに青白い。
向かって左後ろ。8時の方向にいた3人目は中国っぽい格好をしている。
顔といい体型といい狸を思い出した。

格好だけ見れば金ぴかに負けず劣らずの変態ども。
だが3人が3人とも圧倒的なプレッシャーを放っている。
全身のただが粟立ち、心臓が早鐘を打ったかのように鼓動を早める。
こいつらとは初めて会うというのに確信する。
本能が告げている。コイツらはヤバイ。ヤバすぎる。

「私の名は十傑集が一人、白昼の残月!」
「……同じく、暮れなずむ幽鬼……!」
「十傑集。命の鐘の十常侍なり!」

十傑集。
その単語にさっきの予感が間違ってなかったことを確信する。
直接目にしたのはこれが初めてだけど、どいつもこいつも人間離れした奴らって噂だ。
そんなの3人に囲まれているこの状況……もしかしなくても絶体絶命そのものだ。
だけど金ぴかは心底どうでもよさ気な視線を向ける。

「フン……その振る舞い、"衝撃の"と同類か」

その言葉に3人の気配に動揺と緊張が混じる。
どうやら"衝撃の"とやらと知り合いらしい。

「衝撃大人(ターレン)の知り合いなるか!?」
「BF団ではありえない……
 だが先ほどの周囲への被害をわきまえぬ戦いぶりといい国際警察機構のエージェントとも思えん……」
「くっ……貴様……一体何奴!」
「やれやれ……どいつもこいつも『何故? どうして?』と馬鹿の一つ覚えのように。
 無知はそれだけで大罪と知るがいい雑種ども。
 だから、むざむざ"このような"目にあうのだ」

そう言って指を鳴らす金ぴか。
どういう理屈か、それだけで手の中にあったアタッシュケースの留め金が壊れる。

「え……」

だがそこから出てきた予想外の物に、あたしは言葉を失った。
アタッシュケースの中に入っていたのはただの紙ッ切れ。
その表面にはふざけたデザインでこう書かれていた。

705それが我の名だ〜actress again   ◆DzDv5OMx7c:2009/03/07(土) 02:24:29 ID:5C.6M81M0
『     領収書
  巨人の指揮棒(タクト)は確かにいただきました。
   HO! HO! HO!
     通りすがりの王ドロボウ』

その言葉に、あたしは思わず絶句する。
だってあたしは腕時計型のそれがアタッシュケースに納められるところをこの目で見ているのだ。
BF団の連中も驚いた瞳でその紙切れを見つめている。
だけどただ一人、金ぴかだけは歪んだ愉悦を顔に浮かべて、その紙を拾い上げた。

『King、やはり――』
「そのようだな。やはり間違っていなかったと見える。
 このタイミング……、奴はまだ"ここ"にいるとみて間違いあるまい」

訳知り顔でうなづく金ぴか。
いやいやいや、何を言ってるのか全然わかんないし。

「ねぇ、ちょっと、さっきから訳がわかんないわよ! 少しは説明しなさいって!」
「喧しいぞ。少し黙っておれ小むす――む?」

じろりとこっちを見る金ぴか――が、その表情が一変する。
余裕そのものの顔から、まるで鳩が豆鉄砲食らったような顔に。
そしてさっきから放出していた"王様オーラ"とでも言うべきプレッシャーが掻き消えていたのだ。
急に変化した金ぴかの様子にあたしは戸惑う。
だが、次の瞬間、

「ク……クククククククククククククク……
 ハハハハハハハハハハハーッハッハッ!!
 ハハハハハハハハハハハハハハハハハ
 ハハハハハハハハハハハハハハハハハハーッ!!」

あたしの顔を見て、腹を抱えて爆笑しやがった。
『ああ、まったく……世界は我を飽きさせることはない』とか何とか、意味わかんない。
っていうかいきなり人の顔見て笑い出すとか何様のつもりだ。
そんなに笑える顔をした覚えはない。
ぶっちゃけると――すごいムカつく。

「ちょっと、あんたねぇ……!」
「これを読むがいい。奴らに聞こえるようにしっかりとな」

何かを言おうとしたあたしにさっきの紙切れを突きつける。
突き出された領収書の裏にはまったく同じ筆跡で別の文章が書いてあった。
思わず言われたとおりに読み上げてしまう。

「えーと……
 『――続きまして予告状。
   神様の怒りに触れて、バベルの塔が崩れる前に、
     その中に眠るお宝をいただきます。
        休日返上の王ドロボウ』
 ……って何これ。意味わかんない」

でもあたしが何気なく口にした言葉に十傑集の顔色が変わる。
そして金ぴかは目聡く、その変化を読み取った。

「ほう……貴様らは何か知っているようだな。話して貰おうか」

ガシャリ、という重い音と共に、一歩を踏み出した。
それだけで世界が変質するような錯覚を抱く。

「一度引くぞ! 樊瑞たちの判断を仰ぐ!」
「「……応!」」

躊躇は一瞬。
仮面男の判断に従い、3人の男は撤退。生き残った黒タイツたちもそれに続く。
そしてその場所には金ぴかとあたしだけが残された。

さて、出会ってから1時間もたたないうちに、金ぴかについてわかったことと言えば
とんでもない我侭野郎で、化け物みたいに強い。
そして容赦とか手加減とかそういうのとは程遠い――なんか台風みたいな奴だってこと。
笑い合いながら話した次の瞬間ブチ切れられる可能性だって十二分にある。

でもそう理解しているにも拘らず、
あたしは金ぴかに対してまったく恐怖と言う物を感じられなかったのだ。

706それが我の名だ〜actress again   ◆DzDv5OMx7c:2009/03/07(土) 02:25:15 ID:5C.6M81M0
『追いかけないのですか、King?』
「何、方角さえ分かれば大体の予想はつく。
 放っておけば王ドロボウの足止めぐらいは出来るかもしれん。
 しかし、よりにもよって"バベルの塔"とはな……
 主が席を離れた間に我が物顔で居座るとは……今度の王を名乗るモノは飛び切り度し難い阿呆のようだな……!」

男の顔に紛れも無い怒気が宿る。

「まぁよい――今は、こちらの方が気になるのでな」

が、それを一瞬で霧散させ、金ぴかはこっちに向き直る。
真っ赤な瞳が値踏みするようにあたしを見据えている。
まるで掘り出し物を見つけた好事家のように。

「……ふむ、よかろう」

そして何かに納得したかのように首を縦に振ると、
金ぴかは背中にしょったバッグをこっちに投げてよこしたのだ。

「随分みすぼらしいとはいえ今の我が財を入れる蔵だ。丁重に扱うがいい」

いきなりサイズの違う大砲やら何やらを取り出したバックだ。
明らかに普通じゃないし、ぶっちゃけキモい。
だけど金ぴかは気味悪がるあたしを無視して歩き出す。

「ちょ、ちょっと! 何なのよ!」
「察しが悪いな、付いてこいと言っておるのだ」

その言葉に驚きの声が足元から聞こえる。

『King、まさか彼女を連れて行くつもりですか!?』
「荷物を運ぶのは王の役目ではない。
 蔵の財も二流品が多いとはいえそれなりに集まってきた。
 そろそろ倉庫番を任さねばなるまいよ」
「ちょっと待て! あたしが着いて行くっていつ誰が決めた!」
「今我が決めた。それ以外に理由が要るというのか?」

まるで自分が言ったら世界がそうであると本気で信じているかのような声。
その態度にあたしは確信する。わかちゃいたけど、こいつ……無茶苦茶自分勝手だ。
小さいころはおもちゃ屋の前で何時間でも抵抗する子供だったに違いない。

……とはいえ結局のところ、こいつに付いて行く以外の選択肢が無い。
空のアタッシュケースを届けるわけにも行かないし、……っていうか今、空中だから他に行き様もないし。
まぁ、何かあいつらが慌てふためく様が見れそうだし。
だから"ちょっとの間だけ"なら、行動を共にすることに別に問題はない。
ただ、気になることが一つだけあった。

「……あんたさ、あたしがこの荷物持って逃げ出すとか考えなかったわけ?」

さっきからの言動を見てれば、こいつがお人よしな訳は無いことぐらい猿だってわかるだろう。
だのにあの時、一切の躊躇なく、黒いディパックをあたしに投げてよこしたのだ。
一応は筋道の立っているこの男の行動の中で、それだけが引っかかって思わず聞いてみた。

「貴様はせんよ――決して、な」

だが返ってきた答えは答えともいえないシロモノ。
金ぴかはあっさりと、理由らしい理由もなく。
太陽が東から昇るのと同じくらい当然のことのようにそう断言したのだった。

……そりゃ実際にやろうとは思わなかったけどさ。
なんか何もかも見透かされているようで悔しいから、隣に立とうとする。
でも、その行動は手で制された。

「まだだな。我の隣に立つにはまだ足りん。
 恥じらいも、言葉遣いもまだまだ乳臭さが抜けん。
 加えて礼節も気品も、女としての魅力が何もかも欠けている」

失礼なことを一気に告げる。
だが、次の一瞬、あたしは信じられない物を見た。

707それが我の名だ〜actress again   ◆DzDv5OMx7c:2009/03/07(土) 02:25:37 ID:5C.6M81M0

「――が、それは今から身に着ければ良いことか。
 我の臣下として……せめて奴ほどには育ってもらわねば、な」

目の前のこの男が、笑ったように見えたのだ。
柔らかく、傲慢なこの男が決してしないだろう表情で。
だがそれを確かめようとしたあたしの視線を避けるように金ぴかは青い絨毯の上を歩き出す。

「ああ……ったく、一体何なのよ……」
『この王と上手く付き合うコツは細かいことを気にしないことです。
 気にしだしたら、例え身体が千個あっても足りません』

おいおい、靴にここまで言われるとかどんだけ我侭なんだ、コイツ。

「……あんたも大変ね」
『お気遣いありがとうございます、Lady』

あたしの口から漏れるのは二人分のため息。
靴と妙なところで同情しあいながら、仕方為しに歩き始めた……その時だった。

"……ま、何があっても退屈だけはしないと思うわよ。せいぜい頑張んなさい"

「――え?」

聞いたことがあるようなないような、不思議な女の声があたしの耳に届いた。
だけどその声はビル風の残りに吹き飛ばされ、あっという間に摩天楼の中へと消えていく。

『? どうかしましたか、Lady』
「……あー、なんでもない。たぶん空耳。
 あと"レディ"ってのはやめてよね。あたし、そんなキャラじゃないし」

そこであたしは重要なことに気がついた。

「あ、そういえばあんたたちの名前まだ聞いてないんだけど。
 ……ま、あんたはどうせ呼びやしないだろうけど、一応教えとく。
 あたしの名前は――」
「――であろう。知っておる」

言葉を失う。
風に攫われたその2文字は、確かにあたしの名前だったのだから。
振り返り、絶句するあたし向けて男は言う。

「二度は言わん。今度は多元世界すべての貴様に聞こえるよう、その根源に刻み付けておくがいい」

どこかの推理漫画の主人公が推理する時のポーズのように男は顎元に手を当てる。
そして自信満々に、威厳に満ちたその眼で、こちらの瞳を見つめながら言い放った。

「――ギルガメッシュ、それが我の名だ」




"A girl meets Unearthly Overload and extraordinary days……"


      ギルガメッシュ エピローグ END

708それが我の名だ〜actress again   ◆DzDv5OMx7c:2009/03/07(土) 02:25:58 ID:5C.6M81M0
            だが、


          物語は、続く!!


     NEXT EPISODE……"バベルの篭城編"

709 ◆EA1tgeYbP.:2009/03/08(日) 18:17:38 ID:aYxLYbq20
えーと……試行錯誤した挙句アンスパ部分を抜いてヴィラルのみで再構成してみました。
没SSに送ろうか迷ったのですが一応こっちで仮投下してみます。

710メビウスの輪から抜け出せなくて ◆EA1tgeYbP.:2009/03/08(日) 18:18:35 ID:aYxLYbq20
 ――サイコロを振った時、出る目は常に一から六。
 仮に何らかの偶然、イレギュラーで賽が斜めに止まろうと、賽の目を一つの面から読み取る以上、その原則は崩れない。
 そう、例え何百、何千、何万どれほど賽を振ろうとも零や七の目が出ることなどはありえない。
 
 だから――そう、彼はもっと『待つ』ということを知るべきだった。
 
 ――シモン。

 ――ニア。

 ――ヨーコ。

 ――カミナ。

 ――××××。

 ――そしてロージェノム。

 いずれのピースが欠けようとも、多元宇宙において一度でも「アンチ=スパイラルが敗れた」ということは、ありとあらゆる多元宇宙においてもまた、螺旋の民が滅び去るまで同様の出来事、アンチ=スパイラルの敗北は起こりうるということ。
 零や七の目が出ることはありえなくとも、六や一が延々と出続けるという奇跡はその可能性がどれほど少ない物であってもありえないものではないのだから。

 だからそう、全てピースが欠けてしまったこの宇宙においてもまた、その奇跡が起きないという保証はどこにもない。

 ――ただ、その奇跡を見届けるのは、きっと一から賽を振るのを見届けた者達だけの特権だ。
 故に今はただ、その奇跡を起こした者達ではなく、その奇跡から取り残された者達をこそ見守ろう。


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