したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |
レス数が900を超えています。1000を超えると投稿できなくなるよ。

試験投下スレッド

1管理人◆5RFwbiklU2 :2005/04/03(日) 23:25:38 ID:bza8xzM6
書いてみて、「議論の余地があるかな」や「これはどうかなー」と思う話を、
投下して、住人の是非をうかがうスレッドです。

505Let's begin a fake farce(5/8)  ◆l8jfhXC/BA:2005/08/03(水) 15:24:35 ID:nPGFhp1g
(あの剣を偶然見つけ、マニュアルを読む。
自分に支給された弾丸をこの剣に装填することで何らかの現象を起こし──人間を殺害することが出来ると知る。
邪魔者を消せる好機と判断し、不意を討つ。ゼルガディスの反撃を受け精神を摩耗させられるも、なんとか彼を殺害。
──襲撃者の二人は、殺害する前に出会っていた、友好的な赤の他人──もしくは敵意を持たれていない元の世界の知り合い。
“相手を騙し油断させて寝首を掻く”スタイルと言ってしまえば、とぼけられても信用はできない。
……やっぱり、こちらの方が説得力があるわね)
 あの二人ならば、状況証拠からこのような結論に容易に達することができるだろう。
 ゼルガディスのこちらへの疑念は、その素振りから観察眼のある第三者にも見て取れるものだった。動機は十分にある。
 もちろん“確定”にまでには至っていないだろう。情報が少ない。
 だが、相当疑われていることは確かだ。
(一度疑われると完全にそれを払拭するのは難しい。……どう足掻く?)
 現時点では“マニュアルがあった”としか言っていないことが唯一の救いか。
 何をするために弾丸を消費するのか、また、具体的にどういった効果が出るのか──そのことはまだ言っていない。
 “弾丸を消費して咒式を使用可能にする”という真実はまだ隠されている。
 確かに自分はある武器を媒体に“咒式”というものが扱えるということを既に言ったが、それと魔杖剣を繋ぐ線はまだない。
(マニュアルの内容について捏造しなければならない。何ができるのか──何を使ってもいいのかを考えなければいけない。
……雷撃を扱えるというのは隠さないとだめ。
ゼルガディスの死体の切り口を調べれば、強大な熱量で一気に切り裂かれたことがわかってしまう。
地底湖とその周辺を探索に行く予定のせつらが、彼の死体を見つける可能性は高い。
さらに、電磁系以外の咒式は使えない。
高位咒弾は下位互換ができない。今の状況を考慮すれば、電磁系以外の高位咒式は脳を焼き切ってしまう事が容易に想像できる。
残るのは、ただ一つ)

506Let's begin a fake farce(6/8)  ◆l8jfhXC/BA:2005/08/03(水) 15:26:42 ID:nPGFhp1g
 ──電磁電波系第七階位<雷環反鏡絶極帝陣>(アッシ・モデス)。
 超磁場とプラズマを利用した究極の防御咒式。
 能力が制限されナリシアがない今では、本来の展開速度と効果は期待できないが──それでも大抵の攻撃は防ぐことが出来る強力なものだ。
 攻撃咒式がすべて使えないのは痛いが、この場合はどうしようもない。
(そういえば、議事録には“クエロの持ってきた剣と同じタイプの剣の柄を拾った”ともあったわね。
……ナリシアでないことを願うけれど)
 魔杖剣の核は<法珠>と呼ばれる演算機関にあたる部分だが、刃の部分もただ殺傷武器としての機能のみを担当しているわけではない。
 咒印と組成式を描き、咒式を増幅させるために不可欠なものだ。折れれば使い物にならない。
(後は……脳に多大な負担を与えることと発動までに時間がかかることを伝えておく。
そして、魔力のようなものを持っていなければ使えないことにすれば、いける)
 前者を配慮すればクリーオウや空目には使わせないだろうし、後者でせつらも消える。
 ピロテースやサラも、小回りの良さを潰して防御結界に時間を割くよりも、魔術の使用を優先すべきなのは明確だ。
 やることがないのは自分だけだ。
(問題はあの二人自体をどうやり過ごすか。疑念を持っていることは当然隠してくる。
……ならばこちらも、それに気づかれないふりをし続けなければならない。今のところ、彼らを敵に回す利点はない)
 目標はあくまで脱出。
 そのための有能な人材を手放し、敵対しても何一ついいことはない。
(疑いは強い。それでも、まだこちらを利用する価値はあるでしょうね。
──武器を取ってしまえば反抗はできない。そして、今までの行動からして積極的にこのグループが不利になることはしない。
おそらくそう予想されている)
 事実だ。
 自分は彼らを殺すためにここにいるのではない。
 彼らを利用し脱出する──もしくは円滑に殺戮を行う下準備のためだ。
 そして彼らは、こちらに利用されているのを逆手にとって利用してくることだろう。彼らの手中に完全に収められている。
 ──上等だ。

507Let's begin a fake farce(7/8)  ◆l8jfhXC/BA:2005/08/03(水) 15:29:34 ID:0wNbWEVw
(素直に魔杖剣と弾丸を返す気はないでしょうね。何とかこちらをやりこめて、戦力を割いてくることが予想される。
二人──特にサラは手強い。あの無表情からは感情がほとんど読み取れない)
 相当に厄介な相手だ。
 どこで妥協し、どこで踏み込むか。難しいところだ。
(それでもやるしかない。もう舞台の上にあがってしまっているのだから。
劇を上から眺めることが出来る<処刑人>ではなく、物語を自ら紡ぐ者として)
 ならば真実に気づいていない道化を演じ、手のひらの上で踊りきってやろう。
 演技なら得意分野だ。詐術は言うまでもなく。滑稽に騙されてやることも容易だ。
(こんなところで止まっている暇はない。あの二人をこの手で殺すまでは、行動に支障を来されるわけにはいかない)
 くすぶる憎悪を胸に感じながら、胸中で呟く。
 そして、覚悟を決めた。

 ──さぁ、道化芝居を始めましょう。

508Let's begin a fake farce(8/8)  ◆l8jfhXC/BA:2005/08/03(水) 15:30:41 ID:0wNbWEVw
【D-2/学校1階・保健室/1日目・14:30(雨が降り出す直前)】
【六人の反抗者・待機組】
【クエロ・ラディーン】
[状態]: 疲れが残っている。空目とサラに疑われていることを確信
[装備]: なし
[道具]: 支給品一式(地下ルートが書かれた地図・パン6食分・水2000ml)、議事録
[思考]: 疑われたことに気づいていないふりをする。
 ここで待機。せつらが戻ってきた後に城地下へ
 集団を形成して、出来るだけ信頼を得る。
 魔杖剣<内なるナリシア>を捜し、後で裏切るかどうか決める(邪魔な人間は殺す)

【秋せつら】
[状態]: 健康。クエロを少し警戒
[装備]: 強臓式拳銃『魔弾の射手』。鋼線(20メートル)
[道具]: 支給品一式(地下ルートが書かれた地図・パン5食分・水1700ml)
[思考]: 休息。サラの実験が終ったら地底湖と商店街周辺を調査、ゼルガディスの死体を探す。
 ピロテースをアシュラムに会わせる。刻印解除に関係する人物をサラに会わせる。
 依頼達成後は脱出方法を探す
[備考]: 刻印の機能を知る。

【クリーオウ・エバーラスティン】
[状態]: 健康
[装備]: なし
[道具]: 支給品一式(地下ルートが書かれた地図・パン4食分・水1000ml)
 缶詰の食料(IAI製8個・中身不明)。
[思考]: ここで待機。せつらが戻ってきた後に城地下へ
 みんなと協力して脱出する。オーフェンに会いたい

※保健室の隅にブギーポップのワイヤーが入った洗浄液入りバケツがあります(血はもうほぼ取れてる)

509天国に一番近い島(1/7) ◆5KqBC89beU:2005/08/20(土) 18:45:48 ID:eLGqWuUQ
 第二回放送の少し前、B-7の地下通路では、二人の男女が相談をしていた。
 EDの指さした地図の一点を見つめ、麗芳が溜息をつく。
「G-8の櫓? なんでまた、そんな逃げ場の限られた僻地を拠点にしたいのよ」
 いぶかしげな様子の麗芳を見て、EDの口元が、笑みの形に弧を描く。
「だからこそ、好都合なのですよ」
「ごめん、判りやすく簡単に説明して」
「そうですね……主催者側が禁止エリアを設置している理由は、何だと思いますか?」
「行動範囲を制限したり、人の流れを作ったりして、参加者たちが逃げ隠れしにくい
 状況を作りたいから、かな」
「僕も同意見です。だから、今、この小さな半島を封鎖しても、あまり効果的では
 ないと思われます。仲間を探す場合も、誰かを殺しに行く場合も、参加者たちは
 半島から離れたがるはずですから。隠れ場所としては良かったのですが、H-6が
 禁止エリアと化したために、逃走経路の選択肢が減り、立地条件が悪化しました。
 もはや、半島地区全域が、ほぼ無人になっている可能性さえあります」
「ああ、そうか。すごく不便だからこそ、安心して休憩できそうだ、ってことなのね。
 半島が本当に過疎地なら、禁止エリアに囲まれる可能性だって低いでしょうし。
 でも、同じように考えた人がいたらどうするの? 人の数が減るまで隠れる作戦で、
 近づく相手だけ襲うような、性格の悪い奴がいるかもよ? ……それも承知の上?」
「ええ。危険は伴いますが、賭けてみるだけの価値は充分にあります。そもそも、
 完璧に安全な場所など存在しませんし、行動しなければ状況は変えられません」
「ここまで念入りに相談したのに、次の放送で半島が封鎖されちゃったら間抜けよね」
「その時は、E-7の森を拠点にしましょう。海と湖で逃走経路が限定されている上に、
 湖と道が近いので、周囲を通過する参加者が多く、隠れ場所としては危険な部類に
 入りますが――誰も隠れたがらなそうな場所だからこそ、隠れられると思います。
 いったん隠れてしまえば、僕らの方が先に、他の参加者を発見できるでしょう。
 ただし、能動的な殺人者に会う確率も高くなります。注意しなければなりません。
 E-7も禁止エリアになった場合は、このまま現在地を拠点にしておきましょうか」
「なるほどね。……ちょっと調べたい場所があるんだけど、行ってきていいかな?」
 麗芳の問いに対して、EDは頷く。彼の手が、再び地図上のG-8を指さした。
「次の放送が終わったら単独行動しましょう。ここを拠点にして、仲間を探すんです。
 そして、第三回の放送が始まる頃に、この場所で合流したいと思います」

510天国に一番近い島(2/7) ◆5KqBC89beU:2005/08/20(土) 18:46:49 ID:eLGqWuUQ
 曇り空の下、仮面の男が、地図と方位磁石を持って歩いている。
(やれやれ、さすがに疲れた)
 EDは今、H-4の洞窟から外に出て移動している。麗芳と別れた後、彼は地下通路を
通ってここまで来た。E-6が禁止エリアになるよりも早く通過できたのは、彼が必死で
全力疾走してきたからだ。E-7からE-5にかけての部分は、都合良く下り坂だった。
けれど、そこから城の地下までは上り坂だったので、楽ができたとは言い難い。
 汗をかいた分だけ、かなり水を消費したが、これは不可抗力だろう。
 城を探索するつもりは今のところなかった。人が集まる可能性が高く、下手をすると
何人もの参加者が殺し合いをしている最中かもしれない、と推測して、素通りした。
 EDは半島付近を、麗芳は島の東端を、それぞれ探索しながらG-8に行く予定だ。
(探している誰かか、あるいは“霧間凪”に会えるといいが)
 “霧間凪”。名簿に記された、EDが関心をもつ名前。それは、人の名であるという
感覚と共に、とある印象を、見る者に与える言葉でもある。
(“霧間凪”――“霧の中の揺るがぬ大気”。“霧の中のひとつの真実”と、何らかの
 縁がある人物なのかもしれない)
 “霧の中のひとつの真実”とは、界面干渉学で扱われる研究対象の一つだった。
界面干渉学は、一言で表すなら、異世界から紛れ込んでくる漂流物を研究する学問だ。
異世界の書物の中には、“霧の中のひとつの真実”と書かれた物もあって、それらに
EDは興味を持っている。要するに、EDは界面干渉学の研究者でもあるのだ。
 胡散臭くて怪しげな研究分野だが、彼らしいといえば彼らしいのかもしれない。
 異世界で造られた銃器も、界面干渉学の研究対象だ。業界用語ではピストルアームと
呼ばれている。研究の過程で、EDはピストルアームの扱い方をいくらか覚えていた。
 無論、彼の手元に銃器がない現状では、まったく役に立たない技能だが。

511天国に一番近い島(3/7) ◆5KqBC89beU:2005/08/20(土) 18:48:45 ID:eLGqWuUQ
 どこからか雷鳴が聞こえてきた。天を覆う暗雲を見上げ、戦地調停士は思案する。
(この天候が、放送で言っていた『変化』なのか?)
 今までに得た情報から、有り得る、と彼は判断した。もうすぐ雨が降るだろう。
(雨の中、体力を余計に消耗してまで、探索を続行するべきかどうか……)
 考え事をしながらも、彼は警戒を怠らない。熟考した末に、EDは決断した。
(まず櫓の周辺を調べて、雨が降りだした時点で探索は中断しておくか)
 確かに、索敵は済ませておくべきだろうが、それで自滅しては本末転倒だ。
 地図と方位磁石をしまい、EDは崖に身を寄せて立った。崖の陰から顔を出し、
草原の様子をうかがう。奇妙な建築物らしき塊がある。地図に載っていない物体だ。
だが、その近くには、変な小屋などよりも気になる存在が倒れていた。
(動かない……あれは死体のようだな)
 細心の注意を払い、もう一度だけ周囲を見回し、EDは少しだけ死体に接近する。
 心当たりのある髪型や背格好などを確認し、仮面の下の唇から、表情が消えた。
 屍の周囲では、草の一部が焦げている。不自然な痕跡が、戦闘行為を連想させた。
 草原に、他の誰かの姿はない。倒れた犠牲者の荷物もない。風の音しか聞こえない。
 しばし、何も起きない時間が過ぎる。EDは動かない。遺体が動きだすこともない。
 やがてEDは、北東の森へ足を向けた。あえて、もう死体には近寄らない。
 殺人者が戻ってくる可能性があった。死体そのものが罠である可能性もあった。
 こつこつと音をたてて、EDの指が仮面を叩く。
(あの死体が、袁鳳月だったとしたら……)
 麗芳は300年以上の歳月を過ごしてきたそうだが、精神年齢は外見通りだった。
そして彼女は、鳳月との関係を「仲のいい友達よ」とだけ言っていたが……。
(恋仲ではなかったろう。けれど、いずれ、そうなるかもしれない相手だったはず)
 優れた洞察力なくして、戦地調停士は務まらない。些細な手掛かりからでも、EDは
他者の心理を読む。己の味方に襲いかかる絶望の、その重さと大きさを、彼は正確に
理解していた。仮面を叩く指先が、かすかに苛立たしげな雰囲気を滲ませる。

512天国に一番近い島(4/7) ◆5KqBC89beU:2005/08/20(土) 18:49:50 ID:eLGqWuUQ
 森へ入って数分後に、EDは他の参加者と遭遇した。
「……こんにちは」
 EDの挨拶に対し、無邪気な笑顔で会釈するのは、傷だらけの強そうな巨漢だ。
 とりあえず交渉の余地はあるようだし、油断させて襲う作戦の殺人者にも見えない。
というか、こんな外見の参加者が現れたら、普通の人間は絶対に油断できまい。
 それに、表層的な部分だけを見て、安易に悪人だと断定するべきではない。殺人者に
襲われれば、争いたくなくても怪我はするし、返り血を浴びることもあるだろう。
(ここで逃走を選んでも、追われれば、おそらく逃げきれない)
 話し合い以外の対応策を、EDは思考の中から切り捨てた。
「僕の名は、エドワース・シーズワークス・マークウィッスルといいます。EDと
 呼んでください。ちなみに僕は、あなたと敵同士になりたくありません」
 EDの自己紹介を聞き、巨漢は満足げに頷いた。心の底から嬉しそうな仕草だ。
「私はハックルボーン。この島で苦しむ者たちを、一人残らず救いたいと考えている」
 とてつもなく純粋な善意が、言葉と共に放たれた。熱く激しい思いは、万人に届く。
他者の心理を読む技術に長けた者が相手ならば、なおさらだ。そして……。
「……素晴らしい。あなたのような人がいて、僕はとても嬉しく思います」
 思いは正しく伝わらない。
「参加者たちは、複数の異世界から集められているようです。中には、未知なる力の
 使い手もいると思われます。闘争を調停し、人材を集めれば、刻印を解除する方法を
 発見できるかもしれません。協力者が多ければ多いほど、成功率は上がるでしょう。
 刻印さえ無効化できれば、皆が殺し合いをする理由は、ほとんどなくなるはずです」
 ハックルボーン神父の尋常ではない信仰心を、既にEDは察知していた。
 だが、それ故にこそ、彼は見極めそこなった。
 偽善によって身勝手さを正当化したがる人間なら、EDは山ほど見て知っている。
だが、ハックルボーン神父は彼らと違う。本気で皆の幸福を願っている。強者も弱者も
善人も悪人も区別せず片っ端から救っていく、正真正銘の聖人だ。それが彼には判る。
 EDの誤算は、神父の救済手段が殺害だった、という一点に尽きる。
「つまり僕の目的は、殺し合いをやめさせることです。同盟を結成し、殺人者たちに
 対抗できる戦力を手に入れるため、今も、こうして活動しています」
 仮面の男が巨漢に言う。命令ではない。懇願でもない。対等な交渉だ。
「ハックルボーンさん。ぜひとも僕の仲間になってください」

513天国に一番近い島(5/7) ◆5KqBC89beU:2005/08/20(土) 18:50:48 ID:eLGqWuUQ
 遭遇者の申し出に、ハックルボーン神父は黙考する。今すぐ神の下へ送るよりも、
まだEDに地上で頑張ってもらった方が、きっと神は喜ばれる、という結論が出た。
 自らの手で救うまで、参加者たちには生きていてもらわねば困る、というわけだ。
 だが、ハックルボーン神父にとって、神に与えられた使命よりも優先される目的は
宗教的に有り得ない。迷える子羊たちを昇天させるために、EDと別れる必要がある。
「私は行かねばならない。こうして話している間にも、誰かが苦しんでいる」
 神父の返答からは、利己や私欲の気配が感じとれない。だから、EDは自分の判断に
疑問を抱かない。神父の情熱が狂信であると、彼は気づけない。
「行動を共にしてほしい、とは言いません。手分けして探せば、他の参加者たちと
 出会える確率も高くなるでしょう。けれど、今ここで、最低限の情報交換だけでも
 しておきたいと思います。構いませんか?」
「手短に頼む」
「では、まず僕の方から話しますので、メモの用意をお願いします」
「記憶力には自信がある」
「そうですか。では……」
 EDは要点だけを簡潔に述べる。鳳月や緑麗など、探している参加者の話もする。
草原にあった死体が鳳月ではない可能性もあったので、鳳月の特徴も説明した。
「……この四人が、僕の探している参加者です」
 EDの話を聞いて、神父は悲しげにかぶりを振った。そのうちの二人は、さっき
昇天させてきたが、彼らの仲間も、あの二人と同じ場所へ送ってやらねば可哀想だ、
という意味の仕草だ。それを見たEDは、また勘違いをして勝手に納得した。

514天国に一番近い島(6/7) ◆5KqBC89beU:2005/08/20(土) 18:51:52 ID:eLGqWuUQ
 続いて神父が、体験談を語る。時間が惜しいという理由で、大部分が省略された。
 刻印を解除する方法は知らないということ。自分の力が弱められているらしいこと。
デイパックの中から頑丈な武器が出てきたのだが、今はもう持っていないということ。
いかがわしい行為をしようとしていた男女を見つけて、たしなめたら逃げられたこと。
湖のほとりで邪悪な怪物と遭遇したので、全力で神の愛を教え、罪を償わせたこと。
その後で何人かと出会い、少し話をしたこと。城に行き、そこで襲撃されたこと。
幽霊と、幽霊に取り憑かれてしまった少女を、救おうと努力したが見失ったこと。
どうやらオーフェンという極悪人がいるらしいこと。気の短い男たちが争いを始め、
それを仲裁しようとしたら、殴られて気絶させられてしまったこと。目覚めた後は、
今度こそ皆を救済しようと決意し、他の参加者たちを探し歩いているということ。
 大雑把に説明しているため、まるで神父が穏当な人間であるかのように聞こえる。
別に、嘘をついてEDを騙そうとしている、というわけでもないのだが。
 こうして、どうにか平和的に情報交換が終わった。仮面の男が、また口を開く。
「ハックルボーンさん。また後で、僕と会ってくれますか?」
 巨漢は無言で頷いた。参加者全員を効率よく救うための手段を、神父は求めている。
EDの同盟が、無力な参加者たちを一ヶ所に集めるだけだったとしても、問題はない。
少なくとも、自分一人で探し回るよりも、参加者たちを昇天させやすくなる。
「それでは、待ち合わせをしましょう。……第四回の放送が始まる頃に、この場所で
 会う、というのはいかがでしょうか? ここが禁止エリアになった場合はこっちで、
 こっちも駄目な時はこちらで、こちらも無理ならこの辺で会う、ということで」
 地図を指さし、EDが提案する。神父は待ち合わせ場所を暗記し、首肯した。
「可能な限り、その時間までに、その場所へ行こう」
「ありがとうございます。それでは、これでお別れですね」
「無事を祈る」
「お気をつけて」
 こうして、神父とEDは、それぞれ別の方角に向かって歩き始めた。

 雨が島を濡らし始めた頃、EDは森の中で地下遺跡を発見していた。
(ここで雨宿りするか、それとも櫓に行くか)
 どちらにしろ、同じくらい危険だった。故に、EDは消耗の少ない方を選ぶ。
 地下遺跡を調べるために、デイパックの中を覗き、彼は懐中電灯を探した。

515天国に一番近い島(7/7) ◆5KqBC89beU:2005/08/20(土) 18:53:12 ID:eLGqWuUQ
【G-6/地下遺跡の出入口/1日目・14:30頃】
【エドワース・シーズワークス・マークウィッスル(ED)】
[状態]:疲労
[装備]:仮面
[道具]:支給品一式(パン5食分・水1200ml)/手描きの地下地図/飲み薬セット+α
[思考]:同盟の結成(人数が多くなるまでは分散する)/ヒースロゥ・藤花・淑芳・緑麗を探す
    /地下遺跡を調べる/鳳月らしき死体と変な小屋が気になる/麗芳のことが心配
    /ハックルボーンから聞いた情報を分析中/今後どう行動するか思考中
[備考]:「飲み薬セット+α」
    「解熱鎮痛薬」「胃薬」「花粉症の薬(抗ヒスタミン薬)」「睡眠薬」
    「ビタミン剤(マルチビタミン)」「下剤」「下痢止め」「毒薬(青酸K)」以上8つ
[行動]:第三回放送までにG-8の櫓へ移動
※地下遺跡のどこかに、迷宮へ続く大穴が開いています。


【G-5/森の中/1日目・14:30頃】
【ハックルボーン神父】
[状態]:全身に打撲・擦過傷多数、内臓と顔面に聖痕
[装備]:なし
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:万人に神の救い(誰かに殺される前に自分の手で昇天させる)を


【B-7/湖底の地下通路/1日目・11:30】
【李麗芳】
[状態]:健康
[装備]:指輪(大きくして武器にできる)、凪のスタンロッド
[道具]:支給品一式(パン4食分・水1500ml)
[思考]:淑芳・藤花・鳳月・緑麗・ヒースロゥを探す/ゲームからの脱出
[行動]:第二回放送後から単独行動開始/第三回放送までにEDと合流

516 ◆5KqBC89beU:2005/08/26(金) 02:09:05 ID:zKv2G9e2
>>509-515の【天国に一番近い島】は没にします。

517メメント続き◇fg7nWwVgUc:2005/09/02(金) 00:18:09 ID:hNdeEao2
疲弊し、負傷した体が森の中を疾駆する。
彼、ウルペンを突き動かすのはある種の慕情――ひょっとするなら愛とも呼べる類いの――であった。
彼の目前で多くのものが消えていった。
確かだと思うものすら、消えていったのだ。
自分の命すら失い、気付けばこの狂気の島。
もう、何も信じられない。確かなものなど、何もない。
そう感じたからこそ、彼自身もここで命を奪い、奪おうとしている、いや、していた。
だが、先ほどの確かな炎はどうだ!
あの、鮮明で、鮮烈な力の輝きを!!
常に絶対的な力とともにあった獣精霊、ギーアと再びまみえたあの瞬間、彼の中で確かに何かが変わった。
あの精霊ならば、絶対ではないのか?
確かな存在として彼とともにある事ができるのではないか?

しかし…またこうも考える。
自分の思いなど、文字どおり精霊は歯牙にもかけないかもしれない。
深紅の炎を纏ったかぎ爪が己の胴を両断する様を思い描く。
(それもまたいい)
悔いはない。美しい力の前にひれ伏すのなら、それは喜ばしい事ではないか。
実際、彼はミズーに倒された事に関して今も不思議と、憎しみを感じてはいない。
華々しくもなく、互いに疲弊しあった人間同士――そう、彼女は獣ではなかった――の戦い。
それでも彼女の力は美しかった。その時は何故だかわからなかったが。
今ならそれが分かる。
意志の力。
意識を無意識に喰わせた獣の瞬間ではなく、自分で決意し、戦い、選びとって進んでいこうとする力。
(俺にも――あの力が手に入るのだろうか)
姉妹を愛した精霊に、姉妹が愛した精霊に、触れる事ができたなら。
妻を失い、帝都も失った世界を再び愛する事ができるだろうか?

「それ」は動揺していた。「それ」に感情などはないと、「それ」自身も知っていたがそれでも。
「それ」の望みを根本から無為にしかねないイレギュラーが発生したのだ。
イレギュラー、それは排除しなくてはならない。
「それ」は静かに動き出す…

518メメント続き◇fg7nWwVgUc:2005/09/02(金) 00:19:03 ID:hNdeEao2
はた、と意識が現実に戻り、足を止める。
何故か、ここが目的地であると感じたのだ。
禁止区域との境目のほど近く。
視線が自然と境界上の大木の手前、そこの虚空に定まる。
そこにひとひらの炎が見えた。
と、思った瞬間それは一気に増大し、紅蓮の炎を纏った獅子の姿を形成した。
まだ距離は遠いが炎熱が皮膚を焦す錯覚に襲われる。
「獣精霊!」
叫び、彼は一息に駆け寄った。
足を踏み出す毎に気温が上がるのが分かる。
あと数歩。数歩で致命的な熱波の圏内に入る。
その数歩のうちに自分は死ぬだろう。精霊に触れる事もなく。
いや、炎そのものが精霊であるとするなら自分はあの獅子に抱かれて死ぬのかもしれない。
一歩。また一歩。
ふと彼は違和感を覚えた。
あれほどまで激しかった熱気が…消えている?
足を止めて見上げると、獣の深紅の瞳がそこにあった。
そっと右腕をのばす。その時
『若き獅子、そしてあらたな獅子の子よ、お前を認めよう』
脳裏に低く振動するような声。
直感的に、それが目前の精霊のものであると知る。
若き獅子。彼もまた、ある意味あの姉妹を守ってきた。
敵としてなんどとまみえたミズーにたいしてさえ、彼は常にある種の愛情を感じてきたのだ。
獅子の子。今、彼は決意という力を手にしようとしている。
『獅子の子らを守る、それが獅子の務め』
それだけ残して、精霊は鬣を振り上げ、きびすを返した。
のばした右腕には触れさせない。それを許すのは優しさではなく甘さだから。
それを知ってか知らずか、彼は腕をおろした。
精霊が、どこに、何をしにいくのか彼には分かっていた。
獅子の子らを守る。
この狂気を…終わらせる気なのだ。
ゴォオオッ!
と音をたてて精霊の前方の湿った生木が一瞬にして燃え上がる。
まるで戦の前の篝火のようでもある。
訓練された精霊は、戦闘に余計な時間はかけない。
が、それでもこれは精霊の、いや、獅子の意志の現れであった。
力強い後ろ足が大地を蹴る。その一瞬だけで平穏を保っていた地面が赤熱する。
空気が膨張したのか、鐘の音にも似た低音が響き渡る。
それでも炎は彼を焼かない。
その炎はといえば視界の全てを埋め尽くすかのように広がり…
そして消えた。
「…っ!?」
胸の奥が締め付けられるような感情。真実への予感。
光に焼かれた隻眼の視力が回復した時、彼は確かに見た。
儚く舞い散る火の粉の中で、揺れ動く、人を醜悪に模したような奇妙な影。
「アマワァァッァァァアアアアア!」
いったんおろしていた腕を再度振り上げる。
失う事には慣れていた。
しかし、やっと掴んだ、確実なもの、それすら失い感情が崩れ落ちる。
再び甦る想い。
結局は信じるに足るものなど何もなかった!!

影は消える。
火の粉も消える。
だが、一片の火の粉が傷付いた眼の上――妻を見つめ、義妹に奪われた眼の上――
に小さな火傷を遺した。
まるで、消滅する精霊の形見のように。

519メメント続き◇fg7nWwVgUc:2005/09/02(金) 00:19:57 ID:hNdeEao2
【E-7/絶壁/1日目・14:40】
【ウルペン】
[状態]:一度立ち直りかけるが再度暴走。前より酷い。精神的疲労濃し。
[装備]:なし
[道具]:デイバッグ(支給品一式)
[思考]:アマワを倒す。参加者に絶望を
[備考]:第二回の放送を冒頭しか聞いていません。黒幕=アマワを知覚しました。

【E-7/絶壁/1日目・14:30】
【オーフェン】
[状態]:脱水症状。
[装備]:牙の塔の紋章×2
[道具]:給品一式(ペットボトル残り1本、パンが更に減っている)、スィリー
[思考]:宮野達と別れた。クリーオウの捜索。ゲームからの脱出。

『サードを出ようの美姫試験』
【しずく】
[状態]:右腕半壊中。激しい動きをしなければ数時間で自動修復。
    アクティブ・パッシブセンサーの機能低下。 メインフレームに異常は無し。 服が湿ってる。
    オーフェンを心配。
[装備]:エスカリボルグ
[道具]:デイパック一式。
[思考]:火乃香・BBの詮索。かなめを救える人を探す。

【宮野秀策】
[状態]:好調。 オーフェンを心配。
[装備]:エンブリオ
[道具]:デイパック一式。
[思考]:刻印を破る能力者、あるいは素質を持つ者を探し、エンブリオを使用させる。
    美姫に会い、エンブリオを使うに相応しいか見定める。この空間からの脱出。
 
【光明寺茉衣子】
[状態]:好調。 オーフェンを心配。
[装備]:ラジオの兵長。
[道具]:デイパック一式。
[思考]:刻印を破る能力者、あるいは素質を持つ者を探し、エンブリオを使用させる。
    美姫に会い、エンブリオを使うに相応しいか見定める。この空間からの脱出。

(E-7の林の木がなぎ倒されています。 閃光と大きな音がしました)
(E-7の木(湿った生木)が燃えていました。数十秒ですが誰かが見た可能性あり)

520メメント続き◇fg7nWwVgUc:2005/09/02(金) 00:21:40 ID:hNdeEao2
以上です。あと、何故か専ブラウザが壊れてしまって繋がらないので、
誰かよろしければ本スレで試験投下した、とお伝え下さい

521我が家族に手向けよ業火 ◆E1UswHhuQc:2005/09/02(金) 00:57:20 ID:2hhtcUkM
 獣精霊が封じられていた檻は、思念の通り道で紡がれた、ただそれだけの寝台に過ぎなかった。
 照らし染める光も、凍て付いた夜もない、隙間でしかない空虚。確立した自我を持っているのなら、そこは確かに退屈なところだった。
 その一方的な閉鎖に満ちた空間から、全方向に広がる空間へ――つまりは外界へ、獣精霊は解き放たれた。
 獣精霊は思考する。焦りを抑えて思考する。
 水晶檻の中で、なぜか聞こえていた放送。そこで呼ばれた――ミズー・ビアンカの名前。彼女は本当に死んだのだろうか?
 答えはない。
 もとより、誰に対しても発していない問いかけに、答えが返って来るはずはない。そんなことは分かっていた。相手のない問いかけに答えが返って来る道理など、この世界にはない。
 答えを望んでいない問いかけに、答えが返って来ないのと同じ様に。
 獣精霊は疾駆する。素早く迅速に疾駆する。
 何をするにせよ、彼女が本当に死んだのであるか、確かめてからでなければ始まらない。
 周囲にいた者達を――黒が目に映える二人を無視して無抵抗飛行路に飛び込み、彼女の元へと馳せ参じる。
 これは容易なことだった。自分に彼女の居場所が分からないということなど、あろうはずがないのだから。
 そんなことは、あってはならない。彼女の――獅子となった獅子の子の居場所が分からないなど、あってはならない。
 獣精霊はうなりを発する。ほんの小さくうなりを発する。
 彼女は既に獅子となった。なのに――死んだというのか?
 だが、今は考える時間などはない。
 時間は限られている。水晶檻は退屈な空虚ではあるが、硝化の森と同等の環境を約束している。硝化の森の無い此処で、自分はどれだけ存在を示していられるのか。それは誰にも分からない。
 急ぐに越したことはない。
 獣精霊は前進する。迷いを棄てて前進する。
 近付けば近付くだけ、嫌な感覚が増していく。だが停滞には意味がない――事実はこちらが確認しようとしまいと、確実にこちらを蹂躙してくる。既に過ぎ去った事柄であるがゆえに、抗いもできない。それが恐ろしくないわけではない。
 唯一ともいえる対抗手段は、信じることだけ。彼女の生存を信じ、先の放送が虚言であったと信じる。裏切られることになろうと信じるしかない。
 獣精霊は発見する。ほどなく順調に発見する。
 無抵抗飛行路から抜ければ、無数の水滴が降り付けてくる。焦燥感から生まれる熱気が幾らかを蒸発させるが、それは湿り気を助長させるだけだった。
 そして、それを見つける。視界を狭める豪雨の中で、それは人為の直立さをもって建っていた。
 とはいえ。
 なにを見つけたわけでもない。簡単に言えば、それはただの建造物だった。力を少し振るえばそれで消え去ってしまうような、脆弱な木と石の集合体。
 ただしそれは――血の臭いに浸されていた。
 これ以上は進めないと、本能が告げている。進んでしまえば彼女への信頼を奪われることになると、奥底に潜む何かが訴えている。
 だがそれでも。

522我が家族に手向けよ業火 ◆E1UswHhuQc:2005/09/02(金) 00:58:11 ID:2hhtcUkM
 進んだ。爪の一振りで扉を打ち破り、建造物の中へ。彼女の元へと前進する。
 部屋が湿気に満ちているのは、雨が降っている為か。それとも、血が溢れている為か。
 部屋の中には三つの死体があった。
 二つは男。一つは女だがミズー・ビアンカではない。
 若干の安堵を手に入れ、すぐにそれが無意味だと知る。三つの死体の存在は、ここで殺戮が行われたことを示している。
 それに、ミズー・ビアンカが巻き込まれていないと、どうやって証明できる?
 体当たるようにして次の扉を抜け、進んだ。進んだだけ、彼女への信頼が奪われていく。
 そしてすべてをうしなった。
 獣精霊は憤怒する。深く悲しく憤怒する。
 大量の血液を流し、壁に寄りかかって事切れている――ミズー・ビアンカの存在の残滓。
 その近くに二つ、少女の死体が倒れていた。そのうちの一つからは、ミズー・ビアンカの血が付着している。
 奪われてしまった。
 大きく、吼える。降り続ける雨水の叫びをかきけすように、大きく、強く、そして哀しく。
 咆吼と同時に広がった爆炎が、周囲を紅蓮に染め上げた。
 赤が呑み込み、紅が切り裂き、朱が渦を巻く。緋色の焚滅が蹂躙し、赫々とした火葬が覆い尽くす。
 雨滴の侵蝕すらをも駆逐する獣の炎勢の前に、全てが焼き尽くされた。
 弔葬の業火が消し飛ばした廃墟は、もはやなにもかもがない。愚かな信頼も、外れた期待も、無為な激怒も、触れ合う距離も、愛を語る言葉すらも。なにもかもが消え去った空隙に、白い灰が積もっている。
 それだけだ。
 炎が静まれば、灰は水の進撃を阻めない。一つの水滴が熱を奪い、二つの水滴が乾きを奪い、三つの水滴が灰であることを奪った。貪欲な激流と交じり合った灰は泥となり、地表と共に何処とも知らぬ処へと流れ去っていく。
 わずかにだけ残っていたすべてが、雨の中に潰えていった。豪雨の中で大きく風が吹き、無数の水滴が舞い散る。
 なにもかもがどうでもよく、一瞥もせずに歩き出した。目的がないのなら、無抵抗飛行路に入る意味はない。雨の中を、噛み締めるように歩いていく。
 ぬかるんだ土を踏みしめ、ただ悔いる。なぜ彼女を死なせてしまったのか。
 降り付ける雨を無視して、ただ怒る。なぜ彼女は死んでしまったのか。

523我が家族に手向けよ業火 ◆E1UswHhuQc:2005/09/02(金) 01:00:52 ID:2hhtcUkM
 後悔。憤怒。それらがない交ぜになれば、哀しみと大差はない。
 どうすればいいのだろう。これから。
 怒りに任せて、この島を焼き尽くすか。獣の業火ですべてを蹂躙し、彼女への手向けとするか。
 そんなことを彼女は望んでいない――それは分かっている。既に居ないのだから当然ではあるが。居たとしても、望むはずがないだろう。
 ふと、空を見上げた。黒の雨雲で覆われた曇天を。
 雨が容赦なく降り注いでいる。陽は雲に隠れ、灰色の闇がそこに横たわっている。
 無数の水滴による雨音は他の音の存在を覆い隠し、隙間なく降り行く水滴は視界を無数の線で埋め尽くす。むせ返るような水の臭いは血の臭いすらも洗い流し、降り付ける水滴の連続が毛皮を濡らす。舌に来る刺激は金属にも似た雨の味。
 そうして。
 獣精霊は決意する。その意味を考えながら、決意する。
 何をするのか。そんなことは最初から決まっていた。
『獅子は――』
 豪雨の中、無尽の雨音を吼声が引き裂き、声が響く。
『獅子の子を守る』
 決意が生まれれば、力が生じる。
 鋭利に研ぎ澄まされた感覚が、『それ』の居場所を探り当てる。同時に、若き新たな獅子の存在も。
 行く。
 戦火を身に纏い、獣精霊は前に進んだ。

【D-1/公民館/1日目・14:55頃】
※公民館が焼失しました。落ちていた物品もほぼ全て焼失しました。

524ホワイト・アウト(白い悪夢)(1/5) ◆5KqBC89beU:2005/09/07(水) 21:47:59 ID:rxWyBrZc
 そこは霧に満たされていた。視界は白く閉ざされて、どこを見ても変わらない。
(これは、夢)
 自分が眠っていることを、淑芳は知覚する。自覚したまま、夢を見続ける。
 数時間の睡眠でようやく回復した体調。慣れぬ術で異世界の宝具を使った影響。
制限された状態で全力の一撃を放った反動。目の前で想い人を殺された動揺。
 記憶が蘇っていく。これまでの出来事を、娘は思い出していく。
(あの後、わたしは気を失って……)
 ここには他者の姿がない。銀の瞳を持つ彼女だけが、霧の中に立っている。
 だが、それでも淑芳は言葉を紡ぐ。聞くものがいると、彼女は気づいている。
「あなたは、何です? 勝手に夢の中へ入ってくるだなんて、無粋ですわよ」
 答える声は、霧の彼方から届けられた。
「わたしは御遣いだ。これは、御遣いの言葉だ」
 どこからか響く断言。年齢も性別も判然とせず、不自然なほどに特徴のない声。
 淑芳は、既に身構えている。不吉な予感が、油断するなと彼女に告げていた。
「御遣い……? 御遣いとは、何ですの?」
「御遣いのことを問うても意味はない。わたしの奥にいる、わたしの言葉の奥にある
 ものこそが本質だ」
「意味が判りませんわ。判るように話す気は、最初からないんでしょうけれど」
 霧の向こうから、声が発せられる。まるで、霧そのものが喋っているかのように。
「わたしは君に、ひとつだけ質問を許す。その問いで、わたしを理解しろ」
 袖の中を探る手が、一枚の呪符にも触れないことを確認し、淑芳は顔をしかめた。
「ひょっとして、わたしたちを殺し合わせようとしているのは、あなたですの?」
「その通りだ、李淑芳」
 一瞬の躊躇もなく、即答が返ってきた。

525ホワイト・アウト(白い悪夢)(2/5) ◆5KqBC89beU:2005/09/07(水) 21:48:59 ID:rxWyBrZc
 真っ白な世界に少女が一人。見えざるものとの対峙は続く。
「……さて、主催者側の親玉が、わたしに何の用でしょう? わざわざ現れたのは、
 挨拶がしたかったからじゃありませんわよね?」
 余裕綽々を気取る口調だ。彼女は必死に虚勢を張っている。
「愛こそが心の存在する証だと、人は言う……わたしは、愛の力を試すことにした。
 参加者の中から、容易く恋に落ちそうな娘を選び、密かに実験を始めた」
 聞こえるのは、昨日の天気でも説明しているかのような、何の感慨もない声。
「…………」
 淑芳の両手が、固く握りしめられて、小刻みに震えだした。
 声は決して大きくなく、けれど、はっきりと耳に流れ込んでくる。
「様々な偶然を操って、君を守り、導いた。強く優しく勇気ある青年を、君の窮地に
 立ち会わせ、助けさせるよう仕向けた。知人の死を哀しむ君は、彼の保護欲を充分に
 刺激したはずだ。誘惑の好機は幾度もあっただろう。邪魔者たちは遠ざけておいた。
 お互いの魅力をお互いに実感させるため、長所を活かせるような状況を作りもした」
「何故……どうして、そんなことを……?」
 愕然とする娘に向かって、ただ淡々と宣告が続けられる。
「愛は奪えないものなのか……それを確かめるために、わたしは愛を用意した」
 淑芳の苦悩を無視して、声は無慈悲に連なっていく。
「もしも愛が奪えないものなら、それはつまり、心の実在が証明されたということだ。
 しかし君は、愛した相手を守ることができなかった。わたしに奪われてしまった」
 侮辱の言葉が、とうとう彼女の逆鱗に触れた。銀の瞳が、虚空を睨みつける。
「いいえ! わたしが憶えている限り、カイルロッド様はわたしと共にあり続ける!
 あなたは何も奪えてなどいない!」
 涙をこぼして激昂する娘を、声は冷ややかに嘲った。
「それは都合の良い錯覚というものだ、李淑芳」

526ホワイト・アウト(白い悪夢)(3/5) ◆5KqBC89beU:2005/09/07(水) 21:49:58 ID:rxWyBrZc
 しばしの間、一切の音が消える。長いようで短い沈黙を、先に破ったのは淑芳だ。
「……平行線ですわね。あなたは、わたしの言葉を信じないのですから」
「錯覚にすがって生きていくというのなら、君の解答に価値はない」
「あなたを満足させるため、この想いを捨てろとでも? 冗談じゃありませんわよ」
「思考の停止は、答える意志の喪失だ。それでは、契約者となる資格がない」
 声が遠ざかっていく。同時に霧が濃度を増す。夢が終わろうとしている。
「李淑芳。君に未来を約束しよう。約束された未来は、既に起こったことなのだ。
 必ず起こる未来ならば、それは過去と同じだ……君は仲間を失っていく……
 もうすぐ、また君は味方を失う……」
 白く塗り潰された夢の中で、淑芳は何かを叫ぼうとして――。

 ――彼女が目を開くと、そこには白い毛皮の塊があった。
「目が覚めましたか」
 よく見ると、毛皮の塊には、笑っているような顔が付属している。犬の顔面だ。
陸が、淑芳の顔を覗き込んでいたのだ。安堵しているのか、単にそういう顔なのか、
いまいちよく判らない。別に、どうだっていいことだが。
「わたしは……」
 ようやく淑芳は、自分が床に寝ていると気づいた。ゆっくり上半身を起こそうと
するが、陸の前足に額を踏まれ、床に押さえつけられる。
「まだ横になっていた方がいいと思いますよ。いきなり倒れて頭を打ったんですから」
 陸の前足を払いのけ、額についた足跡を拭いながら、彼女は言った。
「話したいことがありますの」

527ホワイト・アウト(白い悪夢)(4/5) ◆5KqBC89beU:2005/09/07(水) 21:51:15 ID:rxWyBrZc
 淑芳が語った夢の話を聞き終え、陸は溜息をついた。
「夢の中への干渉ですか。それが事実だとすれば、もう何でもありですね」
「普通の単なる夢だったかも、と言いたいところですけれど、そうは思えませんわ」
 困惑している犬を見もせずに、淑芳は言う。玻璃壇を俯瞰しつつ話しているのだ。
 どこが禁止エリアになるのか判らないため、彼女たちは迂闊に動けなくなっている。
とりあえず13:00寸前まで現在地で待機して、玻璃壇で人の流れを把握してから、
安全そうな場所まで移動する予定だ。ちなみに、カイルロッドを殺した青年は、ここに
戻ってくる様子がない。彼もまた禁止エリアの位置など聞いていなかったはずなので、
何も考えずに彼を追えば、禁止エリアに突入してしまう可能性があった。
「主催者が本当に偶然を操れるとすれば、どうやったって倒せない気がしますよ」
「支給品である犬畜生には、呪いの刻印がないんですから、禁止エリアに逃げ込んで
 隠れていたらどうです? きっと、最後まで生き延びられますわよ」
「あなたらしくありませんね。……『君は仲間を失っていく』、でしたっけ? そんな
 馬鹿げた予言を気にしているんですか」
 視線を合わせないまま、一人と一匹の対話は続く。
「あなたのそういう無駄に小賢しいところ、大っ嫌いですわ」
「そもそも私はカイルロッドの同行者だったんです。あなたの仲間じゃありません。
 こうして隣にいるのは、あなたが心配だから――なんて誤解はしないでください」
 要するにそれは、傍らにいても失われない、と保証する発言だ。
 まったく可愛くない犬ですわね、と淑芳は思った。
「……そんなこと、最初から判ってましたわよ」
「では、そろそろ移動先を検討しておきましょう」

528ホワイト・アウト(白い悪夢)(5/5) ◆5KqBC89beU:2005/09/07(水) 21:53:19 ID:rxWyBrZc
「F-1から南へ向かっている参加者たちがいますわ。おそらく神社で休憩するつもり
 なのでしょう。F-1・G-1・H-1は、しばらく禁止エリア化しないと考えられます。
 どうにかして情報を集めないといけないんですけれど、神社に向かった人たちは、
 殺人者の集団だったりするかもしれません。安易にこの人たちと接触するわけにも
 いきませんわね。でも、利用できる出入口は、神社にしかありませんから……」
「とにかく神社まで行って様子を見るしかない、ってことですか。そうと決まれば
 早く出発しましょう。……何をぐずぐずしているんですか」
「玻璃壇を停止させようとしてるんですけれど、操作を受け付けないみたいで……」
「やれやれ。どうやら、そのまま放置していくしかないみたいですね」
 玻璃壇の前を離れ、淑芳は、カイルロッドの遺体へ黙祷を捧げた。
 彼女の横で、陸は目を閉じ、カイルロッドの冥福を祈った。
 カイルロッドの死に顔は、眠っているかのように穏やかだ。
 短い別れを済ませ、一人と一匹は、格納庫の外へと歩きだす。
 振り返りは、しなかった。


【G-1/地下通路/1日目・13:00頃】

【李淑芳】
[状態]:頭が痛い/服がカイルロッドの血に染まっている
[装備]:呪符×19
[道具]:支給品一式(パン9食分・水2000ml)/陸
[思考]:麗芳たちを探す/ゲームからの脱出/カイルロッド様……LOVE
    /神社周辺にいる参加者たちの様子を探る/情報を手に入れたい
    /夢の中で聞いた『君は仲間を失っていく』という言葉を気にしている
[備考]:第二回の放送を全て聞き逃しています。『神の叡智』を得ています。
    夢の中で黒幕と会話しましたが、契約者になってはいません。
    カイルロッドのデイパックから、パンと水を回収済みです。

※カイルロッドの死体と支給品一式(パンなし・水なし)が、格納庫に残されました。
※玻璃壇は稼働し続けています。

529使徒の消滅(1/2) ◆5KqBC89beU:2005/09/09(金) 14:54:15 ID:rxWyBrZc
 薄暗い部屋の中で、古惚けた家具に囲まれて、美貌の男が眠っていた。
 真の名品にしか醸し出せない独特の空気が、男を優しく包み込んでいる。
 彼の傍らには包帯の巻かれた椅子があった。一度は無惨に砕かれたが、尊い犠牲と
適切な処置によって、その芸術品は華麗に蘇ったのだ。
 彼の愛娘は、まるで彼の着席を待ちわびるかのように佇んでいる。
 室内の光景を、もしも絵画に例えるとしたら、題名は「楽園」だろうか。
 静かな場所だ。聞こえる音は、まどろむ美丈夫の微かな寝息のみである。

 何の前触れもなく、壁に掛けられた鏡の中に“それ”が出現した。

 ドラッケン族の剣舞士は、奇妙な気配を感じると同時に一瞬で覚醒してみせた。
意識が状況を把握するよりも早く、右手の五指が剣を掴み、刃の残像を虚空に刻む。
起きあがりながら剣を構え、床を蹴った直後には“それ”の眼前に到達していた。

 びしり。

 刺突が“それ”の眉間を垂直に貫き、蜘蛛の巣に似た形の傷を全身に生じさせた。
 何が起きたのか理解できない、といった顔で、“それ”が鮮血を吐く。
「……ひどい」
 少女の姿をした“それ”は、罅割れた鏡面から戦士を見つめている。
 異界の彼方へと逃げる暇も無く、“それ”は魂砕きに抉られている。
 茫洋とした表情の上にも、血涙に濡れた目の上にも、大きな亀裂が走っていた。
 全身の傷口から血が滲み出し、鏡面を流れ落ちて、赤黒い血溜まりを床に広げる。
 魂砕きの刃に精神を蹂躙され、自身を人の形に留めていた“魔女の血”をも失い、
“それ”は存在を維持できなくなっていった。
 美しい顔を不満そうにしかめて、男が口を開く。
「何だ貴様は? 〈異貌のものども〉の亜種か? 〈禍つ式〉にしては脆弱すぎるが」
 そこまで言って、彼は思考を放棄した。無力な怪物などに、彼は興味を持たない。
「とにかく目障りだ。消え失せろ」
 “それ”を全否定する美声と共に、剣が90度ほど捻られる。
 澄んだ音を響かせて、鏡が砕け散った。

530使徒の消滅(2/2) ◆5KqBC89beU:2005/09/09(金) 15:04:09 ID:rxWyBrZc
 完全に、完璧に、完膚なきまでに破壊され、“それ”は跡形もなく消滅した。


【G-4/城の中/1日目・??:??】

【ギギナ】
[状態]:健康/空腹
[装備]:魂砕き
[道具]:支給品一式、ワニの杖、ヒルルカと翼獅子四方脚座の合体した椅子(今のところ名称不明)
[思考]:食料を探す

※魔女の使徒ティファナが消滅しました。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
すぐに消滅させれば使徒話を通せないかなーと思い、書いてはみたものの
微妙だったので封印してた話です。こんなのでもいいなら提供しますけど、
正直、もっと上手く使徒を消滅させてくれる人を待ってます。

531忘れられた少女の物語(1/4) ◆eUaeu3dols:2005/09/18(日) 19:53:02 ID:vt5D4D06
あなたは彼女を覚えてる?
忘れているなら、思いだしてあげて。
忘れられるのはとてもとても哀しい事だから。
だから、みんなに思いだしてもらうの。
私が殺した少女の事を。

        落ちる先は湖。
         湖には水面。
           水面は鏡。
            鏡は扉。
  扉の向こうに誰が居る?
  扉の向こうに何が在る?

彼女は闇夜で殺された。
彼女は海辺で殺された。
彼女はメスで殺された。

夜は異界が近づく時間。
闇夜に異界が隠れてる。
海は神様が住まう場所。
海に呑まれたお供え物。
メスの用途はなおす事。
裂かれた人の病を癒す。

そして誰か、覚えているか。
殺された少女の名前を覚えているか。

魔女は言う。
「あの子の魂のカタチは『陸往く船のお姫さま』。
 王子様に誘われて陸を進むようになっても、船を降りたわけじゃない。
だって、“彼女こそが船だから”」
――そして船は、海と陸とを橋渡す。

532忘れられた少女の物語(2/4) ◆eUaeu3dols:2005/09/18(日) 19:53:56 ID:vt5D4D06
「あなたが魔女になれなかったのは残念だよ」
其処は異界。
水面の鏡面から飛び込んだ、鏡の異界の何時かの何処か。
澱んだ水の臭いと、耳が痛くなるほどの静寂に包まれた世界。
「カタチを与えてあげる事さえ遅くなって、本当にごめんね」
ピチャピチャと湿った音がする。
魔女の手首から滴る一筋の紅い血を、白い少女が舐めている。
「ふふ……しばらくはそれで保つかなぁ」
魔女は血を水面に滴り落とした。
水面は鏡。鏡は門戸。血は鏡の世界に滴り落ちた。
門戸は鏡。鏡は水面。血は水面から海へと流れ……
海に呑まれた『陸往く船のお姫さま』へと贈られた。
魔女の生き血はヨモツヘグリ。
なりそこなった哀れな子に、仮の体を与えてあげる。
そうして魔女の使徒が一人生まれた。
――いや、生まれようとしていた。
「…………」
ピチャピチャと音が響き続ける。
白い少女は魔女の手首から血を舐め続け……突然、びくんと痙攣した。
「…………あれ?」
魔女が僅かに怪訝な表情を浮かべ……次に目をまん丸にして驚き、それを理解した。
そして、悲しげに目を細めた。
深い慈悲と哀れみをその瞳に湛え、白い少女を悲しげに、ほんとうに悲しげに見つめる。

「この島では、可哀想なあなた達に仮初めのカタチを与えてあげる事もできないんだね」

魔女の血を飲み、仮初めのカタチを手にいれたはずの白い少女の輪郭が、儚いまでに揺らぎだす。
今さっきまでの様に、その姿が白い塊に還ろうとしている。
魔女の使徒は水子だった。
生まれることさえ出来ないままに、その姿が崩れゆく。

533忘れられた少女の物語(3/4) ◆eUaeu3dols:2005/09/18(日) 19:55:19 ID:vt5D4D06
「あなたのカタチは崩れちゃうね」
「…………」
白い少女は揺らぎながら、微かに笑みを浮かべていた。
それは魔女の使徒の笑み。
必死に与えられたカタチに縋り、生き延びようとするように。
その笑みは少女が本来浮かべられる物ではないけれど、
在り続けようとするこの足掻く意志は、きっと少女の物だろう。
与えられた居場所を離すまいとするこの想いは、きっと少女の物だろう。
「無理だよ。ここでは、無理」
少女の体の揺らぎはどんどん激しくなって……
気づけば彼女の背丈は小柄な詠子の胸ほどになっていた。
足は、膝は、既に白い肉塊へと変貌していた。

「髪をもらうよ」
魔女は魔女の短剣を手に握り、少女の短い髪を、一房だけ切り取った。
「ごめんね。今のわたしに、あなたが帰る場所は作れない」
「…………」
少女の無言は変わらない。いや。
「……イヤ」
白い少女の唇から言葉が漏れだした。
「イヤ! おいていかないで!」
魔女の使徒にもなりそこなった、だから残った、少女の想い。
人になろうにも死んでいて、死者になろうにも在り続けて、
なりそこないとしても不完全で心が残り、魔女の使徒になるにも世界がそれを赦さない。
何処にも居場所が無い少女。忘れ去られた白い少女。
「忘れないで! おいていかないで!」

534忘れられた少女の物語(4/4) ◆eUaeu3dols:2005/09/18(日) 20:10:08 ID:vt5D4D06
「大丈夫だよ」
魔女の言葉は甘く、安らぎに満ちていた。
「あなたはまた死者に戻るけど。覚えている人は居ないけど」
魔女は囁く。
「きっとあなたの居場所を作ってあげる。
あなたのカタチを作って上げる。
 あなたを呼び戻してあげる。
だから心配はいらないよ」

そして、白い少女は今度こそ白い肉塊に成り果てた。
せきそこないは異界に消えて、それは最早死者と等しい。
この世界にいる限り、死者の法は超えられない。

「それにしても、残念だねぇ」
魔女は誰にともなく呟いた。
――“船”を失った魔女の体は、湖の岸に流れつく。
「あなたが力を貸してくれれば、この世界でもあの子を魔女の使徒に出来たのに」
異界はいつしか闇に呑まれ、魔女の心は闇の中で呟いた。
――船を失った魔女の体は、傷付き凍え、弱っていた。
「でもそれがあなたのルールなら、仕方ないことだけど」
返事は何処からも返らない。魔女は一人呟いた。
――魔女の体は吸血鬼達の助力によって、幸運にも救われる。
「ねえ、神野さん」
そこは闇の中。そこは闇の底。そこは闇の奥。そこは闇の淵。そこは――

【D-7/湖/1日目 16:00】
【十叶詠子】
[状態]:夢の中、体温の低下、体調不良、感染症の疑いあり
[装備]:『物語』を記した幾枚かの紙片 (びしょぬれ)
[道具]:デイパック(泥と汚水にまみれた支給品一式、食料は飲食不能、魔女の短剣、白い髪一房)
[思考]:夢の中
[備考]:ティファナの白い髪は、基本的にロワ内で特殊な効果を発揮する事は有りません。

535濃霧は黙して多くを語らず 1 ◆CDh8kojB1Q:2005/09/21(水) 20:41:28 ID:fmBZ14cE
「ロシナンテ! フリウ! 何処にいるの?」
 商店街の一角を高里要はふらふらと歩いていた。
(途中まではフリウと手を繋いでたのに……)
 謎の襲撃者から逃れる為、民家から飛び出したのは良かったが、辺りは濃い霧に覆われていて
 3メートル先も見通せない。要達は夢中で走っているうちに散りじりになってしまった。
 今現在、この街には要独り。
 手探りで進む為に、手で触れている商店の壁面はどこまでも冷たい。
 要の脳裏に、開始直後の自分以外誰もいなかった倉庫が浮かんだ。

 ――真っ暗な目の前。
 ――永遠のような孤独。
 ――死への恐怖。

 扉を開いて入ってきたアイザックとミリアにどれだけ元気付けられた事か。
 やたらと強気な潤さんにどれだけ安心させられた事か。
 しかし、三人は約束した時間には帰って来なかった。
 フリウに対して「潤さんは大丈夫だ!」などと言い切ったが、
 彼らとはもう再開出来ない事は理解していた。
 フリウもロシナンテも恐らく分かっているだろう。彼らの身に一体何が起こったのかを。

 ――分かっていても、認めたくない。
 ――あの泥棒二人が、人類最強が、死んだなんて認めたくない。

536濃霧は黙して多くを語らず 2 ◆CDh8kojB1Q:2005/09/21(水) 20:42:41 ID:fmBZ14cE
 気付くと、要は以前訪れた八百屋の近くに来ていた。
 確かここでは、人参スティックを食べたはずだ。
 その後、奥の民家で救急箱を探そうとした時に、二人は「わぁびっくり」のジェスチャーを見せ、
『さすが知能犯のイエロー!』
『イエローロジカルだね!』
『キイロジカルだな!』
『いいから早く探しましょうよ……』
 果てし無くハイな二人の事を思い出すと、少しだけ頬が緩んだ。
(参加者全員を誘拐して、ゲームを終わらすんじゃなかったんですか……?)
 このまましんみりするのはいやだったので、そのまま記憶を遡ってみた。
 
 火を放つ少年と老紳士の決闘。
 鍵を開けるのに便利なグッズを見て喜ぶ泥棒二人。
 放送を聞き、片手で顔を覆う潤さん。
 そして――、
『別れがあれば出会いあり!』
『私たちだっていっぱい別れて悲しかったけど、それ以上にいっぱい出会った嬉しさの方がおっきいもん!』
 天上抜けに明るいカップルの励まし。
(……アイザックさん、ミリアさん、貴方達二人と一緒で本当に良かった)
 
 回想を終えた要は頬を叩いて気合を入れ、
「……頑張ろう」
 勢い良く持ち上げた顔の動きにあわせて長い黒髪が踊る。
 霧で濡れて顔にかかった髪をのけ、湿った空気を吸って、大きく吐き出した。
「ロシナンテ! フリウ! ぼくはここだよ!」

537濃霧は黙して多くを語らず 3 ◆CDh8kojB1Q:2005/09/21(水) 20:43:26 ID:fmBZ14cE
 同時刻。
 殺戮を誓った暗殺者・パイフウは、無人の肉屋の店先でその声を聞いた。

「ロシ……テ! …リウ! ぼ……こ…だ…!」
 仲間を探して彷徨っていると思われる、少年らしき者の声。
 音量と直感からおおよその位置を割り出して、まだ音源との距離が有る事を確認する。
 開いた名簿に“ロシ……テ”なる人物は存在しなかったが、
 “…リウ”は恐らくNo13,フリウ・ハリスコーの事だろう。
 相手は最低でも三人。自分に暗殺技能が有るとはいえ、全員を仕留めるのは容易ではない。
 以前出会った魔女の少女とスーツの少年の事が思い出される。
 昼間と同じ轍を踏むのは危険。故に合流される前に片付けた方が好都合と判断する。
 ならば先手必勝だ。相手の明確な位置が判明し次第、攻撃しなければならない。

 パイフウは名簿をしまい、周囲を確認した。
 向かって右に、抱き合って死んでいる赤い女と筋肉質の男。
 肉屋の中には、首がちぎれた二人の男女。
 他者が存在した形跡は無いので、四人は互いに争って全滅したのだろう。
 彼らの支給品は自分の足元に転がっている。先程まで自分はその中身を探っていたからだ。
 そして、
「ほのちゃんのカタナ……」
 パイフウは、首を失った女の手から一振りのカタナを取り上げた。
 血糊が刀身の半分近くまでこびり付いているために、
 切れ味は随分と落ちてしまっているだろう。
 しかし、身になじんだカタナが有るのと無のとでは火乃香の実力に大きな差が出る。
 幸い刀身自体は傷ついてはいない。
 火乃香と出会った時に手渡すために、それを自分のデイパックに突き刺しておいた。

538濃霧は黙して多くを語らず 4 ◆CDh8kojB1Q:2005/09/21(水) 20:44:18 ID:fmBZ14cE
 その時、
「ロシナンテ! フリウ!」
 再び少年の声が聞こえた。
 音源との距離はおそらく30メートル前後。位置は肉屋を挟んだ向こうの通り。
(……霧が濃くて銃撃は不可能。一撃で仕留められる距離まで接近するしかないわね)
 幸い濃霧で相手も視覚は死んでいるはずだ。音さえ消せば背後を取れる。
 しかし、パイフウが向こうの通りへ移動しようと、肉屋の横の路地へと歩を進めた瞬間に、
「要しゃんの声がしたデシ!」
「要! あたしはこっちだよ!」
 少年がいる反対方向から返事が返ってきた。
 恐らく少年の仲間だろうとパイフウは察する。
(歩行音は聞こえない……まだ距離が有るわ。今ならまだ姿を見られずに殺れる)
 仲間が来ようとも全く障害は無い。
 このまま濃霧に乗じて少年を襲撃し、その死体を隠して待ち伏せするだけだ。
 だが次の一声を聞き、その打算は崩れることとなる。
「何だか血の臭いがプンプンするデシ。大丈夫デシか、要しゃん?」
(この距離で気付かれた?)
 かなりの嗅覚だ。相手は亜人種か強化人間の類かもしれない。
 これでは姿は見られないまでも、臭いで正体がバレる可能性が高い。
 万が一逃亡されると、今後の奇襲に支障をきたす。
 そう判断したパイフウは計画を取り止め、一時機会を待つ事にした。

「ぼくは無事だよロシナンテ。……たぶん血の臭いは八百屋の近くのお爺さんの物だと思う。
あの人が死ぬところをアイザックさん達と見たんだ」
「そうデシか。とにかく要しゃんが無事でよかったデシ」
「途中まであたしの横を走ってたのに。どこに行ってたの?」
 合流した少年達はパイフウの存在に気付かなかった。
 運良く自分の周囲の死体の臭いと遠くにある死体の臭いとを勘違いしたようだ。
 しばらく談笑した後に、
「あたしはやっぱり移動したほうが良いと思う」
「潤さん達が待っててくれてるかもしれないしね……」
「……一番近いのは学校デシ」

 行動指標を定めた三人は、最後までパイフウに気付かぬまま行ってしまった。
 しかも彼らの会話は筒抜けであり、パイフウは三人の内で最も場慣れしているのは、
 フリウ・ハリスコーなる少女だと推測した。
 更に嗅覚の優れているロシナンテ(フリウはチャッピーと呼んだ)は会話から
 しゃべれる犬だという事も判明した。
 風下から霧に紛れて接近すれば一撃離脱戦法での各個撃破は可能だろう。
 だが、問題が無いわけではなかった。
(学校で“潤さん”が待ってるって言ってたわね……)
 学校まで直線距離にして数百メートルしかない。
 短時間で三人。気付かれること無く無力化するのはかなりハードだ。
「……」
 パイフウは無言でデイパックを肩にかけると、霧に溶け込むかのように走り去った。
 肉屋には、物言わぬ死体が残された。

539濃霧は黙して多くを語らず 5 ◆CDh8kojB1Q:2005/09/21(水) 20:45:07 ID:fmBZ14cE
【C-3/商店街/1日目・18:00】

『フラジャイル・チルドレン』
【フリウ・ハリスコー(013)】
[状態]: 健康
[装備]: 水晶眼(ウルトプライド)。眼帯なし 包帯
[道具]: 支給品(パン5食分:水1500mm・缶詰などの食糧)
[思考]: 潤さんは……。周囲の警戒。
[備考]: ウルトプライドの力が制限されていることをまだ知覚していません。


【高里要(097)】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品(パン5食分:水1500mm・缶詰などの食糧)
[思考]:二人が無事で良かった。 とりあえず人の居そうな学校あたりへ
[備考]:上半身肌着です


【トレイトン・サブラァニア・ファンデュ(シロちゃん)(052)】
[状態]:前足に浅い傷(処置済み)貧血 子犬形態
[装備]:黄色い帽子
[道具]:無し(デイパックは破棄)
[思考]:三人ともきっと無事デシ。そう信じるデシ。
[備考]:回復までは半日程度の休憩が必要です。



【パイフウ】
[状態]:左鎖骨骨折(ほぼ回復・休憩しながら処置)
[装備]:ウェポン・システム(スコープは付いていない) 、メス 、外套(ウィザーズ・ブレイン)
火乃香のカタナ(ザ・サード)
[道具]:デイパック(支給品一式・パン12食分・水4000ml)
[思考]:1.主催側の犬として殺戮を 2.火乃香を捜す
    3.フラジャイル・チルドレンの暗殺
[備考]:外套の偏光迷彩は起動時間十分、再起動までに十分必要。
    さらに高速で運動したり、水や塵をかぶると迷彩に歪みが出来ます。


[備考]:肉屋の周囲にアイザック・ディアン、ミリア・ハーヴェント、ハックルボーン、
    哀川潤の死体と支給品(火乃香のカタナを抜かした)が転がっています。

540懲りない彼女修正案  ◆MXjjRBLcoQ:2005/09/24(土) 22:29:16 ID:pBSSTsig
少し遅くなって申しわけないです。
懲りない彼女後半(港町のくだりから)の修正案を出します。ご指摘待っています。

 さて、場面移してここは港町である。
 ドッグからも中心街からも比較的離れた南部の住宅街、ここにもやはり人影は見えない。
 建売の住宅が疎らに並び、木造漆喰の平屋と融合している様は、実に懐かしき田舎島の情景といえる。
 だだ家々に明かりは灯らず、犬猫だけが町を闊歩する様は、耳を澄ませば終末の気配が聞こえてきそうだ。
 そんな町の一角で、煌煌と照らす蛍光灯の元、再生機から教育シリーズ日本の歴史DVD第一巻を第二巻へと
差し替える影があった。
 誰かは語るべくもない。
 ドイツはグローワース島が領主ゲルハルト=フォン=バルシュタイン子爵である。
 西へと赴くEDと別れた後、彼は手分けをする意味だろうか、先ほどの港町に舞い戻ってきたのであった。
 収穫は無かった。光不足を考えれば骨折り損とも言える。
 すでに赤銅髪の青年は去っていた。港の南部は死体ばかりが目立った。
 14:30を過ぎ、雨は銀河をひっくり返したように降り注いだ。
 黒い空に、光は一篇たりとも望めなかった。
 そこに至って彼はそれ以上の行動を全て放棄した。すなわち雨宿りである。
 幸いにも住宅は生きていて、電気も水道も、電波やガスさえその営みを止めていない。
 コンロはひねれば紅茶が沸かせた、リモコンを押せば心地よい音楽が流れる。
 ゲルハルト城には及ばないながらも、島のなかでは群を抜く快適空間であった。
 ディスクの入れ替えはほどなく終わった。子爵の念力がスイッチをたたく。
 がしょん、と音を立ててDVDが飲み込まれた。そして、
 がしょん、と音を立てて、わずかに遠くで雨戸が閉まった。
 子爵はあわてた風もなく、付けたばかりのDVDとテレビを止めた。
 照明を落とせば、雨戸の閉められた隣家から、わずかに光が漏れていた。
 明かりをつけた住宅は誘蛾灯、つまりはそういうことであったのだ。
 荷物を放置し、子爵はおもむろに窓を開けた。
 無風であった。
 彼ははしばしその場に立ち竦んだ。
 この豪雨の中に隠れ潜む、邪悪と静寂を感じているのだろう。
 不吉の気配、とでも言うものが、虚空に深く根付いている。
 空はいよいよ重く、あるいはこの雨は、それらを押し流そうといているようにも見える。

541懲りない彼女修正案  ◆MXjjRBLcoQ:2005/09/24(土) 22:31:04 ID:pBSSTsig
 さて、隣家は比較的大きなもので、軒下には宿の文字があった。
 窓は多くが規則正しく並んでおり、影がそれらを順にめぐっている。部屋を検めているのであろう。
 子爵は玄関を避け、裏口から三和土へと回り込んだ。裏には給湯器が起動しているのか、かすかに熱気が漂っていた。
 三和土はよくよく使い込まれており、かすかに煤と魚の臭いが残っている。
 そこを上った先は八畳間となっていた。おそらくはダイニングとして使われていたのであろう。
 背の低いテーブルが中央に鎮座し、そしてその上に少女が一人。
 見知らぬ少女であった、意識はなく、しかしその幼い顔に笑みは絶えない。
 ふむ、と小さく血文字が浮かび上がった。小波のように揺れるそれには、逡巡の色が濃く映る。
 子爵の知覚は魂を見る。少女の深淵を覗き見たのかもしれない。
 いまださざめく子爵は、その手をそっと少女に伸ばし、足音を捕らえて三和土へとさがった。
 あたりを見渡すように蠢いて、竈の中に隠れこむ。
 乱入者は女であった。
 ふむ、とふたたび文字が浮かぶ。
 女は子爵の見知らぬ、しかし心当たりのある者だった。
 ロザリオをした長身の女。吸血鬼。子爵の聞いた特徴に符合する。
 と、その間にも、女はリビングを離れ、すぐに浴衣とタオルを抱えて戻ってきた。
 電子音が響いた。風呂の合図である。
 女は膝を突き、横たえた少女そのカーディガンの裾に手をかけた。少女の細い腹と、形のよい臍が覗く。
【まぁ、待ちたまえ】
 それは紳士としてか、決意の表れか。子爵は女の眼前へ姿を現した。
 女は果たして、この現象をどう捉えたのであろうか? 
 腰を落とし少女を抱き上げあたりを警戒し周囲を探る様は、その事実を知るものには滑稽ですらある。
 子爵はさらに呼びかけた。
【落ち着きたまえ、ここに余人はいない、そして、私は隠れてなどいない。これが、この血液が! 私の現身である。
 信じる信じないは君たちの自由だが、私にはこの身体しか意思伝達の手段がないのでね、しばし辛抱してくれたまえ。
 いずれ理解にも達しよう】
 漆喰の壁すら赤い液体、子爵にとってはノートである。
 その筆術はいかなる技か、文字配列の緩急が、その大小が、女に会話の錯覚すら与る。
【いや、驚かせてすまなかった。私はドイツはグローワース島が前領主ゲルハルト=フォン=バルシュタイン子爵!
 市政こそ既に委ねたが、21世紀も今なおかの地に君臨する紳士であり、ご覧のとおり吸血鬼である! 
 いや、すまない冗談だ】
 女の柳眉が釣りあがるよりも早く、子爵は次の言葉を言い放った。
【まぁ、君の同胞であることも元領主の身分も真実だがね】
 その言葉に、幾分落ち着きを取り戻したのか、女はしかししかと少女を抱えて、子爵と対峙した。
 もっとも、彼は他人の警戒を歯牙にかけるような男でもない。優しく諭すのみである。
【私は紳士だ。暴力に訴えるような真似ははしない。最も、この身体ではそれも叶わないが……
 とりあえず、私は君が血を吸うことも、配下を増やすことも咎めるつもりはないことを理解してほしい。
 君より遥か昔に生を受け吸血鬼となり、それから数百年の時を生きてきた、
 中には奇麗事の言えない時代を過ごしたこともあったとも】
 血液が、ふ、と細く伸びる。おそらく、それが彼の「遠い目」なのだろう。
『表情』は一刹那に消え、血文字がすぐに、先ほどと同じ調子に紡がれた。
【ともあれ私が君に望むことはそう多くない。繰り返すが私は紳士で、吸血鬼だ。
 いかに君が多くの者の血を吸ってきたとしても、私はそれに干渉する気はない!】
 そこで子爵はその言葉を止めて、少女の手に触れる。
 少女の肌にその赤は、不吉なほど良く映えた。
【だいぶ冷えているね、早くしたほうがよいようだ。一つでいい、質問をすることを許して欲しい。
 他は君達の湯浴みの後にしよう。
 なに、そう難しいものではないよ、あるいは答えてくれなくてもそれは一向にかまわない】
 あごに手を当てるような仕草、一拍の間、そして
【貴女は佐藤聖嬢で間違いはないかね?】

542懲りない彼女修正案  ◆MXjjRBLcoQ:2005/09/24(土) 22:33:19 ID:pBSSTsig
【D-8/民家/1日目/16:00】
【Vampiric and Tutor】

【十叶詠子】
[状態]:体温の低下、体調不良、感染症の疑いあり
[装備]:『物語』を記した幾枚かの紙片 (びしょぬれ)
[道具]:デイパック(泥と汚水にまみれた支給品一式、食料は飲食不能、魔女の短剣)
[思考]:???

【佐藤聖】
[状態]:吸血鬼化完了(身体能力大幅向上)、シャナの血で血塗れ、
[装備]:剃刀
[道具]:支給品一式(パン6食分・シズの血1000ml)、カーテン
[思考]:身体能力が大幅に向上した事に気づき、多少強気になっている。
    詠子の看病(お風呂、着替えを含む)
[備考]:シャナの吸血鬼化が完了する前に聖が死亡すると、シャナの吸血鬼化が解除されます。
首筋の吸血痕は完全に消滅しています。
16:30に生存が確認(シャナの吸血痕健在)されています。

【ゲルハルト・フォン・バルシュタイン(子爵)】
[状態]:光不足
[装備]:なし
[道具]:なし(隣家に放置)
[思考]:アメリアの仲間達に彼女の最後を伝え、形見の品を渡す/祐巳がどうなったか気にしている
    聖にどこまで正気か? どこまで話すべきか?
[補足]:祐巳がアメリアを殺したことに気づいていません。
    この時点で子爵はアメリアの名前を知りません。
    キーリの特徴(虚空に向かってしゃべりだす等)を知っています。

543魔女の見る夢【虚像庭園】前半 ◆eUaeu3dols:2005/09/30(金) 01:59:15 ID:3ksTxgaA
――そこは夕焼けの学校。
「ねえ、キョン」
「なんだよ」
SOS団の部室で、涼宮ハルヒがキョンに唐突な言葉を放つ。
「退屈よ! 最近、何か変な事って無いの?」
「……そんなもん、ほいほい転がってるわけないだろ」
うんざりした様子でキョンが答える。
「みくるちゃんも何も知らないわよね?」
「は、はい。何も知りません」
矛先が向いた事に少しびくつきながら、朝比奈みくるが答える。
「古泉、有希。あんた達もなんか見つけてないの?」
「知らないな」
「同じく」
「そう、なら仕方ないわね」
――『古泉』と『長門』が答え、ハルヒは何事もなく矛先を下ろした。
キョンは何か違和感を感じ、二人を見やった。
「……何か?」
『長門』がキョンを見つめ返し、尋ねる。
「……いや、なんでもない」
何か気に掛かる様子で、しかしキョンも引き下がる。
――誰も気づかない。そういう風に決められた世界だから。
「はい、お茶をどうぞ」
「みくるちゃん気が利くじゃない。えらいえらい」
「朝比奈さんいつもありがとうございます」
「ああ、ありがたい」
「頂こう」
三者三様の返事が返り、またもキョンと、今度は朝比奈みくるも怪訝な顔をした。
「どうしたのよ?」
「…………何でもない」「……なんでもありません」
「…………?」
問い掛けたハルヒも問い掛けられた二人も首を傾げた。
――そしてすぐにそれを忘れた。

「あー、それにしても退屈ね。なんでこんなに退屈なのかしら」
涼宮ハルヒがカレンダーを見やる。
――行事の少ない6月の初めという月日が書かれていた。
期末テストは有っても、わざわざ詰め込む必要がない、あるいはする気が無い者に無関係な時期。
「……やっぱりここは、あたしが直々にイベントを起こすしかないようね!」
――時計の短針が5時を指す。
「明日にしろ。今日はもう下校時刻だ」
「……それもそーね。プランを考える時間も必要だわ。
 それじゃ、明日は召集掛けるからよろしく!
 今日は解散!」
SOS団は帰宅を始める。
――そこに時間の意味は無い。明日も来ない。

「では、また」
帰宅途中の分かれ道で『長門』はSOS団の皆と別れて、自宅へと歩く。
歩き、歩き、自分の住むマンションに辿り着き、エレベーターで階を上がると、
通路を歩き、自分の住む部屋の前に立ち、鍵を開け、扉を開けて――

「それにしても奇妙な世界だった。興味深い」
舞台裏で、サラ・バーリンは長門有希の配役を脱ぎ捨てた。

サラ・バーリンは闇色の荒野に立っている。
振り返ると、そこには明らかに周囲の光景とは隔絶した、箱庭世界へ繋がる扉が在った。
扉を閉めると扉は消えて、そこに在った世界は見えなくなった。

544♪なんにも出来ないバット愚神礼賛♪:2005/10/05(水) 23:07:10 ID:vVvnnpSU
「♪めーめー目ー さんずい つけたら 泪なの──♪」
ここは名も無い地下道です。
ドクロちゃんは脱水症状からも復活して陽気に歩いていました。
まったく井戸に落ちたり流されたりしたのに元気ピンピンです。この天使。
え? 僕は誰かって?
僕は背景たる地下道の壁です。
自慢じゃないですが、堅牢長大にて地下水豊富、完全無欠で将来有望な壁です。
さあ僕を殴<ごがあぁん!>
あいててて………
今度はシームレスパイアスで、何かの民族の踊りのような動きをし始めたドクロちゃんが勢いあまって僕の体の一部を粉砕したようです。
僕の一部は数百の細かい破片に変形、ドクロちゃんの周りに飛び散りました。
こらドクロちゃん! 僕を撲殺しようとしたら駄目だよ!
ええ僕はさっき見ていたのです。僕の友のイド君がドクロちゃんに撲殺、粉砕されているところを──!
「♪せめせめ責め〜る さんずい つけたら 漬けるなの──♪」
僕は親友のエド君の分まで生きますとも! 僕は凄く大きいので部分部分を破砕した程度では死にません。
流石に全体の5割以上破壊されると僕でも危険な状態になります。その点でも全面破壊されないように注意せねば!
しかし僕の"壁神経超融合"により判別した結果、このままではドクロちゃんは1人の青年と対面します。
さらになんと彼は強力な殺人者のようです!
僕はなんとかドクロちゃんに注意を呼びかけたいところですが、悲しいかな僕は壁。喋る口はついていません。
不本意ながら僕は何も出来ないまま殺人者とドクロちゃんとの対面を静観しなければなりません。
ドクロちゃん、どうか死なないで──!

545♪なんにも出来ないバット愚神礼賛♪:2005/10/05(水) 23:08:51 ID:vVvnnpSU
「あれ?」
ドクロちゃんがついに青年と対面しました。
彼の名前はアーヴィング・ナイトウォーカー。武器は強力な対戦車狙撃銃を持っています。
どうか何事も無く、少しの会話を済ませて分かれますように──!
「お兄さん、だぁれ?」
明らかに常人の姿ではない彼にドクロちゃんは無邪気に話しかけます。
もうドクロちゃん! よく見てよ、銃で撃たれてるっぽい怪我に左腕がフックだよ!?
「え、あぁ…君は?」
「もぉ──っ質問に質問で返しちゃ駄目だよ♪」
「そう…だね。俺は──」
「ボクは三塚井ドクロ! ドクロちゃんって呼んでね!」
「え?」
ああああ! もうこのアホ天使! 話を問答無用で進めたら駄目でしょっ!
僕は何もできずこの青年が修羅モードを発動させないかハラハラ見ています。
「お兄さんはこんなところで何をしてるの?」
「俺は、ミラって女の子を探してるんだけど…君は知らない?」
「ミラちゃん……? うーん知らないような知らないような……」
知らないんじゃないかい!
僕の音速ツッコミも誰にも聞こえないと少々切なくなります。
「知らないのか……なんでどこにも居ないんだろうな……」
"壁神経超融合"が彼から立ち上る異様なオーラを感知しました! ドクロちゃん逃げて!
あああ! もうこんなときにこの天使は呑気に顎に手をやって名探偵おうムルみたいな表情をしています!

546♪なんにも出来ないバット愚神礼賛♪:2005/10/05(水) 23:09:42 ID:vVvnnpSU
「どうしてだろう……」
「うん! よく分からないけど、困ってるならボクが手伝ってあげるよ──」
その瞬間、殺人者の手に凶悪な対戦車狙撃銃が出現しました! ドクロちゃんは気づいてません!
「そしてこの愛の天使によってめぐり合った2人は!」
<ばぁん!>爆竹一箱を一点集中させたような破裂音と共に音速の弾丸がドクロちゃんの体めがけて放たれました──
いつの間にかシームレスパイアスを握ってたドクロちゃんは目を閉じながら自分の演説に聞き入ってます!
しかしその演説の手振りなのでしょうか、ドクロちゃんが音速を超越する速度でバットを振りました。
<かきぃぃん!>
丁度その振られたバットが狂気の弾丸にジャストミート。弾丸は半ば形を変形させつつ近くの僕の体に突き刺さりました!
岩盤を突き破った弾丸は僕の体内で瞬時に分解、あたりの地質に豊富な鉛と鉄分を加えて消えました。ビバ鉱物資源。
「あれ、おかしいな……なんで死なないんだろう」
<ばぁん!><ばぁん!><ばぁん!>連続で狂気の凶器がドクロちゃんの体を血の華に変えようと襲いきます。
「2人は! 愛し合う2人は! 出会い、無事の再開を喜んで抱き合い!」
<ぎぃん!><かっ!><びしっ!>ドクロちゃんは再び全てを弾きます。しかもは弾いている本人は状況を理解していません。
彼女は脳内で展開されてるスペクトルに熱中です。この危険極まりないソニックブーム発生させているスイングなど言わばオマケ!
それらを全て左手一本でやってのけるのがドクロちゃんの脅威です。腕相撲したくないランキングがかなり高いです。
一方ドクロちゃんに弾丸を弾き返された彼は何の不幸か、対戦車狙撃銃に跳ね返った銃弾が直撃しました。
発射された初速以上の速度で跳ね返ってきた銃弾は狙撃銃を完全粉砕、さらに暴発まで起こして彼の唯一の右手を吹き飛ばしてしまったのです!
「あ、あぁ…う、痛、い……」
「そしてその後2人は! もう──お兄さんのえっち!」
ドクロちゃんがはぢらいから3m前にいる両手を失った青年に向かってシームレスパイアスを投げつけました。
エレベーターでブザーが鳴ると真っ先に睨まれそうなバットは、ミサイルのように青年に頭に一直線!
「────」
思わず先端が水蒸気爆発を起こすほど加速したバットは有無言わず空間ごと青年の頭を<がうん!>と消滅させました。
青年の頭が明らかに元より質量が少ないパーツに分かれて、シームレスパイアスは僕の体こと壁に根元まで突き刺さりました。
最後に彼は何か言おうとしていました。しかしそれは大気を切り裂き、生命を一瞬で有機的な肥料に変えてしまう一撃に阻まれて聞こえませんでした。

547♪なんにも出来ないバット愚神礼賛♪:2005/10/05(水) 23:10:42 ID:vVvnnpSU
「あ、ああ──! ごめんなさいっ!」
青年は完全に肩の上が無くなり、時々筋肉の収縮で動くスプラッタな物体に変わってしまいました。
ドクロちゃんは壁に突き刺さったバットを片手で引きずり出します。痛てててててて! もっと優しく!
突き刺さってたシームレスパイアスには傷一つついてません。恐らくドクロちゃんの天使パワーでしょうか。

「ぴぴるぴるぴるぴぴるぴー♪」

ドクロちゃんがバットをチアリーダーのようにくるくる回転させ魔法の擬音を唱えます。
しかし魔法の擬音の効果は、突き刺さった僕のクレーターを治しただけで、頭部が完全に消失している彼の死体はぴくりともしません。
それどころか彼の飛び散った死肉と血漿から新しい生命が、植物の芽がぽこぽこ生えだしました。
「あれぇー? 何でかな?」
もう忘れたの!? ドクロちゃんの天使の不思議パワーが弱まってるし、それはエスカリボルグじゃないでしょ!
「どどど、どうしよう! このままじゃお兄さんの体から妙に色の赤い花が咲いちゃうっ!」
そもそも天使力の弱まった今じゃあ完全復活させるのは無理じゃあ……
ちょっと待てっ! 復活させられないドクロちゃんって、ものすごくデンジャラス。
彼女は愛用のバットが何でも出来ちゃうバットじゃないことを思い出して納得したような顔になりました。
「ボボボク、エスカリボルグ探してくるからお兄さんちょっと待ってて!」
ドクロちゃんはシームレスパイアス軽々担ぎ上げて、今度は勢いよく走り出しました。
しかし以前負傷した左足のせいで思いっきりすっ転びます。
「きゃうん! いたぁ──い……もぅ桜君ボク初めてなんだからもっと優しく……」
意味不明な寝言を呟きつつドクロちゃんは歩き出しました。
どうやらさっきのぴぴるで傷がまた少し塞がったようです。天使の異常な回復力も加担しているのでしょうか。
僕はその場に残された哀れな青年の死体に黙祷を数秒捧げ、意識はドクロちゃんを追い始めました。

──これは、ちょっぴりバイオレンスだけど悪気のない天使ドクロちゃんが繰り広げる、愛と親切さと少しバトルロワイヤルな物語。

548♪なんにも出来ないバット愚神礼賛♪:2005/10/05(水) 23:11:47 ID:vVvnnpSU
【E-1/地下通路/1日目・14:40】
【アーヴィング・ナイトウォーカー:死亡】残り72人

【ドクロちゃん】
[状態]:左足腱は、歩けるまでに回復。
     右手はまだ使えません。
[装備]: 愚神礼賛(シームレスパイアス)
[道具]: 無し
[思考]: エスカリボルグを探さなきゃ!

549懲りない彼女 修正  ◆MXjjRBLcoQ:2005/10/06(木) 12:29:04 ID:pBSSTsig
かなり遅くなりましたが、懲りない彼女の修正版です、後半部を以下に差し替えてください。

 さて、場面移してここは港町である。
 ドッグからも中心街からも比較的離れた南部の住宅街、ここにもやはり人影は見えない。
 建売の住宅が疎らに並び、木造漆喰の平屋と融合している様は、実に懐かしき田舎島の情景といえる。
 だだ家々に明かりは灯らず、犬猫だけが町を闊歩する様は、耳を澄ませば終末の呼び声が聞こえてきそうだ。
 そんな町の一角で、煌煌と照らす蛍光灯の元、再生機から教育シリーズ日本の歴史DVD第一巻を第二巻へと
差し替える影があった。
 誰かは語るべくもない。
 ドイツはグローワース島が領主ゲルハルト=フォン=バルシュタイン子爵である。
 手分けをする意味だろうか、西へと赴くEDと別れた後、彼は先ほどの港町に舞い戻ってきたのであった。
 収穫は無かった。エネルギーの残量を考えれば骨折り損とも言える。
 すでに赤銅髪の青年は去っていた。港の南部は死体ばかりが目立った。
 14:30を過ぎ、雨は銀河をひっくり返したように降り注いだ。
 黒い空に、光は一片たりとも望めなかった。
 適当な住宅へと侵入し、彼はそれ以上の行動を全て放棄した。すなわち雨宿りである。
 幸いにも住宅は生きていて、電気も水道も、電波やガスさえその営みを止めていない。
 コンロはひねれば紅茶が沸かせた、リモコンを押せば心地よい音楽が流れる。
 ゲルハルト城には及ばないながらも、島のなかでは群を抜く快適空間であった。
 そして現在に至るという具合である。
 ディスクの入れ替えはほどなく終わった。子爵の念力がスイッチをたたく。
 がしょん、と音を立ててDVDが飲み込まれた。そして、
 がしょん、と音を立てて、わずかに遠くで雨戸が閉まった。
 子爵はあわてた風もなく、付けたばかりのDVDとテレビを止めた。
 照明を落とせば、カーテンの閉められた隣家から、わずかに光が漏れている。
 明かりをつけた住宅は誘蛾灯、つまりはそういうことであったのだ。
 荷物を放置し、子爵はおもむろに窓を開けた。
 無風であった。
 豪雨の中に隠れ潜む邪悪と静寂が、子爵をその場に押しとどめた。
 不吉の気配、とでも言えばいいのであろうか、圧倒的な存在感が虚空に深く根付いていた。
 彼ははしばしその場に立ち竦む。
 空はいよいよ重く、あるいはこの雨は、それらを押し流そうといているようにも見えた。

550懲りない彼女 修正  ◆MXjjRBLcoQ:2005/10/06(木) 12:29:53 ID:pBSSTsig
 さて、隣家は比較的大きなもので、軒には宿の文字があった。
 窓は多くが規則正しく並んでおり、足音がそれらを順にめぐっている。何者かが部屋を検めているのであろう。
 子爵は玄関を避け、裏口から三和土へと回り込んだ。裏では給湯器が起動しているのか、かすかに熱気が漂っていた。
 三和土はよくよく使い込まれており、かすかに煤と魚の臭いが残っている。
 そこを上った先は八畳間となっていた。おそらくはダイニングとして使われていたのであろう。
 背の低いテーブルが中央に鎮座し、そしてその上に少女が一人。
 見知らぬ少女であった、意識はなく、しかしその幼い顔に笑みは絶えない。
 ふむ、と小さく血文字が浮かび上がった。小波のように揺れるそれには、逡巡の色が濃く映る。
 子爵の知覚は魂を見る。少女の深淵を覗き見たのかもしれない。
 いまださざめく子爵は、その手をそっと少女に伸ばし、足音を捕らえて三和土へとさがった。
 あたりを見渡すように蠢いて、竈の中に隠れこむ。
 乱入者は女であった。
 ふむ、とふたたび文字が浮かぶ。
 女は子爵の見知らぬ、しかし心当たりのある者だった。
 長身の女。吸血鬼。胸ポケットには火傷を避けるためか、ハンケチーフで包れたロザリオ。
 子爵の聞いた特徴に符合する。
 吟味の間も、女は忙しそうに動き回った、廊下を行ったりきたり、そして浴衣とタオルを抱えて戻ってきた。
 電子音が響き、女が後ろを振り仰いだ。風呂の合図である。
 女は優しくかつ邪に笑った。膝を突き、横たえた少女そのカーディガンの裾に手をかける。
 少女の細い腹と、形のよい臍が覗くいた。
【まぁ、待ちたまえ】
 子爵の赤がその上を走る。
 それは紳士としてか、決意の表れか。子爵は女の眼前へ、ついにその姿を現した。
 女は果たして、この現象をどう捉えたのであろうか? 
 腰を落とし少女を抱き上げあたりを警戒し周囲を探る様は、その事実を知るものには滑稽ですらある。
 子爵はさらに呼びかけた。
【落ち着きたまえ、ここに余人はいない、そして、私は隠れてなどいない。これが、この血液が! 私の現身である。
 信じる信じないは君たちの自由だが、私にはこの身体しか意思伝達の手段がないのでね、しばし辛抱してくれたまえ。
 いずれ理解にも達しよう】
 漆喰の壁すら赤い液体、子爵にとってはノートである。
 その筆術はいかなる技か、文字配列の緩急が、その大小が、女に会話の錯覚すら与る。
【いや、驚かせてすまなかった。私はドイツはグローワース島が前領主ゲルハルト=フォン=バルシュタイン子爵!
 市政こそ既に委ねたが、21世紀も今なおかの地に君臨する紳士であり、ご覧のとおり吸血鬼である! 
 いや、すまない冗談だ】
 女の柳眉が釣りあがるよりも早く、子爵は次の言葉を言い放った。
【まぁ、君の同胞であることも元領主の身分も真実だがね】
 その言葉に、幾分落ち着きを取り戻したのか、女はしかししかと少女を抱えて、子爵と対峙した。
 もっとも、彼は他人の警戒を歯牙にかけるような男でもない。優しく諭すのみである。
【私は紳士だ。暴力に訴えるような真似ははしない。最も、この身体ではそれも叶わないが……
 とりあえず、私は君が血を吸うことも、配下を増やすことも咎めるつもりはないことを理解してほしい。
 君より遥か昔に生を受け吸血鬼となり、それから数百年の時を生きてきた、
 中には奇麗事の言えない時代を過ごしたこともあったとも】
 血液が、ふ、と細く伸びる。おそらく、それが彼の「遠い目」なのだろう。
『表情』は一刹那に消え、血文字がすぐに、先ほどと同じ調子に紡がれた。
【ともあれ私が君に望むことはそう多くない。繰り返すが私は、おせっかいと無干渉を身上とする紳士で、吸血鬼だ。
 いかに君が多くの者の血を吸ってきたとしても、私はそれを責める気も罰する気もない!】
 そこで子爵は言葉を止めて、少女の手に触れる。
 少女の肌にその赤は、不吉なほど良く映えた。
【だいぶ冷えているね、早くしたほうがよいようだ。一つでいい、質問をすることを許して欲しい。
 他は君達の湯浴みの後にしよう。
 なに、そう難しいものではないよ、あるいは答えてくれなくてもそれは一向にかまわない】
 あごに手を添える仕草、一拍の間、そして
【貴女は佐藤聖嬢で間違いはないかね?】

551懲りない彼女 修正  ◆MXjjRBLcoQ:2005/10/06(木) 12:34:12 ID:pBSSTsig
【D-8/民宿/1日目/16:00】
【Vampiric and Tutor】

【十叶詠子】
[状態]:体温の低下、体調不良、感染症の疑いあり。外見的にもかなり汚い。
[装備]:『物語』を記した幾枚かの紙片 (びしょぬれ)
[道具]:デイパック(泥と汚水にまみれた支給品一式、食料は飲食不能、魔女の短剣)
[思考]:???

【佐藤聖】
[状態]:吸血鬼化完了(身体能力大幅向上)、シャナの血で血塗れ、
[装備]:剃刀
[道具]:支給品一式(パン6食分・シズの血1000ml)、カーテン
[思考]:身体能力が大幅に向上した事に気づき、多少強気になっている。
    詠子の看病(お風呂、着替えを含む)
[備考]:シャナの吸血鬼化が完了する前に聖が死亡すると、シャナの吸血鬼化が解除されます。
    首筋の吸血痕は完全に消滅しています。
16:30に生存が確認(シャナの吸血痕健在)されています。

【ゲルハルト・フォン・バルシュタイン(子爵)】
[状態]:ややエネルギー不足、戦闘や行軍が多ければ、朝までにEが不足する可能性がある。
[装備]:なし
[道具]:なし(隣家に放置)
[思考]:聖にどこまで正気か? どこまで話すべきか?
    アメリアの仲間達に彼女の最後を伝え、形見の品を渡す/祐巳がどうなったか気にしている
    EDらと協力してこのイベントを潰す/仲間集めをする
    3回目の放送までにEDと地下通路入り口で合流する予定 
[補足]:祐巳がアメリアを殺したことに気づいていません。
    この時点で子爵はアメリアの名前を知りません。
    キーリの特徴(虚空に向かってしゃべりだす等)を知っています。

552 ◆MXjjRBLcoQ:2005/10/06(木) 12:55:58 ID:pBSSTsig
貼る場所間違えました、ほんとに申し訳ないです。

553霧の町 黄昏の道 ◆685WtsbdmY:2005/10/08(土) 16:50:47 ID:sgEbU7iY
「今度は、手を離さないで」
「…はい」
 差し出した手を握る少年の手を握り返し、フリウは歩き出した。
(あたしが、守らないといけないんだ)
 潤さんはいない。
 チャッピーはもとより、要が戦えるとは到底思えない。
 自分が硝化の森に初めて入ったのは十二の時。互いの身の上話などはしていないが、少年の年齢がそれにすら届かないことは容易く知れた。
 おそらく、十かそこらといったところだろうか。
(四年前くらいかな…)
 ふと、自分が少年と同じ年のころを思い出そうとしてみた。しかし、その記憶はぼんやりとかすみのようなものに覆われていて、いくら覗き見ても判然としない―まるで、今の自分たちの姿のように。
 それよりも、
 父に守られ、初めて森に足を踏み入れたあの日からの二年間。追いつくことのない背中。
 “殺し屋”ミズー・ビアンカとの出会い。自分が壊し、サリオンにつれられて後にした故郷。
 牢からの脱出。差し伸べられた手。二人旅。狩り。
 精霊使い、リス・オニキス。彼に導かれて進む帝都への旅。
 そして…精霊使いになった夜。
 それらの情景が、浮かんでは消えていく。
 あの、近いようで遠い日々、自分は誰かに守られてばかりだった。
 けれど、今は違う。自分は、もう、泣くことしかできない子供ではない。
 ならば、一人の精霊使いとして…
(あたしは、あたしの役目を果たす。潤さんたちが戻るまで、二人のことはあたしが守る)

554霧の町 黄昏の道 ◆685WtsbdmY:2005/10/08(土) 16:52:26 ID:sgEbU7iY
(…汕…子)
 触れた指の感触は、自分にもっとも近しい者の名を想起させた。
(…傲濫…驍宗さま)
 驍宗。一度その名が浮かんでしまうと、わきあがる思いを抑えることはできなくなった。
 異常な状況に対する恐怖、孤独、死への不安、他者への気遣い。
 そういったもろもろの感情の下に隠されていた―いや、むしろ無意識のうちにおしこめていたのかもしれない―思いが、踏み出す一歩ごとに要の中で形をとり、大きく膨れ上がり始めた。
 悲嘆ではない。ただひたすらに驍宗の元に帰りたい、帰らなければいけないという強い意志、ただそれだけに体の全てを支配される。
 …帰らなければ。
 でも―。

  要の額の一点―そこには麒麟の妖力の源たる角がある―に集まった熱は、得体の知れない何かに阻まれ、形をとれずに霧消する。
 
 どうやって?

  髪も、服も、空気も。湿って重くなり、体にまとわりついてはなれない。

555霧の町 黄昏の道 ◆685WtsbdmY:2005/10/08(土) 16:53:32 ID:sgEbU7iY
 名を呼ぶ声に、要はあわてて顔を上げる。いつのまにやら足が止まっていたようで、連れの二人が心配そうに顔を覗き込んでいた。
「どしたの? 何かあったの?」
「ごめんなさい。なんでもないの」
 こちらを見上げる子犬にも、大丈夫だよ、と声をかける。
 二人ともそれで納得ができたわけではないのだろう。しかし、問い詰めても無駄だと判断したのか、それ以上は何も聞こうとしなかった。
 フリウはかすかな苛立ちや、気遣い、そういった思いのない交ぜになった表情を浮かべると、要の顔から視線をそらした。
「じゃあ、行くよ。学校はすぐそこだし」
 言って、歩き出した。その手に引かれるようにして、要もまた歩き出す。

 要は深く息を吸って、吐き出した。そうすることで、気持ちを落ち着かせる。
 帰還への意志は、一向に消えることなく心の中に残っていた。しかし、一度明確に認識してしまえば、それによって周囲の状況を忘れてしまうということもない。
 たとえ一時といえど、立ち止まり、連れをも危険にさらしたことを要は恥じていた。
 自分は何もできない。それでも、自分のために。そして、ここで出会えた人々の気持ちに応えるために、しなければならないことがある。
 だからこそ、「頑張ろう」と気持ちを固め、行動に移した。それなのに、先程は…。

 戦うことのできない自分のために、二人をこれ以上の危険にさらしてはいけない。

556霧の町 黄昏の道 ◆685WtsbdmY:2005/10/08(土) 16:54:39 ID:sgEbU7iY
「わっ!! とっと」
 フリウしゃんが声を上げて、ボク、後ろを振り向いたデシ。フリウしゃん、要しゃんがいきなり立ち止まったから前につんのめっちゃったんデシね。
「要?」
「要しゃん? どうしちゃったデシか?」
 前に回り込んでボクが聞くと、要しゃんも気づいたみたいデシ。一瞬きょとんとした顔をしてボクを見ると、フリウしゃんの顔を見上げるデシ。
「どしたの? 何かあったの?」
「ごめんなさい。なんでもないの。…大丈夫だよ、ロシナンテ」
 こっちを向いて、ボクに声をかける要しゃん。けど、顔色もあまり良くないし、なんだか心配デシ。
「じゃあ、行くよ。学校はすぐそこだし」
 フリウしゃんがそう言って、また歩き出すのについてくデシ。
 さっきは要しゃん、いきなり立ち止まっちゃって、ちょっとビックリしちゃったデシ。
 本当は学校までもう少しかかるはずデシ。危険が危なくはないみたいデシけど、気をつけなきゃデシ。
 …あれ?なんか変デシ。
 さっきの人来たとき、ボク、何にも気づかなかったデシ
 もしかして悪い人じゃなかったんデシか?ボク、よくわかんないデシ。
「チャピー、そこにいる?」
「はいデシ」
 周りは、霧で真っ白デシ。暗くなってきてるし、きっと、要しゃんのむこうを歩いているフリウしゃんからだと、ボクのことよく見えないんデシね。
 ずっと前にもこんな霧見たことあるデシ。その時は朝だったデシけど。
 あれは…たしか、復活屋しゃんのところに行く途中だったデシか?
 …
 …
 アイザックしゃん、ミリアしゃん、潤しゃん。
 これでお別れだなんて…ボク、いやデシよ。
 ボク、あきらめないデシから。

 だから、必ず待っててくださいデシ。

557霧の町 黄昏の道 ◆685WtsbdmY:2005/10/08(土) 16:59:06 ID:sgEbU7iY
【C-3/商店街/1日目・17:59】 

『フラジャイル・チルドレン』 
【フリウ・ハリスコー(013)】 
[状態]: 健康 
[装備]: 水晶眼(ウルトプライド)。眼帯なし 包帯 
[道具]: 支給品(パン5食分:水1500mml・缶詰などの食糧) 
[思考]: 潤さんは……。周囲の警戒。 
[備考]: ウルトプライドの力が制限されていることをまだ知覚していません。 


【高里要(097)】 
[状態]:健康 
[装備]:なし 
[道具]:支給品(パン5食分:水1500mml・缶詰などの食糧) 
[思考]:二人が無事で良かった。 とりあえず人の居そうな学校あたりへ 
[備考]:上半身肌着です 


【トレイトン・サブラァニア・ファンデュ(シロちゃん)(052)】 
[状態]:前足に浅い傷(処置済み)貧血 子犬形態 
[装備]:黄色い帽子 
[道具]:無し(デイパックは破棄) 
[思考]:三人ともきっと無事デシ。そう信じるデシ。 
[備考]:回復までは半日程度の休憩が必要です。

558霧の町 黄昏の道 ◆685WtsbdmY:2005/10/08(土) 16:59:46 ID:sgEbU7iY
なお、時間は本スレッドPart6.315〜320の「濃霧は黙して多くを語らず」の最後の段落。もしくはそれとその前の段落との境界部分です

559危険に対する保険 ◆685WtsbdmY:2005/10/09(日) 15:04:29 ID:pSQa79Ko
―エリアC-4
 霧の中を歩く、小さな影があった。
 民族衣装である毛皮のマントを羽織ったその姿は、見もまごうことなくマスマテュリアの闘犬―ボルカノ・ボルカンその人だった。

 さて、彼はなぜこんなところにいるのだろうか?
 奇矯な男をどうにかあしらい、偶然発見した  から外に出た後は、とりあえずG-4あたりの森に潜伏していた。
 しかし、彼は不屈の―というより懲りない―男だったため、地図に商店街という文字を見て何か金目のものでも無いかと見に行くことを決心したのである。
 昼過ぎ、雨が降り始める直前にE-5に移動。D-5周辺では罠に引っかかりもしたが、たまたま知人特有の頑丈な頭蓋骨に滑って軽傷ですんだ。
 雨が降っている間も森の中を移動し、暗くなるまではとD-4で出て行くのに都合のよさそうな時間を待った。
 実は、結果的に神父と似た経路を、大きく寄り道をしつつ後から追う形になっているのだが、当の本人には知る由も無い。
 その後は、霧が出てきたところで森を抜け商店街に向かったのだが、方向を見失ってこのあたりに来てしまったのだ。

560危険に対する保険 ◆685WtsbdmY:2005/10/09(日) 15:05:11 ID:pSQa79Ko
霧のむこうに、ボルカンは黒い、大きな影を見た。
 近づいてみると、それはソファ、冷蔵庫、机など。雑多な家具や調度品でできた小山だった。
 どうやらすぐそこのビルから投げ落とされたものらしく、落下の際の衝撃で破壊されているものもいくつかある。
 何を思ったか、ボルカンはそれをよじ登り始めた。少々の運動の後に頂上にたどり着く。そして、
「はーはっはっはっはっはっはっはっは」
 哄笑する。特に意味はない。
 意図していたのかいないのか、西の方角を向いていたので、霧さえ出ていなければ夕日を正面から浴びていたことだろう。
「はっはっはっは…は?」
 と、そこでボルカンは笑うのをやめた。何か物音が聞こえてくるような気がしたからだ。
 耳を澄ますと、ふもっふぉふぉふぉ、と聞こえるが、くぐもっていていまいち判然としない。
「これは俺様の声ではないが、ここには俺様しかいないのであるからして、つまりは俺様の声ということに…」
 ボルカンはそこで言葉を止めた。いつのまにやら不気味な音声(?)はやみ、それに変わって足元からは激しい振動が伝わってくる。
「うむ、地震か!? まずは机の下に隠れろ!!」
 頭上に何もないのに机の下に隠れる必要など当然ないのだが、いつもならその辺を指摘するはずの弟は、彼のそばにはいない。
 そして…突然

561危険に対する保険 ◆685WtsbdmY:2005/10/09(日) 15:05:54 ID:pSQa79Ko
「ぬおおおおおおっ!!」
 足元で起こった爆発に、家具の残骸と一緒くたになって宙を舞う。しばしの空中散歩の末に、頭から地面に突き刺さった。
 その逆転した視界の中央―先ほどまでボルカンの立っていた場所―で何者かがゆっくりと立ち上がるのが見えた。
 “それ”は、ふもふぉ…、と何かをつぶやきかけたが、一瞬動きを止めると全身に力をこめる。
 すると、ぼろぼろになったベルトやら金属部品やら、かつて“ポンタ君”と呼ばれしものの残骸がはじけ飛んだ。
 そして…
「おのれ、あの非国民め!!このあたくしを突き落とすだけでは飽き足らず、頭上から塵芥まで降らすとは、無礼千万、売国朝敵、欲しがりません勝つまでは!!
 けれど正義の味方は死ななくてよ。をほほほほほほほほ」
 着ぐるみの残骸の中から青紫色の巨大な影が姿を現した。本人は「正義の味方の美しき復活」と思っているようだが、傍から見ればまるっきり「大怪獣出現!!」である。
 なお、彼女の身にまとうチャイナドレスは最高級の絹で織られている。そのため、哀川の置き土産である細菌兵器は文字通り単なるプレゼントと化し、疲労の回復のみを彼女にもたらした。後は右腕さえ完治すれば万全の状態である。
 謎の怪物の哄笑を聞きながら、ボルカンは勢いよく跳ね起きた。
「貴様!! この民族の英雄、マスマテュリアの闘犬ボルカノ・ボルカン様を吹き飛ばし、あまつさえ地面に突き刺すなど、言語道断問答無用!! 霧吹きで吹きかけ殺されるのが必定と…」
 どうやら、妙な対抗心を起こしたらしい。支給品のハリセンをつかみ、(元)小山の上の影に向かって吼える。
 しかし、怒鳴られたほうはまったく表情を変えず、ボルカンに向かって歩き出した。身の丈は約190センチ。重量にして優に100キログラムを超える巨体が、ハリセンを構える身長130センチそこそこの地人族の少年の前に立ちはだかる。
「…ええと…当方としましては…つまり…」

562危険に対する保険 ◆685WtsbdmY:2005/10/09(日) 15:10:32 ID:pSQa79Ko
「ふんっ」
 最初の勢いはどこへやら、口ごもるボルカンを無視して怪物―天使のなっちゃんこと小早川奈津子―は鼻から息を吹き出した。
 同時に左腕を突き出し、下から掬い上げるようにしてボルカンの顔面を打つ。
 比喩ではなく殺人的な威力の拳がボルカンの顔面にめり込み、彼は再び宙へとたたき上げられた。
 身長の数倍に相当する距離を垂直に移動し、同じだけの距離を落下する。
 その体が地面に届かないうちに頭部を蹴り飛ばされ、ボルカンは大地に転がった。
「をっほほほ。マスマテュリアだかマンチュリアだか知らないけれど、大和民族の誇りに敵う訳は無くてっよ」
 そして、ひとしきりあの奇っ怪な哄笑をあげると自分の姿をしげしげと見回す。
「さてと。この身を守る鎧も壊れてしまったことだし、なにか武器が必要だわね」
 言って、何か武器になりそうなものでもないかと、先程自分が蹴り飛ばした相手の元に向かう。
 ボルカンを足元に見下ろして小早川奈津子は眉を顰めた。霧のせいでそれまで分からなかったが、足元に転がっているオロカモノは生きていた。
 熊すら一撃で葬り去れるような打撃を二度も頭部に受けているというのに、首の骨どころか鼻すら折れていない―もっとも、さすがに額が割れて血が流れ出るくらいのことはしていたが。
 使えそうな武器が何もないことを見て取ると、小早川奈津子はそのまま歩き出そうとして、そこで、動きを止める。
 もう一度ボルカンを見下ろして考え込むようなそぶりを見せた。
 その目が怪しく光る。


 一方、危険に対する保険その一といえば、自分を待ち受ける運命も知らず、ただひたすらに気絶していた。

563危険に対する保険 ◆685WtsbdmY:2005/10/09(日) 15:11:16 ID:pSQa79Ko
【C-4/商店街/1日目・17:30】 

『天使のなっちゃん無謀編(つまりは日常)』 
【小早川奈津子(098)】 
[状態]: 全身打撲。右腕損傷(殴れる程度の回復には十分な栄養と約二日を要する)生物兵器感染  
[装備]: コキュートス 
[道具]: デイバッグ(支給品一式)  
[思考]: これは使えそうだわさ。をほほほほ。 
[備考]: 約10時間後までになっちゃんに接触した人物も服が分解されます
     10時間以内に再着用した服も石油製品は分解されます
     感染者は肩こり、腰痛、疲労が回復します

【ボルカノ・ボルカン(112)】 
[状態]: 頭部に軽傷。気絶。 
[装備]: かなめのハリセン(フルメタル・パニック!)  
[道具]: デイパック(支給品一式) 
[思考]: ・・・・・・ 
[備考]: 生物兵器感染。ただしボルカンの服は石油製品ではないと思われるので、服への影響はありません。

564坂井悠二  ◆MXjjRBLcoQ:2005/10/09(日) 21:54:27 ID:pBSSTsig
「では、君も日本から来たというのかね?」
「ああ。いや、アメリカかもな。テキサスはヒューストン、ER3の本拠だ」
「えっとER3はともかく、その前は京都にいたんですよね」
「いや、神戸のような気もするな、とにかく出身は日本だぜ」
「気もする、か。ずいぶんとご大層な記憶力だね。一度脳の手術をすることをお勧めしよう。二度と忘れ物に悩まれずにすむ。
 で、IAIは知らないと? 私が企画したこのまロ茶もかね?」
「そんな個人情報だだ漏れの面白製品にはお目にかかったこともねぇよ」
「ふふふ、これも愛故に、だよ」
「佐山さん、胸押さえてますけど、大丈夫ですか?」
 あーだこーだと15分。情報交換に始まり、診療所から設備の一部を失敬して、現在は腹ごしらえの最中である。
 食卓の大部分は少年の持ち物であったものだ。
 佐山の視線の先では、藤花が黙々とメロンパンを頬張っている。
 気丈さというよりあの少年の人格の影響だろう、と佐山は思う。
 そう、階下にはまだ少年の亡骸が散乱している。そして食事は血の着いたディパックから取り出したものだ。
 縁とは不思議なものである。
 荷物を検めたおりに、佐山は二枚の地図を見つけていた。魔女の手紙と彼の遺書だ。
 IAI缶詰はなくなっていた。
 一つ食べて捨て置いた可能性もあるが、もし彼がその全てを食べたのだとしたら。
「勇者だ」
 きっと先天的に脳の欠陥があったのだろう。佐山は同情と敬意をもって呟いた。
「いや、いきなり誰がだよ」
 心持ち怪訝な顔で突っ込む零崎を、佐山は手振りでこちらの話だ伝える。
「なに。なんでも美味と感じるのはすばらしいことだと思ってね、私は真っ平だとも。
 ともかく、これからの指針を確かめたい。先ずは行動か、留まるかだ」
「留まる、てのが引っかかるな、じっとしてるのは性にあわねぇ」
 零崎は辟易と答える。
「私もここにいるのはちょっと……」
「だろうね」
 そこで佐山は言葉を止めた。
 盗聴はすでに話してある。ここはこちらの意図を嘘と真実で図られないことが肝要だろう。
 現に彼は零崎君に殺された、まだ即殺害のレベルではない。
 佐山は決定した。
「さらにここで一つの選択がある。さて、この地図を見てほしいのだが」
 佐山は古びた地図をテーブルの中央に差し出し、みなの注目を確認し裏返した。
「下の彼の遺書だ。これによると彼は人間でなく、さらには世界脱出の鍵となりうるらしい。
 常識的にみると……誇大妄想も甚だしいね。自分を特別だと直感する思春期特有の症状が見て取れる」
「へ、俺にしてみればあんたもご同類だぜ」
「零崎君、茶々を入れるのはやめてくれ給え。中心は唯一つの特異点なのだよ。私が特別でない理由が見えない」
 やれやれと佐山は首をすくめた。
「話を戻してよいかね。特別なのは彼ではなく、彼がその身に蔵するといっている「零時迷子」と呼ばれる秘宝だそうだ。
 突拍子もない話だが、魔女が現れ、殺人鬼が誘拐される世界だ。もし彼が真実を言っている場合を考えよう。
 彼の仲間に会ったときもあわせて、このことは格好の交渉材料と成り得る。手放すのは愚かだと私は思ってるのだが」
 佐山の顔が零崎を向き、藤花を向き、
「皆の意見を聞きたいね」
 反り返るように椅子へ身を預けた。
「あの」
 おずおずと、藤花が手を挙げる。
「男の子一人って、結構重いと思うんですけど」
 遠慮がちな彼女に、佐山はあくまで不遜に答える。
「それぐらいは考慮の内だよ、藤花君。こう見えてそれなりに鍛えている。血液の抜けた高校男子程度なら問題ない。
 零崎君も異存はないかね?」
「異存はな、しっかし誘導癖といい戯言といい、どっかの欠陥製品そっくりだぜ」
「私にそっくりという表現を用いるのはやめてもらいたいね、私と本人の両方に対する侮辱だよ。
 賠償金は100万でも足りないな。次があれば、現実に帰還した際には法廷に持ち込ませてもらうので覚悟してくれたまえ。
 ともかく我々の目的は人と会うことだ、消耗を避けるて屋内に避難している者を探そうと思う」
 佐山の指が地図の上に止まり、港町を中心にぐるりと円を描く。
「もう一度聞くが異存はないかね」

565坂井悠二  ◆MXjjRBLcoQ:2005/10/09(日) 21:55:20 ID:pBSSTsig
 人体がぶちまけられた部屋というのはとにかくひどい匂いがするので一発でわかる。
 明かりを見つけ、たどり着いたのは診療所。
 ベルガーの言葉に幾分落ち着きを取り戻したのか、シャナもベルガーを待って診療所のドアを開けた。
 現場というのはいつだって陰惨なものだ。
 採血をひっくり返したというのならどれほど安心できるだろう。
 曲がりそうになる鼻を押さえて、まだ彼は白い壁へと背を預ける。
「ゆう、じ、」
 呟いて、シャナは血の海に足を踏み入れ、うつむいた。
 何かがごろりと転がった跡が、彼女の目の前に空白として残っていた。 
 たまらないな、首を振ってベルガーは、壁から身を起こし、奥へと向かう。
 入り口とは対照的にきれいなままな覗いた休憩室を横目に覗き、診察室へ。
 そこには明確に捜索の痕跡があった。棚の空け方、不要物の扱い、手本どおりの捜索が行われたかがよくわかる。
 調べれば何かの痕跡はつかめるだろうがなにぶん時間がない。
 ポケットの中で携帯をもてあそびながら、ベルガーは待合室へと引き返した。
 途中、もう一度、休憩室を覗く、ゴミ箱は空、テーブルも椅子も自然な行儀よさで並んでいる。
 何となしに、休憩室に入って、ベルガーは気づいた。
 生活臭が、それもほんの数分前まで食事を取っていたような濃密なそれがあった。
 ベルガーは待合室へと身を翻す。 
 シャナは未だ立ちすくんでいた。
 ベルガーは拳を握り締める彼女の横に屈み、指を血溜まりに、すぅっ、と走らせた。
 血はわずかな粘性を持って、彼の一刺し指を朱に染める。
「シャナ、よく見ろ」
 ベルガーが指と指をこすり合わせて見せる、まだ乾ききっていない血液が、指全体に広がった。
「近くに誰か『存在』しないか?」
 シャナも彼の発言の意味を理解する。
「いる、近くで、ここから離れてく」
 頷き、ベルガーは外に出て、エルメスを押して戻ってきた。とスタンドを立てて固定する。
「あれ? お留守番?」
「そうだ。追うぞ、シャナ。俺の後ろ、『存在の力』がわかる程度に離れて追ってきてくれ」
 シャナが眉をひそめる。
「尾行するの? なんで?」
「何も情報がないからだ。悠二は無事か否か、無事でないとすれば大集団か小集団か、戦力規模はどれぐらいか。
 襲撃者に備えてわざと分進している釣りの可能性もある」
 さすがに君が暴走することのないように、とは言わない。
「始終事項ってやつだね」
「二重尾行だ」
「そう、それ」
 告げて、ベルガーは携帯を取り出した。短縮を押してセルティを呼び出す。
 コール10回。
「もしもし?」
 出たのはリナだった。
「リナか? 例の悠二の痕跡を見つけた。これから追うので少し遅くなる」
「え、ちょ、ちょっと待ちなさいよ」
「なんだ?」
「あ、えーと、どれくらいかかる?」
「わからん」
「わからんって、あんたはストッパーなんでしょ、その辺わかってる? ちゃんとその自覚はあるの?」
「君の言いたいことはわかる。が、リナ=インバース、果たして」
「あぁっ、もうわかってるわよ、君なら彼女を止めれるか? ていうんでしょ」
「違うな」
 ベルガーはちらりと横目にシャナを捕らえる。
 疲弊こそしているものの、彼女の頭は先ほどより冷えているように見える。
 今も少しでも情報を引きずり出そうと考えてるように見えた。
 彼女は土壇場で冷静さを取り戻しつつあった、よく訓練された証左である。
 もしかすると悠二に対する感情も、依存というより信頼に近いものだったのかもしれない。
 それらを踏まえてベルガーは応えた。
「俺は彼女を止める不利益を言っている。ここで連れ帰ることはできるがそれで果たしてその後に結束は保てるのか?
 俺の目的は安全の確保などではなく、このゲームからの脱出だ。必要とあらば時には危険な橋も渡る。
 それは君も同じだと思っていたのだが」
 リナが無言を返す。
「では切るぞ、頃合を見てまた連絡する」
 通話を切って、ベルガーは携帯をポケットにねじ込んだ。
「そうだ、血があるんだ」
 と、シャナが唐突に閃いた。
「悠二はトーチなのにこんなに大量の血液が残るなんておかしいのよ」
 シャナと悠二のはじめての接触、彼女は悠二を袈裟懸け切り飛ばした。
「トーチの悠二は血を流さない」
 言い切るシャナに、ふむ、とベルガーは顎をなでる。
「もしこのおびただしい血液が彼のものだとしたら。シャナ、それは実に興味深いことだ。
 だが今は先を急ごう。雨は収まってきているが、入れ替わりに霧がでてきている」
 彼が死ぬ前に、ベルガーはその言葉を飲み込んで、そして一歩を踏み出した。

566坂井悠二  ◆MXjjRBLcoQ:2005/10/09(日) 21:56:30 ID:pBSSTsig
《C-8/港町/一日目・17:10》
『不気味な悪役失格』

【佐山御言】
[状態]:全身に切り傷 左手ナイフ貫通(神経は傷ついてない・処置済み) 服がぼろぼろ
[装備]:G-Sp2、閃光手榴弾一個
[道具]:デイパック(支給品一式、食料が若干減)、地下水脈の地図
[思考]:参加者すべてを団結し、この場から脱出する。  怪我の治療
[備考]:親族の話に加え、新庄の話でも狭心症が起こる


【宮下藤花】
[状態]:健康  零崎に恐れ 
[装備]:ブギーポップの衣装
[道具]:支給品一式
[思考]:佐山についていく


【零崎人識】
[状態]:全身に擦り傷 額を怪我(処置済み)
[装備]:出刃包丁/自殺志願
[道具]:デイバッグ(地図、ペットボトル2本、コンパス、パン三人分)包帯/砥石/小説「人間失格」(一度落として汚れた)
[思考]:気紛れで佐山についていく 怪我の治療
[備考]:記憶と連れ去られた時期に疑問を持っています。

【C−8/診療所/1日目・17:15】
『ポントウ暴走族』
【シャナ】
[状態]:平常。火傷と僅かな内出血。吸血鬼化進行中。
[装備]:贄殿遮那
[道具]:デイパック(支給品一式(パン6食分・水2000ml))
[思考]:聖を発見・撃破して吸血鬼化を止めたい。
    ベルガーをそれなりに信用 
[備考]:内出血は回復魔法などで止められるが、体内に散弾片が残っている。
     手術で摘出するまで激しい運動や衝撃で内臓を傷つける危険有り。
     吸血鬼化は限界まで耐えれば2日目の4〜5時頃に終了する。
     ただし、精神力で耐えているため、精神衰弱すると一気に進行する。

【ダウゲ・ベルガー】
[状態]:心身ともに平常
[装備]:エルメス、鈍ら刀、携帯電話、黒い卵(天人の緊急避難装置)携帯電話
[道具]:デイパック(支給品一式(パン6食分・水2000ml))
[思考]:仲間の知人探し。不安定なシャナをフォローする。
 ・天人の緊急避難装置:所持者の身に危険が及ぶと、最も近い親類の所へと転移させる。
 ※携帯電話はリナから預かりました

567 ◆Sf10UnKI5A:2005/10/09(日) 23:52:39 ID:HBjOjtXg
「……ここよ。誰かいる」
「病院、というより町医者か? 随分至れり尽くせりの島だな」
 狭い港町を探索する、ベルガーとシャナの声。
 少し前、シャナは調べたい場所があると言いエルメスを止めさせた。
 ベルガーが物陰にエルメスを隠すとシャナはすぐ歩き始め、少し離れた診療所の前で足を止めた。
「佐藤聖がいるのか?」
「判らない。でも、この感じは多分違う」
 『存在の力』について、シャナはマンションで簡単に説明を済ませていた。感度が鈍っていることも含めて。
 ベルガーが港への強行軍を提案したのも、多少はそれを当てにしてのことだ。
「知らない奴なら情報交換だけして、後は医療品でも貰って帰るか。……開けるぞ」
 シャナが頷いたのを見て、ベルガーはそっと扉を開けて中に入った。
 視界に誰もいないのを確認し、シャナを招き入れてベルガーは待合室へと進む。
 しかし、すぐにその足は止まった。
 もはや“それ”を見慣れたベルガーはわずかに嘆息するだけだったが、
「……悠二……?」
「ッ!?」
(こいつが坂井悠二だと!? よりにもよって最悪のケースか……!!)
 坂井悠二は、腕と首が胴体から離れ、血溜まりの中にその三つを転がしていた。
 切断面から大量に流れた血は、彼にまだらな血化粧を施している。
 目と口は開かれたままで、表情には恐怖が張りついている。
 とても楽に死ねたとは思えない状況だった。

「――――いやあああぁぁぁああぁぁぁぁっっっ!!!」

568 ◆Sf10UnKI5A:2005/10/09(日) 23:53:30 ID:HBjOjtXg
 服が汚れるのも構わずシャナは血溜まりに膝を着き、悠二の頭部を取り上げた。
 開いたままの彼の瞳を覗き込み、泣き叫ぶ。
「悠二っ! 悠二っ!! 何で!? どうして!? 誰が、こんなっ……!!」
「落ち着けシャナ!!」
 ベルガーが横から肩を掴む。が、
「触らないでっ!!」
 叫び、ベルガーの顔も見ずに手を振り払う。
 悠二、悠二と物言わぬ彼の名を呼び、その頭を胸に抱き込んだ。
 胎児が丸まる様の如く悠二の頭を抱きかかえ、そのまま血溜まりにうずくまる。
 炎髪はところどころ血の色に染まり、雨に蒸す室内は血の臭いを増幅させシャナに擦り付ける。
「悠二……悠二ぃ…………」
 そこにいるのは気高きフレイムヘイズではなく、悲劇的な現実をぶつけられた一人の少女。
 想う相手の変わり果てた姿に心乱されるただの少女だった。

 悲惨の一語に尽きるこの状況で、ベルガーはシャナに声を掛けず『観察』していた。
(まだ吸わない、か。吸血衝動よりも、単純に死のショックの方が大きいのか?)
 うずくまったまましゃくりあげるシャナだが、血を飲んでいる様子は無い。
(こんなことになるなら、少しは手加減して殴るべきだったか)
 自分が気絶させた吸血鬼の少女――海野千絵を思い出し、ベルガーは後悔した。
 少しでも吸血鬼自身から情報が得られれば、何か対処法があっただろうに。
 そんなことを思いながら、ベルガーはゆっくりとシャナに近づき、軽く肩を叩いた。
「起きれるか?」
 慰めでも励ましでもなく、まずは状態を確認する。
 シャナは悠二を抱えたまま、ゆっくりと体を起こした。
 蒼白とした顔に血と灼眼だけが彩りを与えている。
 半開きになった口からは犬歯が覗いているが、それに血は付いていない。
「話、出来るか?」
 先ほどまでの強気な態度が欠片も見られないシャナに対し、ベルガーは慎重に話しかける。

569 ◆Sf10UnKI5A:2005/10/09(日) 23:54:13 ID:HBjOjtXg
「ベルガー……悠、二が……」
「落ち着け。確かに死んでいるし、それは悲しむべきことだ」
 ベルガーは更に声を落とし、
「気をしっかり持てシャナ。よく聞け。
――坂井悠二が殺されてから、まだそれほど時間が経っていない」
「え……?」
 全く気づいていなかったという風に、呆然とした顔に驚きを浮かべるシャナ。
「床や壁に飛び散った血でも、乾ききっていないものがある。
それにシャナ、君はここに来る時に『誰かいる』と言ったろ?
その誰かが坂井悠二を殺した犯人の可能性もある」
「悠二を殺した奴がいるの!?」
 突然声を荒げたシャナに、ベルガーは、
「落ち着け! 悲鳴のお陰で、そいつは俺たちに気づいている可能性がある。
既に逃げたかもしれないし、逆に襲い掛かる隙を窺っているのかもしれない。
まずはこの診療所の中を調べよう。その後で、……坂井悠二を弔おう」
 弔うという言葉にシャナはひるんだが、ショック状態から多少は落ち着いたのか頷きを返し、
「……判った。でも私は、悠二のそばにいたい……」
「…………」
 うつむき目を伏せるシャナに対し、ベルガーは返答出来ない。
 今のシャナは不意の襲撃者に対処出来そうにないし、一人でいる間に血を吸われたら面倒なことになる。
 どうしたものかと思うベルガーだったが、すぐに思考する必要が無くなった。

「どうやら落ち着かれたようだね? 侵入者諸君」

570 ◆Sf10UnKI5A:2005/10/09(日) 23:55:18 ID:HBjOjtXg
 別室に続くドアが開かれ、声に続いて奇妙な三人組が入ってきた。
 一人は右手に長槍を持ったスーツ姿。一人は顔の半分を刺青が覆っており、
一人はシャナのものとは違う制服を身に纏った女子だ。
 スーツ姿の少年が前に出て、口を開いた。
「お初にお目にかかる。私は――」
「そこで止まれ」
 少年の言葉を打ち切り、彼へと刀を向けたベルガーが警句を放つ。
 足を止めた少年達とは十歩ほどの距離が空いている。
「それ以上許可無く近づいたら敵と見なす。…………まだ切りかかるなよ」
 最後の言葉は、既に贄殿遮那を手に取っているシャナへの注意だ。
「ふむ、初対面だというのに嫌われたものだね? だが安心するといい」
 そう言うと、少年は槍から手を離し床に倒した。
 槍に浮かんだイタイノ、という意思表示は誰にも気づかれなかった。
「戦う気は無いのでね。まずは話し合おうではないか。
私の名は佐山御言。世界の中心に位置する者である。
………………無反応とは寂しいものだね?」
「悪いが、下らない冗談に付き合うつもりはない」
「それは残念だ。ちなみにこの派手な顔をした不良が零崎君、
後ろのピチピチ現役女子高生が宮下藤花君だ。君達の名は?」
「その前に聞くが、お前らはこの死体に関係しているのか?」
 友好度皆無の剣呑極まりない質問だが、答える声は軽いものだった。
「ああ、そいつは俺がさっき殺した――――そんな怖い顔するなよ。そいつだって悪かったんだぜ?」
 殺した、という言葉を聞いた瞬間シャナは飛び出そうとし、ベルガーに腕を掴まれ阻まれることとなった。
「何すんの」
「三対二だ」
「関係無い」
「俺が困る」
 ベルガーは溜め息を一つ吐き、
「今の最優先事項は、君の吸血鬼化をどうにかすること、そしてそのために佐藤聖を探すことだ。
悪いようにはしないから、ここは俺に任せろ」
 あからさまに不満を顔に出すシャナを無視し、ベルガーは零崎を刀で指し示した。
「その殺人者を置いて消えてくれ。そうしたらアンタら二人には手を出さない」

571 ◆Sf10UnKI5A:2005/10/09(日) 23:56:18 ID:HBjOjtXg
 ベルガーの言葉に対し佐山は眉根を寄せ、
「その申し出は承諾しかねる。なんせ零崎君は私の団結決意後の仲間第一号だからね。
凶刃に晒されると判っていて見捨てることは出来ない」
「団結? 生き残るために殺人者同士で手を組もうってわけか」
「誤解してもらっては困る。私は参加者全てを団結させ、
ゲームを終わらせるために皆力を合わせようと言っているのだ。
参加者同士で争うのは、ゲームを作り上げた者に踊らされていることに他ならない。
生きて帰りたいと思うのならば、まず戦いを止め、手を組むことから始めるべきだ。
現に君達も行動を共にしているではないか。それと同じことだ」
「違うな。俺は単にか弱い少女を一人にはさせておけなかっただけだ。
同行者の友を殺した馬鹿野郎に出くわせば、仇討ちに手を貸すくらいの甲斐性はある」
「目先の仇にこだわるよりも、このゲーム自体を壊す方が先ではないかね?
恨みの連鎖で殺し合いが続くことを一番喜ぶのは誰だ?
――最初のホールにいた連中、そしてこの馬鹿らしいゲームの影で暗躍する者だ!!」
「ッ!?」
 佐山の一喝が待合室の壁に反射する。
 シャナはその言葉にひるみ顔を歪ませたが、一方のベルガーは涼しい顔だ。
「……御立派な正論だ。だが、既に殺人を犯した馬鹿に死をもって報いることがそんなに否定されたことか?」
「目には目を、かね。下らない私怨はゲームが終わった後で晴らしたまえ」
「平行線だな。既に殺さなければ生き残れない人間がいるってことを判ってない。
お前、初めて人を殺したってわけじゃないんだろ? ツラで判る」
 言葉の後半は零崎に向けられていた。
「かははっ、勘がいいねえお兄さん。でもこの島じゃそんなに殺してないんだぜ?
三塚井は手足の腱を切っただけだし、あの兄ちゃんも両腕切り落としただけで逃げられたし、
あのガキは見逃したし……」
 指折り数えつつ、物騒なことを呟く零崎。
 随分と暴れまわっていたようだね、と佐山も呟く。
「あー、やっぱ全然殺してねえって。
結局殺したのは、そこに転がってるそいつとでけえ義腕のオッサンだけだ」

(『でけえ義腕のオッサン』だと……!?)

572 ◆Sf10UnKI5A:2005/10/09(日) 23:57:15 ID:HBjOjtXg
 場が完全に沈黙した。
 ほんの数秒のことだが、その間各人が何を考えていたかは窺い知れない。
 面子が違えば、単に零崎の口から出た凶行歴に圧倒され、戸惑っただけと取ることも出来ただろう。
 現に、宮下藤花だけは顔を青ざめさせている。
 しかし、ベルガーとシャナは違った。
「シャナ、勝手で悪いが方針変更だ」
 静かに告げるベルガー。表情に変化は無いが、全身から敵意が――殺気が滲み出ている。
「俺にも戦う理由が出来た。他二人は俺があしらってやるから、お前は零崎だけに集中しろ」
 その言葉に、先ほどから怒りばかりを浮かべていたシャナの表情からフッと力が抜けた。
「望むところよ。でもベルガー、余計なことはしなくていい」
「ふむ、二人で内緒話とは羨ましいことだね!? 我々も仲間に入れて――」
 佐山の呼びかけを掻き消したのは、怒声と疾風の如きシャナの動きだった。

「――――すぐに終わらせるからっ!!」

573 ◆Sf10UnKI5A:2005/10/09(日) 23:58:03 ID:HBjOjtXg
 約十歩分の間隔は、足音一つであっさり詰まった。
 神速の如きシャナの斬撃を、零崎はいつ取り出したのか自殺志願で受け止めた。
「かははっ、やっぱりただの女子高生じゃなかったか! もしかして、お前も俺らのご同類か!?」
 喜色すら見受けられる零崎の声。
 シャナはそれを聞き苦しいと思うが、表情には欠片も出さない。
 ただ全力を出すことだけで、怨みと、苦しみと、悲しみを表す。
「…………」
「あん?」
 激しい斬撃から一転、軽く後ろに跳んだシャナは、贄殿遮那を構えて息を吸い込む。
「おいおいどうした、もうお疲れかぁ――――?」

 零崎が嘲りの言葉を放つ間に、彼の右腕は肩口から離れ宙に舞っていた。

「……何やったお前? まさか曲絃糸、じゃねえよな……」
 勢いよく血が吹き出ても、零崎の表情と口調は変わらない。
 シャナの方も数秒前と変わらぬ姿勢で、血の一滴すら付いていない贄殿遮那を構えていた。
「……悠二と、同じ、いや、それ以上の」
 ふっ、とシャナが動いた時には、零崎の左腕も胴から離れていた。
 フレイムヘイズの能力と、吸血鬼の膂力を手に入れつつある彼女にしか出来ない斬撃。
「痛みと苦しみを与えて、殺してあげる」
 もう、シャナはその動きを止めない。
 零崎の右足と左足が一太刀で切り裂かれ、崩れ落ちる零崎が、
「――かははっ、まさに傑作だぁな」
 言い終えると同時、彼の首も胴に別れを告げた。

574 ◆Sf10UnKI5A:2005/10/09(日) 23:58:45 ID:HBjOjtXg
「宮下君、下がりたまえ!」
 シャナの動きを目で追いきれなかったことに驚きつつ、佐山は警句を告げた。
 体を横へと動かしながら、佐山は床に転がったG-Sp2を足先で拾い上げる。が、
「ッ!?」
「兄ちゃん、邪魔はさせねえぞ」
 シャナへと意識がそれたわずかな隙に、ベルガーが間を詰めていた。
 正確に振り下ろされる刀を、やむを得ず佐山は受け止める。
 しかし右手一本の受けは正確なものにはならず、続くベルガーの一撃で佐山は壁際へと寄せられることになった。
「ベルガー君、と言ったかね」
 読唇術で読み取った眼前の敵の名を、佐山は呼ぶ。
「私達が争う理由は無いはずだ。それは先ほども説明したはずだが」
「理由ならあるさ。俺とあの嬢ちゃんが生還するのに、あのガキが邪魔なんでな」
「それはまた、随分と勝手な話ではないかね?」
「そうでもないさ。個々の心情も省みずに全てを受け入れようとする胡散臭いガキよりはな」
 後ろのシャナと零崎、それに目の端の宮下藤花を全く無視し、ベルガーは言葉を続けた。
「ご立派に胡散臭いガキに一つ質問がある。

――シャナのようにお前の友が殺されていても、さっきの台詞は吐けるのか!?」

 何を馬鹿なことを、と佐山は思う。
 あの忌まわしき未来精霊アマワとの対話で見極めたではないか。このゲームの真なる悪を。
 そう思い、しかし脳裏に一瞬、新庄運切の姿が浮かんだ。
 その一瞬の幻影が、彼の体に喰らいつき――――

「ぐっ……!!」
 突然のうめきと共に、佐山が歯を食いしばった。
 佐山の力が完全に緩んだ一瞬。ベルガーにはそのわずかな時間で充分だった。
 ベルガーは刀から手を離すと拳を握り、全力で佐山のみぞおちに叩き込んだ。
「ッ!? くっ、ぁ…………」
「本日二発目、っと」
 ベルガーは崩れる佐山の体を抱え、壁に背をもたれさせた。
 落とした刀を拾いつつ後ろを向けば、
「……確かに、すぐに終わったな」
 五つのパーツに分かれた零崎人識と、返り血で服を更に赤く染めたシャナの姿が目に入った。

575 ◆Sf10UnKI5A:2005/10/09(日) 23:59:31 ID:HBjOjtXg
「さて、宮下藤花って言ったか」
 ベルガーの声に、藤花はビクリと体を震わせた。
 顔は真っ青になり、歯がガチガチと鳴っている。
「あんたには手を出さない。突っ掛かってくる理由も、度胸もないみたいだからな。
こっちの佐山ってのは気絶してるだけだ。俺らが去った後に適当に世話してやってくれ。
帰るぞ、シャナ」
 血を流し続ける零崎の死体を、うつろな目で見つめ続けるシャナ。
 ベルガーは彼女の肩を力強く掴み、揺さぶった。
「……何すんのよ」
「大丈夫か?」
 うつろだったシャナの目に元通りの光が戻り、
「っ、大丈夫って見りゃ判るでしょ。それより、あの二人何で放っとくのよ」
「目的は果たしたんだ、もう行くぞ。……君があの二人を殺すと言うなら、俺にそれを止める権利は無い。
だが、君の吸血鬼化を止める方が優先度は高い。そうだろう?」
「でも、こいつと手を組んでたんでしょ? 今なら二人とも簡単に……」
「坂井悠二ってのは、そんなことして喜ぶ人間か? 直接の仇討ちはもう済んだんだろ」
 その言葉を聞き、シャナはうつむき目を伏せた。
 ベルガーは溜め息を一つつきマントを脱ぐと、それで悠二の死体を包んだ。
「むき出しでエルメスに乗せるわけにいかないからな。
向こうに戻って報告が終わったら近くに埋めてやろう。行くぞ」
「…………」
 シャナは返事こそしなかったが、大人しくベルガーの後に続いた。
 後に残ったのは、血まみれの死体と、血まみれの死体があった後と、
壁に寄りかかる気絶した少年と、茫然自失の少女だけ。

576 ◆Sf10UnKI5A:2005/10/10(月) 00:00:24 ID:HBjOjtXg
 外に出ると、雨は細かい霧雨になっていた。日が沈み始めているのも手伝って視界が悪くなっている。
 とは言え、迷うこともなく少し歩いてエルメスの隠し場所に着いた。
「お帰り。結構遅かったね」
「ちょっとゴタゴタがあってな。屋根の下にいたんだ、別に構わないだろ?」
「でもまた雨の中を走るんでしょ? イヤだって言ってるのに」
「単車は単車の勤めを果たせ。まあこんな天気だ、安全運転するから安心しろ」
 相変わらずのやりとりをする一人と一台を無視して、シャナはサイドカーに乗り込む。
「ほら、頼むぞ」
 シャナは悠二の死体をベルガーから受け取り、包みごしにそれを抱いた。

 エルメスが走り始めて間もなく、
「……シャナ。率直に聞くが、吸血鬼化にあと半日耐えられるか?」
 質問にシャナは眉をひそめ、
「そんなもの、大丈夫に決まってるでしょ」
 強気な答えとは裏腹に、シャナの心中は大きく揺れていた。
 悠二の死体を見た時に、悲しみと共に自然に沸いた『血を吸いたい』という衝動。
 泣き叫びながら、忌むべき衝動と必死に戦った。
 零崎を斬ったときも、首から血が吹き出すのを見て口をつけて飲もうかと思ってしまった。
(……でも、私は大丈夫。“徒”でもない奴が咬んできたくらいで――――ッ!?)
「!? うぇ、げほっ!!」
「おい、どうした!?」
 苦しげな声を聞きベルガーが横を見れば、シャナがサイドカーから身を乗り出して吐いていた。
「ぇほっ、げほっ! ……大丈夫、何でもない」
(何なのよ、この吐き気は……寒さは……)
 言葉通りにはとても見えないシャナを見て、
「どう見ても大丈夫じゃねえぞ。――飛ばすから掴まってろ」
 一難去ってまた一難か、とベルガーは溜め息をつき、エルメスの速度を上げた。


【083 零崎人識 死亡】

577 ◆Sf10UnKI5A:2005/10/10(月) 00:01:36 ID:HBjOjtXg
【C-7/道/1日目・17:20頃】
『喪失者』

【シャナ】
[状態]:火傷と僅かな内出血。悪寒と吐き気。悠二の死のショックで精神不安定。
     吸血鬼化進行中。
[装備]:贄殿遮那
[道具]:デイパック(支給品一式(パン6食分・水2000ml))
[思考]:聖を発見・撃破して吸血鬼化を止めたい。
     吸血衝動に抗っている。気分が悪い。
[備考]:内出血は回復魔法などで止められるが、体内に散弾片が残っている。
     手術で摘出するまで激しい運動や衝撃で内臓を傷つける危険有り。
     吸血鬼化は限界まで耐えれば2日目の4〜5時頃に終了する。
     ただし、精神力で耐えているため、精神衰弱すると一気に進行する。
    (悠二の死を知ったため早まる可能性高し)
     吸血鬼化の進行に反して血を飲んでいないため、反動が肉体に来ている。

【ダウゲ・ベルガー】
[状態]:わずかに疲労。
[装備]:エルメス、鈍ら刀、携帯電話、黒い卵(天人の緊急避難装置)
[道具]:デイパック(支給品一式(パン6食分・水2000ml))
[思考]:仲間の知人探し。不安定なシャナをフォローする。
 ・天人の緊急避難装置:所持者の身に危険が及ぶと、最も近い親類の所へと転移させる。
 ※携帯電話はリナから預かりました

[チーム備考]:マンションに戻って仲間と合流。

578 ◆Sf10UnKI5A:2005/10/10(月) 00:03:03 ID:HBjOjtXg

【C-8/港町の診療所/一日目・17:20頃】
『不気味な悪役』

【佐山御言】
[状態]:気絶中。 左手ナイフ貫通(神経は傷ついてない。処置済み)。服がぼろぼろ。
[装備]:G-Sp2、閃光手榴弾一個
[道具]:デイパック(支給品一式・パン5食分・水2000ml) 、地下水脈の地図
[思考]:不明。(参加者すべてを団結し、この場から脱出する)
[備考]:親族の話に加え、新庄の話でも狭心症が起こる

【宮下藤花】
[状態]:あまりの惨状に茫然自失状態。足に切り傷(処置済み)
[装備]:ブギーポップの衣装、メス
[道具]:デイパック(支給品一式・パン6食分・水2000ml)
[思考]:不明。(佐山についていく)


※備考:診療所の待合室に零崎の死体及び自殺志願と出刃包丁が転がっています。
     また、待合室には別の血溜まりがあります。
     零崎のデイパックは診療所内に置いてあります。

579悪。鬼。泡。神。そして炎。:2005/10/10(月) 20:23:30 ID:5mdI..5s
 バイクの音がした。
 そのとき彼ら──彼らというのは便宜上で正確に言えば男2人と女1人だったが──は港にあった簡易診療所の隣の民家2階にいた。
 男2人は体の傷に包帯や絆創膏を貼り付け、時々会話が起こりかすかに片方が笑っていた。
 それが聞こえたのは髪をオールバックにしている方──佐山御言は切られた耳たぶから白い糸が出ていないか気にしていたときだった。
 雨も弱まってきていた。窓からそっと外の様子を見ると、外に大型のバイクが止まっており、薄暗くてよく見えないが、2人降りて診療所に向かっ

 ていった。
「どう思うね?」
 佐山が近くにいる2人に問いかける。
「怪我でも片方がしたんじゃないかな?」
 ごく一般な女子高生、宮下藤花が答える。零崎とやや距離を置いて座ってるのは、まぁ当然だともいえる。
 零崎はにやにやしたまま答える。
「そうとも限らんぜ。例えば俺が殺した──坂井だったけか?──の身内かもしれねぇな。
こんなとこなんだ。兄弟の気配や世界の敵の気配が判る奴がいても不思議じゃねぇぜ」
 前半は自分の一賊を皮肉ったものだが、後半は特に考え無しに言っただけだ。
 零崎はまだ宮下藤花がブギーポップだと──都市伝説だと知らない。
「どちらにしても──行かねばなるまい。彼の家族だとしたら、零崎は──誠心誠意謝り、たとえ不本意な形でも、
わだかまりが残っても、今は許されないとしても、最終的には仲間にせねばならん」
「謝り──ねぇ。俺の一賊の話をしてやろうか?──とあるアホみたいに背が高くてアホみたいなスーツ着て、
アホみたいな眼鏡つけてアホみたいな鋏を振り回す男がいた──俺の兄貴だけどよ。
そいつにかるーくチョッカイ出した連中は、あっという間にそいつが住んでたマンションの生物全て含めて殺されちまった。
和解も誤りもわだかまりも許しも何もなかった──もし俺が殺した奴の仲間がそんな奴だったら、どうする?」
「それでもだ」
「それでもか」
 かははっ、と声を出して笑った。傑作だ。いや、戯言か?

580悪。鬼。泡。神。そして炎。:2005/10/10(月) 20:24:12 ID:5mdI..5s
「で、そいつがだ。仲間を殺した俺の言葉を一切聞かないで、俺の仲間のアンタの言葉を一切聞かないで殺しにかかったらどうする?」
「うむ。その場合は──逃げたまえ。最初に自分が殺した、と宣言したらと恐らくそちらに追いかけていくだろう。
捕まらぬように逃げて、復讐者が追っかけている間に別方面からアプローチする。
そう簡単に復讐を諦めてくれるとも思わんが──必要なことだ」
「それに例えば、だ。その復讐者が逃げ切れないほど強くて、俺を殺した後、俺の仲間のお前らも殺して、
しまいにゃあ憎くて憎くてこの世界ごと抹消してしまうような魔王的な存在だったらどうする?」
「そのときは──」
「そのときは、そう。もはやそいつは世界の敵だ──そしてぼくの敵になる。それだけさ──」
 2人は不意にあがった声の主、宮下藤花に目をやった。
 男のような表情は、次瞬きをした瞬間元に戻っていた。
「あれ? どうしたの?」
「……何でもないとも宮下君。いや、急ごう。あの2人が診療所に入った」

「───────」
 声にならないで口から抜けていく空気の音を聞きながらベルガーは立ち尽くした。
 最悪の結果だったか。音を出さずに歯を食いしばる。
 シャナは坂井悠二の体の横に座り込み、首から上を抱いて。
 その口からは喉が潰れたように声が出ず、単に空気が抜けていっていた。
「───ゅぅっじ……がぁっ。悠、二っがぁぁぁぁぁ!!」
 ようやく出てきた声は慟哭だった。泣き声をはらんだその声は今までの生意気な少女の面影を見せない。
 天井を仰いだその顔には絶望が深く刻まれていた。

581悪。鬼。泡。神。そして炎。:2005/10/10(月) 20:24:56 ID:5mdI..5s
(まずいな……このままでは、吸血鬼になるのは時間の問題、か?)
「悠二が、死んでっ…誰がっ」
「落ち着け」
 シャナの嘆く声を聞きながら辺りを観察する。
 坂井悠二が死んでいる近くのドアが開け放たれて、中で騒動があったように散らかり、窓が割れていた。
 恐らく何者かが戦闘を行ったのだろう。雨の打ち込み具合から、そう古くはないようだ。
 このままここにいて、死体を目の前にしていたら、いつ吸血鬼が発露するとも限らない。とりあえず、とベルガーは声を掛けた。
「シャナ、とりあえず今はマンションに戻るぞ」
「でも、悠二が……!」
「……シャナ。そいつも連れて行く。ここに置いてても仕方ないだろが」
「悠二悠二悠二悠二悠二……」
「シャナッ!」
 乱暴にシャナの体を揺らす。シャナが驚いたように顔を上げる。
「しっかりしろ。吸血鬼になるぞ」
「でも、悠二がぁぁぁ……」
 ベルガーはかぶりを振った。これはもう理屈じゃ駄目だ。
 しかしこの場に留まったら間違いなくシャナは本当にすぐ吸血鬼になるだろう。
 この場から動きそうにない少女の姿を見ながらどうしたものかと考える。
 少年の死体を見る。血がさらさらとしている。それはつまり殺されて間もないということだ。
(まだ犯人は近くにいるか?)
 シャナに注意を呼びかけようとした、そのとき。

582悪。鬼。泡。神。そして炎。:2005/10/10(月) 20:25:57 ID:5mdI..5s
「ちょっくら悪ぃんだけどよ──」

 開け放たれたドアから男が1人上がってきた。
 その男──零崎人識は慣れないことをするように頭を掻きながら近づいてきた。
「近寄るな……敵か?」
 完全に無視して零崎はシャナのほうに指を向けて言った。
「その──坂井だっけか? やっぱりお前らのお仲間だった?」
 シャナが顔を上げて零崎を見る。
「おまえは──」
「──なんだ?」
 後半はゼルガーが補った。
「いきなり哲学的なこと聞かれてもなぁ。傑作だっつーの。
俺は零崎人識っつーんだけどよ、なんていうか? お前らに謝りに来たんだよ」
「謝りって…」
「そう、その坂井を殺してすいませんってな」
 ギシ、音を立てたように空気が一瞬で変わった。
「な……」
「そう俺がそいつを殺した。だけどよ、俺だって殺したくて殺したわけじゃないんだぜ?
まぁ殺したくなかったわけでもねぇけどな。例えば俺が、そいつは俺と会った瞬間そこに落ちてる狙撃銃を振り回してきた。
俺は撃たれるまいと必死で抵抗してそうなっちまった、つっても信じねぇだろ? 実際そうじゃねぇしな。
ただすいません、恨まないでください、それだけだ」
「それだけ……」

583悪。鬼。泡。神。そして炎。:2005/10/10(月) 20:26:50 ID:5mdI..5s
 シャナの瞳が燃え上がるようになっているのをベルガーは確認した。
(いきなり来たこいつは──なんだ? 本気で犯人が名乗り出るとは思ってなかったが)
 零崎は一見余裕に、しかしいつでも逃げ出せるように体重を移動させつつ再び口を開いた。
「ああそれだけだぜ。悪いとは俺も思ってるんだ。んで、埋葬手伝うかなんかするからよ、アンタらに俺の仲間になって欲しいわけ。
別に殺し同盟とかじゃないぜ、脱出&黒幕打倒同盟ってのによ。恨んでくれても憎んでくれても構わないぜ。
ただこのゲームの黒幕とか殺した後に殺し合いとかはしようって訳だ。どうよ?」
「ふざけるな!!」
 シャナが叫んで立ち上がった。
「おまえが悠二を殺した──殺される理由としてはそれで十分だ!」

「本当にそうかね?」

 奥にの階段の踊り場から悠然と見下ろしてる少年と少女がいた。
 佐山は零崎が話している間にわざわざ家をよじ登り二階の窓から侵入していた。
「例えばこう考えることは出来ないかね。零崎人識が坂井悠二を殺したのはこの企画の黒幕のせいだと。
坂井悠二は『偶然』ここに立ち寄った。零崎人識もだ。そして2人は『偶然』同じ時間帯にここに入り、零崎が『偶然』殺害した。
偶然もここまで重なると必然かと疑いたくなるね?」
「……こいつの仲間か」
 佐山は仰々しく頷いて胸を張り名乗った。
「そうとも。私は佐山御言、世界は私を中心に回るものである!
ふふふ驚いて声も出ないようだね。それはそうと零崎、君は究極的に謝るのが下手だね。全く見てられない」

584悪。鬼。泡。神。そして炎。:2005/10/10(月) 20:27:53 ID:5mdI..5s
 シャナが横目で佐山を睨む。ただし体は零崎に殺意を向けたままだ。
「おまえもコイツの仲間なら、殺してやる」
 佐山は肩をすくめながらシャナの目を見て語りだした。
「初対面からいきなり殺害宣言とは物騒なことだね。一応言っておくが、私は彼を殺害していない。
だからといって零崎が悪いわけでもないのだよ。──ふむ? 彼を殺したのは確かに零崎だ。
そう、先ほども述べたとおりいくつもの偶然で、ね。しかしその偶然を裏から操っている者がいたら?
彼が殺されたのも、彼女が零崎を殺そうとしているのも、全てその裏で糸を引く者の思惑どうりだとしたらどうかね?」
「何が言いたい。陰謀論者か。ガキの戯言に付き合う気は無いぞ」
「ふむ。確かに誰かが言い出す陰謀の9割は誇大妄想か何かだろう。
ただし、それはこの佐山御言には当てはまらない、とも言っておこう。
殺人犯の刺した包丁を恨む──の例えを使わなくとも分かると思うがね。
私はもはや誰かが誰かを殺すのは許可しない。その零崎もしかり、だ。
折れた包丁を恨むのはよしたまえ。殺された彼も──」
 だん、と踏み込む音がした。
 シャナが神速の抜き打ちで零崎を切り殺そうとした。
 零崎は話し出したときから予測していた切込みを、本当に紙一重で避けた。耳につけてたストラップが引きちぎれる。
「黙れ。黙れ黙れ。黙れ黙れ黙れ。コイツは殺す。悠二と同じところを切断してやる!」
「言ったろ? 無理だってよ。無理無理。死体目の前にして、犯人目の前にして、冷静で居られるのは──なにかしら欠陥がある奴だけだよ」
 再び首をめがけて飛んできた切っ先をバク転して外に飛び出しつつ、避ける。
 シャナも入り口の扉を切り裂いた刀を構えなおし追いかけた。
「ベルガー! 悠二を!」
「どうしたどうした? おいおい赤色ちゃんよ! 威力はバケモンだけどよ、太刀筋が見え見えだぜ?」

585悪。鬼。泡。神。そして炎。:2005/10/10(月) 20:28:45 ID:5mdI..5s
 ざっざっざ、と診療所から離れていく足音と声。
「……アンタは奴を助けに行かないのか? まぁ行かせないがな」
「零崎の問題だよそれは。私がここで助力したら誠意が無い、というものだ。
彼女は零崎が説得し、君は私が説得する。少なくとも我らの誠意は本物だよ?
宮下君は下がっていたまえ。さあ──交渉を開始しようか」

 戦いの舞台は外へと移った。
 逃げる零崎と追うシャナ。逃げる殺人鬼を追う復讐鬼。
(かははっ! 意外としんどいっつーの 余裕ぶっかましてるけど避けんので精一杯じゃねえか 当たったらお陀仏だしよ!)
「だから、謝ってんじゃねぇか! とりあえず黒幕殺してからにしようぜ。殺しあいは後だ後」
「謝ったところで悠二が戻ってこない! 殺したのはお前だ、お前を殺した後黒幕とやらも殺してやる……」
 零崎はシャナの間合いぎりぎりで振り返り顔に手を当てた。
 不審に思ったシャナも立ち止まる。殺される覚悟はできたか、と声をかける。
 全然、と前置きして零崎は答える。
「ふと思ったんだけどさ……お前ってもしかして人を殺したいだけじゃねぇのか?」
 何をバカなことを、そう鼻で笑ってシャナは刀を構えなおす。
「断言するぜ。俺が別に坂井悠二を殺さないでも、お前は俺を殺そうとしただろうよ。
何かと理由をつけてな。例えば『悠二がコイツに殺される前に、私がコイツを殺さなければ』とかいってな。
もしかして、お前は既に何人か同じ理由で人を殺したんじゃねぇか?」
 息を呑む。確かに以前混乱して2人組みを襲った。
 殺しはしなかったが、殺しても良いと思った。

586悪。鬼。泡。神。そして炎。:2005/10/10(月) 20:29:30 ID:5mdI..5s
「それにもう1つ質問だ。さっきまで坂井の死体を抱いててお前の顔に血がこびりついてたよな。
もう雨は止んでる──口元についてた血が無くなってるぜ?」
 その言葉でショックを受けた。
 悠二。血。飲む。舐める。吸血。鬼。殺人。復讐。血。飲む。血。血血血血血。
 今まで意識して無視してた感情が一気に噴出す。
(悠二が死んで。コイツが殺して。復讐しようと。怒って。悲しんで。血を。飲みたく…? 違う。違う違う)
「おーいどうした? 調子悪いのか?」
 零崎が近づいて顔を覗き込む。
 あ、と声を出す。同時に炎が膨れ上がる。
「うおっ!?」
「お前がぁ、死ねばっ!」
 視界が一瞬炎で隠れた隙にシャナが刀を振りぬく。
 零崎は包丁で防御しようとしたが、包丁が音も無く切断される。
 それでも何とか避けきる。包丁で僅かながら速度が落ちたためだ。
「こなくそっ!」
 切り取られた包丁の半分をシャナの右手に投げつける。
 飛んできた包丁を避けもせずに、半ば折れた凶器は肩に刺さった。
 それでも一度離れた間合いを詰めようと前進してくる。
「もうこれ以上の戯言は無理かよ……後は佐山に任せるか」
「悠二の仇を果たす。殺す殺す殺してやる」
 同時に爆発するようにシャナの体が零崎に迫る。
 技量も何も関係なしの胴を両断する軌跡。ただし当たれば鋼すら切断するだろう。
 故に全力をかけた攻撃は殺人鬼に先読みされた。
 零崎はあらよっと、という掛け声と共にシャナの頭上を飛び越えていた。
 一度撃たれたら防御できずに殺される攻撃も、最初から来ると分かっていれば別だった。

587悪。鬼。泡。神。そして炎。:2005/10/10(月) 20:30:51 ID:5mdI..5s
 贄殿遮那が空を切る。零崎はシャナをすり抜け、ダッシュ。
 シャナが振り返ると、零崎は既にエルメスに跨っていた。いつの間にか元の場所に戻っていたようだ。
「じゃあな。頭が冷えたらまた謝りに来てやんよ。かははっ!」
 どるぅん、とエンジンが点いてエルメスは走り出した。
 待て、とシャナはバイクと同じ方向に走り出した。殺してやる、と後に続けながら。
 仇を討たねば、悠二の亡骸に合わす顔が無い。ベルガーも何も関係ない。
 もはやシャナは零崎を殺すことを第一目標にしていた。
 その意志だけが、心がくじけ、吸血鬼化するのを抑制していた。その意志すらも吸血鬼の憎悪だったとしても。
 もし彼を殺した後には彼女は──

「ねぇちょっと」
「あん?」
「今度は誰が乗ってるの?」
「……なんだ? 喋んのか? このバイク」
「それは喋るよ。喋らないなんて決め付けてもらっちゃあ困るさ」
「ふぅん。俺は零崎人識ってんだ」
「僕はエルメス。う〜んなんかタライ落としにされてる気分だよ」
「持ち主は誰なんだ?」
「キノっていうんだけど、君は知らない?」
「キノ? ああアイツか。さっき会ったぜ」
「へぇ〜、何か喋った?」
「あーえとな──また会おうねって言ったんだよ」
「ふーん。会えるといいな」
「……ああ『タライ回し』」
「そう、それ」

588悪。鬼。泡。神。そして炎。:2005/10/10(月) 20:31:54 ID:5mdI..5s
【ダウゲ・ベルガー】
[状態]:平常
[装備]:鈍ら刀、携帯電話、黒い卵(天人の緊急避難装置)
[道具]:デイパック(支給品一式(パン6食分・水2000ml))
[思考]:シャナを心配 佐山をどうするか
 ・天人の緊急避難装置:所持者の身に危険が及ぶと、最も近い親類の所へと転移させる。
 ※携帯電話はリナから預かりました

【佐山御言】
[状態]:左手ナイフ貫通(神経は傷ついてない。処置済み)。服がぼろぼろ。
[装備]:G-Sp2、閃光手榴弾一個
[道具]:デイパック(支給品一式・パン5食分・水2000ml) 、地下水脈の地図
[思考]:参加者すべてを団結し、この場から脱出する ベルガーと交渉 零崎の説得のフォロー
[備考]:親族の話に加え、新庄の話でも狭心症が起こる

【宮下藤花】
[状態]:足に切り傷(処置済み)
[装備]:ブギーポップの衣装、メス
[道具]:デイパック(支給品一式・パン6食分・水2000ml)
[思考]:不明。(佐山についていく)

589悪。鬼。泡。神。そして炎。:2005/10/10(月) 22:06:29 ID:5mdI..5s
【C-7/道/1日目・17:40頃】

【シャナ】
[状態]:火傷と僅かな内出血。悪寒と吐き気。悠二の死のショックと零崎の戯言で精神不安定。
     吸血鬼化急速進行中。それに伴い憎悪・怒りなどの感情が増幅
[装備]:贄殿遮那
[道具]:デイパック(支給品一式(パン6食分・水2000ml))
[思考]:1-零崎を追いかけて殺す
     2-殺した後悠二を弔う
     3-聖を倒して吸血鬼化を阻止する
[備考]:内出血は回復魔法などで止められるが、体内に散弾片が残っている。
     手術で摘出するまで激しい運動や衝撃で内臓を傷つける危険有り。
     吸血鬼化は限界まで耐えれば2日目の4〜5時頃に終了する。
     ただし精神が急速に衰弱しているため予定よりかなり速く吸血鬼化すること有り

【零崎人識】
[状態]:全身に擦り傷 疲労
[装備]:自殺志願  エルメス
[道具]:デイバッグ(地図、ペットボトル2本、コンパス、パン三人分)包帯/砥石/小説「人間失格」(一度落として汚れた)
[思考]:シャナから逃亡 落ち着いたら再説得
[備考]:記憶と連れ去られた時期に疑問を持っています。

590殺人鬼ごっこ#:2005/10/13(木) 17:40:58 ID:2SF39t2A
「どうだ? 悠二の気配は近づいてきたか?」
「まだ分からない。でもこれが悠二の気配であることは確かよ」
 シャナとベルガーは、僅かに感じる悠二の気配(正確には存在の力)をたどっていた。
 先程まで降っていた雨はすでに小雨となっており、止むのももはや時間の問題だろう。
 二人は先程までの雨でできた水溜りを、避けようともせずにただ黙々と進む。
 今、二人は潮風に晒されて古びた倉庫の立ち並ぶエリアに来ており、重そうな倉庫の鉄扉はまるで二人を拒絶するように、その全てが閉ざされている。
「本当にこっちで合っているのか?」
「えぇ、少しずつ気配が――!!」
 シャナの言葉が途切れる。
 ベルガーはそんなシャナの顔を覗き込み、問うた。
「どうした?」
 しかしシャナは答えず、恐怖するようにぶるりと震え、顔を青くするだけだ。
「悠二っ!!」
 叫び、走り出そうとするシャナ。ベルガーは慌ててシャナの肩を掴んで引き止めた。
「いったいどうした? 焦るのは得策じゃない」
「悠二の気配がはっきり分かったのよっ!」
「ならば余計に落ち着いて――」
「存在の力の気配が凄く小さいの! 早く行かないと悠二が危ない! あんたと行ってたんじゃ時間がかかりすぎる、あたしが先に行くわ!」
「まて! シャナ!」
 しかし走り出したシャナにベルガーの声が届くはずがない。
 ベルガーは慌ててエルメスに跨り、人外のスピードで走るシャナを追うが。
「ちっ! 狭い路地を行きやがった。エルメス、すまないがここで待っていてくれ」
「あいよー」
 軽い返事のエルメスを乱暴に倉庫の影に停め、ベルガーは路地へと入る。
 ――チッ ベルガーは内心で舌を打ち、とにかく走った。
 顔の横を冷たい風が過ぎ、小降りの雨が体をぬらす。
 ベルガーは全力で走っているが、もうシャナの姿はどこかに行ってしまって見えない。しかしそれでも、彼は走る。
 走り、走り、ガラクタを飛び越え、また走り、呟いた。
「早まるなよ、シャナ――――!」
 ベルガーは倉庫街の路地を抜けた。

591殺人鬼ごっこ#:2005/10/13(木) 17:41:59 ID:2SF39t2A
(――この家!!)
 彼女、シャナはそう確信し、勢い良く玄関の戸を蹴破ると中に転がり込み、叫んだ。
「悠二!!」
 しかし廊下に彼は居ない。しかし“彼”があった。
 彼女はそれを見て、息を呑む。
 それは一瞬のような永遠。
 まるで久遠のような刹那。
「あ、ぁぁぁぁぁぁぁ……」
 一歩。今にも崩れそうな足取りで歩を進める。
 二歩。その燃えるような灼眼からは、火のように熱い涙がこぼれる。
 三歩。いつもは自信に満ちた言葉が放たれるその口から漏れるのは、嗚咽のみ。
 四歩。ピチャリ、と血だまりに足を踏み入れる。
 五歩。その一歩を踏み出し、同時に崩れるように膝を突く。
「あ、うぅぅぅぅ……」
 彼女はゆっくりと、彼の首へと手を伸ばす。
「ゆぅ……じ……ぃ……」
 彼の首を持ち上げ、その虚ろな瞳を見つめる。
「だれが、そん、な」
 片手で、胸に抱き。
「悠二を、…だれ……が」
 片手を、血だまりに伸ばす。
「殺して、、、殺し」
 血塗られた手を、口元に伸ばし。
「殺……して、や――」

592殺人鬼ごっこ ◆xSp2cIn2/A:2005/10/13(木) 17:42:56 ID:2SF39t2A
「傑作だぜ」

 その手を、唇の前で止める。
「いや、戯言かな?」
 彼女はゆっくりと、後ろを振り向く。
 そこに居たのは、顔面を刺青で覆う、小柄な少年。
「あんた、だれ?」
「俺は零崎。零崎人識」
「何しに、来た……」
「謝りに来た」
 少年は可笑しそうに――犯しそうに、笑う。
「今まで誤り続けてきた俺だが、まさか謝ることになるとはな」
 少女は、少年を睨みつけている。
「謝る? 何を?」   
 少年は笑みを濃くし―― 思 い っ き り 頭 を 下 げ た。
「すまねぇ、俺がそいつを殺した」
 少女が答える。
「赦さない」

593殺人鬼ごっこ ◆xSp2cIn2/A:2005/10/13(木) 17:43:51 ID:2SF39t2A
 先手は勿論、シャナだった。
 頭を下げたままの零崎に鋭い突きを放つ。
 零崎はまるで頭頂部に目があるかのように、絶妙なタイミングでしゃがみ、切っ先を避ける。
 素早く腕を戻そうとするシャナに、いつの間にか自殺志願を抜き放った零崎が切りかかった。
 シャナはギリギリで贄殿遮那を戻し、それを受け止める。
 甲高い金属音と共に、火花が散る。
 再び零崎が切りかかり、シャナがそれを受ける。
 さらに二度、三度と刃を交わし、交錯し、弾けるように離れ、距離をとる。
「かはは、こっちは謝ってるってのに、いきなり切りかかってくるか?」
「うるさい」
 短く言葉を発し、シャナは跳んだ。
 一瞬で詰まる間合い。煌めく刃が零崎を横薙ぎに襲うが、しかしそれを後ろに跳んで軽くかわす。
「おいおい、太刀筋が見え見えだぜ」
「うるさい!!」
 怒りは、悲しみは、高ぶった感情は、容易に刃を曇らせる。
 嘆きは、哀しみは、収まらない思いは、容易に鉄をも切り裂く。
「ハァッ!」
 突き出された刃が、一刹那前まで零崎の頭があった場所を通り過ぎ、幾本かの髪を引きちぎった。
「おっとぉ!」
 突き出されたままの刀が、そのまま下に振るわれた。
 肩を狙ったそれを、零崎は半歩体をずらして避けると、逆に前へ出ることになる方の片足をシャナの横腹へと叩き込んだ。
「カッ――はぁっ!!」
 シャナは激痛に怯むが、すぐに体勢を立て直す。常人ならこうは行かない。内臓をもろに破壊され、血を吐いて倒れるだろう。
 しかしフレイムヘイズである彼女には一瞬の隙を生み出させることにしかならない。
 だが、その一瞬で十分だった。
 零崎は、シャナが一瞬怯んだ隙、ほんの一刹那を利用して――

 ――逃げた。

594殺人鬼ごっこ ◆xSp2cIn2/A:2005/10/13(木) 17:44:31 ID:2SF39t2A
 それは一瞬の弁解の余地も一遍の疑いの余地もない、逃亡だった。
 それは誰がしようが誰がされようが紛れもなく、逃走だった。
 零崎はかつて唯一の、唯一彼が兄と認めた存在だった、その自殺志願の持ち主であるところの零崎双識がしたように、走って。
 走って、走って、走って走って走って走って走って走って走って走った。
 かつて、零崎双識が赤い髪の鬼殺しの幻影から逃げたように、
 今、零崎人識は炎髪の、同胞殺しの容れ物から逃げて、
 逃げて、逃げて、逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げた。
 彼は走りながら、数十分前のことを思い出す。

 死体が放置され、さらに佐山と零崎の乱闘によって破壊された部屋、家にいつまでもいるわけにもいかず、彼らが向かいの民家に移ろうとしていたその時だ。
 西の方角からバイクの排気音のような、とりあえず無視するわけにもいかないほどの轟音が聞こえてきた。
 彼らが民家へ移動してから、零崎が訊いた。「で、どうするよ?」
 その問いに、佐山は答える。
「今のバイクの音は、大体この港の入り口で止まった。つまり今、その顔も知らない誰かはこの港を徘徊している。
もしくは既にどこかの民家で雨宿りをしていることだろう。その彼ないし彼女があの少年――坂井、だったかね? その坂井君の知人である確立はそう高くないが、
しかしあの診療所、診療所と言うだけあって何か役立つものが手に入るのではないかとやって来る者も多いだろう。既に坂井君に零崎君、そして私たちと言う前例もあることだしね。
 我々としては早く協力者を集めたいところなのでその誰かを探してもいいが生憎この雨だ。この中を歩き回るのは得策ではない。
 そこで、だ。その誰かがこの診療所へやってくるのを待ち、彼が診療所に入り坂井君の死体に驚いているところをこちらも玄関から入って不意打ちで説得する。
名付けて『集客率100%! 協力者ホイホイ大作戦』どうかね?」
 零崎はなるほどな、と笑い、さらに問う。
「もしそいつが、坂井の知り合いだったら?」 
 佐山はふむとうなずくと、それならば  
「彼は診療所に入り、必ず坂井君の死体を見ることになるだろう。その様子を見て、もし坂井君の知り合いのようなら――
 ――零崎君、君一人で行きたまえ。」

595殺人鬼ごっこ ◆xSp2cIn2/A:2005/10/13(木) 17:45:16 ID:2SF39t2A
「ははん、いちいち死体を見つけるまで待つのはそのためか。しかしなんで俺一人なんだ?」
 零崎は怪訝そうな顔で佐山を見る。
「なに、そういった問題は当事者同士で解決すべきだろう」
「もしおれが説得に失敗し、相手が襲いいかかってきたら?」
「可及的速やかに無力化したまえ、殺してはダメだよ?」
「もし相手が、俺の手に負えねぇようなバケモンなら?」
「逃げたまえ。少し時間を稼いでくれればこちらも援護しよう」
「時間も稼げないようなくらい相手が強かったなら?」
「何とかしたまえ」
「なんとかってなぁ、こっちは命かけてんだぜ?」
「なに、こっちだって命がけだよ」
「かはは! ちがいねぇ」
「それに――」
「あ? それに?」
「――その程度には、君を信頼しているということだよ」
 零崎はその言葉に一瞬きょとんとして。
「はっ! 傑作だぜ」
 零崎は笑い。
「戯言じゃないのかい?」
 佐山も笑った。

596殺人鬼ごっこ ◆xSp2cIn2/A:2005/10/13(木) 17:46:05 ID:2SF39t2A
「ふう、どうやら零崎君はわずかにでも時間を稼いでくれたようだね」
 佐山は三階建ての倉庫の屋上から、眼下に広がる港町を眺めた。
「作戦通りに行くといいのだが……」
 佐山は小声でいい、十数分前の会話を思い出す。

「零崎君、この地図をみたまえ」
「あ? こりゃ、港の地図か?」
「そう、たまたまそこの本棚で見つけてね」
「で? これがどうしたってんだよ」
「なに、もしものための逃走経路の確認だよ。もし相手がバケモノの場合のね」
「かはは、なるほどな」
「ここを見たまえ。 この住宅街の真ん中にあるのが診療所だ。もし逃げる場合、西の倉庫外のほうに逃げること。そのときはなるべく時間を稼ぐように
路地を通ったり、迂回したりとしながらここ、この倉庫に囲まれた広場になっているところにきたまえ」
「そうすると、どうなるんだ?」
「その広場に相手が入った瞬間、この狙撃銃で援護する」
「おいおい、どこから狙う気だ? 当てられるのか?」
「なに、当てる必要はない、足止めさえできればいいのだからね。ここでうまく時間を稼げたら、君はそのまま逃げられるところまで逃げ、
そうだね、分かれてから一時間後に湖の地下通路への入り口に集合しよう」
「お前らは?」
「私は――その彼を、説得してから行こう」

597殺人鬼ごっこ ◆xSp2cIn2/A:2005/10/13(木) 17:47:37 ID:2SF39t2A
 佐山はゆっくりと目を開け、周りを見渡す。藤花が見当たらないが、きっとトイレにでも行ったのだろう。心配だがいまはここを離れるわけにはいかない。
 ――それに彼女には『彼』がついているしね。
 今やほとんど日が沈んでしまっているが、ここから広場は早退した距離でもないし、目はすでに慣らしてある。
 佐山はゆっくりと深呼吸をし、狙撃銃をチェックすると、銃口を広場に向け、スコープを覗く。
 遠くにあった広場が、途端に近くなる。
 近くの倉庫が爆発した。相手はなかなかの過激派らしい。零崎は順調に広場に向かっているようだ。
 佐山は神経を集中すると彼らが広場に入ってくるのを待つ。
 待って、待って、待って――倉庫の壁が爆発した。
 そこから飛び出してくるのは銀長髪の少年に、半瞬送れて赤髪、いや、炎髪の――
(女? しかも子供か?)
 その小柄な体躯は、どう見ても小、中学生にしか見えない。
 まるで強そうには見えないが
(零崎君が追い詰められるような相手だ、油断はできんな)
 ゆっくりと彼女の足元に照準を合わせ、引き金を――ひいた!!
 気が遠くなるほどの轟音。
 肩が抜けるかのよう反動。
 しかしそれだけの力を持つ弾丸が、炎髪の少女に向け、放たれた。

598殺人鬼ごっこ ◆xSp2cIn2/A:2005/10/13(木) 17:48:28 ID:2SF39t2A
 悠二を殺したと言った男。零崎人識を追っていたシャナは、突然の横合いからの殺気を感じ取り、素早く前進を止める。
 すると彼女の足元のコンクリートが弾け、捲れ、穴を穿たれる。遅れて轟音が鳴り響く。
 しかしその程度のタイムラグでは零崎との距離はそこまで開かない。再び間合いを詰めようと、シャナが地を蹴ろうと足に力を込めようとする瞬間。
 さらに放たれた弾丸が地に穴を開ける。
 二発、三発と弾丸が飛来するが、シャナはそれらを刀で弾いて再び進む。が、彼女と零崎との差は既に倍以上開いている。
「――!! うっとうしぃ!!」 
 さらに襲い掛かる弾丸を贄殿遮那で弾き、シャナは切っ先を弾丸が飛来した方向――佐山のいる倉庫の屋上――へと向け。
「ハァッ!!」
 気合と共に炎弾を放った。

(しまった!)
 弾丸を超えるような速度で迫り来る火炎弾。佐山は狙撃銃を放り、避けようとするも
(!? 避けられない!)
 炎弾は一瞬の間すらもなく屋上に飛来。屋上の半分を抉り消し炭に替える。
「まったく、恐ろしい威力だね」
 その様を佐山は逆さまにひっくり返ってみていた。
「狙撃銃は、もう使えないな。それにしても、もうちょっと優しく救い出せなかったのかね、藤花君――いや、ブギーポップ君」
「おいおい、無茶を言わないでくれよ。僕だって万能じゃない。それに、釣り糸ってのは慣れてないのさ」
 ひゅんひゅんと空気を切り裂く音と共に、宮下藤花――ブギーポップが給水塔の上から飛び降りて佐山の横に降り立った。
「釣り糸ね、まぁここは港町であることだしね」
「まぁね、下ですぐに見つかったよ――――佐山君! 大丈夫!?」
「? あぁ、藤花君。なに、大した事は、ない」
 佐山はそう言いながら立ち上がり、もはや誰もいない広場を見やる。
「後は君次第だよ、零崎君」

599殺人鬼ごっこ ◆xSp2cIn2/A:2005/10/13(木) 17:49:33 ID:2SF39t2A
「かはは! しつこい奴だぜ!」
「逃がさない!!」
 追うシャナに、追われる零崎。
 終わらない鬼ごっこは、終われない。
 路地を曲がり、機材を越え、ガラクタを投げつけ走る零崎。
 空き瓶を弾き、炎を放ち、壁に穴を開け走るシャナ。
 どこまでも続く鬼ごっこ。まるで復讐の連鎖のようだ。
 しかし終われない追いあいは、終わりを迎えようとしていた。
 零崎は、シャナの炎をかわし、倉庫に転がり込む。それこそを、シャナは狙っていた。
 確かに倉庫の中はいろいろなものがあり、それらを盾にしながら逃げることができる。ただし
 それらが盾として機能するならば。
 シャナは自ら倉庫という檻に入った零崎を、全ての力を乗せた炎の奔流で、倉庫ごと消し炭に変えようとしていた。
「これでぇ!」
 足を踏ん張り、神通無比の大太刀、贄殿遮那を倉庫へと向ける。
「終わりっ!」
 全ての力を切っ先に込め、膨れ上がる炎の奔流を、放った――!!

600殺人鬼ごっこ ◆xSp2cIn2/A:2005/10/13(木) 17:50:29 ID:2SF39t2A
 灼熱。
 燃え盛る炎は一瞬で倉庫を包む。
 そこにあったものを溶かし、燃焼させ、消し炭に変える。
 そして激しすぎる燃焼は一瞬で全てのものを燃やしつくし、終わる。
 そこには跡形も、残らない。
 そこには少女だけが、残る。
「やった……の?」
 シャナは放心したように焼け跡を見つめ、しばらくしてその場に崩れる。
「シャナ!」
 声と共に、ベルガーが路地から飛び出してきた。
「シャナ、いったい何が。悠二はいたのか?」
「――いた」
 彼女の呟きは、弱々しい。
「!? じゃぁどこに?」
「でも、殺されてた」
「!?」
「う、ぅぅぅぅ。ぁぁぁぁぁ……」
 うめきを上げながらシャナはうずくまり、
「シャナ! しっかりしろ! シャ――」
「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 地を揺らす咆哮が、轟いた。

601殺人鬼ごっこ ◆xSp2cIn2/A:2005/10/13(木) 17:51:18 ID:2SF39t2A
 港を覆わんばかりの獣のような咆哮。それを聞いていたのは、一人の殺人鬼。
「かはは……俺を倉庫に追い込みてぇみたいだったから、入るフリをしてみたら倉庫ごと吹き飛ばすとはな……傑作だぜ」
 シャナによって燃やし尽くされた倉庫跡から数十メートル離れた少し小さめの倉庫の影で、零崎はぜいぜいと息をつく。
「にしても、おっそろしい女だぜ。なんだ? 俺は赤い髪の女に追われる運命にあるのか?」
 零崎は悪態をつき、その場にぺたんと腰を下ろす。
「しかしこんなところで、いつまでも休んでるわけにはいかねぇ、見つかったら今度こそ終わりだ」
 そう言って零崎は首をふると、再び体を起こし、息を整えて周りを見渡す。
「なんかねぇか? バイクか、せめて自転車でもありゃぁ楽なんだが」
 言い、倉庫脇のガラクタ置き場の影を見て――
「あるよ」
 誰かの声を聞いた。
「あん? だれだ?」
 零崎はきょろきょろと周りを見渡すが、誰もいない。どこかに隠れているのか?
「ここ、ここ。目の前のガラクタ置き場の横」
「ガラクタ置き場?」
 零崎はそのガラクタ置き場へとなんら恐れることなく近づく。
「どこだ?」
「ここだよ、目の前」 
 言われ、零崎は目の前を向き、
「ボクだよ、君の前のモトラド」
 それを見た。
 それは一台の二輪車だった。

602殺人鬼ごっこ ◆xSp2cIn2/A:2005/10/13(木) 17:52:03 ID:2SF39t2A
「うおぅ!!」
 零崎は大げさに驚き、少し距離をとる。
「おいおい、ここのバイクはしゃべんのか?」
「失礼だなぁ、人間じゃないからってしゃべらないと決め付けるのはよくないよ。それにボクはバイクじゃなくてモトラド。間違えないでね」
 言う二輪車――もといモトラドは、かなり饒舌なようだ。
「なに? きみ新しい乗り手? 今日はなんだかよく乗り手が変わるなぁ」
「あ、あぁ〜 なるほど、お前あの赤髪女が乗ってきたバイクだな?」
 納得する零崎は、エルメスの話なんか聞いちゃいない。
「赤髪女? シャナのことかな? それとバイクじゃなくてモトラド。何回言ったら分かるの?」
「わりぃわりぃ、で、俺は零崎人識っつぅんだ」
「ふぅん、零崎ね。ボクはエルメス。よろしく」
 本当に悪いと思っているのか疑問に思うような零崎の謝罪にも気にすることなく自己紹介をするエルメス。零崎もマイペースだが、彼もかなりのマイペースらしい。
「なに? ボクに乗るの?」
「あぁ、鬼殺しから逃げなきゃなんねーからな」
 零崎は話し相手ができ、さらには足も手に入れたことで、上機嫌に答える。
「モトラドの乗り方は?」
「大抵の乗り物なら何でも大丈夫だ。伊達に全国を放浪しちゃいねぇ」
「そう、それなら安心だ。なら早く行こう。モトラドにとって走れないのは、旅の無い人生みたいなもんさ」
「かはは、言うねぇ」
 こうして、戯言遣いの支給品は、戯言遣いのオルタナティブに渡ることとなった。
 そう、それはまるで初めから決定されていたかのように、あっさりと――

 ――因果は、繋がった。

603殺人鬼ごっこ ◆xSp2cIn2/A:2005/10/13(木) 17:52:44 ID:2SF39t2A
《C-8/港町の診療所/一日目・17:40》

【零崎人識】
[状態]:全身に擦り傷と軽いやけど
[装備]:出刃包丁/自殺志願/エルメス
[道具]:デイバッグ(地図、ペットボトル2本、コンパス、パン三人分)包帯/砥石/小説「人間失格」(一度落として汚れた)
[思考]:十八時四十分までに湖へ行く/とりあえずは港から離れよう
[備考]:記憶と連れ去られた時期に疑問を持っています。

『悪役と泡』
【佐山御言】
[状態]:全身に切り傷 左手ナイフ貫通(神経は傷ついてない/包帯で応急処置) 服がぼろぼろ 疲労
[装備]:G-Sp2、閃光手榴弾一個
[道具]:デイパック(支給品一式、食料が若干減)、地下水脈の地図
[思考]:参加者すべてを団結し、この場から脱出する。 十八時四十分までに湖へ行く。ベルガーたちと交渉する。
[備考]:親族の話に加え、新庄の話でも狭心症が起こる

【宮下藤花】
[状態]:健康  零崎に恐れ 足に切り傷(治療済み)
[装備]:ブギーポップの衣装/釣り糸
[道具]:支給品一式
[思考]:佐山についていく

604殺人鬼ごっこ ◆xSp2cIn2/A:2005/10/13(木) 17:54:39 ID:2SF39t2A
『ポントウ暴走族』
【シャナ】
[状態]:放心状態。火傷と僅かな内出血。吸血鬼化進行中。
[装備]:贄殿遮那
[道具]:デイパック(支給品一式(パン6食分・水2000ml))
[思考]:聖を発見・撃破して吸血鬼化を止めたい。……悠二。 
[備考]:内出血は回復魔法などで止められるが、体内に散弾片が残っている。
     手術で摘出するまで激しい運動や衝撃で内臓を傷つける危険有り。
     吸血鬼化は限界まで耐えれば2日目の4〜5時頃に終了する。
     ただし、精神力で耐えているため、精神衰弱すると一気に進行する。

【ダウゲ・ベルガー】
[状態]:心身ともに平常
[装備]:鈍ら刀、携帯電話、黒い卵(天人の緊急避難装置)携帯電話
[道具]:デイパック(支給品一式(パン6食分・水2000ml))
[思考]:シャナの吸血鬼化の心配。
 ・天人の緊急避難装置:所持者の身に危険が及ぶと、最も近い親類の所へと転移させる。
 ※携帯電話はリナから預かりました

[チーム備考]:港を探索し、放送までにC−6のマンションに戻る。


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板