[
板情報
|
カテゴリランキング
]
したらばTOP
■掲示板に戻る■
全部
1-100
最新50
|
1-
101-
この機能を使うにはJavaScriptを有効にしてください
|
作品投下用スレ
1
:
gere★
:2005/06/17(金) 22:07:06 ID:4/fBJ1aQ
1、結界により、各能力は使用不可、あるいは弱体化してます。
この結界は当分破壊できません。
2、各キャラはアイテムを一つずつと1日分の食料+水を配布してもらってます。
アイテム管理のために、例え話の中でアイテムの状態が変わっていなかったとしても、話の最後に、
【019 柏木千鶴 装備:トカレフ(残り弾数5)】
【2日目 14時頃 学校の保健室】
のようにアイテム、時間、場所を明記することを強く推奨します。
それと本文に無かった描写を【】内で補足するのは紛らわしいので禁止とします。
3、送信する前にかならずリロードをしてください。
かぶって投下すると読みにくくなり皆凹みます。
4、書き手の方はできるだけ実況スレをチェックするように心がけてください。
矛盾点、ルール抵触等の問題発生時に円滑な進行が出来なくなる恐れがあります。
また物語も佳境ですので書き手IRC及びまとめサイトの方も出来る限りチェックして書き手同士の足並みを揃え、
矛盾点・未使用の複線を減らしたいと思いますので、そちらの方も推奨しておきます。
書き手IRCは『#ロワ2書き手専用』です。
2
:
名無しさん
:2005/06/17(金) 22:07:26 ID:4/fBJ1aQ
5、問題作品(作品の修正)について
・問題提起は作品投下より12時間以内とし、それを過ぎた作品は確定とする。
・以下は、後続に深刻な影響を与える矛盾のある作品にのみ適用され、
既に確定した過去作品に遡及しては適用されない。(※)
・修正は一回のみ。
・修正時間の猶予は、指摘者からの要修正宣告から24時間。
・修正可能なのは話の大筋や結末に変化の無い程度まで。
それ以上の修正を必要とする場合はそこでストップ(分岐不可)。
・誤字脱字等、後続にほとんど影響の無いミスについては特に制限は設けない。
・修正待ちの話で使用されたキャラの話は、修正後の判定が出るまで投下を控える。
・なお、確定していない作品の続編が投下された後、元作品に審議が発生した場合、 元作品のストップ要求は後続作品にも連鎖する。
(※つまり、矛盾を抱えた作品Aに対して修正、あるいはストップ要求をする場合に、
その矛盾の萌芽が既に通しが確定した作品Bにあるからといって、それに対して遡っての修正はしない)
3
:
名無しさん
:2005/06/17(金) 22:07:48 ID:4/fBJ1aQ
以下ロワ2したらば版追加ルール
6、分岐制度
・荒れる元のNG制度を廃止して新たに分岐制度を設けることにする。
・分岐制度では1週間以内に投下された作品に限り、その話から別の話に分岐させる事が出来る制度である。
・また分岐乱立防止のため分岐させる際には実況スレにて作品を投下し許可を得なくてはいけない。
・分岐した作品はアナザーではなく別の流れの作品として扱われる。
・ただし、3日以内に他の書き手によってその話の続きが書かれなかった場合はその分岐はそこで初めてアナザー扱いになる。
・分岐の際は他の人がいつ見ても間違えない様、「#○○○『×××××』からの分岐です」と文頭及び最後の状況説明にて明記しなくてはならない。
7、予約行為は禁止とする
スレでの事前予約行為、もしくは準する行為。
分岐作成時の作品も出来ていない内に発表するなどの行為は禁止とする。
8、新スレ要求は書き手IRCまで
スレ乱立を防ぐため新スレがどうしても欲しい場合は書き手IRCまたは実況スレまでお願いします。
4
:
id8
◆H65x/v0nEg
:2005/06/17(金) 22:56:39 ID:/ijneb.U
皆さん今日は。ハカロワⅡ書き手IRCのid8と申します。
書き手IRCの書き手の総意により、只今よりハカロワⅡを再開致します。
5
:
最大限の使命 id8
◆H65x/v0nEg
:2005/06/17(金) 22:59:37 ID:/ijneb.U
――ごりっ、ごりっ……
「ふぅ……」
住宅街の外れの一軒家の一室に、小さく薬草をすり潰す音が響く。
エディ達が家を出てから数十分が経っただろうか。朝の陽光が窓から部屋に差し込んでも、エルルゥはひたすらに渚の看病を続けていた。
その甲斐があったのかは判らないが、渚の容態は、一時に比べて幾分かは落ち着いてきていた。
(そう言えば……)
ふとエルルゥは、このゲームの主催者である篁の言葉を再び思い出していた。
『――必要なものには薬程度は配布してある……』
いつだったか浮かんでいた疑問が、再度、エルルゥの頭の中で鎌首を擡げる。
なぜ明らかに持病持ちであるはずの渚には薬が支給されていなかったのか?
ただ単に身体が弱いだけなのか?
主催者側に手落ちがあったのか?
或いは――「命の危険の無い不治の病」なのか?
少なくとも自分達のいた世界ではそんな病は聞いた事が無いが、もしかしたら渚達のいた世界では存在するのかも知れない。
近い例なら、ユズハなどは「命に関わる不治の病」で、定期的な検診と投薬は欠かせなかった。
「あっ……!」
そこまで考えて、不意に、エルルゥの脳裏にある閃きが走った。
6
:
最大限の使命 id8
◆H65x/v0nEg
:2005/06/17(金) 23:00:19 ID:/ijneb.U
「どうした? エルルゥ」
エルルゥが上げた声に、部屋の外で見張りを兼ねて待機していた蝉丸が声を掛けてくる。
「あのっ、もしかしたら渚さんの病気を治す方法があるかも知れません!」
「本当か?」
エルルゥのその言葉に、蝉丸が室内へと入って来て、しかし、警戒を怠らぬよう扉の前で立ち止まり、エルルゥに訊ねる。
「それは今この場で何とかなるものなのか? それとも……む?」
そう訊ねる内すぐに、蝉丸はエルルゥの表情に陰が差しているのに気が付いた。
あまり良い術ではないのだろうか、と蝉丸が判断していると、エルルゥは静かに口を開き始めた。
「……この島に喚ばれた私の知り合いにも、病気持ちの子がいたんです」
いたんです。そう言を結ぶのは考えるまでも無く、その人物が既に故人である事を指していた。
仮面に隠された蝉丸の表情にも、僅かな陰が差す。
「その子は渚さんよりも重い病気に冒されていて……定期的に診察して、紫琥珀(ムィ・コゥーハ)ってお薬を飲んでないと、生きていく事さえままならなかったんです…」
「む……」
悲痛な表情を浮かべたまま、エルルゥは言葉を続ける。
7
:
最大限の使命 id8
◆H65x/v0nEg
:2005/06/17(金) 23:01:04 ID:/ijneb.U
「その子の名前が呼ばれたのは二回目の放送でした。……だから、もしかしたらまだユズハちゃんは紫琥珀を持ってるかも――」
「ユズハ、だと?」
「知ってるんですか!?」
エルルゥの表情に驚愕の色が浮かぶ。
だが、蝉丸の表情からは、仮面越しにも判る程に不穏な空気が漂っていた。
エルルゥがその様子に疑問を抱いていると、今度は蝉丸がゆっくりと口を開いた。
「その少女は…俺やオボロ達で埋葬した」
「!!」
途端にエルルゥの表情の陰が今まで以上に濃くなる。
すなわち、ユズハの遺体から紫琥珀を入手しようとすれば、彼女の墓を暴かねばならないのだ。
死者に対して此れ程無礼な仕打ちがあろうか。
墓を暴く必要があれば、だが。
「いや、心配する事は無い。ユズハの衣服は船で待機している俺の仲間が――」
『生き残っている諸君、聞こえるかね? 四回目の定時放送の時間だ――』
エルルゥの危惧と不安を晴らすはずの蝉丸の言葉は、そのノイズ交じりの声にかき消された。
8
:
最大限の使命 id8
◆H65x/v0nEg
:2005/06/17(金) 23:02:53 ID:/ijneb.U
「……すいません、蝉丸さん。…少しの間……一人にしていてくれませんか?」
「……分かった」
――ごりっ、ごりっ、と、再び部屋に薬草をすり潰す音が小さく響く。
今自分がするべき事を、エルルゥは理解している。渚を助ける事だ。その為には、手を休めている暇は無い。
家族や仲間の死を悼み悲しむよりも、今救える命を救う事に、時間も思考も費やさなければならない。
零れ落ちる涙も、そうなる前に拭わなければならない。折角渚の容態は快方に近付いているのに、薬に涙が混じったりしたら台無しだ。
涙を流す事さえ許されずに、エルルゥは渚の看病を続けた。
「オボロさん……アルルゥ………っ!」
だから、愛しい家族の名を呟くぐらいは、許してあげてもいいだろう。
9
:
最大限の使命 id8
◆H65x/v0nEg
:2005/06/17(金) 23:03:43 ID:/ijneb.U
……エルルゥに言われて部屋を出た蝉丸は、その足でそのまま家の外に出ていた。
それは、夜が明けて外が明るくなったので、見張りを効率化する意味もあったし、静かな場所で先の放送が告げた事実に思考を巡らせたかったという意味もあった。
或いは、帰って来ぬと解っているオボロを待ち続けているのかも知れなかった。
あまりにも迂闊だった。
大戦を経験してきた強化兵らしからぬミス。
目先の状況に追い付こうとするあまり、前にエルルゥ達が居た家にオボロが帰還してくる予定だったと聞かされていた事を、完全に失念していた。
もし、せめて自分だけでもその家に留まっていれば、オボロと再会できていたかも知れないという後悔が、彼の心を苛ませていた。
「石原麗子も逝ったか……」
そんな後悔を誤魔化してしまうかの様に、蝉丸は放送に対しての認識を呟いていた。
「あの女が何人殺めたのかは判らぬが……」
だからと言って安堵はしていられない。今回の放送でも実に二十人もの人間が命を落としているのだ。
このゲームに乗った人間が後どれだけ残っているのかなど知る由も無い。
今は、最大限に思考し、警戒せねばならない時なのだと、蝉丸は心の内に強く言い聞かせた。
10
:
最大限の使命 id8
◆H65x/v0nEg
:2005/06/17(金) 23:05:44 ID:/ijneb.U
【11番 エルルゥ 所持品:『超』ライター 乳鉢セット 薬草類】
【37番 坂神蝉丸 所持品:木刀 果物ナイフ 状態:ハクオロの仮面装備 切り傷 打撲が二十数箇所】
【81番 古河渚 所持品:タオルケット 状態:発熱 膝と額に軽い擦り傷】
【場所:住宅街外れの民家】
【時刻:三日目午前六時過ぎ】
11
:
乾
◆QGtS.0RtWo
:2005/06/18(土) 04:11:32 ID:FI/YXtMc
家の影に気を配り、風の音に身を竦ませ、遅々とした歩みで船へと向かう。
「さて」
住宅街の終わり、森との境界を前に立ち止まる。
このまま海岸線を通ってアビスボートへの最短距離を行くか。
或いは森の中を迂回して行くか。
「俺は、時間はかかるが、森の中を通ったほうが安全だと思う」
「うーん、見晴らしのいい場所のほうが安全ではないでしょうか?」
「しかし、それでは蝉丸さんの言っていた石原麗子とかいう女に狙撃される恐れがある」
「それなら、森の中だって突然見えないところから襲われる可能性がありますよ」
「うーむ…」
―――生き残っている諸君、聞こえるかね?四回目の定時放送の時間だ。
耳障りな、例のあの声がまたどこからともなく聞こえてくる。
(理緒ちゃん……)
(管理人さん、秋生さん、それに名雪さんが!?)
(修二に続いて宮路までもが…!)
三者三様に、亡くなった者たちに思いを馳せる。
「松浦さん、あのっ!」
「駄目だ」
「まだ何も言っていません!」
「言いたい事は大体判る。大方、今の放送に知り合いがいて、弔ってやりたいとかそういうことだろう」
「わかっているなら!」
「だから駄目なんだよ!」
亮の大声に芽衣は体を竦ませる。
「あ、怒鳴ったりして、すまん」
ばつが悪そうに頭を掻く。
12
:
乾
◆QGtS.0RtWo
:2005/06/18(土) 04:12:02 ID:FI/YXtMc
「だがな、判ってくれ春原、お前のその優しさが、俺たち全員を殺すかもしれないんだ」
「そんな…どうしてですか」
「まず第一に死体の在処が判らない。第二に死体の傍にはまだ殺人者がいるかも知れない。そして第三は、石原麗子が死んだことで海岸線のルートの安全性が上がったこと」
「でも」
「今、俺たちが最優先ですべきことは、アビスボートで反主催者を目論む仲間と合流すること。違うか」
「それは、確かにそうです、けど…」
俺だって宮路の弔いをしてやりたい。
そう叫びそうになるのをこらえて奥歯をかみ締める。
「まあまあ、二人とも落ち着いて」
険悪な雰囲気になりかけたところへ神岸が明るい声と顔で割り込んでくる。
「こうしましょう。まずはアビスボートに向かって仲間と会う。それから、その人たちと一緒に遺体を捜して、一人ずつ丁寧に埋葬していく。それなら二人とも文句は無いでしょう?」
「うむ」
「うん、まあ…」
「じゃあすぐに向かいましょう。海沿いのほうが安全なんですよね?」
「いや、それはあくまでも確立の問題でだな」
「松浦さんのこと、信用、してますから」
言ってにっこりと微笑む。
女の子に、それも可愛い子にそうまで言われれば、従うしかないだろう。
「…ふぅ、わかったよ、降参だ。まったく、神岸には頭が上がらないな」
「くすっ」
「おい春原、笑うなよ」
「ああ、ようやく二人とも笑ってくれましたね」
「苦笑いだけどな」
「充分ですよ。じゃあ次は仲直りですね」
「えーっと、その、松浦さん、わがまま言っちゃってごめんなさい」
「俺のほうこそ、怒鳴ってしまってすまん」
「松浦さんは謝ってばっかりですね」
「む、すまん」
「ほら、また」
何が可笑しいのか、少女二人は笑っている。
少々傷ついたが、まあいいさ。
「それじゃあなるべく森から離れて、海岸線ギリギリを歩いて行くか」
「そうですね」
「はい」
【084 松浦亮 修二のエゴのレプリカ(バッテリー満タン)】
【024 神岸あかり 所持品 無し】
【047 春原芽衣 きよみの銃の予備弾丸6発 筆記用具(情報交換で得られたことが追記)
黒うさぎの絵皿 木彫りの熊 水風船2コ 予備食料の缶詰が残り2つ】
【取り合えずアビスボートへ向かう。亮は、二人を送り届けた後PKとして単独で行動開始の予定】
【定時放送直後】
13
:
蒼穹への誓い
◆rkFpeT0nBo
:2005/06/18(土) 04:23:05 ID:XO8u3TlM
命題――殺さずして、殺されずして彼女の目を狂気から覚ます方法はあったのか?
答えはNO。
その答えがこの島に存在するのならばこんな馬鹿げた事にはなっていないだろう。
人の感情の答えは一通りではない、そんな事先の放送で身を以て理解しいた筈ではないか。
この世界には答えは一つしか無い。
『自分の願望に素直であれ』
俺自身の願望はこんな巫山戯た世界を作り出した篁をぶっ殺すこと。
この世界にいる他の人を助けたい、それは偽善に過ぎず2番目3番目の欲求なのだろう。
いや、勿論皆を助け篁をぶっ殺し元の世界に帰れるに越したことはない。
ただその賭にのる為のチップは自分の命、そして命よりも大切な何かを賭けることになるのかもしれない。
果たしてそんな俺が他の参加者が大切な人の為にこの殺し合いにのる事に反対することが出来たのだろうか?
「――大切な人……か」
しかし、彼女はそれすらも違った。
この世界にいた大切な人ではなく、元の大切な世界を選んだのだ。
「は、はは……そりゃ、今の俺じゃ勝てないわな」
俺は、自分の命と帰りを待っている仲間の命、そして目の前にいた少女の命すら天秤に掛けるのを躊躇ったのだから。
14
:
乾
◆QGtS.0RtWo
:2005/06/18(土) 04:23:22 ID:FI/YXtMc
タイトル入れ忘れ_| ̄|○
『開いていくもの』でお願いします。
15
:
蒼穹への誓い
◆rkFpeT0nBo
:2005/06/18(土) 04:23:43 ID:XO8u3TlM
「くそ……くそくそくそ糞、糞糞糞っ!!!」
何が愛と正義の代行者だ、結局は何も変わっちゃいない。
たった一人の歪んだ少女でさえあそこまで覚悟を決めていたのに。
それなのに、全ての人を護ると決意した俺の方は何だ!
「何が……理会者だ……糞っ!」
――俺はもう迷わない。
この腐った世界、そしてこの世界が作り出した歪んだ世界を決して許さない。
それを求めた先にその人の命があろうとも俺は迷わず射つ。
今までだってそうしてきたではないか。
彼女や他のこのゲームにのった参加者達がその舞台に立っているならば自分もその舞台に立つしかない。
自分の信念を貫く確固たる意志と決意。
その唯一の欲望を叶えるためならば他の欲望を非情にも斬り捨てる覚悟が。
「美佐枝さんっ!俺は……俺はこの世界を、そしてそれが生み出した世界をぶっ潰す!」
宗一は木に覆われ鬱蒼としている天に向かって手にしている弓を力一杯引き絞り、放った。
決意を乗せた矢は木々の枝をすり抜け、蒼穹へと翔ていく。
枝葉で見えない筈の矢の行方だが宗一はそれを見送っていた。
「よしっ!」
覚悟を新たにした宗一は美佐枝の元へと駆けていく。
矢の先と同じ先の見えない道だがそれでも進むしかない。
その先に太陽――希望の光があると信じて。
16
:
蒼穹への誓い
◆rkFpeT0nBo
:2005/06/18(土) 04:23:58 ID:XO8u3TlM
命題――殺さずして、殺されずして彼女の目を狂気から覚ます方法はあったのだろうか?
答えはNO。
狂気から覚ますには彼女の世界を殺すしかない。
次に出会ったときは彼女の心、欲望の世界を射るのみ。
与一の弓は狙った獲物は外さない。
例え、その世界の先に彼女自身の命があろうとも決して外さない。
【065 那須宗一 新・宗一の手記、長弓、矢20隻、宗一の手記、クレイモア一個、ゾリオン(使用回数3回)、電池一個、火炎放射器
(砲身に損傷・燃料は6割) ナイフ 果物ナイフ 短刀 ブローニングM1910(残弾0) 缶切り(×3) 12本綴りの紙マッチ(×3) 護身用スタンガン
ライター 白うさぎの絵皿】
【場所:森の中】
【時刻:三日目午前八時頃】
17
:
<削除>
:<削除>
<削除>
18
:
id8
◆8hdICkl0Eo
:2005/06/18(土) 05:16:21 ID:Iuc1katI
#入れ忘れてた……○| ̄|_
19
:
蒼穹への誓いの修正
◆rkFpeT0nBo
:2005/06/18(土) 12:11:39 ID:XO8u3TlM
間違いに気が付きましたので
3レス目だけ修正、ついでにそして解りにくかった所を加筆しておきました
20
:
蒼穹への誓いの修正
◆rkFpeT0nBo
:2005/06/18(土) 12:11:54 ID:XO8u3TlM
命題――殺さずして、殺されずして彼女の目を狂気から覚ます方法はあったのだろうか?
答えはNO。
狂気から覚ますには彼女の中に存在する世界を殺すしかない。
次に出会ったときは彼女の心、欲望の世界を唯射るのみ。
肉体を狙うのではなくその奥の欲望だけを狙い射つ。
与一の弓は狙った獲物は外さない。
例え、その世界の先に彼女自身の命の炎があろうとも。
【065 那須宗一 新・宗一の手記、長弓、矢19隻、宗一の手記、クレイモア一個、ゾリオン(使用回数3回)、電池一個、火炎放射器
(砲身に損傷・燃料は6割) ナイフ 果物ナイフ 短刀 ブローニングM1910(残弾0) 缶切り(×3) 12本綴りの紙マッチ(×3) 護身用スタンガン
ライター 白うさぎの絵皿】
【場所:森の中】
【時刻:三日目午前八時頃】
21
:
<削除>
:<削除>
<削除>
22
:
master of game
◆QGtS.0RtWo
:2005/06/19(日) 18:04:00 ID:FI/YXtMc
「お願い、誰か助けて!」
「オット嬢チャン、悪いガそこで止まってくれヤ」
川の中ほどまで渡り終えたところで、エディの向けた銃口が、明日菜の額にポイントされる。
「なっ!?撃つならアタシじゃなくて後ろの」
「マァマァ、落ち着きなヨ、ミス・マーダー。両手を上げてそこで止まるんダ」
アタシのことがばれている?
そんなはずはない、この男とは初対面のはずだ。
「ちょっと、待ってくださいよ。何を根拠にそんなことを決め付けるんですか」
「一部始終を見て、イヤ、聞いていたから、カナ。そういうことダカラ、観念しナ。オット、ソッチの兄チャンたちも動くんじゃネーゾ」
成行を見守っていたベナウィたちが動き出しかけたのを見て、次はそちらへ銃口が向く。
「アンタたちは多分マーダーじゃナイと思ってるんだがナ、念の為ダ」
「こちらの事情を話せば、その武器を降ろしてもらえますか?」
「そうだナ、マア話の内容にもよるガ、そういうことになるだろうナ」
あんたは動くんじゃないヨ、と言いながら、再び銃口は明日菜の額へ。
23
:
master of game
◆QGtS.0RtWo
:2005/06/19(日) 18:04:40 ID:FI/YXtMc
「ホラ、早く腕を上げナ。妙な真似をすると…わかるダロ?」
(絶体絶命、かぁ。まさかアタシの事を知っている人間と鉢合わせるなんてね)
何か見落としはないか、持ち札を裏面の柄まで丹念に確認する。
確認完了。
最後に残された切り札は、持ち札の放棄。
(まあ、こいつらみたいな甘ちゃんなら、そう簡単に殺しはしないでしょ)
「降参よ」
相手を刺激しないようにゆっくりと両手を上げていく。
「ヤケに聞き分けがいいネェ。何か企んでるんじゃナイカ?」
「手を上げろ、って言われてそれに従ったってのに、それまで疑われるならアタシに何をしろって言うんですか」
「オウ、ソウだったナ。じゃア、向こうの兄チャンの話が終わるまで、チョット待っててくれヤ」
「わかったわよ。でも手短にしてちょうだいね。手を上げたまま、ってのは結構疲れるんだから」
「では、こちらの状況説明をさせてもらいます」
「アア、頼むゼ」
ベナウィがエディに明日菜との出会いから、所々端折りながら説明していく。
24
:
master of game
◆QGtS.0RtWo
:2005/06/19(日) 18:04:59 ID:FI/YXtMc
(さて、どうしたものかしらね)
持ち札は全て投げたのだ。
次の札が回ってくるまで、しばらく待つ他に方法は無かった。
「というわけで、私は彼女を追っていたのです」
「成る程ナ。ソッチの事情は大体飲み込めたゼ」
「できればそちらの状況も教えていただきたいのですが」
「それよりも、アタシはいつまでこうやって手を上げていればいいわけ?」
「アー、そうだナ、いつまでも離れた場所で立ち話ッテのもなんダシ、全員コッチに渡ってくればいいんじゃないカ?」
アンタも、もう手は下ろしていいが妙な真似はするんじゃないゼ、と言われて、ようやく腕を下ろす。
「ちょっと待てベナウィ、余にこの川を歩いて渡れと申すか」
「しかし…」
「絶対に嫌じゃ」
解けかけていた緊張が、今再び固まり始めていた。
「ンー、ジャ、俺ッチたちがソッチに向かうカ?」
「はぁ?なんであたしがあのガキのワガママに付き合わなきゃいけないわけ?向こうが来るのが筋ってもんでしょうに」
「誰がガキじゃ!余は皇であるぞ!」
「馬鹿言ってんじゃないわよ、あんたが皇ならあたしは世界大統領よ!」
25
:
master of game
◆QGtS.0RtWo
:2005/06/19(日) 18:05:28 ID:FI/YXtMc
「大の大人が雁首揃えて、何をやっているのかしら」
全てを断ち切る声に全員の気が向かう。
そこには大刀を無造作に下げたカルラが何時の間にか現れていた。
「ごきげんよう、ベナウィ」
「カルラ…」
「アンタら、知り合いカイ?」
「ええ、まあ。それよりもカルラ、何をしにきた」
「人を一人殺したので報告に来ただけですわ。それと、そろそろあるじ様の鉄扇を返してもらおうと思いまして」
「人を殺したダト!?」
不穏な台詞に銃口が向く。
(しめた!)
札は配られた。
新たな手札に全てを賭ける。
「エディさん!」
「チィッ!」
狙いをつけにくいように、半ば転がるようにして低い体勢からタックルを喰らわせ、そのままもつれ合って倒れこむ。
26
:
master of game
◆QGtS.0RtWo
:2005/06/19(日) 18:05:58 ID:FI/YXtMc
「そいつを渡しなさい!」
「グァッ!」
走りながら取り出した南部の柄でエディの右手を殴り、ワルサーを叩き落す。
「このぉっ!」
真希の振り回したスコップが頭の上を掠めていくのを転がりながら逃げる。
叩き落したワルサーを拾っていくのも忘れない。
「あんたは引っ込んでなさい!」
すれ違いざま、ワルサーで真希のこめかみを殴りつけていく。
「待てっ!」
「あら、あなたの相手はここですわよ」
明日菜を追おうとするベナウィの前にカルラが立ち塞がる。
「くっ、そこをどいてくれ!」
「ふぅん、わたくしよりもあの小娘のほうがお気に召して?」
「今はそんなことをやっている場合じゃないというのに!」
27
:
master of game
◆QGtS.0RtWo
:2005/06/19(日) 18:06:16 ID:FI/YXtMc
明日菜は森を駆ける。
まだ負けてない。
まだ勝てる。
「待っててね木田君、アタシは絶対に負けないから」
目指すは島の西岸部。
そこは切り札。
食料庫。
【02番 麻生明日菜 所持品:南部十四年式(残弾3)、ワルサーPP/PPK(残弾4) 状態:左肩負傷(応急処置済)】
【33番 クーヤ 所持品:ハクオロの鉄扇、短刀、サランラップ(残り25m)】
【80番 古河早苗 所持品:カッター、トゥスクル製解毒剤】
【82番 ベナウィ 所持品:槍、ワイヤータイプのカーテンレール(3m×2)、水筒(空)】
【10番 エディ 所持品:尖った木の枝数本、盗聴器、タオルケット、ビスケット1箱、ペットボトルのジュース(無果汁微炭酸、空のペットボトル、婦人用下着1セット、トートバック 状態:右手負傷】
【72番 広瀬真希 所持品:スコップ 状態:頭部負傷】
【026 カルラ 自分の大刀 セイカクハンテンダケと胞子を入れた小袋 状態:背中・肩を強打 右手首負傷、握力半分以下】
【放送後、一時間程度経過】
28
:
生死の一線を分かつモノ
◆rkFpeT0nBo
:2005/06/20(月) 00:14:18 ID:XO8u3TlM
狙うはあの翼の生えた少女の持つ気配を消す装置。
皐月との因縁もそろそろ終わりにしたい。
だが俺の目標はあくまでこのゲームの優勝――公子と澪の復活。
決して個人的な感情を優先させるわけにいかなかった。
もう十分に身をもって体験してきたが、この島にいる限り女子供とて失敗する外的要因となり得るときもある。
ましてや、日本刀を持った未知数の男性がいるとなれば尚更だ。
(目測距離は……約30mか)
しかし、気付かれずにこれ以上近づくことはまず不可能だろう。
庭が広すぎ、これ以上は人が隠れられるような障害物が無いのだ。
(……当たる……のか?)
相手は5人。
普通ならばこの位置でアサルトライフルを連射してでも男性から倒すべきなのだろう。
しかし、バースト機能のある銃だと言っても流石に30m離れたところから確実に当てる自信は湧きでなかった。
(これさえ巧くいけば生き残る確率が一気に増えるんだ、ここで事を急いで失敗する訳にはいかない)
手に握ったアサルトライフルが汗で濡れていく。
実際はそれほど汗をかいているわけではないが、その少しの変化が余計に外すかもしれないと思わせる悪循環の螺旋回廊が続いている。
(幸い気付かれずに接近できたんだチャンスを窺うにはもってこい……か?)
しかし、回りながら降りていけば待っているのは地獄の螺旋回廊。
逆を言えば見つかったら逃げにくい距離に既に入っているだ。
(!……そうか、そうだな)
逃げにくいとは言っても怪我をしている皐月といかにもとろそうな女性二人は問題外だろう。
光岡と翼を持っているカミュという者達さえなんとかなればいいのだ。
人間ではなさそうなその女性が翼でどれだけ速く動けるのかは知らない。
だが自分は足場の悪い森を突っ切って逃げるのに相手は木々の上を飛べるかもしれないという可能性は恐ろしくもある。
そう、つまりは光岡の足とカミュの翼さえなんとか出来れば……
29
:
生死の一線を分かつモノ
◆rkFpeT0nBo
:2005/06/20(月) 00:16:00 ID:XO8u3TlM
芳野の持つアサルトライフルの銃口が光岡の胸ど真ん中と重なる。
勿論胴体や頭に当たるに越したことはない。
だが手足に当たるだけでも十分に行動に支障が出るだろう。
後は銃声でカミュとやらが怯んでいる内に殺すなりなんなりしてあの装置を奪えばいい。
注意点は銃声に驚いて空に逃げられた時。
その時と、逃げる際の為に翼だけでも奪っておけばいい。
全員を殺すのはそれからでも遅くはない。
芳野は口を歪め、笑みを浮かべるとアサルトライフルの引き金に指をかけた。
「!――伏せろっ!!」
タタタッ!
仙命樹の力により芳野がアサルトライフルの引き金に指をかけた音を聞けたのか、それとも兵士としての第六感で芳野の殺気に気が付いたのかは解らない。
結果だけを見れば光岡が声を張り上げるのと森の中に銃声が木霊するのは同時だった。
タタタッ!
距離は30m。
果たして銃弾が飛んでくるまでの時間は幾らほどあるだろうか?
光岡の生死を分けたのは銃弾が発射される前に気が付いたことだった。
とっさに銃弾の当たる面積を減らす為身体を捻り、横にいたみさきを抱え込むようにして伏せる。
30
:
生死の一線を分かつモノ
◆rkFpeT0nBo
:2005/06/20(月) 00:16:45 ID:XO8u3TlM
タタタッ!
しかし、光岡の反応が幾ら早くても肩から下げていたバッグの方はそうはいかない。
慣性の法則にてワンテンポだけ遅くその場に止まっていたバッグは銃弾の主な標的となった。
マッチやロケット花火に引火したのか派手な音を立てながらバッグが勢い良く燃えていく。
重たい荷物が入るように多少は頑丈に出来ていたらしく、ロケット花火がバック外に飛び出て他の者を巻き込まなかったのは光岡にとっては幸いだった。
ぬるり。
みさきの顔に何かが垂れてくる。
何か熱い液体が。
熱い色、みさきの中で真っ先に思い浮かんだのは赤の色。
そしてその赤の色は……
「光岡さん!!」
バッグの他に犠牲となったのはみさきを庇うために咄嗟に延ばした光岡の利き腕の方の肩であった。
目の見えないみさきだがその赤だけははっきりと感じ見ることが出来た。
31
:
生死の一線を分かつモノ
◆rkFpeT0nBo
:2005/06/20(月) 00:17:18 ID:XO8u3TlM
(くっ!)
肝心の足が潰れていない。
しかも当たったのは肩だけときた。
アサルトライフルだと殺傷力に欠けるがもうあの腕は使い道にならないだろう。
だがあと残り一つの腕が残ってる。
しかし迷っている間も勿体ない。
あの銃撃を避けた男だ。
今は倒れたままでいるが、決して気は失っていないだろう。
「うぉぉぉぉぉおぉ!!」
イーグルナイフをいつでも取り出せるようにしつつ、当初の目的カミュに肉薄する。
光岡が負傷して倒れている今この突撃を止められる者はいない。
それどころかあまりの出来事にこの島に来て既に3日経つが、この様な状況には慣れてはいなかったらしく唯々立ちつくすのみだった。
3日間、この島――地獄を生と死の隣り合わせで生き延びてきたたった一人を除いては。
32
:
生死の一線を分かつモノ
◆rkFpeT0nBo
:2005/06/20(月) 00:18:28 ID:XO8u3TlM
「芳野ぉぉぉおおぉぉ!!!」
光岡が利き腕を負傷し落とした日本刀を拾い上げ、皐月が地を駆ける。
無事な右腕だけで扱うには重たい日本刀。
しかし、今の彼女にとっては両肩に乗っかった4人の命――そしてこんな私に何かを託し、庇って死んでいった智代やトンヌラの存在を思うとその刀でさえ軽く感じるのであった。
【028 川名みさき 白い杖、ゴム手袋、ハンドタオル】
【089 光岡悟 炎の中のデザートイーグル(残弾3) [右肩使用不可能]】
【095 湯浅皐月 日本刀、セーラー服、風子のナイフ、鉛筆一箱(1ダース入り)、猫目カッター、ハンドタオル [左腕使用不可能]】
【078 伏見ゆかり 新・宗一の手記 グレネード(殺傷力は無し。スタン&チャフ効果)】
【025 カミュ 気配を消す装置 レミントン・デリンジャー(装弾数2発 予備弾4発)】
【098 芳野祐介 M16A2アサルトライフル(残弾21)、イーグルナイフ、手製ブラックジャック(×2)、スパナ、バール、救急箱(包帯はアイシングに使用)、ランタン、煙草(残り3本)、ライター、テープ、糸、ハーバーサンプル1袋、食料2日分】
【炎の中のデザートイーグル(残弾3)(壊れているかは任せます)】
【マッチ、ハンドタオル、ロケット花火(×5)は燃えて無くなりました】
33
:
◆QGtS.0RtWo
:2005/06/20(月) 00:38:10 ID:FI/YXtMc
>>27
「待っててね木田君、アタシは絶対に負けないから」
↓
「待っててね時紀クン、アタシは絶対に負けないから」
まさかこんな間違い間違いを犯すとは…死にてえ_| ̄|○
34
:
生死の一線を分かつモノの修正
◆rkFpeT0nBo
:2005/06/20(月) 20:19:33 ID:XO8u3TlM
1スレ目3行
だが俺の目標はあくまでこのゲームの優勝――公子と澪の復活。
を
だが俺の目標はあくまでこのゲームの優勝――公子の幸せと澪の復活。
に修正お願いします
35
:
強がりゴリラ
◆rkFpeT0nBo
:2005/06/21(火) 02:36:46 ID:XO8u3TlM
「……おい。貴重な紙を落書きに使って良いのか?」
起きた邦博の第一声はそれだった。
寝ていた自分の横に並べて置いてある、どう見てもゴリラにしか見えない額に『肉』と書かれた生物の絵と睨めっこする。
「失礼ですの!これは落書きではなくて似顔絵なんですの!」
って事はやはりこの横に並べられていたゴリラは俺の事だったらしい、クソッタレめ。
「そっちの女は耳が聞こえないみたいだが、って事だ」
邦博が親指でウルトの方を指すとすばるはぱぎゅうと言って大人しくなった。
「まだ寝ていなくちゃ無理ですよ」
自分のことが話題となっているとは知らずにウルトリィがそう声をかける。
「五月蠅ぇ、これしき大丈夫だ」
正直身体はやせ我慢なだけでまともに走れもしない位衰弱していたが、幾分か寝ただけ頭と気持ちの方はいつもの調子を取り戻そうとしていた。
だが、頭がスッキリとした分寝る前のことを思い出してしまって妙に気恥ずかしかったが。
「――邦博、浅見邦博だ」
座ったまま目をそらしそれだけ言った。
36
:
強がりゴリラ
◆rkFpeT0nBo
:2005/06/21(火) 02:37:20 ID:XO8u3TlM
すばるは一瞬きょとんとしたがすぐ自己紹介がまだだったと言うことに気が付いて先程書き散らかした似顔絵を集め出し、顔の隣に名前を書き込んでいった。
「はい、これで無駄にならずにすんだですの〜」
そう言ってどうだとばかりに邦博にずいっと突き出した。
「……蝉丸にカミュ、ゆかりにウルトリィ、ミコト――そして、こいつが宗一か」
探していたとは言え手がかりは名前だけ。
やっとその宗一の面を拝むことが出来た。
「本当にこんな奴頼りになるのかよ……」
リサが心から頼りにしていた位だから頼りになるのは事実なのだろうが……
「こんなにやけっ面の奴がなぁ……」
おまけに名前の横には『愛と平和の代理人参上!!』とまで書いている。
「――で、こりゃ誰だ?」
数枚の似顔絵の中に一枚だけ下手糞な絵が混じっていた。
絵の横にはすばると書いてあるが……
ふと見上げると自分の絵が話題になっているのが解ったのか、隣でウルトリィが凹んでいる。
「……つまりコレはお前の絵なのか?」
「つまりも何も無いですの!折角ウルトさんに書いて貰った宝物なんですの!」
そう言ってすばるが怒って邦博をぴしゃんと叩く。
まぁ勿論本気で叩いたわけではなく子供に「めっ!」と叱る様に叩いただけのつもりであったが、身体の節々が痛む邦博の顔を顰めさせるのには十分であった。
37
:
強がりゴリラ
◆rkFpeT0nBo
:2005/06/21(火) 02:38:05 ID:XO8u3TlM
「っ……っておぃ、なに勝手に人の荷物漁ってるんだ」
動けない邦博を傍らに、バックを何食わぬ顔をして漁るすばる。
「スケッチブックも、ペンも何も無いですの〜」
しかしふとすばるの手が止まった。
「これは……テレビなんですの?」
すばるが手にしたのは恵美梨から半分奪ったといっても過言ではない、小型の液晶テレビ型のレーダー。
その中心には小さく光る三つの光の点。
「そいつは近くにいる人の位置が解るレーダーだ」
邦博が隠しても無駄だとばかりに吐き捨てる。
しかしすばるはそれを聞くと何か引っかかっているらしく、人に指を指しながら勘定し始めた。
「一人、二人、三人……」
ゴリラっぽい人、ウルトさん、んであたし。
そして残るはウルトリィの腕の中でキョトンとしているミコトが一人。
【001 浅見邦博 身体能力増強剤(効果30秒 激しいリバウンド 2回使うと死ぬらしい)パソコン、
レーダー(25mまで) フィルスソード(光の矢制限7回、シャインクルス制限残り3回)】
【086 御影すばる 所持品:新・宗一の手記 トンファー、グレネード(殺傷力は無し。スタン&チャフ効果)、
小スケブ、ペン、似顔絵(うたわれキャラ&自分と邦博含むアビスチーム)、あさひのサイン】
【009 ウルトリィ 状態:聴覚麻痺 所持品:ユズハの服、ハクオロ?の似顔絵、毛布2枚(船内にも何枚か有り)
ミコト、キーホルダー、食料5日分 ペットボトルのジュース】
【場所:アビスボート】
【時刻:三日目午前九時頃】
38
:
未熟な狩り手
◆8hdICkl0Eo
:2005/06/22(水) 00:13:27 ID:GH4odJvU
那須宗一とのやり取りを経た桜井あさひは、当て所無く森の中を彷徨っていた。
(いきなり人と会っちゃったのは予想外だったな…)
彼女の目的は、ただ一つ。巳間晴香を蘇らせて、殺す事。
その為には当然最後の一人か二人になるまで生き残らなければならないのだから、あまり人と会うのは好ましくない。
幸い物資には事欠かないのだから、無理に危険地帯、即ち人の多い場所に近付く必要は無い。
極端な話、何処か安全な場所で他の参加者が潰し合うのを待つ方が遥かに効率的なのだ。
(もうだいぶ人も減ってきたし…何とか安全な場所を見つけれたら良いんだけどなぁ)
取り敢えずは人があまりいそうにない場所──森林を移動し続けていたものの、つい先程宗一と遭遇したばかりだ。
心は狂気に染まれども、まだ狩る側となって時の浅いあさひには、このゲームの“常識”を正しく理解できていなかった。
故に、あさひは求めるべき場所を正確に把握できず、未だこうして森林の中を彷徨っていた。
39
:
未熟な狩り手
◆8hdICkl0Eo
:2005/06/22(水) 00:14:54 ID:C85teBRY
だが、そうして一時間程彷徨い続けていた頃だろうか。不意にあさひの視界に、陽の光の降り注ぐ場所が現れた。
森の出口である。
(どうしよっかな……)
あさひはそれを見て逡巡すると、取り敢えずその光に向けて進み始めた。
「道路……?」
森を出たあさひがまず目にした物は、その零れた言葉そのままの、綺麗に舗装された二車線の道路だった。
住宅街のそれとは違い、この道は長く、広く存在を誇示していた。
太陽の方向から一直線に延びる道の先は見えず、どうやらかなり先まで続いているらしかった。
(うーん……)
再びあさひは考え始める。今度は逡巡などではなく、長考だ。
こんな拓けた場所で考え事に耽るなど危険極まり無い行為なのだが、やはりあさひにはその辺の“常識”が欠如していた。
事実、馬鹿なぐらい長い考え事をしていて殺害された参加者──柊勝平だ──もいたのだから。
40
:
未熟な狩り手
◆8hdICkl0Eo
:2005/06/22(水) 00:15:55 ID:pLCcJKVk
(ん……よし)
そうして、幸運にも命を落とす事無く思考を終えれたあさひは、道路が見えるか見えないかぐらいの距離を、森林沿いに西に歩き始めた。
素直に道路上を歩いていては狙われやすいし、かと行って森林に戻っては同じ事の繰り返しになると判断したからだ。
ただ、太陽を背にして進むのは、ゲームに乗った人間に背後を取られた時とてつもなく不利だという事は、やはり今のあさひには全く考え及ばぬ事だった。
【42番 桜井あさひ 所持品:食料、眼鏡、双眼鏡、ペン、ノート、ハンカチ、腕時計、懐中電灯、
十徳ナイフ、果物ナイフ、三節棍(ロッドにもなる)、ボウガン(矢5本)、S&W M36(残弾5・予備弾19)、ベレッタ(残弾5)
状態:『短髪』】
【場所:島北部森林沿い】
【時間:三日目午前九時頃】
41
:
あなたがあなたでいる限り
◆rkFpeT0nBo
:2005/06/22(水) 02:07:00 ID:XO8u3TlM
「カルラ!そこを退いてくれ」
槍を構え目の前に立ち塞がるカルラの向こう、逃げる明日菜を睨むベナウィ。
「あらこの前は会いに来てくれと言っておいて、そして今回は退いてくれと」
左手で大刀を構えたまま辺りを見回し牽制するカルラ。
咄嗟に起きあがろうとしたエディと真希も横目で牽制する。
「いい加減におしなさい!……と言いたい所ですが、なるほどそう言う訳なんですね」
ニヤリと笑いながらカルラは続ける。
「――なら再び言わせて貰いますわ、ベナウィ私と手を組みませんこと? 」
「戯れ言を!再び人を殺めたお主などと誰が手を組もうものか!」
皇クーヤが川越しに吠える。
「あら、ならばあなた達が今行おうとしていた行為は何なのか言って貰おうかしら?」
その一言で場は凍りついた。
そう彼らのしようとしたこともまた人殺しだったのだ。
42
:
あなたがあなたでいる限り
◆rkFpeT0nBo
:2005/06/22(水) 02:08:00 ID:XO8u3TlM
「し、しかし……あの者もまた人殺しで……」
言い訳をしようとするクーヤの前に手を突き出しベナウィが制止する。
「彼女は危険だ。愛する者の死すら悲しまず、この島で手を取った仲間をすら裏切った。それだけは許されない」
「だからなんですわベナウィ。わたくしもこの島にいて随分と変わったのですわ、そう聖上の御子をこの腕に抱いたりしましてね」
「聖上の御子だと!」
驚いてつい槍の構えを解いてしまう。
「――今のわたくしの願いは聖上を殺したこの世界の破壊と、聖上の御子の守護ですわ」
そう言ってのけたカルラの鋭いが真っ直ぐな目線は嘘を言ってはいないと言うことを物語っていた。
「……この世界の破壊か」
構えを解いた槍の切っ先はもうカルラに向いてはいなかった。
「クーヤ様」
ベナウィがクーヤに向かって頭を下げるとクーヤがバッグから納得いかないと言う顔をしながらハクオロの鉄扇を取り出した。
そしてそれを見て早苗も解毒剤を取り出しベナウィに渡す。
「受け取れ」
ベナウィが川越しにカルラに投げ渡す。
それをカルラは器用に右手だけで怪我をしないように受け取る。
「これは、手を組むサインと受け取ってもいいのかしら?」
「悪いがカルラ、手は組めない……」
「なら、何故こんな事を?」
今一腑に落ちず声を尖らせるカルラ。
それを見てベナウィは微笑んだ。
43
:
あなたがあなたでいる限り
◆rkFpeT0nBo
:2005/06/22(水) 02:08:44 ID:XO8u3TlM
「あなたはその大刀の様なお人だ。私にはそれが羨ましい」
単純で力任せだがどんな物でも斬ってしまう大刀。
しかしその刃は鋭く真っ直ぐで曇りがない。
「それは私個人としてあなたを信じている印、そして危うく危険なことにクーヤ様を巻き込んでしまっていた事に気が付かせて貰ったお礼だ」
もし護るべき物がなかったら誇りある武人として共に歩むも良かったかもしれないなとベナウィは思った。
なら……と言いかけたが口を閉じた。
このベナウィにはこれ以上言っても無駄になるだけだと察しがつく。
「――信じる……ね。もし、わたくしが殺した人がオボロだったとしても信じてくれますの?」
今まで通りの表情で淡々と質問するカルラ。
「――あなたがあなたでいる限り私は信じたい」
ベナウィはカルラの目を見て答えた。
44
:
あなたがあなたでいる限り
◆rkFpeT0nBo
:2005/06/22(水) 02:09:26 ID:XO8u3TlM
それを聞いたカルラは切っ先を戻し後ろを向いた。
一瞬だけ浮かんだ彼女の心の表情を残して。
「聖上の御子はここから東の鉄で出来た船にいますわ……」
そう呟いてカルラもまた明日菜が消えた方向に歩き出した。
こんな自分を信じてくれると同じく言ったオボロとウルトリィを思い浮かべながら。
いつまでも残っているミコトを抱いたときの感触と何とも言えない不思議な感情。
しかし、血で汚れすぎた自分にはもうその手で抱くことは出来はしない。
だからこそその願いを護る者として徹するベナウィを信じて託すのであった。
【033 クーヤ 所持品:短刀、サランラップ(残り25m)】
【080 古河早苗 所持品:カッター】
【082 ベナウィ 所持品:槍、ワイヤータイプのカーテンレール(3m×2)、水筒(空)】
【010 エディ 所持品:尖った木の枝数本、盗聴器、タオルケット、ビスケット1箱、ペットボトルのジュース(無果汁微炭酸、空のペットボトル、婦人用下着1セット、トートバック 状態:右手負傷】
【072 広瀬真希 所持品:スコップ 状態:頭部負傷】
【026 カルラ 自分の大刀 セイカクハンテンダケと胞子を入れた小袋 ハクオロの鉄扇 トゥスクル製解毒剤 状態:背中・肩を強打 右手首負傷、握力半分以下】
【場所:森の中大木の近くの川】
【3日目 7:30頃】
45
:
あなたがあなたでいる限りの修正
◆rkFpeT0nBo
:2005/06/22(水) 23:41:31 ID:XO8u3TlM
以下4レス目の修正でお願いします
「聖上の御子はここから東の鉄で出来た船にいますわ……」
を
「聖上の御子はここから南東の鉄で出来た船にいますわ……」
46
:
遺すもの、遺ったもの、遺されたもの
◆QGtS.0RtWo
:2005/06/23(木) 00:56:59 ID:FI/YXtMc
「下がったぁ…」
放送後、さらに数時間に渡る必死の看護の末にようやくエルルゥが安堵の声をあげ、そのままへたりこむ。
太陽は既に中天と水平線の中頃まで昇っていた。
「大丈夫か?」
見ると、エルルゥはへたりこんだ姿勢のまま寝入っていた。
一晩中、いや、夜が明けて後も今まで気を張り巡らせて看病を続けたのだ。
それが切れてしまっては無理も無いだろう。
渚のほうを見ると、こちらも呼吸が安定しており、一時期に比べるとよほど楽そうに見えた。
ここまでやり通したエルルゥを直に床に眠らせるのは忍びなかったが、この家には布団の類、衣類といったものは存在せず、箪笥も、押入れの中にも虚ろな空間だけが広がっていた。
まさか汗や泥で汚れた自分の服を脱いでかけてやるわけにもいかず、仕方なく渚の下に敷いてあるエディの残していったタオルケットを横向きにして、その上にエルルゥも一緒に寝かせてやる。
体全体をカバーできないとはいえ、そのまま床に寝るよりは多少ましだろう。
自分は軍人であるため何時如何なる場所でも寝ることは可能だが、それをこの少女にも押し付けるのは酷というものだ。
47
:
遺すもの、遺ったもの、遺されたもの
◆QGtS.0RtWo
:2005/06/23(木) 00:57:52 ID:FI/YXtMc
(約束は果たせなかったか…)
オボロとミコトには何人たりとも指一本触れさせないと、そう誓ったのが随分と前のことのように感じる。
やり場の無い怒り、自分の不甲斐無さに拳を振り上げ、そして力なく振り下ろす。
ここで何かに八つ当たりしたところで事態は好転しない。
四回目の放送。
ミコトの名前が呼ばれなかったのは不幸中の幸いではあるが、まさか主催者側が名前を知っているはずも無く、「もしかすると」という絶望感は拭えない。
アビスボートへ向かう途中、ミコトを連れてくる前にオボロが一人で逝ってしまったのなら、ミコトはまだアビスボートにいるだろう。
だが、ミコトを連れてくる途中でオボロが死に、ミコトだけがどこかに置き去りになっている可能性もある。
果たせなかった約束の半分。
そして果たすことが出来るかもしれない残りの半分。
ミコトだけは自分の命を賭してでも守らなければならない。
しかし、そのためにエルルゥや渚を置いて探しに行くわけにはいかない。
誰かを助けるために誰かを犠牲にするなど、本末転倒だ。
せめてミコトだけは生き残っている。
アビスボートの中でウルトリィ達と待っていると。
そう信じて、今はエルルゥと渚を守ることを第一に考えて動くしかない。
48
:
遺すもの、遺ったもの、遺されたもの
◆QGtS.0RtWo
:2005/06/23(木) 00:58:49 ID:FI/YXtMc
三人だけではない。
他の全ての参加者も守る。
石原麗子は死んだようだが、もう殺人者が全て居なくなったとは考え難い。
静かに寝入る少女達。
それを見ながら三井寺月代――辛うじて今回も名前を呼ばれなかったあの少女――について思いを馳せる。
殺人者の魔手から参加者を、特に子供達を守らなくてはならない。
そして篁。
今はまだ傍観しているようだが、奴がこのゲームに本気で乗り出してくれば、戦闘能力の低い女子供から殺されていくのは目に見えている。
そうなる前に自分のような戦えるもの達で片を付けなければならない。
残された命全てを救う。
少なくとも、目の前で誰かを守れずに死なせるようなことは、絶対に、しないと。
それがオボロに対して出来る弔い。
新たな誓い。
49
:
遺すもの、遺ったもの、遺されたもの
◆QGtS.0RtWo
:2005/06/23(木) 00:59:48 ID:FI/YXtMc
――ミコトを頼む。
「む…」
どこかからオボロの声が聞こえた。
まさかそんなはずはない、と思いつつも辺りを見回してみる。
幻聴か。
「俺に任せろ」
幻聴だとは思うが、そう返してやる。
――兄者にはいつもいつも迷惑をかけるな。
と。
またオボロの声が聞こえたような気がした。
【11番 エルルゥ 所持品:『超』ライター 乳鉢セット 薬草類 状態:緊張の糸が切れて睡眠中】
【37番 坂神蝉丸 所持品:木刀 果物ナイフ 状態:ハクオロの仮面装備 切り傷 打撲が二十数箇所】
【81番 古河渚 所持品:タオルケット 状態:熱は下がり安定期(完治ではない)、睡眠中 膝と額に軽い擦り傷】
【場所:住宅街外れの民家】
【時刻:三日目午前九時過ぎ】
50
:
六亡星の呪縛
◆rkFpeT0nBo
:2005/06/23(木) 03:25:15 ID:XO8u3TlM
「っ……」
肩は完璧に逝かれたか。
動かそうとしても焼けるような激痛が走るだけでぴくりとも動かせない。
仙命樹の血の力さえあればまだ何とかなったかもしれない傷だったのだが……
だが、一つ腑に落ちない。
みさきを庇いに出た時点で死を決意したはずなのだったのだが、あの男――芳野は格好の餌食となっていた自分を狙う前に他の方向に向かって走りだした。
と言うことは目的は自分ではない、つまりは現時点での目的は皆殺しでは無かったと言う事。
(一体何なんだ……?)
光岡は激痛の走る半身を庇いながら起きあがり、混乱する情報をまとめ始めた。
51
:
六亡星の呪縛
◆rkFpeT0nBo
:2005/06/23(木) 03:25:49 ID:XO8u3TlM
「芳野ぉぉぉおおぉぉ!!!」
皐月が芳野に向けて正面から走り出す。
右手に煌めくは日本刀。
(ちっ、やはりこいつかよ)
現在手にしている獲物はアサルトライフル――別称、突撃銃。
しかし、走りながら敵を狙うと言う技術は芳野にはまだ無かった。
(糞っ、イーグルナイフで……)
芳野がそう判断したときにはもう皐月は目の前まで接近していた。
その少女は目の前でその速度を最高速まで上げて、その勢いのまま一旦左に振りかぶって日本刀を横一文字に薙ぎ払った。
芳野の目に映るその姿は多少の違いはあれど、激しく迫り来る五月嵐の再来にも見えた。
(ナイフじゃ無理かっ!)
加速と少女の全体重を乗っけた渾身の一撃。
それをナイフで受け流すには心許なかった。
芳野は走りを急停止し、重心と共に1歩後ろに下がった。
先程まで自分が移動しようとしていた空間に銀の軌跡が残る。
(――間一髪か)
そして安堵している間もなく、そのまま初太刀の遠心力を利用して二回目の嵐が襲い来る。
しかし、全体重を乗せていた初太刀のそれと、刀に振り回され遠心力に頼る二回目のそれとでは威力は比較にならない。
芳野は咄嗟にバックからイーグルナイフを抜き、その剣戟を受け流しベクトルを反らす。
鉄と鉄がぶつかり合い甲高い音を鳴らす。
芳野腕の痺れが無くなり再び構えをとった時には、目の前の少女もまた同じく日本刀を構えていた。
52
:
六亡星の呪縛
◆rkFpeT0nBo
:2005/06/23(木) 03:26:27 ID:XO8u3TlM
「今度は何しに来たのよ!この人殺しっ!」
少しでも背負っているモノを吐き出そうと叫びながら、皐月は日本刀を力任せに振り回す。
しかし、スピードと体重を乗せた最高の一撃をかわされた今は少女に出来ることはそれしかなかった。
芳野は冷静になりながらその太刀筋を捌いていく。
難しいことはない、相手は片手で要は一直線にしか振って来ないからだ。
片手で連撃を加えるには上下ではなく左右に斜めを加えた振り回すだけ攻撃。
一撃、二撃とナイフで捌いている内に、重たい刀を片手で振り回して出来た腕力の衰えと隙を見逃さず皐月の日本刀の先をナイフで少し持ち上げ、その太刀を斜め上に反らし、跳ね上げる。
「――なっ!」
その瞬間芳野が間合いを詰めてくる。
右手のみしか使えない状況で刀を跳ね上げられ体勢を崩して無防備になった皐月は声をあげ、自らの死を覚悟する。
死ぬ事に後悔は無い。
智代には悪いが助けて貰った命を同じく誰かを護るために使ったのだ。
「私はいいから、みんな逃げてっ!」
そう声を張り上げる皐月。
「余計な事を……お前は後回しだ」
そう言い残しつつ、芳野は擦れ違いざまにアサルトライフルのグリップを鳩尾に叩き込む。
そのまま動けず固まっているゆかりとカミュを再び視界に戻し、加速する。
53
:
六亡星の呪縛
◆rkFpeT0nBo
:2005/06/23(木) 03:26:59 ID:XO8u3TlM
立ち上がった光岡は自身も駆けつけながら、思考に引っかかっている何かを考えていた。
自分自身に続き、絶好のチャンスだった皐月まで見逃した。
何か見逃している、そう何かを……
「!――カミュ、高く飛べっ!」
自分たちの近くにいたならば会話を聞かれていてもおかしくはない。
主戦力の自分と因縁のあるらしい皐月を見逃してまで狙う理由。
それはあの装置しか考えられなかった。
「!!」
呼ばれた自分の名前に驚きはっと自分を取り戻したカミュ。
芳野に追いつかれる前に言われたとおり漆黒の翼をはためかせ空へと舞い上がる。
――が、やはり思うようには飛び立てなかった。
風の抵抗を利用して大きく後方にジャンプするのが精一杯だった。
だが、一刻を争う芳野にとっては十分な痛手。
高さもあり、移動も速いカミュに追いつくのはまず不可能だろう。
54
:
六亡星の呪縛
◆rkFpeT0nBo
:2005/06/23(木) 03:27:37 ID:XO8u3TlM
「なっ!」
遠ざかっていく獲物を見て瞬間呆然とする芳野。
無駄のようで無駄ではなかった皐月の行動。
それが光岡にヒントを与え、考える時間を与えたのだ。
狙いもせずに飛び回るカミュを撃ち落とすことは無理だろう。
かと言って狙っている時間など無い。
しかし、芳野の頭は次なる答えを弾き出す。
「動くなっ!」
芳野の腕の中にいるのはもう一人の視界に入っていながらも逃げ出さなかった娘。
「――カミュと言ったな、そこから此処まで『気配を消す装置』とやらを投げて貰おうか」
引くに引けない状況の芳野。
人質に取られてしまって動けないゆかり。
獲物を全て失った上、ゆかりを人質に取られている以上近づけない光岡。
またしても自分の行動が足りず、大切な人を死の間際に立たせてしまったと痛感する皐月。
人質を取られ銃を撃てない状況で、近づけば撃たれるであろうカミュ。
そして、目が見えないばかりに自分の愛する者をただ信じて待つしかないみさき。
時間だけが刻々と進む世界。
誰もが迂闊に動けない、死の六亡星。
しかしそれでいて、此処にいる全ての人にとって残り時間はそう残ってはいなさそうであった。
動けば自分なり大切な者が死ぬ絶望的空間を、ぱちぱちと燃えさかる炎が取り囲む。
先に動くはいずれか?
その勝敗は各自の残り時間が左右する。
55
:
六亡星の呪縛
◆rkFpeT0nBo
:2005/06/23(木) 03:28:50 ID:XO8u3TlM
【028 川名みさき 白い杖、ゴム手袋、ハンドタオル】
【089 光岡悟 炎の中のデザートイーグル(残弾3) [右肩使用不可能]】
【095 湯浅皐月 日本刀、セーラー服、風子のナイフ、鉛筆一箱(1ダース入り)、猫目カッター、ハンドタオル [左腕使用不可能、鳩尾鈍痛]】
【078 伏見ゆかり 新・宗一の手記 グレネード(殺傷力は無し。スタン&チャフ効果)】
【025 カミュ 気配を消す装置 レミントン・デリンジャー(装弾数2発 予備弾4発)】
【098 芳野祐介 M16A2アサルトライフル(残弾21)、イーグルナイフ、手製ブラックジャック(×2)、スパナ、バール、救急箱(包帯はアイシングに使用)、ランタン、煙草(残り3本)、ライター、テープ、糸、ハーバーサンプル1袋、食料2日分】
【炎の中のデザートイーグル(残弾3)(壊れているかは任せます)】
【場所:森の中の民家】
【時間:3日目 6:30頃】
56
:
たとえば、マーク・トゥエイン
:2005/06/23(木) 03:37:43 ID:RW3uTgiI
――生きねばならないと。
――帰らねばならないと。
そう願い、百人もの人間が行動を起こした結果、既にその七割が生命を落としている。
何故にと疑問をさしはさむ暇もなく、少しずつ崩れていく日常を目の当たりにして、
それでも残された人々は、生きねばならなかった。
そしてここにも、さしあたって生きねばならない人間が三人。
「というわけでだ、生きるためにその1」
と最年長者に配られたのは缶詰の魚。
「食欲なんて起きないかもしれないが、何かしら腹に入れておかないとね」
「うん、食べられるときに食べておかないと」
「そう、これが最期の故郷(くに)のサーディンになるかもしれない」
「……お父さん、縁起でもないこと云わないで」
演技過剰気味の敬介をたしなめる観鈴が、朋也のほうを見た。彼女なりに気を遣っているのだ。
にっ、と笑って返してやる。
「年長者の話はしっかり聞いておけ、ってことだろ」
「そういうことだね。まあ、ここにはプラネタリウムも封印都市もないし、屑屋やコンパニオンロボットが
出てきたりもしないわけだが……」
敬介が空を仰ぐ。
「せめて雨でも降っていればもうちょっと雰囲気は出たかもしれないな」
「酸性雨は勘弁な」
そこまで主催者がやるとは思いたくなかったが、ありえない話ではないように思えた。
あの老人は得体が知れない。この島の天候を変えるくらい容易くやってのけるのではないか。
「雨……降るよ」
ぽつり、と観鈴が云った。
「なんだって」
「酸性雨かどうか……までは、わからないけど。これ、雨の前の風だから」
ずっと空ばかり見ていたから、なんとなくだけど、わかる。そう観鈴は続ける。
いつか読んだ短編SFネタの冗談が、いつしか冗談ではなくなっていた。
「……まいった、な」
思わず溜息が漏れた。この状態で雨に降られては行動が著しく制限されることになる。
自然、焦りも出ようというものだった。
57
:
たとえば、マーク・トゥエイン
:2005/06/23(木) 03:38:45 ID:RW3uTgiI
食事を終え、歩き出す。
生存者が既に相当減っている今ですら探すべき人間は多いのだが、一向に合流できる気配がない。
春原芽衣、桜井あさひ、古河母子、坂神蝉丸、そして洞窟からいなくなってしまった三井寺月代。
月代ちゃんを探さないと。
その名が観鈴の口から出たとき、朋也はいい顔をしなかった。
月代が云った「人殺し」という言葉。それが未だ痛切にのしかかったままで。
それが誤解から生じた言であるという事実は何の気休めにもなりはしない。
今や彼は、人殺しであるのだから。
それだけに、月代をすすんで探して顔を合わせる気には到底なれない。
「分からないでもないがね、岡崎君」
そう伝えると、敬介は顔をしかめた。
「二度が三度でも説得して誤解を解くべきじゃないのか。その誤解が元で取り返しのつかないことに
なったらどうするんだい? ……それに」
細めた目から、一切の表情が消えていた。
「あの子に何かあったら、僕は君に殺されても文句が云えないんだが」
「なっ……」
言葉を失っていた。
長い夜の中、学校で初めて会ったとき、朋也は彼になんと云ったか。
(その言葉、嘘だったら。この娘が死んだら――お前は、俺が殺すからな!)
今思えばその発言も、誤解の産物であった。そして、その発言がある以上、敬介は月代の身を
案じなければならない。
二重の意味での、朋也の失点。今更忘れてくれなどと云えるはずもなかった。
「……まあ、そのことについて責めるつもりはないけれど、僕は根に持つ性質でね」
本来の、少々皮肉っぽい穏やかな口調で、敬介は続ける。
「ひとつだけ、頼みをきいて欲しいのさ……観鈴?」
視線を向けると、観鈴が決然とした面持ちで、まっすぐに朋也のほうを見ていた。
期待と不安が渾然となったその眼差しを、それでも朋也からはずそうとしない。
そして、その口から発せられた頼みごとは、完全に朋也の意表をついていた。
「……友だちに、なってくれませんか?」
58
:
たとえば、マーク・トゥエイン
:2005/06/23(木) 03:39:35 ID:RW3uTgiI
「――は?」
「友だちになってくれませんか」
一字一句違うことなく、観鈴はその質問を繰り返す。
意図が、読めない。
「……無理に、というわけじゃないんです。わたし変な子だし、もしかしたら時紀さんも沙耶さんも、
わたしと友だちになんてなったから死んでしまったのかもしれないし……でも」
一つ一つ、言葉として出すことでその決意を固めていくように。
「もうわたしだけ残されるのはいやだから、何もできないでただ泣いているのもいやだから、
……悪い夢は、自分の手で終わりにしたいから……だから」
うっすらと浮かんだ涙にも曇らない、眼。
「――友だちに、なってくれませんか」
ふと朋也は思う。
こいつにとって、それは相当の勇気がいる行動ではないのか、と。
人殺しで疫病神な俺に、そう、こいつの母親を殺そうとした張本人に友達になれと云うのは
ひょっとして途轍もない勇気が必要なのではなかろうか、と。
「……神尾、おまえ何気にアホな子だろ」
「が、がお……観鈴ちん、アホちんだから――やっぱりダメかな」
「馬鹿、誰がそんなこと云ったよ」
「え、じゃあ」
「約束はできない」
椋とかわした約束、杏とかわした約束、智代と、春原と、水瀬と、河島や猪名川と……
果たすべき約束と、果たすことなく終わってしまった約束が朋也には多すぎた。
「だけどな」
こうやって、誰かに笑いかけてやるくらいは、まだできる。
河島とはじめて会ったときも、さっきの橘のオッサンだって、そうだったではないか。
「よろしくな、神尾」
差し出した手に、手が重なった。
59
:
たとえば、マーク・トゥエイン
:2005/06/23(木) 03:40:31 ID:RW3uTgiI
ぽん、と。
観鈴の栗色の頭に敬介の手が置かれた。
そのままくしゃくしゃと頭をなでる。
「ほら、云えたじゃないか」
「うん、云えた。観鈴ちん、がんばった。……勇気出して、よかった」
ぽろぽろと流れ出す涙は、安堵のそれだったか。敬介は頭をなでる手を止めなかった。
「感謝するよ」
そのまま、朋也に向き直って云う。
「俺、何もしてないだろ」
「いや、ちょっと事情があってね――観鈴には友だちがいなかったんだ」
表情が翳る。
「小さいころからずっとそうなんだ。原因の分からない病気のせいで、どうしても泣き出してしまう。
……この子もずっとそんな具合だったから、無意識に遠慮するようになっていたのかもしれない」
「今は……大丈夫なのか」
「この島では、癇癪は起こしていないらしい。何故だかはさっぱりだけれど……」
観鈴の頭から手が離れた。
「実はね、僕も不安だったんだ。観鈴のところを離れている時間が長すぎたからね。
今更僕がこの子の背を押したって、意味がないんじゃないかって――本当に、恩にきる」
頭を下げられるのが、少しばかり朋也にはむずがゆかった。
「ところで、月代ちゃんの件なんだが――ちょっといいかい」
敬介が話を戻す。
「……君の探していた娘――坂上智代といったか、その娘のことをもう一度聞かせてほしい」
あの時の寒気に似た感覚が、一瞬甦ったような気がした。
月代は、智代のことを、知っていた。
知った上で、罵っていた。「人殺し」と。
「あんたも……何か知っているのか」
「おそらく――いや、たぶん間違いないと思う。だから……だからこそ、もう一度聞かせてくれ」
これ以上誤解を増やす真似はできないと、敬介は言外に語っていた。
できる限り細密に智代の特徴を挙げていく。敬介が知っているその人物が智代でないことを祈らんばかりに。
60
:
たとえば、マーク・トゥエイン
:2005/06/23(木) 03:41:18 ID:RW3uTgiI
「……やはり」
「間違いじゃ、ないんだな」
深く頷く敬介に、朋也は暗然とするしかなかった。
「月代ちゃんのお姉さんを殺したのは、その娘だ」
そう、事実だけを、告げられた。
白い空に似合わぬ、重苦しい空白。
毒づくことも喚き散らすこともできないその空白を破ったのは――神尾観鈴だった。
「その人、わたし知ってる」
「なんだって」
「間違い、ないと思う。わたしたちが見たときには、もう……」
「観鈴、詳しく――聞かせてくれないか」
こくりと頷くと、観鈴はそのときの様子を――時紀らと行動していた夕暮れ時のことを説明し始めた。
血だまりの中に倒れている少女と屈んで目を閉ざす時紀、そしてポケットの写真のこと。
「ちょっと待ってくれ」
そこまで聞いて、朋也は観鈴を制した。何かを思い出したように、リュックの中を漁る。
抜き出したのは昨晩敬介たちが見つけたCDだった。
「智代は、那須宗一とか言う奴を探していた。個人データの中から、信頼できる奴を見つけたと。
そいつと合流して……主催をつぶすと云っていた――多分このCD、智代のだ」
「時紀さんも……同じことを云ってた、主催者をつぶす、って」
観鈴らしからぬ、熱を帯びた口調。その決して不快はでない熱さは晴子を連想させる。
「お父さん、時紀さんのやろうとしたこと、今からできないかな」
自分だけひとり残されるのも、何もできないでただ泣いているのもいやだからと。
そう云いたげな観鈴に、敬介はひとつだけ、質問をすることにした。
「今から動いても、お母さんも死んだ皆も戻ってこないが……それでもいいのかい?」
その言には敬介自身も気づきえない欺瞞が含まれていた。
主催者の「願いをかなえる」という言葉。
その願いの範囲に「人を生き返らせること」が含まれているとしたらどうか。
……そのことに気づかぬまま、観鈴は大きく頷いた。
「それでも……最後はハッピーエンドがいいから」
「そうか」
大きく息をつくと、敬介は観鈴に訊いた。
「昨日の、智代っていう子の場所、わかるかい」
観鈴も、そして朋也も、怪訝そうな顔をした。写真は時紀とともに埋めてしまった後であったし、
その場所には亡骸しかないはずで。
しかし、敬介は穏やかな笑みを絶やさず、云った。
「ひとつだけね……心当たりが、ある」と。
61
:
たとえば、マーク・トゥエイン
:2005/06/23(木) 03:42:24 ID:RW3uTgiI
いつもと違う風景が広がっていた。
それを初めて見たときに傍らにいた杏すら、今はいない。
秋生も、美佐枝も、そして智代も、もういない。
果たされない約束の、既に再会することすらできなくなってしまった者の、なんと多いことか。
それでも。
兄に似ずしっかり者の親友の妹は。
子供っぽい性格の、しかし芯のつよい母親は。
学校へ続く坂の下で一人佇んでいた少女は。
そして、芳野も。
――まだこの島のどこかに、いる。
ふと、気づく。
この場所。
この島で、一番最初に約束が生まれた場所。
「神尾」
呼び止める声に振り返る栗色の髪の少女。
そして、奇妙な柔和さを持ったその父親。
「すまない、先に行っていてくれないか」
「何か、あったのか?」
「いや、ただ行っておきたい――行かなきゃならない場所があるんだ」
「……そうか」
敬介も、観鈴も、引き止めようとはしなかった。
「先に、行っている。必ず追いかけてくるんだ、いいね」
答えの代わりに、会心の笑みを返す。
そして、あの場所へと駆け出した。
62
:
たとえば、マーク・トゥエイン
:2005/06/23(木) 03:43:23 ID:RW3uTgiI
観鈴が見たのは少女の遺体と白い大きな獣の事切れた姿だったという。
あの時見た「森の主」が複数存在しない限り、その胃の中には喰われた少年の死体があるはずだ。
その少年の分の爆弾とともに。
観鈴には少々つらいものを見せることになるかもしれない。だとしても。
汚れ役を被るのは、僕だけで、いい。
先を行く観鈴の背に問いかける。
――そうじゃないかい、晴子。
その場所はさして離れているわけではない。
観鈴たちが行く道から少々逸れた森の中。
そこには平たい石と血痕と、約束を交わした相手――藤林椋がいた。
ここに戻ってくるまでに、彼は幾重にもわたって約束をし、そのいくつかは反故にしてきた。
自らのハッピーエンドを望む資格など、とうに失っている。
それでも。
みんな、帰れると。
その占いを当てること。
それは、誰かのハッピーエンドを望むことになりはしないだろうか。
平たい石についたカードの跡は答えない。
椋も、笑ったままで答えようとしない。
しかし椋の手元に一枚だけ、答えになりうるものがあった。
拾い上げたタロットは『THE LOVERS-恋人』──正しい選択、結びつき。
それ以外の答えは、ここには残されていなかった。
椋の遺品のそのカードを、杏の形見となった辞書になんとなく挟んだ。
そのページがCの項であることも、「勇気」という意味の単語が書かれていることも、
その例文が以下のようなものであることも、朋也は気づきはしなかったが。
Courage is resistance to fear, mastery of fear - not absence of fear.
by Mark Twain
63
:
たとえば、マーク・トゥエイン
◆mE4qdk5PKk
:2005/06/23(木) 03:44:54 ID:RW3uTgiI
【014 岡崎朋也 刃がずたぼろになった包丁 英和辞典 タロット『THE LOVERS』 ビームサーベル
リュック(智代のCD 裁縫道具 乾パン 医療用の針と糸 カップ麺 ホイッスル シェラフ
方位磁石 メタルマッチ 救急セット)】
【023 神尾観鈴 なし 右耳の鼓膜が破れている 応急手当済み】
【055 橘敬介 歪んだマイクロUZI(残弾20発) 鎌 ピアノ線 大判ハンカチ 筋弛緩剤の注射器(3セット)
メモと鉛筆 腕に万国旗 手品用品 鉈 刃がずたぼろになった文化包丁】
【智代及びトンヌラの死体の方向へ】
【観鈴と橘が先行、朋也は道はずれの椋死体付近から遅れて同じ方向に向かっています】
【定時放送後ある程度の時間経過】
64
:
running history
◆8hdICkl0Eo
:2005/06/23(木) 06:23:04 ID:y.VCN0dA
「──ハアッ、ハアッ、ハアッ……」
あれからどれぐらい走っていただろうか。
気力で体力をカバーできる限界がきたのか、荒い息を吐きながら、明日菜は足を止めて膝に手を突く。
握られた拳銃の感触が、膝頭に小さな痛みを与えていた。
「何だか、昨日から、走って、ばっかり、みたい、な……」
思い起こすと、まさにその通り。
最初はあさひが助けを求めてやって来た時、晴子と二人で。
意図的にペースを落としてはいたが、一応走っていた。
結果論と言えばそれまでかも知れないが、この時の遅れが無ければ、少年は死なずに済んでいたかも知れない。
尤も、そんな事は自分には全く関係無い事だと彼女は思っているのだが。
次は間を置いて夜。
晴子との交渉が決裂し、洞窟に向かって全力疾走した。
結果、それなりの時間を共に戦った晴子を殺害し、探し求めていた時紀をも「一時的に殺して」しまい、自身も簡単には無視できない傷を負った。
物資も減少するわ不要な敵を作ってしまうわで悪い事尽くめだったが、それでもあの時ああしていなければ、最悪命を落としていたかも知れない。
そう考えれば、その後の走りもまた無駄な労力ではなかったと思えた。
65
:
running history
◆8hdICkl0Eo
:2005/06/23(木) 06:25:00 ID:K4GwPyTc
四回目はついさっき。
クーヤ達に自分の嘘を見破られ、また全力疾走。
一度晴子と共に彼女等を騙せていた事から油断が生まれたのか、あまりに情けないミスをした。
結果また走って走って走り抜いて、挙句に辿り着いた先に居たのは、また自分を捕らえんとする者達。
その場はカルラの陳入でどうにか切り抜けられ、新たに拳銃を一丁調達できた。そういう点では結果オーライだったとも言える。
だが、それと同時に、あの場に居た全員に、拭えない警戒心と敵意を植え付けた事は違いなかった。
故に、今し方の、五度目の疾走。
そりゃあいい加減足にもくるというものだ。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ………あら?」
ふと、明日菜の視界の右端で、何かがキラリと光った。
「何が…って、うわっ」
明日菜がその光の方へ視線を遣ってみると、そこには、幾条もの木漏れ日を浴びて煌めく泉があった。
猫の額程、と評したくなるぐらいの小さな泉ではあったが、それらが生み出すどこか幻想的ですらある光景に、明日菜はほんの僅かな時間、完全に目を奪われた。
おそらくそれは、彼女がこの島に喚ばれてからこちらで目にした、最も美しい光景であっただろう。
66
:
running history
◆8hdICkl0Eo
:2005/06/23(木) 06:26:07 ID:C85teBRY
(そう言えばアタシ、どこをどう走ってたんだっけ…)
泉から自分の来た方向を振り返ると、そこには一本の清流──つまりはあの川があった。
西岸の食糧庫に向かおうとしたものの、エディ達と遭遇したあの場から真っ直ぐ西に向かおうとすれば、たちどころにベナウィに捕らえられていただろう。
それで仕方なく、その場は人のいない方向──この場合は北か南だった──に向けて遁走したのだ。
その時は無我夢中で方角は気にしていなかったが、太陽の方角から見るに、どうやら北に向けて逃げて来たらしかった。
(この泉はあの川の源流ってワケね…地下水でも湧いてるのかな?)
そんなちょっとした疑問を抱きながら、明日菜は泉に近づいてみる。
見た処その泉は川に比べて大分深い様で、また澄んだ水質のおかげで、底の方までくっきりと確認できた。
更に言えば、泉にはヤマメなどの淡水魚も棲み着いており、余裕さえあれば、行動拠点にするにはもってこいの場所と言えた。
(余裕さえあれば、なんだけどね……)
勿論、あの場にいた六人の内の誰か──もしかしたら複数が自分を追って来る可能性を考えると、とてもこの場所に留まっている事などできなかった。
67
:
running history
◆8hdICkl0Eo
:2005/06/23(木) 06:30:33 ID:GH4odJvU
(はあ……仕方ないわね)
溜息を吐きながら明日菜は泉の淵に屈み込むと、その澄んだ水を両掌で掬い、喉を潤した。
「ん〜〜〜美味しッ☆」
ついでに少しだけ涼を取るべく、髪を水で濡らした。
さて、取り敢えず渇きさえ癒せば、また逃走の時間。
朝に早苗のパンを食べて空腹ではなかったとは言え、やはりパンはあまり腹持ちの良い物ではない。
寧ろ下手をすればあのパンが原因で逆に腹を壊しかねない。
兎にも角にも、今の最優先事項は食糧庫への到達だった。
靴を地面に打ち突け、ブラウスの袖を伸ばし(藪などによる擦過傷を防ぐ為だ)、瞳にかかる前髪を軽く整える。
準備は万端。
(あ〜あ…こんな事になるって分かってたら、学生時代、体育の授業ぐらいは真面目に受けとくんだったかなぁ…)
──位置について、
──用意、
──スタート!
麻生明日菜の、来島以来六度目のランニングの始まりだった。
【02番 麻生明日菜 所持品:南部十四年式(残弾3)、ワルサーPP/PPK(残弾4)、
状態:左肩負傷(応急処置済み)、軽度の疲労】
【場所:川の上流の泉の畔】
【時間:三日目午前七時半頃】
68
:
選ぶべき道
◆rkFpeT0nBo
:2005/06/24(金) 03:07:56 ID:XO8u3TlM
芳野は左腕をゆかりの首に回しながらナイフを首に押しつけ、右手でアサルトライフルを構え今にも助けに駆けつけようとしていた光岡に標準を合わす。
だがそれ以上は何も出来ない。
ゆかりという手札を失ってしまってはそれこそこの計画が全て無となってしまう。
かといってこの場で光岡を狙い撃つことも出来ない。
『殺す』と言う脅しは下手に殺さない方が効果がある。
この場の目的はカミュを脅し、気配を消す装置を奪うことなのだ。
「もう一度言う、人質を殺されたくなかったら『気配を消す装置』とやらを投げて貰おうか」
身体と意識は光岡と皐月に向けながら、カミュを睨みつける。
ぱちぱちぱち……
燃えたバックから踊り狂う真紅の炎が庭の草へ、そして家を取り囲む木塀へと浸食する。
木塀はこの家をぐるっと取り囲んでいる。
このまま全ての人が動けず焼け死ぬのも時間の問題だった。
「――八方塞がりか」
痛みなど感じている暇はない。
光岡は何とか状況を変える物がないか目だけで周りを確認する。
(――みさき!)
あの男に襲われた時、バックが燃えだした時、その時常に隣にいたのは果たして誰だったのであろうか……
燃え盛る炎の下一番近くにみさきはへたりこんでいた。
目の見えない彼女であろうと身の回りの熱気と異常には気が付か無いはずがない。
なら一体何故?
光岡は今にも叫び、手を引き安全な場所へと連れだしたい気分になった。
勿論、この場所に――否、この島に安全な場所など無い筈なのだが。
69
:
選ぶべき道
◆rkFpeT0nBo
:2005/06/24(金) 03:08:31 ID:XO8u3TlM
果たしてどの選択肢を選ぶのが一番正しい道なのだろうか?
緊張と熱気で額から汗が垂れる。
光岡は横目でみさきの状態を再び確認する。
みさきの顔は炎で赤く火照り、両手で身体を抱きしめながら小刻みに身体を震わせていた。
(違う!)
みさきの顔の赤さは決して火照りと炎の照り返しだけでは無かった。
庇って撃たれた時流れた自らの血液――そしてその血液がもたらす効力。
「みさきーーーっ!!!」
その現実に居たたまれずにアサルトライフルで狙われていることを忘れみさきに叫び呼びかける。
しかし目が見えない中恐怖と隣り合わせに座り込み、震えながら身体の芯から沸き上がる感情を懸命に押し堪えているみさきにその声は届かなかった。
「芳野とやら、聞くまでもないかもしれんがその装置を手に入れてどうするつもりだ……」
「言うまでもないな」
自分自身に残された時間を試算し、苛つきながらそう答える芳野。
こちらも時間がないし仕方ないか……
横目で起きあがった皐月にアイコンタクトを送る。
それをみて頷く皐月を確認して光岡は叫んだ。
「カミュ!!」
カミュがその声に頷き、手にしてる装置を芳野の方に投げる。
70
:
選ぶべき道
◆rkFpeT0nBo
:2005/06/24(金) 03:09:15 ID:XO8u3TlM
最愛の人を救う事と殺人鬼を止める事。
二つの選択肢しかない場合光岡達のとる行動は決まっていた。
芳野の気が飛んでくる装置に向かったのを確認して、最愛の人の元へ駆ける光岡。
小さい体で震えているみさきを片手で力一杯抱きしめ燃え狂う炎の元から助け出す。
「すまんな……」
聞こえているか判らないが心の底からそう伝える。
光岡はみさきのバックからハンドタオルを取り出し血と汗で汚れたみさきの顔を拭ってあげる。
「少し待っていてくれ」
そう告げて光岡はみさきの顔を抱え自らも顔を近づける。
「――んぁ」
みさきの口から声が漏れる頃にはもう光岡は立ち上がっていた。
「不器用な男ですまんな」
そう言って男は再び戦場に駆け出した。
自分の所に飛んでくる装置。
間もなくその装置が自分の手の元にやって来る。
「澪ーー!待っていろ後少しの辛抱だ!!」
芳野はこうなっては邪魔なゆかりをつき放し、空いた腕でその希望の箱に向かって手を伸ばす。
71
:
選ぶべき道
◆rkFpeT0nBo
:2005/06/24(金) 03:09:47 ID:XO8u3TlM
光岡が選んだ選択肢、それは両方。
今の自分は一人ではなく仲間がいる。
身体が一つだからこそ一つしか選べない選択肢だったが、二つあれば二つ選ぶことだって出来る。
それが、光岡が選んだ答えだった。
(――後、後少し!もっと速く!!)
音を立てず地を這う嵐、進むごとにその速度を上げていく。
芳野の気が装置にいっている間が最後のチャンス!
刀を左下段に構えそのまま疾走する。
芳野が手を伸ばすと同時、皐月は手にする獲物の間合いに詰め寄る。
右足を前に出しそのまま地を滑りながら身体を一旦左に限界まで捻り、瞬間的に捻るベクトルを逆にし刃を一気に振り上げる。
「――残念だったな……皐月」
いるべき場所に対象は既にいなく、声だけがその場所に残っていた。
皐月の殺気の感じた芳野は、後ろを振り向かずとも先程まで対峙していた相手の間合いを避けることが出来た。
敵が間合いに入った瞬間に斬るならば、こちらはただ一、二歩その間合いから出れば良いだけだ。
刀を振り上げ限界まで身体を捻り死に体の相手を見ながら、今までいた場所に飛んでくる箱をアサルトライフルの銃身に当て、もう一つの手でキャッチする。
72
:
選ぶべき道
◆rkFpeT0nBo
:2005/06/24(金) 03:10:19 ID:XO8u3TlM
――なんで芳野が取れるの?
自分自身が斬り殺せなかったからではない。
とっさに避けたのに関わらず、取れたことでもない。
更に銃身に巧く当てキャッチ出来るようにしたことが不思議なのでもない。
『今まで片手で持っていたナイフは何処へ行ったの?』
皐月が足下に目を降ろすと其処には大切な友人の倒れた姿があった。
小刻みに揺れる身体。
次第に広がっていく赤い湖。
そして、その背中に怪しく光るナイフ。
真紅に染まるこの世界。
なにもかも食べ尽くす炎の色。
大切な人が流す色。
そして復讐の色。
抜け出ることを許されぬ世界。
芳野が逃げようとした先には銃を構えたカミュが立っていた。
【028 川名みさき 白い杖、ゴム手袋、ハンドタオル】
【089 光岡悟 炎の中のデザートイーグル(残弾3) [右肩使用不可能]】
【095 湯浅皐月 日本刀、セーラー服、風子のナイフ、鉛筆一箱(1ダース入り)、猫目カッター、ハンドタオル [左腕使用不可能、鳩尾鈍痛]】
【025 カミュ 気配を消す装置 レミントン・デリンジャー(装弾数2発 予備弾4発)】
【098 芳野祐介 M16A2アサルトライフル(残弾21)、イーグルナイフ、手製ブラックジャック(×2)、スパナ、バール、救急箱(包帯はアイシングに使用)、ランタン、煙草(残り3本)、ライター、テープ、糸、ハーバーサンプル1袋、食料2日分】
【078 伏見ゆかり 死亡】
【残り27人】
【伏見ゆかりの荷物(新・宗一の手記 グレネード(殺傷力は無し。スタン&チャフ効果))はその場にバックごと落ちています】
【炎の中のデザートイーグル(残弾3)(壊れているかは任せます)】
【場所:森の中の離れ民家】
【時間:3日目 7:00前】
73
:
選ぶべき道の修正
◆rkFpeT0nBo
:2005/06/24(金) 09:08:24 ID:XO8u3TlM
【098 芳野祐介 M16A2アサルトライフル(残弾21)、イーグルナイフ、手製ブラックジャック(×2)、スパナ、バール、救急箱(包帯はアイシングに使用)、ランタン、煙草(残り3本)、ライター、テープ、糸、ハーバーサンプル1袋、食料2日分】
を
【098 芳野祐介 M16A2アサルトライフル(残弾21)、手製ブラックジャック(×2)、スパナ、バール、救急箱(包帯はアイシングに使用)、ランタン、煙草(残り3本)、ライター、テープ、糸、ハーバーサンプル1袋、食料2日分】
【イーグルナイフはゆかりの背中に刺さったまま】
に修正お願いします
74
:
◆QGtS.0RtWo
:2005/06/24(金) 19:05:41 ID:FI/YXtMc
時間の矛盾が発生したので、
>>11
の
>家の影に気を配り、風の音に身を竦ませ、遅々とした歩みで船へと向かう。
>「さて」
>住宅街の終わり、森との境界を前に立ち止まる。
>このまま海岸線を通ってアビスボートへの最短距離を行くか。
>或いは森の中を迂回して行くか。
を
>家の影に気を配り、風の音に身を竦ませ、遅々とした歩みで船へと向かう。
>「そういえば松浦さん」
>「む?」
>「どうやってアビスボートというところへ行くつもりですか?」
>神岸の疑問に答えるため、しばし民家の影に立ち止まる。
>海岸線を通ってアビスボートへの最短距離を行くか。
>或いは森の中を迂回して行くか。
へと差し替えと、
>>12
の情報欄の最後に
【出発地点の近く】
の一文の追加をお願いします。
75
:
<削除>
:<削除>
<削除>
76
:
信頼
:2005/06/25(土) 07:19:02 ID:3Vm1zyDo
「よっ、と……」
「ちょっと、冷たいですね」
ざぶざぶと水音を立てて、ベナウィと早苗が川を東へと渡り、エディ達のもとに移動する。
残されたクーヤはと言うと、
「わわ、あまり揺らすでないベナウィ! 落ちてしまうではないか」
終始頑なに川を渡り歩く事を拒否したので、やむなくベナウィが肩に乗せて運ぶ事となった。
“おんぶ”や“お姫様だっこ”でないのは、勿論お互いに荷物が持てなくなるからだ。
「まったく…何処の世界だか知らないけど、随分わがままな皇様もいたものねぇ。 國、大丈夫なの?」
対岸で三人の到着を待つそう呟く真希の頭部には、帯状に裂かれたタオルケットが巻き付けられていた。
ちなみに、その台詞に隣で苦笑するエディの右手にも、同じ様にタオルケットが巻き付けられている。
「何を申すか!! 余の國は皇族も民も一丸となって支え合い成っておる國。無礼は許さぬぞ!!」
「あら、大した御國なのね。でもアナタにそんな國を纏める器量はあるのかしら?」
「見くびるでないこの無礼者が!! 余はアムルリネウルカ・クーむぐっ!?」
激昂して言い争うに歯止めが効かなくなりつつあったクーヤの口を、早苗の手が塞いだ。
「お二人共、お静かに。あまり大声を出されては、誰にそれを聞きつけられるか分かりません」
「あっ……」
「むぐ……」
ベナウィに至極真っ当な注意を受けて、二人はすぐに押し黙った。
それを確認すると早苗もクーヤの口から手を離し、その後はクーヤと真希も無言になり、すぐに三人とも無事に川を渡りきった。
77
:
信頼
◆8hdICkl0Eo
:2005/06/25(土) 07:22:23 ID:y.VCN0dA
「さ、クーヤ皇」
「う、うむ…」
対岸に渡り着き、ベナウィがクーヤを肩から降ろすと、三人はエディ達の方に向き直った。
「エディ殿、でしたか」
「アア。アンタはベナウィ、だったナ」
「はい」
取り敢えず先程の事は追々説明する事にして、先ずはお互いの自己紹介をしようという事になった。
「まずはオレッチからだな」
エディが左手の親指でくい、と自分を指さす。
「オレッチの名前はエディ。さっきも言った通りだナ。
世界一のエージェント、NASTY BOYのナビをやってンだガ……ちょっとアンタ等にゃ解んネェかナ…」
そう苦笑しながら言うエディの言葉通り、ベナウィとクーヤは疎か、早苗までもが小さく首を傾げていた。
「広瀬真希。…ただの女子高生よ」
「「ジョシコウセイ?」」
真希の簡素な自己紹介に、当然ながらベナウィとクーヤが疑問を抱き鸚鵡返しする。
「…公的機関で学問を修めてるの」
二人の真顔で訊ねる様に真希は少しだけ顔を赤くし、そっぽを向きながらそう短く締めた。
「改めまして…私の名はベナウィ。トゥスクルと言う國の騎兵衆隊長と侍大将(オムツィケル)を兼任しております」
「「おむつぃける?」」
今度は真希とエディが、その単語に揃って鸚鵡返しする。
「はい。解りやすく言うなら、皇の命の許軍事の全権を握り、戦や災害等の有事の際に國の兵卒を指揮する立場にある者の事です」
ただし、こちらは真希とは異なり、非常に冷静且つ儀礼的にその質問に答えていた。
「それと、こちらの御方が…」
「良い。自己紹介ぐらい一人でできる」
ベナウィが紹介しようとするのを制し、クーヤが一歩前に踏み出る。
「余がクンネカムン皇、アムルリネウルカ・クーヤだ。…尤もこの肩書きも、今は何の意味も持たぬがな」
この島に喚ばれてからの悲劇に思う処があったのだろう。
つい先程真希と言い争っていた時の剣幕は、すっかり憂いの陰に隠れていた。
78
:
信頼
◆8hdICkl0Eo
:2005/06/25(土) 07:25:59 ID:3Vm1zyDo
「あ、最後は私ですねっ」
クーヤの様子に毒気を抜かれたのか、或いは逆に憂いに中てられたのか。
周囲の空気が僅かばかり重くなってしまったのを感じ取ると、早苗が努めて明るく切り出した。
「私は古河早苗と言います。町では家族と一緒にパン屋を……」
「古河ですって!?」
早苗の自己紹介はその半ばで、いきなり真希の叫びによって遮られた。
「古河ってもしかして……貴女、渚のお母さんなんですか?」
「渚を知ってるんですかっ!?」
今度は早苗が叫んだ。
それもおそらく、この島に喚ばれてからこちら最大の声量でだ。
「え、ええ……ここから北東に森を抜けた所に住宅街があって…今はそこで待機してます」
「……ベナウィさん、クーヤさん、すいません。私…」
「遠慮する事ではない。ずっと捜し求めていた娘なのであろう? 誰が反対しようか。のうベナウィ」
「は」
「ありがとう……ございますっ」
瞳にうっすらと涙を浮かべながら、満面の笑みをこぼす早苗。
その姿は、先の重く沈んだ空気を瞬く間に吹き飛ばすぐらいに暖かなものだった。
79
:
信頼
◆8hdICkl0Eo
:2005/06/25(土) 07:27:08 ID:p5.D1SpU
「さて、では早速その住宅街に向かうとす……」
「ちょっと待って」
「ぬ?」
いざ住宅街へと向かおうとしていたクーヤ達を、真希の静かな、しかし強い意志の籠もった一言が遮った。
「何故止める。今は一刻も早く早苗を娘の許へと送り届けるべきであろう」
「それには勿論賛成よ……でもね、私、古河さんはともかく、あなた達の事は信用した訳じゃないのよ」
「なっ!?」
真希の冷淡な言葉に、クーヤが思わず目を丸くし、片やベナウィは、その真希の言葉を予測していたのか、努めて冷静に訊ねる。
「それは…先程の者──カルラとのやり取りが原因ですか」
「有り体に言えばそうね」
ベナウィの問いかけに対し、真希はあっさりとそう返す。
事ここに至り、先ずエディが真希の猜疑心の根拠に気付いた。ベナウィ達に向けられる視線が若干険しいものになる。
「さっきの女──カルラって言うの? …あの女、確かオボロさんを殺したって言ってたわよね」
「!!」
次いで、ここでクーヤと早苗も気付く。
早苗はオボロとは面識もなかったし知ってもいなかったが、もともと聡明なところのある彼女には、それだけ聞けば充分に理解できた。
80
:
信頼
◆8hdICkl0Eo
:2005/06/25(土) 07:29:11 ID:eNvXLOY.
「真希殿達は…オボロと会っていたのですか」
「…ええ。赤ん坊の為にミル…乳を探しに街に来た彼と会って、後でその赤ん坊を連れて戻って来るはずだったんだけど……」
その言葉の中に出てきた“赤ん坊”が、カルラの言っていた“聖上の御子”であると、クーヤとベナウィにはすぐに理解できた。
そして、オボロがそれを為せなかった事も理解し、また陰鬱とした空気が漂い、二人は沈黙する。
「確かあの女最初に言ってたわよね?「人を殺したので報告に来た」って」
「…ソー言ヤ、アンタ等あの女と前からの知り合いだったみたいだしナ。しかも武器を渡して逃がしてたしヨ」
真希の正鵠を射た指摘に加え、更にエディの援護射撃が続く。
ここまで言われては、最初にカルラを逃がしたベナウィも、そのときその場に居なかったクーヤにも、全く言葉を返せなかった。
「ちょっと待ってください」
しかし、ただ一人。最もカルラとの関係が薄いはずの早苗だけは違った。
「ベナウィさんもクーヤさんも……いいえ、カルラさんも、私には悪い人には見えません」
「古河さん!?」
そう言われて驚くのは、真希だけではなかった。
ベナウィも、クーヤも、エディも。四者の驚きに満ちた視線が早苗に集中した。
81
:
信頼
◆8hdICkl0Eo
:2005/06/25(土) 07:31:42 ID:eNvXLOY.
「…ベナウィさんもクーヤさんも、この島で出会ってからずっと、何の力も無い私を助けてくれました。
夫を喪って自分を見失いかけた私を支えてくれましたし、その夫や、死んでしまった人達も弔ってくれました。
このお二人が居なければ、今頃私は渚の所在を知って喜ぶ事も、ここに立っている事すら無かったかも知れません。
…カルラさんも、きっと私と同じなんです。
誰よりも愛しい人を喪って、ただその時に、自分を側で支えてくれる人に恵まれなかっただけ…。
そのせいでちょっとだけ何かを見失って…でも、自分を信じ、他人(ひと)を信じ、愛しい人の子を愛し、守り抜こうとしている…。
ですから私も、ベナウィさん達の事を信じれるんです。
カルラさんの事、優しい人だと思うんです…」
早苗が語りを終えた時、その場にいた誰もが、まるで金縛りにでも遭ったかの様に立ち尽くし、言葉を失っていた。
ただ、先程まで場を覆っていた陰鬱に満ちた空気は完全に晴れ、皆の表情の陰を完全に消し去っていた。
最早この場に、今ここにいる者達を疑おうとする者は誰一人としていなかった。
82
:
信頼
◆8hdICkl0Eo
:2005/06/25(土) 07:34:33 ID:eNvXLOY.
──こぽぽ…と、空の容器から気泡の漏れる音が二つし、ベナウィとエディは清流の水を汲み終えた。
二人が立ち上がって背後を見ると、水を汲む前に頼んでおいた物資の交換も済んだらしく、残る三人が笑顔で二人を迎えていた。
「それでは我々は先に船で皆様をお待ちしております」
「アア。非戦闘員が多いからナ、しっかり護ってやってくれヤ」
「は。…エディ殿も、早苗殿を宜しくお頼み申します」
「オーケー、任せときナ!」
グッと親指を立てて、白い歯を煌めかせ、エディが会心の笑みを浮かべた。
「いいクーヤ? アンタを信じて赤ちゃんを任したんだからね。子守ぐらいちゃんとやってよ?」
「何度も言わせるでないこの無礼者! 一國の皇たる者、赤子の一人や二人あやす事など造作も無いわ」
「流石クーヤさん、頼もしいですねっ」
「古河さん。こーゆーのは甘やかすとつけあがるから程々にしてくださいね」
真希が忠告し、クーヤが反論し、早苗が場を宥める。
それは、こんな狂気の島の中での、確かな“幸せ”の形だった。
「それでは、お気を付けて」
「ソッチこそナ」
互いの目的の為に一時別れる五人の間には、目に見えぬ信頼の絆が生まれていた。
【33番 クーヤ 所持品:短刀、サランラップ(残り25m)】
【82番 ベナウィ 所持品:槍、水筒(水入り)、ワイヤータイプのカーテンレール(3m)】
【10番 エディ 所持品:尖った木の枝数本、カッター、ワイヤータイプのカーテンレール(3m)、盗聴器
状態:右手負傷(応急処置済)】
【72番 広瀬真希 所持品:スコップ、水入りペットボトル
状態:頭部負傷(応急処置済)】
【80番 古河早苗 所持品:トートバッグ(ビスケット1箱、ペットボトルのジュース(無果汁微炭酸)、少し破いたタオルケット、女性用下着1セット)】
【場所:森の中の大木近くの川】
【時間:三日目午前七時五十分頃】
83
:
BLOOD ROAD
◆rkFpeT0nBo
:2005/06/25(土) 14:50:41 ID:XO8u3TlM
「う……動かないで!」
目の前の漆黒の翼を持つ少女の手に握られるは小型の銃。
芳野は舌を打ちながらしばし停止する。
振り返れば憤怒の形相で光岡がこちらに走って向かっているのが見える。
横は燃えている木塀で囲まれており、脱出するための道は光岡、皐月のいる入り口か、銃を構えたカミュのいる裏口のみ。
こうやって考えている時間にも光岡は走ってこちらにやってくる。
(――素人の銃弾が当たる訳ない)
そう思い芳野はカミュの方向に駆けだした。
タンッ
乾いた音と共に銃弾が足元に着弾する。
少女は銃を撃ったにも関わらずこちらを睨みながら冷静に言い放つ。
「ゆかりの仇、逃がさないんだから」
芳野の誤算だった。
この目の前に立っている少女は自分と違い本物の戦場を経験していた。
近づけば当たるかも知れない。
そう思うと芳野の足の動きは鈍っていった。
84
:
BLOOD ROAD
◆rkFpeT0nBo
:2005/06/25(土) 14:51:18 ID:XO8u3TlM
改めて他に道はないか辺りを見回す。
すると既に目の前まで肉薄する光岡が目に入った。
光岡は刺されたゆかりを見て硬直している皐月から日本刀を取り、そのまま左腕で構えた。
「お前だけは許さん」
その言葉が相手の耳に届くのとどちらが早いか銀の軌跡が朝空を駆ける。
皐月と同じ腕一本による横一文字の降り抜き。
同じ獲物。
芳野はその間合いは既に覚えていた。
半身身を引き、装置を仕舞うと同時にバックから取り出した手製のブラックジャックで迎え撃つ。
狙うは刀の先端。
例え唯の大きめの石だったとしても遠心力と梃子の原理を利用し、巧く当てさえすれば片手の日本刀など恐れるに足らない。
そして、それを今の自分ならそれを絶対に成功させる事が出来る自信はあった。
85
:
BLOOD ROAD
◆rkFpeT0nBo
:2005/06/25(土) 14:51:51 ID:XO8u3TlM
その絶対の自信の元、芳野は軍足を刀にめがけ同じ横一文字を描かせ迎え撃つ。
刀の軌道に巧く合わせたと芳野が思った時、光岡の繰り出す日本刀の切っ先が更に延びる。
その刃は軍足を切り裂いた後も延び、芳野の額を掠めた。
本能的に勝てないと察した芳野は驚きの声をあげる前にアサルトライフルを構える。
勿論、当たるとは思っていない。
足止めにさえなってくれさえすればいい。
それだけを願って芳野は銃を連射しながら走り出す。
タンッ
芳野が再び乾いた音を聞いた時には頬から流れる熱い物を感じた。
「絶対逃がさないんだから!」
銃に両手を添えながらカミュが叫ぶ。
魔法と一緒、手を相手に突き出し狙いながら少しだけ力を込めればいい。
今までの自分の経験を呼び起こす。
「もう次は外さないんだから……」
カミュは逃げる芳野に再び照準を合わせる。
86
:
BLOOD ROAD
◆rkFpeT0nBo
:2005/06/25(土) 14:52:23 ID:XO8u3TlM
自分の頬から流れる血を感じながら芳野は駆ける。
銃弾が頬を掠っただけで肉が抉られたような痛みがする。
前門の虎後門の狼とはこの事だ。
逃げる場所は無い。
否、まだ賭けてみるべき可能性はある。
芳野はアサルトライフルで牽制しながら横に走り出す。
そこには炎に包まれた木塀が続いていた。
いち早く芳野の行動に気が付いたカミュ。
逃げる芳野に照準を付けながら指に力を込める。
しかし乾いた音は鳴り響かず、その間に芳野は回転しながら炎の中に突っ込んでいった。
炎で強度を失っていた木塀がその衝撃で音を立てながら崩れていくのが解る。
装弾数が0のレミントン・デリンジャーを握りしめながらカミュはその場にへたり込んだ。
87
:
BLOOD ROAD
◆rkFpeT0nBo
:2005/06/25(土) 14:52:57 ID:XO8u3TlM
結局その惨劇の後に残った物は何だったのか?
虚しさか?
悲しさか?
それとも更なる惨劇か?
それを知るのは炎の後も点々と続く『BLOOD ROAD』のみである。
【028 川名みさき 白い杖、ゴム手袋、ハンドタオル】
【089 光岡悟 日本刀 [右肩使用不可能]】
【095 湯浅皐月 セーラー服、風子のナイフ、鉛筆一箱(1ダース入り)、猫目カッター、ハンドタオル [左腕使用不可能、鳩尾鈍痛]】
【025 カミュ 気配を消す装置 レミントン・デリンジャー(装弾数0発 予備弾4発)】
【098 芳野祐介 M16A2アサルトライフル(残弾6)、手製ブラックジャック(×1)、スパナ、バール、救急箱(包帯はアイシングに使用)、ランタン、煙草(残り3本)、ライター、テープ、糸、ハーバーサンプル1袋、食料2日分[頬に軽い裂傷]】
【イーグルナイフはゆかりの背中に刺さったまま】
【伏見ゆかりの荷物(新・宗一の手記 グレネード(殺傷力は無し。スタン&チャフ効果))はその場にバックごと落ちています】
【炎の中のデザートイーグル(残弾3)(壊れているかは任せます)】
【場所:森の中の離れ民家】
【時間:3日目 7:00】
88
:
流れる水は全てを禊ぐ
◆QGtS.0RtWo
:2005/06/25(土) 15:50:35 ID:FI/YXtMc
「ふぁ…」
微かに潮の匂いの混じる風が吹き抜けていく。
午後の強い日差し。
灰と青のコントラスト。
陽光を浴びて鈍く光るアスファルトと、そのさらに向こうに見える青い海。
幾度かの休息を挟んで当ても無く歩き、何かに誘われるように森を抜ける。
眼前に広がる光景。
いつか見た光景。
それはつい最近のことだったか、それとも遥か昔のことだったか。
既視感。
違和感。
そこに在ったはずのものは無く。
そこに居たはずの誰かは居なくて。
それが忘れかけていた孤独を思い出させて。
少女は泣いていた。
89
:
流れる水は全てを禊ぐ
◆QGtS.0RtWo
:2005/06/25(土) 15:51:08 ID:FI/YXtMc
矢を番える。
両手で確り握りこむ。
照準を合わせる。
無防備な背中。
距離は10mにも満たない。
風は止み。
遮るものは無く。
何もかもがあたしに味方していると思った。
邪魔するものは皆殺しにする。
だが、目の前でこうして小さくなって泣いている少女は"邪魔するもの"に含まれるのだろうか。
仮にそうだとして、こうやって背後から狙い撃つというのは不当ではないだろうか。
人を殺すのに正当も不当もあるものか。
この島にあるのは、殺すか殺されるかという二つの選択しか無い。
指を軽く引けば矢が飛び出て突き刺さる。
運が良ければ苦しみを感じず、誰かに襲われたということすら知覚できずに死ねるかも知れない。
それは目の前の少女にとって幸せなことではないのか。
ならばこれは正当な行為なのだ。
さようなら、小さなお嬢さん。
少女は泣いていた。
90
:
流れる水は全てを禊ぐ
◆QGtS.0RtWo
:2005/06/25(土) 15:51:40 ID:FI/YXtMc
「あのぅ…」
突然の背後からの声に驚き、咄嗟に振り返る。
殺される。
「あ、あ、ごめんなさい、そんなに警戒しないで…ね?」
しかし、振り向いた先にいたものは、圧倒的有利な立場にあるにも関わらず、何故か自分よりも怯えているように見えた。
「驚かせるつもりはなかったの。ただ、そんなところで泣いていると危ないよ、って教えてあげようと思って…」
警戒の眼差しを向ける。
もしかしたらこの女の人はいい人なのかもしれない。
そんな考えも頭に浮かぶが、すぐに振り払う。
この島には善人面で簡単に人を裏切る奴らが存在する。
そのことを身を以って知ってしまった私には、知らない誰かを無条件に信じることなど、最早できそうになかった。
「…わかりました、以後気をつけます」
「うん、気をつけてね。それじゃ、あたしは行くから」
逃げるように背を向けて去っていく。
なんて無防備な背中なんだろう。
この人は、私に背後から襲われることは考えていないのだろうか。
誰かを無条件に信じることができるのか。
それとも、さっきまで泣いていた子供など、恐れるに足らないということなのか。
では、先ほど見せていた怯えは一体なんだったのだろう。
よくわからない。
91
:
流れる水は全てを禊ぐ
◆QGtS.0RtWo
:2005/06/25(土) 15:52:12 ID:FI/YXtMc
「待ってください!」
突然の背後からの声に驚き、咄嗟に振り返る。
ばれたのか。
「人を捜しているんです」
よかった。
さっきまであたしが殺そうとしていたことを知られたわけじゃないらしい。
「なんて名前の人?」
「坂神蝉丸っていう大きな男の人なんですが…」
セミマル。
聞き覚えがある。
確か昨夜の黒人の男が仮面の男のことをそう呼んでいたはず。
「その人なら確か」
「知っているんですか!?」
「え、う、うん、多分…」
「教えてください!」
さっきまで泣いていたはずの少女の豹変ぶりに押されて少し下がる。
「昨日の夜、あっちの住宅街で会った仮面の男のことを黒人の男がセミマルって呼んでたよ」
「仮面?」
「うん、何故だか判らないけど、妙な仮面を被ってた」
「仮面。仮面…うーん……」
「何度かセミマルって呼ばれてるのを聞いたからその人で合ってると思うんだけど…」
「よくわかんないけど…そっか、蝉丸はやっぱり生きてたんだ…」
セミマルという人物が生きていたことがよほど嬉しかったのか、少女はまた涙ぐみはじめる。
こういう場合、あたしはどうすればいいんだろう。
台本には無い。
じゃあアドリブを入れなきゃ。
あたしは駆けよって少女を抱きしめてあげた。
そして、何故だか判らないけど、あたしの目からも涙がこぼれた。
92
:
流れる水は全てを禊ぐ
◆QGtS.0RtWo
:2005/06/25(土) 15:53:30 ID:FI/YXtMc
「ありがとうございます」
ぐしゃぐしゃに泣きはらした顔をこすって、月代は頭を下げる。
人を信じるのは怖い。
人を信じて裏切られるのはもっと怖い。
でも、人を信じられなくなるのはもっともっと怖い。
だから私はこの人を信じよう。
誰かのために涙を流せる人。
この人は悪い人じゃない。
ううん、悪い人でも構わない。
まずは信じることから始めないと、何も判らないから。
「じゃあ今度こそあたしは行くね。住宅地はあっちのほうだから、気をつけて」
「あっ、待ってください!」
「何?」
「あなたはこれからどうするんですか?」
「えっと、あたしは…」
93
:
流れる水は全てを禊ぐ
◆QGtS.0RtWo
:2005/06/25(土) 15:54:25 ID:FI/YXtMc
「あたしは…」
参加者が全滅するのをどこかへ隠れて待っている。
そう正直に答えるのは憚られた。
「怖いから、どこかで隠れてるよ」
そう言って苦笑する。
本当に、苦い。
「だったら、一緒に行動しませんか?」
「ええっ?」
さっきまで自分が殺されようとしていたことを知ってか知らずか、会ったばかりのあたしに対してとんでもないことを言い出す。
無邪気な笑顔が胸に突き刺さる。
それに、この少女の捜し求めるセミマルとやらは一度やりあった関係。
次に対峙すればどうなるかわからない。
「蝉丸なら、あの篁って人を倒して、きっとこの馬鹿げた殺し合いを終わらせてくれると思うんです」
ああ、それはちょっと困るなあ。
そうなると巳間晴香を殺せない。
「すっごく強くて、誰にも負けないんですよ!」
そうかな?
あんなに甘い人はそのうち誰かに殺されると思うけど。
「だから、一緒に行きませんか?」
「あたしは…」
94
:
流れる水は全てを禊ぐ
◆QGtS.0RtWo
:2005/06/25(土) 15:55:39 ID:FI/YXtMc
「自己紹介が遅れました。私は三井寺月代って言います」
「あたしは桜井あさひ。宜しくね。」
「桜井あさひさん…どこかで聞いたことあるような……?」
何故だか判らないけど、この子はこんなあたしに気を許している。
ただ一人が嫌で縋られているだけなのかも知れない。
どちらにせよ、それを裏切ることはできないから。
結局あたしは、この少女、三井寺月代をセミマルとやらのところまで送っていくことに決めた。
そう、送っていって、引き渡すだけ。
このまま一人で行かせて、どこかで勝手に死なれると後味が悪いから、そうするだけ。
ただの思いつきのアドリブ。
本当にそれだけ?
判らない。
何が正しくて、何が間違っているんだろう。
新しいはずの台本は、もうアドリブで埋まり始めていた。
【085 三井寺月代 ヴィオラ(ケース入り) 青酸カリ 高枝バサミ 懐中電灯 針金
食料 水 手作り下着 初音のリボン タロットカード(残り20枚)】
【42番 桜井あさひ 所持品:食料、眼鏡、双眼鏡、ペン、ノート、ハンカチ、腕時計、懐中電灯、
十徳ナイフ、果物ナイフ、三節棍(ロッドにもなる)、ボウガン(矢5本)、S&W M36(残弾5・予備弾19)、ベレッタ(残弾5)
状態:『短髪』】
【場所:島北部道路傍の森の中】
【時間:三日目午前十四時頃】
95
:
◆8hdICkl0Eo
:2005/06/26(日) 06:22:32 ID:gabXTnA6
書き手IRCにて指摘を受けましたので、遅まきながら『未熟な狩り手』の3レス目を以下の通り修正します。
ただ、太陽を背にして進むのは、ゲームに乗った人間に背後を取られた時とてつもなく不利だという事は、やはり今のあさひには全く考え及ばぬ事だった。
↓
ただ、森の中からも視界に入る物を目印に移動するなら、わざわざ人目に着き易い森の外側を進む必要など無い事など、やはり今のあさひには全く考え及ばぬ事だった。
【時間:三日目午前九時頃】
↓
【時間:三日目午後一時頃】
96
:
考える人
◆rkFpeT0nBo
:2005/06/27(月) 03:18:53 ID:XO8u3TlM
「で、やっぱりそのガキが映らないのか」
あの後すばるとウルトリィが交互にミコトを連れてレーダーから離れたりして消去法で確認した結果やはりミコトがレーダーに映らないと言う事だったらしい。
「なんでレーダーにうちゅらないんでちょうね〜」
ウルトが抱いているミコトにぽっぺを突っつきながらすばるが問いかける。
勿論答えは返ってこないのだが、この場合誰に聞いても明確な答えは返ってこなさそうだった。
97
:
考える人
◆rkFpeT0nBo
:2005/06/27(月) 03:19:41 ID:XO8u3TlM
「俺達だけの共通点か……」
邦博が座りながら呟いた。
いつもなら勝手にやってろと無視するのだが場所が場所だ。
それにそんなくだらないプライドはこの島の何処かに捨ててきていた。
「ある一定以上の年齢でしょうか?」
三人寄れば文殊の知恵とすばるがペンで議題を教えたウルトリィも話の話の中に加わる。
「――年齢は関係ねぇだろ、参加者にはガキみたいな奴も混じってる」
頭の中で風子の事を思い出し、感情を抑えながら邦博が答える。
「やっぱり参加者って事が重要なんですの!」
「それでどうやって判断しているのかが疑問だな」
名案とばかりはしゃぐすばるを横目で冷静に見ながら考える。
「参加者しか無い物……」
「参加者が特定できる物……解った爆弾ですの!」
宗一の手記を思い出し、すばるが叫ぶ。
最初に埋め込まれたと言われた爆弾。
確かに参加者を識別する方法として悪くはなかった。
「だが、それだと死んでいる奴はどうなる?」
この島をかなり歩いたがレーダーは生きている人間にしか反応していなかったと思う。
死体にも反応するなら70人は死んでいるこの島で、今まで反応しなかったのは可能性的にそれを肯定していた。
「――いや、だからこそあの篁はこっちが死ぬのを正確に放送していられたのか」
生きている者が解る仕組み。
それが途絶えたからこそ死んだと断定されたのではないか?
では、その仕組みとは何なのか……
「あー面倒くせぇ」
そう言うが早いか邦博が再びごろんと横になる。
実際あれこれ考えるのは性に合わない。
横ではまだすばるとウルトリィが唸りながら考えていた。
98
:
考える人
◆rkFpeT0nBo
:2005/06/27(月) 03:20:16 ID:XO8u3TlM
「爆弾――解除――ゾリオン……」
知っている限りの連想ゲーム。
ゾリオンは爆弾に信号を送って爆発させる。
恐らくその仕組みは篁が爆弾を爆発させる仕組みと同じだろう。
「……ぱぎゅう」
考えれば考えるだけドツボに嵌っていった。
だけど待機組の自分たちに出来るのはその考えることくらいだった。
「爆弾からも信号が送られ受信して……」
しかし決め手に今ひとつ欠けていた現在では答えが出るはずもない。
考えて考えて考え抜いたが答えは出なかった。
でも、一つだけ気が付いたことがある。
「ミコトちゃんだけは何があっても逃がしてあげまちゅの」
考えるのに疲れたすばるはまたみことで遊び始める。
向こうに予定外のミコトなら、存在が確認されていないミコトなら、この地獄から逃がしても気付かれることはないだろうと。
この島と関係のないミコトは何があっても逃がしてあげるんだと心に決めて。
「あ、バックに位置を知らせる魔法がかかっているとかどうでしょう?」
数テンポ鈍い上に見当違いの答えを思いついたウルトリィを残して時間は刻々と過ぎてく。
99
:
考える人
◆rkFpeT0nBo
:2005/06/27(月) 03:20:56 ID:XO8u3TlM
【001 浅見邦博 身体能力増強剤(効果30秒 激しいリバウンド 2回使うと死ぬらしい)パソコン、
レーダー(25mまで) フィルスソード(光の矢制限7回、シャインクルス制限残り3回)】
【086 御影すばる 所持品:新・宗一の手記 トンファー、グレネード(殺傷力は無し。スタン&チャフ効果)、
小スケブ、ペン、似顔絵(うたわれキャラ&自分と邦博含むアビスチーム)、あさひのサイン】
【009 ウルトリィ 状態:聴覚麻痺 所持品:ユズハの服、ハクオロ?の似顔絵、毛布2枚(船内にも何枚か有り)
ミコト、キーホルダー、食料5日分 ペットボトルのジュース】
【場所:アビスボート】
【時刻:三日目午前十一時頃】
100
:
経験に基づく殺戮思考
◆8hdICkl0Eo
:2005/07/01(金) 01:02:41 ID:GH4odJvU
「痛っ……くそ、我ながら油断したな…」
焼け付くような頬の痛みと、実際に多少焼け付いてる全身の鈍痛が鬱陶しい。
思えばこの島に来てから結構な数の人間を撃ってきたが、自分が撃たれたのはこれが初めてだ。
今まで通りの生活が続いていれば、どちらもまず有り得ない体験だったに違い無いだろう。
……それにしても奴等、追って来ない。
こちらは這々の体であの場を逃げ出した──こう表現するのも情けないが──いわば傷ついた獣だ。
光岡か、カミュか、皐月か。最低誰か一人は追って来ると思っていたのだが、どうやらそんな気配が無い。足音なども聞こえない。
自分達の傷を治す事に専念しているのか、それとも俺が殺した女を弔ってでもいるのか……まあ、考えた処で判りはしない。
ただ言えるのは、『気配を消す装置』の奪取に成功した今、この猶予は絶好の機会だという事だ。
「取り敢えず、まずは傷の手当をしないとな…」
バッグから装置を取り出す。
四角い箱に、飾り気の無いスイッチが一つ。これが起動スイッチと見て間違い無いだろう。
特に感慨深くなる事も無く、スイッチを押す。
当然ながら自分の周囲に変化は見られなかったが、おそらく今、自分の気配は「消えて」いるのだろう。
後はなるべく目立たない位置に身を隠して、自分の傷の治療に専念すれば良い。
新着レスの表示
名前:
E-mail
(省略可)
:
※書き込む際の注意事項は
こちら
※画像アップローダーは
こちら
(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)
スマートフォン版
掲示板管理者へ連絡
無料レンタル掲示板