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0さん以外の人が萌えを投下するスレ

1萌える腐女子さん:2005/04/17(日) 10:27:30
リロッたら既に0さんが!
0さんがいるのはわかってるけど書きたい!
過去にこんなお題が?!うおぉ書きてぇ!!

そんな方はここに投下を。

25330,331の続き:2005/05/21(土) 16:47:39
その日の夜、俺(成海)は中々寝付けなかった。今日の出来事に対して、自分でうまく納得できないでいたからだ。
あれから、俺は逃げるように帰って来た。学生服を鷲掴みし、短パンTシャツのまま
すっかり暗くなった帰り道をひた走った。
アノ時、俺は不覚にも達ってしまった。しかも卓也にちょっと俺自身を擦られただけで・・・。
その後、卓也は達した俺のを、ペニスの奥の部分に円を描くように塗りつけたのだ。
怖くなって、卓也を突き飛ばして、逃げてきた。
「・・・・ハァ。ったく俺何やってんだろ・・」
ベッドの上であれこれ考えるうちに、俺はすっかり寝入ってしまっていた。

次の日、休みたい気持ちをなんとか我慢して、学校に行った。放課後部室に顔を出して、
体調不良なので、と部長に行って、休ませてもらう事になった。
「ナニ?なるみちゃん、昨夜は激しかったのかなー?」
とニヤニヤしながら部長にからかわれ、他の部員にも、色目で見られた。
あながち嘘です、と言えない状況にあるから困る・・・。
とにかく、俺は、早く横になりたい一心で帰路についた。頭も身体も心も、ぐちゃぐちゃだった。

26続き②:2005/05/21(土) 17:11:58
家の前に着くと、卓也が立っていた。学生服をきちんと着ている俺に比べ、
あいつは、学生服のボタンをおおっぴらに開け、中の白いシャツもだらっと外に出している。
ズボンはこれでもかというくらい、腰履きしていて、バスケ部の俺なんかよりよっぽど
不良に見えた。無造作に伸ばした薄茶色の髪が、奴の整った顔を一段と引出していた。
あんなことがなかったら、街で見かけただけならば、俺は迷わず見とれていたに違いない。
誰にも従わないような強い目、象牙細工のような顔の作り、綺麗な弧を描く顎のライン。
俺が、少し戸惑いながらも家に入ろうとすると、強引に俺の行く手を阻むように前に来た。
「なるみちゃん、ちょっと付き合えよ」
卓也は、綺麗な口角を意地悪そうに少し上にあげた。
「あ?テメーまだ生きてたのかよ。もう一回言われたいか?妙な事くっちゃべってねぇで
帰れっつってんだよ。テメ何したか分かってんのかよ。」
俺は、息継ぎをせず一気に言った。もう醜態を見せたくない。アノことはもう忘れたい。
「忘れ物を届けに来たってゆーのに、その態度でいい訳?」
卓也は右手の握った拳俺の目の高さまで上げて、パッと開いた。
そこには昨日付けていた、シルバーのネックレスがあった。
「あっ。テメそれ!あんだよ、オメーが持ってたのかよ。返せ。」
乱暴に奪い返すと、俺はそのまま家に入ろうとした。
「お礼」
ぽつりと、しかし当然のように卓也は言った。
「は?お前さ、はっきり言うけど、俺お前が嫌いなんだよ。面だけで人生舐めきってるよーな
奴、お礼、とか言える分際じゃねーだろ。」
ちょっと言い過ぎたかな、よも思ったが、俺はシカトして入ろうとした。
すると、ガチャリと先にドアが開き、母親が小奇麗なスーツを着て出てきた。
「あら、なるみお帰り。ごめんね、お母さんこれからクリーニング行った後、
そのままお父さんと待ち合わせてごはんだから。あ、夜は適当にね。
あら、お友達?まぁまぁ、どうぞ、汚い家だけど、ゆっくりね。」
一気に話終わると、俺と卓也を家に押し込んで、そのまま出かけてしまった。

27続き③:2005/05/21(土) 18:28:02
「どーも。お邪魔さまー」
卓也は悪びれる様子もなく、家に入ってきた。俺は、もう何も言う気もする気も失せ、完全にシカトした。
リビングに鞄を放り投げ、俺はそのままシャワーを浴びに風呂場へ向かった。
もう何も考えたくない。なのに、俺はなぜだか昨日感じた鼓動の高まりを、また感じずにはいられなかった。

15分くらいして、俺がリビングに戻ると、卓也がコンビニの袋を机に置いて、TVに見入っていた。
TVでは、俺が最近好きな、バンドのライブDVDが流れていた。
食い入るような視線だった。画面が焼け焦げてしまうような卓也の強い視線。瞬きすらもしてないような
そんな気がした。
「お前それ好きなの?」
ふいに卓也がこちらを見た。そして、ふっとまた画面に戻った。
「・・・・あぁ。いーよな。ギター最高だよ、こいつら。」
そう言いながら、机の上のコンビニ弁当を取りだし、俺にも勧めてきた。
それから1時間くらいだろうか、俺は弁当を食う間、お茶を飲む間、卓也とは一言も口を聞かなかった。
卓也は、SFで言ったらビームでも発しそうな視線でTVを見つめ、俺はそんな雰囲気の奴に、うまく話しかける
こともできず、黙ってそれを見ていた。
DVDが終わり、画面が暗くなっても、卓也は画面を見ていた。そして、ふとこちらを向いた。
「真面目やってもうまくいかねーよ、夢なんて」
あまりに自虐的な物言いだったので、俺は少し間を置いて、軽く笑って言った。
「オメーが無理だっつーなら俺のバスケの夢なんて、雲のまたその上の存在だぜ?
やってみなきゃわかんねーよ。俺もお前も。」
卓也は、何も言わずに、コンビニの袋から酒を取りだし、ごくっと飲んだ。
「なるみちゃんも、いるか?」
俺はなんだか飲みたい気持ちになってもう一方の缶を卓也から受け取った。
それから2時間くらい、俺と卓也は、お互いの夢について語った。
卓也は無愛想で、口数も少なかったけれど、最後にぽつりと、
「しょうがねぇから応援してやる」と、相変わらずエラそうに言った。

28続き④:2005/05/21(土) 18:28:26
時計を見ると、夜の9時を回っていた。卓也と俺は、冷蔵庫にあったビールと、
ウィスキーを、もうほとんど飲み干している状態だった。
しかし、卓也は一向に酔う様子もなく、意地になった俺は煽るように飲み続け、
目の前がふわふわの状態だった。
卓也は、俺に水を勧め、俺はそのグラスを勢いよく傾けて飲もうとして、口からこぼしてしまった。
喉をつたい、首筋につーっと水が流れる。
「あ、わりぃ。ダメだ。完全やられたわ、こいつに」
そう言って俺はウィスキーの瓶をこつんと指で叩いた。
すると卓也はいきなり俺の座っているソファーに腰をずらし、横に座った。
そして、人差し指で、首筋の水をかすめ取ると、はっとする様な綺麗な目元を細め、
指を俺の見ている前で、見せびらかすように、口で舐めた。アイスを舐める様に、赤い舌を出して、
ねっとりと。
「なるみ、俺の指で狂え」
低音の声と色っぽい目つきで、卓也は俺に言った。俺は訳が分からず、バカにされてるのかと勘違いして、
「笑わせんなって、オメーの指で人間一人が狂うんなら、明日にでも世界はオメーのもんに
なってるっつーの」
俺は酒も手伝って、けらけらと陽気に言った。そして、もう一杯水を飲もうとグラスを手にした時、
卓也が乱暴に口を塞いできた。そして、すぐに舌を入れられた。歯列をなぞるような、ねっとりと甘いキス・・・。
「・・・っ・・ん・・」
俺は逃げようと懸命に卓也の肩に手を置き、つっぱるようにしたが、卓也はびくともしなかった。
「だからお前狂わせてやろうって言ってんだよ」
耳に息を吹きかけるようにそう囁かれた。俺は、また背筋がぞくんとするような感覚に陥った。
そのまま卓也は、耳の裏を尖った舌で突つくように舐め、そして、ふいに耳の中にそのまま入れてきた。
「・・・ぁっはぁ・・んぁ・・」
俺の身体がびくんと勝手に跳ねた。恥ずかしくて、俺は顔を背けようとした。
卓也はそんな俺の顎を、綺麗な手で掴みながら、強引に卓也の方を向かせた。
「・・・もう一回感じてみろよ」
そう言って卓也は俺の耳を、執拗に舐め始めた。
「・・っぁ、やめ・・ろ・・・テメ・・お・・ぃ」
声がうまく繋がらなかった。俺は勃起しているのを自覚していたけれど、
とにかく、この背筋がぞわぞわするような感覚から抜け出したい一心だった。
すると、卓也は、そんな俺の股間の状況を知っていたのか、スウェットジャージの上から
指で形をなぞるように触ってきた。
「あっ・・・・うぁ・・」
卓也はそのまジャージの中に手を入れて、直に触ろうとする直前で手を止め、
息の上がった俺を、じっくり見つめた。
「どうする?狂う覚悟があんならこれから狂わせてやるけど?」
俺は、最後の抵抗で、言い放った。
「狂う狂わせないとか、オメーいちいちうるせー。いいからどけ。自分で処理した方が
あんばいがいーんだよ。そんなにやりてぇなら勝手にオナってろ。」
俺が言い終わるか終わらないかのうちに、卓也は俺をソファーに目一杯押し倒し、
「わかった。狂え」
とバリトンの声で低く言い放ち、俺のモノを直に触ってきた。

<いちおー疲れたんでここまで。続きはまた今夜か明日にでも投下しますー。じれったい
展開でスマソ>

29続き⑤:2005/05/21(土) 21:16:32
「・・・うぁっ・・ぁあ・・ぁふ・・」
変な声が出た。俺は一瞬自分の声かどうか疑った。卓也は、そんな俺の顔を見ながら
くすっと笑った。
「ほら・・・もっと出せよ、お前のその声」
そう言って、俺のモノを根元から先端にかけて、ゆっくり上下にしごいた。
そして、先端のくびれに指を這わせながら、円を描くようにくちゅっとまわし始めた。
「っ・・んっ・・・!」
俺の身体が、意思とは正反対に勢い良くびくんと跳ねた。
「な・・な・・んだよコレ・・」
「なに?・・・ここ?・・弱いみたいだな」
おもしろそうに笑って、卓也は執拗にそこのくびれを攻めてきた。
俺は、一気に射精感を高められた、でもこんな事でイかされるのはまっぴらだ、と思い、
唇を噛んでなんとかやり過ごした。
「ほら、我慢すんなって。イけよ」
平然と卓也は言い放ち、いきなり指を早めて上下にしごき始めた。
「うぁ・・あ!あぁぁああ」
気づいたら、俺は卓也の手の中に、高まりを弾けさせていた。

はぁはぁと荒い息をしながら、俺はソファーから立とうとした。
「逃がさねぇ」
卓也はぐっと俺をソファーに引き戻し、スウェットとを半分まで脱がした。
果てた俺のモノが露わになり、下着が濡れていた。
俺がスウェットを元に戻そうとすると、いきなり身体を持ち上げられ、卓也の座っている上に、
同じ向きに座らせるような形で固定された。
そして、風呂上りのまま首にかけられていたタオルを素早く取って、俺の両手を背中のところで
しばってしまった。
「思う存分狂えるよな?これで」
そう言って、卓也は俺の背中を舐めながら、前にある乳首に両手を這わせた。
「・・くぁ・・ぁあ」
すでに尖っていた突起を上下にやんわり擦りあげる。そして、いきなりギターで
弦を引くように、細かく震わせながら爪で突起をぴんっと弾いた。
「あぁっっ・・・うぁ・・やめ・・」
俺のモノはイッたばかりだというのに、もう固くなっていた。

30続き⑤:2005/05/21(土) 21:48:02
先端から透明の液がどんどんあふれてくる。
「へぇ、お前ココも弱いんだ。・・・ほら、我慢すんな」
今度は後ろから首筋を舐めながら、乳首を強く擦られた。
「んっ!・・・い・・ぁ・・いゃ・・だ。・・そこ・・」
卓也は指の動きを止めずに、どんどん俺を追い上げた。
「いやだっつーのはな、相手にイイとこ教えてるよーなもんだぜ?」
そして、そのまま俺の昂ぶった股間に手を這わせ、先端の感じるとこを集中して
弄ってきた。
「・・もぅ・・・・あ・・・はぁ・・んっ・・あ、ぁ、ぁ、イ・・っく」
後ろで手を拘束され、抗えない俺は、卓也の愛撫になす術も無く、2度目の絶頂を迎えた。

「悦かったみてぇだな・・・」
空ろな瞳で卓也を見る俺の顔を、目を細めて覗き込むと、卓也はそう言った。
絶頂感で、脱力している俺を、卓也はそのままあお向けに押し倒すと、俺の出したモノで白く卑猥に塗れた指先を、
俺のペニスの奥の後孔に当てた。
「ぁ、おい・・やめろって」
「お前、もっとイイとこまで連れてってやるよ。」
そう言って、卓也は中指をその奥の場所へくりゅっと指し込んだ。
「んっ!・・・ってぇ・・いてぇって。抜け・・」
「最初は誰でもそうだぜ?いいから黙んな」
卓也は中指を抜き差ししながら片方の手で、俺自身をまた上下にしごきだした。
「ふ・・・ぁ・・」
前を弄られることで、後ろの痛さがだんだん薄くなっていく。そして、それだけでなく
じんじんとした痛みが、段々熱くて甘い快感になっていったのだ。
もっと弄って欲しいような、そんな淫靡な気分になった。俺は前をしごかれる快感に身体をあずけた。
すると、ふっと身体の力が抜けたような気がした。
「もっと俺に任せろよ、身体。気持ちよくしてやんからさ」
耳元で、優しく卓也が囁いた。その声のせいで、無意識に、俺は不覚にも再度卓也に身体を預けてしまった。

気づいたら、中に入っている指は3本になっていた。中の襞をくちゅくちゅとこすられる。
「いい子だな。そのまま俺ん指意識してみ」
そう言われ、その通りにすると、いきなり卓也の指が、入り口から少しいったとこにある
ある部分で止まった。そして、思いっきり擦られた。
「・・・!あ・・・・あぁ・・んぁぁぁあ!」
俺は一気に射精していた。
「すげぇな・・・。そんなにイイか?」
「うぁ・・・訳わかん・・ねぇ・・」
俺は口から唾液をこぼし、頭の中が真っ白になりそうだった。
「これで終わると思うなよ。ココ、もっとこすりてぇ・・・。お前狂うな、絶対」
卓也はこっちが恥ずかしくなるような言葉を吐いて、そのまま指をまた動かし始めた。
「・・・ココ、こするぜ・・・ほら・・」
くちゅっと音がして、先ほどの場所をピンスポットで攻めてきた。
「・・ああああ・・んっ・・くぅ・・」
「ほら、イけ。どーせ我慢できねぇだろうが。」
激しくこすられて、俺は奥から止めど無く溢れる快感に包まれた。
「うぁ・・・やっ・・べぇ・・イ・・くっ・・ん」
俺は卓也の言う通り、我慢できずに弾けた。
そこからはもうなし崩しだった。ソファーの皮が白い液体と透明の液体で
ぐちゃぐちゃになった。

31豚切りですが、:2005/05/21(土) 21:52:02
中途半端ですが、終わりにしまする。一応萌えシーンだけで勘弁して下さい。
初めて書いたんで、指で責めるとこまでしかどうも・・・_| ̄|○
日々勉強で精進しますわ、とゆうことで。

32萌える腐女子さん:2005/05/22(日) 10:26:50
ごちそうさまでした……(*・∀・*)
嫌がりながらも流されていいようにされちゃうなるみちゃん萌え!
散々陵辱の限りをつくしたあと抱きしめてほっぺちゅーとかしてくれたら最高!

3301/04:2005/05/22(日) 17:40:14
掲示板の存在を最近知ったよ。
勝手に書いちゃったの投下させてもらいます。長くてすいません。
2-249さんのお題「短気な後輩×卑屈な先輩」をお借りしました。


創作活動同好会兼文学部という名称で通っているうちのサークルは、
30人もの幽霊部員に支えられ実質10人弱で活動している。
とは言え創作活動は個人でやるものなので、10人集まろうが
「ネタに詰まった」だの「神が降りてこない」だの言い訳をつけて
結局は菓子の袋を床に散らばらせ談笑で終わることが多い。
仲が良いのは宜しいことだろうが、
この馴れ合いの空気にいまいち馴染んでいない人物が2人いる。
俺と、1つ上の先輩だ。
先輩は出版業界を広く見渡せば数多いる学生作家の内一人で、
部室に来ても部屋の隅でいつも頭を抱えている。
俺と違い人当たりはいいのだがパソコンに向かう彼に話しかける部員はいない。
凡そそんなオーラを発していないからだろう。
一年ながらこのいい加減なサークルの会計を務めさせられている俺はでも
たまに彼に声をかける。すると飛び出るのは必ず弱音だ。
「俺なんか才能ないんだよ」
「俺なんかダメだよ。なんも浮かばないもん」
「俺なんか」
「俺なんか」

3402/04:2005/05/22(日) 17:41:12
最初は珍しいことに短気な俺が根気良く励ましていたが最近はうんざりしてきた。
モチベーションの上がらない作家を励ますのは担当の任であって、
単なる後輩である俺ではない。
それでもいつのまにか先輩にとって俺はその役割になってしまったようで、
今では俺以外から先輩は弱音も吐かずに頑張っているという目で見られるようになった。
俺は先輩の才能に心底傾倒していたので、それでも初めはそれが誇らしかったのだ。
だが季節は冬。腰まで雪が積もる頃には、桜の時期に抱いた憧れも
すっかり溶けて無くなっていた。
この卑屈な駄目人間が。
小中高と野球部で育った俺にとって先輩とは嫌うものではなく憎むものであり、
陰口を叩こうくらいなら見返してやると睨み返す存在だったので、
口に出してそう罵ったことは無いが、はっきりとしない苦手意識を抱えていた。

3503/04:2005/05/22(日) 17:42:25
だがある日、キレた。
つい先ほどまではにこやかにしていたくせに、部室に俺しかいなくなった途端お決まりの台詞。
「俺なんかが書いた小説なんて何が面白いんだか良く分かんないんだ」
投げたね。補欠だろうが野球部で唸らせたこの豪腕を持って、
整理もせずに散らばったファイルや辞書を片っ端から。
呆気に取られるその横面を殴ってやりたかったが、さすがにそれはやめて
代わりに普段浮かべていた苦笑いに必死で抑え込んでいたものを全部吐き出した。
「あんたに才能が無いんなら、片っ端から賞に投稿してるのに1つも入賞できたことがない俺はどうなるんだ」
「あんたの本が面白くねえんならあれに心ガンガン揺さぶられた俺はどうなるんだ」
「あんたがダメだって言うんなら…」

あんたの事が好きで好きで堪らない俺は、どうなるっていうんだ。

口に出してそう言ってしまうと負けを認めてしまうようで、その後は続けなかった。

3604/04:2005/05/22(日) 17:45:00
声を枯らすまでそう叫び続けて、息を荒げながらその場にしゃがみこむと、
唖然としていた先輩は意外にも怯えた様子を見せず「ごめんな」と謝った。
それは青い顔で愛想笑いを浮かべる時にも、涙をにじませ愚痴る時にも見せない顔だった。
長い前髪から覗く少し腫れぼったい目は今まで見たことがないほど真剣だった。
「ごめん、俺甘えてた。もうしない。それに相島君は才能無くなんか無いよ。ただ君正直だから
、思ったこと全部文章にしちゃうだろ?小説を書くのにしたって他のことと同じように勉強し
なきゃならないことたくさんあるから、それさえちゃんとしたら十分凄い作家になれるよ」
「相島君の書く小説、俺好きだよ。才能あるよ」
聞いたことが無いくらいハッキリとした語気だった。どんな批評よりも心に残った。
「でも…」
掠れていると思っていた声はしゃっくりに邪魔をされて出なかった。
その時やっと気付いた。やばい、俺泣いてる。
「でも直感で書いてる人だっているでしょ?そういう人を天才って呼ぶんじゃないっすかあ」
「いないよ、努力しない人間が天才だって言うんなら、この世に天才なんていないんだよ」
「誰だって自分は人と違うんだって、特別なんだって思いたいじゃないですか」
「君だって特別だろ?絶対いつか世間に認められるし、それに俺にとっては特別なんだ」
いつもと立場が逆転している。俺は嗚咽を漏らしながら擦り切れるほど目を擦り
止りそうにない涙を何とかして拭おうとしていた。
先輩は俺の頭を撫でながら子供にでも諭すように、ゆっくりと話す。

確かに先輩の愚痴は鬱陶しかったけど優位に立つことが、必要とされることが嬉しくもあった。
だけど知らなかった。こうやって励まして貰える事が頭を撫でられる暖かい手がこんなに嬉しいなんて。
しばらくして「顔上げられません」と呟くと「いいよしばらくこうしてたい」と笑われた。
珍しく年下扱いされてる気がして体が熱くなった。くそ、やっぱり悔しい。

371/3:2005/05/25(水) 18:39:56
>2-379「右手×左手」
妄想が暴走し長くなったためショートバージョンでお送りします…。

 何の変哲もない、いつもの帰り道。
 そろそろ梅雨時も近くなったのかよく雨が降る。日が延びて暖かくなってはきたけれど
まだまだ長袖が手放せなくもあり。
 そんな中途半端な陽気の中で、俺達はのんびりとした調子で代わり映えのない風景の
中を歩いている。

 滅多に車の通らない路地裏は、だからこそ路面の状態が悪いのか、あちらこちらに大き
な水たまりが出来ていた。たまに道一杯に広がる池みたいな場所もあり、それを蹴散らし
て歩く俺を朝比奈は子供みたいだと笑う。
「うるせ、引っ掛けるぞ」
「あはは、やめてよ。クリーニング代俺が出すんだから」
「げっ。お前んち結構キビシーのな……」
 この道は駅までのショートカットで、民家が連なるだけの人通りも乏しい場所だ。普段
も道の真ん中を歩いてても問題ないくらいに人影がない。だから俺は油断していたのだと
思う。
 駅前の大通りあとちょっとというところで、珍しく前方から車が見える。
 思い切り車高の低いエアロ付き。造花のレイやら縫いぐるみやら色々飾り付けてるところ
を見ると、オーナーは若そうな感じだ。
 ふと不安がよぎる。
(こーいうアホ装備の奴って、あんま周囲見えてないんだよな……)
 とはいえ、こんな細い道だし無理はしないだろうとのんびり俺が構えていると。
「あ……ぶなっ」
「……え?」
 それはもう一瞬の出来事で。コンクリートの塀に押し付けられるように朝比奈に抱き
込まれるとほぼ同時に、不安を肯定したかのごとく、車が突っ込んでくる。
 途端に上がる水飛沫。土砂降りの雨だってこんなにならないってぐらいしこたま水を
浴びせられた俺達は、謝りも減速もしないまま暴走するカエル色の車を見送るばかりだっ
た。

382/3:2005/05/25(水) 18:40:19
 俺を抱えたまま、携帯を何やら操作している朝比奈をよそに、俺は強張った身体を塀に
預け、半ばうわごとのように呟いた。
「しん……じらんね」
 今更ながらに震えが止まらない。機転を利かせた朝比奈が俺の右手を引かなければ、
俺は確実にあの車に引っ掛けられていただろう。この時ばかりは機転の早い奴が隣に居た
事に感謝した。
「荻野?」
 俺の怯えを察したように、優しい声で呼んだ朝比奈は、励ますように軽く背を叩く。
その胸元に縋り付き、俺は掴まれたままの右手を意識する。とっさに伸びた奴の長い腕が、
危険から遠ざけるかのように俺を捕まえて抱き寄せた。きつく掴まれた手首が痛いのに、
同時にその痛みが安堵に繋がる。
 俺を救ってくれる腕だ。いつも、いつも。
 そういえば、一年の頃、校庭の端の方でサッカーボールを転がしてた時のこと。古びて
緩んでいたフェンスが倒れてきたときに、俺を助けたのはこの腕で。気が付けば、いつも
隣で微笑んでいた朝比奈が、どれだけ俺を助けてくれていたのか分かってしまう。
 見守られて、いたのだろうか。隣にいるのが当たり前になるくらい、近くで。
 喉元で堰き止められていた息をゆるゆると吐く中で、押し付けた額が肩先にくっつく
程度には、いつのまにか身長差が出来ていたのだなと実感する。そして俺を繋ぐ左手も、
手首を軽く掴んでしまう程に大きくて。俺は微妙な気恥ずかしさと、それを上回る離れ
がたい気持ちの狭間で、収まりの悪い鼓動が静まるまでの間、寄り添う体温を感じて
いた。

393/3:2005/05/25(水) 18:40:35
 体育の授業の為に持ってきたタオルで簡単に拭ってみたものの、水を吸った制服は
重くからみついたままで、足下はプールに浸かったかのように水浸しだ。ぐずぐずと
音を立てる革靴に閉口しながら、俺達は駅への道を急いでいた。
「……の23−45か。至近で写メ撮れなかったのが残念」
「え?」
「さっきの車のナンバー。一方通行の筈なのに思い切り逆走してたし、あれだけ分かり
やすく速度オーバーしていれば、減点大きいだろうね」
 にこり、と笑みを浮かべる姿は頼もしいような、怖いような。何やら携帯を操作して
いるなと思っていたら、内蔵カメラで車を捉えていたらしい。どこまで冷静なんだかと
呆れてくる。
「……まあ。クリーニング代くらい出るといいな」
 そんな事で済ませるような殊勝な奴でない事は重々承知の上で、俺は朝比奈の健闘
を祈りつつカエル車にほんの少しばかり同情を覚える。一度敵として認識した相手に対して
この男は容赦というものを知らない。おそらく様々な状況証拠を突きつけて逃れようも
ない環境を作るだろう。無論、侮られぬように専門家を交えた上で。
「荻野が一番被害受けたんだから、ちゃんと謝って貰おうね」
「……おう」
 俺を庇ったせいで全身濡れ鼠になった奴の言うことじゃないだろうに。とことん俺を
甘やかす姿勢のこいつはバカだ。
 そしてそれを快いと感じている俺は大バカだろう。
 いつもより口数の多い左隣。護られるように右端を歩きながら、いつのまにか逆転
した立ち位置に何故か文句を付けられない。気紛れに腕がぶつかるくらいの距離は吐息
すら捉えて、視線が落ち着き無くさまよってしまう。
 この、自分らしくない大人しさを、出来れば今日のアクシデントのせいだと思って
いてくれないだろうか。そう思いながら、聡い朝比奈のことだから沈黙の訳などすぐに
分かるだろうと否定して。
 確実に傾いていく感情を持て余しながら、夕暮れの空を仰いで、俺は小さな溜息をつ
いた。
 甘痒いような悩みは、始まったばかりだ。

401/3:2005/05/26(木) 17:47:19
2-390「高校のAET×英語教師」に萌えまくったので
390さんじゃないですが、勝手にあの話の続き書いて
しまいました。ほんのちょっぴり進展ぎみ?
391さんのネタもお借りしてます。
数レスのお目汚し失礼します。

「僕は好きですよ」
ヤツに流暢すぎる日本語でそう言われてから数日。
何で片言ぶってるんだとか、つっこみたいことはたくさんあったが
その言葉の内容に俺は打ちのめされていた。
深い意味があるわけじゃない。むしろあったら困る。
なのに、思い出すだけでどうして背中のあたりがぞくぞくとしてくるのか。

流暢な日本語を喋れることが判明したその翌日、片言ぶる理由をヤツに聞い
てみると、自分が日本語を上手く喋れないことで生徒たちの英語力を上げよ
うとしているのだと答えてくれた。
確かに筋の通った理由だと納得。慣れない英語で話しかけてくる生徒たち
――大半が女子生徒だったりする――は、見ていて危なっかしさもあるが、
自分の英語で言いたい事を伝え、ヤツとコミュニケーションを取ろうとする
ことで間違いにおびえず英語を話すということにだいぶ慣れてきたように俺
も感じていた。
英語力を伸ばすには、確かに読み書きよりも話すことが重要だからだ。

412/3:2005/05/26(木) 17:47:54
「…センセイ」
次の授業の準備をしている職員室の片隅で、背中から声をかけられた。
授業の打ち合わせが済み、一段落したところだってのに、まだ何かあった
のか?
「何の用だ?」
「次の授業で使う教材で、読めない字があって。教えてもらえませんか?」
「あぁ…」
コイツ、日本語は喋れてもまだ読み書きには慣れていないらしい。
確かに漢字なんかが混じってるとルビつけなきゃ読めないみたいだしな。
あの一件以来、どうも俺はコイツに対して上手く立ち振る舞えないのだが、
仕事にまで引っ張るわけにもいかず、冷静を装って教材を受け取った。
「どれだ?」
「ここと、ここ…なんですけど」
「了解。勝手にルビふっておくぞ」
「Thanks」
俺がそのネイティブの発音にどれだけコンプレックスを抱いてるのかも
知らずに、嬉しそうにヤツはそう言った。
この前のあの告白まがいの言葉だって、どうせ俺をからかっているだけだ。
教材にルビを振っていると、ヤツの手が視界の端に映りこんできた。
俺のデスクに手を突いておもしろくもない作業を見ているのだろうか。

423/3:2005/05/26(木) 17:48:33
「よし。こんなもんでいいだろ」
「助かりました、センセイ」
「おう」
教材をまとめて手渡そうと横を向いた瞬間、あの碧眼に視線を捕らえられ
た。
まずい、そう思ったときは時すでに遅く。
「…っ」
深く屈みこんだヤツは、あろうことか俺の手を押さえ、そのまま唇を重ねて
きたのだ。
時間にしてみればほんの一瞬のことだったのだろう。しかし、俺にとっては
ひどく長い時間に感じられた。
息を吸い込んだ瞬間、ヤツの舌が下唇を撫でるように掠め、それから離れて
いった。
周囲に他の教師がいなかったことや、俺のデスクの正面が本やらパソコンやら
で塞がれていたことを、完全にコイツは逆手に取ったのだ。
呆然としている俺を横目に、ヤツは俺の手元から教材を抜き取ると、俺に向か
ってにっこりと微笑んだ。
無常にも、授業の開始を知らせるチャイムが鳴る。
慌てて俺は椅子を立ち、ヤツを追い越して教室へと向かった。

授業の最中、隣にいる男を意識する余り、俺が哀れな道化と化してしまったのは
言うまでもなかった。

431/5:2005/06/11(土) 22:27:48
いまさらのように、「腕白魔法使い×熱血戦士」
に萌えてしまったので、投下してみます。
全然腕白&熱血じゃなくなったけどキニシナイッ!↓


最近、冒険者仲間の戦士は、様子がおかしい。
特に冒険の終わった日は、何だかそわそわしてて、ふといなくなることがある。
そんな長時間いなくなる訳じゃないけれど、何をしていたのか聞いても答えてくれない。
なんつか、怪しすぎ。

そんなある日。
ある依頼の後、彼は宿で、僕と別の部屋を取った。
「報酬多かったから、贅沢」と笑っていたけれど、僕は納得がいかなかった。
だから、もう一度聞いてみた。いつも何してるんだ、どうして僕を避けるんだ。って。
そんなに問い詰めるつもりじゃなかったのに、戦士がはぐらかすような答えしか
返さないから、僕も引けなくなって、つい問い詰めてしまった。
そうしたら、あいつ、
「子供には関係ない」だって!
キレたね。確かに僕は戦士より年下だし、まだ世間的には子供だよ。
でも、自慢じゃないけど僕は、何十年に一度の天才と言われた魔法使いなんだ。
そこいらの大人よりは物はわかってるつもりだし、だから、戦士だって僕を仲間に
したんじゃないか。それに、それに、僕は戦士を心配してたんだ…!
意地でも聞き出してやろうと固く誓った僕は。
裏通りのアレな魔法屋で報酬はたいて、ちょっとした魔法を手に入れた。
この魔法をかけられた相手は、数時間の間、かけた相手の言う事に逆らえなくなる。
本当に嫌がっている事は命令できないとか、心底嫌いな相手だと魔法がかからないとか、
制約が多いけど、あいつには十分だろ。とにかく、何が何でも白状させてやるんだ。

帰って見ると、戦士は自分の部屋で旅支度をしていた。ベッドの上に、荷物を置いて
腰掛けている。
「どこ行ってたんだ?そろそろ行こうぜ。」
僕を見ると何事もなかった見たいに微笑んだ。その態度が癪に障る。
なんだよ、大人ぶっちゃって。
「行く前にさ、僕の質問にちゃんと答えてよ。」
戦士は案の定「またか」と言う顔をした。彼が何か言おうと口を開く前に僕は小声で
素早く呪文を唱えて、言葉に魔力を込めて、もう一度聞いた。
「昨日何をしていたの?してたこと、もう一度 や・っ・て・見・せ・て・よ」

442/5:2005/06/11(土) 22:30:54
あれ?と言う顔で、彼はベッドに仰向けになった。
何が起こったのか分からないようで、自分の体が勝手に動くのに焦っている。
発動成功。彼はこれから数時間、僕の命令どおりに動く。
「まさかオマエ、俺に魔法をかけたのか!?」
何とか体の支配を取り戻そうと必死になりながら、叫ぶ。
「戦士が悪いんだ、僕に秘密を持つから。さぁ、みせてよ。いつも僕に
ナイショでしていること!」
途端、戦士の顔が真っ赤になった。何だかものすごい動揺している。
「や、やめてくれ、魔法をといてくれよ、なぁ!」
「やめたら、教えてくれる?」
「そ、それは・・・」
「じゃぁ、だめ」
その間にも、彼の手は下に伸びていき、自分のズボンを脱がし始めていた。
僕は押し問答をやめ、手を凝視した。いったい何をするんだろう?
戦士が切羽詰った声をあげる。
「いやだ、本当に、頼むから…やッ」
だけど彼は最後まで言えなかった。
下肢に潜り込んだ彼の手が、彼自身を包んで扱き出したからだ。
「ア…ッ!」
聞いたことの無い甘い声が、戦士から、漏れる。どきりとした。
こんなの…、知らない。戦士は、僕の知らない事を、こんなことをしていたんだ。
顔を近づけて、じっと観察する。自分の手に嬲られる戦士のそこが、形を変えていく。
「た、頼む…やめないなら、せめて、見ないで…んぅっ」
喘ぎながら哀願する戦士。その声音がいやらしく、僕の体の奥に響いてくる。
戸惑うように揺れる目。眉根をよせて何かに耐える、切ない表情。
強い何かがこみ上げてくる。もっと、この声を聞きたい。もっとこんな顔をさせたい。
自分でも、何故そんな風に思うのかわからなかった。
「ね、もっと足を開いて」
「…!?」
「もっと良く見せて」
「い、いやだ・・っ」
言葉と裏腹に、素直に足を大きく広げ、僕の目の前に全て曝け出す。
戦士は恥ずかしくてたまらないと言う風に、目をそらした。
耳まで赤くして唇をかみ締めて耐えている。小刻みに震えているのが可愛いい。
「こんなえっちぃ事、してたんだ」
思わず、ため息混じりに呟いた。
「う、うるせぇ、見るなよ。仕方ないだろっ」
耳まで赤くして自棄っぱちに戦士が言い捨てる。
「どうして?」
「大人の男って、こうなんだっ!戦った後とかは特に、からだが興奮しちまうし!
女とか買うっても、たけぇし、な、なんていうか恥ずかしいし…」
魔法のせいと言うより、恐らく恥ずかしさを紛らすため、彼はすがすがしいほど素直に白状する。
僕は、魔法使い仲間や先輩にそれとなく聞きかじったあれやこれやを思い出した。
そうか、これがお年頃と言うヤツか。

453-5:2005/06/11(土) 22:33:32
「なぁ。もういいだろ、わかっただろ?もう、止めてくれ、よぉ…」
最後の方は、涙声だった。
相変わらず、彼の手は僕の命令を忠実に実行しつづける。
先端を撫で擦り、弄り、強く弱く扱き続ける。
僕は彼の足の間に入り込み、凝視する。微妙な変化の一つすら、見逃さないように。
「はぁ、あ、見るな、いや、見ないで、やっああ…ンっ」
涙を滲ませ熱い吐息をもらす戦士から、目が離せない。
「気持ちいいの?戦士」
彼は唇を噛んで首を横にふる。必死な嘘が可愛い。
この魔法は、本当に嫌な事は強制できないんだ。
弄っているものの先端から、雫がたれ始めた。それを指で掬い取りながらもう一度聞く。
「答えて。気持ちいいの?」
頭をちぎれそうなほど振って否定しても、彼の口は正直に答えてしまう。
「…気持ち、イイ…」
恥ずかしさに耐え切れなくなったらしく、彼の目から涙が零れた。
さすがに心がちくりとした。いつも強くて明るい彼がこんな風に泣くなんて。
やりすぎちゃった…。もう、やめてあげよう。そう思って、魔法を解こうとしたその時。
「アッ…や、いく、いやっいくっああああっ」
戦士の背がしなり、ビクビクと痙攣した。同時に愛撫されていたモノから、白い飛沫が飛んだ。
それは、腹にまだらを造り、手をどろりと伝って、戦士の下肢を汚した。
そんな光景を見たのは初めてで、びっくりした。
戦士は荒い息をつき、脱力していた。朱に染まった体が小刻みに震えている。
放心し、気だるげな表情。唇が濡れて艶めいている。
心臓が激しく鳴った。動悸が止まらない。
下半身が疼いて、体が熱くなる。こんな感覚は初めてだ。
思わず僕の口をつてい出たのは、次の命令だった。
「ねぇ、戦士。僕にもして」
「…え?」
ぼんやりしていたせいか、戦士は僕の言葉を聞き逃したらしい。
だけど、意識に届いてなくても、魔法は効果を及ぼしていた。
彼は、のろのろと身を起こし、ベッドを降りて僕の前に膝まづく。
「な、なんだよ?今度は、何をさせようって言うんだ!?」
戦士の目が、不安に揺れていた。
どんな敵をもまっすぐに見据えて動じない彼を、僕の意のままにしている。
ぞくぞくする。もっと、色んな表情をさせたい。知らなかった部分を見たい。
「聞こえなかった?僕も気持ちよくしてよ、って言ったの。」
にっこりと笑ってみせた。見るからに狼狽する顔が可笑しい。
「だ、ダメ,いやだ、頼むからやめさせてくれ」
半泣きになりながら、彼の手が僕のズボンを下ろしだした。
期待で立ち上がっていた僕のものがまろび出る。
自分のモノが、戦士と同じようになっているのが不思議な気がして、だけど嬉しい気がする。
戦士の手に、優しく包み込まれ、上下に擦られると、たまらず反応した。
「あ、あ…」
電気が走るような快感に撃たれた。意図せず、腰が揺れる。
思わず、戦士の髪の毛を掴んでしまう。いてェ、と戦士が呟いてあわてて手を放した。
ここまで気持ちいいなんて思わなかった。戦士の手だと思うと、またすごく興奮する。
弄られるたびに、全身を電気が走る。こみ上げてくる快感に、声があがった。
知らなかった、こんな気持ちいい事、知らなかった…。
未知の快感に翻弄されながら、ふと、思った。戦士は、もっと何か知っているんじゃないだろうか。
僕とふたつしか違わないけど、一応年上だし、こんなことを知っているくらいだから、
もしかすると、もっともっと気持ちいい事をしてくれるかもしれない。
戦士に、気持ちよくして欲しい。そう考えてしまうと、もう我慢できなかった。
「戦士、もっと違う事をして」
戦士が、わからないという顔をする。不思議そうな表情が可愛い。
「違う気持ちよくなり方、知りたい。教えて」
「…っ!」

464/5:2005/06/11(土) 22:36:01
案の定知っていたらしい。思わずその方法が脳裏によぎったんだろう。
可愛そうになるくらい、戦士は慌てていた。
「い、や、知らない!本当に知らないから…っ!」
叫ぶように否定しても、魔法の切れない限り無駄だった。
彼は、頭をかがめて。いやだと言いながら…僕のものを口に含んだ。
「ああ…っ!!」
思わぬ衝撃に悲鳴のような声をあげてしまう。
戦士は、命令どおり僕を気持ちよくしようとしているらしく、必死に舌を動かしている。
口に含んできつく吸い上げながら、前後に頭を動かす。先端から根元まで舐めまわされる。
頭の芯が痺れて、意識が白くなっていく。戦士が、愛しくてたまらない。
「もっと、もっとして、戦士…」
甘い声でねだっていた。僕の言葉に反応して、戦士は手も使いだす。
指で扱き、先端を吸って僕を煽る。呼応するように何かが、体の奥から競りあがってきた。
さっきの戦士を思い出す。きっと、あの白いものが僕からも出るのだ。
このままじゃ、戦士の口の中に出してしまう。
「戦士、もういいよ口を放してっ」
あわてて叫ぶと、戦士は素直に顔を放す。だけど、間に合わなかった。
僕は、勢い良く白濁を放出し、彼の顔にたっぷりとかけてしまった。
「アッ…ふぅ…」
目がくらむ。体から力が抜けて行く。まだ、しびれるような感覚の余韻が支配していた。
戦士を見る。僕のもので顔が汚れていた。罪悪感にちりりと刺されながら、その様子が
何故だか愛しかった。たまらず彼にしがみついて、キスをする。
たくさんたくさん、キスをした。
「…か?」
されるままになっていた戦士が、気だるい声で何かを聞いた。
「なぁに?」
「…魔法、まだ効いているのか?」
ああ。そうだよね、僕の魔法のせいで、いっぱい恥ずかしい思いしたんだものね。
ごめんね、戦士。
「ううん、もう切れてると思うよ。」
「…そうか。良かった。」
戦士は、心底ほっとしたように、息をついた。それから、にやりと笑う。
いつもの彼と変わらない様子に、ほっとしたのもつかの間。


僕はきっついげんこつをくらって、床に正座で延々説教をされた。

475/5:2005/06/11(土) 22:37:33
まぁ、そんなわけで。
僕と彼はまた、ただの仲間に戻り、冒険を続けている。
あの日の事は無かった事にされて、彼は今でも時々いなくなる。
でもね、戦士。キミは忘れてるよ。魔法使いは一度覚えた事は忘れない。
あの時のきみの手の動き、どこを、どう弄って、どう反応したか。全部覚えてるよ。
それともう一つ。僕の探求心と好奇心は人三倍くらいなんだ。
説教の後、キミが呟いた言葉、聞こえてたよ。
「最後までされなくて良かった」ってしみじみ言ってたね。
この次は、『最後まで』してあげる。たくさん勉強して、魔法なんて使わなくても、
「して欲しい」ってキミに言わせて見せるよ。
うんとうんと可愛がってあげる。まだまだ知らない、キミのステキなところ。
いっぱい教えてね。


ああ、その日が楽しみだなぁ。

<終了>



以上です。お目汚し失礼しましたーッ

48900:2005/07/09(土) 22:15:53

ゲトーして投下したんだがコピペミスをやらかしていたorz
*0以外の人じゃないんだが投下させてくれ

パターン1
[耽美系美少年×小動物系少年]
この場合ムードなど考えず攻めからのいきなりのキスがいいでしょう。ムードなど攻めから発せられる色気で十分補えます。
受けの肩を抱き寄せ、驚く隙も与えず口をふさぐ。
受けはとっさに眼を閉じるが、攻めは眼を開いたまま。
この眼を開いたまま、というところが最大のポイントでございます
唇が離れた後は、突然で呼吸のタイミングを合わせられなかったためか潤んだ瞳の受けが
少々上目遣い気味に攻めを睨むといいでしょう。

パターン2
[堅物男×子悪魔男]
攻めの方が年上、ただしタメ口というのが重要です。
セックスの最中でもそうではなくても、受けが攻めに跨った状態で
受けから攻めのネクタイ等を引き口付ける
攻めもしばらくしてからそれに合わせ、ぴちゃぴちゃとそれぞれの唾液を絡ませる音が響くでしょう。
この場合学生よりもサラリーマン等の社会人の方が、萌エネルギーの上昇率が高くなるとの研究結果です

パターン3
[不良×優等生]
愛のない強姦の最中、というシチュエーションでいきましょう。
常日頃から真面目ぶった受けに苛立っていた攻めは、黙らせるためにと受けを強姦します
しかしその最中に見せる意外な表情、色の混ざる声に攻めもだんだんと欲情してきて、終いには純粋な気持ちで涙を流す受けに口付けます
しかし受けにとって攻めは憎い相手、そのキスの意味もわかるわけがなく嗚咽を漏らします


以上が私の研究結果です。

492-949:2005/07/15(金) 02:15:29
2-949さんのお題「アナログ×デジタル」をお借りしました。
書いてから思ったけどアナログとデジタルである意味があんまりないorz

-------
「お前もこだわるね」
「気持ちの問題だ」

その冷たい口調のどこに気持ちがこもってるんだか。
ひっそりとそう思ったものの、口に出せば間違いなく怒られるから、
デジタルはそれ以上の言及をやめ、アナログに背を向けて画面に向き直った。
まだ自分の作業も終わってはいない。

ふたりがやっているのは、暑中見舞いの作成だった。
年齢と共に付き合いも、住所や名字の変わる相手も増えたせいで、
デジタルなどは面倒でパソコンでの作業に移行してしまったのだが、
アナログはいつまで経っても手書きにこだわる。
年賀状も同様で、葉書の売り出しと同時にコツコツと書き始めるのだ。

仕事では使ってるんだから、パソコンの使い方が分からない訳でもないのに。
住所録のチェックを終えたデジタルは、ひょいとアナログの手元をのぞき込む。

「邪魔をするな」

アナログの対応はやはり素っ気なく、
ちぇ、とデジタルは口を尖らせた。

言えない。
心を込めて名前を書かれる、見も知らない相手に嫉妬しているとか、
宛名や本文の手書きに費やす時間を自分に向けてほしいとか。
そんな子供じみた要求なんて。

50Part2-949:2005/07/25(月) 16:17:00
>>49
Goood job!!!!
(*´Д`)ハァハァ・・ウッ
アナログはカタブツ黒ぶちメガネな希ガモエスゥゥあqdftrgyふじこ;@
自分のリクだと攻めになるけどww
ともかく萌えますた。一回リクで二度おいしい(?)!!1!
姉さんマリガトン!

51萌える腐女子さん:2005/07/31(日) 23:59:14
やっと書き上げて投下しようと思ったら、見事に>1のようになってました。
もったいないので、ここに投下させてください。
Part3の119、「本当は両思いなんだけどお互いに片思いだと思っている」です。



大好きなヤツがいる。
でも、あいつが俺のことを好きなわけがない。
あいつにとって俺はただの先輩。
ポジションが同じだから、他の後輩よりは少し仲がいい。
でも、それだけ。それだけのはずなのに。

ときどき勘違いしそうになる。
あいつがあんな目で俺を見るから悪い。

きっとあいつにとっては、スタープレイヤーを見る目と変わらないはずなのに。
俺は期待してしまう。
あいつが俺に惚れてるわけがないのに。


大好きな人がいる。
でも、あの人が俺のコトを好きなはずがない。
あの人から見たら、俺なんかただの後輩。
ポジションが同じだから、そばにいる時間が少し長いだけ。
それだけ、ただそれだけのはずなのに。

ときどき勘違いしてしまいそうになる。
だって、あの人があまりにも優しすぎるから。

あの人にとっては、親しい後輩を可愛がってるだけに違いないのに。
それなのに期待してしまう。
あの人が俺に恋してるわけがないのに。

52part3-139:2005/08/03(水) 14:48:07
ヌルーだそうなのでここに投下させていただきます。

53139 (1/2):2005/08/03(水) 15:01:37
『若葉薫くん』
 アナウンス係が、また、場違いなくらい少女漫画じみた名前を読み上げた。
と同時にバッターボックスに入ってきた小柄な男。なるほど、見た目もどこか
少女漫画を彷彿とさせる、整った顔だ。俺は何度目かになる感想を、もう一度
抱いた。
 夏の甲子園予選、準決勝。俺たちの学校と、その学校の力は拮抗していて、
七回まではどちらも無得点。八回表でウチが一点、裏で向こうが二点入れ、九回
表でまた、ウチが二点入れた。
 そしていま、九回裏。若葉薫とやらは、体格に見合わぬ痛烈なバッティングで
セカンドゴロを決め、俺が守るファーストに飛び込んできた。
 闘志に満ちた、獣のような目に、何故か俺は胸が高鳴った。

54139 (2/2):2005/08/03(水) 15:14:00
 ツーアウト。
 若葉がファーストに出たものの、向こうの攻撃は止まったままだ。当然
だが、こちらとて必死だ。ウチのキャプテン、兼エースピチャーであり、
俺の親友でもある三浦は、鬼神のような面持ちでボールを投げ続けている。
 ツーストライク。三浦はギロリとこちらを睨んだ。
『次で終わりだ』
『解ってる』
 大味な風貌の三浦はニッと笑って、再びバッターに目を据えた。と同時に、
若葉のいる方からギリリと歯を食いしばる音が聞こえた。

 ああ。
 俺は思った。
 全ての人が幸せになれる結末なんて無いのだ、と。

 バッターアウト! と叫ぶ審判の声。揚がる歓声。
 そして、かき消される啜り泣き。

「おまえのせいじゃない」
 気付けば俺は若葉に向かって、そう言っていた。
「だれのせいでもない」

55139 (3/2):2005/08/03(水) 15:23:33

 あれからもう、五年。結局、俺たちの学校は次の決勝戦で敗れ、甲子園
進出は出来なかった。俺はその後野球を続けることなく、今はしがない
サラリーマンの身だ。
「今日からこの課に新人が配属される」
 バーコード頭の課長が、しょぼしょぼした声で言った。これでいて仕事は
早いので、人は全く見かけによらないものである。
「若葉薫くんだ」

 その後の課長の声は、俺の耳には届かなかった。
 あの灼熱の太陽の記憶が、俺の中に蘇ったから。

 見間違えでなければ、若葉もあの日のことを思い出したのだろう。
 もうあの日のようには焼けていないが、顔をこちらに向け、俺に向かって
微笑んだのだから。

56萌える腐女子さん:2005/08/14(日) 21:29:07
3スレ目29さんの「出版社営業×書店バイト」の続きと言うか、35-37さんに
触発されて書いてみてます。


結局のところ、ほぼ日参するあいつに根負けして初回10だけ平積み、てことになった。
マイナー出版社の無名作家のエッセイなんて普通売れると思わないだろ。
蓋を開けてみればそのまさかだったわけだけど。

「こんにちは」

相変わらず汗びっしょりでやってくる。
変わったところと言えば最近心なしか嬉しそうな気がする。

「数字、見てもらえますか?」
「60入りの57売れ。残が3。ああ、少し展開広げるから30ほど追加してくれってさ」
「ありがとうございます!」

嬉しそうに笑って深々と頭を下げる。
俺じゃねーよ。社員がそういったんだっての。どう見ても5つは年下の俺に敬語使うなって。
ああイライラする。

「じゃあ、展開広げていただくお礼に飲みにでも行きませんか?」

なに言いだすんだと思ったけどタダ酒タダ飯の誘惑にかなうはずもなく。
バイトが終わった後こいつと飲みに行く羽目になった。
遠慮なんかするもんか。どうせ経費で落ちるんだし、と普段自腹では飲まない
高い酒ばかりガンガン飲んでやった。

57萌える腐女子さん:2005/08/14(日) 21:41:40
しこたま飲んでしこたま酔ったらしい。
目覚めたら見覚えのない天井が見えた。

「あー……?」

顔を動かすと心配げに覗き込むあいつと目が合った。

「ここ……?アンタんち…?」
「はい…お送りしようと思ったんですけど住所とか知りませんし。」

すみません、と頭を下げた。だから何でいちいちそこで謝るんだよ。
思考は霞がかかったようにぼんやりとしているけどベッドで眠ったせいか
意外と身体はすっきりしている。

「シャワー貸して。気持ち悪ぃし。」

ありがとうもごめんなさいも言わず傲慢に言い放つとあいつはあわてて立ち上がり、
風呂の用意を始めた。
俺はというとやはりありがとうもごめんなさいも言わず無言でシャワールームに向かう。

一通り身体を洗って、タオルを巻きつけた格好で出て行くとあわてたようにパジャマを
持ってこられた。

「着替え置いておいたのに。そんな格好で風邪でも引いたら……」

顔が真っ赤になってる。クーラーまでついてるってのにまだ暑いとか言うのか?
差し出されたパジャマを受け取らず「いらねー」とだけ言ってベッドに戻った。

「それよかアンタもシャワー浴びれば?つーか汗臭いし」

慌てたようにシャワールームに向かった。滑稽な奴だ。
仕事だけじゃなく普段から友達にもぺこぺこしてんじゃないか?そんなことを考える。
酔って余りまわらない頭にもうちょっとからかって遊んでやろうか、なんて考えが浮かんだ。

58萌える腐女子さん:2005/08/14(日) 21:53:02
巻きつけたタオルを中途半端に身体にかけてベッドに寝転がる。
しばらくするときっちりとパジャマを着たあいつが出てきた。
裸同然の俺を見て目を丸くしている。

「……何か着ないと風邪引きますよ…。」

目を逸らしてうつむいて弱々しい声で言う。ここから見てもよくわかるぐらい真っ赤になっている。
男の裸ぐらいで真っ赤になるな。それともまだ暑いのか?

「別にいらねー。それよか寝るんだろ?来いよ。」
「私は床で寝ます、それより……。」

先ほど差し出してきたパジャマをしつこく押し付けてくる。
押し付けながらも必死に顔を逸らしてこちらを見ないようにしている。

腕を引っ張ってやったらバランスを崩してあっさりと俺の上に覆いかぶさってきた。

「あ……!す、すみません!」

慌てて起き上がろうとするあいつの腕を掴んだまま、空いた方の手で股間を撫で上げてやる。
予想はしてたけど、しっかり勃ってる。

「すっげぇガチガチじゃん。俺見て欲情した?」
「すみません……。」
「ヤラせてやろうか?」

59萌える腐女子さん:2005/08/14(日) 22:31:05
仕事に戻るのでここまでで…

60耳かきと反対側の綿毛、先を越されたのでこちらにw:2005/08/15(月) 22:59:34
俺は硬くて長くって、太さはそんなにないけど、奥を良い感じに責めることができると自認してる。
近年は綿棒なんて輩が幅を利かしているが、穴攻めの伝統は俺が担っているようなもんだ。

俺の反対側にいる奴、あいつ名前梵天って言うんだけどよ、ふわふわのぽやぽやで頼りない。
奥にしがみついてるブツを剥がすことなんてできやしねえ、力仕事に汚れ仕事ができないひ弱な奴だ。

おっと仕事か。さあどうぞご主人様。おっ、これまた大物がいたな、こいつを始末して、っと。
おお喜んでもらえてるぜ、大物だったしな。こちらも汗水垂らした甲斐があったってもんだ。

「おつかれさま、じゃ次僕が行くね」

背後でふわふわのぽやぽやの声がする。ご主人様もお喜びのようだ。ちぇっ、後から来たくせに自分も手柄顔かよ。こいついっつもこんな調子だ。

「今日もいっぱい仕事したね、また次の仕事も頑張ろうね」

お前なんて俺が居なきゃ何も出来ない、頼りねえひ弱な、ふわふわのぽやぽやなくせに。

どうして俺たちは離れられないんだろう。

61萌える腐女子さん:2005/08/24(水) 18:51:36
「この手紙を読む頃には、もう僕はこの世にいないと思う」

冒頭からいきなりこんな調子で始まったあいつの手紙には、
俺と別れてからも俺のことが好きだったとか、
3年前に俺に隠れてホストの彼氏と付き合いだしたのは
身寄りがなくて学資の調達に困っている俺が
教授の推薦でイギリス留学するのに必要な金を
俺の代わりに用立てようとしたからだとか、
金さえ手に入れば俺のところに戻ってくるつもりだったとか、
これまで俺が知らなかったあいつの苦悩がいろいろ書いてあった。

バカヤロウ! なんでそんな大事なこと黙ってるんだよ!
それを知っていれば俺はお前の浮気を知ったときに
殴り倒して罵ったりはしなかったんだ!
お前が俺と一緒に暮らせないことに絶望して
教授が引き留めるのを断って大学を中退したり、
その後闇金融の取り立て屋という
極道まがいの仕事に就こうなんて思わなかったのに!

お前だけだったなぁ、俺を見て
「君を見てると、すごく気持ちが落ち着く。
 まるで君に守られているみたいな気がする」
なんて優しいことを言ってくれたのは。
他の奴は俺の顔を見ただけでみんな怖気づいて
俺に声をかけようともしなかったっけ。
おかげで仕事で延滞金の回収をするときには重宝がられているが、
それ以外はほとんど仕事が回ってこないんだぞ!
「お前がいると客がビビッて金を借りようとしない」ってな。

まるでこの状況は、いつだったかお前が貸してくれた
尾崎紅葉の「金色夜叉」のストーリーそのものじゃないか。
俺は取立て先に出向くときのスーツ姿のまま、
手紙を握ってあいつの住んでるアパートに向かって走り出した。
最近しつこく俺に付きまとっている
オカマショーパブのNo.1ダンサーが俺の後ろでなにか叫んでたが、
そんなの気にしてる余裕なんてなかった。

俺が悪かったよ。
「金に目がくらんであいつの愛人になったんだろう!」とか言って
嘲った俺が謝るから、どうか死ぬのだけは勘弁してくれ。
こんな大事なことを隠したままお前が死んだら、
俺はもう2度と立ち直れない。

──「アイス」とは何も関連性がないって?
そういえば尾崎紅葉先生はその著書の中で「美人の高利貸」のことを、
氷菓子になぞらえて「美人クリイム」(クリイムはアイスクリーム)と
表現してましたねぇ。お粗末。

6261:2005/08/24(水) 18:56:30
すいません、書き込みミスしました。
↑のは3スレ目209の「アイス」のつもりです。

63元気いっぱいの中学生と貧弱な死神:2005/08/26(金) 19:51:21
「おい、おっさん!今日は水曜だかんな!部活終わったら行くからな!」
威勢のいい声はマンションの隣りの中学2年生。野球部の補欠。
声をかけられた貧相な男は彼を振り返り、おはようとぬぼーっと片手を挙げた。
朝6時。
朝練のために早めに登校する少年と健康のためだという早朝散歩の男は、
よくこうして一緒になる。世慣れたフリーライターだと言う、でもちっとも
世の中を渡っていけそうにないひ弱な体つきの男の部屋に、勉強を教えてもらいに
少年は週に何度か通っていた。半分は男の部屋にあるゲームソフトのためだけど。

少年は知らない。そのどこか年齢不詳の男は、実は死神なのだ。
少年が1年前の事故で死にかけた時、魂をとろうとしてとれなかった死刑執行人。
死神はなぜ彼を死なすことができなかったのか。
答えは簡単でありきたり。死神は少年に一目惚れしたのだった。
今までにたくさんの人間に死を与え、その魂をとってきたはずだった。
際立ったものを特に持たない少年が、それらの人間とどこが違うというのか、
死神にはわからなかった。
ただ死神には少年が特別に見えてしまった。
だってそれが恋というものでしょう……。

なーんて、男(=死神)がクサイ台詞と共に1年前の出会いを振り返っている間も
少年は元気いっぱいに大好きな野球の話をする。
「でさあ、キャプテンがすっげーダイビングキャッチをしてさ。
ふつー、捕れねえって、あんなタマ。やっぱすげーよな。」
(……一目惚れしたアナタのために、処分覚悟でこうして魂も取らず、側にいる僕に
たかが野球のボールをとった男の話をうれしそうにするんですか。
あーそうですか、そうなんですね。どーせどーせ僕なんてただの隣りのおっさんですよ)
男は頭の中ですねてみる。でも本当は少年の話なら何でも楽しいのだ。
彼の話す事ならば何でも。

(処分か)
男は夏の早朝の空を見あげた。今日は晴れだ。
死神が対象者に恋をするなんて許されないことだ。
このままではいずれは、死神はその存在を抹消されるだろう。
少年は次に死を与えられる機会が来るまで生きられるはずだ。
それがすぐか、ずっと先かは死神にもわからないが。
男は少年に別れの挨拶もできずに消えることになる。
(人魚姫みたいに、泡になって消えるかなあ。あれは七色に光る泡だったけど、
僕はきっとばっちいアブクに……)

「って、おいおっさん、聞いてる?そんでキャプテンがさー」
男がふと気がつくと、少年はまだ尊敬するキャプテンの話をしていた。
自分達の主将がどれほど闘志あふれるプレイヤーか、男に手振り身振りを加えて
話し続ける。
男は笑顔が苦笑いにならないよう気をつけて、うなずきながら聞きいった。

男も知らない。
少年がどんなにキャプテンに誘われても、必ず男との約束を優先させることを。
飄々としながらも度胸がよく、周りの大人達とは違う自由で視野の広い物の見方を
する男のことを「かっこいい」と憧れていることを。

このやさしい時間はいつまで続くのか。
それは二人とも知らない。

64479-2:2005/08/27(土) 07:31:49
3スレ目の480です。「紳士な吸血鬼受け」だったのですが479さんの
萌えお題に熱くなり、長くなってしまったので本スレの続きからこちらに投下。

腰を抱いたのはやたらとふらついているからで、それを支えるためなんだから決して他意は
ないんだようんうん俺優しい、と心の中で自分に言い聞かせていたはずなのだが、いつの間にか
うっかり声に出していたらしく男は弱弱しいながらも丁寧な口調で礼を言う。
「ありがとうございます、最近は血液を摂取するのを忘れていたもので……身体に疲労が」
「もしかして俺、何か今喋ってた……?」
「ええ、はい?他意がどうだとか……」
やべーやべーー何口に出してんだ俺、もっと落ち着け!
「昔は吸血鬼同士の遊びで斬り付けあうということをしていたようですが、もしかしてそれでしょうか?」
嬉しいのですが、今は残念ながら力がほとんどないので斬り付けられたら本当に死んでしまいますと
申し訳なさそうに謝罪する男を見て、盛大に顔が引き攣った。悪ふざけで斬り付け……?死ぬ。
間違いなく俺がやられたら死ぬ。そんな俺の冷や汗満点な心中など知らず、腰を抱かれたままの男は何を
勘違いしたのか焦ったような表情を見せた。
「あの、ですが、その、私は今は力がないだけですので……力が戻ったら」
男は俺の着ている制服のブレザーを強く握ると必死な目をして言い募って来るのだが、その拍子に
俺が掛けている眼鏡が少しだけ揺れた。俺より男の方が背が高いのが悔しい。
うわあ本当に顔青白いし色素薄いな、と思いながら口元を見ると、そこから僅かに覗いた白い歯に
吸血鬼特有の牙らしき尖った歯があるのを認めると、急激に自分が冷静になるのを感じた。
「現代は吸血鬼は少ないからね、大昔の遊びでうっかり仲間が減るということは勘弁してほしいな。
 だから俺達は斬り付けあいはなしだ」
「お相手は……して頂けないのですね」
半ば泣きそうになっている男に慌てて付け足す。
「いや、斬り付けあいはしないってことだからそんな落ち込むな!そうだな、具合が悪いんだろ?
 俺の家で休むか?斬り付けあいなしで話すだけの相手じゃ、駄目か?」
思いついたことをとりあえず矢継ぎ早に言うと、酷く落ち込んでいる様子だった男が驚いた顔をしてみせた。
「お宅にお邪魔してもいいのですか」
「うん、だからそう言ってるじゃん」
「吸血鬼が同志を自宅に呼ぶということは、血縁関係になったのに等しいということでしたよね!
 私などでいいのでしょうか!?」
期待に目を輝かせた男は俺の手を冷たい両手で握り、興奮したように発言した。
ええぇーそんな吸血鬼ルール初耳だって、と言うことも出来ず俺は相変わらず胡散臭い笑顔で頷くと
男は感激の余り頬を紅潮させ、はにかみながら挨拶する。
「どうぞよろしくお願い致します」
制服を着た高校生に腰を抱かれる、マント姿の男というこの状態ってどうなんだ……と
俺は今の展開から軽く現実逃避を試みるのだった。しかもここ駅前だし。

先程男に手を握られた瞬間、右目が警告するように激しく痛んだことなど忘れていた。

65479-3:2005/08/27(土) 07:33:53
家に帰ると、いつもうるさい兄が不在だった。俺と兄は二人きりで暮らしているのだが
兄はよく急に旅に出るだとかでいなくなるので今回もそうかもしれない。前回はコンビ二で
プリンを買いに行くと行ったまま旅に出たらしく一ヶ月帰って来なかった。生活費はどこから
出てくるのかいつも不思議に思っていたのだが、兄が旅から帰って来ると何故かいつも大金を
持っているので我が家の経済はその怪しげな金によって賄われているらしい。深く突っ込むと
嫌なものを掘り出しそうなのでその件については触れずにいる。
家に来たという興奮からか、男の体力は完全に回復したようだったのでとりあえず椅子に座らせ
冷蔵庫にあったプリンを出すと、黙々と食べ出した。その間にテーブルの上にあった書き置きを読む。
『我が弟へ
 またお兄様は旅に出ることになりました。残していくプリン達が心残りですが何しろ指令なのだから
 仕方ありません。あ、もちろん弟も心残りだよ。(プリンの次ぐらいに)
 僕がいない間は何とか頑張って下さい。もしどうしても無理だろこれってことがあったら
 棚にある木箱を開けるんだよー。ちなみに金じゃないから。金は自分でどうにかして。それじゃ☆彡』

ビリッ。

ぺらっとした薄い一枚の紙を、怒りの余り力の入った指で破いてしまった。金うんたらの
無責任さとかプリンがそんなに大事かよとか、指令だとか意味不明さに対する怒りが、文の最後の
流れ星らしき不愉快な絵で爆発したらしい。追伸を流れるように見るとそのまま勢いよく紙を
ゴミ箱にぶち込んだ。こちらを窺っている男がいるテーブルに近づき、椅子を引いてどかりと座る。
「大きな音がしましたが……」
「問題ないってこの野郎殺す大丈夫金は置いていけだよ」
「え!?」
まずい、合間に本音が交じってしまった。
「いや何でもない。ほら、あれだって、口が上手く回らない時ってあるよな?うん」
そうですよね、私も喋る時口の中を噛んでしまって地味にショックな経験があります、と
男が頻りに頷いて納得しているのを見て、これって天然を超越して別のものになるぐらいの
鈍さな気がするなと考えた。ふと見ると置いておいたプリンの内五個が既に食べられている。早っ!
プリン五個に耐えられる胃袋を持つ男を見詰め、疑問を口にしてみた。
「さっき血が足りないって言ってたけど何で最近は飲んでなかったの」
「ずっとハンカチに刺繍をしていたのですが、気付いたら一週間経っておりまして」
「んで腹減って外で血を吸う相手を物色してたと」
「ち、違いますよ。どうも私は人を襲うのが苦手で……。集められた献血車の中にある血液をですね」
「……まさかとは思うんだが、盗むのか?」
「盗むだなんて、そんな!奪うというやつですよ」
ああ、犯罪者がここに!吸血鬼が献血目当てなんて話初めて聞いたぞ。紳士かと思ったらこれだ。

66479-4:2005/08/27(土) 07:34:32
「吸血鬼って言ったら人間襲って血を吸うもんだろ」
「しかし、私が血を吸ってしまってはその方まで吸血鬼になってしまいます」
「ちょっと待てよ。数百年一人で寂しかったんだろ?何で人間の血吸って仲間にしなかったんだよ」
途端に男は寂しそうな顔をした。
「私は吸血鬼で良かったと思ったことはありません。吸血鬼は数が少なくなるにつれ人間に
 近づいているのはご存知ですよね」
それは初耳ですとも言えず俺は視線で話を促す。右目が疼いたのは気のせいだろうか。
「ですから伝説のように太陽の光にあたっても灰にはなりませんし、十字架やにんにくも平気です。
 銀の弾丸などもですね」
「伝説あてにならねぇなあ」
「ただし姿を短時間消せること、血を飲まないといけないこと、不老不死なことはどうも変化しませんね。
 噂ですと数ヶ月前に、白木の杭で心臓を打ち込まれて死んだ同志がいたそうですので、残念ながら
 その点も変わらないようです」
俺が沈黙した理由は二つある。これは物凄く重要なことを聞いてしまっているのではということと、
右目に先程から違和感があることだ。
「もうほぼ人間なんですよ、私達は……。血液だけでしたら何とかなるかもしれません。ですが
 いつまでも年を取らずにいて死なないとなれば一箇所に長くはいれませんし、人間と親しくなっても
 瞬きする間に骨になってしまいます。」
目の前の男がゆっくりと冷たい手で躊躇いがちに俺の手に触れると、右目の疼きが唐突に痛みに変わった。
「一年前、吸血鬼は世界にもう数人しかいなかったと聞いております。その僅かな同志もハンターによって
 殺されてしまいました。人間を仲間にした方が私は幸せかもしれません。ですが吸血鬼はもう現代には
 不要な存在です。近い内に滅びるでしょう。人間に近づいていっているのがその証拠に違いありません。
 滅びる時の最後の一人は、きっととても寂しいですよね。何しろ最後の吸血鬼ですから、仲間もおらず
 人間とも一緒にはいられません。死ぬ瞬間まで一人きりです。」
俺は男の話を何とか聞き、右目を襲う激しい痛みに耐え顔を歪ませないようにするのが精一杯だった。
「私の寂しさなんかのために、誰かを無理に吸血鬼にはさせられません。その誰かが最後の一人に
 なってしまって、私の都合で一人で死んでしまうことを考えると、とてもそのようなことは……」
右目の激痛といったら眼球が破裂する寸前かと疑うような有り様だったが、余りの痛みに表情すら
変わらなくなってきたらしい。その痛みの原因は、明らかに男が接触してくることによるものだというのに、
不安そうに揺れた目を見ると腕が石になったかのようにぴくりとも動かず、僅かに震える男の冷たい手を
振り払うことができない。目の前の男は半ば泣いていた。
「もう皆死んでしまいました。私は、吸血鬼の、最後の一人なのです。そうだったはずでしたが、あなたが
 奇跡のように生き残っていましたので、私はもう寂しくありません。」
寂しくなんか、ありませんよ。
そう言うと男は痛いほど強く俺の手を握った。

67479-5:2005/08/27(土) 07:35:26
いけない。そう思った。この目の前の男は俺を吸血鬼だと思い込んでいる。でも俺はただの人間で、男はやっぱり最後の一人なのだ。数百年ぶりに仲間に会えたと喜んで、家に呼ばれて血縁関係同様に
なれると感激し、孤独な時間は去ったと泣きそうになっている。今日初めて会った、俺にだ。
嘘をこれ以上吐くと男の絶望が濃くなるだけだろう。俺は人間だよ。そう言いたいのに酷くなる一方の
右目の痛みのせいで、まるで言葉にならない。まずは目の痛みはどうにかするのが先だ。握られた手を
乱暴にならないよう出来るだけ静かに退ける。この痛みは入れているカラーコンタクトのせいもあるかもしれない。
「悪い、洗面所に行ってくる。ちょっと待ってて」
「どうかしましたか?顔色が悪いですよ」
心配そうに見詰められ、焦る気持ちが湧いてきた。
「いや、急に目が痛くなって……。多分コンタクトのせいだと思うから外してくる」
触れられると右目が痛むとも言えずそう発言すると俺は立ち上がった。背後で男の呟く声が聞こえる。
「……目?」
嫌なことを思い出してしまいますね、確かにそう言った。

洗面所に続くドアを閉めると掛けていた眼鏡を鏡の前に置き、右目を見てみる。腫れてはいない。
カラーコンタクトを外すと鏡の中の自分は右目を除いてはいつも通りだった。俺の右目は紅い。
左目だけは黒いまま、髪は黒なので燃えるような紅い右目だけが不吉にその存在を象徴している。
これは生まれつきのもので、それを隠すために度が入っていない黒色のカラーコンコンタクトを
右目にだけしているのだ。両目につけて度があるものにしないのは、最近急激に目が悪くなって
まだ用意出来ていないためだった。だから面倒だが眼鏡を掛けている。紅い右目の痛みは治まってきて
頭が働いてくると、兄の残した書き置きの追伸のことを唐突に思い出した。
『追伸:無理なことっていうのは右目が痛んだ時のことだから』
何故今まで忘れていたのだろう。ちょうど鏡の横に置いてあるやたらと大きい木箱をひったくるように
手繰り寄せ中身を見る。初めに目に入ったのは、ボウガンだった。かなり大きいがどうしてここにと
疑問を持ちながらボウガンに触れてみると、脇の方に矢が一緒に入っていることに気付いた。
特別に用意したものらしく、かなり太さがあり、木でできているようだ。
……木?それではまるで、
そう思考した時、箱の中にある手紙に気付いた。いつの間にか少し震え出した指で掴み最初の一文を読む。
『我が弟へ』
兄からだ。
『さて、この箱を開けたということはもう薄々分かっているよね。面倒だから結論から言っちゃうよ。
 僕達は、吸血鬼ハンターの一族です』

68479-6:2005/08/27(土) 07:36:33
『右目が痛くなったからこの箱を開けたんだよね?痛みは想像の通り、吸血鬼が原因だよ。
 その紅い右目は吸血鬼に触れられるとかなり痛くなるんだ。人間と見分けがつかなくなった
 吸血鬼に対抗して、僕達ハンター側も右目で吸血鬼を見つけようとしてる訳だよ。昔は紅い右目は
 存在しなかったらしい。まあこれを読んだ今は、僕が時々旅に出てたのは何故かもぼんやりとは
 分かるよね。現代では吸血鬼はひっそりと生きてて、特に人間に何かしようって奴はあんまいない。
 あんまいないってことは、それなりにはいる。そんな吸血鬼をボウガンでぶっ刺しに行ってたんだよ。
 もしくは吸血鬼を見世物にしようとしてる奴とかね。んで我が家の経済はそれによる報酬で
 賄われていたと。長年の謎がやっと解けたでしょ?良かったね!我が愛しの弟!と言いたいとこだけど
 この箱を開けたからには吸血鬼に会ったってことだ。困った困った。とりあえずそいつが
 ヤバそうだったら、今すぐこの箱のボウガンと矢を持って全力で逃げるんだ。
 もしくは、それを使って殺せ。』
手紙を持った手に力が入り、書き置きの時のようにまた破ってしまいそうになる。
『まあ物騒なこと言ってみたけど最近はホント吸血鬼少ないし、奴らも平和に暮らしたいと
 思ってるはずなんだよね。だからハンターの証である紅い右目を見たら大抵逃げるはず。
 右目を見ても逃げない奴は、殺し合いたいか友好的になりたいかなんだ。もし後者でこいつ
 殺したくないなーって強く思う奴がいたとする。そしたら、その吸血鬼をどうにかできる力が
 僕達ハンター側にあるんだよね。奴らを見たらとりあえず殺せ!っていうハンターも多いから
 それが嫌な吸血鬼にはラッキーな方法って訳。そんでそのラッキーな方法だけど、やり方は
 簡単だから安心して。小瓶か何かに唾液を入れてそれを吸血鬼に飲ませるだけなんだけど、
 その時素肌の上から右の掌で吸血鬼の心臓のあたりを押さえて、左の目を瞑らなきゃいけない。
 つまり紅い右目で相手を見るってことだね。まあ簡単なんだけど相手が唾液を飲むかっていうのが
 問題かな!何となくじゃ唾液飲めないしねえ。しかもこれやるとハンター側は一気に七つ年を
 取るからそこんとこ注意。ちなみにこの方法、吸血鬼には余り知られてないらしい。
 実はハンターは血を吸われても吸血鬼にはならないんだ。進化ってやつなのか奴らの力が弱まったのかは
 謎だけど。あ、さっきの方法やったらどうなるかっての書くの忘れてた。
 何とびっくり、』
俺は手紙を投げ捨てるように置くと、男がいる部屋へと走り出した。

69479-7:2005/08/27(土) 07:37:59
「おい!」
走って来た上、いきなり大声を出した俺に驚いたように男はこちらを向くが、近寄る俺の右目が
紅く輝いているのを認めると見事に身体を硬直させた。両目がひたすらこの右目だけを見詰めている。
「触ると目が……痛む……!右目が、紅い…そんな、まさか――」
「おい」
今までの呪縛が解けたかのように、男はびくりと肩を揺らした。兄によるとこの目を見て逃げないのは、
殺し合いたいか友好的になりたいからしい。後者だと確信しているが、この男がどういう答えを
出すのかはまだ分からないから油断は出来ない。ただ、俺はこの男を信じた。だからボウガンと
矢は置いてきたのだ。目の前に立っているのだから、やろうと思えばこの男に丸腰の自分は殺されるだろう。
「まず謝る。嘘を吐いて悪かった。俺は吸血鬼じゃない、人間だ。しかも吸血鬼ハンター一族の」
さて、どう出る?
「……そう、だったの、ですか」
目をこれ以上はできない程見開き、悲しみが滲んだ表情をするのを見て胸が痛んだ。
「俺がハンターだって分かったのに逃げないのか」
「構い、ません」
「え?」
「早く、心臓に杭を打ち込んで下さい」
「何言って――」
「抵抗はしません」
そう言って目を強く瞑った姿に理由の分からない苛立ちを感じ、男の柔らかい髪を思い切り掴むと
こちらに近づける。僅かに怯えを見せるが、目は開かない。
「じゃあ最後の吸血鬼が死ぬ前に聞こう。お前は最後の一人で、寂しかったんだろ?」
「……ええ」
「仲間がたくさんいる人間が、羨ましいか」
「……ええ、とても」
「さすがに来世も吸血鬼はもう懲り懲りだろうな」
「……そうですね、生まれ変われたら」

―――人間になりたいです。

目の前で睫毛が震えている。男の切実な響きの篭る、囁くような小さな声を聞き俺は決意した。
「自分がハンターだって知ったのは最近でね。一番初めに殺す吸血鬼は、お前だよ」
ようやく開いた両目は絶望の色をしていた。

70479-8:2005/08/27(土) 07:38:42
「約束したよな、抵抗するなよ」
弱弱しく頷いた男のシャツのボタンを力任せに引き千切ると、その拍子に落ちたボタンの音が
床にあたって乾いた音を立てた。露になった素肌の白さに驚きながらシャツの隙間に右手を
忍ばせる。素肌と右手が触れた瞬間、男は唇を強く噛んだ。心臓の位置を探るために掌を動かし始めると
男が息を呑んだのが分かる。軽く触るだけではどうにも曖昧で分からないため、掌を強く押さえつけて動かすことにした。
「っ…ぅ……」
途端に声がしたことに驚き男の方を見ると、頬を紅潮させて目を逸らした。その仕草に目を奪われながらも
心臓の場所に見当を付け、ずれないように固定する。
「やめてくださ、い……」
「唇を噛むのをやめるんだ」
男は少しだけ迷うと諦めたように視線を落とした。それを許さず左手で顎を持ち上げると
顔をゆっくりと近付けながら左目を瞑り、舌だけを出し男の唇をなぞるように舐める。
信じられないかのように目を見開いたものの、抵抗はしなかった。先程から男の胸に触っているために
右目が燃えるように痛むがそれを無視して行為を続ける。唇の合わせ目から舌を侵入させ、歯列を
なぞり咥内を丁寧に舐めれば、男が眉根を寄せくぐもった声を出した。
「…ん……っ…」
その表情を痛みが走る右目だけで見ると、唇を深く合わせ、打って変わって乱暴な舌の動きに変化させる。
全身の筋肉と骨が軋むのは、きっと自分の身体が七年の時を急激に過ごそうとしているためだろう。
この契約が上手く進んでいることに安堵しながら一層深く唇を合わせた拍子に、男の鋭い牙で
舌を切った。咥内に血液の味がしてくると何かを訴えるように男の潤んだ目がこちらを向く。
恐らく切ったことにより吸血鬼となると思っているのだ。ハンターにはそれは効かないということを
知らないらしい。
「っ、…っぁ……」
右目の痛みと全身の軋みがピークに達しそうな時、男が咥内に溜まった唾液を嚥下するために
喉を鳴らした。すると今までの激痛が嘘のように引いたのでこの契約が成功したのだと知り、舌を
引き抜くと唇同士を合わせたまま、笑みの形を作ってみせた。顔を離すと、蕩けた瞳でぼうっと
見詰め返すので、とりあえず飲み込みきれずに零れた口元の唾液をもう必要なくなった
男の黒いマントで乱暴に拭うと、ようやく正気に戻ったらしく慌てて詰め寄ってくる。
「ど、どうしてこんなこと、私の牙で、切ってしまったでしょう!」
そう言いながら男は手を牙に持っていくが、目的のものが見つからないらしく混乱した様子だった。
「もう牙はないよ。それにハンターは咬みつかれても吸血鬼にはならない」
「え?……え?どういうことですか!しかもあなた、」
こちらを凝視する男により、そういえば自分が七歳成長したことを思い出す。前は男の方が背が
少しだけ高かったのに、今では完全に俺の方が背が高い。
「あー……制服破れてるし。自称ブラコンの兄に殺される。」
嫌そうな顔をした俺に拍子抜けしたかのように、男の肌蹴たシャツがずるりと滑った。
「私のことを殺すのではなかったのですか……?」
「いや、もう最後の吸血鬼は殺した」
「え?」
「牙がなくなったから分かるだろ?まだ心配だったら姿を消してみればいい」
「あのう、何のことでしょうか」
「お前、もう人間なんだよ。」
『何とびっくり、吸血鬼がね、人間になるんだ』
証拠に俺もいきなり成長したし。そう付け加えると、男は宙を見て動かなくなった。どうやら
姿が消えないことを確かめているらしい。
「す、姿が消えません……。私、ほほ、本当に、人間なのですね」
「もう寂しくないだろ」
男は笑おうとしてぎこちなく口元を歪ませると、そのままゆっくり、両目から静かに涙を零した。
「あなたのお名前、まだ聞いていません」
「ああ、俺は―――」
その時いきなり扉が音を立てて開いた。

71479-9:2005/08/27(土) 07:40:08
   \      \ \     | ,,,--''''' ̄ | // _,,,,,--┐  | /  _,,,...---
      || ̄ /lー|、-/l \┌'' ̄|    _,,,,-ゥ/i`ヽ、    |ィ-ァ | | 「 ̄  |
      ||  /,'  | | |、| ̄''''ー-____,,--''''',,,-'''~/  \|  //  | | |    |
      || //==| |=|/ー-< ̄__,--''  ̄   /     //.|   | | |    |
―--,,,,,__.||_// ┌| |‐---,,,,__ ̄| | |        //  |   | | |    |
___ ||| /| | 'l |     | | |        /'''~____,,,...|  .| | |_,,,,,--|--''''
====┐ |||/ | | ||     | | |    ,,,,,,,―'''''''''''´    |  | | |     |
   ||  ||/ | | '! _,,,,,,,,,---''''''''''''´ ̄   ―――――|  | | |     |
   ||  || __,,,,-i''''´     _,,,,,,,,----''''''''''''´ ̄ ̄ ̄ ̄\|  | | |     |
――||―||ξ  ,Lィ-'''''´ ̄ | | |                | ―|ー| |-,,,,,__  |_,,,,
   ||  ||  ̄"´       | | |               |  | | |--''''' ̄|'''''--
   ||  ||  | |       | | |               |  | | |‐-,,,,____|
   ||  ロ(()==|       | | |             \|  | | |     |`''--
   ||  ||  | |     / | | |               |\ | | |     |
   ||  ||  | |/  /   | | |             \|  |\ |,,,,...--- |----
   ||  ||  |/  /    | | |               |\ |  \  ___|,,,,,,,,,,

というイメージ像が頭に浮かびながら、ただいま〜と言いつつ普通に会話しようとする
全身血塗れの兄を、男と二人でただ見詰める。
「いやーお兄様が今回戦った悪は割としぶとかったんだーコレが」
「血だけは拭ってから帰宅してくれよ!捕まるからね、マジで!」
「血塗れになってる間に弟はやたらと男前になったねえ」
まず制服が破れている俺を見て、次にシャツが肌蹴た男を見た兄はそれだけで状況を察したのか
ぽつりと呟く。
「そんなに大きくなったら、もう高校に行けないよね……」
どうするの?そう血塗れで小首を傾げる兄に、そうだったーー!!と俺はその場に崩れ落ちた。
どうしていいのか分からずおろおろする男諸共に、凍りつかせる一言が聞こえてくる。
「あれ、僕のプリン……」
こちらをちらりと見る兄に、全速力で俺と男は目を逸らす。
「まさか……食べたってことはないよねえ?」
辺りを見回してテーブルの上にある空のプリンの容器を認めると、兄は紅い右目を光らせて
ゆらりとこちらに歩いてくる。当然のように片手にボウガンを持っているのは気のせいだと思いたい。
血塗れでボウガンを持って近付いて来る兄に、怯えてがくがく震える俺と男は手を取り合っている。
「コンビニで買ってきてくれるよね、今すぐ」
必死に俺達は頷くと、全力で玄関に向かって走り出した。

音が去って静かになると、一人安堵の溜息を吐く。
「悪い予感がしてたけど、本当に良かった……生きてて。でも流石に血塗れのままはまずかったかな」
おかしくなって少し笑うとその場に座り込んだ。

俺達は息を切らして走っていた。
「やべー何あのお怒り具合!」
「お兄様は怖い方ですね……」
「俺よりプリンを先に気に掛けるしな!兄とは思えねえー」
「でも息が乱れていましたよ。血を落とすのを忘れるぐらいに急いでいたのでしょう」
「まあな。とりあえずプリンだプリン!奴の機嫌を直さねえと普通にボウガンで殺られる」
「それは困りますね。もう吸血鬼ではないのですから、すぐに死んでしまいます」
俺達は声を出して笑った。
そしてその直後、破れた制服を着た大人とマントのついた同じく破れた黒服姿の二人組みが
走りながら笑っていたものだから、通りがかった警察官によって俺達は補導され、プリンを待ちくたびれた兄が
血塗れのままブチ切れて乱入し、大騒動となることになる。

前途多難だ……。

72part3-659のリク(1):2005/09/08(木) 22:27:38
part3-659のリクで、方向音痴二人組。
悲しくもスルーされていたので拙いながらも一筆お借り致しやす!

---------------------------------------------------

美しい大自然。晴天の暗い夜の空には、ぽっかりと丸い満月。
遠く鳴る虫の音がリリリ…と辺りを合唱の渦に巻き込んでいる。
生い茂る森の中、切り株の上に背中合わせに座った男達は、空を見上げて、ぼんやりと呟いた。

「……で?何処だよ」
「ここ?切り株の上らしい。」
「お前の伯母さんの別荘は何処だって聞いてんだ!」
「知るかよー。オレだって初めてなんだっちゅーの」
「お前がこっちの道であってるって言ったんだぜ?!」
「途中で、アッ。こっちが近道っぽい、探検探検♪って言ったのてめーだろうが」
「…………」
「…………」

もう何度目かの口喧嘩。
お互いにムスっとしながら、ほぼ同時に立ち上がる。

「もー分かった!お前なんてしらねー!俺はあっちに行くし!絶対あっちの予感だし!」
「あーあー、行ってらっしゃい。オレァこっちに行くしぃ。じゃ、別荘でなー」

じゃーな、と言って赤いキャップの男は南に。
黒いキャップの男は北にと、反対方向に歩んで行った。


―――ザク、ザク、ザク。


歩けども歩けども別荘らしきものは全く見えない。
どうやらまたも迷ったらしかった。
幸い深い森では無い為、遭難とまでは行かない。
しかし随分と歩いた為に体は疲れてくる。

一人になってから気づく、相方の存在。
喧嘩をしながらでも、誰かと一緒の方がまだ安心は出来るというもので。

「くそ……意地張るんじゃ無かったな…」
暗い森が今にも襲ってくるような錯覚。
虫の音ってこんなに五月蝿かったか?
遠くで聞こえる遠吠えは、まさか狼じゃないだろうな。

小さな物音にも過敏に反応してしまう。
赤い帽子を被った男は、何だか泣きそうになっていた。
気がつけば、両足はカールルイスばりに物凄いスピードで駆け出していた。

73part3-659のリク(2):2005/09/08(木) 22:28:05
「…………」
「…………」

気がつけば、男二人は切り株の前に居た。
先程と同じ場所に、同じタイミングで戻って来ていたのである。

「別荘に行くんじゃなかったのかよ」
「てめーこそ。」

フーと鼻で溜息を付く黒い帽子の男。
それを見て、赤い帽子を深く被り直し顔を隠しながらポツリと男は言った。

「………なァ」
「なに」
「一緒に行こうぜ」
「……てめー、怖くなったんだろ」
「おう」
「…バカ正直なやつ」
「うるせぇよ!」

怒鳴った声が掠れている。
唇を尖らせて、涙を堪える仕草は小さい頃から全く変わっていない。
仕方無ぇやつ、と男が赤い帽子ごと相手の頭を抱き寄せた。

「今度は向こうの道行ってみようぜ」
「……おう」
「涙と鼻水拭けよ」
「ちがう。これはサラリとした水と粘っこい水だ!」
「あー、はいはい……」


彼らが別荘に着くのは、まだまだ時間の問題である。
ただ――――
まだ別に着かなくてもいいや、とお互いに思っていた事は、勿論互いが知る事も無く―――




彼らが淡い恋の迷路から抜け出せるのも、まだまだ先の話。

743-659:2005/09/08(木) 22:40:45
本スレ659のリクが未消化だったので、僭越ながら…。
本スレ665に触発されました。

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「こないだ、美味しい店教えてもらったんだ」
確かこの近くにあった筈…とAは言ってウロウロするが、行けども行けどもそれらしい店は見当たらない。おかしいなぁと首を傾げるAに、どの辺だったのかと訊いてみると、クラブZの近くだと言う。
「A…クラブZは、こっちじゃないよ…」
「え? そうだっけ?」
「全然反対の方向じゃないか、まったく!」
そういやコイツは方向音痴だった…。その事をすっかり忘れていた俺にAを責める資格はないかもしれないけど、それにしても逆の方向に来るとは。
呆れながらもAの手を引っ張ってクラブZを目指す。最近は店が色々新しくなって通りの風景も変わっちゃったらしく、まぁAが道を間違えるのも無理はない。俺も間違えそうだもんな。
ほら、この角を曲がれば、3件目にクラブZがある…はず…なんだけど……。
「あれ?」
店が無い。いや、店はあるけど、クラブZじゃない。
「B…ここ、見てみろよ」
Aが気の抜けた声を出して、電信柱の町名表示を指差した。そこに書いてあるのは、W町3丁目。……クラブZって、V町2丁目じゃなかったっけ。
「なんで俺たち、こんなところにいるのさ」
心底不思議そうな口調でAが呟く。そんなこと、俺が聞きたいよ。っていうか……こいつ、まだ気付いてないのかな。俺は気付いたぞ、重大な事実に。でもわざわざ教えないでおこう。そんな、俺も方向音痴だったんだと今更思い出しちゃったことに。
「なぁなぁ、B−」
「なんだよ」
「俺たちって、いっつも行きたい店に辿りつかないなー」
呑気なAの言葉は、普段から迷い慣れている奴独特のもので。とか言って、それに同意を示す俺の返事も、きっと迷い慣れてる口調なんだろう。
「とりあえず、この店に入っとこうか……」
そんな風に成り行きで入った店は、結構雰囲気も良くて、味も良かった。これって怪我の巧妙ってやつ?儲けた儲けた。
そんな風に、新しい店を開拓した事を喜んだ俺たちが、その店までの道順を全く分かっていないことに気付いたのは、一週間後の夜。全く別の街角で、初めて見る店の前に辿りついた時の事だった。

今では、どれだけ新しい店に出会えるかを試すのが、俺とAの毎週末の恒例行事となっている。

753-769:2005/09/20(火) 02:38:10
リロったら先に投下されていた方がいたのでこちらに。
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唐突に目覚めたばかりのような奇妙な感覚のまま呆然と立ち尽くしていた僕は、今
何をしようとしていたのだろうかという疑問からとりあえず片付けることに決めた。
ぼんやり立っている周辺を眺めてみるが、どうも見覚えがない。生活感がないを通り越して
廃墟のような多分部屋らしき場所に僕は今いる。どうしてこのような場所に立っているのか。
一歩足を踏み出してみると、剥き出しになった配線やパイプやらに躓きそうになったので
必死に体勢を立て直す。床とはもう呼べない地面に鋭い硝子の破片が無数に散らばっており、
それが薄汚いこの部屋で妙に煌いていた。その硝子の一つが光を反射するのを目撃した瞬間、
僕の首から吊り下げられた、今にも擦り切れそうな太いロープの先に紙の束が通されていることに
ようやく気が付いた。目を通してみると表には見知らぬ人物の名前が書いてあり、そのすぐ下には
赤字で「これは僕の名前です」と印字されている。話が分からないので更に読み続けていくと、
要するに僕はある一定の期間で記憶を失うということだった。最初は何の悪ふざけかと思ったが、
どんなに記憶を手繰り寄せても昔のことは何一つ思い出せないので、僕はこの紙束を読むしか
手がないらしい。僕自身については名前と記憶に関しての説明しかなかった。家族について一切
触れられないのは何故だろう。第一ここはどこなのか。そう考えた時、最後のページに走り書きの
一文を見つけた。「またもう一本煙草に火をつけるのは、忘れることを習う為」
急いで書いたからだろう、崩れたその文字を見ると、唐突に誰か知らない男が寂しそうに
笑っている顔が脳裏に瞬いたかと思うと、あっという間に掻き消えた。紙束を強く握り締め
光が差し込む方向へ顔を向けると、何もない荒野が延々と果てしなく続いているのが見える。
ふらりとそちらに歩き出してみると、僕の着ている服から煙草のにおいが微かにした。
気に入らないな、と思う。馬鹿みたいに晴れ渡った空に下、たった一人きりで僕は突っ立っていた。
忘れるのを習っていたのは記憶か、それとも一瞬垣間見たあの男か。以前の僕がどうだったにしろ
それは今の僕には関係のないことだ。そう思うのに意味もなく悲しくなると僕は静かに涙を流した。

7675:2005/09/20(火) 02:42:10
orz

×空に下
○空の下

77萌える腐女子さん:2005/09/24(土) 20:48:33
>75
すんげー萌えた。

78萌える腐女子さん:2005/09/25(日) 12:30:50
先を越されましたので、こちらに投下させてください。

太陽とひまわり―


神々しい貴方。
貴方は呆れていらっしゃるでしょうね。
僕の思いはあまりに開けっ広げで、人にはからかわれ、花たちからは非難すらされますが、憐れな捕われ人のように僕は自分をどうする事も出来ないのです。
いっそ、イカロスの様に翔んで貴方の炎に焼かれたい。
でも、大地の囚人でもある身ではそれも叶わず貴方への想いは募るばかり。
どうか、地上にあるこの身をそこから、貴方の熱で溶かしてくださいませんでしょうか。

貴方は何も仰らない。貴方はいつもあらゆる者に光を注いでいる。

――晩夏―――

僕は今、死体のように無様に横たわる。
夏中、貴方への恋慕でこの身を焼き付くした焦げた死体のような僕の種は、貴方の憐れみの具象化なんですね。
ついばまれるこの身。ついばむのは、鳥でも獣でも、人間でもない、貴方。
貴方の逞しい手が僕の心臓を優しくついばんでいる。
ありがとう。
僕は今、貴方についばまれてじわじわと死んでいきます。陶酔にむせび哭きながら。



Ende

79萌える腐女子さん:2005/09/27(火) 00:35:20
3-809「死んだ攻めAを想う余り攻めAとの夢の世界に閉じ籠ってしまった受けと、攻めB」
萌え上がったので投下。
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お兄ちゃんの様子が最近おかしい。全然ご飯を食べないから、お兄ちゃんが小さい頃から
大好物のハンバーグを一生懸命作ってみたけど、やっぱり食べてくれなかった。初めて
作ったハンバーグだから形が歪んでいたし、見た目が美味しそうじゃなかったから食べて
くれなかったのかもしれない。そうだとしたら悲しいな、と考えながら自分で作った
失敗作の焦げたハンバーグを口に運んだけれども、とても食べられたものじゃなかった。
そのままその場に吐き出そうとした時にお兄ちゃんの怒った顔が浮かんだから、きちんと
ティッシュに包んでからゴミ箱に捨てた。お兄ちゃん、何か食べないと体に悪いんだよ。
ちゃんとご飯を食べないと、栄養失調っていうのになるって学校で先生が言ってた。僕、
お兄ちゃんが病気になっちゃうのは嫌だな。でも、いつも来るお医者様は、お兄ちゃんは
もう病気なんだって言ってた。それはいつ頃治るの?と聞いたらお医者様は、「お兄さんは
見えないものを探しているんだよ。それがないと気付くまでは治らないんだ」って。
見えないものって何だろう?僕にはよく分からなかった。お兄ちゃんは全然外出しなく
なったから肌がとっても青白い。元々きれいな人だなあと思っていたけど、滅多に動かないから
まるで人形が床に放り投げられているみたいだ。握力もどんどん弱くなっているのに、
お兄ちゃんは右手に握った銀の指輪を絶対に離そうとはしない。その指輪はこの前死んだ
ばかりの、お兄ちゃんととても仲良しだった男の人とペアのだって昔聞いたことがあった。
最初は薬指にしていたけど、痩せたせいで緩くなってもう嵌めることが出来ない。僕はそのペアの
指輪が大嫌いだったから、嵌められなくなったことに心底ほっとしたんだ。お兄ちゃんの薬指で
指輪がぎらりと銀色に光る度、給食で人参が出た時よりずっとずっと嫌な気分になる。
でも、もうお兄ちゃんとペアの指輪を持つ男の人はいないんだ。死んじゃったんだから。
「ねえ、指輪が大きくなったんだよ。銀だから歪んだのかなあ。また買ってくれない?」
違うよお兄ちゃん、指輪のサイズはそのままなんだ。お兄ちゃんは探している見えないものを
まだ見つけられないままだけど、僕はちゃあんと先に知っているんだよ。
お兄ちゃん、何か食べたいものはない?僕頑張って何だって作っちゃうから。

男の死体が詰まる冷蔵庫。その扉を開ける弟の手の薬指、銀色に鈍く輝く指輪。
お兄ちゃん、これ、どうしても欲しかったの。ごめんね。


……うふふ、嘘。

803-769の1:2005/09/27(火) 23:23:25
3-769のお題「またもう一本煙草に火をつけるのは、忘れることを習う為。」
で書いたのですが既にスレが進んでいるのでこちらに投下します。
ヘボンかつ相手が死んでる設定なので、苦手な方はスルーで。
====================
酒の呑み方を教えてくれたのはあなたでしたね。
ビール、日本酒、焼酎に限らず、いろんな国の酒とともに、
それに合うつまみや料理の選び方。
それらは仕事の接待の席でとても役立っていますよ。
あなたがときどき買ってきてくれた白ワイン、
この間酒屋で見かけましたがあんなに高いものだとは思いませんでした。

一人暮らしで必要な生活術を教えてくれたのもあなたでした。
上京して間もない僕に、光熱費の節約方法から
効率が良い掃除や洗濯のやり方、果てはゴミの出し方に至るまで。
アパートに引っ越してきたその日にあなたが
「部屋の中に1つぐらい植物を置くと気持ちが落ち着くから」と
プレゼントしてくれたサボテン、昨日1輪だけ花が開きましたよ。

──雲の隙間から時々顔を出す太陽の光が、部屋の中をちらちらと照らす。
眩しいなとカーテンを閉めようと手を伸ばして、そこにカーテンが掛かっていないことに気づく。
そうだ、さっき畳んでダンボールに詰めて運び出したんだっけ…と苦笑し、
彼はシャツのポケットに入っていたケースから煙草を取り出して、
鈍く光る銀色のライターで火をつけた。
深く吸い込んで息を吐く。辺りに白い煙が立ち上る。
しかし、その吸い方にはやや問題があった。
あっという間に煙草が灰と吸殻と化してしまうのだ。
まるでその肺活量を自慢しているかのように彼は吸い急ぐのだが、
もともと彼はそんな吸い方をしていなかった──。

813-769の2:2005/09/27(火) 23:24:17
大人の遊び方を教えてくれたのもあなただった。
パブやバーなどの酒場での振舞いや、カジノや競馬でのお金の掛け方とか。
いつだったかあなたが
「一度行ってみるといい。君はなかなかハンサムだからモテると思うよ」と
教えてくれたオカマショーパブに先日初めて行ってみました。
確かに他のお客さんそっちのけでみんなが僕に群がってきましたが、
あなたに似ている人は1人もいなかったのが残念です。

そういえば、煙草を教えてくれたのもあなたでしたね。
最初はあなたが煙草を吸っている姿がとても格好良くて、
ただそれを真似したくて吸い始めましたが、
初めのうちは煙たくて味なんか分からなくて、ゲホゲホ咳き込んでるだけで。
そしたらあなたがメントール系の軽いタイプのものを買ってきてくれて、
「吸い方に慣れたら少しずつ好みの味のものを探せばいい」って言ってくれましたね。
今、僕はあなたが吸っていたのと同じのを吸っているんですよ。
でも。

──朝起きた直後から数えれば、
既に彼は1箱分の煙草を灰と化していて、もう間もなく2箱も空になろうとしている。
短くなった吸殻を灰皿に押し付け、もう1本口にくわえた途端、
玄関から声を掛けられた。
「荷物積み終わりましたので引越し先へのご案内をお願いします」
引越し業者だ。彼は今日ここを引っ越すのだ。
「あ、はい」
短く返事をして彼は立ち上がり、玄関の方に歩きかけた。
しかし、彼はなぜか3歩歩いて立ち止まる。
「すいません。煙草1本吸ってから行きますから、ちょっと待っててもらえますか」
そう玄関に向かって声を掛けた──。

823-769の3:2005/09/27(火) 23:26:34
僕が煙草を吸うようのと入れ替わるようにあなたは煙草を止めることになった。
「医者に止められたんじゃ仕方ないよ」と
愛用していたライターと携帯灰皿を僕にくれた後、
急にあなたと連絡がとれなくなったのは、つい半年前でしたね。
ようやく見つけたあなたの連絡先に電話を掛けたら、
「主人は…先月高速道路の玉突き事故に巻き込まれて…」
と言って、電話の向こうで泣き出す女の人の声が聞こえたんです。
結婚してたなんて知りませんでしたよ、しかも今年で十周年だったらしいじゃないですか。

慌ててご自宅に伺えば、簡易式の祭壇の上に乗せられた、小さな白い箱。
その前にはあなたの写真と、線香と、蝋燭。
「主人とはどこでお知り合いに?」と奥さんに聞かれて困りましたよ。
修学旅行のときに1人でこっそり宿を抜け出して、
繁華街でウロウロしてたらあなたに声を掛けられて、
ホテルで抱かれる代わりにあなたからお金をもらったのが最初だなんて、
口が裂けても言えなくて、ね。

──口に咥えたままの煙草に火をつける。
オレンジとも赤ともつかない色が先端を彩り、少しずつその色が自分へ向かってくる。
灰に満たされた煙交じりの呼気は、健康のためには良くないと分かっている。
「俺みたいになる前に、そのうち止めた方が身のためだぞ」
とかつての想い人に、この部屋で言われたことも覚えている。
もともとこの部屋は彼のその想い人が住んでいたものだ。
面倒見の良かったその人は、その部屋を彼のために明け渡し、
自分が別の場所に引っ越した。
その場所が件の女性との生活空間であることを知ったのもつい最近のことで、
彼自身は自分の想い人がどんな仕事をしているか、
どこに住んでいるかなどプライベートに立ち入った話を聞くつもりはなかったし、
そんな話は自分たちの間には無用の存在だと思っていたからだった──。

833-769の4(終):2005/09/27(火) 23:31:44
今日でけじめつけようと思うんですよ、あなたとのことは。
ここを引っ越して、新しい場所であなたとは違う誰かと出会って、
あなたを忘れることで僕は幸せになりたいんです。
あなたとの思い出の品も全部処分しましたよ、このライターと携帯灰皿以外はね。
あなたにも言われたことだし、そろそろ煙草止めようと思ってる。
だから、このライターと灰皿もこの部屋へ置いていきます。
さようなら。あなたのことは本当に愛していました。

──灰皿に短くなった煙草を押し付け、
部屋の隅の目立たないところにライターと一緒に静かに置く。
最後の1本を吸い終わって空になった煙草の箱を握りつぶすと、
彼は部屋を出て玄関の鍵をかけた。
引越し業者の乗っているトラックの助手席に乗り込む。
「それじゃ、お願いします」
と声を掛けるとトラックはけたたましいエンジン音を響かせながら引越し先への道へと急ぐ。

道中、運転手が煙草を吸っているのを見て、
彼も煙草を吸いたくなり、シャツのポケットを探った。
しかし、あるはずの煙草はそこには入っていない。
その様子に運転手が気づき、「よかったらどうぞ」と自分の差し出す。
シガーソケットを使って火をつけ、一口目の煙を吐き出した瞬間、
彼はくすくすと笑い出し、そのうち大きな声で笑った。
「あはははは…、はははっ…」
と運転手に声を掛けられ「いえ、何でもないんです」と取り繕うが、
笑い声を止めることができない。
あの部屋で「煙草を止める」と誓ったはずの自分だったのに、
1時間もしないうちにその誓いを破る。
そんなにもかの人を想っていた事に改めて気づき、
「今度は忘れるために、煙草吸わないといけないかな…ははははは…っ」
彼は笑いながら涙を流していた。

====================
以上です。あまりにヘボンな設定な上、出来が良くなくて申し訳ない。

84このスレの80-83:2005/09/27(火) 23:42:46
すいません、コピペミスしました…orz
最終段落の次の部分を修正してください。
====================
×
彼はくすくすと笑い出し、そのうち大きな声で笑った。
「あはははは…、はははっ…」
と運転手に声を掛けられ「いえ、何でもないんです」と取り繕うが、
笑い声を止めることができない。



彼はくすくすと笑い出し、そのうち大きな声で笑った。
「あはははは…、はははっ…」
「どうしました?」
と運転手に声を掛けられ「いえ、何でもないんです」と取り繕うが、
笑い声を止めることができない。

===============
投下直前に修正するとミスしやすいですね…orz
次から気をつけます。

85萌える腐女子さん:2005/09/28(水) 03:30:29
既に神が降臨してたので、恥ずかしながら、せっかく書いたのでこちらに。

妖怪



‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
二年勤めた会社を辞めて、俺は久方ぶりに田舎に帰った。
今日から数ヶ月は、誰も居ない離れの奥座敷に寝泊まりする。

子供の頃、近所の子供達とよく遊んだ懐かしい場所だ。


雨戸を開けて光を通すと、クスクスと微かな笑い声が風に乗って幻聴のように聞こえた気がした。

一瞬間の後、先程まで誰も居なかった筈の座敷の奥に和服を着た同じ位の年頃の青年が座っていた。

呆然として、その青年の顔を見ると、何処か懐かしい面影がして、不思議と恐ろしさは感じなかった。

「やっぱり馨には僕が見えるんだね。」

青年はさも嬉しそうに、にっこりと微笑んでそう話し掛けてきた。

「ああ、お前‥‥えっと‥。ごめん。名前が‥」
「分かる筈ないよ。名前、話してないし。」
そうだ。いつの間にか仲間に混じってにこにこ笑って付いて来た色白のおとなしい子。名前も聞いてなかったんだっけ。

「そうか。じゃあ名前は?それより、どうしてここに?」

「ごめん。名前、無いんだ。それに、どうしてって、僕はずっとここに居るんだよ。」


ああ、あの子は座敷童子だったんだっけ。祖母がそう言っていたのを思い出した。

でも、今はどう見ても童子じゃないよな。座敷童子も大人になる‥‥のかな?

「馨に逢いたくて、大人になったんだよ。本当はいけないんだけどね。」
思考を読んだように、そう答え、青年はまたにっこりと微笑んだ。つられて微笑み返す。

込み上げてくる昔日の思いに切ないほど胸を塞がれながら、俺は青年になった座敷童子と暫く、見つめ合い、互いに微笑み返していた。
と、
日常の辛さも、疲れも何もかもが総て押し流され―、
ふわり、何か暖かい風に抱きとめられて体が宙に浮いた。


気が付くと、青年はもう居なかった。

―クスクス、クスクス―
幻聴を乗せて、風が座敷の奥から外へと通り抜けた。

―今夜また、一緒に遊ぼうね。―

遊ぼうって、もう、子供じゃないのに。
ふと、苦笑に歪んだ唇が、今度はふんわりと塞がれて熱い息を感じた。

風がクスクスといっそう高らかに笑い声を立た。

―今夜またね〜。大人には大人の遊びがあるよね‥‥?―


クスクス、クスクス。悪戯な風が体を通り抜けた。

86本スレ870-871:2005/09/29(木) 16:12:36

文章ソフトの一ページ丸ごと飛ばすなんてコピペミスをしてしまっていたので、
すみませんがこちらに補足という形で置かせてくださいorz
「親父やおフクロに〜」から「ほんと、そんで、歌うのは〜」の間に入るはずでした。



で、そんな事をぽろっと先生に話したら、先生は頬杖を崩して吹き出してあげく眼鏡を
落っことしたから拾ってあげた。
「そりゃあお父さんお母さんも驚いただろね、いきなり人類はァなんて歌われたら」
「今はもう慣れたみたいなんですけど、しばらく変人扱いされました。妹にも」
眼鏡をひょいと掛け直すしぐさがやけに子供っぽくて、思わずじっと見る。そしたらいき
なりこっちを向かれて焦ったけど、俺を見る目は楽しそうで嬉しくなる。
「ああ、うちでご家族で歌って違和感なくすなんてどーかな」
「は?」
「先生ぇはーちーいさな教室のーなかでー」
「!? なかーでー、なかーでー……」
いや、なんで替え歌なのかがまず突っ込むべき所なんだろうけど、思わず受けてしまった。
「ねーむりー起きっ そーしてー働きー」
「いや、寝てるんすか!?」
ノーリアクション!
「ときどきー仲間をー、部活にーなかまをー、」
「欲しがーったりー…………すー……るー……」
「……んですよ、うん」
先生は全く当たり前のような顔をしてにこにこしてるもんだから、なんで突然替え歌が
出てきたのかよく分からない。それが表情に出ていたのか先生はひょっと首を傾げた。
「私一人暮らしなんで、家に一緒に歌える人いないんです。
 まあだから合唱部の顧問は趣味と実益兼ねてるんですが、それからしたら羨ましい。
 家族、いいじゃないですか大いに結構」
ぜひ合唱コンクールには来てもらいたいですねえ、妹さんだけでも洗脳しちゃえるかも
しれませんよ−−−−なんて言葉だけ聞いたら不穏な事を言うから、俺も笑って頷いた。

87萌える腐女子さん:2005/10/03(月) 02:35:11
本スレ899、幽霊×怖がり。今更ながら萌えたので投下します。ちょっと長め。



「あそこはね、多いんだよ。古い建物だらけだろ?おまけに俺が住んでたのが、中心部からちょっと離れたテムズ川の岸辺近くで、倫敦塔が目の前に―」
「や、止めろよ!聞きたくないっ。良、その目も怖わいよ。」
克が恐ろしそうに良を遮った。この手の話にはからっきし弱いのだ。

それにしても、良は帰国以来、前にも増して色白くなった。もともと少し影のある印象的な美しい面立ちが、そのためにいっそう凄みを増した。その口から怪談が語られたら確かにぞっとはするだろう。
良は脅える克の肩を抱いて頭を撫でた。この真面目で臆病な友人が可愛いくて仕方ない。
脅かすのは良の悪い癖だ。サドっ気があるのかも知れないが、脅かせば素直に反応し、無防備になる克を見たくてつい悪癖が出る。
それに、脅えた克を腕の中で安心させ、寝つくまで背中をさすってやるのは堪らない。

自分にしがみつくようにして、ようやく眠りについた克の頬に、良はそっと口付けた。

(一晩中、寝顔を見ていたいが、肉体を維持し続けるのは、さすがに疲れるな‥)

良は克の手からするりと抜け出て、戸外の漆黒の闇の中へその身を委ねていった。


――――――――

闇にすっかり溶け込んで漂っていた良を何かが呼び覚ました。

「ひいぃぃっ‥‥や、止めっ‥!」

克だ。
良が慌てて部屋に戻ると、白眼を向いた克の躰を男の霊が押さえ込んでいた。

(この変態がー!俺がまだやってもいない事を!!)

怒りで我を忘れ、
良は霊の頭上、中空へ飛び上がった。

「去れ!その男は元より俺のものだぞ!」

「ふんっ、手付きのものならば仕方あるまい。が、ならばそうと徴を付けておけ!
だがな、新参者。次からは言葉に気を付けることだな!」

霊はそう言いながら飛び上がり、良の顎を両手ではさみ込んだ。

睨み付けたままぐいぐいと近付いてくる。
ぴったりと額を寄せ、
「むしろ、生前のお前に憑きたかったな!」
と、凄み笑いを浮かべ、そのまま良の躰を通り抜け、
―姿を消した。

88萌える腐女子さん:2005/10/03(月) 02:40:55
続きです。


良は身震いして、ふうと溜め息を付くと、白眼を向いたままの克の頬を張り、抱き寄せた。

「良!何処へ、‥なんで居なかったんだよ!キスされたんだよ!幽霊にキスされただなんてーもう、もう‥‥!」

克にギュッと抱き付かれた良は、
「克、大丈夫、大丈夫だよ。俺が振り払ってやるから。キスされたところ全部。」
と、幸福そうに囁き、唇から、首筋へと次々に口付けて、愛撫していった。

克の顔が、恐怖から驚きへ、そして次第に陶酔の表情へと変わっていく。

「俺の徴を刻み付けなくちゃならない。いいね?」

耳元で囁く。

克は、答える代わりに唇を寄せた。



―――――――――――――

「なあ、克。もしも俺が死んで、化けて出たら?」

「止めろよ、そんな話。」

「いや、真面目な話さ、それでも怖い?」

「‥そんな‥。でも、一緒にいられるんだったら‥怖くても嬉しいんだと思うよ。」

(信じていいんだろうか。)
良は、克を抱き寄せながら考えた。

あの湖からはまず死体は上がらないだろう。―しかし、いずれは行方不明の通知が届く。
そしたら、克に本当の事を話さなくてはならない。帰国したのは幽霊だったんだと。
それでも克は受け入れてくれるだろうか?

信じていいんだろうか。



「――。でさ、ピカデリー・サーカスって名前、知ってるだろ?あそこは、何本もの路が複雑に分かれてて、どの路へ行ったらいいのかよく戸惑っている人がいるんだよ。でも、戸惑っているのは、人間ばかりじゃないのさ。―――。」

89萌える腐女子さん:2005/10/03(月) 02:49:58
>>87->>88 です。
注意書き忘れました。orz。
―本スレとは攻め、受け逆になってます。

903-879の1:2005/10/03(月) 22:53:24
本スレ879「金髪が綺麗な受けでひとつ!」です。
書いてる途中でスレチェックしたら既に書き込みされていたので、こちらに投下します。
いくらか校正したものの萌えるままに書いてしまったのですんごく長いです。
====================
 その人は、俺が資格を取ったときに初めて担当を任されたお客様だった。
見習いの頃から何度かシャンプーさせてもらったり、ブローさせてもらった
りしてそのお客様の髪に触れたことがあるが、その手触りたるや極上の触り
心地、色もわざわざ染めずとも見事な金色。髪の痛みもほとんど無い。勤務
先が美容院だというのに度々先輩たちの実験台になっているおかげで毛先は
痛んで枝毛だらけ、もともとの色は赤だが何度もカラーリングされたりメッ
シュを入れられたりしたから頭の上で泥まみれのチラシ広告が再現されてい
るような様相を呈している俺にとっては、なんともうらやましい髪質の持ち
主だった。
 もともとは先輩の1人が担当していたお客様。その髪を初めてカットした
ときに資格を取ったばかりで慣れていないからすごく緊張してしまい、指定
されたよりも少し、いやかなり短く切ってしまった。俺はお客様に怒鳴られ
るんじゃないかと内心どきどきしていたのにもかかわらず、「こういう短い
のもいいものだね」と笑って許してくれたこともあり、それ以降自分の中で
は最も大切なお客様だと思っている。

 ある日のことだ。その日もいつもと同じように他のお客様に混じってその
お客様の予約が入っていた。いつものように俺は笑顔でお客様をお迎えし、
カット前にシャンプーを施す。
 この人の濡れた髪がまたいい感じの手触りで、いつだったか資格を取る前
に俺と同じように資格を取るべく同じスクールに通っていた中国人の友人が
趣味で使っている「毛筆」なるものの手触りによく似ている。友人が言うに
は「毛筆」は質のよいものを選べばそれなりに値が張るものだそうで、そい
つが使っていたものは自分が普段使っているカット鋏の約3分の1ぐらいの金
額のものらしい。比較の対象にするのはいささか申し訳ない気がするが、友
人の使っているそれと比べてもこのお客様の髪の方がはるかに手触りが良い。
 できることならずっと触っていたいが、そのままではカットできなくなっ
てお客様が帰れなくなるため、仕方なくスタイリングチェアーにご案内する。
「今日はどのように致しましょうか、ミューゼル様?」
「毛先だけ揃えてくれればいいよ」

 おや、と思った。担当を任されてから既に2年、イメージチェンジと称し
て何度かパーマを掛けたことはあっても、だいたいミューゼル様は短めの長
さの髪型がお好みのはずだ。前回のご来店から数えて約3ヶ月、耳は出す形
で切り揃えた髪型は今は半分くらい耳が隠れる長さに伸びている。
「では、ゆるめのパーマをお掛けしますか?」
と確認するも、
「いや、いいんだ。本当に毛先を揃えるだけでいいから」
とすぐに返事が返ってきて、鏡の向こうでにこりと微笑む。気分が和むんだ
よな、この人の笑顔は…と思いつつ、思ったことを顔には出さないで
「かしこまりました。それでは今日は…そうですね、1cmほどカットして毛
先を揃えますね」
と注文を復唱し、腰のホルダーからカット鋏を取り出した。

91萌える腐女子さん:2005/10/03(月) 23:16:00
 「ごめんな。ちょっと事情があってね、しばらくここに来れなくなると思
う」
と、切り揃えている最中に言われた。来店されなくなる事情は人それぞれだ
と思う。ましてやスタイル維持のために…というか、俺自身がこの手触りの
禁断症状を起こしそうになるからなんだが、できれば月1回は来て欲しいと
思って何度かその旨を伝えたことがあるにもかかわらず、ミューゼル様が仕
事の都合で3ヶ月に1度しか来店できないと言っていたことを俺は覚えている。
だから、
「長期のご出張とか転勤ですか?」
とありがちなことを言ってみたら、そうではなかったらしい。
「実は…、願掛けすることにしたのでね」
「願掛け?」
「ああ。その願いが叶うまでは髪を切らないことにしたんだ」
思わず手が止まる。
「好きな人が出来てさ…」
ああ、そういうことか。

 ミューゼル様の顔はなんというか、男にしておくのがもったいないくらい
のとても美しい顔をしている、と俺は思う。美容師の端くれとしてその考え
はどうかと思うが、長い髪もミューゼル様のお顔と体格ならきっと似合うだ
ろう。白磁のようなキメの細かい肌に、陽の光が映えるしなやかな金髪。指
先で玩んでも気持ちいいのだから、その頭に顔を埋め、長い髪を顔全体で感
じることができたらさぞや…と考える。
 そのまま後ろから抱いて、突き上げて、均整の取れた身体をほんのり桜色
に染めさせて。泣きながらよがり声を上げる様を見てみたいと夢想しては、
収拾がつかなくなった自分のものを擦り上げて果てさせる。そんなことを独
り自宅で何度もしていたために、この突然の告白はかなりショックだった。
 相手には自分の気持ちはまだ伝えていないのだとか、その相手がミューゼ
ル様の髪を見て「とても綺麗な髪だから、長く伸ばすと顔立ちに映えるんじゃ
ないか」と言ってくれただとか、うれしそうに話しているミューゼル様。適
当な相槌を打ちながら鋏を動かしていたが、実際のところほとんどミューゼ
ル様の話は頭に入ってこなかった。
 ただ、この美しい髪に触れられなくなることがつらくて、この癒されるよ
うな笑顔が見られなくなるのが嫌で、俺はひたすら鋏を動かし続ける。何度
も指を梳き入れ、途中チョキチョキと音だけ鳴らして切ってる振りまでして、
その触り心地を胸に刻んだ。

923-879の3:2005/10/03(月) 23:17:20
 いつもは1時間ほどで終わる施術なのに、俺が散々いじり回していたおか
げで時計の針が30分ほど進んでいた。
「ずいぶん時間を掛けてくれたんだね。次のお客さんの予約は大丈夫?」
と自分のことはさて置いて俺のことを心配してくださる心遣いがとてもうれ
れしい。それなのに、これでしばらく会えないと思うとミューゼル様のお相
手の…たぶん女性なんだろうな、それもミューゼル様にお似合いの美人の、
会ったことも無いその彼女が俺は憎らしくて、思わず「髪伸ばさないで下さ
い」と言いそうになる。
「このまま伸ばしていってもスタイルが崩れないようにしたつもりですが、
お帰りになってどこか気になるところがあったら遠慮なくご来店ください。
すぐ手直しいたしますから」
喉元まで出掛かっていた言葉を修正して吐き出した。預かっていた手荷物を
渡し、会計のためにレジを操作する。
「どうもありがとう。しばらく来れないけど、お店が繁盛することを祈って
るよ」
と笑顔と共に店を出ようとしたミューゼル様を、
「あ…あの!」
と引き止めていた。
 「ん? 何か?」
と出入り口の扉に手を掛けていたミューゼル様の動きが止まる。

 言え。ここで言うんだ。「3ヵ月後の同じ日に予約入れておきますから来
てください」って。「あなたが好きなんです。だからこれからもずっとあな
たの髪を切らせてください」って。そうすればまた会えるだろ、と自分の中
で悪魔が囁く。
 いや、駄目だ。言ってはいけない。言えばきっとミューゼル様は店に来な
くなるし、まるでミューゼル様の願掛けが失敗するのを願っているみたいじゃ
ないか、ともう一人の自分が必死に抵抗している。
 数秒の葛藤の後、俺の口から飛び出した言葉は。
「あの…願いが叶うことを祈ってますよ」
 馬鹿だ、俺は。美容師の営業活動としても失敗してるし、自分のミューゼ
ル様に対する個人的な想いを告白することにも失敗してる。これじゃ退店し
ようとしていたミューゼル様を引き止めた意味がないじゃないか。
「応援してくれてありがとう。それじゃ、いつかまた…」
俺の心の苦悶には気づかないまま、そう言って片手を挙げて振りながら去っ
ていくミューゼル様。
 俺はミューゼル様の姿が見えなくなるまでその場に立ち尽くしてしまい、
次のお客様を長時間待たせていることに気がついた店長に後ろから頭を叩か
れるまで、だんだんと小さくなっていくその美しい金髪の後ろ姿をじっと見
つめていた。

933-879の4:2005/10/03(月) 23:18:47
 あれからミューゼル様は本当に予約の電話を掛けてこなくなった。ご自分
の願いが叶うその日まで店には来ないはずだから納得はできるが、あの美し
い金髪の感触はとても忘れることができず、俺の気持ちは落ち着かないまま
だ。毎日何人ものお客様を相手に鋏を振るうが、常連客を含め飛び込みで
入ってきたお客様の中にも、ミューゼル様と同じ髪質の持ち主はいない。
 最後に来店されたときに切った髪の毛の一部をこっそり持ち帰って正解
だったと思う。間違って捨ててしまったり、風に飛ばされて無くなったりし
ないように、ぱっと見た感じではそうとは見えないような形のシルバーのロ
ケットを購入してその中に持ち帰った髪の毛を入れ、それを自宅の鍵をつけ
ているキーホルダー金具につけたのも我ながら名案だった。禁断症状が出そ
うになったときや、性欲が溜まって自己解消させるときにそれを握ってあの
人のことを思い出す。仕事中にも難しい施術を行うときの前にスラックスの
ポケットに入れたそのロケットキーホルダーを握ることでどうにか俺は苛立
ちを抑えている。そうでなければ俺は今頃ミューゼル様に会えない寂しさに
荒れ狂い、その苛立ちをお客様の髪にぶつけて、注文された髪型とは違う滅
茶苦茶な型にしていたことだろう。
 しかし、その自分の中での「疑似行為」ももはや限界に近い。当初は1日
1回、それも朝自宅を出る前だけだったのがだんだんと回数が増え、今は10回
を軽く超えている。時々直接触って確かめていることもあるからなのか、ロ
ケットの中の短い髪も時間が経つにつれて劣化していて、持ち帰ったばかり
の頃のあの艶や手触りはもう失われている。
 このままじゃ顧客名簿の中から住所を探して場所を割り出し、ご自宅に押
しかけて髪を触るべくミューゼル様を襲いかねない、と自分自身でも寒気が
するほど嫌なことを思い始めた矢先のことだった。あれから3年経っていた。

 強い雨の降る日だった。この店では当番制で閉店作業を行うことになって
いて、その日は俺がその当番だった。汚れたシャンプー台や鏡、スタイリン
グチェアーなどの掃除をしたり、消毒器に使用済みの器具を入れたり、洗濯
の終わったタオル類を乾燥機に移しかえたりと、美容院は閉店後もやること
が多い。慣れた作業とはいえ疲れるなと思いながら2時間掛けて店の隅々まで
きれいにした後、照明を消して鍵を掛け、表のシャッターを下ろしたその時
だった。
「こんな時間に予約も無しに来て申し訳ないが、髪を切ってもらえないだろ
うか?」
後ろから声をかけられた。
 聞き覚えのある声に振り返れば、この土砂降りの中を傘も差さずに立って
いる人がいる。俯きがちの顔を隠すように垂れた長い金髪がぐしょぐしょに
濡れていて、長い時間雨に打たれていたことが良く分かる。
「申し訳ありませんが、もう店内清掃を済ませてしまいまして…。もしよろ
しければ今ご予約だけ承りますので、明日ご来店いただけないでしょうか?」
と照明を消す前に見た明日の予約リストの空き時間を頭の中で探しながらそ
う伝えると、その人物は突如自分の両肩を掴んで、俯いていた顔を上げて俺
の顔を見た。
「今日でなければ…、今日でなければ駄目なんだ。代金なら倍払っても構わ
ないから、頼むから私の髪を切ってほしい」
 雨で身体が冷えているのか、眼が泣き腫らしたように赤くなっているから
なのか、声がかなり震えている。
 俺が今いちばん逢いたい人の顔がそこにあった。ミューゼル様だった。

94ひでぶ:ひでぶ
ひでぶ

953-879の5:2005/10/03(月) 23:21:26
 「そのままではお身体が冷えますでしょう? 狭い風呂場で使い勝手が悪
くてすみませんが、とりあえずシャワーを浴びて身体を温めてください」
 店とは違って必要なものが何でも揃っているわけではないが、ときどき友
人にカットモデルを頼むこともあり、俺の部屋にはそれなりに道具が揃って
いる。また2時間かけて掃除をするのも嫌だったし、黙って店の道具や消耗品
を使うと後で店長に説教されると思ったので、俺は店からそれほど離れてい
ない自分の小さなアパートにミューゼル様をお連れした。
 ミューゼル様の髪のカットに必要な道具をテーブルの上に揃え、床にはビ
ニールシートを敷く。
 今日髪を切らなければならないミューゼル様の事情はどうあれ、あの素晴
らしい髪にまた触れることができるのだと思うと、自然と気持ちが舞い上が
る。久しぶりだからできるだけ丁寧にカットしよう。カットした後で床に落
ちた髪を、ロケットのものと交換してもいいだろう。しかも今日は次のお客
様もいないし、ここは自分の家だから小言の多い店長や施術中にイタズラで
邪魔をしてくる先輩もいない。ミューゼル様のお時間が許す限り好きなだけ
触ることができるし、うまくいけばその先の展開もあったりして…なんてな。
その場で小躍りしたい気持ちを抑え、俺は準備をしながらミューゼル様が風
呂場から出てくるのを待った。

 さすがにスタイリングチェアーは自宅にないので、いつも友人の髪をカッ
トするときに使っているテーブルセットの椅子をビニールシートの上に持っ
てきて、そこに座ってもらう。
「さて…今日はどのように致しましょうか?」
「君に任せるよ。うんと短くしても構わないから」
ということは、願いは叶ったんだろう。嫌なことを思い出してしまったと思
いながらも、
「それでは…トップは○センチ、サイド○センチで…」
と今のミューゼル様に似合いそうな髪型のイメージを伝える。頭の中のイ
メージではそれでも微妙に似合っていないような気がしたが、現状ではそれ
しか思いつかなかった。「…とこんな感じでカットしますね」とテーブルの
上のカット鋏を右手に握り、その長い髪を一房手に取った瞬間。
「……う……ぅっ…」
それまで笑っていた鏡の向こうのミューゼル様の顔が、不意に曇ってくしゃ
くしゃになる。口元に手を当て、嗚咽が漏れるのを防ごうとしているみたい
だが、指の隙間から聞こえるその声と、目元から落ちる涙が気になって仕方
がない。鋏を入れている途中で首を曲げたり、身体を動かされたりするとき
ちんと長さが揃えられないため、肩を震わせて泣いているこの状態のままで
は施術を始めることができないのだ。俺は握ったばかりの鋏をテーブルに戻
して聞いてみた。
「どうしたんですか? 願いが叶ったから、髪を切りに来たのではないので
すか?」

 「叶ったことは叶ったんだ。だが…振られた。というか、捨てられた」
「おっしゃっていることがよく分からないですよ。そういえば…今日どうし
ても髪を切らないといけないって店の前で伺いましたが、何か特別な事情が
おありだとか…?」
人前で男が泣く、それも…それまで年に4,5回会うだけだった一介の美容師に
3年ぶりに会って、そのまま髪を切りに来た状況で泣くだなんて、よほどのこ
とがなければあり得ない。俺はミューゼル様の姿を映していたスタンドミラー
の前に回ってひざまずき、
「差し支えなければ話していただけませんか? この3年間に何があったのか。
他の誰かに話したりはしませんし、ミューゼル様がお話できる範囲で構いま
せんから」
と真剣な表情で話しかけると、
「確かに願いは叶った…」
と少しずつ、店に現れる前にもずっと泣いていたからなのだろう、いくらか
かすれた声で、
「好きな人に自分の想いを伝えることもできたし、それを伝えた当初は幸い
にも相手も同じ気持ちを自分に持っていると思った…」
ミューゼル様は話し始めた。

963-879の6:2005/10/03(月) 23:22:58
 1時間近くに及ぶミューゼル様の話を要約するとこういうことらしい。
 ミューゼル様のお相手はご自分の勤める会社に中途採用で入ってきた人で、
慣れるまでの間のサポート役としてミューゼル様が仕事の内容についてその
人を指導していた。朝から晩までほぼ1日中顔をつき合わせて仕事を教えて
いるうちにミューゼル様はその人に対していつのまにか恋心を抱くようにな
り、その人が勧めてくれたこともあって願掛けのつもりで髪を伸ばすことに
した。それがちょうど3年前、最後に髪を切りに来てくれた頃に当たるようだ。
 お相手の人が「このくらいの長さからが好み」と言った、襟足でひとくく
りにまとめられるくらいの長さになった1年半後、ミューゼル様は自分の想
いを告白した。受け入れられるかどうかとても不安だったが、どうやら相手
も自分と同じ気持ちだったらしく、他に何の障害もなかった為そのまま2人
は交際を始めたそうだ。ところが、付き合い始めて3ヶ月ぐらい経った頃、
ミューゼル様は自分の想いを胸に秘めていた頃には考え付かなかったことで
悩むことになった。

 その悩みというのが、交際相手の人がとても独占欲が強い上に自分の思い
通りにならないとすぐミューゼル様に不満をぶつけてくるタイプの人であっ
たこと。その上何かとミューゼル様を「束縛」したがる人だったらしい。最
初は優しく接してくれたその人が少しずつ本性を現し始め、気がついたとき
には既に遅かったとのこと。ミューゼル様は従順な奴隷として接しなければ
ならず、嫌な仕事や雑務は全てミューゼル様任せ、その仕事振りすら気に入
らないときは手枷や足枷で身動きを封じられ「お仕置き」と称して叩かれた
り蹴られたりしたそうだ。そんなに邪険に扱われながらもミューゼル様はそ
の後にお相手から与えられる「ご褒美」がうれしくて、嫌な顔ひとつせずそ
れらの「お仕置き」に耐え、その人を喜ばせるべく時には危険を冒してまで
その人に言われた「命令」に従っていた。
 しかし、俺から見ればある意味常軌を逸脱しているのではないかと思える
「幸せな交際」が破局したのはつい昨日のことだそうで。3日ほど前にお相手
の人に電話呼び出されたミューゼル様は、指定された場所に向かった。いつ
ものように手足を拘束されて「お仕置き」されるのだろう。どんな「お仕置
き」だろうと、その後の「ご褒美」のことを考えれば耐えられると思ってい
たのだが。

「レイプされた。それも、自分の勤めている会社の社長が遣わした者数名に」
ミューゼル様は俺と同性の男だ。なのに、レイプって何だよ。社長が派遣し
た奴って何だよ。俺は頭が混乱したまま続くミューゼル様の言葉を聞く。
「企業スパイだったんだ、私の交際相手は。私はその人の代わりに自らの手
を汚して社内の機密文書やまだ開発中だった極秘プロジェクトの企画書を入
手し、命じられるままにその人にそれらの書類のコピーを渡していた。その
人はそのコピーを、私の勤めている会社とは対立関係にあるライバル会社に
横流しすることで不当な報酬を得ていたようだ。その会社はに横流しされた
書類を使うことで私の会社を倒産に追い込み、それが一因となってで私と私
の交際相手による背任行為が会社に暴露された。私とその人はその責任を追
及されることになったが、社長に指定され事件の全容を釈明するはずだった
内部調査報告会の日に相手は逃げて行方不明になってしまった。きっと自分
の罪を私に全て被せるためだったのだろう、社長の話ではその人が社長に密
告したらしい。だから私はその人の代わりに懲戒解雇と、社長の見ている前
でのレイプという形で全責任を取らされた」
そんなひどい話はあり得ないし、考えたくもない。それでも自分の目の前に
座っているミューゼル様はそれを経験してきたのだ、掛けるべき言葉を見失
い、俺はその場に座り続ける。

973-879の7:2005/10/03(月) 23:31:27
 「そんなになっても私はその人を信じ続け、その人が自分のところへきっ
と戻ってくると信じて疑わなかった。しかし、その…彼は…『お前は所詮俺
の道具、それも使い捨ての道具でしかない。お前にやってもらうことは全て
終わった。これでもう用が済んだから、お前はもう必要ない』と言って私を
裏切り、私を捨てた」
「彼」? 「彼」だって?! 確かに俺もミューゼル様に対して邪な想いを抱
いてはいるが、同じ男としてミューゼル様が話してくれたその男の行為は到
底許せるものではない。
「私がレイプされている間にその人は住んでいたアパートを引き払い…、唯
一の連絡先だった…携帯電話の番号を、今日から着信…拒否にされてしまっ
て……」
そんな衝撃的な告白をさせてしまったことが申し訳なくて。
「それでも彼を愛してる自分が情け…なくて…、自分でも許せなくて……」
どう受け止めたらいいのか分からなくて。
「だからせめて…あの人が…好きだといってくれた髪を切れ…ば…、忘れら
れるんじゃないかと思ったから……」
「ミューゼル様!」
思わずその身体に抱きついていた。

 一切の抵抗をしなかったことでその男の暴力的な愛を必死に受け止めてき
たミューゼル様の髪を撫でる。きっとその彼氏やミューゼル様をレイプした
奴らが散々引っ張ったり、蝋を垂らしたり、火で炙ったりと相当酷い扱いを
したのだろう、時間が経って少し乾いてきたあの美しかったはずの髪はひど
く傷んでいた。あちこちから切れ毛や枝毛が飛び出していて、触り心地は俺
のロケットの中の髪と同じぐらいに最悪のものだった。
「もういいですよ、ミューゼル様」
聞きたくなかった。これ以上この人の穏やかな口調の、しかし悲痛極まりな
い叫びを俺が聞けば、この人の心は粉々に壊れてしまう。そう思った俺は髪
を撫で続けた。
「なるべく早く…切って、しまおうと……」
こんなことでこの人に笑顔が戻ってくるとは思わなかったが、
「もう話さなくて結構ですから…!」
この人の受けた心の傷が癒されるとは思わなかったが、
「ミューゼル様の髪は、私がちゃんと元通りにして差し上げます。必ずです」
それでも俺は髪を撫で続ける。
 このままキスしてしまいたい。いっぱいキスして、髪だけでなく身体中を
撫で回して、その男から受けたミューゼル様の「傷」を少しでも消してしま
いたい。
「今日私がこのまま髪をカットしたら、なんだかものすごい失敗をしてしま
いそうで怖いです。ですから、今日はトリートメントで髪に栄養分を補給し
て、今度改めて髪を切ることにしましょう」
そう思う気持ちをぐっと堪え、ミューゼル様の背中に回していた腕の力を強
めて耳元に囁いた後、俺はトリートメント剤を作るべく立ち上がった。

 「たとえ失敗したって3ヶ月経てば髪が伸びるからそのときに修正してく
れればいいから」とミューゼル様は言ってくれたが、まだまだ未熟なこんな
俺だって美容師の1人だ、失敗しそうだと分かっているときに無理な施術を
したくない。そう思ってできるだけ丁寧にトリートメントを施し、洗い流し
てブローをした。すると。
「……これが、私の髪なのか?」
 3年間他人に気を遣うことに精一杯で自分のことは何一つ気に掛けなかった
その髪の持ち主が驚いていたのは仕方ないとして、たった1度のトリートメ
ントでは無理だろうと思っていた俺もびっくりした。かつての手触りの良い、
適度な柔軟性とコシを持ち合わせた、あの美しい金色の髪がそこにあったの
だから。 
「え、…ええ、これがミューゼル様の髪です。2週間後にもう一度トリート
メントをすればもっと綺麗な髪になりますよ」
そう言って俺は、スタンドミラーの向こうで驚いたままの人物に顔を近づけ
て笑いかけた。
「私は短い髪のミューゼル様しか拝見したことがありませんでしたが、こう
して見るとミューゼル様は長い髪もよく似合いますね」
「本当にそう思う?」
「ええ」
「そうか……」
相変わらず目元は赤くなっていたが、ミューゼル様の表情がそれまでの曇った
感じから一転し、かつての快活な感じが戻ってきたかのように見える。

983-879の8:2005/10/03(月) 23:32:47
 カットクロスとタオルを外し、預かっていた手荷物を渡す。ミューゼル様
の着衣はまだ濡れていたのでサイズが違うが俺の服を貸すことにした。
「お時間がございましたら、そのときにカットとトリートメントをさせてい
ただきますので、ぜひ2週間後に店の方にご来店ください。それまでには
ミューゼル様にぴったりの髪型を考えておきます」
と言って玄関へ送る。
「…あ、そうか。代金を」
と玄関扉の前まで来たときにミューゼル様が振り返るが、
「い、いいえ、お代は結構です。わざわざ自宅まで来ていただいたのに、ト
リートメントだけでカットできなかったし、店と違って何かと不自由にさせ
てしまいましたから」
と慌てて言った。
「しかし、トリートメント剤だってそんなに安いものではないのでは…」
「あれは自分が使うのに社員販売割引で店から分けてもらってるものです」
「…こちらが無理やり押しかけて、君の貴重な時間を潰してしまったし」
「貴重な時間だなんてそんな…。店から帰ったら食事して風呂に入って寝る
だけですよ」
しばらく玄関先で押し問答が続いていたが、そのうち俺は金ではないもので
支払ってもらう方法を思いついた。

 「分かりました。では少しだけいただきます」
「いくら払えばいい?」
と財布を出そうとするミューゼル様の手を握って制止した後、腰に手を回す。
そのまま顔を近づけ、ミューゼル様の唇に自分の唇を合わせた。
「ん! …ぅ…っ」
もう片方の手で髪を撫でる。
「…く、……う…っ、ふ…」
頭のどこかで警鐘が鳴っていたが、止まらなかった。
「…う…ん、っん」
舌先で唇の表面をなぞり、撫でていた指の間に髪を梳き入れ、軽く握りこむ。
指先から伝わってくる感覚に気分が高揚しすぎて、身体中が痺れるような気
がしてくる。
「……ぅ…、…く…はっ…」
次第に俺の方が息が苦しくなってきて、これ以上キスしていたらうっかりそ
の先に進んでしまいそうで、慌てて口付けを解いた。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「はっ、はっ、は…」
互いの荒い息遣いが狭い玄関先で交差する。
「ありがとうございました。お気をつけてお帰りください」
呼吸音が元に戻った後、そう言って俺は玄関のドアを開けミューゼル様の帰
宅を促す。何か言おうとしていたみたいだったが、何も言わずミューゼル様
は俺のアパートを出て行った。

993-879の9(終):2005/10/03(月) 23:34:09
 足音が遠ざかっていく。完全に俺の耳に聞こえなくなった瞬間、
「やっちまった…」
俺はその場にへたり込んだ。
 俺は、自分の想いを告白することでミューゼル様を傷つけるようなことは
したくない。そう思ってミューゼル様に抱いている感情をずっと自分の胸の
中だけに留めておいたが、さすがに今日の話を聞いていたらなんとかして差
し上げたくなった。これからは俺が傍についてると、俺がミューゼル様をお
守りすると伝えたかった。前の彼氏とやらと同じことをすれば更にミューゼ
ル様は傷つき、絶望するだろうと思ったから、できるだけミューゼル様が傷
つかない方法を取ったつもりだったが、何も言わず出て行ったことを考えれ
ばそれなりに俺に失望したのかもしれない。
 2週間後に来てほしいとは伝えたものの、ミューゼル様はきっと店には来
ないだろう。思い出したくない過去の話を話させたばかりか、話したことで
情緒不安定になっているときに、その心の揺らぎにに付け込んで俺がミュー
ゼル様を騙したのだ。もしかしたら俺が原因で人間不信に陥るかもしれない。
俺とのキスが昔の彼氏とのことを思い出させてしまう可能性もある。
「ミューゼル様、申し訳ありません…」
俺はポケットの中のキーホルダーを握りしめ、もう2度と会えないであろう
幻に謝罪した。

 「それじゃお先に失礼します」
「ああ、お疲れ様。また明日な」
その日の仕事が終わった俺は、いつものように店長や先輩に挨拶して店を出
る。家に向かう途中のガソリンスタンドで適当に食料を買う。
 さて、今日は何を食べようか…と考えながら自宅の前まで歩いてくると、
誰かが自分の部屋の前に立っているのに気がついた。深めに帽子を被っては
いたが、肩にかかる金色の髪でそれが誰だかすぐに分かる。
「店の制服には名札はついていないし、ときどき配達されるダイレクトメー
ルにも書いてなかったから今まで知らなかったが…君の名前はジークフリー
ドというのだね。表札を見て初めて分かったよ」
「み、ミューゼル様! どうして…」
俺は信じられなかった。あんなことをしたにもかかわらず、ミューゼル様は
笑顔でそこに立っている。
「借りた服を返しに来た」
「そんな…そろそろ処分しようと思っていた服だから返さなくていいと申し
ましたのに」

「服を返すためだけに来たのではないよ」
「え?」
そこまで言うとミューゼル様は急に口ごもり、俺からの視線を逸らす。
「約束だったし、その…店には行きにくくて、だから、あの…」
頬が薄く染まっているのは、気のせいだろうか。
「トリートメントとカットを…お願いしようと思ってね。それで代金は…あ
の…、何といえばいいか、その……」
そういえばあの雨の日から数えて今日がちょうど2週間後だったな…と思い出
した。
「かしこまりました。狭いところでなにかと設備が不十分ですがどうぞお入り
ください」
俺は心の中でガッツポーズを取った。顔がにやけそうになるのを必死にこらえ、
玄関の鍵を開けてミューゼル様を先に部屋の中に通した。

====================
書き込まれたお題を見た瞬間某OVAの主人公が頭をよぎってしまい、
受の名字はこれかもう1つしか考えられませんでした…orz
あちこちおかしい部分があるけどその辺はスルーしていただければ幸いです。

100萌える腐女子さん:2005/10/09(日) 03:39:04
本スレ1000ではないが、リク被りで折角の999のリクが流れたままなのは惜しいので、投下します。
リクした瞬間お流れじゃ悲し杉。

101本スレ999のリク:2005/10/09(日) 03:47:58
恋は本屋さんで―の御題



本というのはそれ自体、編集者と執筆者の緊張した恋の駆け引きの産物とも言えるわけだが。


時には、古本屋の奥の書棚にひっそりと隠された恋もあって、其を手にした青年を引き込む事もある。
其も、あまり誰も手に取らないようなお難い哲学の学術書なんかにそっと誰かが書き込んだ苦しい想いとか、
或いはページの間に密かに挟み込まれた恋文の様な栞とか。
其を見付けた青年はドキドキしながら、暫く前の所有者に想いをはせ、其の本を慌ててまた書棚に戻す。
数日後、青年が再び本屋に訪れると、予想通り其の本はまだ売れずに残っている。
そっと広げる。
と、どうした事か以前には無かった筈の別の書き込みや、新しい栞がはさまれていたりする。
誰か自分の他にこの本を手にした者がいるのだと、よけいに胸を騒がせながら新しい書き込みを読んでみると、其がどうやら自分に宛てて書かれたものの様な気がしてきて、頬を染めながらまた本を書棚に戻す。
次の日も、また次の日も、また新しい書き込みが見付かり、青年は其が自分宛てではとの疑念を益々強くする。
そして、誰かが、この本を手にしている自分を見ていてこんな事をしているのか、こんな古風な通信手段を使うのは一体どんな奴だと思いながら、たまらなく心惹かれていく。

其の書き込みの主は、こうして、出会う前からもう恋に落ちてしまった青年を、果実の如く実の熟すのを待って、自分のものにするだけだ。

102萌える腐女子さん:2005/10/09(日) 04:47:25
自分もPart3スレ999でも1000でもない上、
タッチの差で>>100姐さんに先を越されてしまったのですが、
萌えられるだけ萌えてみたので投下してみます。
お題は「恋は本屋さんで売っている」です。
==========
最初のきっかけは本屋の店員がお客にぶつかるところから始めようか。
ぶつかった拍子に整理中の本ぶちまけて、それを拾ってもらうついでに
「○○っていう本ありますか?」なんてお客が言い出して。
お客が探してた本は専門書だから当然店には置いてないんだけど、
店員はそれが専門書だなんて知らないから棚の隅々を必死になって探すわけだ。
お客はお客で他の店で棚の在庫も見ないで「そこに無ければ無い」なんて
ぶっきらぼうに言われて仕方が無くてこの店に来たんだけど、
一所懸命に探してくれるその店員の姿にじーんときちゃう。
結局その本見つからないからその店で取り寄せてもらうことになって、
それが縁でお客は足しげく店に通うようになる。

最初はお客は自分が探してる本があるかどうか確認するためにその本屋に行くんだけど、
毎回その店員が探してくれて、でも結局見つからないから毎回取り寄せになって。
いつも探させるの悪いなぁ、取り寄せてもらうの悪いなぁなんて思うようになって、
来たついでに他の本を買うようにしてみたり、
その店員が書いたお薦めPOPがついてる本を買ってみたり。
店員は店員でいつも見つからなくて悪いなぁ、
取り寄せで待たせちゃうの悪いなぁなんて思うようになって、
これまでお客が取り寄せた本やついでに買った本の傾向をさりげなくチェックして、
ジャンルが似たような本を紹介してみたり、好みに合いそうな本を読んでPOP書いてみたり。

そのうち店員の気を引くためにはどうしたらいいかお客が本気で考え出しちゃって、
必ずしもそれが当てはまるわけじゃないのに
恋愛テク本とか恋愛相談本の、それも男女間恋愛のやつとか買い始める。
それ見た店員がお客に好きな子できたのかと勘違いして、
心で泣きながら顔に出さないで最近良く売れてて自分も読んだことがある
その手の恋愛テク本を薦めてみる。

最後は店員が薦めてくれたその恋愛テク本に書いてあったとおりの必勝法の1つ、
「自分がプレゼントしてでも好きな人に読ませたい本」をお客が買って、
それをそのまま店員にプレゼントしちゃう。それでお互いの気持ちにやっと気がつく、と。
==========
こんなところでいかがでしょうか、Part3スレの999姐さん?

103萌える腐女子さん:2005/10/09(日) 14:35:27
29に出遅れたのでこっちに投下。
-------------------------------
「ぅあー……。」

半ば押し付けられての出張で人生初めての大阪に降り立った俺はうんざりとした声を上げた。
広さ的には東京駅の方がはるかに広いのだろうが不慣れな分やたらと広く見える。
在来線の名前も見慣れないからどれがどれだかわからない。

「環状線ってどこだよ!」

表示を見ながら構内をうろついていたがそんな文字はどこにもない。
出張を押し付けられた苛立ちも手伝ってつい大声を出していた。

「環状線はこっから出てへんよ。一旦大阪まで出な。」

背後からやわらかい関西弁が聞こえた。関西なんだから関西弁で当然か。
振り向くと人のよさそうな笑みを浮かべた男が立っていた。

「あー…そうなんですか。どうも…。」

一人で叫んでいるところを聞かれた気まずさも手伝って曖昧に答えると男は俺の手を引いて階段に向かう。

「こっちやで。こっからどの電車乗っても一駅で着くし。着いたら環状線って矢印あるからそれ見てけばええわ。」
「はい…。あの、どうもご親切に……。」

ああ、大阪はまだ義理人情が残ってるんだなあ。東京じゃ迷ってようが何しようが誰も助けてくれねーぞ。
電話で話した大阪支社の奴が「東京もんは冷たい」と言っていた理由がわかった気がした。

「環状線てどこ行くん?」
「天王寺です。そこからまた乗り換えて堺に……。」
「天王寺なあ。あそこもややこしいし、ちょぉ書いといたるわ。えーっと紙紙……。」

男は鞄を探って名刺入れを取り出すと名刺の裏にご丁寧にも何番線、何駅下車、何番出口と書き付けて渡してくれた。

「ほな急ぐし」と去っていった男の名刺を見てああ、自分の名刺も渡せばよかった、と後悔した。
まあいいや、しばらく滞在するんだし。週末にでも電話をかけてみよう。

ホームに滑り込んできた電車に足取り軽く乗り込む俺はいつの間にか笑みを浮かべていた。

10470/ 50代×30代:2005/10/12(水) 18:05:00
「70年安保の頃?馬鹿な。私はノン・ポリだったんだよ。都市革命論なんてあり得ないってのが持論だったからね。」

彼の話を聞くのが好きだ。
それは越えられない20年の時の壁を感じさせるけれども、僕の知らない彼の、まだ若く生き生きとしていた時代の光を、感じさせてくれるから。

「でも、結構大学では有名だったって噂に聞きましたよ。」
「ああ、あれは他の大学の奴らが、うちの大学に乗り込んで来てね。革丸だか中核だか、知らないが、私の尊敬していた教授を取り囲んで吊し上げようとしたんだ。だから頭に血が昇って、怒鳴って、暴れて蹴散らかしてしまってね。それで一躍大学では有名人さ。武闘派の右翼だって、勘違いされたよ。」

「その教授が好きだったんですか?」
「いや、尊敬してた。それだけだよ。」

ちょっと嫉妬に駆られた僕の気持ちを、彼は何時も敏感に察知して僕の頭を撫でてくれる。
「好きだった人はいない訳じゃないけれど。それは今の私達には関係ないことだろ?」
優しく笑い掛けられて、僕は彼の胸に顔を埋める。

彼の話をもっと、もっと聞いていたい。
それは、どうしても僕の手の届かない若い頃の彼で、その時代そのものにさえも、僕は嫉妬せずにはいられないのだけれど。

105私を踏んでください―1/2:2005/10/15(土) 05:32:24
109で無理矢理萌えてみた。お題たどり着くまでちょっと長し。




降り止まぬ雪で、町が埋もれ始めていた。

小さな民宿では、帰り損ねた30前半の男性客がたった一人、聞き慣れぬ雪の軋む幽幻の様な密やかな音に、四方八方を取り囲まれて、眠れぬ夜を過ごしていた。


酒を呑んでもいっこうに酔いは回らず、暖房を強くしても冷気が部屋に染み込んでくる。
どこか窓でも開いてるのかと、部屋を出て戸締まりを確認すると、はたして二階にある玄関のドアが僅かに開いて風が吹き込んでいた。

主人が締め忘れたのかと、忌々しく思いながらドアを閉めようとすると、
隙間から、するりと白い手が入って来て、冷たい細い指が男の頬を撫でた。

びっくりして、数歩飛びさがると、ドアが表から大きく開け放たれ、その手の主が入って来た。

ぬけるような白い肌に端正な顔立ち、後ろで一つに束ねられた長い黒髪、均整のとれた細身の体を着流しの着物一枚に包んだ二十歳前後の若い男だった。

それが、若い男でなかったら伝説の雪女を思い浮かべたであろう。その姿は、幽気を漂わせ、息を呑むほどに美しかった。

男が、眼を見張り、立ちすくんでいると、体にすがりつく様にしてその若者が倒れ込んで来た。
思わず、抱きかかえた。
と、男は、その若者の体の異様なほどの冷たさに驚いて、初見した時の恐怖を忘れ、抱き締めてその背中を摩った。

今度は、若者の方が驚いた様に尋ねた。
「私が、恐ろしくないんですか?」

「そんな場合か!凍えきって!」
抱き上げて部屋に運ぶ。
「あ、あの、私は貴方を…その…」
戸惑う若者に構わず、男はその髪を撫で、体を摩り続けた。


しかし、その体はいっこうに温まらず、冷気は男の体をも凍り付かせてゆく。

「離してください…。貴方が…死んでしまう。もう、わかったでしょう?私は…」

それでも、男は抱き締める腕を少しも弛めず、愛しむ様にその体を撫で摩り、
凍える唇を震わせながら答えた。

「いいさ。寂しかったんだろう?…お前。ずっと独りで寂しかったんだろう?」

若者の眼からはらはらと涙が、溢れた。

その涙は、凍えきってゆく男の体を包み、ゆっくりと暖めながら、男を穏やかな眠りに誘った。

106―私を踏んでください―2/2:2005/10/15(土) 05:34:30
眼を覚ますと独りだった。
誰もいない。
辺りは物音ひとつ聞こえぬ静けさに包まれていた。
妙に明るい。
昨夜降り続いた雪で真っ白に覆われた町が、明け始めた朝の光を浴びて輝いていた。

「あ、あの、どうぞ踏んでください……」

ドアを開けると密やかな声が、何処からともなく響いた。

「お前か?」
尋ねると、
「ええ、私は此処です。」
「もう、姿は見せてくれないのか?」
「残念ですが…朝が…もう私にその力はありません。ですから、お別れに貴方に、一番最初に私を…踏んで頂きたいのです。」

足跡ひとつない雪原が男を誘う。踏み出すと、足首までが、ずぼっと雪に埋まった。

「何処だ?お前の一番深い処まで行こう。」
「あっ、……!」

「連れてけ。もともと昨夜はそのつもりで来たんだろう?
一緒に行こう。お前のものになるよ。」

男は雪原の一番深い処を目指して、遠くに見える森林へ向かってゆっくりと歩き出した。

107105-106:2005/10/15(土) 05:44:22
1/2と2/2の間にかなり行間空けた筈なのですが、入ってない?…orz。5〜6行間入れてください。

108カリスマの恋:2005/10/17(月) 02:55:02
どーしても語りたく。お世話になります。


カリスマは孤独だった。皆に愛され崇拝されていても、本気で恋する相手は今だかつていない。
実はその事自体は、彼にあまり意識されていないのだが、本気で恋する相手に出会った時、初めて彼は今までの孤独に気付き、耐えられない烈しい想いを抱くようになる。

それは、今まで彼の周りには居なかった、側近でも、平伏す崇拝者達でも、敵でもない相手。
その青年は、彼をカリスマとして意識せず、崇拝するのでも、敵対するのでもなく、同じ人間として自然に対峙する。
そんな青年に初めて出会った時、カリスマは、澄んだ瞳でただ自分を真っ直ぐに見返してくる相手を疑かしく不思議に思い、次には相手を振り向かせようと夢中になる。
そうして本気の恋に堕ち入っていくのだが…。


本気の恋はいけない。
カリスマとは地上の存在であり、且つ、形而上の存在でなくてはならない。
だが、本気の恋は、そんな存在であるカリスマを、形而下へと引きずり下ろす性質を持つから。

これまで、常に完璧な存在であったカリスマが、普通の人間の様に恋に因って悩み苦しむ様子をみせる始める。

想いが一方通行の内はまだ良いが、想いが通じて互いに愛し合うようになると、その異変が顕著になる。


この恋の行く末は―。

恋のために何時しかカリスマ性が失われた彼は、これまで、彼の威光によって敵わないでいた敵対勢力に追われ、愛し合う相手と二人で行く当てもなく堕ちて逝く。


あるいは―。


彼を最も愛し、誰よりも理解していた側近が、間近でその異変を素早く感じとり、これが彼のためだからと、なんとかその青年と引き離そうとするが巧くいかず、
一時は、手を回してその青年を何処かへ幽閉する。
だが、青年を心配するあまりカリスマは、更に尋常でなくなってゆく。
それを視て、側近はその青年を殺す以外に方法がないと悟り、心を痛めながらも、誰かに殺られたものと見せかけて青年を殺してしまう。

青年の死体を抱き、カリスマは、深い悲しみに沈む。


そして本当は、間近に別に愛すべき相手(側近)がいる事には、ついに気付くことなく、生涯、失われた青年への想いだけを胸に生きる。

1091/2:2005/10/19(水) 00:57:28
書こうとしたら神に投下されてたので。149 俺ダメなんだよな〜
付き合って、もう半年になる。
けれど指一本触れてくれないあの人に、僕はいつもの仏頂面で何度目か分からない質問をする。
「どうして? 僕、……そんなに魅力ないですか?」
「別に、そんなわけじゃねぇっての」
そう言って困ったように笑う咥え煙草の彼が苛立つくらいかっこよくて、僕はまた泣きそうになる。
いつもこうだ。年上だからって兄貴ぶって、僕の心をちくちくと痛ませる。
抱いてくれないのだって、どうせ僕がまだガキだからなんだろう。
「煙草」「ん?」
「一本、頂戴」
シャツの胸ポケットに入った箱を無理やり取り出そうとして、その手を押し留められる。
僕とは百八十度違う大人の力に押さえ込まれて、身動きできなくなってしまう。
「だーめ。まだ十八なんだから、身体大切にしろ」
代わりにこれ、と手渡された小袋に入ったキャンデーを、僕はつい床に投げ捨ててしまった。
かさりと乾いた音が室内に響き、振り向いたあの人が驚嘆した顔で僕を見つめる。

110萌える腐女子さん:2005/10/19(水) 00:58:11
「ねぇ、どうして? 僕……僕もうガキじゃないよ……」
ああ、駄目だ。瞳からじんわりと溢れ出る涙をとめることが出来ない。
こんな顔したら、むしろ自分から『ガキ』って看板掲げてるみたいなものなのに。
僕の涙を伸ばした指先で拭うと、あの人はまた、普段と変わらない笑顔を見せた。
「俺、ダメなんだよな〜」
おどけて冗談ぶった口ぶりでそう告げられて、僕は一瞬、何を言われているのか分からない。
「病気しちゃってさ。その……昔荒れてた頃に。お前には絶対うつせない」
「……う、嘘っ」
「お前はさ、まだ若いんだから。ちゃんと健康でいなきゃ」
僕の髪をくしゃりと撫でるその指先になんだか元気がない気がして、頭一つ分違う彼の顔を仰ぎ見る。
そこにはいつもの大人のあの人は居なくて、代わりに喉を振るわせて幼児みたいに泣く男がいた。
「ガキだなんて……思ってねぇよ。ただ、お前は俺と違って若くて……綺麗すぎるから……」
十も年上のその人を抱きしめて、僕は泣いた。
その嗚咽する声があまりに大きくて、僕はやっぱり、自分が若いんじゃなく単にガキなんだと思った。

111萌える腐女子さん:2005/10/22(土) 15:37:35
「あとちょっと、後ちょっとでキリのいいとこまで終わるから」
「ってお前1時間ぐらい言い続けてるんだけど」
「だって仕方ないじゃん、なかなかキリよく……あ!あぁ!あ―――――!話しかけるからやられちゃったじゃん!こっのボケンダラ!」

こいつはここ数日中古で買ったと言うパソゲーに夢中だ。
俺が遊びに来ようが完全無視で空気のような扱いをされている。
そりゃ俺が勝手に遊びに来てるだけなんだけど、面白くない。
人の気も知らずモニターに向かってピコピコやってる後姿を見ていると悪戯を仕掛けてやりたい衝動が襲ってきた。

あいつの家には留守のときでも平気で上がりこんでいる。あいつも俺の部屋に勝手に上がりこんでくる。
お互い様と言う奴だ。
それをいいことに、あいつが留守の間にパソコンに別のゲームを入れ、ご丁寧にショートカット先まで変えておいた。
わざわざゲームも途中まで進めてある。
どういうことになるかお楽しみだ。ゲームがゲームだから多分すげー怒るだろうけど。

「あー、なんだ来てたの?でも俺もうちょっとでゲーム終わりそうだし、やっちゃってるけど」
「いいよ、漫画でも読んでるから」

パソコンの起動音が聞こえる。ニヤニヤしながら後姿を見つめていると、思惑通りにショートカットを開いてくれた。

「うわっ?!」

画面には男女ものでない18禁ゲームのセックスシーン。
華奢な男が四つん這いで腰を高く上げ、後ろから貫かれている。

そろそろ罵声が飛んでくるだろうと覚悟して待っていたのだが、一向にその気配はない。
意外なことに食い入るようにモニタに見入っている。

『あ…あぁ……もっと……!』

画面の男が喘ぐそのシーンを頬を染めながら見つめ続けている。
悪戯心が再び芽生えた俺は後ろからあいつに抱きつき、耳元で「同じことしようか」と囁いてみた。
潤んだ目であいつが見上げて来る。

「うん……しようか」

112萌える腐女子さん:2005/10/22(土) 23:04:38
あ!今気づいた!160さんの「ゲームするのに夢中な受」です!

113189さんの刀と鞘で。:2005/10/23(日) 18:42:28
「……また、仕事か?」
 何気ないそぶりでそう尋ねる鞘に、刀は弱弱しく微笑んで掠れた声で答える。
「すぐ、戻ってきますから」
 自分の腕からいなくなっている間に刀が何をしているのか、鞘だって知らないわけではなかった。
 全身雨に降られたように血塗れで戻ってくる刀。それでも、戻るとすぐ自分ににこりと笑いかける刀。
『仕事』の後のその姿を見るたびに、鞘は己の無力さに唇を噛み締めていた。
 ――こんなことを、させたくはなかった。
 彼の滑らかな肌に似合うのは薄絹で織った着物か何かで、あんな醜いやつらの血液ではない。
 たとえどんなに非道な相手だとしても、あの細腕で誰かの命を奪うなど、してほしくはなかった。
「鞘さん、済みません」
「……何が」
 振り返りざまにそう頭を下げた刀に、鞘は不審そうに一言呟く。
 その問に心苦しそうな声で、刀は口を開いた。
「僕、今夜もまた鞘さんを汚してしまいますね」
「馬鹿野郎。んな心配すんな」
 誰かを殺した後の刀は、何時も鞘の温もりを求めてくる。
 血で濡れた身体を洗う間もなく、彼は鞘の腕の中へと飛び込むのだ。
 冷たい死体の代わりに、誰かの暖かい肌を欲するように。
「お前は、俺が受け止めてやる。だから、余計なことは考えなくていい」
「……ありがとうございます」
 扉を開けて出て行く彼の後姿を見ながら、鞘は今宵も刀を止められなかった己の不甲斐なさに嘆息した。

 いつか、彼が自分のもとへ戻れなくなる日が来るのだろう。
 その身を二つに折って、心も身体も壊してしまう日が、いつかきっと。
 ……その日が来てしまったら自分は、正気でいられるだろうか。
 彼を抱きしめているつもりで、その実、心の空白を埋めてもらっている俺に、
 正気でいられる余地など、果たしてあるのだろうか。

114刀と鞘:2005/10/23(日) 20:32:54
同じく刀と鞘です。
三番目になってしまいましたが、投下させてください。


「行くな!」
と、お前を止めたのは、あれは、何時の時代だったろうか。
「仕方ないんだ。」
お前は泣きながら出掛けて行って、その美しい刃をボロボロにして血濡れて帰って来たね。
あの時、お前は私の中で泣いたんだっけ。
若く美しい剣士だったそうだね。
知ってたよ。
あれは、お前の憧れていた相手。刃先を交し合う度に、お前はあの若い剣士にますます惚れて、煌めきー。
彼の肉を絶つのは、さぞかし辛かったろう。
そして、あれは何時の時代だったろう。
もう人間に惚れるのはよせって言ったのに、今度は、仲間の隊士だから大丈夫って。
そう思って安心してたのに…。
あの時こそは、お前も、もう立ち直れないかと思うほどだった。


こうして古美術商の奥に眠るようになってからは、
今はもう、みんな遠い時代の事だけど。


「そうですね。みんな遠い過去になってしまいました。」
刀が答えた。
「でも、私も本当は分かっていたんですよ。どんな事があっても、私の帰るところは貴方の腕の中でしかないって。今まで随分、貴方を苦しめ、心配させてしまいましたねえ。」

「ねえ、本当に。」

「本当に、今思うと、なんて長い時が必要だったんでしょうねえ。私には貴方しかいなかったんだって気付くまで。」

115萌える腐女子さん:2005/10/27(木) 22:56:18
リレースレは絶賛リレー中なのでこちらで。
チラ裏101さんに触発されましたw


部屋に一人、いや、執事と二人で取り残された青年は苛々とブランデーをあおっていた。
紳士ぶって彼らを帰したものの、中途半端なところでご馳走を取りあげられた苛立ちは収まらない。
そもそも何故彼の友人がここまでくることが出来たのだろう?深く考えるまでもなくあのホテルにいたボーイに行き着いた。
ゲルマン系の彫りの深い、美しい金髪の青年だった。
少年をかばったあの態度から若々しい正義感に溢れた清廉な人格の持ち主であろう事は容易に想像がつく。

ブランデーグラスを手の中で温めながらにや、と人の悪い笑みを浮かべた。
清廉な人格の持ち主なら自分の行いに対してきっちりと責任を持つべきだろう。
執事に命じて再びホテルへと車を走らせる。


ボーイがホテルに戻るとチーフがすごい剣幕で詰め寄ってきた。
無断でフロントを空けたのだから当然だろう。
しどろもどろになりながら説明をしていると表で車の停まる音がした。

「お客様だ。さっさと行け!」

チーフに言われて表に出ると先ほど去って行ったはずの車が停まっている。
ボーイは顔色をなくしてただそこに呆然と立っていた。
そんな彼をまったく無視して隣をすり抜け、青年が建物の中に入って行く。

青年はそこにいたチーフを捕まえ、二言三言話すとまたすぐに表に出てきた。
何がなんだかわからず突っ立ったままの青年の腕を取ると半ば引きずるように車の中に押し込んだ。

「な、何を……」
「あの少年を逃がす手配をしたのは君だろう?」
「………」
「まあ、過ぎたことを咎めても仕方がない。だから君に代わりを務めてもらおうと思ってね」

ボーイには男色の趣味はない。言葉をなくしてふるふると頭を振ったが、そんな彼を嘲るように青年はこう言った。

「フランスで二度とまともな職に就けなくなっても?」

ボーイには断る術は残されていなかった。


こんな感じでしょうか!チラ裏101姐さん!

116萌える腐女子さん:2005/10/28(金) 07:45:01
>>115 リレーのこぼれ話がこんなとこに!姐さんGJ!この続き気になる。
ボーイは黒髪だったよ。あれっと思ったから今、確認してきた。ゲルマン系で髪だけは黒ってのも捨てがたいから脳内変換して読んだよ!仏金髪青年×ゲルマン系黒髪ボーイ。萌え〜!

117萌える腐女子さん:2005/10/28(金) 09:27:25
イヤン
ドイツ語に反応=ゲルマン系=ナチス=金髪とナチュラルに変換してしまいました。
まとめに載せるときは黒髪に書き換えを!

118249の酔っ払い攻とふりまわされる受:2005/10/28(金) 18:38:51
書いてる途中で寝てしまったら、4時間も経ってたので、こちらに投下いたします。


酒好きなのに、酒癖が悪いって、最悪じゃないか。
DJイベントで、好きな曲かけまくって、踊って歌って、気持ちよかったのは分かる。
終わった後に、ファンの子やイベント主催者さんからもらったお酒を、移動中の車の中で
飲み干して、さびしい気持ちも分かる。
今日は移動日で、ほぼ一日中車の中だから、暇なのも分かる。

でも、運転手やってくれてるスタッフさんとか、他のメンバーの目もあるんだけど。

「ほら、ユウ、チューしよ、チュー。」
「やめろって、気持ち悪い」
「何言ってるんだよ、いっつも喜んでしてるじゃん。ほら、チューしよって。こっち向けって」
「やめろって! 酒臭い!」

機材車の最後部で、俺達、何やってるんだ。
他のメンバーやスタッフは、前の席に座っているから、どういう顔で、俺達の会話を聞いているかは
見えないのが、怖い。俺達の仲は、ただの「学生時代からの友人、今は同じバンドのメンバー」で、
それ以上でも以下でもないはずなのに。バレちゃうじゃないか。

俺は、腕でヤスシの攻撃をブロックしながら、小声でいさめた。
「やめろよ…。みんなが聞いたら、変な誤解されちゃうだろ」
「誤解ぃ? 誤解って何だよ! お前、俺を好きじゃないのかよー」
「声がでかいよっ! あと、いいかげんあきらめろって」
ヤスシは、ムスッとした顔で俺から離れた。
「もーいーよ。お前が告白してきた時は、死にそうな顔して、『告白したら、気持ち悪いって
 言われると思った』とか言ってたくせに! はじめてチューした時なんか、タコみたいに
 真っ赤になって、握った手が震えて、プルプルしてたくせに! いつからお前は、そんなに
 かわいくなくなったんだ!」
「だから、声がでかいって!!」
もう、前の席に座っているメンバーやスタッフに、俺は顔をあわせられないかもしれない。
「もういい。お前なんて、俺のこと嫌いになったんだろ。もうチューしなーい」
子供のようにふくれて、ヤスシは腕組みして背もたれにもたれた。
いつも、みんなが騒いでいても、一人黙って冷静に観察したりしてるくせに。今のコイツは、
まるっきり子供だ。というか、子供以下だ。
俺は、黙って、他のメンバーやスタッフの様子に聞き耳をたてた。
こちらを見ている気配はない。寝息をたてているようにも聞こえる。
「いいから、もう黙ってろよ」
俺は、運転席のミラーには写っていないのを確認して、攻にそっとキスをした。
「…ユウ…」
「チューしてもらえないのは、困るし…。もうそろそろ寝ようよ。俺も眠い」
小さな声で、そうささやくと、ヤスシはニヤけた笑顔を浮かべた。
「やっぱ俺、お前のこと好きだ! 今から、お前の名前を、窓あけて叫びたいぐらい好きだ!」
「黙れ!」
ヤスシは、よしよしと俺の頭をなでて、「家に帰ったら何しよっか」とか、「次の移動先は、
何がうまい」とか、一人で色々話してた。
俺は、ヤスシにもたれかかり、あいづちを打ちながら、いつのまにか眠っていた。

寡黙で冷静で、あんまり自分を見せないヤスシが好きだ。
でも、こう酔って壊れてるヤスシも好きなんだよな、俺。

119ななしさん:2005/10/31(月) 23:37:20
未ゲットだったSCSIとUSB、描いてみました。
*0踏んでないけどもったいなかったのでー。
解説間違っていたら突っ込んでください。

120萌える腐女子さん:2005/11/01(火) 02:45:33
289のリク、とっくに290タンが居たので。


先輩と初めて会ったのは夏祭りだった。金魚掬いが上手な奴がいるなって興味を持って、のぞき込むと、ちょっと可愛い顔立ちで、しゃがみ込んだ浴衣の裾から白くて華奢な足がのぞいてた。
なんか一目惚れって感じで、側に行って一緒にしゃがみ込んで話し掛け、すぐに親しくなって帰り道、神社の裏手の木陰の暗闇で無理矢理キスしてた。あんまり抵抗もなかったから、そのまま押し倒して、それから何度か関係を持ってから、初めて気が付いた。
相手は高校生だったって。向こうも、背の高い俺のことを同じ高校生だと思ってたみたいで、ちょっとショック受けてたみたい。押し倒された相手が中学生だったなんて。
しかも、最初に「何年?」って聞いたら、ただ「2年。」って、それ以上、学校の話しは出なかったから後輩だと思ってたぐらいで。
でも、ホント華奢で可愛くて、背も低いし、声も高い方だから中学生にしか見えなかったんだ。反対に俺は、生意気だし、背は高いし、声もバリトンで、いつも高校生に間違われてたから、相手がそう思ったのも無理はないんだけど。

最初に名前で呼び合ってたから、急に先輩って言うのもなかなか慣れない。別に名前で呼び掛けても、先輩も全然気にしない様子で、自然に応えるからついそのままになってしまっていた。

確かに物識りだし、尊敬もしてるんだけど、あんまり先輩って感じがしないのは、先輩があまりに可愛いせいなのか、年より上に扱われる事に慣れてる俺の図々しい性格のせいか分からない。

でも、大好きだし、もっとずっと一緒にいたいから、先輩と同じ高校に入学したくて俺は俄かに勉強に励んだ。成績は然程悪くはなかったから、何とかなると思っていたのが甘かった。
恋愛に現をぬかしていた俺が、急に勉強したからって受かるレベルの高校ではなかったんだ。
合格発表の掲示の前で俺は、そっと隣に寄り添った先輩にも、暫く気が着かないほどショックで呆然としていた。
「…間に合わない…。」
呟くと、
「大丈夫。6月にまた編入試験があるから。今度は僕が教えるから絶対合格する。」
先輩の指先が、軽く俺の手に触れた。
「待っててやる事は出来ないけど、ちょっと遅くなるだけだよ。」先輩が、そう言うと安堵感と共に、愛情やらさまざまな感情が一度に混み挙げてどうにも
ならなくなって、俺は初めて、小さな先輩の体にすがって泣いた。

121289のリク、120の続き:2005/11/01(火) 16:36:58
あそこで、終わるはずが、続きも書いてしまったので投下します。



あーあ、泣いちゃって。バッカだな。いつも見栄張って背伸びしてるから。もっと素直になっていいんだよ。

正直、お前が中学生だと分かった時は、なんて生意気なガキだって思ったけど、初めて会った時から感じてた、アンバランスな違和感が解消されて、それからはずっとお前が可愛いくて仕方なかったんだよ。よけいに好きになったって言うのかな。
そんな外見だから、いつも周りはお前を大人扱いして、お前もそれに応えようとどうしても無理して背伸びしなきゃならなかったんだよね。そんな危なっかしさが愛しくて。
初めての時、お前は僕に
「駄目だ。可愛い過ぎる。」
って、そう言ってキスしたね。あの時は僕もお前の持つ独特の雰囲気に呑まれてしまったけど、お前の方こそ可愛い過ぎるんだって後で気付いたよ。

ほら、もうシャンと立って。大きな男が僕みたいな小さな奴にしがみついてたらおかしいよ。ゴメン。周りからはどうしてもそう見えるんだから仕方ないのは分かってるだろ?
さあ、お前の家に帰ろう。僕も一緒に行くから。僕にだけはいくらでも甘えていいんだからね。
でも、今日だけだよ。お前の家に行くのは。あの家は、ほとんどいつも人がいないから、お前の好き放題で、二人で居たら勉強は二の次になっちゃっいそうだからね。
明日からは僕の家で、試験勉強だよ。僕の姉は大きな後輩を連れて来たって、からかうかもしれないけど、勉強には最適だよ。
もうホントに、僕も3年になるんだし、これ以上は待てないからね。ちゃんと、追い掛けて来てくれないと駄目だよ。

122本スレ299のリクで:2005/11/02(水) 00:03:46
『出張で泊まる宿は、露天風呂&浴衣をメインにすえて、料理をオプションで頼めるようにしますか?』
部下から送られてきたメールに目を通して、はぁと思わず心から深く嘆息する。
一体、何を考えてるんだあいつは。来月のアレは出張なんだよ出張。
いくら俺とお前と二人だけでどこかに泊まるのが初めてだっつっても、所詮仕事なんだっての……。
ビジネスホテルを二部屋予約しとけって指示しておいたはずなのが、何をどうすれば露天風呂付きの旅館に変わってるんだ。
眩暈と偏頭痛がするのを無理に気力で押さえ込んで、眼前のキーボードにかたかたと返信を打ち込む。
『セクハラだ』
その素っ気無いほどに短い文面を送信すれば、二分と待たず相手からのメールが返ってくる。
それを開いて確認すれば、俺は益々頭を苛む鈍痛が強くなったのを感じる。
『じゃぁ、これで決定にします。あ、夜は寿司を頼むつもりなんですが、何か食べられないものありましたっけ?』
………人の話を聞け。いつ誰がOKしたんだ。っていうか、料理のオプションすらもお前の趣味で決定なのか。
海産物が大の好物で、以前ふぐちりを食いに連れて行ってやったら飛び上がらんばかりに喜んでいたヤツの姿を思い出す。
両頬を、木の実を山ほど溜めた栗鼠みたいにして「おいひーです、課長〜」なんて騒いでいたが、そりゃ当然だ。
知ってるわけもないだろうが、お前みたいな新入社員じゃまずいけないクラスの店だぞ、あれは。
痛むこめかみをぐりぐりと人差し指で軽く揉んで長々と吐息すると、再び目の前に置かれたコンピューターに向き直る。
微塵も下を向かず数秒でキーを打ち終えて送信してから、ふと考える。
あの文章は、俺のイメージに合わないんじゃないか? ……まずかっただろうか。
とはいえ、一度送ってしまったものを止める手立てはないわけで、俺は仕方ないかと一人ごちた。

『山葵は抜いておけ。喰えん』

123309 異世界トリップ 1/2:2005/11/03(木) 02:27:02
異世界トリップです。先越されましたので、こちらにお世話になります。内容は全然違うのに、310さんと偶然に、ピンク色だけ一緒になったよ。



前場の引ける寸前だった。俺はモニター画面を信じられない思いで見つめていた。自分が仕掛けた空売り銘柄がどんどん上がってゆく。数字が止まらない。馬鹿なとっくにストップ高の筈ーーーー


気が付くと、俺は淡いピンクや水色や黄色のクレーの絵の様な色調に彩られた荒野に倒れていた。
誰もいない。

もう、どのくらい経ったろう。夜も昼も分からないこの世界で、とっくに時間の感覚もなくしていたが、幾日も過ぎた様な気がする。
俺は、世界の終わりにたった独り取り残された様な絶望感に襲われながら、何処かに居るかもしれない人影を求めて、ずっと歩き続けていた。

何処迄行っても砂丘ばかりが続く。
本当にここにはもう誰もいないのか。
幾度も頭をよぎった絶望感に何度目か座り込み、また歩き出そうとしたその時、吹きすさぶ風に砂が舞い上がり、何かが見えたような気がした。

手だ。
砂に汚れた白い手の先が砂上から少し出いて、よく見ると辺りの砂が人の形に盛り上がっている。

駆け寄って、指に触れると温かく僅かに握り返そうとする。

生きている。

俺は、嬉しさに涙を流しながら砂を払い除け、その人の体を抱き上げた。
顔を見ると20代後半のまだ若い男で、ちょっと長めの髪はこの世界に長く居すぎたせいか、淡いピンクに染まっている。
確かに呼吸はしていたが、意識を失っている様子で、頬を叩いても眼を開けない。
何処かで見た様な顔だ。後輩の岩元に僅かに面影が似ている。
何時まで経っても眼を醒まさないその人を、別人だと分かっていながら俺は何時しか、
「岩元、岩元!」
と、呼び掛けながら、顔や体を擦り続け、ポロポロと涙を流して、その頬や額や唇に幾度も口付けていた。

あいつは、岩元は、どんな瞳をしていたろうか。きっと、この人も岩元と同じ様な瞳をしているに違いないが、思い出せない。

「岩元、なあ岩元、眼を醒ませよ。何処へ行ったらいいのか教えてくれよ。」

俺は両腕に、その人の体を抱え上げて歩き出した。
とりとめもなく話し掛け、時々口付けながら、行く当てもなくただ歩いていた。

124異世界トリップ 2/2:2005/11/03(木) 02:32:27
続きです。



何時しか気を失っていたのか、最後に足下の砂が崩れ落ち、何処迄も落ちて行ったのを覚えているが、気が付くと、俺はオフィスのホールの椅子に座っていた。抱き上げていた筈のあの人は、何処にもいない。


「先輩、今日の読みは凄かったですね。空売り大正解じゃないですか。」

不意に話し掛けられた声の方へ振り向くと岩元がいた。
(そうか、こんな声だった。そして、こんな瞳だったんだ岩元は。)

俺は愛しさで胸が締め付けられる様な思いで、岩元の瞳をじっと見つめた。
岩元が、ちょっと頬を染めて照れた様にうつ向いた。
髪はやっぱり黒だよな。当たり前だが。そんな事を思いながら、髪を撫でると、岩元がますます真っ赤になった。
「今夜、ふたりで呑まないか?」
「はい。」
と、岩元が小さく答えた。


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