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避難所用SS投下スレ11冊目

959ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2017/07/31(月) 20:37:11 ID:CWP4DxYk
 文明がもたらした灯りは、大多数の人々に夜と闇への恐怖を忘れさせてしまう。
 暗闇に潜む人ならざる者達は灯りを恐れ、しかしいつの日か逆襲してやろうと闇の中で伏せている。
 だが彼らは気づいていない。その灯りはやがて自分達を完全に風化させてしまうという事を。


 東から昇ってきた燦々と輝く太陽が西へと沈み、赤と青の双月が夜空を照らし始めた時間帯。
 ブルドンネ街の一部の店ではドアに掛かる「OPEN(開店)」と書かれた看板を裏返して「CLOSED(閉店)」にし、
 従業員たちが店内の掃除や今日の売り上げを纏めて、早々に明日の準備に取り掛かっている。
 無論、ディナーが売りのレストランや若い貴族達が交流目的で足を運ぶバーなどはこれからが本番だ。
 しかしブルドンネ街全体が明るいというワケではなく、空から見てみれば暗い建物の方が多いかもしれない。
 
 その一方で、隣にあるチクトンネ街はまるで街全体が大火事に見舞われたかのように灯りで夜空を照らしている。
 街灯が通りを照らし、日中働いてクタクタな労働者たちが飯と酒に女を求めて色んな店へと入っていく。
 低賃金で働く平民や月に貰える給金の少ない下級貴族たちは、大味な料理と安い酒で自分自身を労う。
 そして如何わしい格好をした女の子達に御酌をしてもらう事で、明日もまた頑張ろうという活力が湧いてくるのだ。
 酒場や大衆レストランの他にも、政府非公認の賭博場や風俗店など労働者達を楽しませる店はこの街に充実している。
 ブルドンネ街が伝統としきたりを何よりも重んじるトリステインの表の顔だとすれば、この街は正に裏の顔そのもの。
 時には羽目を外して、こうして酒や女に楽しまなければいずれはストレスで頭がどうにかなってしまう。

 夜になればこうしてストレスを発散し、翌朝にはまた伝統と保守を愛するトリステインへ貴族へと戻る。
 古くから王家に仕える名家の貴族であっても、若い頃はこの街で羽目を外した者は大勢いることだろう。

 そんな歴史ある繁華街の大通りにある、一軒の大きなホテル…『タニアの夕日』。
 主に外国から観光にきた中流、もしくは上流貴族をターゲットにしたそこそこグレードの高いホテルである。
 元は三十年前に廃業した『ブルンドンネ・リバーサイド・ホテル』であり、二年前までは大通りの廃墟として有名であった。
 しかし…ここの土地を購入した貴族が全面改装し、新たな看板を引っ提げてホテルとしての経営が再開したのである。
 ブルドンネ街のホテルにも関わらず綺麗であり、外国から来るお客たちの評価も上々との事で売り上げも右肩上がり。
 この土地を購入し現在はオーナーとして働く貴族も今では宮廷での政争よりも、ホテルの経営が生きがいとなってしまっている。

 そんなホテルの最上階にあるスイートルームに、今一人の客がボーイに連れられて入室したところであった。
 ロマリアから観光に来ているという神官という事だけあって、ボーイもホテル一のエースが案内している。
「こちらが当ホテルのスイートルームの一つ…『ヴァリエール』でございます」
「……へぇ、こいつは驚いたね。まさか他国でもその名を聞く公爵家の名を持つスイートルームとは、恐れ入るじゃないか」
 ドアを開けたボーイの言葉で、ロマリアから来たという若い客は満足げに頷いて部屋へと入った。
 白い絨毯の敷かれた部屋はリビングとベッドルームがあり、本棚には幾つもの小説やトリステインに関係する本がささっている。
 談話用のソファとテーブルが置かれたリビングから出られるバルコニーには、何とバスタブまで設置されていた。
 勿論トイレとバスルームはしっかりと分けられており、暖炉の上に飾られているタペストリーには金色のマンティコアが描かれている。


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