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避難所用SS投下スレ11冊目
65
:
ウルトラ5番目の使い魔 21話 (10/11)
◆213pT8BiCc
:2014/06/25(水) 02:42:00 ID:kt/u.sO.
「父上は、会ってさえくれなかったよ。バカ娘に愛想を尽かしたのか知らないけど、わかってるさ……父上は、わたしに愛情なんか
持っちゃいない。物は与えてくれるけど、思い返せばそれしかしてくれたことないんだ」
そうして、イザベラは生まれてから今日まで、あの父に頭をなでてもらった思い出のひとつもないと自嘲げにつぶやいた。
そんなイザベラの、冷え切った親子関係を聞いて、ジルとシルフィードも心にやりきれない思いを抱かざるを得なかった。
ジルは以前、家族の復讐のために命をかけた。そうするだけの愛が家族にあったからだ。
シルフィードも、タバサの使い魔になる前は両親と暮らしていた。厳しいながらも、大切にしてくれた父と母だった。
けれども、イザベラにはそれがない。家族に愛されることなく育たなくてはいけなかった、そんな苦しみを吐露した彼女に、
憎らしさを感じ続けてきたシルフィードでさえも言葉を詰まらせずにはいられなかった。
「なんだい、同情なんかいらないよ。それより、お前たちシャルロットの連れなんだろ? 呼び出した覚えもないが、あの人を
バカにした面が見えないがどうしたんだい」
それでやっと、シルフィードは自分の目的を思い出した。
ただこのとき、シルフィードにイザベラに助けを求めようという気持ちはなかった。ひねくれた育ち方をした環境には同情するが、
その腹いせにタバサに無理難題を何度も押し付けてひどいめに合わせてきたのは事実だ。そのことを思い出すとむかっ腹が立ち、
シルフィードはジルが止めるのも聞かずに、タバサの身に起きたことをイザベラに洗いざらいぶちまけた。
「シャルロットが、行方不明? しかも、叔母上が宮殿に幽閉されてるですって!?」
「そうなのね、全部あんたのお父さんのせいなのね。お前なんかに関わってる暇なんかなかったのね! ジル、行こうなのね」
嫌いな相手に思う様言い尽くせたことで、シルフィードはもう顔も見たくないというふうに立ち去ろうとした。
だが、肩をいからせて立ち去ろうとするシルフィードをイザベラは呼び止めた。
「待ちな、意気込みはいいが、どうやってヴェルサルテイルに忍び込むつもりなんだ? わざわざ捕まりにいくようなもんだよ」
「そ、そんなこと、お前に言われなくてもわかってるのね。だから困ってるのね!」
「ふん、嘘のつけない奴だね……まあいい、こいつを持ってけ」
そう言うと、イザベラはジルに畳まれた羊皮紙の紙片を投げ渡した。それが、王宮へとつながる地下道の地図だったのだ。
「あんた、これは!」
「少し前ならわたしが連れて入ってもよかったが、今のヴェルサルテイルは要塞みたいなもんだ。だが、その抜け道は王族が
万一のときのために用意されたもんで、存在を知ってるのは王族だけだ。やる気があるなら使ってみな、たぶん気づかれずに
忍び込める唯一の方法だよ」
そんな大事なものを惜しげもなく……さすがのジルも驚いたが、イザベラは一顧だにしなかった。
「勘違いするんじゃないよ。別に罪滅ぼしなんてつもりじゃない。あのシャルロットが簡単にくたばるものか、わたしがなにを
やってもいつも悔しがらされるのはこっちだった。いずれまた、わたしを笑いに帰ってくる。だから、あいつの一番大切なものを
わたしのものにしておいてやるのさ。「あんたの母上はわたしのおかげで助かったんだよ」ってさ! ははっ、あいつは一生
わたしに頭が上がらなくなるんだ!」
そうやって一方的に笑うと、イザベラはすっとジルとシルフィードに背を向けて歩き出した。なかば唖然として見送るジルと
シルフィードの前で、粗末なフードに身を隠したイザベラの姿はあっというまに町の風景の中に溶け込み消えていく。
どこへ向かったかはさだかではない。去り際に、ジルがどこへ行くのかと尋ねたときも、知人のところでしばらく身を隠して、
あとはそれから考えると言い残しただけであった。
しかし、嫌われ者のイザベラをわざわざかくまう奴がいるのだろうか? まして権力も金もない今のイザベラをかくまうなど、
そんな物好きな人間が……?
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