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73 ◆nr2udSZYcI 作品

122名無しさん:2005/05/11(水) 12:02:25
「…ほんとにアンタ、変だよ。…じゃあいいよ、美貴がするから」

藤本はコタツの上に置いてあった携帯を手にとって、慣れた手つきでボタンを押した。
耳に押し当てられた携帯から微かに漏れる呼び出し音が1つ、2つ、鳴る。
3つ、4つ。
後藤は出なかった。
5つ、6つ―――その音はただ無情に積み重なっていく。

「あれ、出ないな…」

藤本は首を傾げて携帯を見つめながら電源を切った。
まるでそれがスタートの合図であったかのように、気づいたら僕は玄関に駆け出していた。

「ちょっと、どこ行くの!」
「外、見てくる!」
「外って…」

亜弥ちゃんが呆れるのも、もっともだ。
外といったところで僕に行く当てがあるわけでもないし、そもそもこんなに焦って後藤の行方を捜すような必要などまるでないのだ。
しかし僕はそうせずにいられなかった。
いつもより少し帰りが遅いことも、携帯に出ないことも、この静かに降り続く雨も、全てが嫌な想像に繋がってしまう。

そして何より、今朝、後藤が言っていた事。

”なんかね、この先もずーっとこういう風に暮らしていくんだと思ってた”

後藤がやけに穏やかに笑っていたのを思い出す。
そう願えば願うほど、それはあまりにも脆く呆気なく砕け散る事を僕は知っていた。


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