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避難所用SS投下スレ11冊目

772ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2017/05/31(水) 20:59:07 ID:WZ82hnBc
 そう親兄弟から教えられてきた人たちは、どこかもどかしい気持ちでハクレイと少女のやりとりを見つめていた。
「なぁ…あの女の人、衛士呼ばないのかねぇ?物盗りなんだろ?」
「物盗りといってもまだまだ幼いじゃないか、ここでちゃんと諭してやれば手を洗うだろうさ」
「甘いなぁお前さん、そんなに甘い性格してる月の出ない夜に財布をスラれちまうぜ!」
「でもいくら犯罪者だとしても、あんな小さい子を衛士に突き出すってのは少し気が引けちゃうよ…」
 少女に詰めよるハクレイを少し離れた位置から眺める人々は、勝手に話し合いを始めていた。
 幾ら犯罪者には厳しくしろと教わられても、流石にあの少女ほどの子供を牢屋に閉じ込めるのはどうかと思う者達もいる。
 そういう考えの者達と犯罪者には鉄槌を、という者達との間で論争が起こるのは必然的とも言えた。
 さて、そんな彼らを余所に少女はハクレイの口から出た、ある一つの単語に首を傾げていた。

「犯…罪?何それ…」 
 まるで他人のお金を取る事を悪い事だとは思っていないその様子に、ハクレイは苦笑いしながら彼女に説明していく。
「う〜ん…何て言うかな、そう…私の財布ごと何処かへ持っていこうとした事が…その犯罪っていう行為なのよ?」
「え?でも…お兄ちゃんが言ってたよ。僕たちが生きるためには金を持ってる奴から取っていかないと――って…」
「お兄ちゃん…。貴女、他にも家族がいるの?」
 思いも寄らぬ兄の存在を知ったハクレイがそう聞いてみると、少女はもう一度コクリと頷く。
 彼女が口にした言葉にハクレイはやれやれと首を横に振り、何ゆえに少女が窃盗を悪と思っていないのか理解する。
 恐らく彼女の兄…とやらは何らかの理由で窃盗を稼業としていだろう。この娘がそれを、普通の事だと認識してしまうくらいに。
 あくまで推測でしかないがもしそうなら自分の財布を返してもらい、見逃したとしても根本的な解決にはならない。
 日を改めた後に、また何処かで盗みを働いてしまうに違いない。そして行く行くは、別の誰かの手によって……

 そこまで想像したところでハクレイはその想像を脳内から振り払い、少女の顔をじっと見つめる。
 自分を見つめるその顔には罪悪感など微塵も浮かんでおらず、まるで磨かれたばかりの真珠のように純粋で綺麗な眼。
 ここで財布を取り返して逃がしたとしても、罪悪感を感じていなければまたどこかで同じ過ちを繰り返してしまうだろう。
 きっとカトレアなら、ここでこの娘とお別れする事はない筈だと…そんな思い抱きながら、ハクレイは少女に話しかける。
「ねぇ貴女、もし良かったら私をお兄さんのいる所へ案内してくれないかしら?」
「え…お兄ちゃんの…私達が『今いる』ところへ?」
 何故か目を丸くして驚く少女に、ハクレイはえぇと頷いて彼女の返事を待った。
 もしここにカトレアがいたのなら、少女が何の罪悪感も無しに罪を犯すきっかけとなった兄を諭していたかもしれない。
 例えそれがエゴだとしても…いつかは破綻する生活から助け出すために、きっと説得をしに行くに違いないだろう。

 半ばカトレアを美化(?)していたハクレイは、ふと少女が丸くなった目で自分を凝視しているのに気が付いた。
 一体どうしたのかと訝しもうとした直前、少女はその体を震わせながらハクレイへと話しかける。
「わ、私達をどうするの?お兄ちゃんと私を、どうしようっていうの…?」
「…?別にどうもしない。ただ、ちょっとだけアナタのお兄さんと話がしたいだけよ」
 急な質問の意図がイマイチ分からぬままハクレイはそう答えると、突き出していた右手をスッと下ろす。
 しかし、それを聞いた少女の表情は次第に強張っていき、一歩二歩…と僅かに後ろへ後ずさり始める。
 それを見たハクレイはやはり警戒されているのかと思いながらも、尚も諦める事無く彼女へ語りかけた。


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