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避難所用SS投下スレ11冊目

76ウルトラ5番目の使い魔 22話  ◆213pT8BiCc:2014/08/11(月) 01:34:44 ID:WGhDb4EY
 こんなはずでは、こんなはずではなかった。シェフィールドは屈辱に身を焦がしたが状況は変わらない。彼女はタバサの実力は正当に評価しているつもりでいたが、ゲルマニアの小娘はともかく、ただの平民とあまったれな韻竜がここまで障害に
なるとは夢にも思っていなかった。
「負ける、私はまた負ける……」
 敗北の恐怖が死神の鎌のようにひやりとシェフィールドの喉元をなでていく。だが、巻き返す手段がない。予備のガーゴイル兵はいくらかあるものの、いまさら投入しても歯が立たずに破壊されてしまうのは目に見えている。
 このままでは、また私はジョゼフ様の期待を裏切る。その恐怖に押しつぶされそうだったそのとき、彼女の主が笑いかけてきた。
「どうしたミューズよ? なかなか楽しんでいたようだが、どうやら詰められかけているようだな」
「ジョ、ジョゼフ様!? い、いえ決してそのようなことは」
「隠さずともよい。お前の顔色くらい簡単に読めるわ。ふっふっふっ、愉快ではないか、シャルロットがいなくとも、まだ余にはこれだけの敵がいてくれるのだ。おもしろいではないか」
 恐縮するシェフィールドに、ジョゼフは意外にも上機嫌な表情を見せた。しかし、だからこそシェフィールドにはたまらなく怖かった。
「ジョゼフ様、非才の我が身、もはや弁明のしようもありません。あのような小娘たちに、私は」
「くはは、気にするな。単に連中が強かったというそれだけのことだ。昔の余とシャルルのようにな……言ったところで仕方のないこと、お前はまだ復讐のチャンスがあるだけ余より恵まれているぞ? 少しは余の気持ちがわかったか? いくら勝とうとしたところで、誰かが自分の上で立ちふさがってくる。際限なくな」
「は、ジョゼフ様……この無念、屈辱。主の御心の内を今日まで理解できずに来たとは、私は最低の不忠者でございます」
「そうでもない。なぜなら、今まで余の心中を理解した人間はひとりもいなかったのだからな。つまり、一番に余の胸中を理解したお前は最高の忠義者ということだ。まぁ、今の余は、その屈辱と怒りを取り戻すためにあがいているのだがな」
 喉をくくっと鳴らして、ジョゼフは自嘲げに口元をゆがめた。その暗い笑顔と、吸い込まれそうに虚ろな闇が広がる瞳はシェフィールドもこれまで何度も見てきたが、いまだにその奥の奥を知ることはできていない。
「まったく人生というものは思ったことの反対になることのなんと多いことよ。だが、余はともかくお前には屈辱と怒りは不要だな。そういえば忘れていたが、余からお前への復帰祝いがある。受け取るがいい」
 するとジョゼフはシェフィールドに、あることを教えた。
「えっ! あ、た、確かに! いつのまに、このような」
「くくく、こんなことがあろうと思っていたわけではないがな。まあ大人もたまにはいたずらをしたくなるときがあるものよ。それを使って屈辱を晴らすといい。余はこれからロマリアの奴らのために英雄と救世主を演じねばならん。忙しくなるから、あとは頼むぞ」
「はっ、おまかせください」
 シェフィールドは腹を決めた。ジョゼフが与えてくれたチャンス、それがたわむれによるものだったとしても、今度こそ無駄にはできない。なによりこの胸の煮えたぎる屈辱を晴らさなくては死んでも死に切れない。
 そのころ、キュルケたちはガーゴイルとフェンリルの掃討をほぼ完了し、いよいよ撤退にかかろうとしていた。


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