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避難所用SS投下スレ11冊目

80ウルトラ5番目の使い魔 22話  ◆213pT8BiCc:2014/08/11(月) 01:41:29 ID:WGhDb4EY
 キュルケは叫んだ。十万トンはある岩石怪獣のどこに核があるか知る術などあるのか? かつて地球に出現した個体は背中の位置に核の岩石が露出していたからそれを引き抜いて倒せたが、今目の前にいる個体の核は体の中に隠れていて、外から見ることはできない。
 のんびり話させてはくれず、ゴルゴスは口から蒸気を吹き、闘牛のようにふたりを押しつぶしにかかってくる。それをひらりとかわし、さらにガーゴイルからの銃撃もなんとか避けきると、ジルは矢筒から一本の矢を取り出して見せた。
「それは、凍矢(アイス・アロー)?」
 軍の名門の家系に育ったキュルケは、その青い石が矢尻になった矢が特別な魔法武器であることを知っていた。
 ”凍矢” 水の魔法力を込められた矢で、命中すれば強烈な冷波が対象を一瞬で凍結させ死に至らしめる恐ろしい武器だ。その威力は大型の猛獣、幻獣でも一撃で倒せるほどで、かつてジルがキメラドラゴンを倒そうとしたときも、切り札としてこれを用意していた。
「わたしにとって、験担ぎのお守りみたいなものでね。こいつを使って奴を倒す」
「でも、相手は岩でできてるのよ。多少冷やしたくらいで倒せるかしら?」
「そうだろうね。けど、こいつには小さいけれど強烈な冷気が溜め込んである。そこに同じくらいの高熱を叩き込んだらどうなると思う?」
 不敵な笑みを浮かべたジルの言葉にキュルケははっとした。
 凍矢にはブリザードに匹敵する冷気が詰め込まれている。そこに高熱、つまり自分の火炎魔法を加えれば、超高温と低温のふたつの相反するエネルギーはゼロに戻ろうとして一気に膨れ上がる、水蒸気爆発だ。
「恐ろしいことを考え付く人ね。でも、それでもあいつを倒せるかしら?」
「ああ、普通にやったら少々表面の岩をはがす程度で終わるだろう。だから、これを奴の口の中にぶち込む!」
 ニヤリと笑い、言ってのけたジルにキュルケは今度こそ戦慄に近い衝撃を味わった。
 口の中にぶち込む、つまり体内で炸裂させるということだが、言ってたやすく実行してこれほど困難なことはない。なぜなら、怪獣の体内奥深くまで撃ちこむには、奴の真正面から、しかも至近距離で発射する以外に手はないのだ。下手をすれば、そのまま突進してくる怪獣に踏み潰されて終わる。
「過激な作戦ね。見直したわ、格好いい死に様にこだわる貴族は山ほど見てきたけど、あなたほど平然と命を投げ出す平民は始めてだわ」
「わたしたち狩人は、命を奪って命は生きることを知ってるだけだよ。で、どうする? お前が乗ってくれないなら、もう玉砕しかないんだけど」
「フフ、愚問ね。挑戦されて逃げたらフォン・ツェルプストーの名折れ、タバサと二度と肩を並べられないわ。なにより、こんな無茶でスリルに満ちた挑戦、情熱の炎がたぎってしょうがないもの!」
 話は決まった。ジルとキュルケは、その命をチップにしてのるかそるかの大博打に挑むのだ。
 ジルの凍矢は一本、キュルケの精神力も一発に全力を注ぐ。死のうが生きようが二度目は絶対にない。
 瓦礫と足跡だらけになり、荒れ果てたヴェルサルテイルの庭に立つジルとキュルケは、こちらへと狙いを定めて突進の力を溜めているゴルゴスを睨みつけた。対してシェフィールドも、感覚的に戦いの終焉を悟って、興奮を隠しきれずに声をあげる。
「どうやら死ぬ覚悟を決めたようね。ヴェルサルテイルの花壇の真ん中に、お前たちの墓を立ててやるわ。光栄に思って死んでいきなさい」
 シェフィールドの憎悪が間接的になのにゾッとするほど伝わってくる。いい迷惑だが、その憎悪には真正面から応えてやろう。


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