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舞方雅人の趣味の世界

123舞方雅人:2018/05/26(土) 09:45:02
小雨に濡れる駅のホーム。
人影もまばらな夕暮れの駅に、一輌の蒸気機関車が客車を引いて入ってくる。
雨に煙りのにおいが混じる中、客車から降り立つ一組の男女。
深緑色の軍用コートに身を包み、軍帽を目深にかぶった軍人と思しき男性と、黒のスカートに白のエプロンを組み合わせたメイド服を身にまとった少女と言ってもいいぐらいの女性。
一見すると奇妙な取り合わせの二人に、彼らをホームで待っていたであろう深緑色の軍服を着た兵士が近づいていく。

「失礼いたします。コルチャスキー少佐殿でいらっしゃいますか?」
「ああ、そうだが」
兵士の顔を興味無さそうに見やるコルチャスキー。
どうせ迎えに差し向けられただけであろう兵士になど興味があるはずもない。
「司令部よりお迎えに参りましたニコロフ軍曹であります。外に馬車を待たせておりますのでどうぞ。お荷物はそちらで?」
ニコロフ軍曹がメイドの前に置かれていたトランクに手を伸ばす。
「あ、結構です。私が持ちますので」
その手を制するようにメイドの少女が声を発する。
その声はやや高いものだったが、聞く者に鈴の音を思わせるような心地よさだ。
一瞬戸惑ったニコロフ軍曹はどうしたものかとコルチャスキーを見上げる。
「荷物は彼女が持つから問題ない。案内を頼む」
「了解しました。ではこちらへ」
コルチャスキーに無表情でそう言われ、ニコロフ軍曹は荷物から手を引っ込めると、そのまま二人を駅の外のロータリーに案内する。
そこには簡素だがボックス型の四輪馬車が待っており、ニコロフ軍曹がドアを開けて二人を中へと通す。
そのまま軍曹は御者台に上がったので、室内には二人だけが残された。

「ふふ・・・チョコレートが大事か?」
トランクを手元に置いて大事そうにしているメイドに、コルチャスキーは苦笑する。
「当然だ! チョコレートが無ければだれがお前のメイドなどするものか」
ギラッとした目でコルチャスキーをにらみつけるメイドの少女。
その目は深い青であった。
「まあ、メイドをちゃんと勤めれば、チョコレートはちゃんとやる。安心しろ」
「ふん! 俺様をこんな人形の中に閉じ込めたお前に安心しろと言われて、安心などできるものか」
「言葉遣いには気を付けろ。俺と二人きりの時は構わんが、人目がほかにあるときはきちんとメイドらしく振舞え。さもないと・・・」
「わかってる。チョコレートをもらえないのであろう? わかっている」
ギリと唇をかみしめるメイドの少女。
「チョコレートなどという言うものが、この世にあるのがいけないのだ・・・」
憎々しげにそういうものの、彼女の目はトランクの中にあると思われるものに向けられてきらきらと輝いていた。


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