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避難所用SS投下スレ11冊目

51SERVANT'S CREED 0 ―Lost sequence― ◆5QiruB7YUM:2014/06/25(水) 00:08:21 ID:dZuBnIhQ
 マザリーニの言葉に、エツィオは返す言葉がなかった。
アサシン教団の抱える矛盾、平和のための殺人、かつて伝説のアサシンとうたわれたアルタイルでさえ、万人を納得させる答えを得ることができなかった難問だ。まして今のエツィオに答えることができる道理などなかった。

「話の通じぬ者もおります」
「クロムウェルのように、ですかな?」

 マザリーニの問いにエツィオは頷いた。

「戦争を望む人間などそうはいない……それどころか、平和を願う人間のほうが多いと私は信じています。しかしそんな平和を望む人々を、自らの私欲のために戦に駆り出すなど、まして死者を弄ぶなど、断じて許されるものではない」

 エツィオは目を細めた。

「平和と自由、これこそがアサシンの縁(よすが)。人々からこれを奪い、支配しようとする者こそ、アサシンの敵」
「……その刃に例外はないと」

 「はい」と、迷いなく頷いたエツィオに、マザリーニはしばし瞑目する、そして静かに口を開いた。

「あなたは人の心というものを信じているのですね」
「為政者であるあなたにとっては、あまり面白い話ではなかったかもしれません、ですがこれが……我が信条の核を為すものなのです」
「いや、立派な考えをお持ちだ、どこぞの愚かな宮廷貴族どもに聞かせてやりたいくらいです」

 小さくため息を吐くと、マザリーニはエツィオを見つめ、力のない笑みを浮かべた。

「ですが。あなたはやはりまだまだお若い、人の心というものをまだおわかりになっていないようだ」
「……どういう意味でしょう?」
「人の心は移ろいやすいものです、一人一人がそうなのだから、それの集合体ともよべる『民衆』の心は、まさに荒れ狂う『怪物』そのものだ。我々はその『怪物』を、始祖の御名において神より与えられし『王権』という杖によって、手懐けているのです」

 マザリーニはゴブレットの中のブランデーを見つめながら呟く。

「しかし怪物はなぜ『王権』などという概念に頭を垂れるのか。それは人は本来、己の求めているものがわからぬからなのです、それゆえに権力者を頼る。とどのつまり、彼らは自らを導いてくれるものであれば何でもよいのです。現にレコン・キスタの支配するアルビオンはどうでしたか? 民衆はなにも変わらなかったはずです」
「しかし正しい道へ導くのが王の責務かと。民衆が自立し、自らの選んだ道を進めるように」
「ふむ、自由を民衆の手に……ですか。しかしエツィオ殿、自由というものは、『火』に似ています、その光は暖かく、人を惹きつけてやまない」

 静かにマザリーニは語り始めた。
その口調は、まるで司祭が説法を語り聞かせるように穏やかだ。

「しかし、たとえばあなたが父親で、その子供が退屈で泣きわめき、『お父さん、火で遊びたい』と言ったらあなたは火を子供に渡すのですか? 火傷をしたらどうするのです?」
「民衆は子供ではありません」
「そうかもしれませぬな、ですが心のほうはどうでしょう? 彼らにはそれを扱う土台がまだできていない。残念なことに」

 マザリーニはため息を吐きながら、肩をすくめた。

「私とて民衆に自立してほしいと願っております。しかし自由という名の炎に惹かれるあまり、その身を近づけすぎれば、たちまち熱に灼かれ、灯蛾のごとくに燃え墜ちるでしょう。それを防ぐために、火をコントロールする存在が必要だと私は思うのです」


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