したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

NON-TSF「偶然が、あたしを。」※再掲、修正・加筆

1luci★:2016/10/27(木) 00:33:53 ID:???0
 どうしてこんな扱いを受けなければならないの。あたしはあの時たまたまあそこにいて……。なんで汚いものを見る目で……悪し様に罵るの――。
 どうしようもなかったじゃない。叫んでも、泣いても、誰も助けてくれない。みんな、見ていただけの傍観者なのに。いえそうじゃないわ。傍観者どころか加害者だって思うもの……。

「ええ? 今日? え、もう家の前? きちゃったの?」
 スマホの相手は従弟の淳樹くんだった。あたしの家から電車で一時間のところに住んでいる従弟は、今年で中学一年になる。あたしとは四つ違いで兄弟姉妹のいないあたしには弟のような存在だった。その彼が突然家にやってくるという。
『だって、約束したじゃん』
 淳樹くんが希望の中学に受かって、そのお祝いにちょっとしたプレゼントを買うっていう約束。それは覚えてる、けど。
 特に予定のない春休みの最終日。次第に暖かくなる日差しと大気。少年の心を少しばかり浮かれさせているのかもしれない。
「……はいはい。わかった、わかりました。とにかく、ちょっと入ってよ。今玄関開けるから。――おかあさぁん、じゅんきくん来てるよぉ」
 二階の部屋から階下へ急いで降りる。その間に母へ一言伝えると玄関を開けた。
「みーちゃん、おはよう。早く行こうよ」
 ちょっと見は女の子にも間違われそうな華奢な男の子が、ちょっと不満げな顔をのぞかせていた。
「あのね。まずは上がって。淳樹くん、突然きて、すぐ出かけられるわけないでしょう」
「――みーちゃんが先に、なんでも、買ってあげるって言ったんだぞ」
 不満げな顔であたしを見上げ、そしてその視線は廊下の奥から顔を出した母へと移っていた。
 簡単な挨拶を済ませると、淳樹くんを母に任せてあたしは大急ぎで支度をした。
 あー、服買っちゃったからなぁ……銀行いかないと。今月きびしぃなぁ。

20luci★:2016/10/27(木) 00:52:37 ID:???0
***************

 それから、何度もがんばろうって、お父さんに言われたように、学校に行こうとしたけど、ダメだった。そのたびにお父さんに叱られて、叩かれもした。
 ひと月も経つと、テレビではあの事件のことはほとんど見られなくなったけど、ネットは違うみたいだった。
 どうしても知りたいことがあって、本当に紫帆ちゃんはあたしのことが嫌いだったのか知りたくて、怖かったけど机のノートPCで検索してみた。
 たくさんサイトがあった。動画も、いっぱい拡散して……ほんとにたくさんの人があたしのこと見てるって、そのとき知った。
 あいつらが作ったサイトが、元凶が、あるはずって思って、探した。そして見つけた。まとめサイトっていうところだった。
 多分、その時のじゃなくて、その時の画面の画像を録画してる。だからこそ客観的で、あたしは背筋が寒くなってた。
 あいつらが言っていた「安価」って言葉の意味が、その時わかった。その画面の中に流れる文字は、あたしを特定して、あたしの事を丸裸にして、あたしを罵って、あたしを犯すように言っていた。
 あたしはいつ、どうしてこんなにも恨みを買っていたんだろう? あたしが銀行を襲ったの? あたしが行員の人たちを、せんぱいのお父さんを殺したの? 
 めまいがするほどの悔しさってあるんだわ。――書き込んでいる人たちは、ただ面白おかしくしたいだけに見えた。それでもあいつらはその安価を実行に移して。あたしにはその行為がただの傍観者ではなくて、加害者にも等しかった。ううん、違う。あいつらと同じで、あたしをレイプしたのと同じに思える。そして、今もあたしの動画は拡散し続けて、あたしは、レイプされ続けてる。
 そう、そして、そのとき始めてきづいたの。多分、画像は永久に残る……あたしはこれからずっと、ずっと、きっと死ぬまでレイプされ続けるんだって……。
 学校の裏サイトに行ってみると、かなり早い段階であたしの画像で特定されてて、あいつらのサイトの拡散を誘導してた。そこにも悪意ある言葉がずっと並んでて、それを読むたびに動悸が激しくなって涙が止まらなくなる。こんなことして何になるのかって、自分でも思うのに、どうしてもその悪意のもとに辿り着きたくて、進めていた。
 そして、なんとなく、言葉の使い方とかでわかるのがあった。――たぶんこれが紫帆ちゃんの。だって、みーちゃんって書いてるし。思わず書いちゃったんだね。周りでみーちゃんていうこ、紫帆ちゃんしかいないのに。
 せんぱいのことも、あたしが紫帆ちゃんに言ったまま書かれてた。そこには、恥ずかしげもなくとか、少し見た目がいいと思ってるから質が悪いとか、お嬢さまなんて人の痛みがわからないとか、犯されて、思い知ればいいとか……。
 ――後悔って、ほんとに先には来ないのね。読まなければよかった、なんで知ろうと思ったんだろう? 知らなければ、まだ救いがあったかも知れないのに。恨まれてるなんて、思いもしなかったのに。こんなにもあたしには悪意が向けられていたなんて、知りたくなかった。
 その書き込みのHNはCHOって書いてあって。あいつらのサイトにも同じHNがあった。せんぱいのことを書いていたのもそのHNで。CHOの裏サイトの最後の書き込みには、『これでみーちゃん自殺したらチョーウケルんですけど』って書いてあった。
 紫帆ちゃん、あたしも何度もそう思ったのよ……でも、あなたのいう通りにだけはならないから――絶対に死んであげない。

21luci★:2016/10/27(木) 00:53:31 ID:???0
***************

 一日のほとんどを家の中で過ごすと、人間て自堕落になる。夜と昼の境目がわからなくなって、いつなのかもわからなくなる。尤も睡眠薬のせいかも知れない。あたしが学校に行けなくなって、そのあとお父さんは転校の手続きを取ってた。
 お母さんは、その時は家で家事手伝いをしてくれたらいいって、言ってくれたけど、お父さんは譲れなかったみたいだった。
 家から遠くにある、それこそ電車で一時間くらいの距離にある高校は、季節外れの転校生だったからか、すぐに興味を持たれて、調べられて……。二日目にはあたしのことをみんな知ってる有様だった。
 あたしのことを、あたしの知らないところで、知られてる……恥ずかしいことも嫌なことも、全部。これが、こんなことが、これからもついて回るの? こんなんじゃ、外にでるなんて無理だよ、お父さん。どうしたらいいの? 教えてよ。もう、がんばれないよ。
 転校はそれから二回したけれど、二回とも、誰かがあたしを特定してしまって。そのたびにあたしの心は傷だらけになって、歪んでいく。
 そして、あたしは転校を、高校生活自体を諦めてしまった。
 それが原因だったんだろう、お母さんとお父さんはしょっちゅう喧嘩して、罵りあうようになって。
 そういえば、あの時からひと月半も経った頃に生理がきた。それまでずっと不安だったから、お母さんと抱き合って喜んだっけ。でもそのお母さんもお父さんと離婚してしまった。お母さんは最後まで味方でいてくれた。けど、あたしを引き取ることはできなかった。専業主婦だったから、あたしを育てられないって判断されたようだった。
 それから二年。
 あたしはまだ部屋から出られなかった。精神的なものなのか、生理は来たり来なかったり。お父さんとは、最近話もしてない、と思う。
 家のことはあたしがした。食事も作った。買い物は配達してもらった。ネットってすごいって改めて思った。
 いつもと同じ変わらない毎日。きっとずーっと変わらない。そう思ってたのに。シャワーを浴びて人心地ついたとき、玄関のチャイムが鳴って、あたしの小さな世界は一変した。
「美里、お客さんだ。もう居間に通してる」
 ひどく事務口調なお父さんの声。久しぶりに聞いたけど、無責任にもほどがあるわよ。
「ちょっ、お父さん? 待ってよ、お客さんて一体――」
 一瞬、お母さんかと思って居間まで降りると、そこに知ってるこによく似た男の子がいた。でも、こんなに大きくない。もっと、可愛かった。
 お父さん以外の男性をすごく久しぶりに身近に感じて、あたしは、身体が震えた。
「あ、の、どちら様、ですか?」
「え? あ、美里分かんないかな、俺、淳樹」
 時間てすごいって思った。声も、身体も、もうほとんど大人の淳樹くんがいた。
「――淳樹くん? 見違えちゃった……」
 一体、どうしたっていうの? あの時から何度か尋ねてきたのは知ってた。あたしが会いたくないからって追い返しちゃってた。半年もすると来なくなってたから、あたしはすごく安堵してたのに。あのことを直接見てるこのこには会いたくなかったから。
「ん、美里と話がしたくて、きたよ」
 ちらっとお父さんを見る従弟の目が、ここではない場所でって言ってる気がした。ここじゃないところって、もうあたしの部屋しかないじゃない……このこ、いつも突然くるのね。
 部屋に通すと淳樹くんは目を丸くして、気遣いもなく部屋中を見渡してた。そうよね。おかしいよね。窓は目張りして外からの光が入らないようにしてるのに、灯りは煌々とつけてるなんて。でも、こうでもしないと誰かに見られるかもしれないじゃない。あたしがここにいるって誰かが書くかもしれないじゃない。灯りがなかったら、昼間でも悪夢を見てしまうじゃない――。
 淳樹くんはドアを閉めるとそのままどかっと入り口を塞ぐように座ってしまった。だからあたしは、一番遠く、ベッドを背もたれにして膝を抱えた。
 やっぱり、ちょっと怖い。あたしの部屋なのに、あたしの世界なのに、逃げ場がなくなっちゃってる。
「美里、俺は外出てくる……夕飯はいらない」
 あたしが異性といても大丈夫って思ったのか、淳樹くんを信用してるのか、それともあたしなんてどうでもいいって思ってるのか、お父さんはそれだけ言うと出て行ってしまった。

22luci★:2016/10/27(木) 00:54:18 ID:???0
 玄関が閉まって、そして車のエンジン音が遠くなって消えて。部屋の中は、あたしの速い呼吸音が響いてる。
 話があるって言ったのに、淳樹くんは口を開かない。ずっとそうしててもいいけど、あたしが緊張感に耐えられそうもなかった。
「大きくなったね。男っぽくなった――そういえば、もう、受験でしょう? 早いなぁ、ちゃんと勉強してる?」
「ん、まぁ、ね。俺のことはどうでもいいんだ。――美里、髪短くしちゃったんだな。じゃなくて、いつまでこうしてる気?」
 俺、だって。様になってきてるのがちょっと癪に障るけど。美里って低い声で呼ばれると、調子が狂う。
「髪は、吐くとき鬱陶しいから……こうしてるって、引きこもってるってこと? ふふ、ひどい、ね、淳樹くんは。理由、知ってるじゃない」
 このこも、意外と意地悪だったんだ。知ってるくせに、あたしを、みてたくせに。
 あたしの声に憤りを感じたのか、彼は一旦深く息を吐いて。
「こうしてても、何も解決しないだろ? おばさんに前聞いたし、昨日はおじさんとも話したけど、この一年、外に全然出てないんだろ。もっとさ、出てみたらどう? なんか変わるかも知れないだろ」
「……は? いやよ、絶対。――え? なに? ちょっ――」
 ひねくれた態度が気にくわなかったのか、いきなり立ち上がってあたしの手首を掴んできた。それがすごく怖くて。あたしはパニックになってた。
「やっ、痛いっ放してっ、やだ、行かないっ、外になんて……ここにいるの、あたしは、ここがあたしの居場所なのっ、ここでいいのっ。――外なんて、きっと誰かがあたしを傷つける、ねぇわかる? いっぱい、いっぱい、がんばったのよ? でもがんばっても誰も助けてくれないんだよ? あたしもういやなの、あんなこと、もうやだっ、だから、知ってるのにっ見てたくせに、あたしの何もかも見たくせにっ――そんなこと言わないでよっ……」
 泣いて叫んで頼んでも、淳樹くんの顔は変わらない。手も放してくれない――あの時みたいに、あたしのあそこをじっと見ていた時とおんなじ瞳。ああ、そっか、わかったわ。君も、男の子だったよね……もう、いいや。
「――もう、わかったわよ、わかったから……手、放してくれる?」
 止まらない涙を空いてる手で拭う。あたしが落ち着いたと見たのか、淳樹くんは手を放してくれた。でも、手首には少し手の跡が残ってる。
 ベッドに腰かけて手早く着てるものを全部脱いだ。……震えるけど、意外と平気、かも。男の子の前で、また、裸になるなんて思ってなかったけど。
「み、みさと?」
「わかってるから……淳樹くん、あの時からあたしと、……したかったんでしょう? あたし、多分、あんな風に否定されたら、強要されたら、こうするしかないって――ね、あたしの身体あげるから、心はここに置かせてよ」
 あたし、言ってることめちゃくちゃだ。もう、おかしくなってるのかもしれない。
 動こうとしない淳樹くん。あたし、そんなに魅力ないかなぁ。
「ここ、毎日きれいにしてるんだよ? そりゃ、あたしは汚れてるっていえばそうかもしれないけど、でも。ほら、ね?」
 大きく足を広げて、あそこを指で開いた。あの時みたいに。何してるんだろう、あたし。こんなことしても、あたしもこのこも傷つくだけって思う。自傷行為みたい。でもあたしは、それよりも外に出て、誰かに傷つけられる方がいやなの。だから、わかってよ、あたしの持ってるもの、これだけだから、これしかあげられないんだから。

23luci★:2016/10/27(木) 00:55:28 ID:???0
「ふふざけんなよ、美里! 服着ろよ、服っ」
 真っ赤になって横を向いて、怒鳴ってる。その横顔が、あたしの知ってる淳樹くんの顔と一緒で、重なって。それが妙に心を落ち着かせてくれた。だから服を着ろって言われたけど、手近なシーツを身体に巻いて言葉に従った。
「淳樹くんは男の子なのに、女の子と、その、したくないの? やっぱり、汚い、から」
「俺だってそりゃ、いや、違うっそうじゃなくて。俺が言いたいのは、俺だって、美里がどんなに……」
 いきなり男の子がぼろぼろ泣き始めてる。なんでこのこが泣いてるんだろう? 泣きたいのはあたしだと思うけど。
「ごめんね、あたしが」
「ああっもうっ。話聞けよ! 美里は俺の憧れなんだ。あの時の美里がいたから俺は生きてるって思ってる。美里が傷ついても俺のためにがんばったって、俺が知ってる。だから、だからこそ、こんな状態嫌なんだよ。なぁ、俺は、俺が今度は美里を助けたいんだ」
 あたしは可愛かった従弟の顔を見た。膝をついてあたしと同じ目線の顔。なんだか傷が結構ある。さっきまで掴まれていた手は、よく見ると大きくて、ごつごつしてる。とても逞しい身体。でも目だけは優しくて、あの時みたいに怖さはなかった。
「――どう、助けてくれるの?」
「俺だってこの二年、いろんなことがあったんだ。だから、俺が守る」
 ああ、もう、それは答えになってないでしょう? 具体的なことなにも言ってないのよ、それ。きっと、力でなんとかしようって思ってるのね――男の子だなぁやっぱり。
 淳樹くんの場合は、それでも解決できたのかもしれない。多分、男の癖にとか、守れなかったとか、女の裸を直接見た嫉妬とか、そんなとこなんだろうって想像がつく。
 あたしの場合は、違うんだよ、わかってる? ずっとついて回るの。でも、それでも、このこは戦ってきたんだ、理不尽と。あたしが動けなかったこの二年、ずっと。それは、あたしがあのときがんばったから――? だとしたら……。
「美里、今日だけでも、出てみようよ」
「……出てって」
「え? いや、だから」
「着替えたいの。だから、部屋から出てて」
 一瞬、呆けた顔が面白くて。出て行ってから少しだけ笑ってしまった。笑うなんて、まだできたんだわ。
 服を選ぶのも久しぶりだった。外が明るいのは一階に行ったとき分かったけど、暖かいのか、肌寒いのかわからない。そういえば淳樹くんの服装はどうだったろう?
 階下に降りると淳樹くんは靴を履いて待っていた。
 淳樹くんが扉を開けると、新緑の香りと眩いお日さま。そこを一歩一歩足を動かす。
 お天気と違って、あたしの心が晴れたわけじゃない。わかってるもの。このこはあたしを救えない。救われることなんてない。一生ことあるごとに悲しんで苦しんでいくんだろう。でも、あたしだって、踏み出したかった。一歩でいいから。
 あたしだって、抗って、戦って、取り戻したい。この二年を。
 思えば、あの日このこが来たのも偶然。あたしがあそこを選んだのも偶然。レイプされたのも、男性が怖くなったのも、人が信用できなくなったのも、どん底まで落ちたのも偶然。なら、浮上するきっかけも、このこが来た偶然から、ってなるのかも知れない。
 だからあたしは、今度の偶然は、あたしを、ほんのちょっとだけ幸せにしてくれるって、もうちょっとだけがんばれるきっかけって、思うことにした。

<偶然が、あたしを。終わり>


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板