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没作品投下スレ

1ルシファー@掲示板管理人 ◆8hviTNCQt.:2007/11/29(木) 00:34:51 ID:/gSNTdDY
予約されたキャラがかぶった!書いてたパートが先に投下された!致命的な矛盾があった!
等の理由で没にせざるを得なくなったけどせっかく書いたのに破棄するのは勿体ない…。
そんな作品はぜひともこちらに投下して下さい。
それに関する感想なんかもできればこのスレへ。

2スタートボタン押せよって話:2007/12/29(土) 23:43:44 ID:hW/2hBDs
暗闇の中、ガブリエルは壁に身を隠して攻撃をやり過ごす。
敵は4体。下手に攻める事はしない。連戦の影響で今の彼は非常に危険な状態だからだ。一つのミスが死に繋がる。

敵の一体が無防備でこちらにその身を晒した。ガブリエルはそれに反応して攻撃を行う。
「……馬鹿めが」
その攻撃は吸い込まれるように敵に当たり、敵を文字通り消し飛ばした。
残り3体。奴らはまるで、やられた仲間の仇を取りに来たかのようにガブリエルに迫り来る。
それに合わせて攻撃を三連射。タイミングは完璧だ。
「……!?」
だが聞こえてきた爆発音は二つ。一発外してしまった……いや、避けられたのだ。
今戦っている生物は、仲間が倒されるたびに動きがよくなるという性質を持つことをガブリエルは失念していたのだ。
こうしている内に敵はとんでもない速度で迫ってくる。もう殺られるのも時間の問題だろう。
しかし、彼は諦めない。敵がギリギリまで接近した瞬間、必殺の一撃を叩き込むつもりだ。
敵は蛇行しながらこちらに向かってくる。ガブリエルは精神を集中させる。
そして――

『フフン……、こんばんは諸君』

(放送……もうそんな時間か……ん?)
「しまっ!?」

――Game Over――

【H-07/夜】
【ガブリエル(ランティス)】[MP残量:30%]
[状態:右の(ry]
[装備:ゲーム(ry]
[道具:セント(ry]
[行動方針:フィリアの(ry]
[思考:コンテ(ry]
[現在位置:焼き場]

3名無しのスフィア社社員:2007/12/29(土) 23:47:27 ID:hW/2hBDs
行き詰まった&せっかくの没スレなので冒頭だけ投下。

4名無しのスフィア社社員:2008/06/09(月) 21:45:28 ID:6cARJCoU
フォルダを整理したら出てきたので投下

5光の勇者の不幸(追跡編):2008/06/09(月) 21:49:29 ID:6cARJCoU
「くそっ、どこにいったんだ?」
疲労と焦りの色を表情に浮かべた金髪の青年は呟いた。
現在彼はG-4の見通しの利かない木々の生い茂る場所にいる。
時刻はおよそ17〜18時といったところであろうか。
太陽は沈みかかっており周囲の見通しの悪さに拍車をかけていた。
この少年の名前はクロード・C・ケニー。
結局彼は先刻の少女を追う方を選択した。
これ以上自分の悪い噂をたてられては堪ったものでは無いし、
昼の放送を聞き逃した自分が下手にうろついた場合、禁止エリアに踏み入れてしまう可能性もある。
その点、あの少女を追っていれば少なくとも禁止エリアは避けてくれるだろう。
彼女が自分同様放送を聞き逃してしまっている可能性はゼロではないが、
禁止エリアを避けるといった意味でも少女を追ったほうが懸命だと判断した。
のだったのだが…。
冒頭の彼のセリフにあるようにクロードは、少女を見失っていた。
追跡していた少女の足取りは重かったが、クロード自身も午前中に負った傷や、
チサト達から逃走する際に酷使した体の疲労もあり満足に動けなかった。
加えて周囲の見通しも悪い。やはりここは分校に向かうべきかと思案し始めたその時だ。
まだ赤みを帯びていた空が突如として暗転。漆黒に染まった空にこの会の主催者ルシファーと呼ばれた男の姿が浮かび上がった。
「フフン…、こんばんは諸君…―――

「セリーヌさん、オペラさん…」
今度は聞き逃すまいとしていたクロードの耳にかつての仲間の死という知らせが届いた。
そして、残り人数が36人しかいない事を知った。
(確か最初にルシファーに殺されてしまった人物を除いて62人いたはず…。
 という事は26人これまでの時間で殺されているのか…。その中にレナやみんなは含まれているのだろうか?)
矢継ぎ早に与えられる情報を整理、分析していたクロードは気付かなかった。
いまや現在の不幸の原因でもあるエネミーサーチが警告を与えていた事に。

6光の勇者の不幸(追跡編):2008/06/09(月) 21:51:44 ID:6cARJCoU
アーチェは木々が密集している一角で息を潜めていた。
どこまで逃げても引き離せない抜き身の剣を持った金髪の青年。
どことなく、かけがえの無い仲間であり、淡い恋心を抱いていた人物に似ている青年。
そんな青年は現在数メートル先でおそらく自分を探して周囲を見回している。
(お願い! このまま気付かずに向こうに行って!)
アーチェが祈ったその時、少し前に大切な友人の死という絶望を知らせた声がどこからともなく響き渡った。


(ネル…、夢留…)
一回目の放送で知ったミントの死に耐え切れず行った呼びかけに応えた二人。
その後、自分の愚かな呼びかけを頼りに現れた一人の殺人鬼に殺された夢留。
そんな殺人鬼と一人戦い致命傷を負い、自分が止めを刺したネル。
夢留に手を下したのは自分ではない、ネルもそんなつもりなどなかった。
だが結果的に自分があの二人を殺したも同然だった。
二人のことを想うと心が痛んだ。
そんな彼女にとって、自分の仲間が今回の放送で呼ばれなかった事が唯一の救いであった。
知っている名前はあったが、そいつは子供を人質にとるような真似をする卑劣な奴だ。
モリスンさんがその身を犠牲にして倒した魔物。あの出来事も悲しい出来事だった。
でも、あの出来事を乗り越えて今の自分がいる。
あの冒険は楽しい思い出だけではない、数々の困難を仲間と共に乗り越えた日々…。
思い出の中の苦難に立ち向かっている自分の姿が今の彼女に闘志を与えた。
(そうだ…! 私は何をやっているんだっ! あんな奴にビビッてこんな木陰で震えているなんて私らしくないじゃないっ! 
 皆がいないからって、なに弱気になっているのよ私! よく見たら隙だらけじゃない。あんな奴私一人だってっ!)
件の青年は放送に聞き入りボーッとしているように見える。
放送の内容は次の禁止エリアを告げ始めている。
おそらくもう少しで放送は終了するだろう。
だが、その僅かな時間でも詠唱を完成させる事は可能だ。
(よくもこのアーチェさんをさんざん追い回してくれたわね! この大魔導師アーチェ様が一発ガツンと入れてやるわ!)
詠唱を完成させると、アーチェは身を隠していた木陰から躍り出た。
『アイスニードル』
アーチェは無数の氷の矢を生み出し一斉に少年目掛けて放った。

7光の勇者の不幸(追跡編):2008/06/09(月) 21:53:54 ID:6cARJCoU
(しまったっ!)
放送に気をとられていたクロードは完全に不意を付かれた。
回避は不可能だと判断し、せめて致命傷となる所は守ろうと身構えたその時、クロードの体を薄い光の膜が覆った。
その膜に当たった氷の矢は術者目掛けて反転した。
跳ね返った氷の矢は少女の体をかすめ僅かな切り傷を作るとカンカカカッと音を立て少女の背後に生えている木に突き刺さった。
(なっ、なんだ?なにが起こったんだ?)
たった今の現象はクロードの支給品のひとつ、昂魔の鏡の効果なのだが、説明書が読めなかったクロードには知る由もない。
驚愕の表情を浮かべ、一歩後ずさりをする少女。
「ねぇ、君」
クロードがなんとかその少女の誤解を解こうと歩み寄る。
「来ないでっ!」
少女の叫びと共に今度は無数の火球が飛んできた。
先程の攻撃は不意を付かれたが今度は問題ない。
エターナルスフィアを力いっぱい振り星のつぶてを放ち、迫り来る火球を打ち落とす。
だがやはりというべきか、彼の身にはまだ不幸が降り注ぐようだ。
放った星のつぶてに勢いがありすぎて少女を吹き飛ばしてしまった。
「きゃあぁぁぁぁぁぁっ!」
吹き飛ばされた少女は背後の木に激突した。
更に不運な事に、その背後の木には氷の矢が刺さったままで、その矢の一本が彼女の左の二の腕を貫いた。
「ごっごめん!だっ、大丈夫!?」
再度少女に歩み寄ろうとしたが、その少女は表情に恐怖と苦痛を浮かべている。
(完璧に誤解されたぞコレは…。どうしよう? いやとにかくこの娘の傷の処置を…)
なおも警告促す赤い発光体が浮いている。おとなしく治療を受けてくれるだろうか?
歩み寄り手を貸そうとしたその時。
「アーチェから離れろぉぉぉぉっ!」
近くの茂みから剣を振り上げた青年が飛び出してきた。
なんとかクロードはその青年の一撃を凌ぐと間合いを取るべく後方に飛び退いた。

8光の勇者の不幸(追跡編):2008/06/09(月) 21:56:56 ID:6cARJCoU
「ジャック…どうして?」
アーチェは吹き飛ばされた時に死を覚悟していた。
当然の報いだろうと思った。自分のせいで二人も死んでいるのだから。
誰かが助けに来るなんて事はまったく期待していなかった。
だが目の前には、金髪の青年から自分を守るように立ちはだかるジャックがいる。
彼に向けられた冷たい眼差しから逃げてここまできたのに…。
彼は自分を追ってここまできたのだろうか?
何の為に?
その心の中で呟いた問いに答えるようにジャックはアーチェに向かって言った。
「さっきは悪かった! ほんの少しでもアーチェを疑ったりなんかしてっ! でも、よく考えたらお前がそんな事をするわけないモンな! 
 大事な仲間を探してて、その仲間が死んだ時に見せた涙は、悲しみは本物だったモンなっ! そんなお前が望んであんなことする訳ない!
 俺バカだったよ、ほんとゴメン!!」
(解ってくれた…。ほんの少ししか一緒にいなかったけど…それでも私のことを理解してくれた!)
嬉しさのあまりアーチェの瞳から涙がこぼれ頬をつたった。
「ありがとう。ジャック!」
アーチェにお礼を言われたジャックは少し照れた顔をした後声を上げた。
「とっとにかく、今はアイツを追っ払わないと!」
剣を構え対峙している青年を睨みつける。
「女の子一人追い回して、傷つけるなんて! お前みたいな奴は俺が止める。
 もうさっきみたいな事は俺の目の前では起こさせはしない! 覚悟しやがれ!」

9光の勇者の不幸(追跡編):2008/06/09(月) 21:58:52 ID:6cARJCoU
「ちょっ、ちょっと待ってくれ! 僕はその子を傷つけるつもりなんかなかった!」
自分に攻撃の意志がなかったことを必死にクロードは主張した。
「なにを言ってんだ! どう考えてもアーチェの傷はお前がやったモンだろうが!」
確かにさっきの光景はそう思わせるに十分な物だろうが、ここで何とかしないとまた殺人鬼扱いされてしまう。
「あ…ありのまま起こった事を話すけど…。急に魔法が来たと思ったら、跳ね返っていた。
 な…なにを言っているかわからないと思うけど、僕もなにが起こったかわからない…。もう頭がどうにかなってしまいそうだ…。
 超常現象とかそんなチャチな物じゃない。僕を不幸にしたい。そんな大いなる意志の片鱗を味わったよ!」
(なんかどっかで聞いた事のあるセリフだけど信じてもらえただろうか?)
答えは否だった。
「なにを言ってるんだお前は? 俺達を惑わせようとでもしてんのか?」
青年は警戒の色をより濃くし、剣を構えなおした。
当然のように赤い発光体が浮かんでいる。
(くっ、しまった。どう考えてもまたいらない誤解を振りまいたようにしか見えない。
 どうしよう? 一旦退くか? それとも誤解をなんとか解くか…)
クロードは決断を迫られていた。

10光の勇者の不幸(追跡編):2008/06/09(月) 22:02:39 ID:6cARJCoU
以上で終了です。
RSやったことないので、アーチェの元に駆けつけたジャックの描写がイマイチ。
どうしようかと思っていたうちに彼は首が吹き飛んでいましたw

11名無しのスフィア社社員:2008/08/27(水) 10:15:06 ID:YukhzViI
今投下に気づいたwwww
このスレ、過疎中の場繋ぎに使えそうだなage
しかしクロードはどの道ロクな運命を歩めないのなw

12名無しのスフィア社社員:2009/03/11(水) 00:41:00 ID:CLgyPf6k
没ネタ投下。時間軸的には二回目の放送直後です。

13名無しのスフィア社社員:2009/03/11(水) 00:41:47 ID:CLgyPf6k
ガウェインがその男を発見したのは、時間にして午後8時頃だろうか。
二回目の放送を聞いて、死亡者の中に自身の知り合いがいなかった事を確認。
そしてD−4が禁止エリアとなる事を知り、急いで鎌石村へ向かおうとした時だった。
どう行動すべきかと考えてその男の姿を確認した時…ガウェインは戦慄する。

異常。
ガウェインの頭に浮かんだのはまずその一言。
あの男が付けている奇妙な仮面は何だ?
東方の国を思わせ不気味な雰囲気を漂わせるその面の奥からは、赤く光る二つの目玉が見える。
その手に握るのは恐らく痔の治療に使う道具。一体何故そんな物を携帯しているのか。
仮に支給品だったとしても、武器とは思えないしわざわざ常時手に持っている必要は無いだろう。
そんな不審人物が、木々の間を高速で飛びながら移動している。
少し機嫌が良さそうに見えるのは気のせいだろうか?
こんな光景、幼子が見たら恐怖に慄く事は間違いない。

少し身を隠している間に、その不審人物の姿は見えなくなってしまった。


(さて、今の者を追うべきか否か…)
正直あまり関わりたくないというのが本音。しかし放っておくわけにもいかない。
あれだけの奇怪な参加者、良くも悪くも普通の人間とは思えなかった。
少なくとも一体どのような人物なのか。どれだけの強さを持っているのかは確かめなければならない。
さらにブレアからの情報を広めるのか、それとも殺してしまおうか。
完全に気配を見失う前にガウェインはその男を追い始めた。


「む?」
だがすぐにガウェインは男を見失ってしまう。
予想以上に相手が高速で移動していたのか。それとも暗闇で視界が悪いせいか?
いずれにせよ、今あの男を追うのは困難な状況になったといえる。
(仕方が無い…あの男は気になるが、今はこのエリアを通過する事に専念するか…)
今現在いるD−4エリアは23時に禁止エリアとなる。
それまでにこのエリアを抜けなくては鎌石村へ向かうには大回りしなければならないし、何より失敗すれば自らの命が危ない。
そう思い、北へ向けて進路を取ろうとした時。

14不☆死☆王 デュエルマーダーズ:2009/03/11(水) 00:43:15 ID:CLgyPf6k
(上か!?)
頭上から突然の気配。
それを感じ取った瞬間、ガウェインはその場から飛びのく。
数秒前までガウェインがいた場所に、何かが猛烈な速さで落下した。
地面と激しくぶつかり轟音が響く。周辺の木々は倒れ、地面はそのダメージに耐えられずに穴を開けた。


立ち込める噴煙の中から聞こえる声と現れる姿。
真っ赤な眼球を仮面の奥に光らせ、その手に浣腸を握り。
頭頂部には禿た鬘を光らせまこと威風堂々としたその姿。
「「ほう…寸でで外すつもりだったが、完全に気配を読み取ってかわすとは…なかなかの手練のようだな」
不死王ブラムスその人だった。


ガウェインは剣を構えた。
幾つもの死線を潜り抜けてきたガウェインには分かる。
この男に纏う邪気…只者では無い。
少なくともここまで邪悪な気配を感じる人間にガウェインは会った事が無かった。
体に染み付いた戦闘経験が危険信号を送る。
相手が殺し合いに乗っているかどうかとか、ブレアの情報を伝えるとかそういう問題では無い。
自分の目的の為にも、この男を生かしておくわけにはいかなかった。


「ふむ、やる気か。良いだろう。丁度こちらも手合わせを願いたいと思っていたところだ」
不死王ブラムスもまたゆっくりと構え、ガウェインとの戦闘態勢に入る。
ブラムスはルシファーの言うがままに無差別な殺戮を行う気は無いが、敵対しようとする参加者には容赦するつもりは無い。
まして今は自身の力が最も発揮できる夜。
ヴァンパイアとしての本能が戦いを求める。絶好調のコンディションと高ぶる闘気が、早く戦わせよと体中で叫ぶ。

「我は不死王ブラムス、行くぞ!」

15不☆死☆王 デュエルマーダーズ:2009/03/11(水) 00:43:46 ID:CLgyPf6k
ブラムスがガウェインとの距離を一瞬で詰め、迫る。
それと同時に繰り出される右拳がガウェインを襲う…いや、そう感じた時、ガウェインは既に彼の一撃を腹部に受けていた。
だが倒れない。両足に力を集中させて、その場に経ち続ける。
前を見れば、ブラムスが次の攻撃を放とうと左拳を振り上げていた。
一度攻撃を受ければある程度目は慣れる。ブラムスの二発目のパンチは、持っていた剣で弾き返した。
ブラムスの体が反動で乱れた隙に、大きく距離を取って体制を立て直す。


――強い。
これまで多くの人間や魔物と戦ってきたガウェインも舌を巻くような強さ。
外見通り人間とは思えない。
距離を取ったものの相手は猛スピードで間を詰めて速攻を仕掛けてくる。
「むん!」
飛んでくるブラムスの拳を回避。続けて放たれる突きは剣で受け止める。
「おおおっ!」
拳を受け止めたままガウェインは剣を前方へ押し出す。負けじとブラムスも拳に力を込め、剣がへし折れるのではないかという力で押し返す。
一瞬の膠着状態の後、先に動いたのはブラムス。
剣を受け止めたまま回し蹴りを繰り出し、ガウェインを吹き飛ばさんとする。
しかし一瞬でブラムスの動きを察知したガウェインはこれをジャンプで回避。そのまま剣を振り下ろしてブラムスの頭頂部を狙う。
ブラムスもまた素早く飛びのき、ガウェインの斬撃は空を切る。着地と同時に攻撃を仕掛けようとするが、ブラムスがかなり離れていたためにこれは叶わなかった。

再び膠着状態に陥る二人。
(夜の我を相手にここまで善戦するとは…この男、素晴らしい実力だ)
人間の身でここまでの力を身に付けているとは…。パワーならアリューゼ、総合的な戦力ならばレナスにも匹敵するやもしれん。
強敵の出現に思わず笑みをこぼしそうになる。
もっと、もっとだ。この男とはじっくりとやり合ってみたい。
だが、ある障害がブラムスの思惑を阻んでいた。

(ぬう…しかしここでぐずぐずしている場合でも無い…)

そう、自分達がいるD−4エリアはもうすぐ禁止エリアとなってしまうのである。
先程までなら禁止エリアになる前に余裕で通過できると踏んでいたが、このままガウェインと戦い続けていればギリギリになってしまう。
決着が付こうが付かまいが、間に合わず首輪が爆発する可能性があるのだ。
(だが、これほどの者と戦える機会を失うのも惜しい…)


ブラムスが動く。…が、何故かガウェインいる方向から逆の方向へと。
一瞬逃げたのかと思ったガウェインだったが、すぐに彼もブラムスの考えに気付く。
そして、後を追って走り始めた。
確かにブラムスは強い。また、ガウェインが知らないがブラムスは今のような夜に力を発揮するヴァンパイアである。
しかしガウェイン自身も昼よりは夜の戦いの方を得意としている。
つまり、夜はガウェインにとっても最大限に力を発揮できる時間帯なのだ。
よってあれほどの者を倒すチャンスは今しかないと考えた。

16不☆死☆王 デュエルマーダーズ:2009/03/11(水) 00:44:39 ID:CLgyPf6k
(…向こうも我と同じ考えに至ったようだな)
追ってくるガウェインを確認してブラムスは走る。
このままこのエリアで戦うのは危険。だが移動してしまえば首輪爆破の心配は無くなる。
心置きなくガウェインとの戦闘を楽しめるということだ。
(禁止エリアなど無粋な事はいらぬ。この者とは一対一で、心置きなく戦いたいからな)
鎌石村でのガウェインとの決着を楽しみにしながら、ブラムスは闇の中を失踪した。


だがブラムスは知らない。
今鎌石村には、ガウェインだけでなく多数の参加者が集まろうとしている事に。
そして、そのほとんどはマーダーである事に。



果たしてブラムスは、横槍も無く一対一でガウェインと決着を付ける事が出来るのか!?




【D-04/夜中】
【不死王ブラムス】[MP残量:100%]
[状態:変態仮面ヅラムスに進化。本人はこの上なく真剣に扮装を敢行中]
[装備:波平のヅラ@現実世界、トライエンプレム@SO、袈裟@沖木島、仏像の仮面@沖木島]
[道具:バブルローション入りイチジク浣腸@現実世界+SO2、ダイヤモンド@TOP、ソフィアのメモ、荷物一式× 2、和式の棺桶@沖木島]
[行動方針:レナス達に協力して情報収集(夜間は積極的に行動)]
[思考1:D-4から出て鎌石村へ向かい、そこでガウェインと決着を付ける]
[思考2:鎌石村で他の参加者と情報交換しながらレナス達の到着を待つ]
[思考3:敵対的な参加者は容赦なく殺す]
[思考4:直射日光下での戦闘は出来れば避ける]
[思考5:フレイを倒した者と戦ってみたい(夜間限定)]
[現在地:D-04北東部・雑木林→鎌石村方面]



【ガウェイン・ロートシルト】[MP残量:100%]
[状態:左肩、左わき腹脇腹裂傷(処置済み)]
[装備:グランスティング@SO2]
[道具:確認済の支給品×0〜2、荷物一式]
[行動方針:リドリーを優勝させる]
[思考1:]ブラムスを追い、鎌石村で決着を付ける
[思考2:]レザードがマーダーだと広める。ブレアについては保留
[現在地:D-04北東部・雑木林→鎌石村方面]

17こんなこといいな できたらいいな:2009/06/20(土) 19:48:16 ID:NJTJFOPA
「さあ、ヅラムス。好きなヅラを選ぶんだ」

「ぬ?何だか分からぬが、我はこれを選ぼう」

「やはり『ナミヘーノカツラ』か。まあそうだろうと思っていたよ。では契約を結ぼう。

 『我、今、ヅラの魔物に願い奉る。ヅラの盟約の元、我に魔物を従わせたまえ。

 我が名はヅラース…』」

18名無しのスフィア社社員:2010/07/02(金) 19:06:09 ID:AGE5tvK2
Wikiに埋もれていた◆wKs3a28q6Q氏の幻の第100話「久し振り。」をこちらに代理投下(?)します。

19久し振り。:2010/07/02(金) 19:06:59 ID:AGE5tvK2
自転車にも随分と慣れてきた。
代わり映えのない景色にウンザリし、暇を持て余していたので挑戦してみたら、案外簡単に前輪を浮かせては知らせることが出来た。
ふふん、時間つぶしには持って来いな乗り物じゃあないか。
「そこで止まれ、こちらに戦闘の意思はない」
ご機嫌にしばらく走っていると、突然小汚いおっさんが現れた。
勢いで轢いてやってもよかったが、衝突の衝撃で自転車が壊れても面白くないので止めてやる。
……つもりだったが、急には止まれないんだなこれが。
「お、おい!? ……うおっ!」
剣を構えるも、構わず突っ込む自転車を見て何かあると勘繰ったのか、地面に転がるようにして避けてくれた。
酷く滑稽なその姿を嘲笑してやろうかと思い、足の裏を使って自転車の勢いを抹殺する。
「はは、悪い悪い。すぐには止まれないものでね」
敵意むき出しで剣を構えるおっさんを嘲笑いながら自転車を降りる。
「で、言われた通りに止まってやったけど、何か用かい?」
何の用かと聞いてはやったが、別に言われた通りにしてやる気はない。
止まってやったのも、レナスの情報を持っていないか聞いてみようと思っただけ。
「……まずは、荷物を二つ持っている理由を聞こう」
ああ、そういえば二つ持っていたな。面倒くさい質問をする奴だ。
「これは鮫面の奴から貰ったものだ。襲ってきたから返り討ちにしてやったんだよ」
嘘は吐かない。吐く意味もないし、それで反感を持たれても困らない自信はある。
(あの構え……このおっさん、剣については素人だな)
使えそうにないし、聞きたい情報を聞きだしたら殺しておくか。
殺しまくるのが目的じゃないが、試しに首輪をボッコボコにしたいとも思っていたところだ。
こいつの首輪は耐久テストに使うことが出来る。つまり、こいつの殺害は別に無意味なものではないのだ。
「ま、疑うのは自由だけど」
背負っていたデイパックから右手を解放し、重力に任せて体の左側に回ってきたデイパックの中を漁る。
我ながら多くの武器を手に入れたものだ。
さて、こいつはどれで殺すか……

「エルネストさん!」
奴の後ろから声がした。なんだ、コイツ仲間がいたのか。
それとも今ようやく再会を果たした、殺し合いに巻き込まれる以前のお友達かな?
まあどっちでもいいんだけど。
「エルネスト……そいつは殺し合いに乗っているのか?」
さらに別の声がする。
とりあえず一番上にあったストライクアクスを手にし、顔を上げる。
一番手前には、剣を構えた先程の小汚いおっさん。
やや離れた位置に武器を持たず隠れるようにしてこちらの様子を窺うおっさん。
そして顔にペイントしてる方のおっさんを庇うようにして立つ、鉄パイプを構えた――

「……安心しなよ、僕はこの殺し合いに乗っちゃいない。その証拠に」
再び身を屈め、デイパックから先程入手した首輪を取り出す。
それを指先でクルクルと弄びながら笑顔を向けた。
「ほら、首輪。このデイパックの持ち主を返り討ちにした際に手に入れたんだ。殺し合いに乗ってたら、わざわざ首輪なんて集めないだろ?」
おっさん二人はまだ警戒をしているようだが、青い髪の青年は僅かに警戒を解いたようだ。
それでいい。
おっさん二人などどうでもいいのだ。大事なのはあの青い髪の青年のみ。
おっさんの殺害を止めてまで懐柔する価値のある男、ただ一人。
「ところで君……あの場所でルシファーに楯突いてた人だよね? 知り合いみたいだけど、話を聞かせてもらえるかな?」





 ☆  ★  ☆  ★  ☆

20久し振り。:2010/07/02(金) 19:07:58 ID:AGE5tvK2






ルシオがいるのは、平瀬村の民家の2階。
コミュニケーターを使用する際無防備になる事を考えて、深い意味もなくその家を選んだ。
子供部屋だったのだろうか、虫取り網が壁に立てかけてあったりと、殺し合いとは無縁なのどかな部屋。
その部屋の机の上に、それは置いてあった。
「双眼鏡、か……」
ミカエルが今どの辺をうろついているのか分かるかも知れない。
そう思い、連絡を後回しにして双眼鏡を手に取った。
「暗くて見にくいな……」
数分後、ルシオは索敵を一時中断することにした。
というのも、先程から欠伸が頻繁に出るうえに瞼が降りてきているからだ。
(参ったな……このぐらいの運動、今までなら平気でこなせていたのに)
エインフェリアになってからも、窃盗で生活していた頃も、毎日気を張り詰めていた。
にも関わらず、今の自分は疲労で瞼が降りてくる。
本人は気付いていないが、他のエインフェリアや冒険者に比べてルシオは規則正しい生活を送ってきた。
神界では新入りなので見張りをさせられることが多々あったが、そういう日はしっかりと昼間に睡眠時間を設けられていた。
窃盗団として暮らしていた時も、得物が徘徊しない時間帯に睡眠はきっちりと取っていた。
ルシオは、睡眠の大切さを知っている。少しの疲労が、集中力の欠如が命取りになる世界を生きていたのだ。
体に染みついたその癖はなかなか取れない。危険の去った今の内に体を休めておくんだと、脳が命令を出してきている。
(どうする……仮眠を取るか? 判断力が鈍ってもいけないし……)
更に言うと、今までのルシオにとっての戦いは全て予定通りに行われるものであった。
窃盗団の頃は自分で獲物を駆るタイミングを決めていたし、神界で戦う際も隊長が事前に襲撃をかける時を伝えてくれた。
しかもそれらの戦いは「終わり」が必ず見えている。
大局的な意味での終わりは見えずとも、その時々の戦いは比較的短い時間で終わり、次の戦いに備えて自由な時間が訪れる。
それがルシオの経験してきた『戦い』だった。
だが、この殺し合いはそうではない。
自分から仕掛けるにしても計画を立てる余裕などなく、防衛するにしても役割分担をする仲間がいない。
全ての役割を己一人でこなし、そのうえで目的達成のため島中を駆けずり回らなければいけないのだ。
『プラチナに会う』という目的でさえ当ても無ければ終わりも見えない。
そんな状況で、ルシオの疲労はドンドンと蓄積していっていた。
「……洵には悪いけど、少し眠ろう」
勿論、我慢できない量ではない。この程度の疲労なら、いざとなったら無視できる。
だがしかし、ここで無視をしてしまうと、いずれいざとなっても無視できない量になる。
それならば、今の内に疲労は取っておくのが得策だ。連絡も、頭をスッキリさせてから行った方がいいだろう。
そう考え、とりあえず1時間ほど寝ようとルシオはアービトレイターを手に壁にもたれかかる。
さすがに横になって眠るなんて無防備な事は出来ない。
(そういえば……あの人、どうなったのかな……)
無防備な形で寝かせてきた金髪の青年。彼はチェスなんとか君に無事保護されたのだろうか?
そんな事を考えながら、ルシオの意識は落ちて行った。





 ☆  ★  ☆  ★  ☆

21久し振り。:2010/07/02(金) 19:10:53 ID:AGE5tvK2
「なるほどね、ルシファーは時間も操るし空間も生み出す創造主か。面白い話だ」
殺すか、こいつら。
フェイトの話を聞いて最初に抱いた感想がそれだった。
自分も出会った人間には嘘を吹き込むつもりだったが、まさか自分と同じ行動を取る人間がいるとは思いもよらなかった。
もっとも、自分はこんな分かりやすい嘘を吐く気など更々ないが。
「確かに嘘みたいな話ですけど、本当なんです!」
「俺も、彼の言う事に嘘はないと思っている。嘘みたいな話だが、そもそも嘘を吐く理由がないだろう?」
必死のフェイトの訴えかけでも、ロキの心には届かない。
自分も嘘を吐くつもりだっただけに、フェイトが嘘を吐くことになんら疑問を持たないのだ。
(まあ、だけど全部が全部嘘ってわけでもなさそうだな。おそらく、時間を操るっていうのは本当だ。それならアイツが生きているのにも説明がつく)
二人の抗議を聞き流しながら、ロキはルシファーについて考える。
時間を操る。恐らくルシファーの能力にそれがあることは間違いない。
死んだはずのルシオが生き返ったことの説明も、その一言であっさり付く。
もしかしたら他にも過去から来てる人間はいるかもしれない。『レナス』が『アーリィ』か『シルメリア』の可能性も考慮しようとロキは心の片隅に置いておく。
この嘘に紛れた真実味のある情報は、押さえておいて損はない。
(……いや、思った以上にコイツは切れ者かもしれないな)
そして疑問にぶち当たる。何故フェイトはわざわざ嘘を教えるのか。
自分の場合はソイツが死のうと生きようと関心がないからなのだが、さほど役に立たなさそうな者を二人も連れている所を見るにそういうわけではなさそうだ。
士気を高めるために敵の能力を低めに教えるならともかく、絶望して殺し合いに乗る者を増やしかねない嘘を吐く意味はない。
殺し合いに乗らせるのが目的だとしたら、二人を手元に置いておく必要性もあまり感じない。
優勝を狙える程度の腕があるなら、片足を封じられても何とかする技量があるのだろうし、わざわざ二人を生かしてなどおかないだろう。
自然な答えは、『仲間にするに値するか篩にかけている』辺りか。
絶望的な力の差にも絶望せず、立ち向かう意志のあるものだけを仲間にする。
身体能力よりも精神面を優先した仲間集めであまり関心は出来ないが、フェイトが単なる馬鹿ではない証明にはなる。
「……分かったよ。ひとまず信じることにする」
ロキも馬鹿ではない。形だけでも信じた方がいいと判断したらそれに従う。
はっきり言って気分が悪いが、フェイトの有用性を考えればそれもやむなしだ。
(それに、時間を操る奴を敵に回す以上、歩兵だろうが駒があるに越した事はないからな)
ロキはルシファーが時間操作の能力を持っていると信じている。
フェイトが単なる馬鹿正直な青年でないと考えるようになって、その考えは核心へと変わっていた。
“時間を捻じ曲げる”というだけでも十分非常識な減少なのに、それをすんなり受け入れられた理由。
ロキはそれを『それ以上に非現実的な能力を口にされたから、相対的に現実味を帯びたのだ』と考えた。
それを狙ってやったとしたら、フェイトは自分の予想以上に頭が切れるということになる。
ロキは雑魚には興味がないが、使える駒には興味を示す。故に、ロキはフェイトらを仲間に引き入れようと考えた(ちなみに、自分が仲間に入れてもらう立場という事は考えていない)

22久し振り。:2010/07/02(金) 19:11:35 ID:AGE5tvK2
「とりあえず僕はこの自転車で島を一周するつもりだ。君達も付いてきてくれるかい?」
「それなんですが……」
フェイトが申し訳なさそうに口を開く。出てきそうな反論を先に潰しておこうと、ロキが言葉を遮った。
「安心しなよ。怪我人のフェイトは自転車の後ろに乗ればいい。そうすれば僕の漕ぐ自転車は他の人と同じ速度になるだろうし、丁度いい。
 それに、僕は平瀬村に向かうつもりだ。何かしら治療に使えるものが手に入るかもしれない」
そこまでを言い切り、友好的な笑顔を顔面に張り付ける。
しかし、フェイト達の表情は一層沈む結果に終わった。
「悪いが……私達は今しがた平瀬村から逃げてきたところでね。あそこには危険な奴がいる。行かない方がいい」
様子を見ていたクラースが口を開く。
はっきり言って、平瀬村に戻るなどクラースは御免だった。そして、フェイトとエルネストも同じ気持ちである。
「ああ、奴の名はミカエル。二人にはもう教えたんだが、奴は神の十賢者と呼ばれ、恐ろしい力を誇っている」
「ぷはっ、神だって?」
エルネストの言葉を聞き、堪らずロキは噴き出してしまった。
「へえ、神ね。神。面白いじゃないか、そいつ」
十賢者なんて聞いた事もない。大方そこらの雑魚神族だろう。
それが人間相手に神を名乗ってデカい面をしているといったところか。まったく、面白い冗談だ。
「笑い事じゃないですよ……回避したはずなのに、僕の足はこんな風になってしまいましたし……」
「ああ、行くとしたら鎌石村だ」
「元々俺達は鎌石村を目指しててな。ロキが通った道ならばリスクも他より少ないだろう」
黙れ腰抜け。喉まで出かかった言葉を、ロキは何とか胸の内に留めておいた。
他の二人はともかく、フェイトを手放すのは正直惜しい。
だから面倒だと感じながらも三人の説得を開始する。
「安心しなよ。僕は神だ。信じてもらえないだろうけどね」
場が一瞬で静まり返る。やはり易々とは信じられないのだろう。
「悪いけど僕は強いよ。過信はしてないけど、卑下する気もないからハッキリ言う。僕は強い」
その瞳には迷いがない。確固たる自信を持っていることは、三人にもよく伝わった。
「それでも私は反対だ。そこまでしてリスクを冒して何になる?」
それでも、クラースは反対の意を表明した。
クラースにとって、最終目標は生還である。ミカエルの討伐でもなければ弱者の蹂躙でもない。
そんな彼にとってのベストなこの場の結末は、ロキを引き込み鎌石村に行くことなのだ。
そしてフェイトの情報とロキの首輪などを合わせ、改めて釜石村で考察したいと思っている。
だが――

「悪いけど、進路の変更はしない。僕は平瀬村に向かわせてもらう」

23久し振り。:2010/07/02(金) 19:12:08 ID:AGE5tvK2
ロキとて、妥協する気は更々なかった。
クラースのように深い理由があるわけではない。
ただ単に、自分の立てた計画を死のうが生きようがどうでもいい人間に左右されるのが気に入らないだけだ。
そんな酷くくだらない理由。それでも、ロキにとっては大きな理由。
「そんな……どうして!?」
クラースの一言でロキが折れると思っていたフェイトが、驚きの声を漏らした。
勿論「気に入らない」なんて本音を漏らす程ロキの頭は悪くない。
冷静に、フェイトの食い付きそうな理由を述べる。
「どうしてって、決まってるだろ? 僕はこの殺し合いを終わらせるつもりだからさ」
クラースは黙って聞いている。
彼も仲間を失いたくはないし、殺し合いも出来る事なら破壊したい。
ロキが納得のいく答えを出してきたら、クラースもロキ達と共に平瀬村に引き返すつもりだった。
「僕は逃げてるだけの君達とは違う。殺し合いに乗った奴は倒すべきだと思っているし、僕にはその力がある」
確かに、ロキの言い分には一理ある。
友人を殺したくはないが、例えばミカエルのような顔も知らない殺人鬼なら殺すことに大きな抵抗感はない。
その想いは三人に共通している。
彼らは誰一人として、無殺傷で各々の冒険を終えたわけではないのだから。
「それに、そのミカエルとやらに他の連中が殺されるのは嫌だろう? なら、僕らがミカエルを倒すべきだ」
彼らが逃げたのは、力が無かったから。
ミカエルを倒すことは不可能だと判断したから、戦略的撤退をした。
死にたくないから、仲間を救うためにも死ねないから、ミカエルから逃げた。
そんな彼らの目の前に、ロキは餌をぶら下げる。
「とは言え、さっきも言ったように僕は自分の力を過信したりはしないつもりだ。そのミカエルとやらを無傷で倒せるとは思えない。
 だから、力を貸してもらえるかな。もし一緒に来てくれるなら、僕の支給品から好きな武器をあげるよ」
ファルシオン、ストライクアクス、グーングニル。更にはスタンガンやデッキブラシなんかもある。
これらを一人で使い切るのはどうせ無理なのだから、出し惜しむ事はしたりしない。
人間を駒と考えるように、支給品もまたロキにとっては駒でしかないのだ。
「…………」
フェイトがエルネストと顔を見合わせる。心はロキへと傾いていた。
だが、二人にとって誤算があった。クラースもまた、自分達と同じでロキと行くと思った事だ。
「悪いが、それでも私は行くことが出来ない。私の目的は殺人ではないのでな」
そう告げ、クラースは立ち上がる。
クラースの最優先事項は安全。もはやフェイト達の目的とは一致しようがなかった。
そもそもフェイトを救った目的は情報を得ることであり、それはもう達成済みだ。
いずれどこかで切り捨てるつもりだった男と、武器を持たない一人の男。
彼らと別れるだけだと思えば、さほど大きなダメージではない。
「そんな……クラースさん!」
それでもフェイトはクラースの説得を試みる。フェイトにとって、クラースは大事な仲間なのだ。
自分の命を救ってくれ、あまつさえ延々背負ってくれた男を、黙って行かせたくはない。
「いいんでないの、行かせてやれば」
しかし、ロキにとってはそんなのどうでもいいことである。
フェイトが自分に付いた今、他の二人などどうでもいい。
むしろ、武器の分配分が少なくて済むし消えてくれとさえ思っていた。
「でも……クラースさんは大切な仲間で……」
そこまで言った所で、フェイトの言葉は遮られる。
クラースにでもロキにでもない。勿論エルネストにでもない。
暗転した空に浮かぶ、ルシファーの声によってである。
「そうだ、じゃあ後腐れのないようにこうしよう。ミカエルとやらが死んでたら、クラースは僕達と来る」
「……いいだろう。その代わり呼ばれなかった時は行かせてもらう」
ミカエルが呼ばれるなど、ロキは微塵も思っていない。クラースを追い払うために提案だ。
クラースも、分かっていながらそれを受ける。
当事者間で勝手に賭けは成立し、フェイト達が口を挟む間もない内に、二度目の放送が始まった――





 ☆  ★  ☆  ★  ☆

24久し振り。:2010/07/02(金) 19:13:13 ID:AGE5tvK2
残り人数36人。ルシファーの放送の後、残った人間について考えていた。
エイミに夢瑠、メルティーナが死亡した。
エイミの腕はよく知っている。奴の一撃は読み易いのに防ぐのが困難な程の恐るべきパワーを誇っていた。
同郷の夢瑠。何を考えているのか読めない部分が多かったが、奴の大魔法は神界でも有名だったと聞く。
そしてメルティーナ。ヴァルキリーを蘇らせる際に見せたあのポテンシャルの高さ。並みの術者とは桁違いの強さだった。
そんな3人でさえ、この6時間で戦死したのだ。生き残りはかなりの猛者揃いと見て間違いない。
あのミカエルやヴァルキリー、ロキクラスの者が過半数を占めているはずだ。ミランダのように根っからの雑魚は片手で数えるほどもいないだろう。
(運のいい女だ……俺達以外の誰とも会っていないとはな)
運。
この要素は、この殺し合いで生き残る上で、大きなウエイトを占めているように思われた。
『誰に遭遇するか』ということもそうだし、『支給品は何か』ということもそうだ。
先程の放送によるとルシオはミカエルから逃げ切ったようだが、ルシオの腕から考えるとリバースドールのような便利な物を使用したのだろう。
大方そんなところだろうと思っていたからミカエルの死亡には期待していなかった。
最後に見えた炎は随分離れた場所からだったことから、ミカエルはこの村を離れたと考えられる。
当分の脅威は去ったわけだが、まだ安心はできない。ルシオが戻ってきたところで、まともな支給品は残っていないのだ。
女――ミランダにも支給品を出させたものの、出てきたのは可笑しな箱と不思議な粉のみ。
説明書は紛失したそうだが、粉の方は小麦粉らしい。ハズレの中のハズレといったところか。
箱の方は「もう一つセットのものがあって、それがないと使えないんです」と言っていた。
どちらも嘘の可能性があるのだが、ミカエル襲撃時に使用しなかったことから見て戦闘で使えるものでない事は確かだ。
とはいえ『騙し討ちで使えるもの』な可能性は残っているので、粉を食料に混ぜられぬよう気を付けた方がいいだろう。
そう思ったので、奴の支給品を管理できなくなるのが辛かったが、荷物は全て各自で管理するようにした。

『……洵、洵』
ボソボソとした声が懐から聞こえてくる。
こちらに気を使ったのか、はたまたあちらが大声を出せぬ状況なのか――
とにかく、雑談でもしていたら聞こえなかったであろう音量で、ようやくルシオからの連絡が入った。
物静かな家屋で黙々と体を休めていなければ聞き逃してたな、などと思いながら返事をする。
「ルシオか。今は話せる状況か?」
『ああ……二人とも無事か?』
無言でミランダに“こみゅにけいたあ”を渡してやる。自分の口から語るより、声を聞かせた方がてっとり早い。
それに、きちんと約束を守ったという事を示し、奴の信頼を得ておくに越したことはないからな。
「あの……先程はありがとうございました」
『よかった……無事だったんだ』
“こみゅにけいたあ”越しに、ルシオの安堵する声が聞こえてくる。
が、これ以上会話させてルシオを喜ばせてやる義理はない。安全を伝え終えたようなので、“こみゅにけいたあ”をミランダの手から取り戻す。
「それで……今どこにいる。奴はもう完全に振り切ったんだろう?」
連絡がなかなか無かったにも関わらずこちらから連絡を入れなかった理由。
それはズバリ、ルシオが誰かから身を隠している可能性があったからだ。
若干離れた位置で起こった爆発に、遠目に見える立ち上る煙。
これらから考えるとミカエルはこの場からは離れている事になるのだが、あの爆発を見てやってくる者がいてもおかしくはない。
支給品を使いきったルシオが身を隠しやりすごそうとしていた可能性が高かった。
だから連絡を控えていたのであり、連絡が取れるようになった今ルシオの付近には誰もおらず、それは“ルシオが身を隠しやりすごした奴がこちらに来ているかもしれない”という事を示しているのだ。
ルシオの現在地を聞き次第さっさと移動を開始したい。
だが……帰ってきたのは、予想外の答えだった。

『すまない……まだ帰れないかもしれない』

25久し振り。:2010/07/02(金) 19:14:48 ID:AGE5tvK2
「……どういう事だ?」
帰れない、ということは、何かトラブルにでも巻き込まれたのだろうか?
『……洵さ、言ってたよな、青い髪の女性と金髪の男が殺し合いに乗っているって。友好的なふりをして近付くって』
「まさか……」
『ああ、いるんだ。この平瀬村に。しかも、もう二人も仲間に引き入れてる』
迂闊だった。ミカエルにばかり気を取られていたが、あの二人組もこの村に来ていてもおかしくはなかったのだ。
それどころか、奴らがこの村に来ている筈だと推理したのは他ならぬ俺自身だ。
何故そこまで気が回らなかったのか……それにしても、まさかあの二人がまだ生き延びていたとはな……
「それで、お前はどうしたんだ。もう奴らの中に入り込んだのか?」
『いや……今はやや離れた所にいる。手に入れた双眼鏡で見ているんだ』
「そうか。武器はまだ手元にあるのか?」
考える。ルシオを行かせるメリットを。
確かに俺は、ルシオが二人組を倒せば儲けもの程度に考えていた。
だがしかし、奴らが仲間を増やしていた場合は話が別だ。
奴らは殺し合いに乗っていないという事実を、ルシオが信じ込まされる可能性が一気に跳ね上がる。
奴らの話を聞かずに倒してもらいたいものだが、4対1じゃ最悪の場合、誰一人倒せぬまま取り押さえられ説得させられてしまうだろう。
それは避けておきたいところだ。
『ああ……剣一本だけど、一応ある。何とか二人の人を助けたい』
「……そう言うと思っていた。だが、今はまだ駄目だ。お前一人では勝機はない。お前一人なら、な」
『洵……』
「場所はどこだ。俺も助太刀するとしよう」
だとしたら、俺も助太刀するしかあるまい。
恐らく青髪の女と金髪の男は戦闘しながらルシオの説得にかかるであろうし、俺にとって奴らとの戦闘はリスクが大きい。
だがしかし、それ相応のリターンはある。
先程も言ったように『運』が、『支給品』がこの殺し合いを制するうえでの鍵となる。その支給品が、4人分も手に入るのだ。
金髪の男と青髪の女以外を始末したらルシオが怒るだろうが、仕方あるまい。二人が殺し合いに乗っていないと知る人物は生かしておけないからな。
最悪、ルシオと女をそこで殺してしまってもいいだろう。
それで残り30人。切り捨てるには早いが、背に腹は代えられないからな。
『すまない、洵』
「ふん……連絡を寄越したということは、最初から手を借りる気だったのだろう? 己を過信しない良い判断だ。それで、場所は?」
『ちょっと待ってくれ、今地図を……!?』
ルシオの声がピタリと止まる。嫌でも俺達に緊張が走る。
『な、何が……!?』
“こみゅにけいたあ”越しに、ルシオの焦ったような声が聞こえてくる。
一体何が起こっているんだ? まさか、金髪の男達が誰かに襲撃でも受けたのか?
「あ、あの……」
「何だ」
今まで見張りに付かせていたミランダが、遠慮がちに声をかけてくる。
何やら嫌な予感がした。
「誰か来ます」
「ミカエルか?」
無い、と言いたかったが、ありえない話ではない。
こちらの居場所がバレているのか、いないのか……問題はそこだな。
「すまん、ルシオ、誰か来た。切るぞ。俺達がそちらに向かうまで例の二人組は放っておけ、いいな!」
早口にそう告げ、“こみゅにけいたあ”の通信を終了する。
臨戦態勢をとり、ミランダのいる窓際へと外から見られぬよう姿勢を低くしながら素早く近寄った。
「違うと思います。何やらベルを鳴らしていますので……」
舌打ちをしてやりたいが我慢する。
やはりこの女を引きこんだのは失策だった。ルシオにははぐれたまま見つからなかったとでもいって海に沈めればよかったのだ。
この女を引き込むデメリットは、確かに存在していた。そしてそのデメリットが、今まさに眼前に迫ろうとしている。

――殺し合いに乗っていない人物と遭遇した際、戦闘が出来なくなる。

26久し振り。:2010/07/02(金) 19:15:18 ID:AGE5tvK2
このデメリットはかなり大きい。
どさくさに紛れてミランダを殺すという手もあるが、そこで一手費やしてしまうとその隙を突かれる恐れがある。
ベルを鳴らして存在をアピールするくらいだ、殺し合いに乗っていようと乗っていなかろうと腕は確かなものなのだろう。
かと言って、敵を殲滅した後にミランダを殺すのはほぼ不可能。この女は弱い。おそらく俺が殺し合いに乗っていると分かるなりさっさと逃走してしまうだろう。
逃げた女がルシオと合流でもしようものなら最悪だ。下手したらルシオにミランダ、金髪の男らの同盟軍が出来あがってしまう。
それだけは避けねばならない。
(さて、どうしたものか……)
今声も出せない内にミランダを殺しても血の匂いが漂ってしまう。
ベルを鳴らしているのが殺し合いに乗ってるものならいいのだが――――

現実は非情である。現れたのは集団だった。
自分のように騙して同行させている者が混ざっている可能性もあるのだが、パッと見で分からなければ意味がない。
奴らを襲う理由はなくなってしまった。とりあえずここはミランダを説得してやりすごして……
「複数で行動してますし、安全そうですよ。洵さん、合流しましょう」
この女……ッ! クソ、どうする? どうすれば……





 ☆  ★  ☆  ★  ☆





「クラース……本当に行ってしまうのか?」
「ああ、すまないな。君達の健闘を祈る」
心配そうに声を掛けるエルネストに言葉を返す。
この言葉に嘘はない。エルネストは良い奴だ。こんな所で死んでほしいかと聞かれれば答えはノーだ。
オペラという恋人の名が放送で呼ばれ塞ぎ込んでいたのに、私が立った事に気付くなり私に声をかけてくれた。
まったく、年長者の見本のような男だよ、お前は。
「なら……これを持っていって下さい。役に立つかは分かりませんけど……」
そう言うと、フェイトがその手の鉄パイプを差し出してくる。
本当に役に立つか怪しいものだな、と心の中で毒突いた。
その遣り取りを見、ロキが露骨に眉を顰める。
「おいおい、わざわざそいつにアイテムを譲ることないだろう」
私もそう思う。まったく、本当にお人好しな奴らだ。
「いいじゃないですか、譲るのは僕の道具なんですし。それに、助けてもらう際に道具を一つ無駄にさせてしまってますし、お礼はしておかないと」
不満そうなロキを尻目に、フェイトが改めて鉄パイプを差し出してくる。
「……何故私にそこまでする? 私は君達と道を違えるんだぞ」
鉄パイプがさほど欲しくもないという事もあり、素直な疑問を口にする。
「それは……僕がクラースさんに死んでほしくないからです」
単純明快。だが、私にはもう真似の出来ない理由。
自由だったあの頃とは、夢だけ見ていたあの頃とはもう違う。
今の私には守るべき人がいて、そのためにも見ねばならない現実がある。
ミラルドは弱い。強い部分も多いが、少なくともエルネストのように恋人の訃報で涙を堪えられるほど心が強くできていない。
私は誓ったのだ。一生を賭けて、私の全てを賭けてミラルドを幸せにすると。

27久し振り。:2010/07/02(金) 19:15:52 ID:AGE5tvK2
「僕は、もうこれ以上仲間を失いたくありません」
ああ、そうだな。俺だって出来るだけ失わないでこの殺し合いを終わらせたいさ。
でもな、フェイト。お前の言う事を信じるなら、この殺し合いを止めるのなんかほぼ不可能なんだよ。
もう半分と少ししか生き残っていないんだ、にも関わらず未だに首輪の解析しか出来ていない状況で、その子供になにが出来る?
……なあ、フェイト。すまないが、残り人数が1/3を切っても何も進展しないようなら殺し合いに乗ることにしたよ。その方が遥かに現実的だ。
それでも微かな希望に縋るとしたら、そのガキじゃなくて他の何処かにいるかもしれない『既に首輪の解析を済ませた人物』なんだ。
ミカエルの討伐を任せるのが、賢いそのガキの利用方法なんだよ。
お前は真っすぐだ。だけど、真っすぐであれば何でも上手くいくわけじゃない。
「そういう事だ。ま、こっちの目的は島内一周なんだ、嫌でもまた会えるさ」
エルネストが冗談めかした笑みを浮かべ、「お前さんが同じ方向に移動し始めない限り、な」と付け加える。
それから、「俺の荷物で欲しいものがあれば言ってくれ」とも。
「……私が作った“貸し”はシルバーマトックの分だけだ。貰いすぎてそちらの戦力を削るわけにはいかない」
遠慮しなくていいと言わんばかりにエルネストが苦笑を浮かべる。
だが、やはり遠慮したかった。いざ殺し合いに乗った時に、彼らに借りがあるのではやりにくすぎる。
「だから、そいつを貰おう。どうせ使わないだろう?」
そう言い、エルネストのデイパックを指さす。
「俺の荷物か? と言っても、水と食料……あとはスケベな本しかないぞ?」
中身を順に取り出しながら、エルネストが冗談めかして苦笑を浮かべる。
私は最後に取り出したスケベほんを指さし、告げた。
「だから、その本が欲しいんだ。どうせ君は使わないのだろう?」
今度はこちらが、にやり、と冗談めかした笑みを浮かべる。
フェイトはというと、笑うべきところなのか決めかねているようだった。
「本当にこんなのでいいのか?」
肩をすくめ、エルネストが聞いてくる。
「ああ、構わんよ。こんな状況だからこそ、色々出来るうちに欲求は解消しておきたいんでね」
最後まで冗談めかして、エルネストからスケベほんを受け取る。
私が書物を武器にすることを、エルネストには最後まで伝えなかった。
もしかしたら私は、そうすることで彼らと殺し合う事になった際に「エルネスト達とは一線を置いていた」と自分自身に言い聞かせたいのかもしれない。
おそらくエルネストは、最後まで私が妙な気を回したと思っただろう。
だからこそ、彼はそれ以上何も言わない。鉄パイプを持っていけとも、やはり一緒に行こうとも。
「やれやれ、いい趣味してるもんだね」
楽しげに嫌味を言いながら、ロキが支給品を広げる。どうやら根っからの嫌な奴なようだ。
フェイトやエルネストはともかく、彼を殺すのはさほど抵抗なくできそうだ。
「それじゃ、話は終わったみたいだし、さっさと好きな武器を選んでよね」
私に対する嫌味なのか、本心からさっさと行動に移りたいのか知らないが、やはりこの態度は癪に障る。
もっとも、この態度に感謝したい部分もあるにはある。
もししっかりと再会の約束でもしていようものなら、時が来ても殺し合いに乗る決意が出来なくなってしまうかもしれない。
このぐらいあっけないぐらいが丁度いいというものだ。
「じゃあな」
そうとだけ告げ、エルネスト達に手を向ける。彼らが何かを言ってきたが、聞き流すことにした。
そして挙げた片手をヒラヒラと振ったまま、私はおよそ12時間ぶりに一人となった。

28久し振り。:2010/07/02(金) 19:16:29 ID:AGE5tvK2






 ☆  ★  ☆  ★  ☆





「……これも駄目だな」
腹に括りつけていたフライパンを放り投げ、ミカエルは手にしていたパンを齧る。
表面には出さないが、ミカエルは内心イライラしていた。
逃がしてしまった二人を探したが、結局見つけられなかった。
放送で仲間の死を知り、さっさと逃げ出した可能性が高い。
一応一通り回ってみたのだが、案の定見つけることは出来なかった。
そして家という家を焼き払おうとして――自分の魔力が枯渇寸前だった事を思い出した。
人間二人を焼き殺すくらいなら余裕で出来るが、家という家を焼き払う程の魔力はない。
仕方がないので一旦適当な家屋に入り、体勢を立て直すことにしたのだ。
そして腹に括りつけたウッドシールドが度重なる攻撃の熱の余波と先程食らった一撃でガタがきていることに気付いたのだが……
「けっ、あの野郎……ほんっとーに使えるもんは完全に排除してやがるみてえだな」
民家の中を探してみたが、ウッドシールドの代わりになりそうなものは何もない。
分かっていた事だが改めて腹が立ってきた。
意地でも何かを見つけてやると片っ端から試してみたが、台所にあった鍋もフライパンも突起が邪魔で使えそうにない。
「いい加減この村も潮時かもしれねーな」
最初に襲ったエルネストら3人に、先程襲ったルシオ達。
ミカエルはすでに6人もの人間と遭遇している。
これだけの人数が町から逃走しているのだ。これ以上たくさんの獲物がいるとは考えにくい。
とはいえ残りの32人が均等に3つの村にバラけたとしたら、先程逃げた二人組を除いてもこの村には8人ほどいることになる。
今までの事から考えるに次の獲物も群れていると思われるし、次に見つけた獲物集団を葬り次第、残りの村に向かう時期かもしれない。
ミカエルはそんな事を考えながら、その民家を後にする。
数十分後に、逃がした獲物と再会するなど思いもせずに。





 ☆  ★  ☆  ★  ☆

29久し振り。:2010/07/02(金) 19:17:08 ID:AGE5tvK2
フェイト達がクラースと別れてから数時間が経過した。
ロキの「戦闘になったら役立ってもらわなくちゃならないから今は休め」の言葉に従い、フェイトはロキの漕ぐ自転車の後ろに座っている。
その手には、ロキから譲り受けたファルシオンが。
先程の選択でフェイトはファルシオンを、エルネストはザイルを選んでいた。
ザイルを手に取った際、フェイトもロキも目を丸くしたのだが、エルネスト本人はロープ状の物の方が扱い慣れていると言って当然のようにザイルを得た。
本当にその方が戦力になるなら別にいいかとロキもOKを出し、今に至る。
「見えてきたな」
前方に見えてきた平瀬村を見ながら、エルネストがポツリと呟く。
その言葉からは緊張感を感じ取ることが出来た。
無理もない。嫌という程の実力を見せてきた男と、これから戦おうというのだから。
彼らは警戒を解かずに村に入り、そして自転車のベルを鳴らす。
フェイト達がそうであったように殺し合いに乗らない人間を集めるという目的もあるが、一番の目的はミカエルを誘き寄せるためである。
幸い三人もいるため、奇襲はまず防げるはずだ。
それならば、向こうに待ち伏せされる事を防ぐ意味も込めて自ら誘き出す方が得策である。
そう考え、ベルを鳴らしていたのだが――

「危ないッ!」
自転車から飛び降り、ロキを地面へと押し倒すフェイト。
彼らの首を揃って跳ね跳ばせたであろう軌道を、一陣の剣圧が通り過ぎる。
剣圧。ミカエルには使えぬはずの必殺技。
フェイトとロキが顔を上げると、案の定そこにいたのはミカエルではなかった。
そのことは、ミカエルを知らぬロキにでさえ理解できる。
何故なら、刀を構えて立っていたのは己も知ってる者なのだから。
「ジュン……だったな? 何だい、君は殺し合いに乗っているのかい?」
隙を見せず、ロキが洵に問いかける。
フェイトはロキを庇うように立ち、エルネストもまた自転車の向こう側からいつでもザイルで援護できる体勢を取っていた。
しばしの沈黙。洵にはまだ言葉を発するつもりがない。
「い、一体何を!?」
睨みあいに割り込んできたのは、驚きふためく少女の声。
彼女は洵がロキに不意打ちした事に驚いている。今洵に殺されては困るのだ。
それでは集めてから一網打尽にするという自分の計画が狂ってしまう。
しかしその本音を決して表には出さないで、少女ことミランダは洵を宥めようとする。
洵はミランダのそんな行動を待っていた。
ミランダが何故自ら仕掛けたのかを聞きに来て初めて作戦は成功するのだ。
ロキに仕掛けた段階で逃げられるという可能性が僅かにあったが、その危険は回避した。
漏れそうな笑みを堪え、あくまで真面目な表情を作りながら声を荒げる。
「黙れ。いいかミランダ、その男は殺し合いに乗っている」
「……ふうん、随分面白い言いがかりをつけてくれるじゃないか」
洵の言葉を聞き、ロキはクスクスと笑みを漏らす。
彼の考えでは、洵がそう言っている理由として考えられるのは2つだけ。
『殺し合いに乗っていて自分達を同士討ちさせたい』か、『ビヴィグの殺害現場を見られていたか』だ。
距離的に考えて後者は無いなと考えたロキは、洵が可笑しくてならなかった。
今から自分は目の前の馬鹿を論破する。追い詰められる洵の姿を想像すると、悪戯心に火が付くように思えた。
「言いがかりだと言うのならば答えてもらおう。ルシオを殺害し、ドラゴンオーブを使い神界の征服まで企んだような貴様が殺し合いに反対する理由が何処にある」
だが――その炎は、あっと言うまで掻き消された。その表情からも笑みが消え、この島にきて初めてロキの心に焦りが生まれる。
(なッ……!? そうか、クソ、迂闊だった……ルシファーが時間を操るってことは、何も参加者は“過去”だけとは限らないじというのに……ッ!)
『自分自身が誰かにとっての“過去の人”である』という事を考えていなかった己を呪い、ロキは洵への対応を考える。
無論洵は抹殺する。洵の側にいるあの女もだ。自分に疑念を抱いたのならエルネストも抹殺しよう。必要なのはフェイトだけだ。
一番の問題はこの場を切り抜けた後だ。最悪レナスやブラムスも自分の企みを知っている可能性がある。
そうなった場合、同盟を結べるものは皆無となるだろう。
(どうする……? この失態、どう取り返す!?)

30久し振り。:2010/07/02(金) 19:17:43 ID:AGE5tvK2
他事を考えながらも隙がないロキ。彼の姿を横目で見ながら、フェイトは彼について考えている。
正直に言うならば、あまりロキにいい印象はない。
クラースに対する態度はお世辞にもいいものとは言えなかったし、所持していた支給品も本人と返り討ちにした者の二人分にしては多すぎるように思えた。
折角得た新たな仲間を失いたくないため黙っていたが、それは失敗だったかもしれない。
残り人数も少ないことで焦っていた可能性もある。とにかく、ロキを手放しに信頼したことは反省すべきなのかもしれない。
(もう一度、冷静に考える必要があるんじゃないのか? 本当にロキを信じていいのか……もしかしたら、目の前の二人を信じるべきなんじゃないのか……)、
フェイトは考える。心ここにあらずのままで、人形のように刀を構えて佇みながら。

『洵……聞こえるか』
再び懐から聞こえてきた声に、洵は僅かな苛立ちを覚える。
こちらの都合を少しは考え、通信を自重しようとは思わないのだろうか?
『悪いけど、もう限界だ……二人の内一人が殺された。もう一人も取り押さえられている。お前が何と言おうと助けにいく!』
自ら危険に首を突っ込むその姿勢に些かうんざりしながらも、折角のルシオからの通信は利用せねばと思い至った。
ミランダに目配せし、「取ってくれ」とだけ伝える。さすがに何の事か分かるらしく、洵の懐からコミュニケーターを取り出した。
「……気持ちは分かるが、こちらに来てもらいたいな。こちらも今戦闘中でな」
『なっ……本当か!?』
コミュニケーターから聞こえる声。その声に、ロキは聞き覚えがあった。
殺さなければならないと考えていた、かつて自分が使い捨てたエインフェリア。
「ああ、話してやれ。お前を騙し、ヴァルキリーを殺そうとした邪神とな」
にやりと笑い、洵はコミュニケーターを放り投げる。
俯いたままのロキに代わり、フェイトがそれをキャッチした。
コミュニケーターからは、未だにルシオの声が聞こえ続ける。
『ロキ……お前まさか、ロキなのか!?』
コミュニケーターの向こうから聞こえる声。その声が演技とは、フェイトにはとても思えなかった。
フェイトの手のコミュニケーターを、ロキのストライクアクスが乱暴に弾き飛ばす。
元はと言えばコインで決めたスタンスだが、それでも予定を狂わされるのは腹が立った。
『鬱陶しい、殺してやる』
後先なんて考えない。自分の力を過信しているわけではない。
ロキの頭は、至極冷静に「こいつらを全員殺したところで脱出プランに支障はない。最悪フェイトも殺せばいい」という答えを導き出したのだ。
ロキが動く。そして振り上げたストライクアクスは――

「危ない、左だ!」
「洵さん!」
エルネストとミランダの叫び声により、中断せざるを得なくなる。
ロキは己の力を過信しない。この迫りくる炎を受けられると思うほど、愚かな脳みそはしていない。
洵とロキは素早く回避し、そして炎が襲ってきた方向へと意識を向ける。勿論、互いへの牽制も忘れずに。
逸早く攻撃に気付いたミランダは、現在自分の取るべき行動を決めかねていた。
参加者を集め、一網打尽にしてしまいたい。だが、これだけ険悪な人間が手を取り合うなど出来るのだろうか?
(神よ……これも試練なのですか?)
ミランダは考える。洵に付いて援護すれば、人数を一気に減らす事が出来る。仲間に引き込むというステップは踏めなかったが、本来の目的は達成だ。
だが、問題もある。洵には時限爆弾の効果を偽っているため、下手な援護は疑心を与えるだけかもしれない。誰かが早々に死んでくれたら、そいつの武器を使えるのだが……
そしてミランダにとってそれ以上に問題となるのが『これが神の与えた試練かもしれない』という事である。
それが『この状況をどう切り抜けるか』という類のものならば上記の方法で切り抜けられるのだが、『如何にして彼らを結束させるか』を問われている可能性も否定できないのだ。
彼らを宥め、結束させ、当初の予定どおりそれからまとめて吹き飛ばす。それこそが求められている事だとしたら、上記の方法は使うわけにはいかない。
ミランダは考える。己がどう動くべきか。神は何を求めているのか。

31久し振り。:2010/07/02(金) 19:18:15 ID:AGE5tvK2
「ミカエル……ッ!」
己の手足のようにザイルを使い、素早い回避の出来ないフェイトを手繰り寄せたエルネスト。
彼は僅かな疑心をロキに抱くも、すぐに自己解決へと至った。
ロキは殺し合いに放り込まれる前に悪事をしていた。それは事実だろうと思っている。
だが、ロキはまだ子供だ。本当の“吐き気をもよおす邪悪”というものを目の当たりにし、心を入れ替えたとしてもなんらおかしなことはない。
だとしたら、自分はどうするべきだろうか?
決まっている。ロキの仲間として、年長者として、ロキの分まで謝罪するのだ。そして許しを得、和解させる。
自分はロクでもない彼氏だった。愛する人の死に目にすら逢えず、短い間とはいえ共に戦った男すら止める事が出来なかった。
そんな自分でも、仲間を信じてやる事は出来る。手の差し伸べられる距離に仲間がいる。
死んでしまったオペラのためにも、『オペラの愛するエルネスト』でいるためにも、信じる心を失うわけにはいかないのだ。
そのためにも、まずはこの状況を切り抜けなければならない。

「よお……久しぶりだなお前らァ! ご丁寧に揃ってくれちゃってよォッ!」

仲間を偽り、この期に人数を減らしたい洵。
仲間を作るべきか否か、神の意思を知ろうとするミランダ。
仲間を想い、どちらに行くべきなのか悩むルシオ。
仲間を駒と考え、不都合な人物の抹消を目論むロキ。
仲間を信じ、意地でも正しくあり続けたいエルネスト。
仲間を信じたいからこそ、ロキに疑念を抱くフェイト。
仲間など作らず、本能のままに殺しつくしたいミカエル。

「ぶっ殺してやるぜェェェェッ! スピキュゥゥゥゥルッ!!」

様々な想いが入り混じり、平瀬村の大規模な戦闘が今、幕を開ける。





【F-02/夜中】
【ルシオ】[MP残量:100%]
[状態:健康]
[装備:アービトレイター@RS]
[道具:コミュニケーター@SO3、荷物一式]
[行動方針:知り合いと合流(特にレナス)]
[思考1:洵達の援護に行くか殺し合いに乗った二人組(クレス・マリア)に仕掛けるか決断する]
[思考2:洵、少女(ミランダ)と合流]
[思考3:平瀬村で仲間の詮索]
[思考4:ゲームボーイを探す]
[現在地:平瀬村内北東部よりやや南]
[備考]:※コミュニケーターの機能は通信機能しか把握していません
    ※マリアとクレスを危険人物と認識(名前は知りません)
    ※最初の通信時に驚いたのはアーチェ爆死を見たからです。
    ※洵とのやり取りの間にチェスターはクレスらと離別しました。すぐに駆けつけても97話に割り込む事はありません。



【F-01/夜中】
【ミカエル】[MP残量:50%]
[状態:頭部に傷(戦闘に支障無し)]
[装備:ウッドシールド@SO2、ダークウィップ@SO2(ウッドシールドを体に固定するのに使用)]
[道具:魔杖サターンアイズ、荷物一式]
[行動方針:最後まで生き残り、ゲームに勝利]
[思考1:どんな相手でも油断せず確実に殺す]
[思考2:この場にいる奴皆殺し]
[思考3:この場の人間を殺しつくしたらそろそろ借り場を他に移す]
[思考4:使える防具が欲しい]
[現在位置:平瀬村北西部]
[備考]:デコッパゲ(チェスター)と茶髪優男(ルシオ)は死んだと思っています。

32久し振り。:2010/07/02(金) 19:18:48 ID:AGE5tvK2
【洵】[MP残量:90%]
[状態:腹部の打撲、顔に痣、首の打ち身:戦闘に多少支障をきたす程度]
[装備:ダマスクスソード@TOP、木刀]
[道具:スターオーシャンBS@現実世界、荷物一式]
[行動方針:自殺をする気は起きないので、優勝を狙うことにする]
[思考1:出会った者は殺すが、積極的に獲物を探したりはしない]
[思考2:ロキを殺害し、今後に備え支給品を充実させる]
[思考3:ロキの仲間も出来る事ならこの場で殺しておきたい]
[思考4:現時点でルシオとミランダを殺すつもりはないが、邪魔になるようなら殺す事も考える]
[思考5:ルシオを使ってレナスを利用もしくは殺害]
[思考6:ゲームボーイを探す]
[現在地:平瀬村北西部]

【ミランダ】[MP残量:100%]
[状態:正常]
[装備:無し]
[道具:時限爆弾@現実、パニックパウダー@RS、荷物一式]
[行動方針:神の御心のままに]
[思考1:神の意図を正しく理解し、この状況を何とかする]
[思考2:洵やルシオを利用して参加者を集める]
[思考3:直接的な行動はなるべく控える]
[思考4:参加者を一箇所に集め一網打尽にする]
[現在位置:平瀬村北西部]


【ロキ】[MP残量:95%]
[状態:正常・自転車マスターLv4]
[装備:ストライクアクス@TOP、ママチャリ(ミカエルの炎により半壊)@現実世界]
[道具:10フォル@SO、グーングニル3@TOP、空き瓶@RS、デッキブラシ@TOP、スタンガン、首輪、荷物一式×2]
[行動方針:ゲームの破壊]
[思考1:洵・ミランダ・ミカエルの殺害]
[思考2:見つけ出してルシオを殺害]
[思考3:出来ればフェイトは手ゴマとして取っておきたい。エルネストは別にどうでもいい]
[思考3:自転車で街道を走って島を一周する。途中であった人間達にはいい加減な情報を与える]
[思考4:首輪を外す方法を考える]
[思考5:レナス、ブラムスの捜索(自分の悪事を知っているんじゃないかと警戒し始めている)]
[思考6:一応ドラゴンオーブを探してみる(有るとは思っていない)]
[現在位置:平瀬村北西部]

【フェイト・ラインゴッド】[MP残量:100%]
[状態:左足火傷(戦闘にやや支障有り。ゆっくり歩く分には問題無し)、ロキに対する不信感]
[装備:ファルシオン@VP2]
[道具:鉄パイプ-R1@SO3、荷物一式]
[行動方針:仲間と合流を目指しつつ、脱出方法を考える]
[思考1:ミカエルの打倒。洵達とは出来れば戦いたくない]
[思考2:ルシファーのいる場所とこの島を繋ぐリンクを探す]
[思考3:ロキを信用していいのか見極める]
[思考4:確証が得られるまで推論は極力口に出さない]
[現在位置:平瀬村北西部]
[備考:参加者のブレアは偽物ではないかと考えています(あくまで予測)]

【エルネスト・レヴィード】[MP残量:100%]
[状態:両腕に軽い火傷(戦闘に支障無し、治療済み)]
[装備:ザイル@現実世界]
[道具:荷物一式]
[行動方針:打倒主催者]
[思考1:仲間は絶対に守り抜く。フェイト・ロキは勿論出来れば洵達も死なせたくない]
[思考2:ミカエルを倒す。その後で生き残っていたら洵とミランダを説得しロキと和解してもらう]
[思考3:仲間と合流]
[思考4:炎のモンスターを警戒]
[思考5:平瀬村で医療品捜索後、ロキ達と島を一周。出来ればその後クラースと合流したい]
[現在位置:平瀬村北西部]



【C-02/夜】
【クラース・F・レスター】[MP残量:100%]
[状態:正常]
[装備:シウススペシャル@SO1、スケベほん@TOP]
[道具:薬草エキスDX@RS、荷物一式]
[行動方針:生き残る(手段は選ばない)]
[思考1:鎌石村へ行き、フェイトから得た情報を手土産に首輪の解析を進めるチームに入れてもらう]
[思考2:ゲームから脱出する方法を探す]
[思考3:参加者が1/3になっても脱出方法が分からないようなら脱出は無理と判断し殺し合いに乗る]
[現在位置:D-02、道から少し外れた森の中を鎌石村方面へ移動中]

【残り26人】

33名無しのスフィア社社員:2010/07/02(金) 19:21:19 ID:AGE5tvK2
以上です。状態表はいらないかな?とも思いましたが一応載せておく事にしました。

34 ◆cAkzNuGcZQ:2011/01/30(日) 17:41:27 ID:mxG9llTU
去年の4月くらいに最終更新してた没ネタです。
相当中途半端ですがここに埋葬しときます。

35 ◆cAkzNuGcZQ:2011/01/30(日) 17:43:21 ID:mxG9llTU
(レオン! 良かった、無事だったんだな!)

乱入してきたヘソの男は本当に自分達の味方なのか。それとも敵なのか。
本来その疑問に答えてくれる道具である筈のエネミー・サーチは、
敵意の数に関わらず警告の光を1つしか出してくれない様で今の状況では役に立たなかったが、
男に続いて暗闇から出てきたレオンの姿を見た時、クロードの疑問は警戒心と共にたちまち薄れ始めた。
このヘソの男。顔こそ悪人面であり、言葉使いも乱暴だが、
レオンと行動を共にしているのならば信用に足る人物と考えても問題無いだろう。
男がアシュトンに対して見せた、何やら意味深長な態度は少々気になるが、
そう言えば先刻アシュトンはこの島では誤解を受けてきたような事を言っていた。
もしかしたら、この男もアシュトンを誤解してしまった人物の1人なのかもしれない。だとしたら今の態度にも辻褄が合う。

(あれ? 待てよ……)

そこまで思考を進めたところで、クロードの脳裏に何かが引っ掛かった。
確か男はアシュトンと戦っていた少女に『アルベルさん』と呼ばれていた。
そして、少女に向かっては『ソフィアじゃねえか』と返した。

『アルベル』と『ソフィア』

引っ掛かったのは名前だ。クロードはこの2つの名前に聞き覚えが有った。
名簿で見ただけの名前では無い。確かにこの耳で聞いた筈の名前だった。
それを聞いたのは何時の事だったか、とクロードは記憶を辿る。答えは数秒で出た。

(そうだ、アルベルにソフィアって言ったら、ブレアさんの仲間の名前じゃないのか?)

間違いない。『アルベル』と『ソフィア』は、ブレアから聞いた名前の中に有った。
だとすれば、これはチャンスかもしれない。
彼等がブレアの仲間であるなら、自分がブレアと出会った事を伝えればこの状況をどうにか丸く治められはしないだろうか。
ソフィアと弓の男が腕ずくでも止めねばならない危険人物だという事は疑う余地も無いが、
このまま戦い続けたら最悪誰かが命を落とす事になり兼ねないのだ。
現にたった今死を覚悟する状況にまで陥ったクロードは、その事を骨身に沁みて理解していた。
そもそも彼等は危険人物とは言え、殺し合いに乗っている訳ではない筈だ。
殺し合いに乗っていない者同士で殺し合う。これほど馬鹿げた話は無い。
ギョロとウルルンを殺されたアシュトンには少し気の毒だが、
第三者に間に入ってもらい、平和的に解決出来るのならそれが1番ではないだろうか。
そう、アシュトンに無駄な殺人を犯させない為にも、それが1番良い。

「――――――やっぱりぃーっ!」

しかし、レオンの叫び声で意識を現実に戻したクロードが最初に見たものは、平和的解決の想いを無情にも打ち破る一つの姿。
満面の笑みで悪人面に磨きをかけ、クロード達へと突撃してくるアルベルの姿だった。

(えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!? な、何で!?)

クロードが思考に気を取られていたのはほんの僅かな間だけだ。十秒も経っていないだろう。
その十秒程度で自分達を助けてくれた男に一体どんな心変わりが有ったと言うのか。やはりアシュトンへの誤解だろうか。
ならば説明を、と考えたその時には、既にアルベルは攻撃態勢に入っていた。

     ★     ☆     ★

36 ◆cAkzNuGcZQ:2011/01/30(日) 17:44:30 ID:mxG9llTU
「無限・空破斬! そらそらそらぁ!」

自分が殺し合いに乗っている事を知る人物の出現。
動揺するアシュトンに、対策を講じるだけの時間は与えられない。
アルベルと呼ばれた男が持つセイクリッドティアから、一瞬にして4発の衝撃波が放たれた。
衝撃波は土や落ち葉を巻き上げ、側に落下していた矢を弾き飛ばしながら、全てがクロードに飛んでいく。

「ちょっ待っ……てっ……うわぁーー!」

スターガードでそれらを懸命に防いでいたクロードだったが、衝撃までは殺しきれなかった様だ。
後方へと突き飛ばされていき、アシュトンとクロードとの距離が否応無しに開けさせられる。
それが狙いだったのだろう。アルベルはその隙にアシュトン目掛けて凄まじい速さで肉薄していた。

「まずはてめえからだ、クソ虫が! てめえにはしこたま貸しがあるからなぁ、遠慮はしねえ!」

動揺している暇はない。対策を講じている余裕もない。とにかく対抗しなくては。
しかし、今のアシュトンは空手。対抗する為の武器はまだ地面に落としたままだった。
アシュトンは慌ててアヴクールを拾う事を考えるが、アルベルのスピードは何故か夕方に戦った時よりも格段に上がっている。
バーニィシューズを履いていた先のボーマンと比べても何の遜色もない程に速い。
剣を拾い、体勢を直し、受け止める。
今のアルベルに対しこの3つの動作を間に合わせるイメージは全く湧かなかった。

(それなら――)

アシュトンは迫るアルベルをギリギリまで引きつけた。
繰り出される斬撃。剣圧を皮一枚のところに感じながらも、地面に転がり込む様に回避し、落ちていた剣を手に取った。
上手くいった。おまけに僅かにでも距離を離せた。
そう思いすぐ様振り返るが、その時にはアルベルは再び至近距離に迫ってきていた。
振り返ったは良いが剣を受ける事すら困難な体勢。剣を拾えた安堵感など、一瞬で吹き飛んだ。

「くっ、ギョロ、ウル――――っ!?」

癖。それは、咄嗟の時にこそ出る。
アシュトンは条件反射で迎撃を選択した。背中にいる筈の頼れる親友達に助けを求めようとした。
そして、すぐに2人はもういない現実が、焦燥と共にアシュトンの胸を駆け抜け、追い詰める。
いつもならこんな時は2人がフォローしてくれたのに。慣れ親しんだ戦法はもう二度と使う事は出来ないのだ。
3人で1人だった『アシュトン・アンカース』としての戦法は、もう二度と――――。

「くっそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

その叫びが向けられたのは、迫るアルベルに対してなのか。それとも改めて噛み締める事となった喪失感に対してなのか。
何とか距離を離そうと後ろに跳ぶも、一瞬の判断の遅れはアルベルが踏み込むには充分な時間だった。
水平に光った剣閃がアシュトンの胸元を掠める。ぱっくりと切り裂かれた服の切れ口から鮮血が飛んだ。

「くうぅっ!」
「ちっ、逃げ回ってんじゃねえぞ!」

尻餅をついている様な格好のアシュトンに、何の躊躇もせずに特攻してくるアルベル。
振り下ろされたセイクリッドティアに対し、アシュトンは再度その剣を引き付け、身体を横に捻って地面を転がり回避した。
体勢の悪すぎる今はそれしか出来ないが、これで地面を叩かせればその分追撃にはタイムロスが生じる。
間合いを取れれば体勢を立て直せる。そうすれば、まだ何とかなる――――筈だったのだが。

「へっ、何してやがる!」

期待していたタイムロスなど生まれなかった。
アルベルは剣を途中で止め、大きなステップで更に間合いを詰めて来ていたのだから。
転がりながらアシュトンはアルベルの冷徹な笑みを見て、そして悟る。
今の一振りは単なるフェイントだという事を。自分は回避したのではなく、回避させられたのだという事を。
アルベルが剣を構える動作が、妙にゆっくりと見えた。しかし、アシュトンにはどうする事も出来なかった。

37 ◆cAkzNuGcZQ:2011/01/30(日) 17:45:49 ID:mxG9llTU
「衝裂破ッ!」

アルベルは剣で地面を削り、自らを中心とした半円を描きだした。
その半円から噴き出す様に放たれた衝撃波がアシュトンに襲い掛かる。
成す術も無く直撃を受けたアシュトンは、まるで水面に投げ込まれた小石の様に地面の上で弾き飛ばされ、
加速した勢いのまま軌道上に生えていた樹に横腹から叩きつけられた。

「うぐぁっ……はぁ…………!」

脇腹と胸に同時に激痛が走った。今の衝撃で斬りつけられた胸の傷が広がったようだ。
そのままうつ伏せに倒れこむアシュトンの耳に、駄目押しの言葉が届いた。

「空破斬ッ!」

アシュトンも良く知る衝撃波の名称だ。
まずい、避けなきゃ。そう思うも痛む身体が言う事を聞いてくれない。
避ける事は無理。ならばガードだ。せめてガードする程度にはまだ動ける筈。いや、動かなくては。
アシュトンは頭を抱え込む様に両手を交差し、痛みを堪えて必死で身体を丸めた。

「………………………?」

しかし、いくら待っても覚悟した衝撃は来なかった。
アルベルは確かに叫んだ。それなのに、何も起こらない。
疑問に思ったアシュトンは恐る恐る顔を上げる。
衝撃波など何処にも見当たらなかった。代わりに視界に入ったのは追撃の来なかった理由。
アルベルは今、アシュトンには背を向けている。その向こうに居るのはクロードだ。
どうやらクロードがアルベルの追撃を止めてくれたらしい。

「ぷはぁ、はぁ……はぁ……はぁ…………はぁ…………」

緊張が解け、無意識に止めていた息を吐き出した。
一つ息が出て行く度に強打した脇腹が痛み、全身から力が抜けていく。しかし、寝込んではいられない。
アヴクールを杖代わりに使って立ち上がろうと考えたが、いつの間にかまた手放してしまっていた事に気が付いた。
地面を見回すと、少々離れた場所に落ちているアヴクールが目に入る。手を伸ばしても届きそうには無い。
已む無く、肘と膝を地面に立てて身体を起こそうとした。
だが四つん這いの体勢を取ったところで、手足の筋肉が体重を支える事を拒否するかの様に震え出した。

(あ、あれ……?)

左腕が内側に滑り、肩から地面に倒れ込んでしまった。
視界がぼやけていた。眼筋に力が入らず、焦点が合わせられない。
ダメージのせいだろうか。いや、無論ダメージも原因の一つでは有るが、それだけではない。
主立った原因は、疲労の方だ。
受けたダメージが呼び水となり、チェスター達への怒りで消えたかの様に感じていた今までの疲労が一気に噴き出していたのだ。

(ま、まずいよ……)

最悪だった。
追撃こそ免れたが、4人もの敵が居ると言うのに疲労困憊で言う事を聞かない身体。
いつレオンが自分の事をクロードにばらしてもおかしくないこの状況。
そして何より、アシュトン自身にもこの場の打開策が何も思いつかないという展開。
全てが最悪だった。

自分が激突した樹を支えに、アシュトンはどうにか上半身を起こし、もたれかかった。
もたれかかる背中に違和感が有った。
背中で触れている樹の硬い感触に、ある種の心地悪さを感じた。
背中で直に触れてしまえる事の“慣れなさ”には、心地悪さと心細さが入り混じっていた。

(……ギョロ……ウルルン……)

ぼやける暗い森の中に浮かんだのは、二人の親友の顔。
幾度となく共に窮地を凌いできた、親友達の顔。
縋(すが)る思いで、アシュトンは二人の顔に問いかけた。

(……僕は…………どうしたら…………)

     ★     ☆     ★

38 ◆cAkzNuGcZQ:2011/01/30(日) 17:46:21 ID:mxG9llTU
この場を何とか穏便に治めたい。
アシュトンお兄ちゃんは説得したいし、クロードお兄ちゃんには事情を聞きたい。
それは嘘偽りの無い、僕の本心だった。
クロードお兄ちゃんもアシュトンお兄ちゃんも、僕の仲間だし……ちょっと年は離れてるけど、友達なんだ。
出来る事なら争いたくなんてないよ。争いたくない。そんなの決まってるじゃないか。

…………でも、分かってるんだ。穏便に治めるなんて事、もう現実的じゃあないって。
アルベルお兄ちゃんが飛び出しちゃった今はもう、説得や話し合いなんて出来る状況じゃない。それは良く分かってる。
戦いは始まっているんだ。
僕の我侭で無理にアシュトンお兄ちゃん達を説得しようとして、アルベルお兄ちゃんの足を引っ張る訳にはいかない。
覚悟は、ここに来るまでの間に済ませたんだ。今の状況を受け入れて、僕も戦わなくちゃいけない。

まず、確認をしておこう。ここに居た4人はどういう状況にあったのか。
勿論、可能性ならいくらでも考えられる。
アシュトンお兄ちゃんはクロードお兄ちゃんに説得されて改心してくれてる可能性だって有るし、
4人が戦ってるのも何かの誤解でって事も考えられる。
でも重要なのは可能性じゃない。事実がどうかって事なんだ。
事実だけを考えてみれば、
アシュトンお兄ちゃんは夕方までの時点では確実に殺し合いに乗っていた。
今はアシュトンお兄ちゃんとクロードお兄ちゃんが一緒に弓使いの人達と戦っていて、
弓使いの人が一緒に居るのはアルベルお兄ちゃんの知り合いの女の人。
ギョロとウルルンの姿は今は何故か見えない。

現状で僕に分かるのはたったのこれだけで、具体的な事は正直何一つ分からない。

だから僕は最悪を想定する。御都合主義の三流研究者みたいな妄想じみた可能性じゃなくて、最悪の可能性を想定する。
今のケースで最悪なのは、勿論ここに居た全員がゲームに乗ってる事。
その場合、展開として最悪なのは、唯一確実にゲームに乗っていないアルベルお兄ちゃんと僕が殺されちゃう事だ。
アルベルお兄ちゃんが殺されれば、僕も……考えたくは無いけど、ここに居る…………誰かに、殺される事になる。
僕が殺されれば、レナお姉ちゃんやプリシス、他のみんながこのゲームから脱出する事が出来なくなる。
だから、それだけは絶対に、絶対に避けなくちゃならない。
アルベルお兄ちゃんと僕は絶対に勝たなくちゃならない。

でも、クロードお兄ちゃんとアシュトンお兄ちゃんは、強い。
僕は2人の強さを良く知っている。
だから断言出来るんだ。アルベルお兄ちゃんは無茶だ、って。
いくらアルベルお兄ちゃんがあのガブリエルと戦って生き残った程の実力者だって言ったって、
クロードお兄ちゃん達2人と、2人を追い詰めていた弓使いの人とソフィアって女の人(確か、紋章術師だ)、
この4人を同時に相手にするなんてどう考えても無茶だ。無謀にも程がある。無事に済むだなんてとてもじゃないけど思えない。

だったら自然と僕のやるべき事は見えてくるよね。
ちょっとだけ、危険だけど。
ちょっとだけ、怖いけど。
ちょっとだけ…………ほんのちょっとだけ、悲しいけど。考えただけでも……目頭が熱くなってくるけど。
でも、やらなくちゃいけない。やり抜かなくちゃいけないんだ。
僕達が勝つ事こそが、この場を1番穏便に治められる唯一の方法なんだから。

ここまでを2秒で考え方針を固めた僕は、胸の中に生じた痛みを出来る限り無視して、重たい一歩を踏み出した。

     ★     ☆     ★

39 ◆cAkzNuGcZQ:2011/01/30(日) 17:46:56 ID:mxG9llTU
衝撃波に突き飛ばされた後もクロードは「ちょっと待ってくれ。話を聞いてくれ」そうアルベルに声を掛けたのだが、
執拗にアシュトンを追いかけるアルベルはまるで聞く耳を持たず、声を掛けたくらいでは止まってくれなかった。
アシュトンが完全に追い詰められた状態に陥った時、やむを得ずクロードはエターナルスフィアを振るった。
エターナルスフィアの光の散弾ならば相手に大怪我をさせる事も無い。アルベルを怯ませて止める程度ならベストの策の筈だった。

「ちっ……衝裂破ッ!」

しかし、アルベルの見せた対処法はクロードの予測を遥かに上回っていた。
アルベルは背後から迫る光弾の気配を敏感に察知し、振り向きながら衝裂破を放ったのだ。
広範囲に亘り噴き出す衝撃波はアシュトンと光弾、そして地面に散らばっていた矢をも纏めて吹き飛ばした。
直撃したアシュトンに気を取られかけるが、それすらアルベルは許さない。
クロードの方向に厳しい表情を向けたアルベルから更なる衝撃波が繰り出された。

「空破斬ッ!」

スターガードを構えようとしたが、空破斬の軌道はクロードには向かっていない。
その事を疑問に思うよりも早く、クロードは別方向からの殺気に気付いた。反射的に殺気へとスターガードを構え直す。
殺気の主は弓の男だった。遠距離から弓の男がクロードに対し、矢を放っていたのだ。
そして矢はスターガードではなく、空破斬の風圧に弾かれて地面に転がった。
どうやら今の空破斬は矢を止める為に繰り出されていたらしい。

「くそっ、てめえ! だから何で――――」
「デコッパゲ、てめえは最後だ! 引っ込んでろぉぉ!」

再び空破斬が放たれた。今度は弓の男に真っ直ぐ飛んでいく。
それに対して彼がどう動いたのか、クロードは見届ける事は出来なかった。
アルベルがすかさずクロードに突進してきたからだ。

「ちょっ、僕の話を聞いてくれ!」

何とか話し合おうと声を掛けるが、直情径行、猪突猛進とはこの事だと言わんばかりに、アルベルは止まらなかった。
初太刀を剣で受け流したクロードだったが、それは皮切りに過ぎない。
一片の躊躇も無く振るわれる、薙ぎ払い、払い返しの乱舞が、まるで流れる水の様に途切れる事無くクロードに襲い掛かった。
身体ごと移動して剣を叩きつける様な剣技。一撃一撃にアルベルの全体重が乗せられており、それでいて異常に動きが素早い。
一見出鱈目に剣を振るっている様だがその動きは実に洗練されており、受けに回ってしまった今、割り込む隙も見当たらない。
アルベルの本気が剣から伝わり、冷や汗が流れた。防御に集中しなくてはやられる。とても口を開いている余裕など無かった。
クロードは剣を打ち合わせる事で何とか猛攻を凌ぎ続けた。斬られる事だけはどうにか防ぎ続けた。
だが、一刀、また一刀と衝撃を防ぐ度に、コンマ単位で遅れが生じていく。
コンマ単位。とは言え、その遅れが蓄積していけばどうなるか。当然動きの差は開き出し、余裕は削られていく。
ただでさえ防ぐだけで精一杯のクロードには、アルベルのスピードが徐々に上がっていく様に感じられていた。
このまま剣で防ぎ続けても、事態は好転しないどころかいずれ斬られてしまう。
そう踏んだクロードは次の一撃をスターガードで受け止めた。
衝撃で発射された光弾にアルベルが怯み、動きの鈍った一瞬。クロードはバックステップで間合いを広げ、叫んだ。

40 ◆cAkzNuGcZQ:2011/01/30(日) 17:47:41 ID:mxG9llTU
「ブレアさんと会ったんだ!」
「ああ?」

反応有りだ。アルベルの殺気と勢いが僅かにではあるが、確かに薄れた。
やはりブレアの仲間のアルベルなのは間違いない。ここで説得しなくては。

「ブレアさんは――――」

アルベルを説得しようと声を発したその時だった。
説得を妨害するかの様に、不自然に出現した濃霧が一瞬クロードの視界を覆い、そして消えた。

「――――っ!?」

ようやく作れた説得のチャンスだったのだが、クロードは思わず口を止めた。
クロードは今の霧を知っている。経験した事が有る。
この霧は間違い無く紋章術『ディープ・ミスト』の効力だ。
クロードの仲間内では、レナやレオンが使用出来る紋章術だった。
そう。レオンが。

まさかと思い、クロードは慌てて辺りを見回した。
まさか、レオンのはずはない。
ここにはもう1人紋章術師が居る。ソフィアが居る。
今のディープ・ミストは彼女の仕業に違いないだろう。
レオンではない。レオンが自分に術をかける理由なんか、ある筈がないのだ。


しかし、クロードの視線が捉えたのは、目が合う直前、クロードを拒む様に顔を背けた少年の姿だった。


(ば、馬鹿な!?)

クロードは愕然とした。レオンへの忠告もアルベルへの説得も忘れる程に。
ディープ・ミストが自分をも対象としていた。
それはつまり、レオンがクロードを敵として認識しているという事に他ならない。
そして朧気に見えているのは、全く予想だにしない展開。
距離を取りつつソフィア達と対峙しているレオンの姿だった。
クロードの心臓が大きく跳ねる。
あの二人はギョロとウルルンさえも殺した危険人物。
それを、かつて前衛に出て敵と対峙した事など無いレオンが一人で相手にするなど、自殺行為以外の何物でもないではないか。

「何故だ!? レオン、どうして!?」

レオンは振り向かない。クロードの声が届いていない筈も無いのに。
もう一度叫ぼうとした時、耳に入ったのは自分の方に走り迫ってくる足音。
振り返れば、当然の様にアルベルが剣を振るわんとしている。
身体ごとぶつかる様なアルベルの斬撃を、クロードはエターナルスフィアで真正面から受け止めた。
弾き飛ばされそうな程の重い一撃だったが、何とか堪えられる。足を止めさせ、鍔迫り合いに持ち込んだ。

41 ◆cAkzNuGcZQ:2011/01/30(日) 17:51:18 ID:mxG9llTU
えー、以上です。推敲してないので変な文章もあるかも。
この後色々あってアシュトンがレオン殺害。
色々あってアシュトンがチェスター、ソフィア殺害。
色々あってアルベルがアシュトン殺害。
色々あってクロードは森の中で迷子に。
となる予定でした。

42名無しのスフィア社社員:2011/02/14(月) 09:08:27 ID:zzH0sGfo
今更ながらに乙
これもこれで緊迫した戦いになってるなー
そして予定では4人も死んでたのか!めちゃくちゃ話が大きく動く事になってただろうな


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