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0さん以外の人が萌えを投下するスレ

1萌える腐女子さん:2005/04/17(日) 10:27:30
リロッたら既に0さんが!
0さんがいるのはわかってるけど書きたい!
過去にこんなお題が?!うおぉ書きてぇ!!

そんな方はここに投下を。

923-879の3:2005/10/03(月) 23:17:20
 いつもは1時間ほどで終わる施術なのに、俺が散々いじり回していたおか
げで時計の針が30分ほど進んでいた。
「ずいぶん時間を掛けてくれたんだね。次のお客さんの予約は大丈夫?」
と自分のことはさて置いて俺のことを心配してくださる心遣いがとてもうれ
れしい。それなのに、これでしばらく会えないと思うとミューゼル様のお相
手の…たぶん女性なんだろうな、それもミューゼル様にお似合いの美人の、
会ったことも無いその彼女が俺は憎らしくて、思わず「髪伸ばさないで下さ
い」と言いそうになる。
「このまま伸ばしていってもスタイルが崩れないようにしたつもりですが、
お帰りになってどこか気になるところがあったら遠慮なくご来店ください。
すぐ手直しいたしますから」
喉元まで出掛かっていた言葉を修正して吐き出した。預かっていた手荷物を
渡し、会計のためにレジを操作する。
「どうもありがとう。しばらく来れないけど、お店が繁盛することを祈って
るよ」
と笑顔と共に店を出ようとしたミューゼル様を、
「あ…あの!」
と引き止めていた。
 「ん? 何か?」
と出入り口の扉に手を掛けていたミューゼル様の動きが止まる。

 言え。ここで言うんだ。「3ヵ月後の同じ日に予約入れておきますから来
てください」って。「あなたが好きなんです。だからこれからもずっとあな
たの髪を切らせてください」って。そうすればまた会えるだろ、と自分の中
で悪魔が囁く。
 いや、駄目だ。言ってはいけない。言えばきっとミューゼル様は店に来な
くなるし、まるでミューゼル様の願掛けが失敗するのを願っているみたいじゃ
ないか、ともう一人の自分が必死に抵抗している。
 数秒の葛藤の後、俺の口から飛び出した言葉は。
「あの…願いが叶うことを祈ってますよ」
 馬鹿だ、俺は。美容師の営業活動としても失敗してるし、自分のミューゼ
ル様に対する個人的な想いを告白することにも失敗してる。これじゃ退店し
ようとしていたミューゼル様を引き止めた意味がないじゃないか。
「応援してくれてありがとう。それじゃ、いつかまた…」
俺の心の苦悶には気づかないまま、そう言って片手を挙げて振りながら去っ
ていくミューゼル様。
 俺はミューゼル様の姿が見えなくなるまでその場に立ち尽くしてしまい、
次のお客様を長時間待たせていることに気がついた店長に後ろから頭を叩か
れるまで、だんだんと小さくなっていくその美しい金髪の後ろ姿をじっと見
つめていた。

933-879の4:2005/10/03(月) 23:18:47
 あれからミューゼル様は本当に予約の電話を掛けてこなくなった。ご自分
の願いが叶うその日まで店には来ないはずだから納得はできるが、あの美し
い金髪の感触はとても忘れることができず、俺の気持ちは落ち着かないまま
だ。毎日何人ものお客様を相手に鋏を振るうが、常連客を含め飛び込みで
入ってきたお客様の中にも、ミューゼル様と同じ髪質の持ち主はいない。
 最後に来店されたときに切った髪の毛の一部をこっそり持ち帰って正解
だったと思う。間違って捨ててしまったり、風に飛ばされて無くなったりし
ないように、ぱっと見た感じではそうとは見えないような形のシルバーのロ
ケットを購入してその中に持ち帰った髪の毛を入れ、それを自宅の鍵をつけ
ているキーホルダー金具につけたのも我ながら名案だった。禁断症状が出そ
うになったときや、性欲が溜まって自己解消させるときにそれを握ってあの
人のことを思い出す。仕事中にも難しい施術を行うときの前にスラックスの
ポケットに入れたそのロケットキーホルダーを握ることでどうにか俺は苛立
ちを抑えている。そうでなければ俺は今頃ミューゼル様に会えない寂しさに
荒れ狂い、その苛立ちをお客様の髪にぶつけて、注文された髪型とは違う滅
茶苦茶な型にしていたことだろう。
 しかし、その自分の中での「疑似行為」ももはや限界に近い。当初は1日
1回、それも朝自宅を出る前だけだったのがだんだんと回数が増え、今は10回
を軽く超えている。時々直接触って確かめていることもあるからなのか、ロ
ケットの中の短い髪も時間が経つにつれて劣化していて、持ち帰ったばかり
の頃のあの艶や手触りはもう失われている。
 このままじゃ顧客名簿の中から住所を探して場所を割り出し、ご自宅に押
しかけて髪を触るべくミューゼル様を襲いかねない、と自分自身でも寒気が
するほど嫌なことを思い始めた矢先のことだった。あれから3年経っていた。

 強い雨の降る日だった。この店では当番制で閉店作業を行うことになって
いて、その日は俺がその当番だった。汚れたシャンプー台や鏡、スタイリン
グチェアーなどの掃除をしたり、消毒器に使用済みの器具を入れたり、洗濯
の終わったタオル類を乾燥機に移しかえたりと、美容院は閉店後もやること
が多い。慣れた作業とはいえ疲れるなと思いながら2時間掛けて店の隅々まで
きれいにした後、照明を消して鍵を掛け、表のシャッターを下ろしたその時
だった。
「こんな時間に予約も無しに来て申し訳ないが、髪を切ってもらえないだろ
うか?」
後ろから声をかけられた。
 聞き覚えのある声に振り返れば、この土砂降りの中を傘も差さずに立って
いる人がいる。俯きがちの顔を隠すように垂れた長い金髪がぐしょぐしょに
濡れていて、長い時間雨に打たれていたことが良く分かる。
「申し訳ありませんが、もう店内清掃を済ませてしまいまして…。もしよろ
しければ今ご予約だけ承りますので、明日ご来店いただけないでしょうか?」
と照明を消す前に見た明日の予約リストの空き時間を頭の中で探しながらそ
う伝えると、その人物は突如自分の両肩を掴んで、俯いていた顔を上げて俺
の顔を見た。
「今日でなければ…、今日でなければ駄目なんだ。代金なら倍払っても構わ
ないから、頼むから私の髪を切ってほしい」
 雨で身体が冷えているのか、眼が泣き腫らしたように赤くなっているから
なのか、声がかなり震えている。
 俺が今いちばん逢いたい人の顔がそこにあった。ミューゼル様だった。

94ひでぶ:ひでぶ
ひでぶ

953-879の5:2005/10/03(月) 23:21:26
 「そのままではお身体が冷えますでしょう? 狭い風呂場で使い勝手が悪
くてすみませんが、とりあえずシャワーを浴びて身体を温めてください」
 店とは違って必要なものが何でも揃っているわけではないが、ときどき友
人にカットモデルを頼むこともあり、俺の部屋にはそれなりに道具が揃って
いる。また2時間かけて掃除をするのも嫌だったし、黙って店の道具や消耗品
を使うと後で店長に説教されると思ったので、俺は店からそれほど離れてい
ない自分の小さなアパートにミューゼル様をお連れした。
 ミューゼル様の髪のカットに必要な道具をテーブルの上に揃え、床にはビ
ニールシートを敷く。
 今日髪を切らなければならないミューゼル様の事情はどうあれ、あの素晴
らしい髪にまた触れることができるのだと思うと、自然と気持ちが舞い上が
る。久しぶりだからできるだけ丁寧にカットしよう。カットした後で床に落
ちた髪を、ロケットのものと交換してもいいだろう。しかも今日は次のお客
様もいないし、ここは自分の家だから小言の多い店長や施術中にイタズラで
邪魔をしてくる先輩もいない。ミューゼル様のお時間が許す限り好きなだけ
触ることができるし、うまくいけばその先の展開もあったりして…なんてな。
その場で小躍りしたい気持ちを抑え、俺は準備をしながらミューゼル様が風
呂場から出てくるのを待った。

 さすがにスタイリングチェアーは自宅にないので、いつも友人の髪をカッ
トするときに使っているテーブルセットの椅子をビニールシートの上に持っ
てきて、そこに座ってもらう。
「さて…今日はどのように致しましょうか?」
「君に任せるよ。うんと短くしても構わないから」
ということは、願いは叶ったんだろう。嫌なことを思い出してしまったと思
いながらも、
「それでは…トップは○センチ、サイド○センチで…」
と今のミューゼル様に似合いそうな髪型のイメージを伝える。頭の中のイ
メージではそれでも微妙に似合っていないような気がしたが、現状ではそれ
しか思いつかなかった。「…とこんな感じでカットしますね」とテーブルの
上のカット鋏を右手に握り、その長い髪を一房手に取った瞬間。
「……う……ぅっ…」
それまで笑っていた鏡の向こうのミューゼル様の顔が、不意に曇ってくしゃ
くしゃになる。口元に手を当て、嗚咽が漏れるのを防ごうとしているみたい
だが、指の隙間から聞こえるその声と、目元から落ちる涙が気になって仕方
がない。鋏を入れている途中で首を曲げたり、身体を動かされたりするとき
ちんと長さが揃えられないため、肩を震わせて泣いているこの状態のままで
は施術を始めることができないのだ。俺は握ったばかりの鋏をテーブルに戻
して聞いてみた。
「どうしたんですか? 願いが叶ったから、髪を切りに来たのではないので
すか?」

 「叶ったことは叶ったんだ。だが…振られた。というか、捨てられた」
「おっしゃっていることがよく分からないですよ。そういえば…今日どうし
ても髪を切らないといけないって店の前で伺いましたが、何か特別な事情が
おありだとか…?」
人前で男が泣く、それも…それまで年に4,5回会うだけだった一介の美容師に
3年ぶりに会って、そのまま髪を切りに来た状況で泣くだなんて、よほどのこ
とがなければあり得ない。俺はミューゼル様の姿を映していたスタンドミラー
の前に回ってひざまずき、
「差し支えなければ話していただけませんか? この3年間に何があったのか。
他の誰かに話したりはしませんし、ミューゼル様がお話できる範囲で構いま
せんから」
と真剣な表情で話しかけると、
「確かに願いは叶った…」
と少しずつ、店に現れる前にもずっと泣いていたからなのだろう、いくらか
かすれた声で、
「好きな人に自分の想いを伝えることもできたし、それを伝えた当初は幸い
にも相手も同じ気持ちを自分に持っていると思った…」
ミューゼル様は話し始めた。

963-879の6:2005/10/03(月) 23:22:58
 1時間近くに及ぶミューゼル様の話を要約するとこういうことらしい。
 ミューゼル様のお相手はご自分の勤める会社に中途採用で入ってきた人で、
慣れるまでの間のサポート役としてミューゼル様が仕事の内容についてその
人を指導していた。朝から晩までほぼ1日中顔をつき合わせて仕事を教えて
いるうちにミューゼル様はその人に対していつのまにか恋心を抱くようにな
り、その人が勧めてくれたこともあって願掛けのつもりで髪を伸ばすことに
した。それがちょうど3年前、最後に髪を切りに来てくれた頃に当たるようだ。
 お相手の人が「このくらいの長さからが好み」と言った、襟足でひとくく
りにまとめられるくらいの長さになった1年半後、ミューゼル様は自分の想
いを告白した。受け入れられるかどうかとても不安だったが、どうやら相手
も自分と同じ気持ちだったらしく、他に何の障害もなかった為そのまま2人
は交際を始めたそうだ。ところが、付き合い始めて3ヶ月ぐらい経った頃、
ミューゼル様は自分の想いを胸に秘めていた頃には考え付かなかったことで
悩むことになった。

 その悩みというのが、交際相手の人がとても独占欲が強い上に自分の思い
通りにならないとすぐミューゼル様に不満をぶつけてくるタイプの人であっ
たこと。その上何かとミューゼル様を「束縛」したがる人だったらしい。最
初は優しく接してくれたその人が少しずつ本性を現し始め、気がついたとき
には既に遅かったとのこと。ミューゼル様は従順な奴隷として接しなければ
ならず、嫌な仕事や雑務は全てミューゼル様任せ、その仕事振りすら気に入
らないときは手枷や足枷で身動きを封じられ「お仕置き」と称して叩かれた
り蹴られたりしたそうだ。そんなに邪険に扱われながらもミューゼル様はそ
の後にお相手から与えられる「ご褒美」がうれしくて、嫌な顔ひとつせずそ
れらの「お仕置き」に耐え、その人を喜ばせるべく時には危険を冒してまで
その人に言われた「命令」に従っていた。
 しかし、俺から見ればある意味常軌を逸脱しているのではないかと思える
「幸せな交際」が破局したのはつい昨日のことだそうで。3日ほど前にお相手
の人に電話呼び出されたミューゼル様は、指定された場所に向かった。いつ
ものように手足を拘束されて「お仕置き」されるのだろう。どんな「お仕置
き」だろうと、その後の「ご褒美」のことを考えれば耐えられると思ってい
たのだが。

「レイプされた。それも、自分の勤めている会社の社長が遣わした者数名に」
ミューゼル様は俺と同性の男だ。なのに、レイプって何だよ。社長が派遣し
た奴って何だよ。俺は頭が混乱したまま続くミューゼル様の言葉を聞く。
「企業スパイだったんだ、私の交際相手は。私はその人の代わりに自らの手
を汚して社内の機密文書やまだ開発中だった極秘プロジェクトの企画書を入
手し、命じられるままにその人にそれらの書類のコピーを渡していた。その
人はそのコピーを、私の勤めている会社とは対立関係にあるライバル会社に
横流しすることで不当な報酬を得ていたようだ。その会社はに横流しされた
書類を使うことで私の会社を倒産に追い込み、それが一因となってで私と私
の交際相手による背任行為が会社に暴露された。私とその人はその責任を追
及されることになったが、社長に指定され事件の全容を釈明するはずだった
内部調査報告会の日に相手は逃げて行方不明になってしまった。きっと自分
の罪を私に全て被せるためだったのだろう、社長の話ではその人が社長に密
告したらしい。だから私はその人の代わりに懲戒解雇と、社長の見ている前
でのレイプという形で全責任を取らされた」
そんなひどい話はあり得ないし、考えたくもない。それでも自分の目の前に
座っているミューゼル様はそれを経験してきたのだ、掛けるべき言葉を見失
い、俺はその場に座り続ける。

973-879の7:2005/10/03(月) 23:31:27
 「そんなになっても私はその人を信じ続け、その人が自分のところへきっ
と戻ってくると信じて疑わなかった。しかし、その…彼は…『お前は所詮俺
の道具、それも使い捨ての道具でしかない。お前にやってもらうことは全て
終わった。これでもう用が済んだから、お前はもう必要ない』と言って私を
裏切り、私を捨てた」
「彼」? 「彼」だって?! 確かに俺もミューゼル様に対して邪な想いを抱
いてはいるが、同じ男としてミューゼル様が話してくれたその男の行為は到
底許せるものではない。
「私がレイプされている間にその人は住んでいたアパートを引き払い…、唯
一の連絡先だった…携帯電話の番号を、今日から着信…拒否にされてしまっ
て……」
そんな衝撃的な告白をさせてしまったことが申し訳なくて。
「それでも彼を愛してる自分が情け…なくて…、自分でも許せなくて……」
どう受け止めたらいいのか分からなくて。
「だからせめて…あの人が…好きだといってくれた髪を切れ…ば…、忘れら
れるんじゃないかと思ったから……」
「ミューゼル様!」
思わずその身体に抱きついていた。

 一切の抵抗をしなかったことでその男の暴力的な愛を必死に受け止めてき
たミューゼル様の髪を撫でる。きっとその彼氏やミューゼル様をレイプした
奴らが散々引っ張ったり、蝋を垂らしたり、火で炙ったりと相当酷い扱いを
したのだろう、時間が経って少し乾いてきたあの美しかったはずの髪はひど
く傷んでいた。あちこちから切れ毛や枝毛が飛び出していて、触り心地は俺
のロケットの中の髪と同じぐらいに最悪のものだった。
「もういいですよ、ミューゼル様」
聞きたくなかった。これ以上この人の穏やかな口調の、しかし悲痛極まりな
い叫びを俺が聞けば、この人の心は粉々に壊れてしまう。そう思った俺は髪
を撫で続けた。
「なるべく早く…切って、しまおうと……」
こんなことでこの人に笑顔が戻ってくるとは思わなかったが、
「もう話さなくて結構ですから…!」
この人の受けた心の傷が癒されるとは思わなかったが、
「ミューゼル様の髪は、私がちゃんと元通りにして差し上げます。必ずです」
それでも俺は髪を撫で続ける。
 このままキスしてしまいたい。いっぱいキスして、髪だけでなく身体中を
撫で回して、その男から受けたミューゼル様の「傷」を少しでも消してしま
いたい。
「今日私がこのまま髪をカットしたら、なんだかものすごい失敗をしてしま
いそうで怖いです。ですから、今日はトリートメントで髪に栄養分を補給し
て、今度改めて髪を切ることにしましょう」
そう思う気持ちをぐっと堪え、ミューゼル様の背中に回していた腕の力を強
めて耳元に囁いた後、俺はトリートメント剤を作るべく立ち上がった。

 「たとえ失敗したって3ヶ月経てば髪が伸びるからそのときに修正してく
れればいいから」とミューゼル様は言ってくれたが、まだまだ未熟なこんな
俺だって美容師の1人だ、失敗しそうだと分かっているときに無理な施術を
したくない。そう思ってできるだけ丁寧にトリートメントを施し、洗い流し
てブローをした。すると。
「……これが、私の髪なのか?」
 3年間他人に気を遣うことに精一杯で自分のことは何一つ気に掛けなかった
その髪の持ち主が驚いていたのは仕方ないとして、たった1度のトリートメ
ントでは無理だろうと思っていた俺もびっくりした。かつての手触りの良い、
適度な柔軟性とコシを持ち合わせた、あの美しい金色の髪がそこにあったの
だから。 
「え、…ええ、これがミューゼル様の髪です。2週間後にもう一度トリート
メントをすればもっと綺麗な髪になりますよ」
そう言って俺は、スタンドミラーの向こうで驚いたままの人物に顔を近づけ
て笑いかけた。
「私は短い髪のミューゼル様しか拝見したことがありませんでしたが、こう
して見るとミューゼル様は長い髪もよく似合いますね」
「本当にそう思う?」
「ええ」
「そうか……」
相変わらず目元は赤くなっていたが、ミューゼル様の表情がそれまでの曇った
感じから一転し、かつての快活な感じが戻ってきたかのように見える。

983-879の8:2005/10/03(月) 23:32:47
 カットクロスとタオルを外し、預かっていた手荷物を渡す。ミューゼル様
の着衣はまだ濡れていたのでサイズが違うが俺の服を貸すことにした。
「お時間がございましたら、そのときにカットとトリートメントをさせてい
ただきますので、ぜひ2週間後に店の方にご来店ください。それまでには
ミューゼル様にぴったりの髪型を考えておきます」
と言って玄関へ送る。
「…あ、そうか。代金を」
と玄関扉の前まで来たときにミューゼル様が振り返るが、
「い、いいえ、お代は結構です。わざわざ自宅まで来ていただいたのに、ト
リートメントだけでカットできなかったし、店と違って何かと不自由にさせ
てしまいましたから」
と慌てて言った。
「しかし、トリートメント剤だってそんなに安いものではないのでは…」
「あれは自分が使うのに社員販売割引で店から分けてもらってるものです」
「…こちらが無理やり押しかけて、君の貴重な時間を潰してしまったし」
「貴重な時間だなんてそんな…。店から帰ったら食事して風呂に入って寝る
だけですよ」
しばらく玄関先で押し問答が続いていたが、そのうち俺は金ではないもので
支払ってもらう方法を思いついた。

 「分かりました。では少しだけいただきます」
「いくら払えばいい?」
と財布を出そうとするミューゼル様の手を握って制止した後、腰に手を回す。
そのまま顔を近づけ、ミューゼル様の唇に自分の唇を合わせた。
「ん! …ぅ…っ」
もう片方の手で髪を撫でる。
「…く、……う…っ、ふ…」
頭のどこかで警鐘が鳴っていたが、止まらなかった。
「…う…ん、っん」
舌先で唇の表面をなぞり、撫でていた指の間に髪を梳き入れ、軽く握りこむ。
指先から伝わってくる感覚に気分が高揚しすぎて、身体中が痺れるような気
がしてくる。
「……ぅ…、…く…はっ…」
次第に俺の方が息が苦しくなってきて、これ以上キスしていたらうっかりそ
の先に進んでしまいそうで、慌てて口付けを解いた。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「はっ、はっ、は…」
互いの荒い息遣いが狭い玄関先で交差する。
「ありがとうございました。お気をつけてお帰りください」
呼吸音が元に戻った後、そう言って俺は玄関のドアを開けミューゼル様の帰
宅を促す。何か言おうとしていたみたいだったが、何も言わずミューゼル様
は俺のアパートを出て行った。

993-879の9(終):2005/10/03(月) 23:34:09
 足音が遠ざかっていく。完全に俺の耳に聞こえなくなった瞬間、
「やっちまった…」
俺はその場にへたり込んだ。
 俺は、自分の想いを告白することでミューゼル様を傷つけるようなことは
したくない。そう思ってミューゼル様に抱いている感情をずっと自分の胸の
中だけに留めておいたが、さすがに今日の話を聞いていたらなんとかして差
し上げたくなった。これからは俺が傍についてると、俺がミューゼル様をお
守りすると伝えたかった。前の彼氏とやらと同じことをすれば更にミューゼ
ル様は傷つき、絶望するだろうと思ったから、できるだけミューゼル様が傷
つかない方法を取ったつもりだったが、何も言わず出て行ったことを考えれ
ばそれなりに俺に失望したのかもしれない。
 2週間後に来てほしいとは伝えたものの、ミューゼル様はきっと店には来
ないだろう。思い出したくない過去の話を話させたばかりか、話したことで
情緒不安定になっているときに、その心の揺らぎにに付け込んで俺がミュー
ゼル様を騙したのだ。もしかしたら俺が原因で人間不信に陥るかもしれない。
俺とのキスが昔の彼氏とのことを思い出させてしまう可能性もある。
「ミューゼル様、申し訳ありません…」
俺はポケットの中のキーホルダーを握りしめ、もう2度と会えないであろう
幻に謝罪した。

 「それじゃお先に失礼します」
「ああ、お疲れ様。また明日な」
その日の仕事が終わった俺は、いつものように店長や先輩に挨拶して店を出
る。家に向かう途中のガソリンスタンドで適当に食料を買う。
 さて、今日は何を食べようか…と考えながら自宅の前まで歩いてくると、
誰かが自分の部屋の前に立っているのに気がついた。深めに帽子を被っては
いたが、肩にかかる金色の髪でそれが誰だかすぐに分かる。
「店の制服には名札はついていないし、ときどき配達されるダイレクトメー
ルにも書いてなかったから今まで知らなかったが…君の名前はジークフリー
ドというのだね。表札を見て初めて分かったよ」
「み、ミューゼル様! どうして…」
俺は信じられなかった。あんなことをしたにもかかわらず、ミューゼル様は
笑顔でそこに立っている。
「借りた服を返しに来た」
「そんな…そろそろ処分しようと思っていた服だから返さなくていいと申し
ましたのに」

「服を返すためだけに来たのではないよ」
「え?」
そこまで言うとミューゼル様は急に口ごもり、俺からの視線を逸らす。
「約束だったし、その…店には行きにくくて、だから、あの…」
頬が薄く染まっているのは、気のせいだろうか。
「トリートメントとカットを…お願いしようと思ってね。それで代金は…あ
の…、何といえばいいか、その……」
そういえばあの雨の日から数えて今日がちょうど2週間後だったな…と思い出
した。
「かしこまりました。狭いところでなにかと設備が不十分ですがどうぞお入り
ください」
俺は心の中でガッツポーズを取った。顔がにやけそうになるのを必死にこらえ、
玄関の鍵を開けてミューゼル様を先に部屋の中に通した。

====================
書き込まれたお題を見た瞬間某OVAの主人公が頭をよぎってしまい、
受の名字はこれかもう1つしか考えられませんでした…orz
あちこちおかしい部分があるけどその辺はスルーしていただければ幸いです。

100萌える腐女子さん:2005/10/09(日) 03:39:04
本スレ1000ではないが、リク被りで折角の999のリクが流れたままなのは惜しいので、投下します。
リクした瞬間お流れじゃ悲し杉。

101本スレ999のリク:2005/10/09(日) 03:47:58
恋は本屋さんで―の御題



本というのはそれ自体、編集者と執筆者の緊張した恋の駆け引きの産物とも言えるわけだが。


時には、古本屋の奥の書棚にひっそりと隠された恋もあって、其を手にした青年を引き込む事もある。
其も、あまり誰も手に取らないようなお難い哲学の学術書なんかにそっと誰かが書き込んだ苦しい想いとか、
或いはページの間に密かに挟み込まれた恋文の様な栞とか。
其を見付けた青年はドキドキしながら、暫く前の所有者に想いをはせ、其の本を慌ててまた書棚に戻す。
数日後、青年が再び本屋に訪れると、予想通り其の本はまだ売れずに残っている。
そっと広げる。
と、どうした事か以前には無かった筈の別の書き込みや、新しい栞がはさまれていたりする。
誰か自分の他にこの本を手にした者がいるのだと、よけいに胸を騒がせながら新しい書き込みを読んでみると、其がどうやら自分に宛てて書かれたものの様な気がしてきて、頬を染めながらまた本を書棚に戻す。
次の日も、また次の日も、また新しい書き込みが見付かり、青年は其が自分宛てではとの疑念を益々強くする。
そして、誰かが、この本を手にしている自分を見ていてこんな事をしているのか、こんな古風な通信手段を使うのは一体どんな奴だと思いながら、たまらなく心惹かれていく。

其の書き込みの主は、こうして、出会う前からもう恋に落ちてしまった青年を、果実の如く実の熟すのを待って、自分のものにするだけだ。

102萌える腐女子さん:2005/10/09(日) 04:47:25
自分もPart3スレ999でも1000でもない上、
タッチの差で>>100姐さんに先を越されてしまったのですが、
萌えられるだけ萌えてみたので投下してみます。
お題は「恋は本屋さんで売っている」です。
==========
最初のきっかけは本屋の店員がお客にぶつかるところから始めようか。
ぶつかった拍子に整理中の本ぶちまけて、それを拾ってもらうついでに
「○○っていう本ありますか?」なんてお客が言い出して。
お客が探してた本は専門書だから当然店には置いてないんだけど、
店員はそれが専門書だなんて知らないから棚の隅々を必死になって探すわけだ。
お客はお客で他の店で棚の在庫も見ないで「そこに無ければ無い」なんて
ぶっきらぼうに言われて仕方が無くてこの店に来たんだけど、
一所懸命に探してくれるその店員の姿にじーんときちゃう。
結局その本見つからないからその店で取り寄せてもらうことになって、
それが縁でお客は足しげく店に通うようになる。

最初はお客は自分が探してる本があるかどうか確認するためにその本屋に行くんだけど、
毎回その店員が探してくれて、でも結局見つからないから毎回取り寄せになって。
いつも探させるの悪いなぁ、取り寄せてもらうの悪いなぁなんて思うようになって、
来たついでに他の本を買うようにしてみたり、
その店員が書いたお薦めPOPがついてる本を買ってみたり。
店員は店員でいつも見つからなくて悪いなぁ、
取り寄せで待たせちゃうの悪いなぁなんて思うようになって、
これまでお客が取り寄せた本やついでに買った本の傾向をさりげなくチェックして、
ジャンルが似たような本を紹介してみたり、好みに合いそうな本を読んでPOP書いてみたり。

そのうち店員の気を引くためにはどうしたらいいかお客が本気で考え出しちゃって、
必ずしもそれが当てはまるわけじゃないのに
恋愛テク本とか恋愛相談本の、それも男女間恋愛のやつとか買い始める。
それ見た店員がお客に好きな子できたのかと勘違いして、
心で泣きながら顔に出さないで最近良く売れてて自分も読んだことがある
その手の恋愛テク本を薦めてみる。

最後は店員が薦めてくれたその恋愛テク本に書いてあったとおりの必勝法の1つ、
「自分がプレゼントしてでも好きな人に読ませたい本」をお客が買って、
それをそのまま店員にプレゼントしちゃう。それでお互いの気持ちにやっと気がつく、と。
==========
こんなところでいかがでしょうか、Part3スレの999姐さん?

103萌える腐女子さん:2005/10/09(日) 14:35:27
29に出遅れたのでこっちに投下。
-------------------------------
「ぅあー……。」

半ば押し付けられての出張で人生初めての大阪に降り立った俺はうんざりとした声を上げた。
広さ的には東京駅の方がはるかに広いのだろうが不慣れな分やたらと広く見える。
在来線の名前も見慣れないからどれがどれだかわからない。

「環状線ってどこだよ!」

表示を見ながら構内をうろついていたがそんな文字はどこにもない。
出張を押し付けられた苛立ちも手伝ってつい大声を出していた。

「環状線はこっから出てへんよ。一旦大阪まで出な。」

背後からやわらかい関西弁が聞こえた。関西なんだから関西弁で当然か。
振り向くと人のよさそうな笑みを浮かべた男が立っていた。

「あー…そうなんですか。どうも…。」

一人で叫んでいるところを聞かれた気まずさも手伝って曖昧に答えると男は俺の手を引いて階段に向かう。

「こっちやで。こっからどの電車乗っても一駅で着くし。着いたら環状線って矢印あるからそれ見てけばええわ。」
「はい…。あの、どうもご親切に……。」

ああ、大阪はまだ義理人情が残ってるんだなあ。東京じゃ迷ってようが何しようが誰も助けてくれねーぞ。
電話で話した大阪支社の奴が「東京もんは冷たい」と言っていた理由がわかった気がした。

「環状線てどこ行くん?」
「天王寺です。そこからまた乗り換えて堺に……。」
「天王寺なあ。あそこもややこしいし、ちょぉ書いといたるわ。えーっと紙紙……。」

男は鞄を探って名刺入れを取り出すと名刺の裏にご丁寧にも何番線、何駅下車、何番出口と書き付けて渡してくれた。

「ほな急ぐし」と去っていった男の名刺を見てああ、自分の名刺も渡せばよかった、と後悔した。
まあいいや、しばらく滞在するんだし。週末にでも電話をかけてみよう。

ホームに滑り込んできた電車に足取り軽く乗り込む俺はいつの間にか笑みを浮かべていた。

10470/ 50代×30代:2005/10/12(水) 18:05:00
「70年安保の頃?馬鹿な。私はノン・ポリだったんだよ。都市革命論なんてあり得ないってのが持論だったからね。」

彼の話を聞くのが好きだ。
それは越えられない20年の時の壁を感じさせるけれども、僕の知らない彼の、まだ若く生き生きとしていた時代の光を、感じさせてくれるから。

「でも、結構大学では有名だったって噂に聞きましたよ。」
「ああ、あれは他の大学の奴らが、うちの大学に乗り込んで来てね。革丸だか中核だか、知らないが、私の尊敬していた教授を取り囲んで吊し上げようとしたんだ。だから頭に血が昇って、怒鳴って、暴れて蹴散らかしてしまってね。それで一躍大学では有名人さ。武闘派の右翼だって、勘違いされたよ。」

「その教授が好きだったんですか?」
「いや、尊敬してた。それだけだよ。」

ちょっと嫉妬に駆られた僕の気持ちを、彼は何時も敏感に察知して僕の頭を撫でてくれる。
「好きだった人はいない訳じゃないけれど。それは今の私達には関係ないことだろ?」
優しく笑い掛けられて、僕は彼の胸に顔を埋める。

彼の話をもっと、もっと聞いていたい。
それは、どうしても僕の手の届かない若い頃の彼で、その時代そのものにさえも、僕は嫉妬せずにはいられないのだけれど。

105私を踏んでください―1/2:2005/10/15(土) 05:32:24
109で無理矢理萌えてみた。お題たどり着くまでちょっと長し。




降り止まぬ雪で、町が埋もれ始めていた。

小さな民宿では、帰り損ねた30前半の男性客がたった一人、聞き慣れぬ雪の軋む幽幻の様な密やかな音に、四方八方を取り囲まれて、眠れぬ夜を過ごしていた。


酒を呑んでもいっこうに酔いは回らず、暖房を強くしても冷気が部屋に染み込んでくる。
どこか窓でも開いてるのかと、部屋を出て戸締まりを確認すると、はたして二階にある玄関のドアが僅かに開いて風が吹き込んでいた。

主人が締め忘れたのかと、忌々しく思いながらドアを閉めようとすると、
隙間から、するりと白い手が入って来て、冷たい細い指が男の頬を撫でた。

びっくりして、数歩飛びさがると、ドアが表から大きく開け放たれ、その手の主が入って来た。

ぬけるような白い肌に端正な顔立ち、後ろで一つに束ねられた長い黒髪、均整のとれた細身の体を着流しの着物一枚に包んだ二十歳前後の若い男だった。

それが、若い男でなかったら伝説の雪女を思い浮かべたであろう。その姿は、幽気を漂わせ、息を呑むほどに美しかった。

男が、眼を見張り、立ちすくんでいると、体にすがりつく様にしてその若者が倒れ込んで来た。
思わず、抱きかかえた。
と、男は、その若者の体の異様なほどの冷たさに驚いて、初見した時の恐怖を忘れ、抱き締めてその背中を摩った。

今度は、若者の方が驚いた様に尋ねた。
「私が、恐ろしくないんですか?」

「そんな場合か!凍えきって!」
抱き上げて部屋に運ぶ。
「あ、あの、私は貴方を…その…」
戸惑う若者に構わず、男はその髪を撫で、体を摩り続けた。


しかし、その体はいっこうに温まらず、冷気は男の体をも凍り付かせてゆく。

「離してください…。貴方が…死んでしまう。もう、わかったでしょう?私は…」

それでも、男は抱き締める腕を少しも弛めず、愛しむ様にその体を撫で摩り、
凍える唇を震わせながら答えた。

「いいさ。寂しかったんだろう?…お前。ずっと独りで寂しかったんだろう?」

若者の眼からはらはらと涙が、溢れた。

その涙は、凍えきってゆく男の体を包み、ゆっくりと暖めながら、男を穏やかな眠りに誘った。

106―私を踏んでください―2/2:2005/10/15(土) 05:34:30
眼を覚ますと独りだった。
誰もいない。
辺りは物音ひとつ聞こえぬ静けさに包まれていた。
妙に明るい。
昨夜降り続いた雪で真っ白に覆われた町が、明け始めた朝の光を浴びて輝いていた。

「あ、あの、どうぞ踏んでください……」

ドアを開けると密やかな声が、何処からともなく響いた。

「お前か?」
尋ねると、
「ええ、私は此処です。」
「もう、姿は見せてくれないのか?」
「残念ですが…朝が…もう私にその力はありません。ですから、お別れに貴方に、一番最初に私を…踏んで頂きたいのです。」

足跡ひとつない雪原が男を誘う。踏み出すと、足首までが、ずぼっと雪に埋まった。

「何処だ?お前の一番深い処まで行こう。」
「あっ、……!」

「連れてけ。もともと昨夜はそのつもりで来たんだろう?
一緒に行こう。お前のものになるよ。」

男は雪原の一番深い処を目指して、遠くに見える森林へ向かってゆっくりと歩き出した。

107105-106:2005/10/15(土) 05:44:22
1/2と2/2の間にかなり行間空けた筈なのですが、入ってない?…orz。5〜6行間入れてください。

108カリスマの恋:2005/10/17(月) 02:55:02
どーしても語りたく。お世話になります。


カリスマは孤独だった。皆に愛され崇拝されていても、本気で恋する相手は今だかつていない。
実はその事自体は、彼にあまり意識されていないのだが、本気で恋する相手に出会った時、初めて彼は今までの孤独に気付き、耐えられない烈しい想いを抱くようになる。

それは、今まで彼の周りには居なかった、側近でも、平伏す崇拝者達でも、敵でもない相手。
その青年は、彼をカリスマとして意識せず、崇拝するのでも、敵対するのでもなく、同じ人間として自然に対峙する。
そんな青年に初めて出会った時、カリスマは、澄んだ瞳でただ自分を真っ直ぐに見返してくる相手を疑かしく不思議に思い、次には相手を振り向かせようと夢中になる。
そうして本気の恋に堕ち入っていくのだが…。


本気の恋はいけない。
カリスマとは地上の存在であり、且つ、形而上の存在でなくてはならない。
だが、本気の恋は、そんな存在であるカリスマを、形而下へと引きずり下ろす性質を持つから。

これまで、常に完璧な存在であったカリスマが、普通の人間の様に恋に因って悩み苦しむ様子をみせる始める。

想いが一方通行の内はまだ良いが、想いが通じて互いに愛し合うようになると、その異変が顕著になる。


この恋の行く末は―。

恋のために何時しかカリスマ性が失われた彼は、これまで、彼の威光によって敵わないでいた敵対勢力に追われ、愛し合う相手と二人で行く当てもなく堕ちて逝く。


あるいは―。


彼を最も愛し、誰よりも理解していた側近が、間近でその異変を素早く感じとり、これが彼のためだからと、なんとかその青年と引き離そうとするが巧くいかず、
一時は、手を回してその青年を何処かへ幽閉する。
だが、青年を心配するあまりカリスマは、更に尋常でなくなってゆく。
それを視て、側近はその青年を殺す以外に方法がないと悟り、心を痛めながらも、誰かに殺られたものと見せかけて青年を殺してしまう。

青年の死体を抱き、カリスマは、深い悲しみに沈む。


そして本当は、間近に別に愛すべき相手(側近)がいる事には、ついに気付くことなく、生涯、失われた青年への想いだけを胸に生きる。

1091/2:2005/10/19(水) 00:57:28
書こうとしたら神に投下されてたので。149 俺ダメなんだよな〜
付き合って、もう半年になる。
けれど指一本触れてくれないあの人に、僕はいつもの仏頂面で何度目か分からない質問をする。
「どうして? 僕、……そんなに魅力ないですか?」
「別に、そんなわけじゃねぇっての」
そう言って困ったように笑う咥え煙草の彼が苛立つくらいかっこよくて、僕はまた泣きそうになる。
いつもこうだ。年上だからって兄貴ぶって、僕の心をちくちくと痛ませる。
抱いてくれないのだって、どうせ僕がまだガキだからなんだろう。
「煙草」「ん?」
「一本、頂戴」
シャツの胸ポケットに入った箱を無理やり取り出そうとして、その手を押し留められる。
僕とは百八十度違う大人の力に押さえ込まれて、身動きできなくなってしまう。
「だーめ。まだ十八なんだから、身体大切にしろ」
代わりにこれ、と手渡された小袋に入ったキャンデーを、僕はつい床に投げ捨ててしまった。
かさりと乾いた音が室内に響き、振り向いたあの人が驚嘆した顔で僕を見つめる。

110萌える腐女子さん:2005/10/19(水) 00:58:11
「ねぇ、どうして? 僕……僕もうガキじゃないよ……」
ああ、駄目だ。瞳からじんわりと溢れ出る涙をとめることが出来ない。
こんな顔したら、むしろ自分から『ガキ』って看板掲げてるみたいなものなのに。
僕の涙を伸ばした指先で拭うと、あの人はまた、普段と変わらない笑顔を見せた。
「俺、ダメなんだよな〜」
おどけて冗談ぶった口ぶりでそう告げられて、僕は一瞬、何を言われているのか分からない。
「病気しちゃってさ。その……昔荒れてた頃に。お前には絶対うつせない」
「……う、嘘っ」
「お前はさ、まだ若いんだから。ちゃんと健康でいなきゃ」
僕の髪をくしゃりと撫でるその指先になんだか元気がない気がして、頭一つ分違う彼の顔を仰ぎ見る。
そこにはいつもの大人のあの人は居なくて、代わりに喉を振るわせて幼児みたいに泣く男がいた。
「ガキだなんて……思ってねぇよ。ただ、お前は俺と違って若くて……綺麗すぎるから……」
十も年上のその人を抱きしめて、僕は泣いた。
その嗚咽する声があまりに大きくて、僕はやっぱり、自分が若いんじゃなく単にガキなんだと思った。

111萌える腐女子さん:2005/10/22(土) 15:37:35
「あとちょっと、後ちょっとでキリのいいとこまで終わるから」
「ってお前1時間ぐらい言い続けてるんだけど」
「だって仕方ないじゃん、なかなかキリよく……あ!あぁ!あ―――――!話しかけるからやられちゃったじゃん!こっのボケンダラ!」

こいつはここ数日中古で買ったと言うパソゲーに夢中だ。
俺が遊びに来ようが完全無視で空気のような扱いをされている。
そりゃ俺が勝手に遊びに来てるだけなんだけど、面白くない。
人の気も知らずモニターに向かってピコピコやってる後姿を見ていると悪戯を仕掛けてやりたい衝動が襲ってきた。

あいつの家には留守のときでも平気で上がりこんでいる。あいつも俺の部屋に勝手に上がりこんでくる。
お互い様と言う奴だ。
それをいいことに、あいつが留守の間にパソコンに別のゲームを入れ、ご丁寧にショートカット先まで変えておいた。
わざわざゲームも途中まで進めてある。
どういうことになるかお楽しみだ。ゲームがゲームだから多分すげー怒るだろうけど。

「あー、なんだ来てたの?でも俺もうちょっとでゲーム終わりそうだし、やっちゃってるけど」
「いいよ、漫画でも読んでるから」

パソコンの起動音が聞こえる。ニヤニヤしながら後姿を見つめていると、思惑通りにショートカットを開いてくれた。

「うわっ?!」

画面には男女ものでない18禁ゲームのセックスシーン。
華奢な男が四つん這いで腰を高く上げ、後ろから貫かれている。

そろそろ罵声が飛んでくるだろうと覚悟して待っていたのだが、一向にその気配はない。
意外なことに食い入るようにモニタに見入っている。

『あ…あぁ……もっと……!』

画面の男が喘ぐそのシーンを頬を染めながら見つめ続けている。
悪戯心が再び芽生えた俺は後ろからあいつに抱きつき、耳元で「同じことしようか」と囁いてみた。
潤んだ目であいつが見上げて来る。

「うん……しようか」

112萌える腐女子さん:2005/10/22(土) 23:04:38
あ!今気づいた!160さんの「ゲームするのに夢中な受」です!

113189さんの刀と鞘で。:2005/10/23(日) 18:42:28
「……また、仕事か?」
 何気ないそぶりでそう尋ねる鞘に、刀は弱弱しく微笑んで掠れた声で答える。
「すぐ、戻ってきますから」
 自分の腕からいなくなっている間に刀が何をしているのか、鞘だって知らないわけではなかった。
 全身雨に降られたように血塗れで戻ってくる刀。それでも、戻るとすぐ自分ににこりと笑いかける刀。
『仕事』の後のその姿を見るたびに、鞘は己の無力さに唇を噛み締めていた。
 ――こんなことを、させたくはなかった。
 彼の滑らかな肌に似合うのは薄絹で織った着物か何かで、あんな醜いやつらの血液ではない。
 たとえどんなに非道な相手だとしても、あの細腕で誰かの命を奪うなど、してほしくはなかった。
「鞘さん、済みません」
「……何が」
 振り返りざまにそう頭を下げた刀に、鞘は不審そうに一言呟く。
 その問に心苦しそうな声で、刀は口を開いた。
「僕、今夜もまた鞘さんを汚してしまいますね」
「馬鹿野郎。んな心配すんな」
 誰かを殺した後の刀は、何時も鞘の温もりを求めてくる。
 血で濡れた身体を洗う間もなく、彼は鞘の腕の中へと飛び込むのだ。
 冷たい死体の代わりに、誰かの暖かい肌を欲するように。
「お前は、俺が受け止めてやる。だから、余計なことは考えなくていい」
「……ありがとうございます」
 扉を開けて出て行く彼の後姿を見ながら、鞘は今宵も刀を止められなかった己の不甲斐なさに嘆息した。

 いつか、彼が自分のもとへ戻れなくなる日が来るのだろう。
 その身を二つに折って、心も身体も壊してしまう日が、いつかきっと。
 ……その日が来てしまったら自分は、正気でいられるだろうか。
 彼を抱きしめているつもりで、その実、心の空白を埋めてもらっている俺に、
 正気でいられる余地など、果たしてあるのだろうか。

114刀と鞘:2005/10/23(日) 20:32:54
同じく刀と鞘です。
三番目になってしまいましたが、投下させてください。


「行くな!」
と、お前を止めたのは、あれは、何時の時代だったろうか。
「仕方ないんだ。」
お前は泣きながら出掛けて行って、その美しい刃をボロボロにして血濡れて帰って来たね。
あの時、お前は私の中で泣いたんだっけ。
若く美しい剣士だったそうだね。
知ってたよ。
あれは、お前の憧れていた相手。刃先を交し合う度に、お前はあの若い剣士にますます惚れて、煌めきー。
彼の肉を絶つのは、さぞかし辛かったろう。
そして、あれは何時の時代だったろう。
もう人間に惚れるのはよせって言ったのに、今度は、仲間の隊士だから大丈夫って。
そう思って安心してたのに…。
あの時こそは、お前も、もう立ち直れないかと思うほどだった。


こうして古美術商の奥に眠るようになってからは、
今はもう、みんな遠い時代の事だけど。


「そうですね。みんな遠い過去になってしまいました。」
刀が答えた。
「でも、私も本当は分かっていたんですよ。どんな事があっても、私の帰るところは貴方の腕の中でしかないって。今まで随分、貴方を苦しめ、心配させてしまいましたねえ。」

「ねえ、本当に。」

「本当に、今思うと、なんて長い時が必要だったんでしょうねえ。私には貴方しかいなかったんだって気付くまで。」

115萌える腐女子さん:2005/10/27(木) 22:56:18
リレースレは絶賛リレー中なのでこちらで。
チラ裏101さんに触発されましたw


部屋に一人、いや、執事と二人で取り残された青年は苛々とブランデーをあおっていた。
紳士ぶって彼らを帰したものの、中途半端なところでご馳走を取りあげられた苛立ちは収まらない。
そもそも何故彼の友人がここまでくることが出来たのだろう?深く考えるまでもなくあのホテルにいたボーイに行き着いた。
ゲルマン系の彫りの深い、美しい金髪の青年だった。
少年をかばったあの態度から若々しい正義感に溢れた清廉な人格の持ち主であろう事は容易に想像がつく。

ブランデーグラスを手の中で温めながらにや、と人の悪い笑みを浮かべた。
清廉な人格の持ち主なら自分の行いに対してきっちりと責任を持つべきだろう。
執事に命じて再びホテルへと車を走らせる。


ボーイがホテルに戻るとチーフがすごい剣幕で詰め寄ってきた。
無断でフロントを空けたのだから当然だろう。
しどろもどろになりながら説明をしていると表で車の停まる音がした。

「お客様だ。さっさと行け!」

チーフに言われて表に出ると先ほど去って行ったはずの車が停まっている。
ボーイは顔色をなくしてただそこに呆然と立っていた。
そんな彼をまったく無視して隣をすり抜け、青年が建物の中に入って行く。

青年はそこにいたチーフを捕まえ、二言三言話すとまたすぐに表に出てきた。
何がなんだかわからず突っ立ったままの青年の腕を取ると半ば引きずるように車の中に押し込んだ。

「な、何を……」
「あの少年を逃がす手配をしたのは君だろう?」
「………」
「まあ、過ぎたことを咎めても仕方がない。だから君に代わりを務めてもらおうと思ってね」

ボーイには男色の趣味はない。言葉をなくしてふるふると頭を振ったが、そんな彼を嘲るように青年はこう言った。

「フランスで二度とまともな職に就けなくなっても?」

ボーイには断る術は残されていなかった。


こんな感じでしょうか!チラ裏101姐さん!

116萌える腐女子さん:2005/10/28(金) 07:45:01
>>115 リレーのこぼれ話がこんなとこに!姐さんGJ!この続き気になる。
ボーイは黒髪だったよ。あれっと思ったから今、確認してきた。ゲルマン系で髪だけは黒ってのも捨てがたいから脳内変換して読んだよ!仏金髪青年×ゲルマン系黒髪ボーイ。萌え〜!

117萌える腐女子さん:2005/10/28(金) 09:27:25
イヤン
ドイツ語に反応=ゲルマン系=ナチス=金髪とナチュラルに変換してしまいました。
まとめに載せるときは黒髪に書き換えを!

118249の酔っ払い攻とふりまわされる受:2005/10/28(金) 18:38:51
書いてる途中で寝てしまったら、4時間も経ってたので、こちらに投下いたします。


酒好きなのに、酒癖が悪いって、最悪じゃないか。
DJイベントで、好きな曲かけまくって、踊って歌って、気持ちよかったのは分かる。
終わった後に、ファンの子やイベント主催者さんからもらったお酒を、移動中の車の中で
飲み干して、さびしい気持ちも分かる。
今日は移動日で、ほぼ一日中車の中だから、暇なのも分かる。

でも、運転手やってくれてるスタッフさんとか、他のメンバーの目もあるんだけど。

「ほら、ユウ、チューしよ、チュー。」
「やめろって、気持ち悪い」
「何言ってるんだよ、いっつも喜んでしてるじゃん。ほら、チューしよって。こっち向けって」
「やめろって! 酒臭い!」

機材車の最後部で、俺達、何やってるんだ。
他のメンバーやスタッフは、前の席に座っているから、どういう顔で、俺達の会話を聞いているかは
見えないのが、怖い。俺達の仲は、ただの「学生時代からの友人、今は同じバンドのメンバー」で、
それ以上でも以下でもないはずなのに。バレちゃうじゃないか。

俺は、腕でヤスシの攻撃をブロックしながら、小声でいさめた。
「やめろよ…。みんなが聞いたら、変な誤解されちゃうだろ」
「誤解ぃ? 誤解って何だよ! お前、俺を好きじゃないのかよー」
「声がでかいよっ! あと、いいかげんあきらめろって」
ヤスシは、ムスッとした顔で俺から離れた。
「もーいーよ。お前が告白してきた時は、死にそうな顔して、『告白したら、気持ち悪いって
 言われると思った』とか言ってたくせに! はじめてチューした時なんか、タコみたいに
 真っ赤になって、握った手が震えて、プルプルしてたくせに! いつからお前は、そんなに
 かわいくなくなったんだ!」
「だから、声がでかいって!!」
もう、前の席に座っているメンバーやスタッフに、俺は顔をあわせられないかもしれない。
「もういい。お前なんて、俺のこと嫌いになったんだろ。もうチューしなーい」
子供のようにふくれて、ヤスシは腕組みして背もたれにもたれた。
いつも、みんなが騒いでいても、一人黙って冷静に観察したりしてるくせに。今のコイツは、
まるっきり子供だ。というか、子供以下だ。
俺は、黙って、他のメンバーやスタッフの様子に聞き耳をたてた。
こちらを見ている気配はない。寝息をたてているようにも聞こえる。
「いいから、もう黙ってろよ」
俺は、運転席のミラーには写っていないのを確認して、攻にそっとキスをした。
「…ユウ…」
「チューしてもらえないのは、困るし…。もうそろそろ寝ようよ。俺も眠い」
小さな声で、そうささやくと、ヤスシはニヤけた笑顔を浮かべた。
「やっぱ俺、お前のこと好きだ! 今から、お前の名前を、窓あけて叫びたいぐらい好きだ!」
「黙れ!」
ヤスシは、よしよしと俺の頭をなでて、「家に帰ったら何しよっか」とか、「次の移動先は、
何がうまい」とか、一人で色々話してた。
俺は、ヤスシにもたれかかり、あいづちを打ちながら、いつのまにか眠っていた。

寡黙で冷静で、あんまり自分を見せないヤスシが好きだ。
でも、こう酔って壊れてるヤスシも好きなんだよな、俺。

119ななしさん:2005/10/31(月) 23:37:20
未ゲットだったSCSIとUSB、描いてみました。
*0踏んでないけどもったいなかったのでー。
解説間違っていたら突っ込んでください。

120萌える腐女子さん:2005/11/01(火) 02:45:33
289のリク、とっくに290タンが居たので。


先輩と初めて会ったのは夏祭りだった。金魚掬いが上手な奴がいるなって興味を持って、のぞき込むと、ちょっと可愛い顔立ちで、しゃがみ込んだ浴衣の裾から白くて華奢な足がのぞいてた。
なんか一目惚れって感じで、側に行って一緒にしゃがみ込んで話し掛け、すぐに親しくなって帰り道、神社の裏手の木陰の暗闇で無理矢理キスしてた。あんまり抵抗もなかったから、そのまま押し倒して、それから何度か関係を持ってから、初めて気が付いた。
相手は高校生だったって。向こうも、背の高い俺のことを同じ高校生だと思ってたみたいで、ちょっとショック受けてたみたい。押し倒された相手が中学生だったなんて。
しかも、最初に「何年?」って聞いたら、ただ「2年。」って、それ以上、学校の話しは出なかったから後輩だと思ってたぐらいで。
でも、ホント華奢で可愛くて、背も低いし、声も高い方だから中学生にしか見えなかったんだ。反対に俺は、生意気だし、背は高いし、声もバリトンで、いつも高校生に間違われてたから、相手がそう思ったのも無理はないんだけど。

最初に名前で呼び合ってたから、急に先輩って言うのもなかなか慣れない。別に名前で呼び掛けても、先輩も全然気にしない様子で、自然に応えるからついそのままになってしまっていた。

確かに物識りだし、尊敬もしてるんだけど、あんまり先輩って感じがしないのは、先輩があまりに可愛いせいなのか、年より上に扱われる事に慣れてる俺の図々しい性格のせいか分からない。

でも、大好きだし、もっとずっと一緒にいたいから、先輩と同じ高校に入学したくて俺は俄かに勉強に励んだ。成績は然程悪くはなかったから、何とかなると思っていたのが甘かった。
恋愛に現をぬかしていた俺が、急に勉強したからって受かるレベルの高校ではなかったんだ。
合格発表の掲示の前で俺は、そっと隣に寄り添った先輩にも、暫く気が着かないほどショックで呆然としていた。
「…間に合わない…。」
呟くと、
「大丈夫。6月にまた編入試験があるから。今度は僕が教えるから絶対合格する。」
先輩の指先が、軽く俺の手に触れた。
「待っててやる事は出来ないけど、ちょっと遅くなるだけだよ。」先輩が、そう言うと安堵感と共に、愛情やらさまざまな感情が一度に混み挙げてどうにも
ならなくなって、俺は初めて、小さな先輩の体にすがって泣いた。

121289のリク、120の続き:2005/11/01(火) 16:36:58
あそこで、終わるはずが、続きも書いてしまったので投下します。



あーあ、泣いちゃって。バッカだな。いつも見栄張って背伸びしてるから。もっと素直になっていいんだよ。

正直、お前が中学生だと分かった時は、なんて生意気なガキだって思ったけど、初めて会った時から感じてた、アンバランスな違和感が解消されて、それからはずっとお前が可愛いくて仕方なかったんだよ。よけいに好きになったって言うのかな。
そんな外見だから、いつも周りはお前を大人扱いして、お前もそれに応えようとどうしても無理して背伸びしなきゃならなかったんだよね。そんな危なっかしさが愛しくて。
初めての時、お前は僕に
「駄目だ。可愛い過ぎる。」
って、そう言ってキスしたね。あの時は僕もお前の持つ独特の雰囲気に呑まれてしまったけど、お前の方こそ可愛い過ぎるんだって後で気付いたよ。

ほら、もうシャンと立って。大きな男が僕みたいな小さな奴にしがみついてたらおかしいよ。ゴメン。周りからはどうしてもそう見えるんだから仕方ないのは分かってるだろ?
さあ、お前の家に帰ろう。僕も一緒に行くから。僕にだけはいくらでも甘えていいんだからね。
でも、今日だけだよ。お前の家に行くのは。あの家は、ほとんどいつも人がいないから、お前の好き放題で、二人で居たら勉強は二の次になっちゃっいそうだからね。
明日からは僕の家で、試験勉強だよ。僕の姉は大きな後輩を連れて来たって、からかうかもしれないけど、勉強には最適だよ。
もうホントに、僕も3年になるんだし、これ以上は待てないからね。ちゃんと、追い掛けて来てくれないと駄目だよ。

122本スレ299のリクで:2005/11/02(水) 00:03:46
『出張で泊まる宿は、露天風呂&浴衣をメインにすえて、料理をオプションで頼めるようにしますか?』
部下から送られてきたメールに目を通して、はぁと思わず心から深く嘆息する。
一体、何を考えてるんだあいつは。来月のアレは出張なんだよ出張。
いくら俺とお前と二人だけでどこかに泊まるのが初めてだっつっても、所詮仕事なんだっての……。
ビジネスホテルを二部屋予約しとけって指示しておいたはずなのが、何をどうすれば露天風呂付きの旅館に変わってるんだ。
眩暈と偏頭痛がするのを無理に気力で押さえ込んで、眼前のキーボードにかたかたと返信を打ち込む。
『セクハラだ』
その素っ気無いほどに短い文面を送信すれば、二分と待たず相手からのメールが返ってくる。
それを開いて確認すれば、俺は益々頭を苛む鈍痛が強くなったのを感じる。
『じゃぁ、これで決定にします。あ、夜は寿司を頼むつもりなんですが、何か食べられないものありましたっけ?』
………人の話を聞け。いつ誰がOKしたんだ。っていうか、料理のオプションすらもお前の趣味で決定なのか。
海産物が大の好物で、以前ふぐちりを食いに連れて行ってやったら飛び上がらんばかりに喜んでいたヤツの姿を思い出す。
両頬を、木の実を山ほど溜めた栗鼠みたいにして「おいひーです、課長〜」なんて騒いでいたが、そりゃ当然だ。
知ってるわけもないだろうが、お前みたいな新入社員じゃまずいけないクラスの店だぞ、あれは。
痛むこめかみをぐりぐりと人差し指で軽く揉んで長々と吐息すると、再び目の前に置かれたコンピューターに向き直る。
微塵も下を向かず数秒でキーを打ち終えて送信してから、ふと考える。
あの文章は、俺のイメージに合わないんじゃないか? ……まずかっただろうか。
とはいえ、一度送ってしまったものを止める手立てはないわけで、俺は仕方ないかと一人ごちた。

『山葵は抜いておけ。喰えん』

123309 異世界トリップ 1/2:2005/11/03(木) 02:27:02
異世界トリップです。先越されましたので、こちらにお世話になります。内容は全然違うのに、310さんと偶然に、ピンク色だけ一緒になったよ。



前場の引ける寸前だった。俺はモニター画面を信じられない思いで見つめていた。自分が仕掛けた空売り銘柄がどんどん上がってゆく。数字が止まらない。馬鹿なとっくにストップ高の筈ーーーー


気が付くと、俺は淡いピンクや水色や黄色のクレーの絵の様な色調に彩られた荒野に倒れていた。
誰もいない。

もう、どのくらい経ったろう。夜も昼も分からないこの世界で、とっくに時間の感覚もなくしていたが、幾日も過ぎた様な気がする。
俺は、世界の終わりにたった独り取り残された様な絶望感に襲われながら、何処かに居るかもしれない人影を求めて、ずっと歩き続けていた。

何処迄行っても砂丘ばかりが続く。
本当にここにはもう誰もいないのか。
幾度も頭をよぎった絶望感に何度目か座り込み、また歩き出そうとしたその時、吹きすさぶ風に砂が舞い上がり、何かが見えたような気がした。

手だ。
砂に汚れた白い手の先が砂上から少し出いて、よく見ると辺りの砂が人の形に盛り上がっている。

駆け寄って、指に触れると温かく僅かに握り返そうとする。

生きている。

俺は、嬉しさに涙を流しながら砂を払い除け、その人の体を抱き上げた。
顔を見ると20代後半のまだ若い男で、ちょっと長めの髪はこの世界に長く居すぎたせいか、淡いピンクに染まっている。
確かに呼吸はしていたが、意識を失っている様子で、頬を叩いても眼を開けない。
何処かで見た様な顔だ。後輩の岩元に僅かに面影が似ている。
何時まで経っても眼を醒まさないその人を、別人だと分かっていながら俺は何時しか、
「岩元、岩元!」
と、呼び掛けながら、顔や体を擦り続け、ポロポロと涙を流して、その頬や額や唇に幾度も口付けていた。

あいつは、岩元は、どんな瞳をしていたろうか。きっと、この人も岩元と同じ様な瞳をしているに違いないが、思い出せない。

「岩元、なあ岩元、眼を醒ませよ。何処へ行ったらいいのか教えてくれよ。」

俺は両腕に、その人の体を抱え上げて歩き出した。
とりとめもなく話し掛け、時々口付けながら、行く当てもなくただ歩いていた。

124異世界トリップ 2/2:2005/11/03(木) 02:32:27
続きです。



何時しか気を失っていたのか、最後に足下の砂が崩れ落ち、何処迄も落ちて行ったのを覚えているが、気が付くと、俺はオフィスのホールの椅子に座っていた。抱き上げていた筈のあの人は、何処にもいない。


「先輩、今日の読みは凄かったですね。空売り大正解じゃないですか。」

不意に話し掛けられた声の方へ振り向くと岩元がいた。
(そうか、こんな声だった。そして、こんな瞳だったんだ岩元は。)

俺は愛しさで胸が締め付けられる様な思いで、岩元の瞳をじっと見つめた。
岩元が、ちょっと頬を染めて照れた様にうつ向いた。
髪はやっぱり黒だよな。当たり前だが。そんな事を思いながら、髪を撫でると、岩元がますます真っ赤になった。
「今夜、ふたりで呑まないか?」
「はい。」
と、岩元が小さく答えた。

125萌える腐女子さん:2005/11/06(日) 22:11:33
1話完結ならここでもいいんじゃ?との回答いただきましたのでこちらに。
フランス青年とボーイの続きです。



ボーイが青年に脅されて関係を持たされてから2ヶ月が過ぎようとしていた。
その間週に少なくとも2回、多いときは4,5回呼び出されてこうして彼に抱かれている。

行為の間の彼は卑怯なぐらい優しい。
柔らかく髪を撫で耳元で愛していると囁きながら抱きしめる。
だがボーイにはわかっていた。これが彼の手なのだと。そんな子供だましには乗らない。乗りたくもない。
自分は決して懐柔なぞされない。脅されて仕方なく関係を続けているだけに過ぎないのだ。

「レイモン、来週は来ることが出来ません」
「何故」

いつものように行為の後までまとわりついてくるレイモンをいなしながら告げた。

「アーベルが来ないと私の楽しみが減るじゃないか」
「明日から1週間泊り込みの研修があるのです。参加しないわけには参りません」

レイモンなら手を回して彼を不参加にさせることぐらいは容易いのだろうが、流石にそれをやると良識を疑われそうだ。
疑われるほどの良識が残っているのかも怪しいものだが。
しかし高々1週間なら快く送り出してやろうと決めた。

「わかった。ただし、研修が終わったらまっすぐここに来い。寄り道するんじゃないぞ」
「わかりました」

背後から抱きついてのしかかってくるレイモンをどうにか引き剥がすと玄関に向かった。
1週間だけは晴れて自由の身だ。

126萌える腐女子さん:2005/11/06(日) 22:11:48
研修の部屋は気のいい同僚と相部屋だった。
初日から婚約者に会えないと嘆いている。会えなくて清々しているアーベルとはずいぶんな違いだ。

慌しく研修をこなし、夜には疲れ切ってベッドに倒れこむ。
2日目までは夢も見ないほど熟睡していたが身体が慣れ始めた3日目の夜、夢を見た。
レイモンに「愛している」と囁かれ、抱きしめられる。「私もですよ」とうっとりと呟く。
目覚めてから愕然とした。

長く居すぎて情が移っただけに過ぎない。必死にそうやって自分をごまかした。
レイモンの「愛している」は単なる言葉遊びに過ぎない。今だって自分の代わりに引っ張り込んだ情婦にでも囁いていることだろう。
そこまで考えて胸が痛んだ。

レイモンの浮名は界隈にいくらでも流れている。
そもそも初めて逢ったときも幼い子供を引っ張り込んで事に及ぼうとしていたのだ。
いま自分を呼びつけているのも毛色の変わった珍しいペットだと思っているからだろう。
考えているうちに涙が溢れてきた。子供だましと思っていた手にすっかり乗せられていたらしい。

自分の心に嘘がつけなくなるほど、レイモンを欲していた。


「そうか、アーベルは来れないんだったな……」

呼びつけようと取り上げた受話器を置いてしばし思案する。
アーベルと関係を持つようになってから自然と遠のいていたほかの遊び相手たちの番号をプッシュしなおす。
程なくして派手な化粧の女がやってきた。

執事が食事の指示を終えて食堂から出てくると、先ほどやってきた女が帰る所だった。
おそらく30分も経っていない。

「レイモン様、お客人はお帰りですか?」

部屋を覗くとつまらなさそうな表情でレイモンが横たわっている。

「つまらないから帰した。やっぱり今はアーベルが一番面白いな」
「それはそれは…。しかしライヒシュタイン様はもういらっしゃらないかもしれませんが」

その言葉を聞いてばね仕掛けのように跳ね起きた。

「どういうことだ?!」
「ライヒシュタイン様の研修地はドイツですよ。これを機に故郷に帰ってしまうのでは?」
「どんなこと私は聞いていないぞ!」
「レイモン様からお逃げになるおつもりでしたらライヒシュタイン様とてわざわざ研修地を告げたり致しますまい」

老執事は穏やかにほっほっと笑いながら部屋を出て行った。

アーベルが居なくなる。
確かに、脅しつけて無理矢理身体を奪い、逆らえないのをいいことに呼びつけては弄んでいる。
男色の趣味のないアーベルにとっては屈辱以外の何者でもないだろう。
出かけるときはそのつもりがなかったとしても故郷の空気に触れたら気が変わるかもしれない。
フランスに居てはレイモンから逃れられないのなら余計にだ。
不安で心臓がどくどくと脈打つ。

夕食はほとんど喉を通らなかった。
後4日間、研修が終わるまで鉛のような不安を抱えたままでいるのかと思うと気が狂いそうだ。
今まで遊び相手がいつの間にか姿を消しても何の感慨も抱かなかったというのに。

さらりとした黒髪と抜けるように白い肌、琥珀をはめ込んだような目。
目を閉じると浮かぶのはアーベルのことばかりだった。

「レイモン様、食事はきちんとお召し上がりにならないと身体に毒です」
「食べたくないんだ」
「私の申したことはほんの想像に過ぎないのですから」
「うるさい」

ふう、とため息をついて食事を乗せたワゴンをそのままに部屋を出て行く。
「お召し上がり下さい」と声だけかけて。

7日目の朝だった。
今日、アーベルはここに来るのだろうか。
まともに食事も採らず、夜も眠れずここ数日でいる影もなくやつれてしまった。
鏡を見て「酷い顔だ」と自嘲気味に笑う。
執事もほんの戯言がレイモンをここまで動揺させるとは思っても見なかっただろう。

何をする気力もなくベッドに横たわっているとインターホンが鳴った。
時計を見ると2時を少し回ったところだ。
いくらなんでもドイツからこんな時間には帰って来れないだろう。
再びベッドに倒れこむ。

こつこつとノックの音がした。
執事だろう、と返事もせず放っておいたのだが、ためらいがちにドアが開かれた瞬間、目を見開いた。

「いいご身分ですねレイモン。今何時だとお思いですか?」
「……アーベル?…何故……」
「研修が終わったら来いと言ったのはどこのどなたですか。……レイモン?」
「帰ってこなかったらどうしようかと思った…」
「どうしたんです?どこか具合でも?」

青ざめた頬に手を添えて顔を覗き込む。
その手を掴むと思い切り引き寄せ、抱きしめた。

「Ich liebe dich」

127唐突に聖職者萌え:2005/11/07(月) 22:35:07
息を吸うのも吐くのも苦しい、死にかけの獣のような、あわれにあさましい声にもならない声が聞こえる。なんだ?これはなんだ?
「……」
遠くの方から、私の名前を呼ぶ声がした。ああ、その名前を呼ばれるのは久しぶりだ。ずいぶん昔、父が生きていた頃…。
水に浮いているような沈んでいるような感覚の中で私の意識は飛びそうになる。
あさましい吐く息のような音は先ほどから続いている。
「、なあ?」
「…んぁっ!」
ぱち、とランプのスイッチが切り替わったように、世界がかわった。
目に入ったのは私の執務机である。磨いた机の上に黒い表紙のあの本がある。縋りきることは愚かしいと思っていても縋ってしまうあの本が、見える。
「なあ?……。ああ、どこ見てんだ?」
「や、あ、あっ」
あさましい息、甲高い震える声、ああ、私の声だ。耳の裏に、私をファーストネームで呼ぶ男の、恥も知らない熱い息が吹きかかる。
私は執務室の壁に手をついて、どうにか立っている。黒い衣の中で、この恥知らずな男の手が動く。
「なあ、……(私の名前だ、聞き取れない)
おまえの神さまはひどいお方だな
おまえにこんな恥辱を与える私を許している」
違う。
涙で執務机の輪郭がおぼろげになる。
「認めろよ、神などない。神などないって」
すばらしく品のよい、教養あるもの特有の発音で彼が言う。
違う、違う。
違う、神はいらっしゃる。神はいらっしゃる。
お前が今日通ってきたあの大通り、この教会までの道、その沿いにあったあたたかなひかりの灯った家々、そこに住む人々を、神は見守り、許し、愛して下さっている。
「…はぁっ…!」
信じがたく女性じみた声がのどから出て、同時に私は壁にしがみついた。
そうせねば立っても居られない。彼が嘲るように、いやはっきりと嘲りを込めて笑った。
「なあ、神さまはいまどうしてるんだ?」
違う、お前の考えは違う。
神は今皆を見守り、柔らかくその愛で包んでいる。
神は今、皆を、幸せな夜の眠りについている町の人々を祝福している。
「お前の神さまは冷たいな?」
違う。
違う、神は遠くから私たちを見守って下さっている。
全身から力が抜け、私は床に座り込んだ。壁にもたれる私を、彼が蹴った。
痛みは感じなかった。

128萌える腐女子さん:2005/11/09(水) 21:10:34
本スレ380です。
今ごろになって間違えが、最後の数行すっかり落としてましたorz
まとめに載せる時には付け加えて下さい。お手数かけてすみません。


天然なのか計算なのかだんだん分からなくなってくる。
なんだか、すっかり芳川のペースにはめられてしまった感じだが、それでも、このまま引きづられてゆくのも悪くはないかと思い始めた。
とりあえず、スヤスヤと眠る芳川の頬でもつついてみた。

129本スレ389 兄弟子×弟弟子:2005/11/11(金) 04:49:00
番人さん、せっかくまとめた後からすみません。兄弟子×弟弟子です。



(守備良くいったろうか。)
師匠の頼みとはいえ、己れで、弟弟子を連れ回して女郎宿に預けてきた。なんだかやるせない気持ちで、月明かりに照らされた河面をぼんやり眺めていると、後ろから駆けてくる足音がした。
まだいくらも経ってはいないのに。
半ば予期していた事とはいえ、嬉しさが込み上げる反面、困ったものだとも思う。
振り返ると、案の定、僅かに幼さを残した顔を紅潮させた一乃真が、此方を睨んでいた。
「どういうおつもりですか!あのような場所に私を置き去りにして!」
よく見ると、一乃真の着物の襟元は少し乱れていて、慌てて整えてきたのがうかがえる。
くすりと笑みをもらしながら、
「一乃、少しは大人になれたかい?」
と、聞いてみた。
「なっ!あんなっ、汚らわしい!」
プイと横を向いた。
「ねえ、一乃、師匠が…」
「父上が、何を言ったか知りませんが、私はもう充分大人です。」
「なら、好きな娘でもいるのかい?」
「……!」
瞬時、口をパクパクさせていたが、すぐに切り返して聞いてきた。
「な、ならば、新蔵さんはどうなんですか?」

女がいると嘘を言ってみたところで始まらない。余計に食い下がられるだけだ。
「私はそういう事には向かない質だから。」
そう、答えた。
「ならば、私も……私は、私は新蔵さんが…」
(言うな、言うな、それ以上は言うな。)
不意に、顔を間近に近付け、襟元をあわせてやりながら、
「移り香だね。一乃、桃かなんぞのように香ってる。」
と、一乃真の言葉の先を遮った。
一乃真は朱の様に真っ赤になって、うつ向いた。
「ねえ、一乃、いつまでも変わらないままじゃいかないんだよ。」抱き締めるのではなく、軽く背中に手を回して言い聞かせると、
一乃真は肩を震わせ、片手で眼の辺りを拭った。

「一乃、夜風が冷たい。帰って酒でも呑もう。」
肩を叩いて、歩き出す。

無理だ。一乃真に手を出したら、恩人でもある師匠が何れ程困惑し、悲しむことか。

このままでは、いづれ一乃真には黙って、京にでも発つ他ないかもしれないな。

見上げると、やけに冴えた光の月が見えた。


ほんっと、今宵はやけに冷える。

130萌える腐女子さん:2005/11/13(日) 16:24:23
>>115の続きです。
部屋が片付かないので現実逃避に来ました。


噂には聞いていたが、個人宅と呼ぶには仰々しすぎる屋敷。
車から降ろされたアーベルは驚き呆れながらその屋敷を見上げた。

「何を突っ立ってるんだ。早く来ないか」

彼を車に押し込めたときとは打って変わった優しげな手つきで肩を抱かれた。
そのまま有無を言わさず室内に連れ込まれる。
待ちかねたようにベッドに押し倒され、制服に手をかけたところで思わずレイモンの身体を押し返した。

「自分で脱ぎます」

嫌なことはさっさと済ませたい。そう思ってのことだったが、意に反してレイモンのお気に召したらしく、
服を脱ぎ捨てる様子を薄笑みを浮かべて見つめている。
嫌な男だ。

服を脱ぐと抱き寄せられて唇を塞がれた。
息も継げないほどの濃厚な口付け。角度を変えて何度でも口付けてくる。

「君の色素は全て髪の毛に集まっているようだな。髪はこんなに黒々としているのに肌は抜けるように白い」

耳を舐めながら更に続ける。

「顔立ちもとても綺麗だ。さっきの子は残念だったけど却って良かったかもしれないな」

何を言われても言葉を返さない。
こんな男の言葉を本気にして喜ぶほど馬鹿じゃない。
身体を這い回る手の動きを意識しないように、頭の中でまったく関係のないことを考え続ける。
何も見ないように目をきつく閉じた。

のしかかっていたレイモンの体重が不意に消えるといきなり足を広げられた。
間髪入れずペニスに生暖かい感触が走る。

「な……!」
「そんなに冷静だと自信をなくすな。もう少し乱れるところが見たいんだが」

勝手なことを言いながら徐々に追い上げる舌の動きに声が漏れそうになる。
唇を噛んで声を堪える。
必死な様子をあざ笑うようにその奥へと舌を伸びた。
流されそうになる快感と羞恥に跳ね上がりそうな身体を押さえつける。

「我慢しなくていいのに」

指を差し入れ、中を掻き混ぜながら顔を覗き込む。
くすくすと耳につく笑い声を漏らしながら更にアーベルを追い上げる。
不意に指が引き抜かれた。

「そろそろ私も愉しませてもらおうかな。もう少し可愛い顔を見ていたかったけど」

熱い塊が押し付けられ、容赦なく捻じ込まれる。
身体が裂けるような痛みに目を見開いた。

「……ぃ……ッ……」

浅い呼吸を繰り返して痛みを逃がそうとするものの、根元まで収められた異物感は消えない。
幸い、入ってしまえばそれ以上の痛みは襲っては来なかったが内臓がせりあがってくるようで酷く気分が悪い。

「無茶をさせたね。大丈夫か……?」

心配そうにレイモンが覗き込む。
宥めるように頬に幾度もキスを落とし、髪を撫でる。

「動いても大丈夫か?」
「どうぞお好きに」

精一杯の虚勢を張って、無感情な声で答える。
ゆっくりと労わるような動きが癇に障る。労わるぐらいなら最初からしなければいいのだ、こんなことを。
徐々に激しく揺さぶられ、早く終われと念じていると身体の奥に熱が広がった。
次いで、ずるりと引き抜かれる。

「……終わったのなら離して頂けませんか」
「だって君はまだだろう?」
「私は結構ですので」

明らかに不服げな顔をするレイモンを無視して床に落とした服を拾い上げる。
べたべたと纏わりつかれて思うように服が着れない。

「大事なことを聞くのを忘れていた。君の名前は?」
「……アーデルベルト・ライヒシュタインです」
「アーベルと呼んでもいいだろう?私の名は……」
「よく存じ上げておりますよ。レイモン・エリュアール様」

これから先、この男に名を呼ばれる機会がまた訪れるとでも言うのだろうか。
怪訝な顔をしたアーベルに微笑みかけるととんでもないことを言い出した。

「来週の今日あたり迎えに行くよ、アーベル。その時はもっといい声で鳴いて欲しいな」

131萌える腐女子さん:2005/11/13(日) 19:57:19
晩ご飯が終わったので投下に来ました。
部屋片付いてません。



「アーベルは私のことが嫌いなのかな」

アーベルと関係を持ち始めてから3週間目の夜のこと。
執事を相手に黙々と夕食を摂っていたレイモンが不意に口を開いた。

「は?」
「夕食に誘っても泊まって行けと言っても帰ってしまうんだ。しかもセックスのときにも声ひとつあげない」

美貌と地位と財産を生まれながらにして持っていたレイモンは今まで愛されて当たり前だと思って生きてきた。
初めは拒んでいた相手も2,3度身体を重ねてしまえばすぐにレイモンの虜になってしまうのだ。
もっとも中には下心があって媚を売るものも混じってはいるのだが。
だからこの期に及んで「嫌われている」とはっきり自覚できなくてもそれは当然なのかもしれない。

「嫌われていないという可能性をわずかでも残しておけるレイモン様は実にお幸せな頭をしておいでですな」
「それが主人に対する言葉か?ベンヤメンタ学院にでも入学して服従という言葉を覚えたらいい」
「私がいない間この屋敷を取り仕切る人間がいるのなら喜んで入学いたしましょう」

レイモンが唯一敵わないのがこの執事だ。
幼い頃から家の中を取り仕切り、レイモンが独立したときにもご丁寧についてきた。
厄介な人物でもあるがいなくなると家の中が機能しない、なくてはならない人物でもある。


翌日、性懲りもなくホテルへ電話をかけ、仕事の終わったアーベルを呼び出した。
指定のカフェへやってきたアーベルは露骨に嫌な顔をしている。

「こう連日呼び出されては身体が持たないんですが」
「そんなに無茶をさせているつもりはないんだがな」
「身体が資本ですから。私の仕事は」
「他の奴ともこんなことを?!」

思わず身を乗り出したレイモンを冷たい目で一瞥する。
ウェイターにコーヒーを注文すると「で?」と話を切り出した。

「何故こんなところに呼び出したんです?これからあなたの家まで行かなければならないのなら余計な手間が増えるだけでしょう」
「たまには外で会いたいと思っただけだ。……アーベルは本当に私が嫌いなんだな」
「大嫌いです」

茶化すつもりで言ったのだが切って捨てるようにあっさりと言われてちくりと胸が痛んだ。
もやもやとした不快な想いが胸に広がる。

この日を境にアーベルを呼び出す回数が増えていった。



そして>>125に続きます。

132萌える腐女子さん:2005/11/14(月) 02:00:32
更新しおわったとこにすみません。そしていまさらですみません。
本スレ409の【もう着ない制服】萌えたんで投下します。
そして長くてすみません。

133>>132:2005/11/14(月) 02:02:58
ハンガーにかけられて白い壁に下がっている、黒いブレザー。
あちこちほつれて、黒ずんだしみまであるのは、3年間のやんちゃの賜物だ。今更だけど……反省はしてる。うん。
3年なんて、正確には2年と7ヵ月。卒業まではあと5ヵ月もあるんだけどね。
「ホントにもう学校に来ないつもりなの、先輩」
傍らで1つ年下の男がすねた顔をする。
んなでかい図体でやっても可愛くねぇ、と言えないのは惚気だ。
「行っても意味ねーしな」
「でも、さみしいよ」
「別に学校いたっていっつも会ってるわけじゃねぇじゃん。学年違うし」
「うんでも」
寂しいんだよ。
吐息だけのような囁きが、耳をくすぐった。
保健委員のこの後輩と、いろんなしがらみをぶっ壊して一緒にいると決めたとき、
もうこんなラストは予測できてたんだけど。
「ほんとうに、やめちゃうの」
あ、こら。泣くなって。
おれのとはタイの色が違うだけの、ブレザーを着た肩を抱き寄せる。
「……どうせ卒業までもたねーしな」
1年と7ヵ月ぶんの年華を経てよれた制服ごしに見た、おれのブレザー。
着たのは結局365日にも満たなかった。
なのに、頻繁にぶっ倒れてひっかけたり、喀血したりで大分汚れた。
それでも、おれの匂いと、……この男の匂いがするもう着れないブレザーを、手放さずにここへ持ってきたのは。
「学校、終わったら、オレ、毎日来るから」
うん。
泣いてるみたいなかすれた声に、おれの返事は息だけだ。
「朝も、会いにくる」
お前が来るまで、おれはあのブレザー抱えて、お前の匂いを抱いて眠るんだ。
もしお前がいないときに、意識が途切れてしまっても、寂しくないように。



.

134本スレ480 刑事:2005/11/15(火) 22:00:29
刑事と聞いては萌えずにおれない私が、
遅ればせながら本スレ480の刑事ネタ投下していきます。


ここ二ヶ月、寝ても覚めても頭の中は奴のことばかりだ。
今や国中を震撼させてる、凶悪連続殺人犯。似たタイプの若い女ばかり七人殺ってる。
今週に入ってからまた一人。どれも美人だったなぁ。
…畜生、イイ女ってのは人類の貴重な財産なんだぞ。そう無闇に殺されてたまるか。
夢見は最悪だし、止めたはずの煙草にもつい手が出る。本数も順調に増量中だ。

明け方、仮眠室から這いずるようにして職場に戻る。
ブラインドから差し込む朝の光を受けて、銅貨のように輝く短い赤毛が目をふと惹いた。
山積みにされたファイルの谷間からちらりと覗くツンツン頭。
新米警部補殿は小難しい顔をして、パソコンの前でブツブツと独り言。ハッキリ言って薄気味悪い。
「オイ、朝っぱらから辛気臭い顔すんな。すこし力抜け。」
ガタガタと椅子の背を揺さぶると、驚いたように肩が大きく跳ねた。
「ああ…警部。ずいぶんな挨拶ですね。」
ノヴァリス警部補は顔だけこちらに傾けて、おざなりにそう答えた。


二人分コーヒーを淹れて、食の細い部下にせっせと飯を食わせる。
一回りちょい歳の離れた相棒は、
女房のように口うるさいくせに、ベイビーみたいに手が掛かる。まあ、優秀には違いないんだが。
「ねえ、警部。」
物を口に入れたまま喋るのは奴の悪い癖だ。ハムサンドをもそもそと頬張っているので聞き取り難い。
「…世界中を敵に回すのっていうのは、どんな気分でしょうね。」
「さあな。俺には想像も付かねえよ。」
俺は素直にそう述べたが、奴は完全に上の空だった。
焦点の合わない眼は、ここではない何処か遠くを見詰めている。俺は少々不安になってきた。
憎たらしいほど頭は切れるこの男は、その分繊細に出来てるらしい。
犯人の心理を追っかけて、そのドロドロした部分に危ういほど近付き過ぎることがある。
何か言わなくてはと思った。しかし、一体何を…?
「囮捜査でもしましょうか。警部、女装してくださいよ。」
不意打ちで奴は言った。あまりの突飛さに、咽へ入りかけてたコーヒーが逆流を起こした。
「馬鹿言え!185cmの女なんかそうそう居てたまるか。お前がやりゃいいだろ。ガイシャは赤毛、お前赤毛。ぴったりじゃねぇか。」
奴はニコリともせずに冗談ですよと言い、ぬるくなったコーヒーの表面を舐める。
「それよりあなた、煙草臭いですよ。今度こそニコチンとは手を切るんじゃなかったんですか。」
「俺はそのつもりなんだが、向こうがなかなかしつこくてなぁ。ズルズルと関係が続いてるわけだ。」
「だらしのない人だなぁ。そんなだから奥さんに逃げられるんですよ。」
減らず口を叩きながら、呆れたように肩をすくめた。まったく大きなお世話だ。

こいつはまだ大丈夫だ。なら、俺は尚更大丈夫だ。
奴の前では、いつものクールでタフで男前な俺でいなくちゃな。
内心どんなに参ってても、そう思えば少し、腹に力が入る。
このヤマを解決して一ヶ月のバカンスに出掛ける事を心に誓いながら、今日も単調な一日が始まる。

135萌える腐女子さん:2005/11/16(水) 23:40:56
本スレ499のお題、「抱擁売ります」
出遅れたのでこちらのスレに投下します。
ページの内容と一切関係なくてすまそ。

136本スレ499 「抱擁売ります」 1/2:2005/11/16(水) 23:41:42
マンションのエントランスに足を踏み入れてゾッとした。
下品な安物の香水の匂いを忘れきれていなかった愚かな自分にだ。
畜生。忌々しくてしょうがない。
「おつかれ」
忌々しいといえばこの男じゃないか。よくもこうノコノコと顔を出せたもんだ。
別れ際家にある包丁全部持ち出して散々脅してやったの忘れたのか。
果物ナイフやチーズナイフまで振り回していた自分が、今考えると滑稽でならない。
「おい、だいじょうぶか。自慢のスーツがヨレヨレじゃないか」
そんな顔してそんな声音で、絡めとろうたって無駄なんだよ。僕だって成長したんだ。
しかしいつもながらお前のタイミングの良さは本当に素晴らしいな。弱りきった最高潮の晩に現れやがって。
お前はタイミングの良さと運の良さと顔の良さだけで生きてるようなもんだもんな。僕の持ってないものばかりだ。
だから僕は馬車馬のように働くしかないんだよ。忍耐と努力と継続だ。お前に真似できるか。出来ないだろ。
「おい、さっきから何ブツブツ言ってんだ。気味悪ぃな」
「…気味悪いのはお前だよ。いったいここに何しにきた」
「ちょっと話があってさ」
「金か」
そう訊ねると目の前の男は口角を吊り上げてにやりと笑った。ああなんて下品な笑みだろう。吐き気がする。
胸が痛い。気分が悪い。身体が重い。耳鳴りだ。目が霞む。ベッドに沈むまではと堪えていた糸がぷつりと切れてしまったのか。
「またバイト首になったのか」
僕の声はあからさまに震えていたがもうどうでもよかった。取り繕うのも面倒だ。こんな男にも。自分にも。
「よくわかったな」
得意げに言うことではないことを得意げに答えて、男はそのまま演説でもするかのように腕を大きく横に広げた。
本格的におかしくなったのだろうかと、流石に僕は心配になる。
「何してるんだ、とうとう狂ったのか」
「ここでひとつの提案なんだが」
「なんだよ。金はやるからさっさと帰ってくれないか。自慢じゃないが僕は昨日だってろくに寝てやしないんだ」
「それは大変だな。何より肌の手入れに命をかけているお前が。まるで拷問じゃないか」
「そうだよ。だからあまり近寄らないでくれ」
「それは無理な相談だ」
「なんで」
「俺から買ってほしいもんがあるんだ」

137本スレ499 「抱擁売ります」 2/2:2005/11/16(水) 23:43:05
そうきたか。僕は心の中で舌打ちした。実際に行動に移さなかったのは、そんな余力残っていなかったからだ。
「壺か、札か、印鑑か……」
「そんなものよりずっとお前を癒してくれるさ」
「ばかばかしい。お前どこまで僕をコケにしたら」
「おいおい泣くなよ」
「泣きたくもなるだろ!ボロボロになって稼いだ金をたった今搾り上げられようとしてるんだぞ!」
「そんな考え方はよくないな」
大袈裟に眉を下げて嘆きながら、男が近づいてきた。僕はそれを滲む視界でぼうっと見上げる。抵抗する気力もない。
「お前は昔から肝心なとこが固くていけねぇよ。もっと柔らかくなんなきゃな」
知るかよ。でかい手のひらに頭を撫でながら思った。こういう性分なんだよ。仕方ないだろ。
どうやったらお前が戻ってくるかだって、いくら考えてみても上手く思いつけなかった。だから毎日毎日仕事に逃避して。
気が付いたら正面から抱きすくめられていた。
場所を考えてくれよと思うのだが、僕にはやはり、押し返すほどの力が残っていないのだ。
疲れきった全身を強い力で締め付けられて、心地良さに眩暈がする。身体の力が、呆気ないほど自然に抜けるのがわかった。
目の前に迫る首筋から安っぽい香水がかおって、その匂いが大好きだったことを、僕はぼんやりと思い出していた。

「よく考えろよ。お前には必死で働いた金があるんだからさ、欲しいもんはそれで取り返せばいいんだよ。犠牲にしたもんはそれで補えばいいんだ」

よくよく考えたらなんて言い草だろう。結局、金のせびり方をていよく変えただけじゃないのか。
僕は成長していたので、そんなものはあいつのただの言いがかりだってことを、じゅうぶん理解していた。
だが、あの日は本当に疲れきっていたのだ。
我慢の糸はとっくに切れていたし、目の前にはあいつがいたし。しかもこの身を抱えられていた。
それに、その言葉は、僕にはあながち間違いではないような気がしていた。
悔しいかなあいつは、僕が逆立ちしても考え付かないようなことを軽やかに言ってのけ、行き詰った僕に希望を見せることがある。
そこに乗せられるというのも、まぁ、成長した僕としては、許容する余地はあるんじゃないかと、思ったりなんかしたのだった。

「なるほど。なら上乗せするから、このまま僕の部屋のベッドまで運んでいってくれないか。いい加減クタクタだ」

僕が首に手を回したままそうこたえると、男は、「お安い御用さ。サービスで特別奉仕もつけてやる」と、したり顔で囁いた。
僕は困ってしまうのだった。
拒否したいのはやまやまだが、こいつを言い負かす気力なんてこれっぽっちも残っちゃいない。
しかし拒否しなかったところで、それに付き合ってやる体力も、僕には残っちゃいないのだ。

138449:2005/11/17(木) 03:02:21
同じく、本スレ449です。


「笑うよね。このニュース。抱擁を競売?そんな、たった一度で癒されるんだったら、僕は義兄さんとこんなになってないのに。」

義弟と初めて会った時、俺は17で義弟はまだ15だった。週に一度、訪ねて来てた父親が、お前の義弟だと言って公園で会わせてくれた。
忙しい父親と奔放な義弟の母親のために、幼いころから、孤独に慣らされていた義弟。
「乳母を母親だと勘違いしてたんだ。」
義弟が、ぽつりと話す思い出は、いつも痛い。
義弟が、家政婦とふたりだけで取り残されてた誰も居ない広い家には、無機質で不毛な時間が流れていた。

俺と半分だけ血の繋がった愛情に飢えてた少年。学校の事、友達の事、その日あった些細な話を、聞いてくれる肉親は俺が初めてだったらしい。
本当はただ抱き締めてあげるだけで良かったのかもしれない。
でも、肉親としての愛情を育むには、俺たちの出会いは遅すぎ、抱擁を性と区別するには、俺たちは幼な過ぎ、体も激しい変化の過程にあった。

「今のは、後悔してるって意味なのかな?」
「ううん。あんな偽善家の自己宣にありがたがって乗る、馬鹿な世間がおかしいだけ。」
義弟は笑って、首を振った。

139萌える腐女子さん:2005/11/17(木) 16:52:45
509「そろそろコタツ出さない?」
昨夜乗り遅れた上に無茶苦茶長くなったのでこちらにコソーリ投下。
ちなみにあるお話の続きになってますので、
続編ウザス!と思う方はすごい勢いでスルーすることをお薦めします。

140509(1/5):2005/11/17(木) 16:53:45

ずっと捜し求めていたぬくもりを手に入れた日。それはもうふたつきも前のことだ。
大切な人と、同じ町で同じように暮らしていること。一番会いたい人に、会いたい
ときに、いつでも会えること。
それがこの上もなく幸せなことを、僕は知っている。

夕方を過ぎる頃、芹沢は僕のアパートを訪れる。
手に缶ビールとカップ酒の袋を下げて、くたびれた上着を羽織った彼を僕が迎える。
二ヶ月の間に、季節は夏の終わりから冬の始まりに変わっていった。芹沢はほとん
ど毎日、僕の部屋にやってきた。
夜遅くまでふたりで酒を飲み交わしながら、じゃれあったり、世間話をしたり、テ
レビ番組にけちをつけたりしながら過ごす。
それが今の僕たちの当たり前になりつつあった。

141509(2/5):2005/11/17(木) 16:54:34

初めて木枯らしが吹いた日曜日だった。
その日彼は珍しく昼間から入り浸っていて、昼食を待ちながら黄ばんだ畳に寝転が
っていいともの増刊号を見ていた。
そんな姿を振り返り振り返り、僕はチャーハンを炒める。盛り付けを待つ皿は二つ
で、それがとても嬉しい。
「出来たよー。ほら座れー」
寝そべるジーンズのけつを軽く蹴飛ばして、僕は座卓に二人分の食事と温めた麦茶
を置いた。
それから、二人揃ってテレビを見ながらもくもくと少し早い昼飯を口に運ぶ。沈黙
がいよいよもって苦しくなってきたら、
芹沢がテレビに合わせてぼそりと「いいとも」と呟いた。それはとても彼らしくな
くて、僕は笑った。こんな風に彼と過ごせる日が来るなんて、思ってもみなかった。
食器を片付けて芹沢の横に座ると、本格的にすることが無くなった。ふたりでぼー
っとテレビを見ていた。
どんよりと曇った日で、外は薄暗い。明かりをつけた部屋の中ばかりが明るかった。
「……外、寒そうだな」
再放送のサスペンスドラマが佳境に入る頃、彼はふと顔を上げて言った。外では風
が音を立てて駆けずり回っている。
部屋の中にいても寒かった。外はもっと寒いだろう。そして夜は、今よりもずっと
冷えるだろう。
「今夜泊まってったら? 明日休みとってるんでしょ?」
ちなみに、芹沢は町外れの工場で働いている。僕はといえば今のところフリーターだ。
「ん? うん。でも、悪いからいいよ」
「悪くないって」
「そう?」
「そう」
「……分かったよ。泊まってくよ」
むかしから、芹沢は僕の心を見透かすのが誰よりも上手だ。帰ってほしくなかった。
一緒にいて欲しかった。
「飯は」「ちゃんと作るよ」
「布団は」「半分こすればいいじゃん」
「着替えは」「おれの着て」
彼ははにかみながら「しょうがねぇなあ」と言った。僕はそれを見て、子どもみた
いに笑う。

142509(3/5):2005/11/17(木) 16:55:06

散歩でも行こうか、と僕たちはふたりして町に繰り出した。
電信柱にへばりついたピンクチラシの切れ端が、木枯らしに煽られてばたばた暴れ
ている。外はやっぱり寒い。
とりあえず歯ブラシと下着だけコンビニで買って、ついでに晩酌用の缶ビールと焼
酎とおつまみを買って、僕たちは引き返した。
町外れの国道にかかる古い歩道橋を渡って、裏路地を少し行けば、そこが僕の住む
アパートだ。
何も無い小さな町だから、歩道橋を渡る人はほとんどない。その下を走る車もまば
らで、僕たちは思う存分ゆっくりと歩くことが出来た。
あの日ぼんやりと虹がかかっていた空は、冬の色をした雲で覆われている。僕たち
はどちらからともなく立ち止まった。

芹沢は何も言わない。僕も何も言わない。
こういうときは「愛してる」だの「好き」だの言えばきっといいのだろうけれど、
僕はそういうことを言うのにとても臆病な性質の人間だった。芹沢はといえば、僕
以上に言葉足らずだ。
僕は欄干に肘を乗せて、ちらっとだけ隣の男を見た。ずっと探していた人だった。
僕たちは長い間はなればなれに生きてきて、そしてその間に大人になった。諦める
ことや妥協することを覚えた。
それは少し悲しいことで、けれどとても自然なことだ。
けれど僕は諦められなかった。諦められずに、全てを捨てて彼を選んだ。つまり僕
たちがここにこうしていられることは、とても不自然で子どもじみていて、おかし
なことに違いなかった。
だから、何となく、ではなく、はっきりと、今なら分かる。数年前に思い描いてい
た幸せだけに満ちた未来が、決して訪れないことが。
それでもいいと折り合いをつけたのは僕と、そして彼もだから、そのことを後悔し
たりは決してしたりしない。
――けれど、ときどき無性に寂しさに駆られるのは、どうしてだろうか。

143509(4/5):2005/11/17(木) 16:55:38

「やっぱり、寒いな。三波、早く帰ろう」
芹沢の声で、僕はふと我に返った。顔を上げると、彼はもう歩き出すところだった。
その背中を見て、そういえばこの町で最初に見たときも後姿だったな、と何となく
思った。
「……あのさ。あのさ、芹沢」
呼び止めた。あの日のように、彼は振り返る。
「なに?」
「明日も、明後日も、……ずっとうちに泊まってきなよ。うちに帰ってきなよ」
僕は言った。本気だった。
二ヶ月間をふたりで過ごしてきて、その間漠然と考えてきたことだ。
ずっと前から言いたかったもっと格好いい台詞は、ついに出てこずじまいだった。
みっともなくどもりながら、僕はもう一度言う。
「一緒に。一緒に暮らそうよ」
そして芹沢は、何も言わなかった。
「だって、もうすぐ冬だから、だからひとりは寒いから。きっと辛いよ」
「……それはふたりでも同じだよ」
ぼそぼそした彼の言葉は、本当のことだ。ふたりでいれば暖かいわけでもないし、
ふたりでいれば幸せになれるわけでもない。それでも、
「それでもいいからさ。……駄目?」
芹沢はしばらく黙りこんだあと、伏せていた顔を少しだけ上げた。
少し照れた笑顔だった。

144509(5/5):2005/11/17(木) 16:56:10

「でもさ、そういえば三波の部屋、こたつまだ出してないよな。帰ったら出さなく
ちゃな」
芹沢は下を向いて早口で言った。彼は照れると少し饒舌になる。そして彼の言葉に、
僕は思わず「あ」と声を上げた。
「……実はこたつないんだ、うち」
「まじ?」「まじ」
まじだ。
「寒いじゃん。去年どうしてたの」
「石油ストーブ一個。あんまし家にいなかったし」
「うわ、悲惨。もうそろそろこたつの季節なのに」
そしてかわいそうなものを見る目で僕を見た後、彼は「うちの持ってこうか?」と
提案した。
「けどお前んちのって一人用のちんまいやつでしょ? あれじゃ駄目だよ」
「……あ、そうか」
「明日買いに行こう。ふたりで入れるくらい、でっかいやつ」
芹沢はこくんと頷いて、僕は嬉しくて同じように頷いた。
「じゃあ、帰ろう。うちに帰ろう」
「うん」
僕は笑って手を差し出した。彼は俯いてはにかんだままそれを握り返して、僕たち
は手を繋いで歩き出す。
「当然三波のおごりだからなー」
「共同出費じゃないの普通」
「安心しなよ、おれが選んでやるから」
「何それ」

――幸せになれなくてもいい。とりあえず、明日はふたりでこたつを買いに行こう。

145509・注:2005/11/17(木) 17:10:12
>>139見エナクナッテター!
続編とか嫌な人はぬるっとスルーしてください。

146510リク:2005/11/18(金) 01:13:46
 柳田俊彦は”可愛い”と評されるのを何よりも嫌う。
 上背のがっしりとした身体に岩を彷彿とさせる顔のせいか、人から避けられやすい。
 ただ、そんな彼は甘い物、例えばデパートの地下で扱っているケーキの類を何よりも好む。
いつものように有名所である店舗の前で並んでいた所、どうやら会社の者に目撃されていたようだ。
「柳田係長、この前東武デパートの地下にいませんでした?」
 翌日、席に座るなり部下たちが詰め寄ってくる。もし肯定すれば何を言われるかたまったものではない。
特に、可愛いだなんて言われたくも無い。
「ああ、ちょっと客人が来るものだからお茶請けにでもな」
 何だ、つまらんという反応が返ってくる。ほっとした瞬間、
「そうなんですよ。僕がいつもみたいに遊びに行ったら係長ったら先に食べてるもんだから。
この人ったらシュークリームが何よりも好きで……」
 最悪のタイミングで恋人である新入社員の三谷哲生が口を滑らせた。
 おそらくフォローするつもりだったのだろう。しかし、失敗どころか火に油をそそぐ結果となった。
この馬鹿とへらへらと笑う彼を睨みつけるがもう遅い。ああやっぱりという顔を浮かべ、いつも?と
疑問を浮かべる者もいる始末。
 柳田は一斉に向けられた視線に耐え切れずにその場から逃げ出した。
「待ってくださいよー」
 三谷は給湯室まで追いかけてきた。
「いいじゃないですか、別にばれたって。せいぜい”係長って可愛い!”って言われるだけなんですし」
 未だに心情を察しない三谷の頭に拳を振り下ろした。

147146:2005/11/18(金) 01:22:27
510リク→530リクorz

148本スレ530です。1/2:2005/11/18(金) 03:14:24
遅くなりましたが、やっと投下します。
ラーメン屋の店長×見習い


店長は無口だ。
仕事は天下一品で、俺は店長のラーメンに一目じゃない一口惚れした。
弟子はいらないと、嫌がる店長に頭下げてなんとか見習いにしてもらって、そろそろ一年になる。
無口な店長の代わりに客に愛想振り撒きながら、なんとか店長の味に近付きたくて、ずっと店長を見てる。
店長は俺の作ったラーメンをいつも一口すすり、麺を食べ、うん、とか、うーん、とか唸るだけ。やっぱり、何にも言わない。
一体どうなんだろう。俺の仕事。
今日はいつもより食べてくれるかな。
うーんじゃなくて、せめてうんうん、とか言ってくれないかな。あの表情は○なのか×なのか、ちょっとは口元緩めてくれないかな。
店長の顔ばかり見てる。
この不安な気持ち、どうしようもないよ。
俺、夢にまで見るんだよ。店長の顔。
無口だけど静かで穏やかな感じの店長の顔。ああ、横向かないで。
今日は店長どんな顔見せてくれるかなって、毎日店長のことばかり考えて、ドキドキしながら店に来る。
なんだろう。なんか、ラーメンに惚れたのか店長に惚れたのか分かんなくなってきた。
熱出そうな感じ。
頭ぐるぐるしながら、ラーメンを店長の前に置いた。どんな顔するかな?
にっこり笑ってくれれば、それだけで俺、泣くかも。

149本スレ530 2/2:2005/11/18(金) 03:18:17

「店長、笑ってくださいよ。」
あれっ、俺なんか今、とんでもない事言ったかも。
焦って飛び起きた。
ん?俺なんで寝てんの?じゃ、さっきのは夢?
今何時だろうと思って見渡すと、見慣れない部屋のベッドに寝てた!
見たことない部屋。
だけど、不安な感じはしない。なんだろう?この、良く知ってるような感じは。それに、なんか温かくて涙が出るみたいな、この感じ。

「目が覚めたか?」
店長が、ほかほかと湯気の立つ、小さな鍋をベットの横に置いた。なんか、心配そうな顔。俺の額に手を当てて、少し、穏やかないつもの表情に戻った。
「店長、あの俺…。」
「熱はないみたいだな。これでも食べてゆっくり寝てろ。俺は店に行って来るから。」
って、店長、俺の頭を撫でて行っちゃった。
俺はどうやら、ぶっ倒れて店長の部屋に運ばれて、一晩寝てたらしい。
でも、俺は見たぞ。
部屋出る前、なんか、店長、すっげー優しい顔で、俺を見て微笑んだのを。

俺は、店長の作ってくれた絶品のお粥を、この上ない幸福な感じを覚えながら味わって食べた。
ふと、気付くと、鍋の下に手紙があった。


店の品書きと同じ、店長の見事な筆跡。


『頑張ってるのは、良く見てる。気にしないでゆっくり休んでいなさい。
近頃は少し頑張り過ぎたみたいだから、来週は休みを取って、慰安旅行でもしよう。

―今度、もっと笑うようにするよ。段々、良い仕事になってきたね。ー』


文字、霞んで見えなくなってきた。

150本スレ559 盲目の方攻め:2005/11/19(土) 00:37:46
※でおくれました…。


そっと手を伸ばす。指先が、てろりと奇妙なさわり心地の皮膚に届く。
にや、と彼が笑った。洋灯の黄色くあたたかなひかりに俺たちは包まれていた。
「痛みませんか、我が君」
「よせ、くすぐったい」
彼の両目の上を走る大きな、火傷のような刀傷は普段は黒い布で隠されている。
この傷を見ることが出来るのは多分床の中だけだと俺は思う。
ゆっくり、俺は傷をさわった。俺はこの傷の由来を知らない。
城の誰もが口を閉ざし、誰より彼が何も言わない。
もちろん、俺には問う資格も無ければ権利も無い。
「妙なやつだな、…おい、よせ…」
あまりに長くさわり続けていたために彼の気分を害してしまったらしい。
あ、失敗したな。
と思った時にはもう遅く、俺の足首の鎖がジャラリと音を立てた。
「奴隷風情が、調子に乗るな」
奴隷風情だから調子に乗るのですよ、我が君。
まだしつこく彼の傷にふれていた俺の手は、彼の手で押さえつけられてしまった。
ああ、失敗した。

151萌える腐女子さん:2005/11/19(土) 06:09:30
すっかり出遅れましたが本スレ449、
「クリスマスまではあと1ヶ月」を投下します。
お客視点とバーテンダー視点と2種類ありますが、
気に入らない人はどうかスルーで。

152クリスマスまではあと1ヶ月。(customer side)1:2005/11/19(土) 06:11:24
「…ごめん、好きな人できた」
唐突に告げられた別れの言葉。
それも、今年のクリスマスはどこで迎えようか?と話してる真っ最中に、だ。
「う…嘘だろ?」
何度その言葉を否定してもあいつは「ごめん」と謝るだけで、
俺の何が気に入らなかったのか、相手は誰なのか、
いつから俺を好きでなくなったのかという質問にも答えようとしなかった。
「ごめん。本当にごめんな」
そう言ってあいつは俺の頭をくしゃっと撫で、俺の前から立ち去る。

どれぐらいそうしていたんだろう。
俺はあいつが立ち去った後もずっとその店のカウンター席に座ったままで。
「あの…お客様。そろそろ閉店なんですが」
とカウンターの中のバーテンダーに言われてふと気づけば
目の前のロックグラスに入ったウイスキーはすっかり氷が溶けていて、
とんでもなく薄い水割りと化していた。
閉店と言われてしまった以上、このままここに居座るわけにはいかない。
慌ててその出来損ないの水割りを一気にあおる。
出来損ないとはいえ元はアルコール度数の高いウイスキー、
食道から胃に伝い落ちるまでにちりちりとした熱さを感じる。
まるでそれはたった今失恋したことを身体に実感させてるみたいな感覚。
不意に目の前が歪む。というより、滲んで視界が曇る。
「す…い…ませ……。すぐ……出ますから…」
と口では言ったものの、立ち上がることができない。
「仕方ありませんね」という声が聞こえた気がしたが、
俺が鼻をすする音に混じってしまったのと、
涙を止めることで精一杯になってしまったことで
実際にはバーテンダーが何を言っていたのかよく分からなかった。

153クリスマスまではあと1ヶ月。(customer side)2(終):2005/11/19(土) 06:12:39
やっと涙を止めることができたと思ったそのとき、
すっ…と音も立てずにカウンターの向こうから
差し出されたお絞りに気づいて顔を上げる。
目の前に立っているはずのバーテンダーの顔は俯きがちで見えなかった。
バーテンダーの視線の先へと自分の目線を下げれば、
シェイカーの中に数種類の酒を入れている真っ最中。
数個の氷を入れてふたを閉め、慣れた手つきでシェイカーを振る。
シャカシャカシャカシャカ…と、小気味良い音がしばし続いた後、
キャップを開けてそれをカクテルグラスに注いだ。
その一連の動作、特にこの人のは機敏かつ優雅で美しい、と思う。
何軒もバーを訪ねたわけでもないし、
バーテンダーの動きをじっくり眺める機会も数多くないが。

仕事終りの一杯としてバーテンダーが飲むのだろうと思っていたカクテルは、
なぜか俺の前に置かれた。
「あ…、え? あの…これ…」
「この分のお代は結構ですから、
 これを飲んだら今日のところはもうお帰りください」
そう言って彼は忙しそうにカウンターの上を片付け始めた。
「……あ、ありがとうございます。いただきます」
訳が分からぬままとりあえずお礼を言い、俺はそのカクテルを一口飲んだ。
鼻腔をくすぐる甘い香り。けど、嫌いじゃない香りだ。
それからフルーツ、それも柑橘系の甘さが爽やかに口の中に広がる。
後追いで伝わるアルコールの心地よい苦味。
「おいしいな、これ…」
3口で飲み干し、お代わりを…と言いかけて、
そういえばこれ飲んだら帰ってくれと言われたことを思い出し、
レジで会計をするついでに聞いてみた。
「あのカクテル…何て名前ですか?
 次来たときにまた飲みたいんですけど、
 初めて飲んだから名前知らなくて…」

バーテンダーは少し考えた素振りを見せた後、
「お客様、今日から1ヵ月後には何かご予定はございますか?」
と聞いてきた。
俺は咄嗟のことに何も考えずに「いえ、何も」と答えてしまったが、
その答えに彼は
「では、覚えていたらで構いませんから、
 1ヵ月後にもう一度ご来店ください。
 ご来店いただければそのときにカクテル名を申し上げますよ」
と少し微笑んで、深々とお辞儀をした。
謎めいた言葉に首をかしげながら、俺は店を後にする。
1ヵ月後? 1ヵ月後ねぇ…とタクシーの中で携帯電話を取り出し、
スケジュール機能を呼び出してみた。

154クリスマスまではあと1ヶ月。(barman side)1:2005/11/19(土) 06:13:48
お連れ様と一緒にときどき店にやってくるそのお客様は、
どちらかといえば店の雰囲気にはあまりそぐわないタイプの人でした。
最初に来店したときにメニューを見て、
「見てもよく解んねぇなぁ、俺こういうとこ来るの初めてだし。
 カクテルなんて女が頼むようなもんだろ、ラムネサワーないっすか?」
とまるでチェーン店の居酒屋メニューから抜け出せないかのような
注文をしてきたぐらいなのですから。
逆にそれが印象に残ってしまったのも事実ではありますがね。
それが2回、3回と来店するたびに
お連れ様の好みに合わせて少しずつ勉強しているのか、
「ふぅん…前飲んだ店のモスコミュールと味違うなぁ。こっちの方が飲みやすいや」
「うわっ、マティーニってこんな味だったのか。
 飯食う前に飲めばよかった…」
とメニューから選んで一口飲んだ後、
感想というか独り言というか何かしらひと言残してくださるようになり、
こちらとしてもこのお客様からいろいろ勉強することがございました。

どうやら最近は「量が少なくてすぐに飲み終わってしまう」カクテルよりも
少しずつ味わって飲めるウイスキーがお好みのご様子、
この日ご注文いただいたのはマッカランの7年物をロックで。
繊細な味の違いをお分かりいただけるなら
12年物をお勧めしたいところですが、
そこはお客様の懐具合もあることなので黙っておりますけれど。
ロックグラスを片手に持ち、お連れ様と話す姿は
なんというかこう、見ていてとても絵になる雰囲気があります。
できればお連れ様ではなく、
カウンターのこちら側にいる私に話しかけて欲しいと
思うようになってしまったのは、いつの頃からでしょうか。
酒にまつわる話以外に何もないというのに、我ながらおかしなものです。

155クリスマスまではあと1ヶ月。(barman side)2:2005/11/19(土) 06:15:36
さて、それまでのいつもと変わらぬ風景に異変が起きたのは、
そろそろ終電が出る頃だろうという時間でした。
他のお客様のお相手をしつつ耳を澄ましてみれば、
なにやらお連れ様と言い争いをしているようで。
周りのお客様のご迷惑にならないように気遣ってか
小声にしてはくださるのですが、
如何せんお話の内容はお二人の別れ話、
それも同性同士のものとあればどうしても聞き耳を立ててしまう。
結局お二人はこの場で決別したご様子、
お連れ様の方が先にお帰りになると
後に残されたお客様は茫然自失の表情のまま固まってしまわれて。
お声を掛けるのも憚られるのでそのままにしておきましたが、
閉店時間が過ぎて他のお客様がお帰りになっても
まだそのままでいらっしゃいます。

仕方なくこちらから退店を促すようにお声を掛けると、
今さらのようにご自分のおかれた状況を理解されたのか、
はらはらと涙をこぼされている。
さすがにこの状況でお帰りいただくのはどうかと思い、
表の看板を「CLOSE」に掛け変え、
お客様の涙が止まるのをじっと待っておりました。
涙に暮れるお客様の姿を見ているうちに
なんだか私は非常に切ない気持ちになってまいりまして、
なんとかして差し上げたい、慰めるとまではいかなくても
少しお心を楽にしてさしあげたいと思ってしまいました。

そうはいっても私にできることといったらカウンターのこちら側で
お客様の好みに合わせた酒を振舞うことしかできません。
歌の文句にそんなのがあった気もしますが、
私はこのお客様のためにカクテルをお作りしようと考えました。
ときどき注文があるカクテルですからレシピは頭の中に入っています。
ブランデー、ホワイトラム、ホワイトキュラソーを同量に、レモンジュースが少量。
このお客様は辛口の酒がお好みですから、
ホワイトキュラソーはトリプルセックにしてみましょうか。
シェイカーに注ぎ入れてふたを閉め、
しっかりと両手で持って振り始めます。
よく混ぜるためには言うまでもありませんが、
お心を痛めたばかりのお客様のことを思って丁寧に、
しかし混ぜすぎて泡立たないように気をつけて。

156クリスマスまではあと1ヶ月。(barman side)3(終):2005/11/19(土) 06:17:07
出来上がったカクテルをグラスに注ぎ、お客様にお出しします。
理由が分からず不思議そうな顔をするお客様に向かって
「それ飲んだら帰ってくれ」だなんて、
もう少し言い方がありそうなものなのに
そう言ってしまったのはこちらにもあまり余裕がなかったから。
それ以上詮索されたくなくて、
カウンター上を片付ける素振りなどしつつお客様の反応を窺います。
「おいしいな、これ…」
そう言われてほっとしました。
このひと言こそバーテンダー冥利に尽きるというものです。

会計を済ませる段になって、
突然カクテルの名前を聞かれて少し慌てました。
それまでご注文を承る以外に話をしたことがなかったのに、
急に願ってもいなかった会話のチャンスがやってきたのですから。
そのまま素直に答えてもよかったのですが、
次の機会を是が非でも作りたくて、
思わず1ヵ月後のご来店をお願いしてしまいました。
もし忘れてしまったとしてもそれはそれまでということで構いませんが、
このカクテルの名前が
「ビトウィーン・ザーシーツ(ベッドに入って)」という名前だと知ったら、
このお客様はどんな顔をされるのでしょう?
呆気にとられるか、笑われるか。それとも「ふざけるな」と怒られるのでしょうか。
そう考えただけで私は期待と不安とが入り混じったような気持ちを胸の奥に感じます。
ちょうど1ヵ月後はクリスマス。
たとえその日にご来店されなくても、それまでの間にこのお客様のために
なにかオリジナルのカクテルを考えようと思いながら、
私は店のシャッターを下ろして帰路に向かいました。

===============
以上です。
なんだかどちらも萌え分控えめになってしまいました。スマソ

157579いやいやながら女装1/2:2005/11/21(月) 02:07:07
ゲト出来なかったのでこちらで。



この場合、学園物は定番過ぎると、時代劇の萌えあらすじを。


ある城に政略結婚をさせられそうな姫がいます。だが、姫には相思相愛の身分違いの相手がいて、ふたりで駆け落ち、でなければ心中しようかと。
そこで、姫の恋人に密かに恋をしている若侍が、恋する相手に悲しい思いをさせたくないがために、自分の想いは胸に秘めたまま、泣く泣く想い人の恋を成就させようと、深夜、ふたりを手助けして逃がしてやります。
当然、翌朝城は大騒ぎ。姫は居ないは、婚姻の日取りまで間がないは、なんせ弱小国ですから、この結婚を破棄して相手の大国に恥をかかすなんて死活問題。
そんな大騒ぎの中、姫を手助けして駆け落ちさせたのが、若侍だとばれて、責任を取って切腹させようかという事に。若侍も元よりそれは覚悟の上、白装束を身に纏い、いざ切腹をしようとした所、若侍の美貌に目を付けた侍従が、別の形で責任を取らせるのも一計。姫が見付かるまで、その若侍に身代わりになってもらいましょう。顔立ちも少し似ていることもありちょうど良いと、提案。
そこで、試しに無理矢理女装させてみたところ、これが思いの他、惚れ惚れするような美しさ。姫よりも美しい位。相手の大国は当時の事で、姫の顔も良く知らないのをこれ幸いと、姫の身代わりに結婚させて、暫く誤魔化そうとなります。若侍は、そんな事なら切腹をと望むのですが、当然拒否できる訳もなく、恋敵でもある姫の身代わりに、祝言を上げさせられてしまいます。
相手国の殿は女装した若侍を一目見て、いたく気に入り、美しい姫を貰ったと大満足。
ここで、弱小国は一先ずほっと胸を撫で下ろす訳ですが、若侍にはこれからがてんやわんや。祝言の席上は何とか誤魔化せたものの、何時男とばれるか分からない。第一、夜の伽はどうにもなるもんじゃなし、しかも、相手の殿は若侍を姫だと信じて疑わない訳ですから、夜毎迫ってくる。何とか幾晩かは、逃げ回って槍過ごしたのですが、当然、何時までも隠し通せるものじゃなし。
とうとう、組み敷かれてばれてしまいます。ところが、この殿様、実は男色の趣味が元々ありまして、男でも全然構わない処か、寧ろ大歓迎。祝言の時から若侍にぞっこんだったものですから、嫌がる若侍は哀れ、そのまま押さえ付けられて殿の餌食に。

158579いやいやながら女装2/2:2005/11/21(月) 02:11:55
その上、女装した若侍の妖艶な躰に、殿は事の他満足なされ、弱小国に次に女の子が産まれたら、その娘を人質に出せばこのままでも良いと、おとがめ無しに。
哀れなのは若侍ですが、泣く泣く、夜毎の伽の相手を為せられるうち、何時しか、躰が慣らされて、引き裂かれた心にも殿が入り込み、恋仲に。これでドタバタの悲喜劇は目出たし、目出たしと相成ります。

159629 Now, I wanna be your........!:2005/11/25(金) 10:35:54
リクに萌えたので、こっちに投下します。

===========================
お隣に住む外国人は、さっぱり日本語を覚えない。
なんでも、どえらい外資系の会社の社員らしく、二つ返事でオーナーが部屋を
貸したのだそうだが、雇われ管理人の俺としては、言葉が通じないので、何を
しているのかはさっぱり分からない。
しかし、異文化交流とでも思っているのか、俺に、頻繁に話しかけてくる。
最近では、朝食と夕食を俺が作り出すと、インターフォンを押して、一緒に
ゴハンを食べていくようになった。
外国人というのは、こんなにも強引で図々しいものなのか。
でも、家賃を持ってくる時に、大きなプレゼントをいくつも買ってくるので、
多分下宿か何かと勘違いしているのだろう。"I love you."と頻繁にささやいて
くるので、親愛の情は持っているようだし。まぁいいか。

"Oh,delicious. Nice tasty."
そして今日も、俺の家で刺身を食べながら、日本酒を飲んでニコニコしている。
「おいしいか」
言葉が分からないが、笑っているということは美味しいのだろう。
俺は、外国人が持ってきたワインを飲みながら、空になった外国人のオチョコに、
日本酒を注ぎ足した。
なるほど、白ワインと刺身があうというのは、本当なのか。確かにおいしい。
目の前でクツクツ煮たっている鍋も、そろそろ食べごろだろう。
俺は、「食べようかー。何が食べたい?」と言って、外国人の前に置いていた器を
取るよう、手をだして促した。すると、外国人はすっかりだまりこんだ。そして、
俺の手をガッシリと握った。
「ん? 何だ? 鍋はまだ食べたくないのか?」
外国人は、何か切羽詰ったような顔をして、俺を見ている。何か俺の顔を見ながら
早口で喋っているが、残念ながら、何を言っているか分からない。何だ。お前の
嫌いなタコとかは、鍋には入ってないぞ。違うのか。そうじゃないのか。
"Now, I wanna be your........! "
知っている単語が、俺の耳に飛び込んできた。
あぁ、そうか。こいつの言いたいことは、これだろう。
「分かった。白ワイン飲みたいんだな。ヒラメの刺身に白ワイン、確かにおいしいもんな」
外国人は、ほっとしたのか、がっかりしたように、俺の手を離した。子供のようだ。
グラスを出して、白ワインをついでやると、一気にそれを飲み下す。
「がっつくなよ。ゆっくりやろうぜ。ほら、鍋が煮えすぎちゃうぞ」
もう一杯ついでやって、グラスをあわせると、目元を赤くして、瞳をうるうるさせた外国人が
俺をじっとみていたので、もう一回「乾杯」とグラスをあわせた。

翌日から、英和辞典を持って、外国人はゴハンを食べにくるようになった。
「ゴハン………オイシィ?」
「あぁ、おいしいか。ありがとう」
「But…no…ah…シカいシ、わたし……………ホシイモ?………………アナタの……コンコロ」
「ん? ホシイモ? あぁ、俺が食べている煮物のことか? 芋の煮っころがしだろ。
 食べたければ、おかわりあるぞー」
うまく意思疎通とれている。
ペラペラと必死で英和辞典をめくっている外国人。
俺も、今日あたり、和英辞典買って、それで会話するかな。
いつか二人ともペラペラになったら、食卓も、もっと楽しくなるだろう。

160659 ツインを取ったはずが手違いでダブルに:2005/11/27(日) 00:36:42
萌えたので書いてたら手違いじゃなくなっちゃった…orz

-----------------------------------

「あ」
ぽつんと奴の口から零れ落ちた不振な声に、身構えたときには既に遅かった。
「かっちゃん、ごめーん。間違えてた」
「……またか」
溜息をぐっとこらえる。
こいつはいつもそうだ。図体はでかいくせにぼんやりしていて、必ずひとつふたつ抜けている。
そのたびに迷惑をこうむるのは幼馴染の自分で、正直惚れた弱みさえなければとうに見放しているところだ。
もはや何度目になるか分からない「なんでこんなの好きかな俺」を胸のうちに秘め、続きを促す。
「で、今度は何だ?部屋が違うのか、鍵を忘れてきたのか」
そう言って手元を覗き込むが、鍵は確かに持っているし、番号も目の前のドアに刻まれているのと同じだ。
「なんだ、合ってるじゃないか」
「や、そっちじゃなくて」
じゃあなんだと言うのか。まさか、せっかくの旅行を台無しにするような間違いをしでかしたんじゃないだろうな。
「いやぁ、こういう、俺らだけで計画した旅行って初めてだろ?だからさ、ホテルの予約がよく分からなくてさ」
言いながら、がちゃがちゃと鍵を回し、ドアノブをまわして。
「ほんと、ごめんね」
扉が開いた瞬間、目に飛び込んできたそれに、俺はあんぐりと口をあけた。
そこにでんと鎮座ましましているのは、キングサイズのダブルベッドで。
「ツインとダブル、間違っちゃった☆」
てへっ。
そんな天然アイドルみたいな仕草、ごついお前がやってもキモいだけなんだよ!と怒鳴ることすら忘れ、呆然と固まり――
俺は叫び声を上げた。
「この、バカシゲ!とっととフロントへ行って部屋替えてもらってこい!!」
「えー、いいじゃんこの部屋で」
だが、あろうことかこいつは反論してきた。
「なっ」
「俺とかっちゃんの仲じゃんよぉ」
その言葉に頬が熱くなる。
落ち着け、落ち着くんだ俺。こいつの言葉に他意はない。こいつは別にそういう意味で言ったわけじゃなく――。
「幼稚園のころなんか、しょっちゅう一緒に寝てたし」
そう、この程度の認識なんだ。
奴にどんな風に思われているのか改めて知って、軽く落ち込む自分が嫌いだ。
「それとも、何?かっちゃんは俺と寝るのは都合が悪いの?」
「…そういうわけじゃない。あーもういいよ、ここで」
はぁ、と重く溜息をついて、荷物をしまうためにクローゼットを開ける。
今夜は眠れそうにない。



クローゼットの扉の内側についている鏡は小さくて、だから俺は気付かなかった。
後ろで俺を見ていた奴が、にやりとほくそ笑んでいたことに。

161699 裏切り者:2005/11/30(水) 03:36:06
出遅れにつきこっそり。チラ裏の214氏とは別人です。
______________

「うわーん、タケルー。ヨシが裏切ったぁ」
ぴーぴー泣きわめきながらカズヤが首にしがみついてくる。
背中を撫でてなだめ、タケルは憮然とした表情で後からやってきたヨシヒロに視線を向けた。
「で、今度は何事?」
「なんもしてねぇよ、俺は」
「嘘つけ、裏切り者のくせに!」
瞳いっぱいに涙を溜めたまま、カズヤは振り向いてヨシヒロに人差し指を突き付ける。
タケルははしたない、とその指を握って、ヨシヒロに目で促した。
「つか俺ァ、カズの『同盟ごっこ』に参加した覚えはないぞ」
「ごっこって言うな!」
「ごっこで十分だ。なんだ『バージン同盟』って、こっぱずかしい」
カズヤの趣味は同盟を組むことだ。それもほとんどが「抜け駆け禁止」を掲げたもので、
タケルとヨシヒロはいつも引きずり込まれている。
同じ先輩(♂)に惚れていたときの『紳士同盟』から始まって、全員フラれて『フリー同盟』、
今度は別々の人(全員♂)に恋をして『片思い同盟』と変遷を重ね、そろって彼氏持ちとなった今は
『バージン同盟』と称して「秘密でエッチすましちゃわないこと!」と一方的に約束させられている。
「え、じゃあヨシ、やっちゃったの?」
「まぁその、なりゆきっていうか、雰囲気っていうか」
「約束破ったー。ヨシの裏切り者ぉー」
「だから約束してないって。だいたいセックスなんて、恋人がいれば自然な流れだろ」
気怠そうに髪を掻き上げる仕種が色っぽくて、タケルはちょっとドキッとする。
遊び人のヨシヒロが未経験なんて最初は信じられなかったが、今ならその違いが分かる。
「そんなの、シンイチさんが大人だからだろ。俺はアツシといてもそんな空気にならないぞ」
「そりゃカズたちがお子様だからじゃねーか。タケルなら分かるよな?」
「え、タケルももうやっちゃったの?!」
「え、あの、」
急に話を振られて、タケルは顔が真っ赤になる。
ユウスケと二人きりの時は、そういう空気になりやすい。彼に「先輩」なんて甘く呼ばれると、
もうどうしていいか分からないくらい身体が熱くなる。
だがそのたび、勉強だなんだと理由をつけてタケルはごまかしてしまうのだ。
まごまごと俯いていると、勘違いしたカズヤが再び騒ぎだした。
「うわーん、タケルにまで裏切られたー」
「ち、違、ままままだやってないっ」
「そうだぞカズ。お堅いいいんちょーのタケルが、そうそうエッチに持ち込めるわけないじゃん」
「う、うるさいよ!」
けらけらと笑うヨシヒロに怒鳴り返しながら、そういえばどの同盟の時も、
最初に裏切ったのはこいつだったな、とタケルはなんとなく思い出した。

162同じく699裏切り者1/2:2005/11/30(水) 21:57:43
やっと時間が出来て、書きたかったお題を投下します。



舞台は少し前の時代、東西ドイツ分断間もない頃なんかどうでしょう。
国境を越えようとして逮捕された受けを、攻めが助けるというシチュ。攻めには国境警備隊の長を勤める父親がおり、攻めもその下で働いていて、仲間と肉親を裏切って受けを助けるわけです。
ふたりで逃亡して行くのも萌えですが、この場合、受けは攻めとは別の男、西側にいる攻めBに会いたくて国境を越えようとしていたというのもいい。

三人は幼馴染みだったりして、攻めAも、受けの気持ちが自分には向かない事を知っているし、受けも攻めAの気持ちを知っている。
で、


ガチャガチャと牢獄の鍵の開けられる音に、また取り調べかと瞼を開けるのも億劫に横になったままでいると、
「ヘルムート、ヘルムート!」
良く知った声が名を呼んだ。
「何しに来た?」
幼馴染みのマイヤーだった。
「早く、逃げろ。」
「放っておけよ。」
ヘルムートは抱き起こそうとする手を振り払って言った。
「お前、裏切り者にるなる気か?とっとと帰れ。」
「もう手遅れだよ。」
マイヤーはニヤリと笑って、血の付いたナイフを見せた。
「殺っちまった。看守を数人。一緒に逃げよう。さっ、早く!ルートは確保してある。」

思うように立てないヘルムートにマイヤーは肩をかして歩き出した。
「無理だろ。これじゃ。やっぱり俺は残るからお前だけ行けよ。」
「ヘルムート、お前が生きなきゃ意味がないんだ。」


そして、
逃亡途中、盗んだ軍用車の中で昔の思い出を語り合ったり、ふと二人黙り込んで目を合わすも、すぐに互いに違う方向を眺めたり、でも、お互いの胸の思いは語らない。語ってもどうにもならず、互いを苦しめるだけだということは痛いほど分かっているから。
ふと、マイヤーが言う。
「俺、馬鹿だよな。」
「うん。」
そして、また沈黙。

163699裏切り者2/2:2005/11/30(水) 22:02:36
どうにか国境を越えると、マイヤーはヘルムートの手を握って言った。
「じゃあな。ここからはお前が一人で行け。」
なんとなく予測していた言葉に
「ああ。」
と、答えて、そして、ヘルムートはマイヤーを抱き締めた。

今、越えた国境の向こうから銃声が響くのが聞こえた。

暫く、そうしていた。やがて、マイヤーは涙に濡れたヘルムートの頬を親指で拭い、
「ごめん!」
と、唇に数秒間のキスをすると、顔をそむけ、背を向けて歩き出した。
その背中にヘルムートが言った。
「お前は何処へ行くんだ?」
マイヤーが、振り返らずに答えた。
「さあな。」
少し、その背中を見送っていたヘルムートは、遠ざかって小さくなった人影に叫んだ。

「一緒に行かないか?」
背中から答えが返ってきた。
「Auf Wiedersehen!」
ヘルムートも満身の思いを込めて同じ言葉を返した。

「Auf Wiedersehen!」
『また会おう!』の意味を持つ、ドイツ語のさようならを。

164萌える腐女子さん:2005/11/30(水) 23:08:32
出遅れました。本スレ709「目の下に隈 」
---------------------------------------

そのシステムにバグが見つかったのは午後、お茶の時間の少し前だった。
小さなバグと言えどかなり遡ってシステムを組み直さなければならない。
面倒なことになった。
しかもそのクライアントが指定した納期は明日の午前中ときている。

開発室の面々はそれぞれ仕事を抱えていて、片手間に手伝うぐらいは出来ても組み直しを出来るほど
手の空いている人間はいない。
手が空いていると言えば僕だけだが、手伝わせてもらうだけで精一杯の駆け出しが明日までに
システムを組み直すなんて離れ業、できっこない。

どうするのか、と全員が青い顔で成り行きを見守っていたが、「責任者は俺だから」と室長が役目を買って出た。
急ぎでない仕事は後に回し、何名かに仕事を振り分けて、組み直しを始めた。

ある程度は出来上がったものをなぞるだけの作業とは言っても膨大な量だ。
当然定時になんか上がれない。
一人、二人と遠慮がちに帰っていく中、帰りそこねた僕と室長だけが残った。

「いいからもう帰れ。朝までかかるぞ」
「いえ、買出しとか、少しぐらいなら手伝いも出来ます。僕も残ります」

口を利く時間も惜しいのか、室長は「わかった」とだけ言って作業に集中した。
時折僕に仕事を渡す室長の声。
時折僕がコーヒーを淹れる音。
後はキーを叩く音だけが響く。

室長のデスク周りにだけ灯された明り。
眼鏡を外して目を擦る室長の横顔に見惚れた。
室長は僕が残ると言い出した真意を測りかねていることだろう。

不意にキーを叩く音が止み、椅子を軋ませて室長が身体を伸ばした。

「終わった。チェックも完了だ。朝までかかると思ったけど意外と早かったな」
時計は3時を少し回ったところだ。
「よかった。少しは眠れますね」
「お前が手伝ってくれたおかげだよ。ありがとうな」
そういってくしゃりと髪を撫でられた。
頬に熱が集まるのがわかったがこの明りでは気付かれることもないだろう。

「室長、隈できてますよ」
こんなに暗いのに室長の目の下にできた隈はくっきりとしてよくわかる。
「仮眠でも取るか。お前も来い。午前中いっぱい寝ててもいい」
無意識なのだろうか、何気なく肩を抱かれて心臓が跳ね上がる。

「あ、あの……」
「お前と一緒に徹夜で残業なら後2,3個バグが見つかってもいいぐらいだ」
「だめですよ、室長には隈なんて似合いません。これっきりにしてください」

室長は軽く笑って僕の頬にキスをした。
今度は僕の心がバグを起こしそうです。そうなったら室長が直してくださいね。

165749 ストイックなのに一部エロ:2005/12/04(日) 14:22:13
生徒会副会長兼風紀委員長、という肩書きを聞くと、あの先輩のことがだいたいイメージ
できるんじゃないんだろうか。
ツメエリを、ピッチリ上までつめて、頭のてっぺんからつま先まで、まるで生徒手帳から
抜け出してきたようなルール通りの服装でいる。しかも、その服装に、シミがついて
いたり、着崩れたり、ということが、一度もない。
先輩と同級生の人たちに聞いても、やっぱり、乱れたりしていることが、一度もないんだ
そうだ。また、男子高校にも関わらず、彼に下ネタをふる勇気がある人もいないらしい。
禁欲的。ストイック。多分、そんな言葉で表すといいんじゃないかな。
そんな先輩に、俺は恋してる。

その日は、俺にとって、記念すべき一日だった。
なぜなら、生徒会の一員になれたからだ。
正確にいうと、生徒会役員の使いっぱしりという噂の、生徒会補助員になっただけなのだが、
それでも俺は、先輩に少しでも近づける嬉しさで、一杯だった。
だから、浮かれすぎた俺は、集合時間に指定されていた30分前に到着してしまった。
先輩は、多分、早めに来るだろう。二人っきりになったら、何を話そう。
俺は、いきおいよく「失礼します!」とドアを開けようとしたら、つんのめった。
あれ? ドアに鍵がかかっている。
まだ誰も来ていないんだ、と、しょんぼりして、俺はドアの前にしゃがみこんだ。
何だ。誰よりも一番に部屋に入って待ってたかったのにな。バカみたいだ。
…しばらくして、中で声がすることに気づいた。

「…さっき、誰か来たじゃないか…」

先輩の声だ、ということに気づいた。
誰かと中にいるらしい。俺は、開けてもらおうと、立ち上がってドアをノックしようとした。
しかし、次に聞こえてきた言葉で、固まった。

「気にするなよ。集合時間まで、まだ時間あるだろ。それまでに、コレ、どうにかしとか
 ないと、副会長の威厳が崩れおちるんじゃねぇのか?」
「君は…っ!」

ピチャピチャと、水気のある音が聞こえてきた時点で、僕は、今扉の中がどういう状況なのか
悟った。今の副会長の相手の声は、何度か聞いたことがある。会長だ。
俺は、ドアにベッタリと耳をつけて、全神経を耳に集めた。
扇情的とも言えるぐらい、色っぽいあえぎ声が、息が、聞こえてくる。
副会長が、あんな声を…!
俺は、そのままトイレにかけこんだ。



しばらくして、集合時間5分前に行くと、何事もなかったかのように、制服をピッチリと着た
副会長が、部屋で待っていた。その横には、会長。もうすでに何人か、同じ生徒会補助員の
人たちも来ている
俺は、会長と副会長に挨拶をしながら、ふと気づいてしまった。
「先輩、首にアト…」
言いかけて、やめた。というか、言えないことに気づいた。思わず生徒会長に目をやると、
ニヤリという笑みを浮かべられる。あわてて副会長を見ると……
鉄壁の副会長が、赤面して、首筋を抑えていた。

俺は、もう一度トイレにかけこむはめになった。
補助員の集まりには、遅刻したが、会長も副会長も怒らなかった。

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750じゃないけど、萌えたので投下しておきます。

166769 コスモスなど優しく吹けば死ねないよ:2005/12/04(日) 18:54:07
出遅れたorz 言葉のイメージだけで妄想。
________________

「君はコスモスのような人だ」

会うたび彼は俺に言う。
厳つい男だ。堅気とは思えないような顔をしているくせに、武骨なその手で花を愛でる。
そして同じ手で、まるで大切な宝であるかのように、俺の頬に触れるのだ。

「僕のかわいいコスモス」
「やめろよ」

そのたび俺はいたたまれない。
だって、男娼の俺にコスモスだなんて似合わない。
知らないと思ったのか。あんたが花屋だと聞いた時に、コスモスの花言葉なんてすぐ調べたさ。

「俺はコスモスじゃない」
「君はきれいだよ」
「どこが」

彼の言葉はまるで本心のような声音で、だからこそ泣きたいくらい信じられない。
ばかげている。
金で縁取られた時間と空間の内側で、吐き出されるのは熱だけでいい。

「あぁ、いっそ手折ってしまおうか。僕だけのものにならないのなら」

そうして欲しいと、切実に願う。
あんたになら殺されたって本望だ。

「愛しているよ」

やめて、そんな風に言わないで。
この醜い傷だらけの手首を、まるでやさしい風が吹くように愛撫されたら、そんなことをされたら俺は。

「僕の美しい花」

この薄汚い身体さえ失うのが惜しくて、死ねなくなるじゃないか。

1671/2:2005/12/04(日) 23:58:24
先走っちゃってすみませんです。ここに投下させていただきます。
===========

――ドア越しから漏れるピアノの音。

壁にもたれかかりながら、その旋律を聞いていた。
何の曲だろうか。ギター専門の俺には、クラシックはわからない。
傍で聞かなくてもわかるほど滑らかな旋律。
白く、細い指が奏でる音色。

だが今後の事を思うと、ピアノが持つ独特の優しい音色も、悲しく聞こえる。
二年前の冬。ライブ場所にいたあいつに、声をかけられたというありきたりな出会い。
最初はピアノが嫌いで、俺が持つようなギターに憧れていたが
弾いているうちにピアノが好きになり、それからピアニストとしての道を進むようになったらしい。

ジャンルも違うギターとピアノ。
俺はそれでも、惹かれていた。
滑らかに弾くあいつの白い指に、目が釘付けになった。
気がついたら俺は、あいつに恋愛感情を抱いていた。


いつだったか。
自分で作った歌をあいつに聞かせてやったあと、
俺はギターを教えてやろうと思ったんだ。
遠慮するあいつにギターを差し出すと
「ピアノにはピアノの、ギターにはギターの雰囲気があるから。
ピアニストである僕がギターを弾いてしまったら
ギターの雰囲気が崩れてしまう。
逆に、ギタリストの君がピアノを弾いてしまったら、ピアノの雰囲気が崩れてしまう。」
って言われたことがあった。

その時、「ああ、あいつと同じ道歩くの無理なんだな」って痛いくらい感じた。
そういう時期に、メンバー解散。俺はボーカルの凛ってやつと一緒に海外で活動することに決定。
俺は凛に弱みを握られてる。ピアニストのあいつが好きだということを知っている。
反対すれば知人・友人全てにばらされる。
こんなのってありかよ。
なあ…俺、好きでもないやつと遠いところに行くんだぞ?

…お前が見えないところに、話すことも出来ないところに。

168780です 2/2:2005/12/04(日) 23:59:24
昨日呼び出して、「凛と海外に行く」って言ったらあいつ…笑ったんだ。
笑顔で、「よかったね。いってらっしゃい。」って。

なんだよ、いってらっしゃいって。
お前は俺のこと、なんとも思ってないのか?
親父もおふくろも海外で一生過ごすとか言ってるし、凛に弱み握られてるし
俺はもう二度と戻って来れないんだぞ。

お前にとって俺ってなんだった?
ただの知人友人か?ギタリストか?
俺はお前ともっと一緒にいたい。
俺、お前が好きなんだよ…。


「…なにやってんの?流花。」

――気がつくと俺の後ろには、凛が腕組みをして立っていた。
俺より二つ年下だが、ソロでもやっていけると言えるほど、歌は上手い。
グループも解散したんだ。顔もいいから、勝手に一人でやっていけばいいのに。
なのにこいつは。俺を連れて行く。
「…なあ、一つ聞いていいか。」
「なに?」
「何でお前、俺を連れていくんだ?」
腕組みをしてる凛に問う。
すると凛は腕をほどき、笑って俺に言った。
「…お前と一緒だよ、流花。
好きなんだ。お前が。
流花はあっちが好き。多分、あっちも流花が好き。でも俺はお前が好き。
両想いを引き裂いてごめんね。でも耐えられないから。
ジャンル違うのに、くっつくお前らが。」
「自分勝手だな。」
「なんとでも言えばいいよ。俺はお前が好き。だから連れて行く。」

―想い、想われ…その結果がこれか。

「…ほら、もう行かないと間に合わないよ?流花。」
「………………。」
歩き出す凛を尻目に、俺はドアの前にそっと手紙を置いた。
気がつく凛が俺に問う。
「なにそれ、ラブレター?」
「…間に合わなくなるんだろ。行くぞ。」
「ははは。つれないねえ。…行こうか。」

いつの間にか頬を伝っていた涙を拭いもせず、俺は凛の後をついていこうとして…振り返った。
ピアノの音が止まったからだ。
…だが、それもほんの一瞬のことで。
「さよなら。」とだけ言って、俺は凛の後をついていった。

169萌える腐女子さん:2005/12/05(月) 00:03:04
本スレ780です。
*0なんですが、先走ってなんだかんだしてたらレスが*9まで到達してしまいました。
そのため、ここに投下させていただきましたが
本当にご迷惑おかけして申し訳ありませんでした…_| ̄|○||
では本スレ779さんが見てくれてることを祈って…。

170煙草の匂いのするマフラー:2005/12/05(月) 01:03:51
本スレ789さんのお題、とろとろ書いてたのでこちら行き。



見慣れた通学路は一面白く染まり、粉雪は瞼に落ちる。
すっかり踏み固められた雪を蹴飛ばしながら家路を急いでいる僕の隣で、
見慣れない黒い車がブレーキをかけた。
「なにしてんだ」
「…先生」
窓から顔を出した男は担任でも顧問でもなく、国語の受け持ちの教師だった。
車内からは女子の目がいくつも覗き、僕を物珍しそうに眺めている。
「誰ー?」「せんせ塾あるから急いでよー」そんな甲高い声を気にも留めない先生は
「こんな時間まで残ってたのか?」
と面倒臭そうに僕に聞いた。実際面倒臭いのだろう。
普段から好きで教師になった訳じゃないと公言して憚らない駄目教師だ。
女生徒から人気があるのも顔がそこそこ整っているという幸運のお陰に他ならない。
僕は委員会の仕事をしていた旨を話した。奥歯がガチガチと鳴っている。
「僕も乗せてくださいよ」
「やだよ。俺こいつら送ってかなきゃ駄目だもん」
先生の後ろからまた歓声があがる。「うっそー」「嬉しいくせにー」黙れよ。
大体僕が何度教室と職員室の間を行き来したと思ってるんだ。
先生が身支度を整えたタイミングを見計らって駐車場で待ち伏せしてたのに、
横から飛び出して来てとっとと車に乗り込みやがって。
いつだったか僕はいじけると唇が尖るからすぐ分かると言っていた先生は
僕の様子を察したのか今までで一番面倒臭そうな顔をした。
「じゃあこれ貸してやるよ」
そう言って冷たい風が少しでも入ってこないように少しだけ開いた窓から、
紺色のマフラーを渡された。

171煙草の匂いのするマフラー 2/2:2005/12/05(月) 01:05:10
じゃあなと言ってすぐに窓を閉めようとした先生に、僕は慌てて声をかけた。
「これ、いつ返せばいいですか?」
「あ?」
「いつですか?いつ…」
僕があまりに勢い良く聞き返すので、
女生徒は怪訝な表情を浮かべ先生は一層面倒臭そうに眉間の皺を増やした。
実際面倒臭いのだろう。
普段から俺は話の通じない子供が嫌いだと公言して憚らない駄目教師だ。
僕との関係にしても物分りの良い子供を演じ続けている僕の努力のお陰に他ならない。
マフラーを握り締める手に力が入った。この位の我侭すら許されない関係って何だ。
睨みつけるような僕の目と先生のだるそうな目が合った。

「お前俺の家は知ってるな」
「あ…はい前に弁論大会の打ち上げで行きました」
「なら今夜返しにおいで」

その途端に車内で笑いが起こった。「せんせーそれ酷いよ」「今夜吹雪じゃん」
でも僕は笑っていなかった。僕だけが笑えなかった。
呆気に取られている僕にじゃあ今夜なと言って車を出した先生の横顔は、
明らかに笑っていたけど。

首に巻いた紺色のマフラーからは微かに煙草の匂いがした。
冬の澄んだ空気に消えてしまいそうなほど微かだったけど
間違いなくそれは先生の匂いだった。


「…禁煙したって言ってたくせに」

吹雪の中でも来いだなんてとんでもない駄目教師だ。
だけど僕はこの永遠と続く訳のない関係を愛しむ様にゆっくりとその匂いを吸い込んで、
高く冴えきった青空に向かって白く長い息をはいた。

172萌える腐女子さん:2005/12/05(月) 01:07:11
>>170は1/2です。入れ忘れてた…_| ̄|○

173ギタリストとピアニストの恋 ピアニスト編 1/5:2005/12/05(月) 10:19:48
流花がきていることは知っていた。
多分ドアの前で聞いてるんだろう。
…入ってくればいいのに。

どうして入ってこないの?
ずっと待ってたのに。
愛猫のミケ連れて、君に渡そうと思って花束買ってきて。
…僕も、わかっているのなら入れればいいのに。
でも気にしてしまったら、弾けなくなってしまうから
弾くことに集中して、気づいていないふりをしていた。

…わかってるよ。
君も凛に脅されてるんだろ。
僕だってそうだから。
同じなのに、ねえどうして。
ねえどうして、振り切ってくれないの。

僕もそうだ。
どうして脅しなんかに負けるの?
好きなんだから、言ってしまえばいいのに。
「行かないで」って言って、その胸に飛び込んでいけばいいのに。
ずっと一緒にいたいって言えばいいのに。

174ギタリストとピアニストの恋 ピアニスト編 2/5:2005/12/05(月) 10:20:39
昨日…流花に呼ばれる少し前まで、僕は凛と電話していた。
凛は特別、仲がいいというわけじゃないけど
高校の同級生だった。
だから電話番号も互いに知ってる。
いいやつだと思ってた。
歌も上手くて、ソロで歌っていけるって胸を張って言えた。
…流花のことを言われるまでは。
ピアノを弾きながら、電話で話すなんて
なんてことやってるんだろうって自分でも笑えた。

『零。』
『ん、なに?』
『いま、なんの曲弾きながら電話してるの?』
『ベートーヴェンのエリーゼのためにだけど。』

―凛の問いに、弾きながら答える。

『ふーん。…ぴったりだ。』
『え?』
『流花と零に、ぴったりだ。』

―繰り返し言った凛の言葉に、指が止まる。

『…どういうこと?』
『あれ、お前、知らないの?』

“…知ってるって言えば、どう答えるの。君は。”
心の中で呟く。

『知らないの?…まあ、知らないふりしてるのかもしれないけど。
流花は君が好きなんだよ。多分お前も、流花が好き。』

鍵盤から指が離れる。

『…俺、そういうのには敏感なんだよね。
まあ知ってるから何?ってお前は思うかもしれないけど…
俺も、流花が好きなんだ。』

――まるで、雷にうたれたような衝撃が走る。
好き?凛が?流花のことを?
『……そう、なんだ。』
やっとのことで出した声は、少しかすれていて。
指が震えていた。

175ギタリストとピアニストの恋 ピアニスト編 3/5:2005/12/05(月) 10:22:05
僕は流花が好きだ。
流花を好きになるまでは、[同性愛]なんて言葉にも、さほど興味は無かった。
…でも、言えなかった。
男が男を好きだなんて、どこの世界の物語なんだろう。
気持ち悪いよね。男が男を好きだなんて。

でも流花も、僕を好きでいてくれた。
ギターを教えてくれるって言ってくれたあのときに気がついた。
だからいまのままでいい。もう、これ以上は望まない。
一緒にいられるだけで、いいんだ。

――だけど、凛も流花が好き。

『…両思いなところ、ごめんね。
でも、流花は俺が連れて行くから。
お前が見えないところに。話すこともできないところに。』
『…!!!』
『多分今日の夜くらいに、流花が零を呼ぶだろうけど。
…笑って見送ってくんないかな?』

…は?
笑って見送って…?
なに言ってるの?好きな人を連れ去られて、笑えって言うの?

『…わけないだろ。』
『ん?なに?』
『そんなの、できるわけないだろ!
どうしてっ…どうして、そんな』
『じゃあばらしてもいいんだ。
【ピアニスト零は同性愛者だ。ギタリストの流花が好きだ】って。』

―言い返す僕に、凛はそう脅した。

『…………………。』

返す言葉を無くす僕に、凛は容赦なく続ける。

176ギタリストとピアニストの恋 ピアニスト編 4/5:2005/12/05(月) 10:29:10
『このままでいたいって思ってるんだろ?
周りから変な目で見られることも無く、友達以上恋人未満のままでいたいって。
…でも、そんなことさせない。
俺だって同じさ!流花が好きで好きでどうしようもない!!
お前のいないところで、流花はいつもお前のこと言ってるんだ!!
ピアノを弾くのが上手いって!!とても綺麗だって!!!
いつか世界的なピアニストになれるって!!!
好きなやつが、俺以外のやつのことを喋ってる!!
俺は流花が好きなのにあいつはお前のことばっかり喋ってる!!
それを笑顔で返してた俺のつらさに比べたらっ…笑顔で見送るなんてこと、簡単だろ?!』

……頬を伝う涙。

ああ、凛も流花が好きなんだ。
でも流花は、僕のことを好きでいてくれて
僕がいないところでは、いつも僕のことを話してくれていて。
…それを、凛は笑顔で返す。
凛は、流花が好きなのに。
気がつけば電話は切れていて。
やり場の無い悲しみだけがそこに残った。

いま、弾いている曲はリストの「ラ・カンパネラ」。
鐘という意味で、人生の節目になる教会の鐘のイメージらしい。
…この鍵盤が奏でる一つ一つの音が鐘。指が、人生。
僕はそう思っている。

177ギタリストとピアニストの恋 ピアニスト編 5/5:2005/12/05(月) 10:29:29
…ねえ、どうして、この曲を弾くかわかる?
凄く難しいけど、君との思い出の一つ一つを大切にしていきたいから。
君が好きだという気持ちを、忘れたくないから。

―曲がクライマックスに差しかかったとき、外から声が聞こえた。

「なにやってるの?流花。」
…あぁ。やっぱり。いたんだね。
聞いてくれてるの?僕の演奏。
でも、もう行くんだね。凛が来たってことは。
曲が終わる頃になってくるなんて…ぴったりだ。

涙が止まらなくて、前が見えない。
自分でもどう弾いてるのか、わからなくなってきた。

――そして最後。

キーが少し外れたものの、なんとか終わった。
…終わった、ほんの一瞬だった。

「さよなら。」

―――流花の声。
泣いてるの?声が暗いよ…?
抑えきれない涙を流しながら、嗚咽が漏れながら。
僕も小さく「さよなら」と返した。

178萌える腐女子さん:2005/12/05(月) 10:30:25
>>174
君じゃなくてお前でした_| ̄|○

179本スレ812 1/2:2005/12/06(火) 00:05:50
200*/12/06 02:01
【件名】

【内容】
久しぶり、俺のこと覚えてますか?
卒業して5年だっけ?まったく連絡取ってないから、忘れてるかもね。
同窓会にも成人式にも行かなかったし。

お前にこうしてメールをするのは、これで最後になると思う。
ひとつだけ言い忘れていた事を思い出したので、最後っ屁がわりに伝えておきます。

お前のこと、好きでした。友達じゃなくて、うん、そう、好きだった。
好きだったよ。好きでした。いや、今も好きです。

久しぶりのメールがこんなでホントごめん。
どう思うかは、お前次第です。気持ち悪いと思った?思ったかなぁ。

明日の午後、携帯電話を新しくするつもりです。

卑怯なことは十分に分かっています。分かってます。
気持ち悪いと思ったなら、それでいい。
きもいメールが来たって誰かに言いふらしてもいいよ。

ごめん。ごめん。ごめん。本当に、ごめん。
忘れてな。それでは、さようなら。

180本スレ812 2/2:2005/12/06(火) 00:07:36

うっかり消し忘れていたアドレスから届いたのは、みっともない愛の告白だった。

高校を卒業して、下宿先まで遊びに来いよと言って分かれた、
それきり会ってもいない友人からだ。正直、顔もろくに覚えていなかった。
あの頃は数人たむろして遊び呆けていたし、今そのメンバーで付き合いがある奴はいない。
みんなちりぢりになってしまっていた。
ひとつだけ分かるのは、女の子からではない、ということだけだった。そうでなきゃ
男子トイレで煙草をふかして説教喰らう、なんて事件はおこらなかったはずだ。
不思議なもので、そういうくだらないことばかりははっきりと覚えていた。
顔すら思い出せないくせにな、と思いながら、僕は随分古くなった携帯電話を宙に放る。
差出人は「ヨースケ」。これはもう紛うことなく男だ。
――拙い文だ。どんな気持ちでこれを打ったんだろう。
気持ち悪いとか何とか言う前に、ふとそれに興味がわいた。
僕はTVの上に置いた目覚ましを見る。午前10時31分。
まだ間に合うだろうか。
ベッドの上に落ちた携帯電話を拾い上げて、僕はそっと「返信」を選択した。

181煙草の匂いのするマフラー:2005/12/06(火) 00:18:41
猫みたいだなと言われた。
あいつ言うところの同棲、俺言うところの同居生活の部屋に、俺は一か月の内、半分帰らない。
ばれてないと思ってたのに、あいつは夜勤のバイト先から家に電話して確かめてるらしい。
でもあいつだっていないんだから、誰もいない部屋にいる必要ないし、改める気はない。
あいつの指が髪を梳いたり背を撫でたりすると、逃げたくなる。
熱い指に身体の中を冷たくしときたいのに、溶かされそうになるからだ。
だけど糧は貰う。
あいつが一生懸命考えたんであろう俺への台詞とか、ふいに寝言で呼ぶ俺の、普段呼んだためしのない敬称なしの名前なんか、もう栄養になりまくってる。
けど、そういうあいつの嬉しくなるようなことうっかり言ったら、絶対、俺を膝の上に上げて抱きしめるに違いない。
そんなことされたら心臓が持たない。
前に一回された時だって、口から心臓出そうで、もがいて引っ掻いて、離れた。
そんなこんなことしてたらあいつが言ったんだ。

猫みたいだな。

あいつが言った時、ちょっとドキリとした。
けど、あいつが言った「猫みたい」の理由を聞いて、ホッとした。
ばれてないんだ、ああ、良かった。

猫を飼う時、眠る場所に飼い主の匂いのついたものを置くといいって話、つい最近、あいつがしてたから、ばれたのかと思ってた。

なあ、去年から無くなってる煙草の香りがついたマフラー、もう諦めた方がいいと思う。
随分探してたけど、もう、帰ってこないよ、あれ。
内緒だけど。
本当、内緒だけど。

あのマフラー、猫の寝床に入ってるから。
その猫、あのマフラーないと眠れないから。

だけどそれは内緒。

182チロるチョコ:2005/12/08(木) 02:02:36
何気なく探ったポケット。指先に何か硬いものが当たった。何気なく取り出してみる。
――――何だコレ?
手のひらに乗っかっているのは牛柄の小さな四角いもの。これが何なのかはわかっている。日本中どこのコンビニでもお目にかかれるだろう1つ10円の一口サイズのチョコレート、チロるチョコだ。
 しかし、こんなものを買った覚えはないし、ジャケットのポケットに入れた覚えも一切無い。もしや去年のものかと身構えたが、クリーニングに出した後にこんな綺麗な四角を保っていられるはずがない。今冬出してから入れられたものだろう。―――そういえば先日、弟がちょっと借りるとか言って着て行っていたような気もする。
つまりあのでかくて可愛くない弟が買って入れたということだろう。なんて似合わないことをするのか。
「あ! チロるチョコじゃん。しかも最近見ないちっこい10円サイズ。懐かしー!!」
掌に載ったチロるチョコをぼけっと見ていたら目聡く隣にいた奴が発見して妙に嬉しそうにはしゃぎ出す。
「ちっこい10円サイズ? チロるチョコなんて全部同じ大きさで10円じゃねーの? 」
「それがちゃうんですよ! 最近コンビニで見るのはソレよりちょい大きい20円のなんだなー。ちっこいの見たの久しぶり! お前、あんま甘いもん好きじゃないっしょ? ちょーだいちょーだい!」
「ああ」
両手を差し出して頂戴頂戴繰り返す奴に掌にあるチロるチョコを渡そうとする−−−が、これはもしかして日頃のお返しに使えるんじゃないかと思い立ち、やめた。
「おい? くれんじゃねーのかよ?」
「んー、俺もちょっと食べてみたいんだよな」
素早く包みを開いて白と黒の小さなチョコを口に入れた。
「あーーーーー! ひっで!! 俺も食いたかっ」
文句が続きそうな口を塞いで、砕いた半分を奴の口に押し込めた。
「半分こな?」
珍しく顔を赤くして目を見開いている奴を見て満足する。いっつもやられっぱなしなのだから、たまにはこんな可愛い驚き顔を見せてもらっても罰は当たるまい。
奴は口に手を当てて下を向いてしまった。赤くなっているのを隠しているつもりかもしれないが、さっきばっちり確認したし、未だに赤くなった耳は丸見えなわけで。
にやにやしながら見守っていると、奴が顔を上げてにっこりと笑った。
「なんかこっちのが大きかったみてー。返すよ」
 下から口を塞がれ、驚いている内に舌が入ってきた。口内を嘗め尽くし、俺の舌に絡め、吸って、一度離れ、ちゅっと音を立ててもう一度軽くキスしてから完全に離れた。
「あんまいねー」
奴がにっこりと笑う。
………ああ、また負けですよ。甘い甘いご馳走でございましたとも。

183182:2005/12/08(木) 02:06:04
萌えたので投下させて下さいませ。
読みにくくてえらいすみませんorz

184カラオケ:2005/12/12(月) 22:29:39
投下させて下さい
_____________________________

ぶっちゃけうんざりだ。
奴がいきなり「カラオケ行きたい。行きたすぎる。行こう!」とか言いだして
俺を強引に引っ張って行くもんだから、ま、いっかーっと来てみれば。
奴はずっとマイクを離さず、バラードばかり永遠歌い続けてる。
しかも微妙に古くてやたらとくさいラブソングばっか。
これは…アレか?
女に聞かせる為の練習ってヤツですか。
最近変に付き合い悪いと思ったらラブソングを歌ってやりたい女ができてたわけだ。
で、一人でカラオケで練習は虚しいから暇そうにしてた俺を引っ張ってきたってことね。

あーあ。
カラオケ久しぶりだな、とか
奴と二人なら音痴な俺でも遠慮なく思いっきり歌えるな、とか
…奴と遊ぶの久しぶりでちょっと嬉しいかも、とか。
そうゆう…なんつーの?ワクワク感ってヤツ?ソレが一気に萎んだわ。

そんな俺の気分はそっちのけで奴はまた一曲歌い上げやがった。
妙に上手かったが、拍手なんかしてやるか、ボケ!
次にスピーカーから流れだしたのは…かの名曲『TSU●AMI』

はい、限界が来ましたよー

「お前アホか!こんな季節にんなもん歌ってんじゃねえ!つか、さっきからマイク離さずにラブソングばっか歌い続けやがって!女に歌ってやる歌の練習なんて一人でやりやがれ!!」
「は?女?練習??何言ってんの、お前。」
履いてた革靴を力一杯投げつけてやったのに、奴はうぜえことにあっさり避けやがった。
「ああ!?好きな女に聞かせる為に練習してんだろーが!」
「いやいやいや、今現在進行形で好きな奴に聞かせてるわけで」
「アホかあ!今ここにはてめーと俺しかいねーだろうが!てめーには第三の誰かさんが見えていようが実際にはここには俺とお前の2人しかいねーんだよ!!」
「だーから!お前と二人っきりだからこうして必死で熱込めて歌ってるんでしょーが!!」
「………ああ?」
前で歌ってた奴は俺の投げつけた皮靴を持って俺の隣に座り、俺の足にその革靴を履かせると、顔を上げて俺と視線を合わせた。
「…我ながら痛いとは思うんだけど。自分の言葉で上手く伝えられないから、人様の言葉をお借りして、思いっきり、これでもか!というくらい愛を込めて歌って伝えようかと。」
「………誰に伝えるって?」
「お前に、愛を。」

なんてこった。
バックで流れる曲のサビが、ぴったりすぎるんですけど。

185本スレ889(1/2):2005/12/13(火) 22:49:15
既に*0さんが投下されていたのでこちらで。
ヤマもオチも意味もないぜ(゚∀゚)アヒャ

-----------------------

「ちくしょー!!」

パソコンにかじりついていたKが、いきなり大きな叫び声を上げた。
夕食どきに近所迷惑な奴だ。とりあえず黙らせるか、そう思って振り返る。
だが、先にKの方がパソコンの前を離れて、泣きながら俺に抱きついてきた。

なんなんだ。そう思ってパソコンの画面に目を向けたけれど、
いい加減度が合わなくなってきている眼鏡では、
いくつかのウインドウが開かれているのがおぼろげに見える程度だ。
どうせもう外出しないからと、コンタクトを外してしまったのは失敗だったか。

仕方ない、まずは奴を落ち着かせよう。

「落ち着け。どうした」
「お、俺……ちくしょう……」
「いいから落ち着け。泣くな。そして説明しろ」

今度はどんなくだらない理由だ、と言いたかったがそれは呑み込んで、
いつものように、ぐすぐすとしゃくりあげるKが落ち着くのを待つ。

──つもりだった。

「俺は……俺は、踏まれようとしたのに……!!」

だが、嗚咽混じりの押し殺した叫びが、
そんな呑気な考えを吹っ飛ばした。

186本スレ889(2/2):2005/12/13(火) 22:49:40
踏まれようとしたってどういうことだ。
パソコン使っててどうやったら踏まれるとかいう話になるんだ。
それが叶わなくてどうして泣くんだ。いや、それはKだからしょうがない。

頭の中を飛び交う疑問符を取り除くべく、
パソコンの方へと歩み寄る。
背後から聞こえた、Kの「あっ」という叫び声と、
引き留めるように裾を引く動作は無視して。

最前面のウインドウは見慣れたギコナビ。
メッセージバーを見れば、レスを送信したあとにスレをリロードして、
表示された新着レスに驚き、思わず叫んだというところか。

そして、肝心のレス内容はといえば。

「>880とカメダにGJ!とささやきつつ、踏まれます。」

『*9が指定した画像を*0がうpするスレ』。
そこで*8のつもりで書き込んだのが、
リロードミスで*9をとってしまった、そういうことらしい。

まったく、こいつは本当に、なんでこんな下らないことで泣けるんだ。
何かにささやきかけながら踏まれている誰かの画像を、
スレを覗いた誰かがうpすればいい。
たったそれだけのことなのに。

「……いっそ、俺がお前を踏んでやろうか」

呆れて呟くと、途端にKはがばっと顔を上げた。
涙でぐしゃぐしゃの顔は、そのくせ希望に満ちあふれていて、
まさに今泣いたカラスがもう笑った状態──って、まさか。

「そうか、その手があった!」
「自作自演の誘いじゃねえよ馬鹿」

まったく、2ちゃんごときになにマジになってんだ、こいつは。

187本スレ889:2005/12/13(火) 23:11:11
私も投下させていただきます。ギャグ風味です。


書き込み完了!さぁて、次はどんな萌えリクが来るかな?と期待しながら
掲示板を閉じようとマウスを操作した瞬間、背後にとんでもなく冷ややか
な風が吹いた。
全身が凍りつくのを感じながら後ろを振り返ると、いや振り返るまでも無
く、俺の顔の横には奴の顔があった。

「『>880とカメダにGJ!とささやきつつ、踏まれます』・・・・・・?」
「や、ややややっ山田!?」
「なにこれ、どういうこと?」
「なんだよ、ビックリすんじゃん。てっきり妖怪かなんかの類かと・・・」
「な、どういうこと?」

耳の近くで喋られるくすぐったい感覚に耐え切れず、俺は山本の顔を押し
やった。山本は不満そうに眉を寄せ、睨みつけるように俺を見た。

「人が風呂、入ってる間に・・・」
「え?なに?」

山本が何事か言うがよく聞こえない。聞き返すと、今度は明らかに怒って
いる顔で俺の肩にガシッと手を置きこう言った。

「・・・俺がいない間に浮気とはやってくれるじゃねぇか、田中」
「へ?」

肩におかれた手は今度は腕にまわり、そのまま俺は圧倒的な力で寝室へと
引きずりこまれた。

「そんな何処の馬の骨かもわかんねぇ様な奴らに頼むくらいなら、俺に頼
めよ」
「な、なにを!?」
「いくらでも踏んでやる」
「えっ、いやいや、そういう意味じゃ・・・って何処触ってんの!!なに、
脱がしてんの!!!」
「な?俺の方がGJだろ?」
「ばか!!ちが、っつの・・・!・・あっ!!!」

泣いても謝っても誤解を解こうとしても全く聞き入れてくれない山本のせ
いで、次の日俺達は、揃って会社に遅れたのだった。

188909 「俺たち友達だよな」:2005/12/16(金) 21:24:53
投下します。
____________________

「なぁ、僕ら友達やんな?」
「なんだよ急に。当たり前だろ」

そう、俺とお前は友達。それでいい。
この関係が崩れてお前を失うくらいなら、俺は本当の気持ちなんてずっと隠しておくよ。

「僕に友情を感じてくれてるんやんな?」
「もちろん」

嘘ついて、ごめん。
絶対に困らせないから。

「ほな、僕がどんなでも、友達や思てくれるか?」
「どうしたんだよ、本当に」

お前がどんな奴だったとしても、ただお前だから、好きになったんだよ。

「例えば、サツジン犯でも、ゴーカン魔でもか?」
「友達だよ。だから、殴ってでも更正させてやる」
「お前のこと、ホンマは殺したいくらい憎いて思てる、言うてもか?」
「……うん。それでも、友達だよ」

嫌われていたらきっと痛い。
でも、きっとそれでも好きだ。

「そっか。ありがとぉな」
「いったいどうしたんだよ」
「ん……あんな。図々しいやっちゃ、て自分でも思うんやけどな。
 それでも、お前の友情、失いとぅなかってん」

大丈夫だよ。ずっと、友達でいるよ。

「ホンマは言うべきやないんかもしれん。けど、もぉ黙っとれへんくらい気持ちが大きゅうなってな。
 僕、卑怯モンやから、言うた後もお前と友達でいたいんや」

……言う?何を?

「あーもー、言い訳ばっかし言うててもしゃーないやん自分!
 ええか、単刀直入に言うで」


「僕な、お前に惚れとんねん」


――――え?



  これは、ある二人の友情の終わり。
  そして、新しい何かの始まり。

189「俺たち友達だよな」:2005/12/17(土) 14:40:13
投下させて下さい
______________________________

「俺たち、友達だよな」

わけがわからない。
好きだと言われて、俺もだと答えて、手を繋いで、キスをして、セックスをして。
なのにお前は「『友達』だよな」って聞くわけ?
なんだよ、それ。

「そうなんじゃん」

俺は今初めて知ったけど。
俺らの間にあるものが、お前の中では『友達』に当てはめられてたなんて。

「そうだよな」

わけがわからない。
何でお前がそんな哀しそうな顔すんだよ。
自分で聞いたんだろ。
「『友達』だよな」って。
その言葉選んだの、お前じゃん。

「なあ、」

俺、今のお前の顔、信じていいのかよ。
信じて、さっきの言葉、撤回してもいいよな?
言い直しても、いいんだよな…?

190投下させてください。:2005/12/18(日) 03:18:59
http://grm.cdn.hinet.net/xuite/a9/42/11018309/blog_65709/dv/3811374/3811374.wmv↑の、ベンチの前と後ろに座っている、左端2人
かなり前のお題ですが投下させて下さい。



 高々とセンターの奥へと打ち上げられたフライを捕球したのを確認してタッチアップ。
滑り込むことなく、悠々とホームベースを走り抜けた俺の目に、一人ベンチの隅へと座る姿が映る。
俺をホームベースに帰してくれた犠打を放った張本人。
仲間や観客に手を振って、一通り笑顔を向けて応えた後、いつも通りに相手へ近づく。
「よくやったじゃん。やっぱ、俺とは違ってお前には華がある」
派手な一発や印象に残るプレイはないかも知れないけど、この人がいるからホームへ帰ってこられる。
絶妙な場所へ狙ったように打ち上げる犠牲フライ。
もしかしたらヒットを打つよりも難しいかも知れないバットコントロールで確実な仕事をしてくれる。
確かに華はないかも知れない。でも。
「一発じゃなくたって、カッコイイよ」
俺は何だか苛立たしくて、切なくて、前を向いたままで試合の経過を見つめる。俺にとってはヒーローはこの人だ。
玄人受けするとか、知る人ぞ知るでなく、この人が俺のヒーローなんだ。
「あんたがいるから帰ってこられるんだ」
「…」
グラウンドで続いている自軍の攻撃を睨むように見つめる。
この人は自分の仕事を過小評価し過ぎだ。
周りもわかってなさ過ぎだ。
俺のヒーローなのに。
…睨む目頭が何故か熱くなってきた頃。
ふいに耳元に熱い吐息と、柔らかな温かい質感を感じて目を見開いた。
「ありがとう」
小さく呟かれた声に一瞬視線が交差したものの、すぐに離れ。
「俺はお前をホームに帰すのが生き甲斐だから」
背後から続きの言葉が帰ってきた。
ああ、この人には敵わないな。
血の昇る頬に浮かび上がりそうになる笑みを必死のシカメツラで堪えながら、今日のお立ち台ではこの人のおかげだと連呼して、この人こそがヒーローだと言ってしまおうと心に決めた。

191萌える腐女子さん:2005/12/20(火) 15:06:15
本スレ>>949に萌えたのですが咄嗟に思い浮かんだシチュがあまりにもアレだったんてこちらに。
チラ裏でもいいかなと思ったんですがスレチな気もしたので…。


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