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避難所用SS投下スレ11冊目

81ウルトラ5番目の使い魔 22話  ◆213pT8BiCc:2014/08/11(月) 01:42:16 ID:WGhDb4EY
 ふたりに頭を向けたゴルゴスが、口から蒸気を吹きながら突進を始めた。同時にゴルゴスの全身のガーゴイルも銃口のすべてをふたりに向ける。まだ距離は数十メートルはあるというのに、まるで巨大な要塞が動いてきているようなすごい圧迫感だ。
 そして、なによりも寸足らずな見た目をしているくせにゴルゴスの口から放たれる叫び声は猛々しく、声だけは王者のように轟いてふたりを圧倒しようとしてくる。
 だが、覚悟を決めたジルとキュルケは動じない。逃げてと慌てて叫んでくるシルフィードに、黙って見ていなさいと叫び返してゴルゴスに真正面から眼光をぶつけ返した。
「いくぞ、この一発で、奴の息の根を止めてやる」
 ジルが愛用の弓に凍矢をつがえて引き絞った。並の腕力ではビクともしない固いつるがギリギリと大きくしなり、生身の足と義足でしっかと地面を踏みしめて狙いを定める。
 さらにキュルケも杖を高く掲げて、残った魔法力を注ぎ込んでいく。溢れた炎の力がキュルケの周りで揺らめき、彼女の赤毛がまるで本当に燃えているかのようだ。
「光栄に思いなさい。このわたしとパートナーを組めるなんて、タバサのほかは誰もできなかったことよ。さすが、タバサのお師匠ね、敬意を払って、わたしも魔法の全力を出すわ。でもね、正直、今のわたしが全力を出すとどうなるのか自分でもわからないのよ。いっしょに丸焦げにしちゃっても恨まないでね」
「それは心強いな。シャルロットもいずれ、すべてを凍りつかせるすごいメイジに育つだろうから、相棒ならそれくらいはつとめてやらないと足手まといだろう。太陽が落ちてきたようなすごい赤を期待するよ」
 軽口を叩き合い、ジルとキュルケは己の敵に再び眼を向けた。ジルが弓を引き絞り、キュルケが一歩下がって杖を握る。
 すでにゴルゴスとの距離は十数メートル。しかし、不思議なことにふたりの眼には猛スピードで向かってくるはずの怪獣の突進が豚の散歩のようにゆっくりと見えた。シェフィールドがなにかをわめいているようだが、もうふたりの耳には届かない。
 狙うは怪獣の口。それも喉を通り抜けて胃袋にぶち込まなくては意味が無い。だがその代わりに、特別効く薬を調合してやる。体が固くて注射が嫌なら無理にでも飲んでもらおう。心配はいらない、副作用はてきめんだ!
 ゴルゴスが大きく口を開いた瞬間、ジルは矢を放った。白く輝く冷気の帯を引いて、凍矢はゴルゴスの口腔を通り抜けて喉の奥へと飛び込んでいく。
 一瞬を置き、キュルケも魔法を放った。魔法力を最大限に注ぎ込んだ『フレイム・ボール』だ。しかし、それは巨大な火球などというものではなく、むしろ小さな、人の頭程度の大きさくらいしかなかった。
 だが、キュルケの放ったそれが目の前を通過していったとき、ジルは太陽が目の前を通っていったのかと錯覚した。炎ではなく煮えたぎるマグマが凝縮されたような灼熱の玉。わずかでも触れたら肉も骨も残さずに蒸発してしまうだろう。
 白と赤の光がゴルゴスの喉の奥の闇に吸い込まれていき、ジルとキュルケは身を翻した。地面を蹴って左右に飛びのき、頭から庭園の芝生に突っ込んで、体中を芝の葉だらけにしながらゴロゴロと転がった。そのすぐ横をゴルゴスが象の大群のように、体も浮き上がるほどの地響きをあげて通り過ぎていく。ふたりは芝生に体を伏せたままその激震に耐え、そして通り過ぎていったゴルゴスに対して、短く別れを告げた。
「ごめんなさいね」
 突如、ゴルゴスの岩石の全身から蒸気が噴出した。
 そして、次の瞬間。リュティスの街に虚無の光が閃き、ヴェルサルテイル宮殿の庭園に火山が出現した。
 この日、リュティスの市民は救世主の存在を知る。しかし同時に、偽物の希望を打ち砕ける本物の勇者たちが薄氷の勝利を得ていたことを知る者は、まだ誰もいない。
 
 
 続く


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