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ストーム・オーヴァー・ジャパン改

7サラ:2007/02/07(水) 23:20:25
ストーム・オーヴァー・ジャパン改 その7

1950年12月21日 新京郊外 

 帝国陸軍が最初に導入したドイツ製戦車はティーガーⅠだった。
 第2次世界大戦に参戦しなかった大日本帝国は欧州が必要とする様々な軍需物資を輸出して外貨を稼いでいた。同時に欧州製の優れた兵器を輸入、ライセンス生産することで軍備の近代化を図るのにも熱心であり、友好関係にあったドイツから様々な兵器が輸入、或いはライセンス生産された。
 ドイツ側も敗戦を見越して資本や技術の海外移転を考えており、ドイツ製の優れた陸戦兵器を輸入、ライセンス生産したいという日本側の要請は渡りに船だったためにティーガーⅠのライセンス生産に関する交渉は極めて迅速に進んだ。 
 しかし、実際にティーガーⅠはライセンス生産されることはなく、より先進的な設計の5号戦車『パンター』のライセンス生産に帝国陸軍は軸足を置くことになる。
 それでも中古のティーガーⅠが1個大隊分、満州の防衛強化とドイツ軍の戦車戦術導入のために輸入され、実戦配備された。それが1945年のことだった。
 それから5年後の1950年12月20日。ティーガーⅠは最後の戦いに望もうとしていた。
「アドラーよりファウケ。敵戦車多数接近中」
「ファウケ。了解。迎撃する」
 パイパーは新京から脱出するにあたってその突破の先方にパンターを充てた。ティーガーはその遥か後方で後衛戦闘に配置されている。その決定に岸和田軍曹は全く不満はなかった。ここは1950年の満州だった。1942年のワルシャワではない。今は8年後だった。突破の先頭に立つにはティーガーは老いすぎていた。
 雪が待っていた。
 吹雪だ。激しい吹雪。
 ハッチを跳ね上げた途端、岸和田の半身に雪が張り付く。視界は白く暗かった。冥府のような沈黙の向こうに聞き慣れたT−34の履帯の音が響く。雪の帳の向こうに敵がいた。双眼鏡を構えて、薄い視界の向こうに敵の姿を探す。午前11時とは思えないほど日の光は弱かった。まるで真夜中のようだ。
 視界は200m先から完全に失われていた。遠距離砲戦は不可能だ。敵は赤外線暗視装置をもっていないはずだから、近接戦闘になるだろう。ティーガーⅠの主砲旋回速度はお世辞にも良好とはいえず、接近戦になれば不利だった。
 しかも、IS−3やT−54と遠距離砲戦になれば勝ち目はなかった。今やティーガーⅠの装甲はどのような距離からでもソ連製重戦車に撃破されてしまう。
 そうした不利を岸和田は車体を壕に埋めることでカヴァーしようとしていた。
 味方の戦車は12両。新京の倉庫に眠っていた24両のうち、まともに動かせたのは半分だけだった。残りの半分はパーツを取って爆破した。敵に渡すのは忍びない。
 前哨の歩兵の入った陣地のあるあたりで銃声が響いた。
 この吹雪の中で敵が見える距離まで敵が接近したということだった。
 臨時の中隊長から射撃命令が出たのはその直後だった。
「ファウケ01、中隊。弾種徹甲。戦車、撃て!」
 砲手が火蓋を切った。
 距離は300mを切っていた。必中の間合いだ。砲撃と弾着はほぼ同時に発生した。
 弾薬が誘爆し、砲塔が派手に吹き飛ぶ。目もくらむような閃光と赤い炎が待った。しかし、全ては雪の弾幕のせいで妙に曖昧だった。
 ただ、至近距離での誘爆音だけが激しく鼓膜を叩いた。
 臨時の装填手、金少年兵が砲弾を込める。一瞬だけ、岸和田は注意をそらした。金少年が手を閉鎖器に食い千切られないか、心配だったからだ。
 しかし、それは杞憂だった。素早く次弾を装填する。金少年は次の砲弾をラックから外した。訓練どおりのスムーズな動作だった。
 これが最初の実戦とは思えないほどの落ち着きだった。自棄か、あるいは状況が飲み込めていないのかもしれなかった。
 砲手は次弾が装填された瞬間に引き金を引いた。獲物はそこら中にいた。岸和田は何の指示も出す必要はなかった。砲手の好きなようにさせた。繰り返すが、獲物はそこら中にいた。岸和田は指示を出すことを忘れ、車体上部のMGを夢中で乱射した。
 敵が後退を始めたのはそれから30分後のことだった。
 戦車が燃えていた。T−34だった。新型はいない。重戦車でもなかった。敵も先方部隊には重戦車を使うのを避けていた。
 そこに堅陣があると知れているのならともかく、とかく重戦車は鈍く、重い。大切な進撃路を自重で荒らしてしまう。その逆もまた然りだ。
 ティーガーⅠが突破先頭ではなく後衛戦闘に充てられるのも同じ理由だった。
 雪原にはT−34の残骸と敵の死体が転がっている。それも見る間に雪の下へ沈んでいった。猛烈な吹雪が何もかもかき消していく。
 氷点下に下がった空気を切り裂いて砲弾が飛来した。敵の野砲だ。
 やがて猛烈な敵の砲撃が始まった。


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