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あの作品のキャラがルイズに召喚されましたin避難所 2スレ目
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もしもゼロの使い魔のルイズが召喚したのがサイトではなかったら?そんなifを語るスレ。
(前スレ)
あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part233(実質234)
ttp://changi.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1244070866/
まとめwiki
ttp://www35.atwiki.jp/anozero/
避難所
ttp://jbbs.livedoor.jp/otaku/9616/
_ ■ 注意事項よ! ちゃんと聞きなさいよね! ■
〃 ` ヽ . ・ここはあの作品の人物がゼロ魔の世界にやってくるifを語るスレッドよ!
l lf小从} l / ・雑談、SS、共に書き込む前のリロードは忘れないでよ!ただでさえ勢いが速いんだから!
ノハ{*゚ヮ゚ノハ/,. ・投下をする前には、必ず投下予告をしなさいよ!投下終了の宣言も忘れちゃだめなんだからね!
((/} )犬({つ' ちゃんと空気を読まないと、ひどいんだからね!
/ '"/_jl〉` j, ・ 投下してるの? し、支援してあげてもいいんだからね!
ヽ_/ィヘ_)〜′ ・興味のないSS? そんなもの、「スルー」の魔法を使えばいいじゃない!
・まとめの更新は気づいた人がやらなきゃダメなんだからね!
_
〃 ^ヽ ・議論や、荒らしへの反応は、避難所でやるの。約束よ?
J{ ハ从{_, ・クロス元が18禁作品でも、SSの内容が非18禁なら本スレでいいわよ、でも
ノルノー゚ノjし 内容が18禁ならエロパロ板ゼロ魔スレで投下してね?
/く{ {丈} }つ ・クロス元がTYPE-MOON作品のSSは、本スレでも避難所でもルイズの『錬金』のように危険よ。やめておいてね。
l く/_jlム! | ・作品を初投下する時は元ネタの記載も忘れずにね。wikiに登録されづらいわ。
レ-ヘじフ〜l ・作者も読者も閲覧には専用ブラウザの使用を推奨するわ。負荷軽減に協力してね。
. ,ィ =个=、 ・お互いを尊重して下さいね。クロスで一方的なのはダメです。
〈_/´ ̄ `ヽ ・1レスの限界最大文字数は、全角文字なら2048文字分(4096Bytes)。これ以上は投下出来ません。
{ {_jイ」/j」j〉 ・行数は最大60行で、一行につき全角で128文字までですって。
ヽl| ゚ヮ゚ノj| ・不要な荒れを防ぐために、sage進行でお願いしますね。
⊂j{不}lつ ・次スレは>>950か480KBからお願いします。テンプレはwikiの左メニューを参照して下さい。
く7 {_}ハ> ・重複防止のため、次スレを立てる時は現行スレにその旨を宣言して下さいね。
‘ーrtァー’ ・クロス先に姉妹スレがある作品については、そちらへ投下して盛り上げてあげると喜ばれますよ。
姉妹スレについては、まとめwikiのリンクを見て下さいね。
・一行目改行、且つ22行以上の長文は、エラー表示無しで異次元に消えます。
SS文面の区切りが良いからと、最初に改行いれるとマズイです。
レイアウト上一行目に改行入れる時はスペースを入れて改行しましょう。
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「グルルウゥ、……!?」
口の端から涎をこぼしながら、興奮して狂ったように唸っていたオオカミは、その途端に怯えたように身じろぎした。
まるで、ドラゴンにでも睨まれたかのように。
慌ててディーキンの上から降りて逃げようとしたが、ディーキンはそいつの首に腕を回して、ぎりぎりと締め上げた。
「……ディーキンは、すごく怒ってるの。
たぶん、あんたを締め殺してやりたいんだよ……!」
しかし、コボルドの細腕では、なかなか絞め殺すことができない。
ディーキンは口を大きく開くと、そのオオカミの喉笛にくらいつき、力の限り噛みしめて、牙を深く深く埋めてやった。
オオカミはごぼごぼと血の泡を吹きながら、しばらく身悶えしていたが、やがて動かなくなる。
そいつの死体を放り捨てて起き上がると、勝てぬと悟った残る2匹がキャンキャンと情けなく鳴いて踵を返し、逃げ出そうとした。
「逃げるな! このちっぽけな犬コロめ!」
ディーキンは無意識にそう吠えて、懐から短剣を抜くとそのうちの一頭に投げつけた。
「ギャンッ!?」
短剣は狙い違わず、そいつの後ろ脚を捕えて切断した。
不具となったオオカミの哀れな苦鳴が響く。
ディーキンは脚を失って悶え苦しむそのオオカミに歩み寄ると、新しい短剣を引き抜いて止めを刺した。
それから、最後の一頭を追って洞窟の外へ向かった。
戦いの興奮が少しく引いて、麻痺していた痛みが全身を苛み、失血で傷口が冷えてきていたが、足取りはまだしっかりしている。
洞窟から出て周囲を見渡すと、遠くのほうに、慌てて崖を逃げ下ってゆくのが見えた。
ディーキンは冷たい目で、黙ってその無様な負け犬の姿を見据えると、ゆっくりとクロスボウを取り出してボルトを装填し……。
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あの時の気持ちを思い出すと、ディーキンは今でも体が震える。
身を引き裂かれるような絶望と悲しみ。
煮え滾るような怒りと憎しみ。
初めて自分一人の力で冒険をやり抜いたという、達成感と喜び。
そして……、そればかりではない。
間違いなくあの時の自分は、獣どもの血と臓腑に塗れて、邪悪な衝動、昏い愉悦と興奮を覚えていた。
その証拠に、あの日を境に自分は赤竜になる夢を見るようになり、ドラゴン・ディサイプルとしての修行を考えるようになった。
体の中に眠っていた、地上で最も邪悪な竜族の血が目覚め始めたのだ。
「あの時のディーキンは、ぜんぜん弱くて。牙がいっぱい体に食い込んで、あやうく死にかかったけど……。
それでも、ディーキンはオオカミをみんな殺して、気分がよかったよ。
ママの復讐をして、真の冒険者になったと思ったの。村長も、約束通りに報酬を支払ってくれたもの」
「……っ、」
一瞬、ディーキンの顔が怒り狂う獰猛な火竜か、冷酷な爬虫類のそれのように見えて、タバサは我知らず身を竦ませた。
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そんな表情を彼が浮かべていることが、信じられない。
その表情は自分に向けられたものではないとはわかっているのに、なぜかひどく怖かった。
命懸けの任務でさえ、怯える事など滅多にないこの自分が……。
もしもそれが自分に向けられたものだったら、私は絶望のあまり、引き裂かれるより先に死んでしまうのではないか。
そんな愚にもつかないような考えさえ、心をよぎる。
(私も、復讐のことを考えている時は、あんな顔をしているの?)
だとしたら、その顔を彼にも見られていたことになる。
そう考えると、ひどい自己嫌悪に襲われた。
「今思うと、そんなことで偉いことをしたつもりになってたなんて、恥ずかしいけどね……。
ディーキンは、ルイズたちにだから話したの。みんなには、内緒にしといて」
ディーキンはそう言って、きまり悪そうに頬を掻いた。
幸いにも、その後ほどなくしてディーキンは、ウォーターディープでボスと再会することができた。
そのとき、ディーキンはこの初めての冒険の話を彼にも聞かせた。
少しばかり手柄顔をして、自慢げに。
彼は、自分が復讐の念に駆られて悪でも何でもない動物たちを虐殺したことを少しも責めなかった。
感心しないというような態度さえ見せなかった。
ただ、ママのことを悼み、よく頑張ったなと言って、自分を労ってくれた。
しかし、また彼と旅をして、彼を傍で見るうちに、自然と自分の憎悪に駆られた復讐の行為は誤っていたと悟るようになったのだ。
別に、あのオオカミたちを殺したこと自体が誤っていたとは思わない。
人間を襲って味を占めた彼らは、また別の村人を襲う可能性も高かっただろうから。
だが、ボスなら決して、憎悪に駆られてそれをしはしないだろう。
彼が自分の憎悪ために復讐に走るなど、到底考えられない。
自分は彼に憧れていたはずなのに、殺し合いなど好きではなかったはずなのに、どうしてあんなことをしてしまったのか……。
あの時ほど、自分が英雄の器ではないと痛感したことはなかった。
彼の高潔な生き方に再び接することができなければ、いずれは邪悪な赤竜の血の衝動に飲まれて墜ちてしまっていたかもしれない。
それでもなお、たとえ英雄にはなれなくても、自分は旅を続けたいと思った。
自分は詩人であり、冒険者であるから。
そう思えたあの時に初めて、自分は本当の意味で『冒険者』になったのかも知れないな、とふと思った。
「その……、それで、その後は、どうなったのですか?」
シエスタが、おずおずと質問した。
「うん……。その後、ディーキンは村を出て、ウォーターディープに向かったの。
オオカミを殺したからって、村人がディーキンのことを本当に信頼してくれるわけじゃないもの。
それに、もうママもいないしね……」
彼女のいない村は、それまでのように温かくは感じられなかった。
あの村は、既に自分の居場所ではなくなっていたのだ。
「彼女のことで、ディーキンはボスを思い出したの……。ボスがいなくて、あれほど寂しいと思ったことはなかったよ。
いい仲間が一緒じゃないと、旅はとっても大変なんだってことがわかったの。
それは、ディーキン自身が努力しないってことじゃないけどね」
だから、今のタバサにもきっといい仲間が傍にいてやることが必要なのだと、ディーキンはそう信じていた。
ただ、それを口には出さなかった。
あの時のボスも、きっとそうだったに違いないから――――。
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フェスティヴァル・フィースト
Festival Feast /お祭りの御馳走
系統:召喚術(創造); 2レベル呪文
構成要素:音声、動作
距離:近距離(25フィート+2術者レベル毎に5フィート)
持続時間:2時間
術者は、良質な食糧およびエール、ビール、ワインなどの酒類を創造する。
この呪文によって作り出された酒によって、酩酊状態の悪影響が出ることはない。
なお、創造される飲食物の量は術者レベル毎に人間1人の1日分相当であるが、呪文の持続時間内に消費されなければ駄目になってしまう。
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今回はここまでになります。
またできるだけ早く続きを書いていきますので、次の機会にもどうぞよろしくお願いいたします。
それでは、失礼しました……(御辞儀)
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おつおつ
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こんばんは、焼き鮭です。今回の投下します。
開始は21:43からで。
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ウルトラマンゼロの使い魔
第八十五話「泣くな失恋怪獣」
硫酸怪獣ホー 登場
……ウチのクラスにルイズが転校してきてから、一日が経った。第一印象が最悪だったんで、
一時はどうなることかと思ったが……ルイズはきついところはあるけれど、意外と気さくで
人当たりのいいところがあって、案外すぐ打ち解けられた。いやぁよかった。どうしてかそれと
前後してシエスタが妙に不機嫌になっているが……。
何はともあれ今日も登校すると……校舎の玄関口で、そのルイズが一人の男子といるところを
目撃した。あいつは、確か……同じクラスの、中野真一って奴だったっけな?
ルイズは中野に対して、バッと頭を下げた。
「ごめんなさい!」
何故か謝られた中野は、思いっきりショックを受けているようだった。
「そ、そんな!? ルイズさん、せめてもう少し考えてくれても……!」
「えーと、何て言うか……わたし、あなたをそういう風には見られないんです! だから……
ほんと、ごめんなさい!」
もう一度謝ったルイズが校舎の中へ逃げるように駆け込んでいく。何だ何だ?
「そんなぁ……ルイズさ〜ん……」
置いていかれる形になった中野は、ガックシと肩を落としうなだれた。
呆気にとられる俺とシエスタ。これってまさか……。
「朝から賑やかなことだな」
と言いながら俺たちの元に現れたのはクリスだ。
……あれ? クリスって……この学校にいたっけ? 昨日はいなかったような……。
まぁいいや。俺はクリスに何事だったのかを尋ねる。
「クリス」
「ああサイト、おはよう」
「おはよう。クリス、今さっきルイズと中野が何やってたのか知ってるか?」
「ああ。あの男子が、ルイズに自分とつき合ってほしいと告白をしたんだ」
告白! 俺とシエスタは目を丸くして驚いた。
「しかし、あの様子ではきっぱりと断られたみたいだな。かわいそうに」
「ナカノさん、ルイズさんは転校してきてまだ一日なのに、大胆ですねぇ……」
シエスタが呆けながらつぶやいた。確かに、大胆というか急ぎすぎって感じはするな。
「彼の気持ちがそれだけ真剣だったのだろう。真剣な気持ちに時間は関係がないことと、
師匠も言っていた」
クリスはそう語った。弓道部主将にして剣の達人でもある、女侍といってもいいクリスの師匠……
どんな人なんだろう。
ん? つい最近教えてもらったんじゃなかったっけ? でも、記憶には全然ない。また何か
変な思い違いをしてるのかな、俺……。
俺たちが話している一方で、中野は依然として肩を落としながらトボトボと校舎の中に入っていった。
その背中からは哀愁が漂っている……。確かにかわいそうだが、俺たちに出来ることなんてないよな。
せめて、早く失恋から立ち直ってくれることを祈ろう。
おっと、授業が始まる時間が近づいてきた。俺たちも教室に行こう。
教室に入り、授業が開始される寸前に、ルイズが俺に呼びかけた。
「ちょっと……」
「ん? ああ、また教科書持ってきてないのか?」
俺はまだルイズが教科書をそろえてないのかと思ったが、そうではなかった。
「違う! ……これッ!」
と言ってルイズが俺に突き出したのは、布にくるまれた箱型のものだった。
「何だこれ?」
「これは……その……あの……!」
「あの?」
「お、お、お、お弁当よ!」
弁当? どうしてそんなものを、こんな時間に出すのか。
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「そうか、弁当か。随分でかいな。こんなに食ったら太るぞ」
「わ、わたしのじゃないもん!」
「じゃ、誰の?」
「あ、あ、ああああんたに決まってるでしょ!」
……え?
「俺の? 弁当? お前が?」
「か、勘違いしないでよね! た、ただ、昨日、道でぶつかって謝りもしないままだったから……。
ほ、ほんのちょっぴりだけ悪かったなって! だから、お詫びの気持ちよ、お詫びの! ほ、ほんとに
そ、それだけなんだからね!」
弁当……。女の子が俺に弁当を……。
俺は思わず教室の窓を開け放ち、青空に向かって叫んだ。
「神様ー! 生きててくれてありがとおおおおおお!! 僕は幸せで――――――す!」
「えぇッ!?」
驚くルイズ。周りの奴らもこっちに振り向いていた。
「ど、どうしたの? 平賀くん、何をやってるんですか?」
「ああ、またサイトが変なことしてるだけ。気にしたら負けよ」
目を丸くしている春奈に、モンモランシーがそう答えていた。変なことで悪かったな!
この感動を表現するには、これくらいのことはしないと駄目だったんだよ!
「ちょっと! 恥ずかしいじゃない! どうして空に向かって雄叫び上げるのよ! みんな見てるわ!」
慌てふためくルイズに、俺は熱弁する。
「だって、弁当だよ? 手作り弁当だよ!?」
「そ、そうだけど! は、恥ずかしいからやめてよ!」
「お、俺、女の子に弁当もらうのなんて……。う、う、生まれて初めてで……。うっうっうっ……」
感動のあまり、俺は嗚咽を上げて泣きじゃくってしまった。
「ち、ちょっと泣かないでよ。こんなことくらいで……」
「いやいや、男子高校生三種の神器には、一生縁がないと思ってたから……」
「三種の神器?」
「女の子の手作り弁当、バレンタインデーの本命チョコ、誕生日プレゼントの手編みセーター!
この三つを称して、三種の神器と呼ぶのですッ!」
誰が呼んでいるのかは俺も知らんが、ともかく俺の中ではそうなっている!
「ああッ、今日は最高の日です。お父さん、お母さん。俺を生んでくれてありがとう!」
「ふ、ふーん。よく分からないけど、そんなに喜んでもらえるならよかったわ」
俺の感動ぶりに、ルイズは満更でもなさそうに言った。
「はッ!? そ、そうか、そうだったのか!?」
「え?」
「ちょっとこっちに来てくれ、ルイズ」
「こっちにって……! もうすぐ授業始まっちゃうってば! サイト!?」
教室じゃ何なので、俺はルイズを屋上まで連れていった。
「ごめんよ、ルイズ。君の気持ちに気づかないままで……」
「さ、サイト? な、な、何真面目な顔して……」
戸惑い気味のルイズに、俺は尋ねかけた。
「お前、俺のこと好きなんだろ?」
「なッ!?」
「だから今朝、中野からの告白を断った。そうだろ?」
そうか、そういうことだったんだな……。俺のことが好きだったから、中野の気持ちには
応えられなかったんだな。
「ち、違うもんッ! あれは……!」
「そんな言い訳いらないさ。さあ、ルイズ……!」
「サイト……」
腕を広げた俺の顔を、ルイズはじっと見つめて……。
ドゴォッ!
「バカッ!」
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「ぐがッ!」
お、俺の股間に膝蹴りが決まった……。
「ぐおおおおお……! お、俺の股間の夢工場が……!」
「だ、誰があんたをす、す、好きなのよ!? 全く笑えない冗談だわ!」
苦悶にあえぐ俺に、ルイズは真っ赤になりながら怒鳴りつけてきた。
「一つ教えてあげる! 冗談も過ぎると命取りになるの! 分かった!?」
「……勉強になりました……」
「全く! 馬鹿なこと言ってないで、教室に戻るわよ!」
「ふぁい……」
すっかり怒ってしまったルイズは、早足で屋上から中へ戻っていった。く、くそう……
少し焦りすぎたか……。もっと落ち着いてから質問すればよかった……。ああ、すっげぇ
痛い思いをしてしまった……。
反省しながら俺も教室に戻ろうとした時……扉の陰に春奈とシエスタがいることに気がついた。
あんなところで、授業が始まる前に二人は何をやっているんだ?
「……見ましたか、ハルナさん?」
「ええ、しっかりと。これは……由々しき問題ですね。何とかしなければ」
……な、何をやってたんだ? まさか……さっきの俺とルイズのやり取りをこっそり見ていたんじゃ……。
異様な威圧感のあるシエスタたちに対して、俺は知らず知らずの内に怖気づいていた。
教室に戻ると……中野がとんでもなくショックを受けたような顔をしていて、次いで俺に
一瞬恨めしい視線を向けた。
げッ……そ、そういえばルイズに振られた張本人がいるんだった……。さっきの、俺が手作り弁当を
もらうところを目撃したに決まっているよな……。き、気まずい……。
俺は針のむしろにいるような気分になりながらも、その日の授業を受けたのであった。
そして夜遅くに、自室にいたところにゼロに呼びかけられた。
『才人! 外で何か異常が起きてる!』
「えッ、何だって!? 本当か!?」
『外を見てみろ!』
促されて、窓を開け放つと、俺の住む街に怪しい霧が掛かっていることに気がついた。
「霧……? 今日は晴れだぜ……?」
『ただの霧じゃないぜ。マイナスエネルギーの異様な高まりを感じる……。こいつはマイナス
エネルギーの実体化だ!』
マイナスエネルギー……! 俺も話には聞いたことがある。人間の怒りとか嫉妬とか、
負の感情から生じる良くないエネルギーだとか。あのヤプールのエネルギー源でもある。
このマイナスエネルギーが高まると、怪獣が出現しやすくもなるらしい。
ということは……。俺の嫌な予感は的中してしまった。
街に漂う霧に投影されるように青い怪光が瞬くと、一体の巨大怪獣の姿が不気味に浮き上がったのだ!
「ウオオオオ……!」
「あいつは……!」
まっすぐ直立した体型にピンと立った大きな耳、手の甲は葉っぱのような形状で、腹には幾何学的な
模様が描かれている。生物というよりは、何かの彫像みたいだ。そして二つの目から、何故か涙をこぼしている。
データには、硫酸怪獣ホーとある!
「またまた怪獣か……! 行こうぜ、ゼロ!」
俺は怪獣と戦うために変身しようとしたが、それをゼロ当人に止められた。
『待て、才人! あの怪獣、まだ実体って訳じゃないようだぜ!』
「えッ? どういうことだ?」
『奴はマイナスエネルギーの結晶体の怪獣みたいだが、肉体が完全に固形化してないんだよ。
いわば中間の状態だな』
と言われても、俺にはよく分からないが……。
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と、その時、怪獣ホーの姿が一瞬揺らぎ、あの中野の姿が見えたような気がした。
「今のは中野……!?」
『俺にも見えたぜ。気のせいとか幻とかなんかじゃねぇ。あの怪獣はどうやら、中野真一の
負の感情が中核になってるみたいだ!』
な、何だって!? 中野の感情は、怪獣になるまで大きかったのか……! というかそうなると、
ホーの出現の原因の半分は俺ってことになるのか!? 俺があいつを尻目に、ルイズから弁当を
受け取ったりしたから……。
さすがに中野の感情の化身を闇雲に倒すのは目覚めが悪い。ホーの核があいつっていうのなら、
中野を説得して怪獣を消し去ろう!
「中野に、怪獣を消すように説得をしなくちゃ!」
『ああ!』
俺は遮二無二部屋を飛び出し、中野の家の方へと大急ぎで走っていった。ホーにまだ暴れる
様子はないが、いつまで続くかは分からない!
しかし中野の家にたどり着く前に、夜の街の中で肝心の中野を発見した。何故か、矢的先生と一緒にいる。
「真一、聞こえるか? あの怪獣の鳴き声は、お前の声だ! 夢の中でお前が作ってしまった怪獣だ!
憎しみや悲しみ、マイナスの感情を吸収して、あそこで泣いてるんだ!」
先生は中野に向けてそう告げた。先生もホーの正体を見抜き、俺よりひと足先に中野を説得して、
怪獣から解放しようとしているのか? 民間人のはずの先生が、そんなことまでするなんて……。
そんなにも生徒のことを考えているのだろうか。
話がややこしくならないように、俺は物陰にこっそりと隠れながら話の行方を見守る。
そして矢的先生は、中野に対して語り出した。
「愛しているから、愛されたい。愛されなければ腹が立つ。でも、本当の愛ってそんなちっぽけな
ものなのか? 人のお返しを期待する愛なんて、偽物じゃないかな」
……矢的先生……。
「想う人には想われず! よくあることだぞ。先生だってそんなことあったよ」
「先生も?」
「うん。……故郷にいた頃、本当に好きな女の子がいてなぁ、その子のためなら、何でもしようと思った。
その子、楽器欲しがってたんだ。先生どうしても買ってあげたくてさ、必死になってバイトした! だけどな……
二ヶ月目にやっと手に入れた時には、遅かったよ。その子には、新しい恋人が出来てたんだ。悲しかった……。
悔しかった。憎かったよ! だけどな、先生そのままプレゼントしたよ! その楽器が、先生の本当の心を、
鳴らしてくれると思ってな。それで終わりだよ……! 今はもう懐かしい思い出だ」
先生に、そんな苦い思い出があったんだな……。
『……何だ? どこかで聞いた話のような……』
何故かゼロが首をひねっていた。
自分の過去を話した先生は、改めて中野に呼びかける。
「真一、あの怪獣を作った醜い心が、お前の本当の気持ちなんて先生思わないぞ。今にきっと
お前にも分かる!」
しかし、中野は、
「分からないよ! 俺、憎いんだ! 悔しいんだよぉーッ!!」
その絶叫に呼応するように、とうとうホーが完全に実体化して暴れ始めた!
「ウアアアアアアアア!」
地団駄を踏むように行進して、近くの建物を薙ぎ倒す!
「くそッ、結局こうなっちまうのか……!」
『仕方ねぇ! 才人、怪獣を止めるぜ!』
「ああ! デュワッ!」
俺は街を守るためにゼロアイを装着して、ウルトラマンゼロに変身した!
『やめろ、ホー!』
巨大化したゼロはすぐさまホーに飛びかかっていって、押さえつけて街の破壊を食い止めようとした。
「ウアアアアアアアア!」
けれどホーは暴れる勢いを止めようとしない。その両眼から涙がボロボロと飛び散り、
一滴がゼロの手に落ちる。
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途端に、ゼロの手がジュウッと焼け焦げた!
『うおあぁッ!? あぢッ、あぢちちちッ!』
反射的にゼロは手を放してしまう。
『ゼロ、ホーの涙は硫酸なんだ!』
『くそッ、何て迷惑な奴なんだ……!』
「ウアアアアアアアア!」
ホーはわんわん泣きわめき、辺り一面に硫酸の涙をまき散らす! 何て危険な!
『や、やめろ! くそぉッ!』
阻止しようにも、涙の勢いは雨あられで、ゼロも容易に近づくことが出来ない!
そして涙の一滴が、ホーを生み出した中野にまで飛んでいく!
『あッ……!』
「危ない真一ッ!」
それを助けたのは矢的先生だった。けど中野の身代わりに、先生が肩に硫酸を浴びて火傷を負ってしまう。
「先生……俺のために……!」
「そんなことより……怪獣を見ろ……! 奴は、ルイズの家の方に向かってる……!」
何だって!? 確かに、ホーはどこかに移動しようとしているように見える。まさか、
ルイズを殺そうってのか!? くそッ、それだけは絶対にさせるものか……!
「お前の潜在意識が、怪獣をルイズのところに行かせるんだ! お前は本当にルイズが憎いのか!?
いいのかそれで!」
先生は大怪我を負ってもなお、中野を説得しようとしていた。矢的先生……!
「本当にそれでいいのか!? 真一ッ!」
先生の呼びかけに……中野も遂に応えた。
「消えろー! お前なんか俺の心じゃない! 消えろーッ!!」
中野は自分の憎しみを捨てた!
「ウアアアアアアアア!」
……けど、ホーは消えない! それどころか、ますます凶暴になって暴れ狂う!
『ど、どうしてなんだ!?』
『ホーはもう、あいつの心から離れて独立した存在になっちまった! こうなったからには、
倒す以外にないぜ!』
くっそぉ……! だったら、とことんまでやってやるぜ! 俺たちは気持ちを重ねて、
ホーに立ち向かう!
『おおおおおッ!』
「ウアアアアアアアア!」
今度は硫酸にもひるまず、正面から間合いを詰めて打撃を連続で入れていく! が、ホーは
ゼロの身体を掴んで軽々と投げ飛ばした!
『うッ!』
「ウアアアアアアアア!」
地面に打ち据えられたゼロに馬乗りになったホーは、両手の平で激しくゼロを叩く。
『ぐッ……! 調子に乗るなッ!』
自分の上からホーを振り払ったゼロだが、起き上がった瞬間にホーの口から放たれた火炎状の
光線をまともに食らってしまった!
『ぐああぁッ!』
痛恨のダメージを受けるゼロ! カラータイマーもピンチを知らせる!
『今の光線の威力……何てパワーだ!』
『人の心から生じたマイナスエネルギーを直接吸収して、力と憎しみが膨れ上がってるってところか……!』
マジか……! 人間の憎しみは、それだけのパワーになるってことなのか……! 同じ人間として、
恐ろしい気分になる……。
『だからこそ、負ける訳にはいかねぇぜ! とぉあッ!』
勇んで地を蹴ったゼロは、そのままウルトラゼロキックをホーにぶち込んだ! この必殺キックは
さすがに効いたようで、ホーに大きな隙が出来る。
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「シェエアッ!」
そこにワイドゼロショットが発射される! 直撃だ!
「ウアアアアアアアア……!」
しかし、ホーはワイドゼロショットを食らっても倒れなかった! ほ、本当にとんでもない奴だ……!
『だが、こいつで今度こそフィニッシュだぁッ!』
ゼロはひるまず、ゼロツインシュートを豪快に放った!
「ウアアアアアアアア!」
それが遂に決まり手となった。ホーの全身が赤い炎のように変わり果て、身体の内側から
輪郭の順に飛び散って完全に消え失せた。
やった……! ゼロの勝ちだ。ゼロは恐ろしい、人間の憎しみの心にも勝ったんだ……!
……今日もまた、才人は覚醒して身体を起こした。
「……本当の、愛……」
またしても夢のことはほとんどを忘れ去ってしまった才人だが……誰かが熱く語った
「本当の愛」についての内容だけは、記憶に残っていた。
そして日中、
「こらぁーサイトッ! あんたまた、わたしの見てないところでメイドとイチャイチャしてたそうね!
しかも今度はクリスともだそうじゃない! この節操なしの犬! 一辺教育し直してあげようかしら!?」
ルイズはまた何か変な誤解をしたようで、怒り狂って才人に詰め寄ってきた。いつもの才人なら、
彼女の怒りから逃れようと必死に言い訳を並べていることだろう。
だが、今の才人は違った。
「なぁ、ルイズ」
「な、何よ? 今日はいやに落ち着き払って……どうしたっていうのよ? 何か変よ」
「愛しているから、愛されたい。愛されなければ腹が立つ……。本当の愛って、そんなちっぽけな
もんじゃないだろう?」
困惑したルイズに、才人は夢で覚えた言葉を、すました態度で告げた。
「人のお返しを期待する愛なんて、偽物。お前もそう思わないか?」
ふッ、決まった……と言わんばかりに、格好つけた様子でルイズと目を合わせる才人。
果たして、ルイズの反応は、
「……知った風な口を利くんじゃないわよぉッ!」
余計に怒らせて、ドカーンッ! と爆発をお見舞いされた。
「ぎゃ―――――――――ッ!!」
「ふんッ! どこでそんな言葉覚えてきたんだか……!」
ツカツカとその場を離れていくルイズ。後には、黒焦げになった才人がバッタリと倒れ込んだ
姿だけが残された。
「ど……どうしてこうなるんだ……」
ピクピク痙攣した才人は、そうとだけ言い残して力尽きた。
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以上です。
人の真似をしようとしても、大抵は上手くいかないもの。
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こんばんは。
よろしければ15分頃から続きを投稿させて頂きます。
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「夢……じゃなかったようだな」
藁束の中で目覚めたレオンは、辺りを見回し、溜息を吐いた。
必要最低限の家具しかない殺風景な室内は自分の部屋と似ていなくもないが、そこに置
かれているアンティーク風のタンスやベッドは、明らかに自分の趣味ではない。
何よりベッドの中では、今もこの部屋の主がすやすやと寝息を立てているではないか。
部屋の隅に敷かれた藁束。それが使い魔であるレオンの現在の寝床だった。
申し訳程度に与えられた毛布から這い出ると、女物の下着がその手に触れる。そういえ
ば昨夜、自分の主となった少女に洗濯しておけと渡された気がする。
使い魔の役割は、主人の目となり耳となる事。そして、主人の望むものを見つける事。
昨夜そう説明を受けたレオンだったが、本来ならば可能なはずの視覚・聴覚の共有は何
故か二人の間では行う事が出来なかった。
この世界についての知識を持たないレオンには、主の望むもの――例えば秘薬など――
を見つける事も難しいだろう。
結局、レオンに与えられた役目は、護衛を除けば掃除、洗濯、その他雑用という、使い
魔というよりは使用人のようなものだった。
二度目の溜息と共に下着を床に放り投げ、ベッドの中で未だ夢心地の我が主を眺める。
桃色がかったブロンドの長髪に、磁器のように白くきめ細かい肌。
――黙ってさえいれば、可愛いんだがな。
出来ればこのまま眠っていてもらいたいが、そういうわけにもいかない。レオンは彼女
の使い魔として、与えられた任務を遂行しなければならないのだ。
毛布をそっと剥ぎ取ると、体を揺すり、驚かさないよう極力優しく声を掛ける。
「朝だぞ、眠り姫。起きろ」
「ふぇ……? ああ、おはよ……って、あんた誰よ!?」
身を守るように毛布を引き寄せ、寝惚けた声で怒鳴る主の姿を見て、レオンは三度目の
溜息を吐いた。
「泣けるぜ」
Chapter.2
「確認だけど……あんた、本当に別の世界から来たのよね」
朝に弱いのか、レオンの手を借りて着替えを終えたルイズは――ルイズに言わせれば、
それも使い魔の仕事らしいが――ふらつきながらも何とか椅子に腰掛けた。
寝惚け眼を擦りながら、昨日の記憶を一つ一つ辿っていく。
「ああ、ジョン・カーターの気持ちがよく分かったよ」
「誰よそれ……」
「俺の元いた世界の有名人さ。火星の大元帥だ」
レオンは昨夜見た、夜空に赤と青、二つの月が浮かぶ奇妙な光景を思い出していた。ど
うやらこの世界では月は二つあるものらしい。火星にも衛星は二つ。いつもの軽口のつも
りだったが、意外な一致にうすら寒いものを感じる。
一方のルイズは聞いた事のない単語を並べられ、頭に『?』マークが浮かんでいる。不
満そうな視線を受け、レオンは苦笑とともに突飛な想像を振り払うと、テーブルの上にPD
Aと二挺の拳銃を並べた。
それらを除けば、レオンの所持品はジャケットの下に着込んでいた、動きを阻害しない
程度の軽量のボディアーマー、拳銃の予備マガジンが二本ずつ、手榴弾と焼夷手榴弾が各
一個のみである。
「ふーん。本当、不思議なアイテムよね」
昨夜も全く同じやりとりをしたにも関わらず、ルイズは何が楽しいのか、スノーノイズ
しか映らないPDAを興味深げに弄っている。
壊すなよ、と注意しようかとも思ったが、電波の届くはずのないこちらの世界では使い
道もないだろう。
-
「確かに、ハルケギニアにはないものだって事は認めるわ。そっちの銃も」
仕組みを説明されたところでルイズにはちんぷんかんぷんだったが、ハルケギニアの技
術力で同じ物を作るのは不可能だという事だけはかろうじて理解出来た。
それは銃についても同様で、ハルケギニアでは未だに火縄銃やマスケット銃といった単
発式の銃が主流なのである。
「こっちも確認するが、元の世界に戻る方法は――」
「ないわ。少なくとも、私は知らない」
もはや何度目か分からない溜息を吐く。
本来であれば、サモン・サーヴァントはハルケギニアの生物を呼び出す魔法だ。決して
異世界間を繋ぐ魔法ではなく、何故レオンが呼び出されたのかはルイズにも分からないと
いう事だった。
また、サモン・サーヴァントは使い魔を一方的に呼び出すだけの呪文で、元に戻す呪文
は存在しない。試しにもう一度使ってみようにも、使い魔が死ななければ再度使用する事
は出来ないという。
つまりは、お手上げという事だ。
「あ、そうだ。聞き忘れてたけど、あんた元いた世界じゃ何してたの?」
「そいつは難しい質問だな」
途方に暮れているレオンの事などお構いなしに、期待と不安が入り混じった視線が向け
られる。仕方なく思考を中断し、何と説明すべきか考える。
大統領直轄のエージェント組織に所属していたと言っても、ルイズに理解出来るはずが
ない。ハルケギニアの国の多くは王制国家であり、そもそも大統領とは何かという講義か
ら始めなければならない。
かといって、国で一番偉い人間に全ての行動を容認されていたと正直に説明する事も躊
躇われた。そんな肩書はこちらの世界では何の役にも立たない。それならば、わざわざい
らぬ期待を抱かせる事もない。
「警察官だった。こっちの世界では衛兵みたいなものか」
「へえ! 衛兵だったの!」
ルイズの瞳が輝いた。昨日は農民や商人じゃないだけマシだと自分に言い聞かせたが、
衛兵なら上出来じゃないか。
しかし、そんなルイズの期待は、次の一言で打ち砕かれる。
「ああ、一日だけな」
「あんた見かけによらず根性ないのね……」
ルイズはレオンに負けず劣らず大きな溜息を吐いた。
まさか配属初日に勤務地となる街が消滅したなどという考えに至るはずもない。レオン
だって、今でも長い夢を見ているのではないかと思う事がある。永遠に覚めない悪夢を。
「で、それからは何してたの? まさか無職とか言わないわよね……?」
「それからの仕事は害虫駆除みたいなものかな。デカいゴキブリや蜘蛛に寄生虫。依頼が
あればどこでも駆けつけますってやつだ」
おどけたような口調でそう説明すると、最後に一言、レオンは僅かに顔をしかめつつ付
け加えた。
「例え数か月ぶりの休暇の真っ最中でもな」
今度はルイズが顔をしかめる番だった。
一日で衛兵を辞めて害虫駆除業者に就職なんて、何という転落人生だろう。確かに戦闘
を生業にしてはいるが、まさかその相手が虫だとは。そんな見かけ倒しの駄目男が私の使
い魔なのだ。
――か、考え方を変えるのよ。この平民はあの凄い銃のオプション。そう、あの銃が私
の使い魔なのよ。
必死に言い聞かせている自分が虚しくなり、ルイズは頭を抱えた。
そんなルイズの思いなど知る由もなく、ある意味ドラゴンよりも危険な害虫との戦闘を
生業としてきた男は、決意を新たにしていた。
今こうしている間にも、元いた世界ではバイオテロが発生しているかもしれない。B.O.
W.による新たな被害が出ているかもしれないのだ。
自分は何としても元の世界に戻らなければならない。その為の方法をこの少女が知らな
いのであれば、自分で探せばいいだけだ。
-
レオンはこれまで、どのような理不尽な運命にも抗ってきた。そのスタンスは例え異世
界にあっても何ら変わる事はない。
二人が部屋を出ると、ちょうど隣の部屋から一人の少女が姿を現した。
トリステイン魔法学院は全寮制だ。ならば、この少女も学院の生徒なのだろう。
「おはよう、ルイズ」
「……おはよう、キュルケ」
にこやかに挨拶をする級友に、ルイズは明らかに嫌そうに返事をする。
レオンもこのキュルケと呼ばれた少女には見覚えがあった。確か昨日、自分とルイズを
取り囲んでいた生徒の一人だ。
炎のような赤い長髪と褐色の肌、胸を強調するように着崩した制服が目立っていた為、
記憶に残っている。
「ご機嫌よう、ミスタ・ケネディ」
気が付けば、キュルケの視線はレオンへと向けられていた。彼女もレオンの事をよく覚
えていたらしく、人懐こい笑みを浮かべている。
「名前を憶えていてもらえたとは光栄だな。ええと……」
「キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーよ」
「……噛みそうな名前だな」
クスリと笑ったキュルケの体から、不意に力が抜ける。慌てて支えようとしたレオンの
腕は、柔らかな感触に包まれた。
「キュルケと呼んで」
「あ――――っ!!」
ルイズの絶叫など聞こえないかのように、レオンの腕にしなだれかかったまま、キュル
ケは囁く。
「ああ、逞しい腕……ゼロのルイズなんかの使い魔にしておくには勿体ないですわ。どう
かしら。ルイズの使い魔なんかやめて、私の騎士になってくれませんこと?」
「そうだな。君がカルト教団に誘拐された時は、真っ先に駆けつけるよ」
「まあ、嬉しい! 約束よ!」
何をわけの分からない事を言っているんだ、こいつらは。ルイズは半ば呆れながら、キ
ュルケの頭とレオンの肩を掴み、二人を引き離した。
「ちょっとー、何するのよヴァリエール」
「黙りなさい、ツェルプストー!! こいつは私の使い魔なのよ! あんたの使い魔はそっ
ちでしょうが!」
ルイズが指し示す先には、レオンが昨日B.O.W.と間違えた、真っ赤な蜥蜴が鎮座してい
た。その体は虎ほどの大きさがあり、尾の先には燃え盛る炎が灯っている。
「ええ、そうよ。火竜山脈のサラマンダー、フレイムよ。いいでしょー? 好事家に見せ
たら値段なんかつかないほどのブランドものよー?」
得意気に胸を張るキュルケとその使い魔を見て、ルイズは思わず拳を握り締めた。
ハルケギニアでは『メイジの実力をはかるには使い魔を見ろ』と言われている。
ただの平民とサラマンダー。それは魔法の才能のない自分とトライアングルメイジであ
るキュルケとの実力差を、何よりもはっきりと表していた。
「あ、ああそう! それはよかったわね! だったら、ただの平民なんて相手にする必要な
いじゃない!!」
「あら、勘違いしないで、ルイズ。私は使い魔として彼に興味があるわけじゃないの。一
人の男性として、彼を愛しているの。彼が欲しいのよ」
あまりにもストレートな告白に、ルイズは言葉を失ってしまう。
「それにね、彼は確かにあなたの使い魔かもしれないけど、意思だってあるのよ。彼が誰
を選ぼうと、あなたがとやかく言う事じゃないわ」
「だ、騙されちゃ駄目よ! この女はただ惚れっぽいだけなの!」
「そうね……人よりちょっと恋ッ気は多いのかもしれないわ。でも、仕方ないじゃない。
私の二つ名は『微熱』。松明みたいに燃え上がりやすいんだもの」
キュルケは寂しそうに首を振った。潤んだ瞳が、上目遣いにレオンを見つめている。
「それでも今、私の中にいるのはあなただけ! 信じて、ミスタ・ケネディ! あなたが颯
爽と現れ、あの怪物を退治した時、私の体は炎のように燃え上がったの!」
キュルケは恋愛に関しては百戦錬磨だと自負していた。事実、自分に言い寄られて動揺
を見せない男など、これまで一人もいなかった。
だからこそ、キュルケがレオンの言葉を理解するには、少しばかり時間を要した。
-
「ああ、俺も体が燃え上がりそうだ。お互い少しそいつから離れた方がいいみたいだな」
レオンの視線の先、口から炎を迸らせながら不思議そうに首を傾げるフレイムの姿を見
て、キュルケはようやく自分の魅力が通用しない男がこの世に存在する事を知った。
彼女にすれば渾身の告白を袖にされた形だが、レオンの軽口と、使い魔の大柄な体に似
合わぬコミカルな仕種に、思わず吹き出してしまう。
「ご心配なく。『火』属性の私には涼しいくらいですわ。もしかして、火トカゲを見るの
は初めて?」
「そうだな。10メートルのワニとなら遊んでやった事があるんだが」
「まあ、ステキ! そのお話、詳しく聞かせてくださいません? よろしければ今夜、ベッ
ドの中で……」
瞬間、凄まじい殺気を感じてレオンは視線を移した。自分の主がその小さな体を小刻み
に震わせながら、無言で二人へと杖を向けている。
「まあ、怖い。ではミスタ・ケネディ、今夜お待ちしていますわ」
大袈裟に震えてみせると、キュルケは軽やかな足取りで去っていった。角を曲がる際、
レオンにウィンクする事も忘れない。
「……あんた、まさか行くつもりじゃないでしょうね」
既に誰もいなくなった曲がり角へと視線を向けたまま、ルイズはボソリと呟いた。
「魅力的なお誘いだが、あいにく火遊びは趣味じゃなくてね」
「ならいいけど……」
肩を竦めるレオンを、ルイズは横目で睨み付ける。
「いいこと。確かにあんたが誰と付き合おうとあんたの勝手だわ。でも、キュルケだけは
駄目なの」
そもそも、そんなつもりは最初からないんだが……と、レオンに弁明する暇も与えず、
ルイズは続ける。
「そもそもキュルケはトリステインの人間じゃない。隣国ゲルマニアの貴族よ。そして、
ラ・ヴァリエール家とキュルケのフォン・ツェルプストー家の領地は国境挟んで隣同士!
戦争のたびに戦ってきた! 殺しあってきたのよ!!」
話しているうちに興奮してきたのか、ルイズは堰を切ったように捲し立てる。
気が付けば、ルイズの先祖がキュルケの先祖に恋人を奪われただの、婚約者を取られた
だのと、戦争と関係ない話にまで発展している。
二人の脇を笑いながら通り抜けていく子供達の視線が痛い。
「OK、分かった。微熱の二つ名が示す通り、彼女の家は罪作りな家系って事だ」
「そうよ! だからヴァリエール家の物はもうこれ以上、例え小鳥一匹でも取られるわけ
には――」
「二つ名と言えば、ゼロっていうのが君の二つ名なのか?」
いたたまれなくなったレオンは、何とか話題を変えようとした。その方法はいささか強
引ではあったが、意外にもルイズは言葉を詰まらせる。
「まあ……そんなところよ。今は、ね」
ルイズは目を伏せたまま踵を返すと、そのまま無言で歩き出した。先程までの熱が嘘の
ようだ。
――あまり気に入ってはいないようだな。
彼女の態度は気になったが、とにもかくにも目的は達したのだ。レオンはその二つ名に
ついて、それ以上言及する事をやめた。
しかし、その名の由来はすぐに分かる事となる。
トリステイン魔法学院の学院長室は、五つの塔に囲まれた本塔の最上階にある。
他の部屋と比べ、一際重厚なつくりの室内。しかし、その中央に横たわる生物は、およ
そその部屋に相応しいとは思えなかった。
剥き出しの皮膚。だらりと伸びきった長い舌。同じく剥き出しの脳に穿たれた穴から、
この生物が生命活動を停止している事は誰の目にも明らかだ。
にも関わらず、その死骸が今にも動き出しそうな威圧感を醸し出しているのは、腐敗防
止の為にかけられた固定化の魔法だけが原因ではないだろう。
学院長秘書のミス・ロングビルは、恐怖と不快感からその理知的な顔を歪めた。
「で……君はこの生物をどうしろというのかね?」
この部屋の主である学院長オールド・オスマンは、顔の下半分を覆い隠す長く白い髭を
撫でながら、もう一人の闖入者を眺めた。
-
招かざる客――奉職20年の中堅教師、コルベールの主張はこうだ。
このような生物はどの図鑑にも載っていない。即刻王室の研究機関に引き渡すべきだ。
もっともな意見である。しかし、王室の腰の重さを嫌というほど理解しているこの老人
は、どうにも気が進まずにいた。
報告をしたところで、「いずれ確認に向かう故、それまで先方で保管されたし」などと
適当にあしらわれ、放置されるのが目に見えているのだ。
それならば、いっそ『炎蛇』の二つ名を持つ目の前の教師が焼却してくれれば、どれだ
け楽か。
「誰かが大トカゲか何かの皮を剥いだんじゃろう。他愛もないイタズラじゃよ」
「このような巨大な脳を持つトカゲがいるとすれば、間違いなく新種でしょうね」
ロングビルの冷静な指摘に、オスマンはますます顔をしかめる。どうにも自分は数か月
前に採用したこの秘書に、あまり好意を持たれてはいないようだ。
もっともそれは、退屈凌ぎに彼女の尻を撫でたり、使い魔のネズミ――モートソグニル
を利用してスカートの中を覗き見たりするオスマンの完全なる自業自得なのだが。
「ではコルベール君、君はズバリ、この生物は何だと考えるね?」
「キメラ……ではないかと」
表情を強張らせるコルベールを見て、オスマンはわざとらしく溜息を吐いた。予想して
いた通りの回答だった。
キメラとは数年前にガリア王国の一部貴族がファンガスの森で研究を行っていた、人造
合成獣の総称である。この神をも恐れぬ所業は、研究者自身がキメラによって殺害される
という呆気ない幕切れを迎えた。
今では生み出されたキメラ達も、あらかた狩り尽くされたと聞いているが……
「確かにのう……未だにそんな馬鹿げた研究を続けておる者がおるなら、放ってはおけん
わのう」
腕を組んで、瞳を閉じる。いかにも何かを考えているというポーズ。しかし、そう簡単
に妙案が浮かべば苦労はしない。
それでも数秒の後、オスマンは何とか一つの提案を捻り出す事に成功した。
「おお、そうじゃ。こやつと一緒に呼び出されたというミス・ヴァリエールの使い魔。彼
ならこの生物について、何か知っているのではないかね?」
「そう言われれば、この生物を何とかという名で呼んでいたような……」
「まずは、その使い魔君から話を聞いてみてくれ。どうするかはその後でよかろう」
何の事はない、ただ問題を先送りにしただけなのだが、コルベールはあっさりとその提
案を受け入れた。
コルベールがわざわざこの不真面目な学院長の元へと足を運んだ理由は、この生物の処
遇を訪ねる為だけではない。むしろ、もう一つの用件の方が本題であったからだ。
「それともう一点……オールド・オスマンに見て頂きたいものがあるのですが」
「なんじゃ、まだあるのか」
不満を隠す様子もなく、心底鬱陶しそうな顔と声音でオスマンは答える。
その態度は手渡された『始祖ブリミルの使い魔たち』と題された歴史書を見ても変わら
ない。それどころか、今更何の役にも立ちそうにない古臭い文献を見せられた事で、その
表情には呆れが加味されている。
しかし、続いて差し出された一枚のメモを見た瞬間、オスマンの目の色が変わった。
昨日、コルベールがレオンの左手に浮かび上がったルーンをスケッチしたものである。
「……ミス・ヴァリエールの使い魔に聞かねばならん事が増えるかもしれんな」
その場の誰にも聞こえない程度の声でそう呟いたオスマンは、厳しい表情でロングビル
に退室を促した。
――これでゾンビでも出れば完璧なんだがな。
散乱する瓦礫を拾い上げ、レオンは苦笑した。
彼が立っている魔法学院の教室は、惨憺たる有様だった。割れた窓ガラスから吹き抜け
る風が砂塵を舞い上げ、大学の講義室のようなその室内には、粉々に砕けた椅子や机、生
徒達のものであろうノートが散らばっている。
まるでバイオテロにあった、トールオークスのアイヴィ大学だ。
あの時と違うのは、真実を知る為に教会まで走り回る必要がない事と、惨劇の首謀者が
逃げも隠れもせず、目の前に立っている事だろう。
本塔にある『アルヴィーズの食堂』で、スープとパン二切れというあまりに質素な“使
い魔用の”食事を終えたレオンは、学生達が受ける授業への同席を命じられた。
-
どうやらこの授業は使い魔のお披露目も兼ねているらしく、教室内はさながら動物園の
ようだった。こんな状態で授業になるのかと心配になったが、予想に反して使い魔達は皆
大人しくしている。
「契約したら使い魔は主人の言う事を聞くようになるのよ。あんたは違うみたいだけど」
ルイズが不満げに説明してくれる。なるほど、それも魔法の為せる業なのだろう。
元の世界に戻る為にも、まずは自分を呼び寄せた魔法というものについて知る必要があ
る。そう考えるレオンにとって、一年次の復習を兼ねたこの授業は渡りに船だった。
紫のローブと帽子という、いかにも魔法使いという服装に身を包んだふくよかな中年の
女性教師、『赤土』のシュヴルーズ曰く、この世界の魔法には火・水・土・風、そして今
は失われし『虚無』の五つの系統が存在する。
この世界の魔法は、レオンの世界でいう科学技術に相当し、例えば金属の生成や加工、
石を切り出し建物を建てるといった事までが、シュヴルーズの属性でもある『土』系統の
魔法を使えば可能となる。
メイジのレベルは、魔法の系統を足せる数によって『ドット』『ライン』『トライアン
グル』『スクウェア』とクラス分けされる。シュヴルーズも含め、魔法学院の教師クラス
となると、三系統を足せるトライアングルメイジがほとんどとの事だ。
基本的な説明を終えたシュヴルーズは、次いで土属性の基本である『錬金』の魔法を披
露し、石を一瞬で真鍮へと変えてみせた。
世の錬金術師達が永きに渡り追い求めてきた奇跡が、誰でも使える基本中の基本だと知
り――もっとも金の生成となると、スクウェアクラスの力が必要らしいが――レオンは魔
法の持つ力に、内心舌を巻く。
そして、事件は起きた。
シュヴルーズは錬金を実演する生徒の代表として、ルイズを指名したのだ。
「ルイズ、やめて」
キュルケを始めとする生徒達の制止を振り切り、ルイズは教室の前へと歩を進める。
その表情には緊張の色こそ滲んでいるが、実に堂々たる態度である。レオンには生徒達
の懇願の意図が分からなかった。
「ミス・ヴァリエール、錬金したい金属を強く心に思い浮かべるのです」
優しく微笑むシュヴルーズに頷き返すと、ルイズは机に置かれている石に向けて杖を構
えた。真剣な表情でルーンを唱え、勢いよく杖を振り下ろす。
瞬間、眩い光と共に目の前の石は――――爆発した。
――なるほど。魔法の成功確率が『ゼロ』か。
子供達の反応を見るに、彼女が魔法を使おうとする度に、あの爆発が起きているのだろ
う。教室を破壊した罰として課せられた後片付けを手伝いながら、レオンはゼロと呼ばれ
た少女へと視線を向けた。
レオンに背を向けて床を掃くその小さな肩が、心なしか震えているように見える。
「ルイズ」
肩がビクッと跳ねた。
思わず声を掛けたものの、レオンも二の句が継げずにいる。魔法の存在しない世界から
来た自分が慰めの言葉を掛けたところで、彼女に届くとは思えなかった。
やがて気まずい沈黙に耐え兼ねたように、ルイズが口を開いた。
「……これで分かったでしょ。私がゼロって呼ばれてるわけ」
絞り出したような、か細い声。それでも、一度溢れ出した感情は止まらない。
「笑っちゃうわよね。魔法も使えないくせに、貴族だなんて言って、あんたにも偉そうに
して……これじゃ、平民の方がまだマシだわ」
「おい、俺は別に……」
「あんたも嫌よね。才能も成功確率もゼロのご主人様なんて。いいわ。キュルケの所でも
何処でも行きなさいよ。あの子、トライアングルだもん。ゼロの私と違って、元の世界に
帰る方法だって探してくれるわ」
これまでの生意気な態度からは想像も出来ない、自嘲めいた物言い。
爆発が起きた時、子供達は口々にルイズを罵った。彼女は学院に来てから、いや恐らく
それ以前から、ずっと虚勢を張ってこうした状況に耐えてきたのだろう。
誰からも期待される事も、認められる事もなく、ただ一人耐え続けてきたのだろう。
-
「ゼロってわけでもないと思うがな」
ルイズの動きが止まる。レオンからはその表情は窺えない。
「爆発が起きた。俺からすれば立派な魔法だ」
脳がその言葉を認識するよりも早く、ルイズは体がカッと熱くなるのを感じた。
馬鹿にされている。メイジだけでなく、使い魔である平民にまで蔑まれている。
情けない表情を見られないように背を向けていた事も忘れ、ルイズは使い魔を振り返る
と同時に叫んでいた。
「何がっ……何が魔法よ! あんなのただの失敗じゃない!! ……いいえ、その通りね。
私に使える魔法なんて、どうせあの失敗だけよ。ゼロのルイズだものね……!」
怒りに任せ感情を吐き出すルイズを、レオンは黙って見つめていた。そして、彼女が荒
れた息を整えるだけの時間を空け、おもむろに口を開く。
「なら、もし君の目の前に怪物に襲われ、助けを求める人がいたらどうする? 君はゼロ
だからと見て見ぬふりをするのか?」
ギリ、とルイズの歯が軋む。この使い魔は何処まで私を馬鹿にすれば気が済むのだ。
悔しさから、ルイズは再び声を荒げる。
「そんなわけないじゃない! 私は貴族よ! 貴族が敵に後ろを見せるなんて、ありえない
わ!! ……それでもっ!」
ルイズの瞳からは、間際で堪えていた涙が溢れ出していた。
使い魔に馬鹿にされた事が悔しいのだろうか。それとも、自分が現実から必死に目を背
けていると気付いてしまった事が悔しいのだろうか。ルイズにもよく分からなかった。
「それでも……あんたに言われなくても、本当は分かってるわよ……ゼロの私に出来る事
なんて何もないって……」
分かってはいた。分かってはいたが、考えないようにしていた。自分はいずれ魔法が使
えるようになるのだから。それでも、心の何処かではいつも思っていた。自分は一生魔法
なんて使えないのではないかと。
涙でぼやけた視界に、不意に何かが飛び込んで来た。
反射的に受け止める。レオンが自分に向かい、先程拾い上げた瓦礫を放ったのだと気付
くには、少しの時間を要した。
意図が分からず、ルイズはレオンを濡れた瞳で睨み付ける。
「これだけの爆発が起こせるなら、どんな奴でもフッ飛ばせるさ」
出会った時と同じ様に、青い瞳が真っ直ぐにルイズを見つめていた。
誰しもが望んだ力を手に入れられるわけではない。
鳶色の瞳を見つめながら、レオンは一人の少女を思い出していた。
マヌエラ・ヒダルゴ――エージェントとなったレオンが南米の某国で出会った少女。少
女は不治の風土病の治療の為、t-Veronicaと呼ばれるウィルスを投与されていた。
ウィルスを適応させるには、多くの人間の命を犠牲にする必要がある。そして適応出来
なければ、理性を持たぬ怪物と化す。
全てを知ったマヌエラは、人としての死を望んだ。
それでも彼女は、最終的にはウィルスによって得た力を使い、窮地に陥ったレオン達を
救うという道を選択した。
――死ぬべき人間など一人もいない。それに、犠牲となった少女達の為にも、君には生
きる義務がある。
あの時、レオンはマヌエラにそう告げた。それは、彼女に人として生きて欲しいという
レオンの願いでもあった。
しかし、あの時パートナーとして背中を預け、そしてあの任務により道を違えた男――
後に自分とレオンを『コインの表と裏』と称した男は、こう思ったはずなのだ。
――お前は残酷だ、レオン。彼女には誇りを与えるべきだ。新たな生命体としての。
レオンは今でもそれが正しいとは思わない。人としての死を望んだマヌエラは、人とし
て生きるべきだ。しかし、あの男の考えが全て誤りだと言い切る事が出来るだろうか。
人間であろうとする彼女の心も、彼女がレオン達を救う為に使った力も、彼女以外の誰
にも否定する事など出来やしないのだ。
――本当に、俺達はコインの表と裏だな、クラウザー。二つを足して、ようやく正しい
答えに行き着くなんて。
-
だから、自分はあの時、本当はこう告げるべきだったのだ。
「その力は君が望んだものではないだろう。それでも、それは確かに君の力だ。誰かを救
う事が出来る力だ。それをゼロにするかどうかは、君が決めればいい」
唖然とした。
小さい頃から駄目だ駄目だと言われ続けてきた。ヴァリエール家の面汚しだと陰口を叩
かれていたのも知っている。父も母も、もはや自分には何の期待していない。
そんなルイズにとって、爆発はただの失敗の証でしかなかった。
何も言えず、ただただ立ち尽くすルイズの視線の先に、レオンは左手を翳す。サモン・
サーヴァントの成功の証であるルーンは、光の加減のせいか、僅かに輝いて見えた。
「それに、俺を呼び出してこいつを刻んだのは君だろ。勝手に呼び出されて、勝手に暇を
出されちゃ、たまったもんじゃない」
微笑みを向けられ、ルイズは慌てて視線を逸らした。
「……な、何も知らないくせに、適当な事言わないでよ」
ルイズに同情や慰めをくれる者も中にはいた。次姉が本心から自分を心配してくれてい
る事も知っている。
それでも、今のルイズに出来る事があるなどと言う者は一人もいなかった。
――本当に……
言いたい事だけ言って、いつの間にか片付けを再開している使い魔の姿を、横目でチラ
リと見やる。
――本当に、私にも出来る事があるのかな。
それが分かれば、こんな自分の事でも、少しは好きになる事が出来るのだろうか。
――なんて……何、使い魔の言葉なんかに感化されてんのよ、私。
決闘だ、と喚き立てるクラスメイト――ギーシュ・ド・グラモンを眺めながら、ルイズ
は数時間前の自分を激しく後悔した。
ようやく片付けを終えたルイズは、遅めの昼食をとるために一人食堂を訪れていた。
レオンは学院内を見て回りたいと席を外している。先程取り乱した姿を見せてしまった
為に、ルイズを気遣い一人にしてくれたのかもしれない。
後でコックに言って、彼の分の昼食を取っておいてもらおう。少なくとも、朝食よりは
マシなものを。
「君の軽率な行動のおかげで二人のレディの名誉が傷ついた! どう責任を取るつもりだ
ね!?」
食堂に似つかわしくない怒声が響き渡り、ルイズは不快そうに顔を上げた。
その声の主には見覚えがある。金色の巻き髪。フリルのついた小洒落たシャツ。ルイズ
の級友でもある、ギーシュだ。
それなりに整った容姿と軍の元帥の息子という肩書から、彼を慕う女子は少なくない。
しかし、そのキザで見栄っ張りで移り気な性格の為に、彼を避けている女子もまた少なく
はなく、ルイズも後者だった。
ギーシュの前では黒髪の給仕――確かシエスタという名だった気がする――が何度も頭
を下げている。彼女が何かヘマでもしたのだろう。そう珍しい光景でもない。
ルイズとしては厄介事に関わるつもりはさらさらないのだが、興奮したギーシュがあま
りにも大声で喋るので、事の顛末が嫌でも耳に入ってしまう。
発端は彼が落とした小瓶をシエスタが拾った事だった。
ギーシュは知らぬふりをしたが、彼と一緒にいた友人が、その小瓶の中身を同じくルイ
ズの級友であるモンモランシーの香水だと気付いてしまった。
ちょうどその場に現在ギーシュが必死にモーションをかけている一年生のケティという
少女とモンモランシーがいたのが運の尽き。哀れ二股がバレたギーシュは二人の女性に愛
想をつかされ、先程の発言へと繋がったようだ。
――何よ、それ。無茶苦茶じゃない。
ルイズは呆れてしまった。
それでも、普段のルイズであれば無視をして食事を続けていたかもしれない。しかし、
その時、ルイズの頭の中には使い魔の言葉が甦っていた。
-
こんな自分にも出来る事がある。
だからこそ、ルイズはつい立ち上がり、余計な口出しをしてしまったのだ。
「あ、あの……?」
突然現れ、無言のままつかつかと二人の間に割って入ったルイズに、シエスタは怯えた
瞳を向けた。
椅子に腰掛けたままのギーシュも、この少女の目的が分からず、ただ呆然とルイズを見
上げるしかない。
「……? いったい何だと言うのだね、ゼロのルイ――」
「馬っ鹿じゃないの? そんなの、完全にあんたの自業自得じゃない。貴族が八つ当たり
してんじゃないわよ、みっともない」
時が止まった。遅れて周りにいた彼の友人達からドッと笑いが起こる。
「ゼロのルイズの言う通りだ! お前が悪い!」
「ルイズが『ゼロ』なら、お前は『二股』のギーシュだな!」
ピシリ、とギーシュは自分の体にひびの入る音が聞こえた気がした。よりにもよって、
ゼロと呼ばれる落ち零れに笑いものにされるなんて、彼には耐え難い屈辱だった。
それでも、この時のギーシュはまだ、かろうじて冷静さを保っていた。
「は、はは……君は何か勘違いをしているようだな。だいたい君は一部始終を見ていたわ
けではないだろう。それなのに口を挟むなんて貴族として……」
「あんた、声がでかすぎるのよ。あんたの二股はもう、ここにいる全員に知られてるわ」
慌てて周囲を見回す。様子を見守っていた者達が、自分の首の動きに合わせて視線を逸
らせていくのが分かった。生徒だけでなく給仕の平民の中にさえ、口元に手を当て、笑い
を堪えている者がいる。
怒りと羞恥からギーシュの顔は真っ赤に染まっていた。
「き、き、君は言いがかりをつけるだけでは飽き足らず……我がグラモン家の名まで汚そ
うというわけか……!」
「はあ? だから、それもこれも全部あんたが――」
ガタンと椅子を倒し、ギーシュは立ち上がった。驚いて一歩下がったルイズの鼻先に、
手にしていた薔薇の造花を突きつける。
「け、け、け……決闘だ――!!」
「け、決闘って、あんた本気で言ってるわけ? だいたい貴族同士の決闘は……」
「ああ、禁止されている。しかし、君は僕を侮辱したのだ。これで君が詫びを入れないと
言うならば、僕の名誉を回復するには、もはや決闘しかあるまい」
ルイズは後悔していた。
しかし、だからといって詫びを入れるつもりなど毛頭ないし、こうなった以上、シエス
タを見捨てて立ち去るなどという選択肢が彼女の中に存在するはずもない。
――決闘? 上等じゃない!
ルイズはマントの下の自分の杖へと手を伸ばす。
先程使い魔にも言われたばかりじゃないか。自分の爆発の力は戦闘に使える。ギーシュ
はメイジのランクとしては最下級のドットメイジ。勝てない相手ではないはずだ。
――でも……本当に爆発が起こせるの?
しかし、ルイズの手は杖に触れる寸前で止まってしまう。
彼女は気付く。自分が決闘は疎か、魔法を使った戦闘らしい戦闘をした事がない事に。
そもそも、ルイズは自らの意志で爆発を起こした事など一度もないのだ。
もし爆発を起こそうとして、何も起きなければ――その時こそ、自分は本当のゼロにな
ってしまう。
心に灯った火が萎んでいくのを感じる。
10年以上もの間、浴びせ続けられた否定の言葉は、少女から自分を信じる力さえ奪い去
っていた。
無言のまま俯いてしまったルイズを見て、ギーシュは内心でほくそ笑んだ。
-
ギーシュだって、禁止されている決闘を行うような馬鹿な真似をするつもりはない。し
かし、自分に恥をかかせたこの少女をただで帰すわけにもいかない。
――相手はあのゼロのルイズだ。ここまで脅せば、きっと謝ってくるに違いない。それ
を快く許してやり、度量の広さを見せつける。ああ、何と完璧な作戦なのだろう。
周囲の者がギーシュの度量をどう評価するかはともかく、全ては彼の目論見通りに進ん
でいた。そのはずだった。
「――なるほど、貴族同士の決闘は禁止か。勉強になるよ」
不意に、ルイズの背後から聞き覚えのある声が響いた。彼女にはその声が、とても懐か
しいもののように聞こえた。
ギーシュの余裕に満ちた表情が、忌々しいものを見たかのように歪んでいく。
「こっちに来てまだ日が浅いものでね。ついでに教えてくれないか? 貴族と平民が決闘
した場合はどうなるのか」
ルイズが振り向いた先には、不敵な笑みを浮かべる使い魔の姿があった。
-
今回の投稿は以上となります。
なるべくこのくらいのペースで続けられるよう頑張ります。
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乙です
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割とどうでもいいシーンをざっくり飛ばしてるのいい感じだと思う
あと、使い魔が何らかの理由で食堂にいなくって、ルイズが止めたからって
ギーシュがルイズに挑むのってたまにあるけど、これはちゃんとわかってポーズでやってるのがいいな
本気でルイズとやろうってのはいくら何でもアレだよなあ
-
こんばんは、焼き鮭です。今回の投下をさせてもらいます。
開始は20:00から。
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ウルトラマンゼロの使い魔
第八十六話「怪獣は動く」
不動怪獣ホオリンガ 登場
トリステインの一地方の、小さな農村。背景に野山が並ぶ、のどかな空気が流れる平和な土地である。
ここの畑の一つを耕している農夫に、通り掛かった農夫仲間が呼びかける。
「おーい、今日はいい天気だっぺなぁ〜」
「ああ、そうだっぺなぁ。ほんに畑仕事日和だっぺ」
鍬を振るう手を一旦止めた農夫が、仲間と立ち話をする。
「それにしても、戦争が終わってからほんに平和になったっぺなぁ。重くなる一方だった税金も
軽くなって、はぁ〜、まさに女王陛下さまさまだっぺぇ」
「ほんとになぁ。ウチの兵隊に出ていった息子も無事帰ってきたし、ひと安心だっぺよ」
「……けど、ここのところは刺激的なこともすっかりなくなって、何だか退屈だっぺよ。
来る日も来る日も変わり映えのない畑仕事ばっかり。ここらで何か面白いことでも起こらんもんだっぺかな」
「おいおい、そんな贅沢なことを言うもんじゃねぇっぺ。何をおいても、平和が一番! 今度の戦争で
それがよく分かったろうよ?」
「まぁ、そうだどんけどな」
アハハハと朗らかに笑い合う農夫たち。こんな風に他愛ない話で楽しめるのも、平和である証だ。
しかし、ふと背景の山々に目を向けた農夫が、訝しげに目を細めた。
「んん〜……?」
「おい、どうしたっぺ?」
「なぁ……何か、山が多くないっぺか?」
「はぁ?」
おかしなことを言う農夫に、仲間はすっとんきょうな声を上げた。
「何を言うっぺか? 山が多いって……そんなことあるはずなかろうて」
「いやいや、あそこ! いつも見てる景色と、今日はなーんか違う気がするっぺよ!」
農夫が指差す方向に、仲間も顔を向けた。
「そうかぁ? 気のせいだろうよ。落ち着いて考えろよ。山が増えるなんて、いくら何でも
ある訳ねぇっぺ」
「けんど……」
もう一度山地に視線を送った農夫が、ギョッと目玉を剥いた。
「お、おい!」
「あん?」
「今、山が一つ動いたっぺ!」
その言葉に、農夫仲間はとうとうおかしくなったのかと心配になった。
「おめぇ、頭大丈夫っぺか? 山は生き物じゃねぇど。動くかよ」
「け、けど、あれ!」
農夫がしきりに指を差すので、仲間はやれやれと肩をすくめ、指の先へと視線を戻した。
そして彼も、表情を驚愕に染めることになった。
「な、な、な……なぁぁぁぁ――――――――――――!?」
「や、山が動いとるだよぉぉぉぉぉぉ――――――――――――!!」
二人が目撃したのは……野山と野山の間から、「山のような何か」がズズズズ……とゆっくり
移動している現場であった。
毎度お馴染みのトリステイン魔法学院、寮塔のルイズにあてがわれた部屋。
「なぁルイズ……クリスのことなんだけどさ」
「何よ、いきなり改まって」
才人が神妙な面持ちで、ルイズに話を振っていた。
ちなみに二人が座っている場所は、畳の上。そして囲んでいるのはちゃぶ台。何故西洋風文化の
世界のハルケギニアに、こんな不釣り合いのものがあるかと言うと、先日復学したタバサが
持ち込んできたところを発見した才人が、日本にいた頃を懐かしんで譲ってくれるように
頼み込んだからだ。タバサの方も、畳とちゃぶ台をどうしようか少し悩んでいたというので、
快く受け取ることが出来た。そしてルイズの部屋に運び込み、以前寝床にしていた藁を敷いていた
部屋の隅に設置し、才人のスペースにしたのであった。
-
しかしタバサがどういう経緯でこんなものを手に入れたのかはよく分からなかった。
里帰りしていた時に、色々あったみたいだが。
それはともかく、才人はまだ椅子を使わずに直接座ることに慣れていない様子のルイズに言った。
「今日もクリス、独りぼっちだったな。話しかける奴は、俺らだけだった」
「……そうね」
コクリと、ルイズは小さく首肯した。
クリスが学院に編入してから数日が経過していたが、クリスは現在のところ、ルイズと才人以外に
全然友達が出来ていなかった。それどころか、誰も近寄ろうとしない。やはり、クリスの格好や言動、
振る舞いが他と違いすぎるから敬遠されてしまっているようだ。
この状況を、才人は苦々しく思っているのであった。
「クリスのこと、どうにかならないかな。あいつ、時々突拍子もないこと言ったりやったりもするけど、
根は真面目でいい奴なんだぜ。それなのに、腫れ物みたいに扱われるなんてひでぇよ」
この才人の意見に対し、ルイズも渋い顔をしながらも返答する。
「気持ちは分からなくもないけど……貴族って、多分あんたが思ってる以上に閉鎖的なものなのよ。
自分たちにとっての変わり種は、そうそう受け入れようとは思わない……。わたしだって色々と苦労したものよ」
経験談を語るルイズ。確かに、会ったばかりの頃のルイズは周りから「ゼロ」と軽んじられ
半ば仲間外れにされていて、大変そうだったと才人は思い返した。現在はほぼ対等の立場と
なっているが、それは『虚無』に目覚めたことでコモン・マジックを扱えるようになってから……
貴族にとっての「普通」になってからようやくのことだった。
「他にも、貴族社会のしがらみのこともあるわ。その点においては、クリスが他国の王女だと
いうのが一番のネックになってるのよ」
「他国の王女だってのが問題って……他の国の留学生ならタバサとかキュルケとかがもういるし、
何よりクリス、自分のことは王女と思わなくていいって言ってたじゃんかよ」
「クリス自身がそう言ってても、周りが同調するとは限らないわよ。むしろ、クリスに賛同する
者の方が圧倒的に少ないでしょうね。本人がどう言おうとも、周囲はどうしても彼女を「王女」、
つまり「一つの国そのもの」として見るわ。それに親しくしようとするのは、他国に取り入ろうと
してると見られてしまうって訳。そんなマイナスイメージがついたら、貴族社会で苦しい思いを
することになるでしょうね。……「他国の貴族」と「他国の王女」じゃ、その点が大きな違いなのよ。
そしてその意識を変えるのは、所詮一生徒と成り上がり貴族には無理難題よ」
憮然とした才人に、ルイズは諭した。
「何だよ、それ。くっそ、貴族ってのはいちいちめんどくさいな……」
大きなため息を吐いた才人は、論点を変えながら話を続ける。
「でも、俺たち姫さまから、クリスのことをよろしく頼まれただろ。それを反故にするのか?」
アンリエッタのことを出されると、ルイズはうッ、と息を詰まらせた。
「そんなつもりじゃないけど……だからって、具体的にどうしようってのよ。たとえば、
あんたの世界だと転校生はどんな風に扱われるの?」
聞かれて、才人は答える。
「俺の世界じゃ、そもそも身分の違いなんてもんはないし……転校生が来たら、仲良くしようって
歓迎するもんだよ。クラスのみんなで、パーティーとかもするんだぜ」
そう言ったら、ルイズが食いついた。
「パーティー? ……なるほどね。それ、なかなか悪くないじゃない」
「え?」
「貴族の世界も、親交を深める手段として最も用いられるのはパーティーを開催することだわ。
一対一だと変な勘繰りをされるかもしれないけど、不特定多数と平等に接すれば、他意があると
思われる可能性は少なくなるでしょうね」
ルイズの言うことは才人には少し難しかったが、同意してくれているということだけで十分であった。
-
「そっか! ルイズがそう言うんだったら、その方向で行こう! クリスを中心に、学院でパーティーだ!」
張り切る才人だが、ルイズはそのことで違う問題を挙げた。
「でも、パーティーをやるとして、今度はその内容をどうするかを考えないといけないわよ。
何せ、普通のパーティーじゃクリスがまたいらないことを言って、せっかくの席をぶち壊しちゃう
かもしれないし。それに、パーティーするなら少なくとも広間が必要よ。そこを貸してもらう
許可が下りるかしら」
「うッ……まだそんなに問題があるのかよ」
嫌になってくる才人だが、ここで閉口していては先に進まない。
「それじゃまずは、どんなパーティーにするかの案を……」
と言いかけた時に、ゼロがいきなり声を発した。
『話の途中ですまねぇが、一旦そこまでにしてくれ。才人、怪獣がこっちに近づいてるぜ!』
「えッ!? マジかよ!」
途端に才人とルイズは身を強張らせた。
『嘘言うもんかよ。気配が異様に静まってるからなかなか気づけなかったが、一度捕捉すりゃ
はっきりと分かる。もう結構近いとこまで来てるようだ』
「そうか……分かった。どんな奴か知らないが、放っとく訳にはいかないよな」
気配が異様に静まっている、というのが奇異であったが、そこを考えるのは後からでもいい。
才人はさっと立ち上がる。
「怪獣の接近を止めないとな。ってことでルイズ、行ってくるぜ」
「頑張ってね、サイト」
壁に立てかけていたデルフリンガーを背負った才人を、ルイズはひと言だけ告げて応援した。
「デュワッ!」
ウルトラゼロアイを装着すると、ゼロへ変身した才人が光に包まれながら学院から飛び出していった。
才人が変身する少し前、タバサはシルフィードに跨って学院から飛び出し、学院に接近しつつある
怪獣の姿をひと足先に確認していた。直前に空の散歩をしていたシルフィードが、たまたま発見して
彼女に報告していたのだ。
「お姉さま、あれなのよ! ホントに、小山が動いてるみたいでしょ? きゅいきゅい!」
シルフィードが指す先にいるのは、動く小山……と思わせるような、重量級の怪獣であった。
二つの真ん丸とした目玉に、青い胴体からはいくつもの触手を伸ばしている。そして口に相当する
部分には、黄色い花をちょこんと生やしている。それがズズズズ……とゆっくりと学院の方向へと
移動している。
花があることから想像がついたかもしれないが、この怪獣は動物型ではなく植物型。名をホオリンガという。
そしてタバサは、以前に書籍でこのホオリンガの姿形を目にしていた。
「あの怪獣は……トリステインの一地方の伝承を纏めた本の挿絵にあった怪物と瓜二つ」
「お姉さま、あの怪獣のことを知ってるのね?」
シルフィードの問い返しにコクリとうなずくタバサ。
「……確か、現れた場所から一歩も動かずに、土地に栄養を与えた後に山に変貌するという。
その地方では、自然の神として信仰されてたこともあるとか」
「山に変わる? どういうことなのね?」
「そのままの意味らしい」
「……よく分からないけど、そんなシルフィにも分かることが一つあるのね」
シルフィードは地上のホオリンガへと視線を落とした。
「一歩も動かないって、あの怪獣は明らかに動いてるのね。おかしくないかしら?」
「……わたしにも、そこはよく分からない」
そう話していたら、ゼロが現場に到着した。実体化した彼はホオリンガの前に着地して、進行を妨害する。
『待ちな! これ以上は学院には近づかせねぇぜ! そこで止まれ!』
手の平を向けて高々と告げるが、
「キュウウゥゥゥイ!」
-
ホオリンガはまるで聞き入れた様子がなく、速度を保ったまま前進し続けている。それを見た
ゼロが舌打ちした。
『聞いちゃいねぇか。……って言うか……』
ゼロはホオリンガの眼に注目した。おぼろげにしか光が灯っていない。
『どうも正気じゃなさそうだな。……この前のティグリスもそんな感じだったな……立て続けに
そんなのが現れるとは、やっぱり何か恣意的なもんがあるのか……?』
一瞬考え込んだゼロだが、すぐに意識をホオリンガに戻す。
『とりあえず考えるのは、こいつを正気に戻して元の居場所に帰してからだ!』
向かってくるホオリンガに飛びかかっていくゼロだが、ホオリンガはティグリスの時とは異なり、
自発的にゼロに攻撃を仕掛ける。
「キュウウゥゥゥイ!」
胴体から生える長い触手がいくつもうごめき、ゼロへと伸びていった!
『おっと!』
しかしさすがはゼロ、複数の触手を難なく回避。だがホオリンガも諦めず、しつこく触手を振り回す。
『よッ! はッ! とッ!』
正面からの突きを、首を傾けてよけ、袈裟に振るわれたものはくぐり、足元を狙った横薙ぎは
軽く跳び越える。巧みな身のこなしだ。
『へへッ、今度はこっちの番だぜ!』
そろそろ反撃しようとするゼロ。だがその瞬間に、ホオリンガの花から大量の黄色い花粉が噴き出した!
『うわっぷッ!?』
ゼロは突然の花粉をもろに浴びてしまった。それにより、
『は、はぁっくしッ! べっくしッ! く、くそぉ……!』
花粉が呼吸器を刺激し、くしゃみが止まらなくなる。いくら身体を鍛えようとも、こういうものは
どうしようもない。
くしゃみのせいでろくに身動きが取れなくなっていると、地面から触手が突き出てきて、
ゼロの四肢を拘束して空中に持ち上げた!
「キュウウゥゥゥイ!」
『うおわッ!? くぅッ……!』
ホオリンガは捕らえたゼロをそのままギリギリと締め上げる。苦痛にうめくゼロだが、
もちろんやられたままではいない。
『しょうがねぇ……ビリッと行くが、勘弁してくれよ!』
意識を集中し、ツインテールに浴びせたような電気ショックを身体から発した。電撃は触手を通じ、
ホオリンガ本体を痺れさせた。
「キュウウゥゥゥイ!」
『よし、今だ!』
ホオリンガが停止している隙に、ルナミラクルゼロへ変身。素早く浄化技を放つ。
『フルムーンウェーブ!』
光の粒子を浴びて、ホオリンガの触手がダラリと垂れる。そして二つの目玉に青い輝きが灯った。
「キュウウゥゥゥイ……」
ホオリンガは辺りを見回すと、クルリと反転して来た道をそのまま引き返していった。
ホオリンガはもう大丈夫。このまま元々の場所へ帰り、自らの栄養を土壌に与えて野山の一つになり、
自然と一体化するその時を待つ、本来の生態を取ることだろう。
その日の夜、才人は学院の中庭を散策しながら頭をひねっていた。
「う〜ん……クリスのためのパーティー、どんな内容にしたらいいかなぁ……」
ホオリンガ出現で中断していたパーティーの考案を続けているのだが、どうにもいい案が
一向に浮かんでこないのだった。それで気分転換を兼ねて散歩しているのだが、やっぱり
良い考えは出ない。
「先生たちから場所を借りれるかって問題もあるけど、まずはそこを決めないと、どうしようもないよな。
けど、普通じゃないパーティーってどんなんだ? そもそも俺、普通のパーティーってのがどんなもんかも
よく知らないし……」
-
と思い悩んでいたら、背後から声(?)を掛けられる。
「キュー」
「ん?」
振り返ってみると、そこにいたのはクリスの使い魔、デバンだった。
「デバン。お前、こんなところで一人で何やってるんだ? クリスの傍にいなくていいのかよ」
思わず尋ねかけた才人だが、すぐに苦笑する。
「って聞いても、人の言葉なんて話せないか……」
「そういう君も一人じゃないの。お互いさまだね」
そう思った矢先に、返事が来た。しかもかなり渋みのある声。
「……えええええええええ!? デバン、今しゃべったのお前か!?」
「うん、私がしゃべったよ」
「お、お前、しゃべれる怪獣だったのかよ!」
「いや、元々は人の言葉は話せなかったよ。これはお嬢と契約した影響だね」
お嬢というのは、言うまでもなくクリスのことだろう。
「けど、しゃべれるんだったら何でいつもは『キュー』なんて鳴いてるんだよ」
「それはあれだよ。私はお嬢のマスコットだからね。それが渋い声でしゃべっちゃダメでしょ。
女の子の夢が壊れちゃう」
「マスコットって、そんな濃い顔でよく言うな……」
若干呆れた才人であった。
「まぁそれはいいや。で、お前は俺に何の用だ?」
「ああ、そうだったね」
デバンは気を取り直して、才人に聞き返す。
「今、お嬢のためのパーティーがどうとかって話してたけど、どういうこと?」
「聞いてたのか。実はな……」
才人は、クリスが学院で孤立しているのを気に掛けていること、それをどうにかする手段として
パーティーを立案中であることを説明した。すると、デバンはジーンと感動する。
「ウチのお嬢のことをそんなに考えてくれるなんて……君ってすごくいい子だねぇ。さすが、
お嬢が見込んだサムライだよ! うん、実に素晴らしい!」
「いやぁ、それほどのことじゃないさ」
称賛されて少し照れた才人だが、デバンは声のトーンを変えてこんなことを語り出した。
「でも、実はお嬢、この国には勉強をするためだけに来たんじゃないんだよね。お嬢のことを
心配してくれてる君には話すけど」
「へ? クリス、留学生じゃないのか……?」
「表向きはそうなってるけどね、本命は別にあるのさ。お嬢は、ある使命を帯びてこの国に来たんだよね」
突然の重々しい話に、才人は目を見開いて驚く。
「使命って……」
「その使命を終えたら、すぐに国に戻ることになってるの」
「すぐに? そんなに早く帰らなくちゃいけないのかよ?」
「何せ王女だからねぇ。本当なら、そうそう国を空けてちゃいけないんだよ」
デバンの説明に、才人はクリスもアンリエッタ同様、色んな制約の下に生きているのだと
いうことを薄々感じた。
「それで国に帰ったら、ルイズと彼女の使い魔の君ならともかく、ここの学院の人々とは
もう二度と会うことはないだろうね」
「そんな……」
「そういうこともあって、お嬢自身周りと馴れ合う気がないんだよ。それに自分の立場ってのも
よーく分かってる。だから孤立してるんだよ」
デバンの言うことを、才人は受け入れがたかった。
「ホントにそれでいいのかよ……。クリスだって、一人ぼっちで寂しいんじゃないのか?」
「本心じゃそうかもしれないけど、すぐにお別れになるだろうからね。後が辛くなるのを考えると、
必要以上に仲良くなりたくないと考えちゃうのさ」
「けど……」
「サイトくん、君はお嬢を本当に心配してくれてる。それは私としても嬉しいよ。けど、お嬢の事情も
分かってあげてほしい」
-
そう言われては、才人に反論の言葉は見つからなかった。代わりに、デバンにこう尋ね返す。
「でも、そのクリスの使命って何なんだよ。この学院に、どんな用があるんだ?」
しかし、デバンからははっきりとした答えは得られなかった。
「そこまでは私からは話せないねぇ。何せ私はあくまで使い魔だ。そこまで重要なことを、
独断で教える訳にはいかない」
「そうか……」
「まぁ、お嬢はサイトくんを友達だと思ってる。君の力が必要だと思ったら、お嬢自らが話すさ」
それでデバンからの話は終わりであった。
「話、聞いてくれてありがとね。もちろん、このことはお嬢には秘密にしておいてね」
「言われなくても分かってるって」
「ありがと。じゃ、私はお嬢のとこ戻るから。キュー!」
最後にひと鳴きして、デバンはひょこひょこと中庭から離れていった。
「……すっげーギャップ、あの声……」
デバンの背中を見送った才人は、ふと考える。クリスの事情ももちろんのことだが、
一番気にかかったのはクリスの使命とやらだ。王女自らが果たさなければならないほどの
使命とは、一体どんな内容なのか。
あの気持ちの良いクリスのことだ、まさかトリステイン侵略などを考えているのではあるまい。
しかしそうでないのなら、わざわざ他国の学院に何をしに来たというのだろうか?
その答えは、どんなに考えを巡らそうとも出てくることはなかった。
-
ここまで。
まさかの畳とちゃぶ台がレギュラー化。
-
ウルゼロのかた、乙ですー。
そして皆様、お久し振りです。
よろしければ21:45頃から、また続きを投下させてくださいませ。
-
「ふうん。ディー君にもそんな経験があったのね。
ちょっと意外だけど、熱くなれる男の子って素敵だと思うわ」
そんな場違いに暢気な感想を漏らすキュルケを軽く睨んでから、ルイズは困ったように眉根を寄せてディーキンを見つめた。
「その……、あんたの経験したことはわかったし、私には、なんて言っていいのかわからないけど。
それじゃディーキンは、タバサが復讐を続けるべきだと思うの?」
ルイズとしては、何があろうと友人が身内と血で血を洗うような復讐を繰り広げるところなど見たくはなかった。
もちろん、その結果起こるであろう国家規模の戦争などは言うにも及ばない。
ディーキンなら、大切な自分のパートナーなら、きっとそれに賛同してくれると思っていたのだが……。
自分の経験から復讐に駆り立てられる気持ちもわかるといわれてしまうと、そんな経験のないルイズとしては言葉に詰まってしまった。
絶対に賛成ではないが、軽々しく否定するのもなんだか申し訳ないような気分になる。
「イヤ、ディーキンは別に賛成とか反対とかってわけじゃないの。
思うに、復讐をどうするかとかを決めるより先に、まずはもっと詳しく調べてみるのが最初なんじゃないかな?」
「もっと……詳しく?」
そう聞き返してきたタバサの顔を見つめて、ディーキンは頷く。
「そうなの。つまり……、タバサのお父さんや伯父さんが、実際にどんなことを考えて、何をやってたのかとかをね。
よくわからないのに決めつけて行動をしたら、取り返しがつかなくなるってこともあるでしょ?」
そう言ってから、ふと何かを思いついたように、リュートを手に取った。
「ええと、なんだかお話ばかりしちゃってるけど……。
ディーキンはひとつ、そういう事に関するお話を知ってるから、それをお聞かせしたいと思うの」
「え、また別のお話をされるのですか?」
話を終えたばかりのディーキンに、気を利かせて飲み物などを運んできたシエスタが、首を傾げた。
「そうなの。でも、今度はちっぽけなディーキンのみっともない体験談じゃないよ。ディーキンの昔のご主人様が大好きなお話。
バードは、いろんな説話なんかをお聞かせするのも仕事だからね。昔よくご主人様に聞かせてたの。
ディーキンは、あんまり好きってわけじゃないけど……」
「あんたの、昔の主人が好きだった話?」
ディーキンはルイズに頷き返すと、ちらりと周囲の反応を伺った。
どうやら皆、聞くことに意義は無さそうだと確認すると、咳払いをして演奏を交えながら語り始める。
「――――これは、遠い遠い、人間の王国の話なの。
そこには人間の王様がいたみたいだから、人間の王国って呼んでるんだけどね」
「とにかく、その国には王様を良く思わない人が大勢いて、その人たちが反乱を起こしたけど、王が彼らのリーダーを捕まえたの。
彼は、王様の従姉妹の貴族で、ええと……、名前を忘れちゃったけど、ジョージってことにしといて」
「王様は怒って、反逆者の名前をぜんぶ吐かせるために、彼を拷問しろって命令したの……。
卑劣で残忍な拷問執行人は、彼の足の指を切り落としたの」
「すごい痛みだったけど、彼は名前を言わなかった。
そこで、今度は指を切り落としたの。彼は金切り声を上げたけど、やっぱり同志の名前は言わなかった。
そこで、次は鼻を切り落とした。でも彼は話さなかった。
そこで、次は耳を切り落とした、その次は足を、それから、手を……」
-
そこまで話して、残酷な拷問の話にルイズやシエスタが顔をしかめているのを見て取ると、ディーキンは肩を竦めた。
「……アア、ディーキンもその気持ちはよくわかるよ。
だけど、前のご主人様はこんな趣向の話が好きだったの。信じられないよね?」
「あなたの主人は、悪意のあるドラゴンだったと聞いた」
タバサの言葉に、ディーキンは首肯した。
「そうなの。ご主人様は他にも、無力な乙女がドラゴンに食われるって話とか。
英雄がそれを止めようとするけど、やっぱり食われるって話とか。
勇敢な女騎士を倒して蹂躙して、屈服させて、助けに来た彼女の婚約者の前でいろいろして、最後は2人とも食べちゃうって話とか……」
「ふーん、なかなかいい趣味の御仁だったようね。
その最後のやつとか、今度私の部屋で聞かせてくれないかしら。
タバサも一緒に、どう?」
「……いい」
キュルケはむしろ楽しそうにそんなことを言って、ルイズにぎゃあぎゃあ文句を喚かれていた。
タバサやシエスタは、顔を赤くしている。
ディーキンは咳払いをして、話を戻した。
「エヘン。とにかく、彼は……。
ええと、彼の名前はなんだっけ。ラローシュだったかな?」
「ジョージ」
タバサが律儀に訂正する。
「そうそう、ジョージは……、どれだけ痛めつけられても、話さなかったの。
そこでようやく王様は、彼に一目置いたんだよ。勇敢だ、って。
彼のことを褒めて、反逆者ではあるがこれ以上苦しませないため、拷問をやめて一思いに殺してやるようにと命じたの」
「当然ね。それが、誇り高い貴族に対する扱いというものだわ」
少し胸を張ってそう言うルイズに、しかしディーキンは、いかにも悲しそうに軽く首を振って見せた。
「ああ、でも、それは間違いだったの……。
王様は、彼が本当に望んでいることが何かをわかってなかったし、ジョージも話せなかったんだよ」
怪訝そうにするルイズたちに対して、ディーキンは話を続けた。
「執行人が手斧を振りかざすと、ジョージは大声で叫んだの、『やめろ! 話すから!』って。
でも時すでに遅く……、手斧は振られて、彼は息絶えたの」
「…………」
「つまり、ジョージはただただ、殺されたくない一心で黙ってたの。
話したらそれきり殺されてしまうんだってよくわかってて、どんな痛みよりも死ぬ方が嫌だったんだね。
王様は彼のことを尊敬して、慈悲をかけてやろうとしたんだけど……、かえって彼の、一番望まないことをしてしまったんだよ」
-
何とも言えない顔をしている一同に向かって、ディーキンは質問した。
「この話の教訓は、何か分かる?」
顔を見合わせるルイズらに、ディーキンは指をぴっと立てて、先を続ける。
「わからない? つまり……。
『相手が怖じけづく前に、手斧でぶっ殺すのはNG』ってことなの」
「……は?」
「うーん……、いや、ディーキンの言い方が悪かったかもね……」
聞いて損したわ、というような顔つきになったルイズを見て、ディーキンは言い方を考え直した。
「……ええと、つまり。ディーキンが、何を言いたかったかっていうと。
本当に相手のことがわかってないうちは、どうするのが正しいかも判断できないってことなの。
このお話の王様みたいに、相手のことをよく知りもしないで、思い込みでうっかり殺しちゃってからじゃいろいろ手遅れでしょ?
死んだら生きられないし、相手に何か話そうと思っても、生き返らせない限りはどうにもならなくなるからね」
(……生き返らせる?)
タバサは、ディーキンの話し方に妙な引っ掛かりを覚えた。
生き返らせない限り? そんなことは、そもそもできないではないか。
(それとも……)
そこまで考えて、タバサははっとして頭を振ると、その思考を打ち消した。
自分は先日、シルフィードの上で見た温かくも奇妙な夢を思い出して、あらぬ期待を抱いているのだ。
彼は確かに、私の勇者かもしれない。
でも、ここは現実だ。御伽噺の世界ではない。
(夢を、見過ぎてはいけない)
「まあ、その妙な例え話はともかくとして。
それは、その通りでしょうね」
タバサの思惑をよそに、ルイズが頷いた。
「でしょ? だから、タバサはもっと詳しいことがわかるまで、様子を見るのがいいんじゃないかな。
復讐をするとかしないとかの前に、まずはもっと情報を集めるの。
冒険に出る前に情報を集めるっていうのは、冒険者の間でも基本だからね!」
そこへ、気を取り直したタバサが口を挟んだ。
「……あなたのいうことは、もっともなことだと思う。
だけど、どうやって調べるの?」
正しい知識を得ることが重要だというのは、暇さえあれば書物に目を通しているタバサにもよくわかる。
しかし、そうはいっても……。
母から聞いた話以外で、当時の父や伯父がどう考えてどう行動していたかなどを、果たして詳しく調べることができるだろうか。
当人たちに聞こうにも、父の方は既に死んでしまっているし、伯父から話を聞くことなどできようはずもない。
当時父の周囲にいた取り巻きたちを調べ上げて、話を聞きに行くという手もあるかもしれない。
しかし、それには時間もかなりかかるだろうし、第一彼らが潰えた反乱の目論見などを、いまさら正直に話してくれるものだろうか?
-
「そうだね。まず、タバサのお父さんがその頃に書いたものとか、何かお屋敷の方には残ってないの?」
「……わからない。処分されていなければ、父の私室にあるかもしれない」
「だったら、もしかしたらその中に手掛かりがあるかもしれないの。
タバサのお母さんからもう何日か、聞けそうなことを聞いてみてから、一度調べに戻ったらどうかな」
「わかった」
タバサはそう答えながらも、大したものは見つかるまいと考えていた。
反乱の疑いをかけられた父の私物や何かは、既に王宮側が一通り確認し、めぼしいものは回収してしまっているはずだ。
いまさら自分たちが調べ直しても、何も残ってはいないのではないか。
そうでなくとも、仮に反乱などを企てていたとしたら、あの賢明な父が私室にその明白な証拠などを残してはおくまい。
「あとは……。うーん、ディーキンの方にも、いろいろと考えはあるの。
でも、上手くいくかどうか、ちょっと考えてみてからだね」
真っ先に思い浮かんだのは、それこそタバサの父親を生き返らせて、彼の口から直接聞いたらどうか、ということであった。
死者の……、それも何年も前に死んだ者の蘇生など、ハルケギニアでは思いもよらぬことだろうが、フェイルーンではそうでもないのだ。
そうすれば確実に真相がわかるだろうし、タバサやオルレアン公夫人、ペルスランやトーマスらだって喜ぶのではないか。
生き返った後の政治的な問題等はいろいろとあるかもしれないが、将来の心配を言い訳にして目先の正しい行動をしないのは英雄ではない。
少なくとも、ディーキンはそう考えているし、“ボス”だってきっと同意してくれるはずだ。
しかし、ディーキンはそれとはまったく別の理由から、その案を実行するのは現時点では難しいだろう、と考えていた。
(タバサのお父さんが、ちゃんと生き返って来てくれればいいんだけどね……)
以前に自分が死んだ時のことを思い返す。
これまでにずいぶん死んだことがあるが、その度に何やらいろいろと奇妙な経験をしたものだ。
生き返ると死んでいた間のことは大概ぼんやりとしか思い出せなくなるのだが、はっきり覚えていることもいくらかはある――――。
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一番最初に死んだときは、いつの間にか暗い洞窟の中にいて、目の前にコボルドの神・カートゥルマクが立っていた。
彼は何やら自分に対して説諭とも謝罪ともとれるような謎めいた事を述べた上で、元の場所に戻してくれた。
今となっては、邪悪な神であるカートゥルマクが、自身の教義に従わない者に対してそのようなことをしてくれるとは思えないが……。
あれは本物ではなく、自分の心が生み出した幻だったのだろうか?
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アンダーダークでメフィストフェレスになすすべもなく殺された時には、気がつくと楽園にいて、天使に取り囲まれていた。
彼らはずいぶんとディーキンのことが気に入ったようで、ちやほやしてずっとそこにいるように勧めてくれた。
だが、元の世界にいるボスのことが心配でたまらなかったディーキンは、とてもそんな気持ちになれなかった。
『ディーキンが天国になんていられるわけないの。早くあっちに戻して!』
そんなことを言っていつまでもじたばた暴れているうちに、ようやくボスが呼び戻してくれて生き返れた。
まあ、暖かい天国から没シュートされて一転カニアの氷結地獄に行かされたのは、暴れたせいで天罰が当たったというわけではあるまい。
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真っ暗な中で、なんだかよくわからない怒ったような男性の声が聞こえてきたこともあった。
『ジーザス! ファック! 半分以上残ってたディーキンのヒットポイントが、ファッ糞ドロウの急所攻撃であっという間に溶けちまった!
ま た ロードしてアンダーダークに潜り直しか!
まるで巨大な犬のクソだ、バッファローの下痢便を耳から流し込まれる方がマシだ!』
……そうしてなにがなんだかわからないうちに、強い力でずりずりと引きずり戻されるようにして生き返った。
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――――ただ、いずれにしても。
いざ生き返るその時には、苦しく長い旅をしたような感覚を覚えた、という点では共通していた。
物質界の側で見れば蘇生はごく短時間のうちに終わるが、時間の感覚の異なる霊魂にとってはそうではないのだ。
生きている者なら、おおよそ誰しもが死にたくないと思うのは当然だ。
これまでのすべてに別れを告げて、生から死へ移行することは辛く苦しい経験であるに違いないと、誰もが教わらずとも感じている。
ならば、死者が懐かしい現世へ生き返れることを喜ばないはずがあろうか……と、考えるのは早計というものだ。
生から死へ移行するのが苦しいのと同様に、死から生へと移行することもまた苦しいことを、死者は直観的に感じとるものだ。
そして何度も生き返った経験のあるディーキンは、それが事実であることを身をもって知っている。
それどころか、後者の方が自然な世界の理に反している分、より一層苦しくさえあるのだ。
はたしてそれほどの苦しみに耐えてまで彼らが生き返りたいと思ってくれるか、というのが問題なのである。
死んでも成し遂げたいほどの目標を持っている生者が少ないのと同様、生き返ってでも成し遂げたいほどの未練がある死者も少ないものだ。
死んでから長い時間の経っている死者であれば、なおさらのことである。
時間が経つほどに死後の世界にも慣れていき、現世への執着も次第に薄まってくるのが普通だからだ。
何百年も前の英雄を蘇生させて助力を求めようといった試みは、そのために失敗することが多い。
過去の偉大な人物は、現在のことは現在の人々に委ねるべきだと考えているのである。
また、場合によっては死者の魂が既に分解されていたり、転生していたりするケースもあり、その可能性も時間が経つほどに高まる。
加えて、下位の蘇生呪文による復活は、上位の呪文によるそれよりもより一層苦しいものになる。
非常な苦しみを伴うがゆえに、生き返る際に力の一部分を失ってしまうことになるのだ。
そう言った力の喪失を引き起こさない、比較的苦しみを伴わぬ“完全な”復活は、最も強力な呪文によってのみ成し遂げられる。
-
死者の魂には事前に自分を生き返らせようとしている者の名前や属性がわかるし、その復活がどのくらい苦しいものになるかも概ねわかる。
そして死者の側が拒否すれば、どれほど強い力を持つ術者であろうと、蘇生の試みは決して成功させられない。
もし死者の意志に反して生き返らせるなどということができるのならば、世の中はとんでもないことになってしまうだろう。
たとえば、邪悪な支配者は既に死んだ敵でも生き返らせて捕え、満足して飽くまで、殺しては生き返らせて拷問し続けられるのだから……。
そのような死者の意思を無視した蘇生を行なえるほどの力を持つのは、神格だけなのだ。
そういった諸々の条件を踏まえた上で、ディーキンがシャルル大公を復活させようとした場合の成功率を考えると……。
普通に判断して、復活してきてくれる可能性は相当に低そうだと言わざるを得まい。
既に死んでから数年が経過しているというのに、いまさら苦しい思いをしてまで生き返りたいと思ってくれるかどうかがまず問題だ。
仮に彼が評判通りの善い人物で、何処かの天上の世界で安らぎを得ているのならば、なおさら生き返る気がしないだろう。
セレスチャルか何かの来訪者に、既に転生してしまっているという可能性もある。
おまけにいくら属性が善であっても、名前も知らないどこかの亜人に生き返らされるなんて、何があるか分からなくて応じる気になれまい。
無論、実の娘であるタバサや、妻であるオルレアン公夫人が蘇生を試みれば別だろう。
だが、彼女らには蘇生呪文を自力で唱えることも、スクロールやスタッフ等のマジックアイテムから発動することもできない。
そして蘇生の呪文は、世界の大きな法則に介入するがゆえに、神格に助力を願うにあたって捧げなければならない対価が非常に高い。
低レベルの蘇生呪文である《死者の復活(レイズ・デッド)》でさえ、5000gpもするダイヤモンドが必要になるのだ。
ディーキンの場合はスクロール等で使うので、実際にダイヤを用意するわけではないが、費用は自分で唱える場合以上にかかる。
かくも望みが薄いのでは、さすがに、僅かな可能性にかけて試してみようかという気にはなれなかった。
それでもいよいよとなれば、やってみるしかないかもしれないが……。
(やっぱり、タバサのお屋敷とかを調べるのが先だね)
現地で《伝説知識(レジェンド・ローア)》の呪文を使えば、何かわかるかもしれない。
調べたい場所はたくさんある、タバサの父の私室、彼が暗殺された現場、先王が遺言を残したという臨終の床……。
そして今、自分の荷物の中には、フーケ騒動の時に最後の切り札として使うつもりでボスから送ってもらったスクロールも入っている。
これを使えば、過去に何があったのかをより詳しく調べることも可能だ。
ただ、一枚しかないので使いどころをよく考えなくてはならない。
最悪の場合にはヴォルカリオンから買い足すこともできるかもしれないが、これはかなり高価で希少な品なのだ。
自分の所持金は無尽蔵にあるわけではない。
一体何を調べるのに使うのが最善か、それを見極めるためにもしっかり情報を集めなくては。
(それに、ボスに頼んでナシーラに連絡が取れれば、タバサのお父さんのこともなんとかなるかも……)
彼女はアンダーダークの大都市メンゾベランザンの魔法院(ソーセレイ)で修業した高位のウィザードで、多彩な呪文を心得ている。
その中には、ドロウ秘蔵の呪文書に記載されている、希少で強力な呪文も含まれているのだ。
特に、以前に“ママ”の魂が幸せかどうかを確かめるために、ナシーラに頼んで使ってもらったあの呪文。
あれがあれば、タバサの父親のこともなんとかなるかもしれない。
(なんにしても、明日からいろいろ調べたり、準備をしたりしなくちゃね)
それに、せっかくボスに頼んで必要になりそうな本や機材なども送ってもらったことだし。
そろそろ腰を落ち着けて、サブライム・コードとしての本格的な訓練にも取り掛かりたいのだが……。
(……やることがいっぱいあるね。
ウーン、ウォーターディープにいた時より忙しいかも……)
ディーキンはひとまず考えを打ち切ると、今夜の集まりをお開きにして、ルイズらと共に学院に戻って休むことにした。
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今回は以上になります。
またできるだけ早く続きを書いていきますので、次の機会にもどうぞよろしくお願いいたします。
それでは、失礼しました(御辞儀)
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二人ともおつっす
>986
>王様の従姉妹
特に性別を表さない場合でも、「兄弟」と同じで、「従兄弟」じゃないかな?
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>>993
ご指摘ありがとうございます、その通りですね。
直しておきますー。
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次スレ立てていいんかな
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あの作品のキャラがルイズに召喚されましたin避難所 3スレ目
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/9616/1456320335/
立てました。何か間違ってたらごめん。
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たておつ
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>>996
乙
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モサキコ 、─- 、 ヽ `ヽ,,
ヽ '゙'""~ ヽ モサキコ
モサキコ ,ミ ´ ∀ ` ミ
ミ ミ,.,)┳(,.,.ミ モサキコ ,ハ,_,ハ
ミ. ┃ 'ミ ,:' ´∀`';
゙ミ ┃ ミ゙ ミ,;:.O┬O
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lミヽ、 _,,_,,_ノミ、
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