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△▼△アポロチョコ▲▽▲

222171:2003/10/30(木) 21:45

【VO エチーなし 捏造もいいとこ 2/3】

「…で。どうしてこんな時間に一人であんな場所をほっつき歩いていたんだ?」
隣に腰かけて、じ、と正面に向き合う。
「えーっと…」
「正直に言ってみなさい、オーランド。怒らないから」
作り上げた神妙な顔つきは、1秒後、せっかく考えついたお説教口調に自分で可笑しくなって、もののみごとに崩れた。
目を合わせて笑い合う。ここへおいで、と膝を叩くと、小さなお尻がひょいと飛び乗ってくる。抱き寄せて、頬にキスする。
「んー、やっぱここにいるのが一番ホッとする」
いつもの現金さのなかに、はにかむような響きがあった。まだ胸の中に押しとどめているものがあるにちがいない。
「授賞式会場でさ、来ないって分かってたのに…あんたの名前読むの聞いた瞬間、なんだか急にガーッと寂しくなっちまって。バカ騒ぎすればするほど、『ぼく、こんなところで何してんだよ?』って…」
答えないかわりに、腕の中の湿気を含んだ柔らかな巻毛の頭をそっと撫でる。きっと、路上で出会ったときから、タクシーを拾ってここへ来る間じゅう、彼がいちばん言いたかったことなのだ。
「…TVスクリーンの中のあんたが見下ろしてる、ここはどこ? 誰もかれも、どうしてそんな顔してちやほやしてくれるんだい? あんたたちの目にはぼくが見えないのか!? ぼくの何を知ってるっていうんだよ!って…」
ヴィゴの鎖骨に埋めた鼻先から響く声が、にわかに洟声になった。
きっかけが映画の成功だろうが不倫の暴露本だろうがもはやさして重要ではない、日々またたく間に複製され、世界に散らばっていくイメージと情報。どういう基準である者が選ばれ、ある者が排除されていくのかよく判らないその気まぐれな王国の、夜ごとの仮面舞踏会のひとつにすぎない数時間前の宴。
「…あんたの顔見たら、なんか急にそんな気分になって。いても立ってもいられなくなって、パーティ会場とび出して。あんたに会えるってアテがあったわけじゃないけど、歩いてきちまった」
シャツ越しに息のかかる鎖骨が、じんわりと熱く濡れたような気がした。
目の前のチャンスは何であれ後悔はしまいと全力でつっ走ってきて、気がついたらこの華やかでとらえどころのないトランプのお城の真っただ中にいて。自分の断片をその合わせ鏡の世界を流れてどうとでも解釈されてゆく記号として冷徹につき放すには、腕の中の青年は、あまりにも真っ当で、あまりにも豊かすぎるほどの、こぼれ落ちるような等身大の歓びや悲哀や友情や愛を持っていた。
この先、彼がどんなふうに生きてゆくのかは分からない。だが彼が人生のなかで本当にやりたいことをやるために、自分の力の及ぶかぎり守ってやりたい。
――いや、「力の及ぶかぎり」などという条件をつけない、ひとつの決意なのだ。本当に誰かを守るということは。
ふいに天から降ってきた声のごとく、考えが脳裏に思い出された。
いつだったろう、最初にそう考えたのは。息子のヘンリーが生まれたときだったかもしれない。
窓を叩く小糠雨はいつのまにか止んでいた。部屋の灯りの外に、ものいわぬ夜が沈黙の中に語る音だけが、静かにひろがっていた。


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