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避難所用SS投下スレ11冊目

654Deep River 第三話 ◆BGjq.lB0EA:2017/03/27(月) 00:52:18 ID:DkmUwvwg
ルイズは寮内にあるトイレの前で困っていた。どう困っていたかというと使い魔の少女、サフィーの扱いに困っていたのである。
別にサフィーが面倒事を引き起こしたわけではない。ルイズはこれまでの人生において、当然ながら子育てという物を全くしたことが無かったので、今後どうすればいいかさっぱり見当がつかないのだ。
まず自分の名前と主人の名前をおぼろげながらも言えるようになった。それは人間の基準に照らし合わせて考えれば信じられないほどの早さであった。
しかしサフィーは亜人である。そういった事は人間の域に止まらないのかもしれない。
取り敢えず、次に覚えさせるは日常生活における身の回りの変化に自分で対応させていくという事だ。
部屋の中でルイズが徐にサフィーのスカートを捲くってみると、誰かは分からないが急にもよおす事になっても困らないように、きちんと処置が施されていた。
だが早くこれを外せるようにならないと、後々嫌な噂を立てられることになるだろう。
この際使い魔としての責務とかは後回しにしたって問題は無い。まずは日常生活で困らない程度に基本的な事は覚えさせておかねばならない。それにこのくらいの事は他の者もやっていることだろう。
そういった経緯でここまでやって来たのだが、厄介な事に名前を言う時以外では、サフィーは基本的に「みゅう」しか言わない、というか言えない。
理解したのかしていないのかも分からない、全くの手探り状態で始めることにルイズは不安を感じていた時、後ろからコルベール氏の声がかかった。

「ミス・ヴァリエール!こちらにいましたか!」
「ミスタ・コルベール……あの何か私に御用ですか?」
「実は君の使い魔についてなんだが……今、少しでも時間は取れますかね?」
「え?ええ、少しなら構いませんけど。何かサフィーについて分かった事があるんですか?」

サフィー?ああ、使い魔の名前ですかと思ってコルベール氏はルイズの使い魔を見やる。
すると亜人の少女はびくっと大きく震えてルイズの後ろにさっと隠れた。どうやらとんでもなく人見知りの激しい性格のようである。

「ははどうやら私はその子に嫌われてしまったようですな。」
「すみません。でも多分サフィーは時間をかけて接しないと相手に心を開かないみたいなんです。実際に私も最初は怖がられましたから。」
「そうなのか……君もいろいろと大変なのですな。さてミス・ヴァリエール。話があるのはその亜人についてなのですが……」

その瞬間にルイズの表情に墨のような暗く黒い影がさっと走った。部屋にいる時にちらとでも疑った事がもし本当になるのだとしたら暗澹たる気持ちになったからだ。
ルイズは一言一句を確かめるように話し出す。

「ミスタ・コルベール。サフィーはその、亜人は亜人でも何の亜人なのかは分からないんですね?」
「え?ううむ、確かにどの書籍にもミス・サフィーと同じ特徴を持つ生物は載っていなかった。学院長もご存知ではないそうです。」
「じゃあ、人の手に負えない生き物だとか、災いをもたらすような生き物ではないんですね?」
「まあ、それに関しては未だ調査中です。断定的に言える事は今のところ何もありませんよ。だからあんし……」
「もしそうならサフィーは殺されちゃう。そんなの駄目よ。私にとって魔法が成功した証、いいえ!私の大事な大事な使い魔なのよ!」
「もし?ミス・ヴァリエール?」

心配するミスタ・コルベールを余所にルイズはサフィーをひしと抱きしめて囁くように言った。

「大丈夫よ、サフィー。世界中の人達があなたを狙っても私だけは守ってあげる。怖がらなくてもいいの。私が……命にかけても守るから……」
「ミス・ヴァリエール!」


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