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強奪
3
:
舞方雅人
◆8Yv6k4sIFg
:2006/07/01(土) 12:22:57
「ふう・・・すっかり遅くなっちゃったわ」
ほろ酔い加減で沙由里は夜道を歩いていた。
由美香はちゃっかりと健太を呼び出して、車で送ってもらっている。
沙由里も一緒に送ろうといってくれたが、健太と由美香はこのあと二人で楽しむに違いないのだ。その邪魔はしたくなかった。
「甘えちゃいなさいよ。蔵石さんならすぐに来てくれるでしょ」
由美香はそう言っていたけど、沙由里はそこまで甘えるつもりは無かった。
端本が出没している時は送り迎えしてもらっていたけど最近は見かけなくなっていたし、由美香の前で蔵石に甘えることは何となく照れくさくもあったのだ。
明るく人通りの多い通りを選んで帰ってきたものの、アパートのあたりはあまり人通りは多くない。
自然と足早になる沙由里。
やがて自分のアパートが見えてホッとした時、いつも端本がたたずんでいた電柱に人影があるのを沙由里は認めた。
反射的に沙由里の体は硬くなり、心臓がドキドキし始める。
また端本がストーカーのように現れたのだろうか?
だが、恐る恐る近付いてみると、それは端本ではなく別人であることがわかる。
背が高くすらりとしたその男は夜だというのにサングラスを掛け、黒いスーツに身を包んでいた。
沙由里は緊張しながらも男の脇を通り抜け、駆け出すようにしてアパートの階段を登っていく。
鍵を開けるのももどかしく、扉を開いて部屋に入り込んだ沙由里はしっかり鍵を掛けると部屋の明かりをつけ、ようやく少し落ち着くことができた。
「ふう・・・」
崩れるようにソファに座り込んだ沙由里は冷や汗をかいていることに気が付いた。酔いもすっかりさめている。
「だ、誰なの? あの男の人・・・」
沙由里は震えている体を支え、窓から外を覗いてみた。
「居ない?」
電柱のところに男は居なかった。
まるでさっきのことが夢でも見たかのようにそこにはただ街灯の明かりが地面を照らしているだけだった。
沙由里はホッとしてカーテンを閉める。
私ったら・・・あの端本って男のせいでびくびくしちゃっているんだわ・・・
あの男の人はたまたまあそこに立っていただけなのかも・・・
沙由里はそう思い、上着を脱いでTVのスイッチを入れる。
週末の娯楽番組が静かな部屋を明るくさせた。
呼び鈴が鳴ったのはそのときだった。
ピンポーンという電子音が部屋に響く。
沙由里は反射的に体を硬くした。
時間はすでに十時を過ぎている。こんな時間にいったい誰が・・・
再び呼び鈴が鳴らされ、沙由里はやむを得ずに玄関へ向かう。
「はい・・・どなたでしょう?」
玄関の扉越しに沙由里は声を掛けた。
「夜分遅く申し訳ありません。宅配便のものですが、蔵石さんという方からお届けものなんです。開けていただけませんでしょうか?」
「あ・・・あの・・・明日ではいけませんか?」
沙由里は悪いと思いつつも開けることにためらいを感じた。
「夜分遅くに伺いましたことは申し訳ありません。ですが今までおられませんでしたので・・・お渡しするだけなんですが・・・」
宅配便業者の声は何となく哀れさを感じる。今までずっと待っていたのかもしれない。
扉の覗き窓から覗くと、大き目の箱を持った帽子をかぶった男性が立っている。
「わ、わかりました」
沙由里は仕方なく扉の鍵を開けチェーンを外す。
蔵石さんからって・・・いったい何かしら・・・
沙由里の思いはそこで途切れた。
扉を開けた途端に沙由里はスプレーのようなものを浴びせられたのだ。
「あ・・・」
沙由里は意識が遠くなる中で端本の笑い声を聞いたような気がした・・・
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