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強奪

10舞方雅人 ◆8Yv6k4sIFg:2006/07/01(土) 12:29:01
 「ここですよ」
 職員に連れてこられたのは手術室に繋がる控え室のようだった。
 「ここは?」
 「ここは、まあ、引渡しの間とでもいいますか。ドールをマスターにお渡しするところです」
 「そ、そうですか・・・いやぁ・・・ドキドキしますよぉ」
 頬を紅潮させ、端本は落ち着くように胸に手を当てている。
 それを見て職員は苦笑しながら扉を開く。
 そこはごく普通の殺風景な待合室といった感じだったが、中央に立っている人影を見た瞬間に端本の心臓は跳ね上がってしまった。
 そこには長い黒髪を後ろで束ね、小柄な瓜実顔に微笑みを浮かべて立っている沙由里、いやHD-0163がいたからだ。
 真っ白な肌はつやつやとして輝き、黒いレオタードを着ていてもしっかりとわかる躰のラインは滑らかで美しかった。
 「こ・・・これが・・・沙由里ちゃん・・・」
 思わず端本が息を呑む。
 「どうですかな? 見事なものでしょう。実際傑作ですよ、この娘は」
 教授がニヤニヤしながらHD-0163の肩に手を置いた。
 「さあ、こちらへ来てください。マスター登録をしませんとな」
 「は、はい・・・」
 ギクシャクと緊張した動きで端本はHD-0163の前に立つ。
 HD-0163はまったく表情を変えずに端本を見つめていた。
 「さあ、ご挨拶をするんだ」
 「はい。メモリー確認。端本雄司様と認識いたしました。私はヒューマンドール社のヒューマンドール、HD-0163です。よろしくお願いいたします」
 彼女はにこやかに頭を下げる
 「あ、そ、そうか・・・HD-0163だっけ。ボ、ボクは端本雄司だよぉ。よ、よろしくぅ」
 おどおどとHD-0163の前に立ち尽くしている端本。
 「HD-0163、マスター登録をするんだ。これから彼がお前の所有者となるのだから」
 「かしこまりました。端本様、両手を私の目の前で開いてくださいませんでしょうか」
 「えっ! こ、こうかい?」
 両手を彼女の前で開く端本。
 HD-0163はしばらくその手のひらを見つめていたが、やがてうなずいた。
 「指紋、声紋、体型、データの登録を完了いたしました。これよりHD-0163は端本雄司様の所有物となりました」
 端本は飛び上がりたいほどだった。ついに念願がかなったのである。
 「う、嬉しいよぉ・・・さ、沙由里ちゃぁん」
 端本はそう言ったが、HD-0163は少し困った表情を見せた。
 「申し訳ありません。私はまだネーム登録されておりません。沙由里というのは私のネーム登録なのでしょうか? 素体時点ではそのようなネームだったとメモリーされておりますが」
 「う・・・そ、そうだなぁ・・・君はもうボクのものなんだからサユリと名づけよう。今日から君はHD-0163サユリだ。いいね」
 「はい。ネーム登録いたしました。私はHD-0163サユリです」
 「ふ、ふふふふ・・・ははははは・・・」
 サユリの返事に端本は思わず笑いを発してしまった。
 「それはけっこう。これでHD-0163はあなたの物です。では再度契約を確認しましょうか」
 職員が契約書を端本に見せる。
 「素体の臓器は全て弊社のほうで引き取り売買させていただいてけっこうですね?」
 「はい、けっこうです」
 端本がうなずく。
 「もう一体のほうの納入はいつごろになりますか?」
 「早ければ一週間ぐらいで・・・」
 「そちらのほうの臓器は健康面で問題無いでしょうね?」
 「え〜とぉ・・・多分大丈夫だと思いますよぉ。しっかり調べましたから」
 職員がにこやかにうなずいた。
 「はい、そちらの面は我々でも調べさせていただきました。問題無いという結論がでております」
 「な、何だぁ。調べてたんですかぁ」
 「もちろんです。高価なものですので支払いはきちんとしていただきませんとね」
 「あ、はい・・・」
 確かにその通りだ。ヒューマンドールは高価なのだ。
 これからサユリを維持していくのにも金がかかる。
 サユリの動力源である水素はヒューマンドール社に頼るしかないのだ。
 端本は気を引き締めた。


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