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本ストーリーの修正版を投下するスレッド

1管理人★:2005/03/30(水) 23:53:10 ID:39TnQzOk
本ストーリーの些細な間違いなどを直した、修正版を投下するスレッドです。

書き方はテンプレに従ってください。

227red tint(4/10) ◆jxdE9Tp2Eo:2005/10/26(水) 18:34:40 ID:BAIQk6pw
口をつぐむダナティア、だが何としてもこの医師を自分の陣営に引き込まねば…彼ほどの逸材を自分の傍らに置ければ、
それは百万の味方を得たにも等しい。
まして分散の愚を犯したがゆえに、彼女はむざむざ仲間を失ったのだ。
同じ轍は踏まぬ、そう考えながら雨の中を歩くダナティアだった。

一方のメフィストも険しい表情を見せている。
(あの女、相変わらず不可解極まりない…まるで1人の戦士を育てているようなものだというのに)

「夢では…なかったのだな、俺としたことが」
ずぶぬれになりながらさ迷う宗介、窮地を脱出したとはいえ…もう彼に気力は残されていなかった。
(首を5つじゃ)
美姫の言葉が冷たく響く…もう間に合わない。
いや…まだ手はある、最後の手段が…
「生きていてくれさえすれば…俺はそれだけで」
いつしか雨はやみ、そして濃霧が周囲を包む中、宗介は教会へと向かっていた、が。

教会周辺の草むらには明らかに何者かが通りった新しい足跡があった。
(そんなっ!)
心配が焦りへと変わる中、道を急ぐ宗介、墓地を通り抜けると教会がある。
あの女と出会った祭壇の背後には階段があったはず、おそらくあの教会に通じているはずだ。

教会の中は凄まじい戦いの痕跡があった、床には見知らぬ少年の死体が転がっている。
その奥には眼光鋭い長髪の戦士が立っていたが、何かを言い含められていたのか
黙って道をあける。

228red tint(5/10) ◆jxdE9Tp2Eo:2005/10/26(水) 18:35:22 ID:BAIQk6pw
そして階段から地下へと降りる宗介。
そこには誰もいない…いや、横たわる影が1つ、
「千鳥っ!」
かけよる宗介、そしてその身体に触れようとした時だった。
「そう…すけ?」
むっくりと起き上がるかなめ、だが宗介は戸惑いを隠さない…なにかがおかしい。
「あのね、わたしおなかがすいてるの…だから飲ませて、宗介の血を」
その言葉に反射的に身構えそうになる宗介、どこかで聞いたことがあるこの状況、あれは確か?

「クルツ、なぜ俺の家でテレビを見る…」
「いやぁ、テレビ壊れててよ、みろよこの女優、すげぇ胸」
画面の中ではドレス姿の女優が、鋭い牙をむき出しにしていた。
「ヴァンパイアだってよ…咬まれたらそいつもヴァンパイアになるんだ」
「くだらん、非現実的だ」

あのときはそのままベッドへともぐりこんだのだが、今かなめの口元には確かに牙が生えている。
ということは…。
クルツの言葉がリフレインする。
(かまれたらそいつも)
「ねぇ…いいでしょ?私夢をみてたの…私が死んで宗介がテッサと結婚する夢…とてもさびしくて、悲しかった
だからね…もう離れない…宗介をずっと私のものにするの」
かなめの赤く染まった瞳から、大粒の涙がこぼれる。
「千鳥…」
宗介の手が震える、
これは俺の知っている千鳥かなめじゃない…、違う…だから…。
その手がかなめの首に伸びる、しかし
「それでも俺は…」
構えた手をおろす宗介。

229red tint(6/10) ◆jxdE9Tp2Eo:2005/10/26(水) 18:36:29 ID:BAIQk6pw
「わかった…俺の命が欲しいなら全部お前にやる…それでお前の苦しみが悲しみが癒えるのならば」
「お前と同じ世界に堕ちるのならば、それでも構わない…俺の世界と時間は全てお前にくれてやる」
宗介の首筋に牙を伸ばそうとしたかなめの顔が寸前で止まる。
「そう…すけ…ありがと…でも…その言葉だけで充分だよ」
その瞳が少しずつ人間の色に戻っていく。
「私、もう人間じゃなくなったけど、今までもいっぱい危ない目にもあったけど、でも宗介にあえて本当に良かった…
だから宗介は自分のために生きて」

かなめは自分にかけられた呪縛を振り切り、宗介から離れ、そしてナイフを自らの心臓に突き立てようとする。
「さよなら…今度出会えたら、2人で生きていけたら…」
「やめろっ!今度じゃない!今だ!俺は今お前と生きていたい!だから死ぬな!」
かなめを取り押さえ必死で叫ぶ宗介。
「お前が化け物でも構わない、お前が化け物なら俺は人殺しだ!だから一緒に生きよう!頼む!
それが叶わないのならば、俺もお前の傍に行く!」

まさに渾身の叫びだった、その時かなめの身体からまた力が抜けていく、そして。
「宗介…私」
かなめの身体に人の温もりが戻ってきていた、
恐る恐る首筋を触る、傷は消えていた。

「我が呪縛に耐えるとは…ふふふそなたらの勝ちよ」
闇から抜け出してきたかのように、音もなく2人の背後にたつ美姫。
「四千年の生きてきて、そうそうあることではないわ…ふふふ」
「首は」
「皆までいうでない、そなたの叫び、1000の勇者の首にも等しいわ、ではどこにでも行くが良い、2人手を取り合っての」

230red tint(7/10) ◆jxdE9Tp2Eo:2005/10/26(水) 18:37:25 ID:BAIQk6pw
だが、宗介は去らなかった。
「ほう、去らぬのか?」
「俺の目的は一つ、この島から脱出すること、そのためにはあんたのような強者につくのが戦略的に一番だ
 それに強さは抑止力にもなり得る、結果的に無駄な戦闘を避けられるはずだ」
宗介の表情はまるで代わらない、いやもう彼に迷いはない。
「ほほ…わたしを神輿に担ぐか」
それに美姫もまんざらではないようだ。
「だがわたしはお前の女を一時は魔物に変えたのだぞ」
「だが、あんたは結果的に千鳥を守ってくれた…約束を反故にしても構わない立場であっても
それにここを去ってもいずれ誰かと戦うことになる、少なくとも俺はあんたには勝てる気がしない」

「ならば好きにするがよい、わたしは何も求めぬ、わたしと共にありたいのならばそうすればよかろう
 わたしが不要であれば去ればよい」
楽しくてたまらぬという感じで笑う美姫、宗介はかなめへと向き直る。
「千鳥…」
さっきとは違い、どう言葉をかけていいのかわからない。
「いいよ…それでも…」
うつむいたままのかなめ。
「本当は、だれも殺して欲しくない…」
「でも宗介はいままで私のためにいっぱい頑張ってくれたんだから…
 それにあんなことになった私を宗介は受け入れてくれた…だから私も戦う…宗介1人に苦しみを背負わせたりしないから」
もう一度宗介はかなめをしっかりと抱きしめる。

231red tint(8/10) ◆jxdE9Tp2Eo:2005/10/26(水) 18:38:12 ID:BAIQk6pw
決まったようだの…さて」
美姫は宗介らを従え地上へと上がり、待機していたアシュラムの方へ顔を向ける。
「おまえはどうする?もう気が付いているであろ?今のおまえはおまえであってお前ではない」
その言葉に厳しい表情を見せるアシュラム。
「知りたいか?お前が本来何を思い、何を考え生きていたかを」
「それは…」
「ほほ、怖いかの?」
美姫の言葉に固まるアシュラム、確かにその通りだ。
「無理をせずとも構わぬ、知りたくなればその内教えてやろう…まぁ」
「お前にもあの娘のように命を賭して真に必要としてくれる誰かがいればまた話は変わってくるのだがの」
そして美姫は勢いよく教会の扉を開け放つ。
数メートル先も見えぬ濃霧が彼女の身体を包む、さらに陽光は西の彼方に去ろうとしている。
もう、彼女を阻む物は何もない。

「さて…行くかの」
その言葉に戦慄する一同、だがまたここで彼女は微笑む。
「ふふ、私は何もせぬ…言ったであろ、あのような輩に踊らされるほどわたしは愚かではない、だが
進んで踊る者もおれば、踊りたくなくとも踊らねばならぬ者もおるであろ、ゆえにわたしは何もせぬ
ただ聞きたいだけ、彼らの声をの、ふふ、彼らはいかなる正義・欲望のために他人を踏みつけているのかをの
誰も彼も己が正しいと思って事を起こすものよ」

お互いの顔を見る宗介とかなめ、美姫の言葉がのしかかる。
「どうした?来ぬのか?このような島、本来ならば一飛びだが、たまには地を歩くのもよかろうて」

232red tint(9/10) ◆jxdE9Tp2Eo:2005/10/26(水) 18:38:57 ID:BAIQk6pw
「いこう、宗介」
宗介を促すかなめだが、あることにようやく気がついた。
「宗介、その手…」
「ああ」
傷口の処理は完璧だったが、今の彼には左腕が欠損していた。
それを知ってかなめは、より近く深く、宗介へ寄り添う。
「大丈夫…私が宗介の左腕になってあげるから」
「左腕だけじゃすまないかもしれないぞ」
「右腕がなくなったら右腕になる、足がなくなったら足になったげる
 宗介の足りない部分は全部私が代わりになってあげるから」

「し、しかしだな、気持ちは嬉しいが移植には色々と面倒がつきまとう、それに」
かなめの言わんとしてる意味が何か、宗介にもわかってはいる。
だが、どう応じていいか分からないのだろう、
かなめはそんな宗介の不器用さが愛しく思えて仕方がなかった。

233red tint(10/10) ◆jxdE9Tp2Eo:2005/10/26(水) 18:40:38 ID:BAIQk6pw
【B-4/病院/一日目/16:45】
【創楽園の魔界様が見てるパニック――混迷編】
【藤堂志摩子】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:デイパック(支給品入り)
[思考]:争いを止める/祐巳を助ける

【ダナティア・アリール・アンクルージュ】
[状態]:疲れ有り
[装備]:なし
[道具]:支給品一式(水一本消費)/半ペットボトルのシャベル
[思考]:救いが必要な者達を救い出す/群を作りそれを護る
[備考]:下着姿

【Dr メフィスト】
[状態]:健康
[装備]:不明
[道具]:デイパック(支給品入り)
[思考]:病める人々の治療(見込みなしは安楽死)/志摩子を守る/宗介とダナティアの治療

【竜堂終】
[状態]:健康
[装備]:ブルードザオガー(吸血鬼)
[道具]:なし
[思考]:カーラを倒し、祐巳を助ける
[備考]:空腹、泥だらけ

234red tint(11/10) ◆jxdE9Tp2Eo:2005/10/26(水) 18:42:38 ID:BAIQk6pw
【D-6/教会/1日目/17:55】

【相良宗介】
【状態】健康、ただし左腕欠損
【装備】なし
【道具】なし
【思考】どんな手段をとっても生き残る

【千鳥かなめ】
[状態]:通常
[装備]:鉄パイプのようなもの。(バイトでウィザード「団員」の特殊装備)
[道具]:荷物一式、食料の材料。
[思考]:宗介と共にどこまでも

【美姫】
[状態]:通常
[装備]:なし
[道具]:デイパック(支給品入り)
[思考]:これから夜の散歩

【アシュラム】
[状態]:全身に打撲。かなり疲労。
    催眠状態(大きな精神的衝撃があれば解ける)。精神的に不安定。
[装備]:青龍偃月刀(血塗れ)
[道具];デイパック(支給品一式・パン6食分・水1700ml)、冠
[思考]:自分の意志にやや疑問を持つ。
    美姫に仇なすものを斬る 。

235red tint(移植ver) ◆jxdE9Tp2Eo:2005/10/26(水) 18:44:38 ID:BAIQk6pw
>>226に以下を追加

メフィストの腕の中にはテッサの死体が収まっていた。
「諸君、それぞれの信じる神の元に祈りの言葉をお願いする」
その遺体を見てダナティアは首をかしげる
毛布に隠れていたので特に気にはしなかったが、その死体には左腕がなかったのである。

「先生、まさか?」
「死者への冒涜と私をなじるかね?、だが彼の左腕を復元するにはこれしか方法はなかった
 聞けば彼と彼女は堅い主従と信頼で結ばれていたという、ゆえに彼女の腕は彼の助けになると私は判断したのでね」

「でも幾らなんでも、ちゃんと動くのか?」
「無論、誰の物でもいいという物ではない、大切なのは絆のなせる力だ、
 死して尚、宗介くんを愛し思う彼女の心があってこその成功だ」
そこでメフィストは溜息をつく。
「情けない限りだ、肝心なときに持てる力を発揮できないとは…だがこれが今の私の医術の限界なのだ」
その表情は悔しさに満ちていた。
「そして軽率であったのならば、もはや取り返しはつかないが、謝罪しよう、そして許してくれるのならば
 彼女にこそどうか感謝の言葉をかけて欲しい」

「いえ、そんな…彼女もきっと彼の役に立てて本望だと思いますわ」
ありがとう、それだけをメフィストは口にする。

「あいつどうするんだろう…これから」
終の言葉に、振り向かず答えるメフィスト。
「多分、次にあう時は敵だろうな」

236red tint(移植ver) ◆jxdE9Tp2Eo:2005/10/26(水) 18:45:47 ID:BAIQk6pw
>>232を以下に変更

「いこう、宗介」
宗介を促すかなめだが、あることにようやく気がついた。
「宗介、その手…」
「ああ」
今の彼の左腕、何度も見覚えのあるその腕は彼の上官、テレサ・テスタロッサのものだった。
いかなる経緯をたどって、それが今失った彼の左腕の代わりとなっているのかは、彼にはわからない。
だが、もう今となってはどうでもいいことだ。
(大佐殿、あなたにもらったこの腕で俺は千鳥を守っていきます、だから力をお貸しください)

237ブラック・ストマック(腹の探りあい)(2/5) 修正 ◆Sf10UnKI5A:2005/10/30(日) 15:45:01 ID:RB9CPqq.
2レス目の6行目を以下に修正。よろしくお願いします。

>「『死体が六つに大嫌いな奴が一人』」
 ↓
「『死体が七つに大嫌いな奴が一人』」

238Missing 〜合わせ鏡の男達〜修正 ◆lmrmar5YFk:2005/10/30(日) 23:59:56 ID:4hFuU.cY
1レス目の4行目と13行目を以下に変更します。

誤:自分の側にいてくれた唯一の女がごく簡単に血に塗れて冷たくなっていく様を、彼は確認していたのだから。
正:自分の側にいてくれた唯一の女がごく簡単に色を失って冷たくなっていく様を、彼は確認していたのだから。

誤:『無くして初めて分かる大切なもの』は本当に存在するのだ。
正:『失って初めて分かる大切なもの』は本当に存在するのだ。

済みませんがお願いします。

239Red Tint(修正版) ◆jxdE9Tp2Eo:2005/10/31(月) 22:19:10 ID:VwPffMog
「ここは?」
相良宗介の目覚めた場所、そこは所狭しと機械が並ぶデ・ダナンのブリッジだ。
「軍曹、何を寝ぼけている!軍曹!」
自分を叱り飛ばす声に顔を上げると、そこにいたのは彼が最も苦手とする上官、マデューカス中佐だ。
「はっ!失礼いたしました、中佐殿!、妙な夢をみていたのであります!」
すばやく直立不動の姿勢をとる宗介。
「奇妙な夢、詳しく言ってみろ!」
「はっ!自分と大佐殿、以下ウェーバー軍曹らを含む一行が拉致…」
「そこはいい、最近の出来事を述べよ」
「はっ!正午頃謎の女性と遭遇、千鳥かなめを人質にとられ戦闘を強要された次第であります!」
「その女性は何者かね?」
「名は不明、ですが非常に美しい姿をしており、また奇怪な力を使うようであります!
身体的な特徴は長い髪で顔の半分を隠している、その程度です」
そこで黙り込むマデューカス。

「そうか、で君は、むざむざその女の要求を飲んだのかね?」
「お言葉ながら人質を取られており、ご存知であることを前提に申し上げますが
 非常に特殊な状況下ゆえ、一時従うことが最善と判断いたした次第であります!」
「して、場所はどこかね?」
「それは…」
そこで宗介の視界が大きくぐらつく、床が揺れているようだ。
「今のは攻撃ではありませんか?中佐殿」
「話を逸らすな!続けたまえ!」
改めて姿勢を正しながらも宗介は妙な気分になっていた、この僅かな違和感は何だ。
それに…あの数々の出来事が夢だったとはやはりまだ考えづらい…。
「失礼ながら申し上げます!大佐殿はどちらに行かれたのでありますか?」
恐る恐るの質問、そのときまた大きな揺れ。

240Red Tint(修正版) ◆jxdE9Tp2Eo:2005/10/31(月) 22:20:56 ID:VwPffMog
「大佐は現在別任務に就いている」
別任務?いや自分の知りうる限りこの状況でそれはありえない…。
それに考えてみれば何故中佐は自分の夢の中身を知っているのだ?
その時また大きな揺れ、そして不意に別の光景が目の前に開けた。

「おい!せんせー!せんせーってばよ!」
「何かね?治療中は邪魔をするなと」
「いいから外見ろよ!」
終の言葉に窓の外を見るメフィスト、周囲の風景が動いている。
「ほう…山が動いてるな」
「違う!動いてるのは山じゃない!病院だよ!雨でぬかるんで地滑りを起こしてるんだ!」
終の声と同時に建物が急速に軋みだす。
「この肝心な時に」
催眠術による尋問も佳境に入りつつあるところで何たることか。

「君は志摩子くんらを頼む、私は…」
しかしその時ベッドの上の宗介が目を開く、
(目覚めたか!いかに私の力が弱体化されてるとはいえ、なんという精神力の持ち主だ!)
だが、動揺するメフィストではない、宗介の確保を素早く行おうとするが、
床が傾き、そちらに注意が向いてしまう。
その隙に宗介は窓から外へと飛び出してしまっていた。

(逃走を選ぶか!判断力も一流だな、潜在能力は京也くんらと同じレベルと見た)
もちろんメフィストの技量ならばこの状況でも確保は容易い、だがそうはしなかった、かわりに、
「千鳥かなめを救い出したいのならば自分の心を偽るな!何が起きてもただありのままの心をもって
 彼女の全てを受け入れたまえ!」
そう声をかけると、メフィストは病院内へと戻っていき、それから数分後、病院は山肌もろとも粉砕されたのだった。。
「大丈夫かね?」

241Red Tint(修正版) ◆jxdE9Tp2Eo:2005/10/31(月) 22:21:46 ID:VwPffMog
病院のガレキを軽く押しのけながらメフィストが難を逃れた志摩子らに声をかける。
「私たちは大丈夫です、でも終さんが」
「あたくしたちをかばおうとして、そしたら目の前で転んでそのまま土砂の下敷きになってしまったんですの」
「なるほど…」
まったく世話が焼ける…そういう顔のメフィストは聴診器を取り出し土砂に当てる。
「あの少年は非常に頑健な肉体を持っている、この程度なら平気だろうが…」
聴診器を当てた位置からしばらく歩いた地点を指差すメフィスト、
「あの場所だ」
みると地面が僅かに盛り上がっている、そしてしばらくたつと、泥まみれの姿で這い出してくる終。
「おい医者!場所がわかってるんならちったあ手伝ってくれよ!」
「医者として君の生命力を信じたまでだ、必要以上に治療を行わないのも医者の条件の一つでね」
「この…」
藪医者だなんていえない。

「それに自力で逃げられる者はまだいい、彼女はもはや動くことも叶わない」
メフィストの腕の中にはテッサの死体が収まっていた。
「諸君、それぞれの信じる神の元に祈りの言葉をお願いする」

テッサの埋葬を済ませた一同、
「とりあえず雨風の凌げる場所にいきませんか?」
志摩子の提案に頷く一同、それに泥まみれの終の服も調達せねばならない。
「あの…ドクター」
そうだ、伝えなけれならないことはたくさんある、しかしダナティアの言葉をさえぎるメフィスト。
「すまないが後にしてくれないかね、我々には片付けねばならぬことが多すぎる、それに会わねばならぬ者もいてね
 せめて6時まで待ってくれないだろうか?」
口調はやわらかいが、断固とした意思の表示だった。
口をつぐむダナティア、だが何としてもこの医師を自分の陣営に引き込まねば…彼ほどの逸材を自分の傍らに置ければ、
それは百万の味方を得たにも等しい。
まして分散の愚を犯したがゆえに、彼女はむざむざ仲間を失ったのだ。
もう同じ轍は踏まぬ、
「それよりもそろそろ何かを羽織ってくれないかね、私はともかくその少年には目の毒だ」
メフィストが指を動かすと、物陰からシーツが音も無くダナティアの身体に巻きつく。
「ああ、ドクターは魔術も堪能でいらっしゃる…」
そこで初めてダナティアは自分が下着姿のままだということに気が付くのだった。

(しかしそれにしても)
メフィストの表情がやや険しくなる。
(あの女、相変わらず不可解極まりない…まるで1人の戦士を育てているようなものだというのに)

242Red Tint(修正版) ◆jxdE9Tp2Eo:2005/10/31(月) 22:24:00 ID:VwPffMog
「夢では…なかったのだな、俺としたことが」
ずぶぬれになりながらさ迷う宗介、窮地を脱出したとはいえ…もう彼に気力は残されていなかった。
(首を5つじゃ)
美姫の言葉が冷たく響く…もう間に合わない。
いや…まだ手はある、最後の手段が…
「生きていてくれさえすれば…俺はそれだけで」
いつしか雨はやみ、そして濃霧が周囲を包む中、宗介は教会へと向かっていた、が。

教会周辺の草むらには明らかに何者かが通った新しい足跡があった。
(そんなっ!)
心配が焦りへと変わる中、道を急ぐ宗介、墓地を通り抜けると教会がある。
あの女と出会った祭壇の背後には階段があったはず、おそらくあの教会に通じているはずだ。

教会の中は凄まじい戦いの痕跡があった、床には見知らぬ少年の死体が転がっている。
その奥には眼光鋭い長髪の戦士が立っていたが、何かを言い含められていたのか
黙って道をあける。

そして階段から地下へと降りる宗介。
そこには誰もいない…いや、横たわる影が1つ、
「千鳥っ!」
かけよる宗介、そしてその身体に触れようとした時だった。
「そう…すけ?」
むっくりと起き上がるかなめ、だが宗介は戸惑いを隠さない…なにかがおかしい。
「あのね、わたしおなかがすいてるの…だから飲ませて、宗介の血を」
その言葉に反射的に身構えそうになる宗介、どこかで聞いたことがあるこの状況、あれは確か?

「クルツ、なぜ俺の家でテレビを見る…」
「いやぁ、テレビ壊れててよ、みろよこの女優、すげぇ胸」
画面の中ではドレス姿の女優が、鋭い牙をむき出しにしていた。
「ヴァンパイアだってよ…咬まれたらそいつもヴァンパイアになるんだ」
「くだらん、非現実的だ」

あのときはそのままベッドへともぐりこんだのだが、今かなめの口元には確かに牙が生えている。
ということは…。
クルツの言葉がリフレインする。
(かまれたらそいつも)
「ねぇ…いいでしょ?私夢をみてたの…私が死んで宗介がテッサと結婚する夢…とてもさびしくて、悲しかった
だからね…もう離れない…宗介をずっと私のものにするの」
かなめの赤く染まった瞳から、大粒の涙がこぼれる。
「千鳥…」
宗介の手が震える、
これは俺の知っている千鳥かなめじゃない…、違う…だから…。
その手がかなめの首に伸びる、しかし
「それでも俺は…」
構えた手をおろす宗介。

243Red Tint(修正版) ◆jxdE9Tp2Eo:2005/10/31(月) 22:25:00 ID:VwPffMog
「わかった…俺の命が欲しいなら全部お前にやる…それでお前の苦しみが悲しみが癒えるのならば」
「お前と同じ世界に堕ちるのならば、それでも構わない…俺の世界と時間は全てお前にくれてやる」
宗介の首筋に牙を伸ばそうとしたかなめの顔が寸前で止まる。
「そう…すけ…ありがと…でも…その言葉だけで充分だよ」
その瞳が少しずつ人間の色に戻っていく。
「私、もう人間じゃなくなったけど、今までもいっぱい危ない目にもあったけど、でも宗介にあえて本当に良かった…
だから宗介は自分のために生きて」

かなめは自分にかけられた呪縛を振り切り、宗介から離れ、そしてナイフを自らの心臓に突き立てようとする。
「さよなら…今度出会えたら、2人で生きていけたら…」
「やめろっ!今度じゃない!今だ!俺は今お前と生きていたい!だから死ぬな!」
かなめを取り押さえ必死で叫ぶ宗介。
「お前が化け物でも構わない、お前が化け物なら俺は人殺しだ!だから一緒に生きよう!頼む!
それが叶わないのならば、俺もお前の傍に行く!」

まさに渾身の叫びだった、その時かなめの身体からまた力が抜けていく、そして。
「宗介…私」
かなめの身体に人の温もりが戻ってきていた、
恐る恐る首筋を触る、傷は消えていた。

「我が呪縛に耐えるとは…ふふふそなたらの勝ちよ」
闇から抜け出してきたかのように、音もなく2人の背後にたつ美姫。
「四千年生きてきて、そうそうあることではないわ…ふふふ」
「首は」
「皆までいうでない、そなたの叫び、1000の勇者の首にも等しいわ、ではどこにでも行くが良い、2人手を取り合っての」

244Red Tint(修正版) ◆jxdE9Tp2Eo:2005/10/31(月) 22:26:10 ID:VwPffMog
だが、宗介は去らなかった。
「ほう、去らぬのか?」
「俺の目的は一つ、この島から脱出すること、そのためにはあんたのような強者につくのが戦略的に一番だ」
 宗介の表情はまるで代わらない、いやもう彼に迷いはない。
「ほほ…わたしを神輿に担ぐか」
それに美姫もまんざらではないようだ。
「だがわたしはお前の女に一時は手を出したのだぞ」
「だが、あんたは結果的に千鳥を守ってくれた…約束を反故にしても構わない立場であっても
それにここを去ってもいずれ誰かと戦うことになる、少なくとも俺はあんたには勝てる気がしない」

「ならば好きにするがよい、わたしは何も求めぬ、わたしと共にありたいのならばそうすればよかろう
 わたしが不要であれば去ればよい」
楽しくてたまらぬという感じで笑う美姫、宗介はかなめへと向き直る。
「千鳥…」
さっきとは違い、どう言葉をかけていいのかわからない。
「いいよ…それでも…」
うつむいたままのかなめ。
「本当は、だれも殺して欲しくない…」
「でも宗介はいままで私のためにいっぱい頑張ってくれたんだから…
 それにあんなことになった私を宗介は受け入れてくれた…だから私も戦う…宗介1人に苦しみを背負わせたりしないから」
もう一度宗介はかなめをしっかりと抱きしめる。

「決まったようだの…さて」
美姫は宗介らを従え地上へと上がり、待機していたアシュラムの方へ顔を向ける。
「おまえはどうする?もう気が付いているであろ?今のおまえはおまえであってお前ではない」
その言葉に厳しい表情を見せるアシュラム。
「知りたいか?お前が本来何を思い、何を考え生きていたかを」
「それは…」
「ほほ、怖いかの?」
美姫の言葉に固まるアシュラム、確かにその通りだ。
「無理をせずとも構わぬ、知りたくなればその内教えてやろう…まぁ」
「お前にもあの娘のように命を賭して真に必要としてくれる誰かがいればまた話は変わってくるのじゃが」
そして美姫は勢いよく教会の扉を開け放つ。
数メートル先も見えぬ濃霧が彼女の身体を包む、さらに陽光は西の彼方に去ろうとしている。
もう、彼女を阻む物は何もない。

245Red Tint(修正版) ◆jxdE9Tp2Eo:2005/10/31(月) 22:27:17 ID:VwPffMog
「さて…行くかの」
その言葉に戦慄する一同、だがまたここで彼女は微笑む。
「ふふ、わたしは何もせぬ…言ったであろ、あのような輩に踊らされるほどわたしは愚かではない、だが
進んで踊る者もおれば、踊りたくなくとも踊らねばならぬ者もおるであろ、ゆえにわたしは何もせぬ
ただ聞きたいだけ、彼らの声をの、ふふ、彼らはいかなる正義・欲望のために他人を踏みつけているのかをの
誰も彼も己が正しいと思って事を起こすものよ」

お互いの顔を見る宗介とかなめ、美姫の言葉がのしかかる。
「どうした?来ぬのか?このような島、本来ならば一飛びだが、たまには地を歩くのもよかろうて」

「いこう、宗介」
宗介を促すかなめだが、あることにようやく気がついた。
「宗介、その手…」
「ああ」
傷口の処理は完璧だったが、今の彼には左腕が欠損していた。
それを知ってかなめは、より近く深く、宗介へ寄り添う。
「大丈夫…私が宗介の左腕になってあげるから」
「左腕だけじゃすまないかもしれないぞ」
「右腕がなくなったら右腕になる、足がなくなったら足になったげる
 宗介の足りない部分は全部私が代わりになってあげるから」


「し、しかしだな、気持ちは嬉しいが移植には色々と面倒がつきまとう、それに」
かなめの言わんとしてる意味が何か、宗介にもわかってはいる。
だが、どう応じていいか分からないのだろう、
かなめはそんな宗介の不器用さが愛しく思えて仕方がなかった。

246Red Tint(修正版) ◆jxdE9Tp2Eo:2005/10/31(月) 22:28:09 ID:VwPffMog
【B-4/病院/一日目/16:45】
【創楽園の魔界様が見てるパニック――混迷編】
【藤堂志摩子】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:デイパック(支給品入り)
[思考]:争いを止める/祐巳を助ける

【ダナティア・アリール・アンクルージュ】
[状態]:疲れ有り
[装備]:なし
[道具]:支給品一式(水一本消費)/半ペットボトルのシャベル
[思考]:救いが必要な者達を救い出す/群を作りそれを護る
[備考]:下着姿

【Dr メフィスト】
[状態]:健康
[装備]:不明
[道具]:デイパック(支給品入り)
[思考]:病める人々の治療(見込みなしは安楽死)/志摩子らを守る

【竜堂終】
[状態]:健康
[装備]:ブルードザオガー(吸血鬼)
[道具]:なし
[思考]:カーラを倒し、祐巳を助ける
[備考]:空腹、泥だらけ

247Red Tint(修正版) ◆jxdE9Tp2Eo:2005/10/31(月) 22:29:07 ID:VwPffMog
【D-6/教会/1日目/17:55】

【相良宗介】
【状態】健康、ただし左腕欠損
【装備】なし
【道具】なし
【思考】どんな手段をとっても生き残る

【千鳥かなめ】
[状態]:通常
[装備]:鉄パイプのようなもの。(バイトでウィザード「団員」の特殊装備)
[道具]:荷物一式、食料の材料。
[思考]:宗介と共にどこまでも

【美姫】
[状態]:通常
[装備]:なし
[道具]:デイパック(支給品入り)
[思考]:これから夜の散歩

【アシュラム】
[状態]:全身に打撲。かなり疲労。
    催眠状態(大きな精神的衝撃があれば解ける)。精神的に不安定。
[装備]:青龍偃月刀(血塗れ)
[道具];デイパック(支給品一式・パン6食分・水1700ml)、冠
[思考]:自分の意志にやや疑問を持つ。
    美姫に仇なすものを斬る 。

248Red Tint(修正版) ◆jxdE9Tp2Eo:2005/10/31(月) 22:30:09 ID:VwPffMog
以上、全文の差し替えをお願いいたします。

249444:架ける白、賭けぬ白、されど懸ける白 ◆l8jfhXC/BA:2005/11/01(火) 20:39:36 ID:KByHxCn6
以下の部分の修正をお願いします。

> 宮野の言葉に眉をひそめながらも、男は真紅のマントを翻して教会の内部へと戻っていった。

> 宮野の言葉に眉をひそめるも、男はマントを翻して教会の内部へと戻っていった。

> 辺りを包む沈黙が、刃のように突き刺さる。
> 正面の真紅のマントが鮮血を連想させ、頭の中が真っ白になった。

> 辺りを包む沈黙が、刃のように突き刺さった。

> おそるおそる隣を向くと、そこには正面の真紅と対照的な白衣の男──宮野の姿。

> おそるおそる隣を向くと、そこには正面の漆黒と対照的な白衣の男──宮野の姿。

> 声にすぐさま応じて真紅のマントが翻り──薙刀の白い刃が宮野へと振り上げられた。

> 声にすぐさま応じてマントが翻り──そして白い刃が宮野へと振り下ろされた。

250445:駆ける黒、欠ける黒、そして陰る黒  ◆l8jfhXC/BA:2005/11/01(火) 20:40:48 ID:KByHxCn6
同じく以下の部分の修正をお願いします。


> 倒され、あるいは時間経過によって消滅する触手の補充に追われる。
> 持続時間が短いため、拘束したと思ったら消えてしまう──というようなことが何回か起きている。
> それに原因は不明だが、彼が避けるまでもなく触手がはずれてしまうことが多々あった。
> 初めはこちらの目測ミスかと思ったのだが、それにしては起こりすぎている。
> 予想外の出来事が積み重なり、自分でも珍しいと思える焦燥を感じていた。

> 倒され、あるいは時間経過によって消滅する触手の補充に追われる。
> 持続時間が短いため、拘束したと思ったら消えてしまうという事態が何回か起きている。
> 意識の半分を補充に回しているせいというのもあったが、触手の操作自体も完璧には程遠い。
> いつも通りに扱えない能力と途切れることのない猛襲に、自分でも珍しいと思える焦燥を感じていた。


> 息つく暇もなくさらに数本の触手が跳んでくるが、着ている黒い甲冑──シャドウウィルダーの効果で最初から目標を大きく外れており、マントを押し流すだけに終わる。

> 息つく暇もなくさらに数本が強襲するも、こちらにたどり着く前に消えてしまった。時間切れらしい。

251修正願い ◆eUaeu3dols:2005/11/28(月) 19:49:23 ID:up5gSTjI
まず、少し前に指摘を受けていた誤字修正一点。

>443:魔女の見る夢【紅と灰の願い】より
「『この子』の涙かしらね」
カーラは夢の中でも自らを宿す、福沢裕巳の胸に手を当てた。
やや小降りの胸は、落ち着き払ったカーラとは裏腹に早鐘のように脈を打っていた。
身体機能すらも再現された明晰夢が少し可笑しく感じられた。
本来、カーラに乗っ取られた者は肉体の反応さえ表に出る事がない。

『小降りの胸』→『小振りの胸』
一文字だけの修正ですが、よろしくお願いします。

続けて、議論・感想版の意見を受けて修正方向を決定した、
『救いの糸は千切れて散った』の修正版を投下します。
第8レスからの物となります。

252救いの糸は千切れて散った【修正稿】(8/10) ◆eUaeu3dols:2005/11/28(月) 19:54:52 ID:up5gSTjI

「でもそれだと、助かったところでマージョリーお姉さんは足手まといになっちゃうね」

唐突に響いた言葉にハッと振り向いた。
間に合わない。そして力が出ない。
ライフルの銃弾がサラの胸を撃ち抜いた。

『イザヤアァァァァァァァァッ!!』
マージョリーとマルコシアスが怒りの叫びをあげる。
「何を怒ってるのかな、マージョリー。
 同盟の規約通りじゃないか。
 『襲ってくる相手と、君が狙っている人間を殺すのには手を貸す』ってね。
 君の手札が切れてるようだから、俺が手を貸しただけだよ」
白々しく臨也が笑う。
地下を見に行ってみると、どうやら爆発の振動で入り口があっさり崩れてしまったらしく、
諦めてマージョリーを捜しに行くと愉快な交渉が行われていた。
流石に細かい仕草までは判らなかったが、途切れ途切れに聞こえる声で状況は理解した。
元から互いに利用しあうだけの同盟など利用の価値が無ければ無いも同然だ。
だけど自分から解消する必要も無いから、わざわざ『裏切らずに敵を撃ってやった』。

「でもその様子じゃもう助からないし、同盟も自然消滅かな。
 バイバイ、マージョリーにマルコシアス。
 短い間だけど面白かったよ」
笑いながら臨也が歩み去って行く。
何も出来ない。
その背中にもう一度炎弾をぶつける力すら残っていない。
今度こそ空っぽだ。
その背中は悠々とマージョリーの視界から消えていった。
(…………クソッタレ)
マージョリーは歯を噛み締めたまま、ゆっくりと崩れ落ちた。

253救いの糸は千切れて散った【修正稿】(9/10) ◆eUaeu3dols:2005/11/28(月) 19:56:38 ID:up5gSTjI
「イザヤアァァァァッ!! テメェ、生きて帰れると思うなぁ!!」
その袂のグリモアから、マルコシアスが絶叫をあげる。
「オレ様が顕現すれば、テメェなんざ、テメェなんざ……」
マルコシアスの本体は人を超越した強大なる紅世の王だ。
器であるマージョリーを抜けてこの世界に顕現すれば一人の人間なぞ軽く吹き消せる。
もちろんそれには代償がある。
あまりにも強大すぎるその存在を維持するには多くの『存在の力』が必要であり、
周囲の存在の力を喰らいもせずに顕現するのは薪の無い大火を燃やすに等しい。
その存在はすぐに燃え尽き、アッという間に消滅してしまう事になる。
かといって周囲の存在の力を喰らうのは紅世の王として絶対に許されない事だ。
それは彼らとフレイムヘイズ達が敵対する紅世の従の為す悪行なのだから。
だが、マルコシアスは、そのどちらをやっても良いと思っていた。
「殺して殺して殺して殺して殺し尽くしてやるからヨォッ!!」
彼の契約者、麗しのゴブレット(酒杯)マージョリー・ドーを殺した糞野郎をブチ殺すためなら、
これまで守ってきた世界のバランスなんざ知った事か、死ぬ事など関係有るか。……なのに。
「畜生、なんで顕現できねぇ!?」
マルコシアスは悲痛な悲鳴をあげた。
ゲームの“制限”が彼を縛り、顕現を許さない。
単純に利害でみれば、それは彼にとって悪い事では無い。
顕現しなければ、マルコシアスは自然と故郷である紅世に送還される。
参加者でないとはいえ、生きてこのゲームから解き放たれるのだ。
「契約は! 誰か、契約できる奴はいねぇのか!? あの糞野郎を殺してくれる奴は!」
それでもマルコシアスはこの世界に留まる道を探す。
だが、周囲に在るのは死にゆくマージョリー・ドーとサラ・バーリンの二人だけ。
顕現は出来ない。
契約も出来ない。
何も、出来ない。
『殺されそうになった時、私は――』
『相手を絶望させることで、生き延びた』
不意に脳裏に甦った臨也の言葉と共に、マルコシアスの心は絶望に呑まれた。
(…………クソッタレ)
……マルコシアスの声も、もう、聞こえない。

254救いの糸は千切れて散った【修正稿】(10/10) ◆eUaeu3dols:2005/11/28(月) 19:58:24 ID:up5gSTjI

マージョリーは崩れ落ち、マルコシアスの絶叫も途絶えた。
(ここまでか……)
サラは冷静に状況を分析していた。
怒りはない。
ただただ残念で、無念で、悔しかった。
(ようやく“刻印を外す目処が付いた”というのに)
刻印の研究と、神野と出会い知った事と、魔杖剣と、第七階位高位咒式弾の力。
それらを束ねた所に……ようやく“それ”が見えたというのに。
(残念だ)
そう呟こうとしても、喉から出るのはヒューヒューという音だけだった。
どうやら肺をやられたらしい。
すぐには死なないだろうが、マージョリーを助ける事はもうできない。
そして、長く苦しむ。
(せめて、この成果を……)
耐え難い息苦しさに苦しみながら、動く。
この記録を残さなければならない。
このゲームを打破するために。
ペットボトルが良い。
あれに全てのメモと判った成果を書いたメモを入れれば、雨の中でも濡れずに…………
メモをするだけ体が動かなければ、せめて、これまでのメモだけでも……
(……殿下…………すまない……あとは……)

やがてサラ・バーリンも力尽き、マージョリーに重なるように倒れ伏した。
雨が止んだ時、ペットボトルの一本は何処にも見当たらなかった。


【096 マージョリー・ドー 死亡】
【116 サラ・バーリン   死亡】
【残り 59人】

255救いの糸は千切れて散った【修正稿】(報告1〜2) ◆eUaeu3dols:2005/11/28(月) 20:07:22 ID:up5gSTjI
【D-2/学校地下/1日目・17:00】
※:学校から地下通路への入り口は崩落により塞がりました。

【クリーオウ・エバーラスティン】
[状態]: 右腕負傷。
[装備]: 強臓式拳銃『魔弾の射手』
[道具]: 支給品一式(地下ルートが書かれた地図。ペットボトル残り1と1/3。パンが少し減っている)。
     缶詰の食料(IAI製8個・中身不明)。議事録
[思考]: みんなと協力して脱出する。オーフェンに会いたい

【空目恭一】
[状態]: 気絶中。
     全身を火傷。ガスボンベの破片が刺さっている。物語感染済。
[装備]: なし
[道具]: 支給品一式。
     “無名の庵”での情報が書かれた紙。
[思考]: 刻印の解除。生存し、脱出する。
[備考]: 刻印の盗聴その他の機能に気づいている。
     クエロによるゼルガディス殺害をほぼ確信。

【クエロ・ラディーン】
[状態]: 打撲あり(通常の行動に支障無し)
[装備]: 魔杖剣<贖罪者マグナス>
[道具]: 支給品一式、高位咒式弾×2
[思考]: 集団を形成して、出来るだけ信頼を得る。
     魔杖剣<内なるナリシア>を探す→後で裏切るかどうか決める(邪魔な人間は殺す)
[備考]: サラの目的に疑問を抱く。空目に犯行に気づかれていると気づいているが、確信無し。

【D-2/学校周辺/1日目・17:30】
【折原臨也】
[状態]:上機嫌。 脇腹打撲。肩口・顔に軽い火傷。右腕に浅い切り傷。(全て処理済み)
[装備]:ライフル(弾丸28発)、ナイフ、光の剣(柄のみ)、銀の短剣
[道具]:探知機、ジッポーライター、禁止エリア解除機、救急箱、スピリタス(1本)
    デイパック(支給品一式・パン6食分・水2000ml)
[思考]:セルティを捜す。人間観察(あくまで保身優先)。
    ゲームからの脱出(利用できるものは利用、邪魔なものは排除)。残り人数が少なくなったら勝ち残りを目指す
[備考]:ジャケット下の服に血が付着+肩口の部分が少し焦げている。

【D-2/学校・ガスボンベ保管所(別棟)周辺】
かなり大きな規模の爆発が起きました。
ガスボンベ保管所は完全に吹き飛んでいます。
また、周辺に以下の物が転がっているはずですが、
基本的に全て水浸しで、小物の類は流れた可能性があります。

マージョリー・ドーの死体(死因:大爆発による火傷と無数の破片)
サラ・バーリンの死体  (死因:銃で肺を撃たれ窒息死)
神器『グリモア』(マルコシアスとの繋がりは切れました)
デイパック(支給品一式・パン5食分・水1300ml) 、酒瓶(数本)、
支給品一式(地図には地下ルートが書かれている)、
煙幕、メス、鉗子、魔杖剣<断罪者ヨルガ>(簡易修復済み)、高位咒式弾×1

※:全てのメモと、更に鍵までペットボトルに入れられましたが、
  豪雨の中、何処かへと流れていってしまいました。
  また、刻印の解除法そのもののメモを書ききる時間が有ったかは不明です。

――――――――
以上です。
毎度毎度になっていますが、よろしくお願いします。

256天使は愚神を抱き眠る2 ◆R0w/LGL.9c:2006/01/12(木) 17:20:11 ID:igDa41E6
ほんの僅かな修正ですが宜しくおねがいします
×あっちゃん
○軋識さん

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
で、強引に話を戻させていただきます。ここは水族館。長い、トンネルを抜けるとそこは水族館でしたってやつです。
実際はトンネルではなく地下道で、出た場所は倉庫だったのですが、まあいいか。
倉庫から続くドアに入るとそこは水族館だったわけです。
そう、F-1とD-1は海洋遊園地。その地下は水族館を組み合わせた海中レジャー施設なのです。
現在ここの照明がフルに使われて楽しい音楽は鳴り響き、魚ゴーランドはくるくる回ってます。
ドクロちゃんがやりました。
ドクロちゃんは天使の力を使い、この水族館の電気系統を復活させ、アトラクションを起動させてしまったのです!
その件の片棒を担いだ──いやお手伝いさせてもらった僕も鼻高々の結果です。
ここしばらくまともな魔法が使えなかったドクロちゃんでしたが、今回は結果に満足しています。
「よぉ───し、遊ぶぞ───!!」
ドクロちゃんは早速魚ゴーランドに向かいました。
メリーゴーランドの魚版、といったところでしょうか。
回り続けているお魚さんに、搭乗口からタイミングを計って飛び乗りました。成功。
ごっとんごっとんごっとんごっとん…………
「きゃっ……この振動は……」
どどどdドクロちゃんの表情が艶っぽくぅぅぅぅ!?
その振動に一体どのような意味が!
ドクロちゃんは腰を若干くねらせながら言を紡ぎます。
「は、激しいよぉ………」
ウォぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!
あっちゃん僕もう我慢できません!
心の中で真の持ち主軋識さんがアドバイスをくれます。
【考えるな感じろっちゃ!】
はい当てにならない。消えろ。

257天使は愚神を抱き眠る4 ◆R0w/LGL.9c:2006/01/12(木) 17:21:15 ID:igDa41E6
「服、乾かさなくっちゃ……」
ドクロちゃんは水を滴らせながら壁に貼ってある園内地図を見ます。
魚ゴーランドは、哀れ粉々に砕け散りました。原子分解とか意味消滅とかそういうレベルです。流れ出た水は排水溝へ。
一角がバイオレンスになったレジャー施設ですが、明るい音楽は絶えずに流れています。回りへの影響は無さそうです。
やおらドクロちゃんは休憩室を見つけ、中にある乾燥機に服を突っ込みましぶぁぁぁぁぁ!!
裸です! 全裸です! いやああああ僕の視覚情報かムラムラかどっちでもいいから消え去れぇぇぇぇ!
目の前でドクロちゃんの尻が左右に揺れてます。なんとエロくて丸い尻でしょうか!さらに───
-以下30行ほど削除-
軋識助けて! 僕はもう棘の先から金色のキラキラした液体(イメージ)がぴゅーぴゅー飛びそうです!
【さあて、零崎を始めるっちゃ】
ああ御免取り込み中だった?

ぴぴる ぴる ぴる ぴぴるぴ〜♪

「スクール水着ぃ♪」
ドクロちゃんは僕を振り回しスクール水着を召還しました。ああよかった。
乾燥機を回したままドクロちゃんは再びレジャー区画へ。
しかしまあこういう施設に来たら彼女はてっきり『一人じゃつまんない!』って怒り出すかと思ったんですが。
なかなかどうして、工夫されてて彼女一人でも飽きない設計になっていました。
例えば。

258修正版【吸血鬼、吸血姫、殺人鬼。】 ◆B.KZUEhlgg:2006/01/19(木) 23:07:31 ID:ztJ7GxaY
夜の道路を走る影が一つ。闇を切り裂き、ただ一点のみを見て走り続ける。
影の名はシャナ。殺気を噴出しながら道路の遥か遠くに消えた殺意の対象を追っている。万全の状態ならあるいは追いつけたかもしれないが、しかし彼女は傷を負っていた。心に深い傷と、より深刻な肉体の変化という傷を。
ゆえに、彼女は待ち伏せも、そもそも自分が追った先にあの顔面刺青の男がいないなどとは考えず、ただただ走り続けた。
マンションが見える。自分が先ほどまで休んでいた場所だ。あんな、あんな、あんなことになっているなんて知らずに。
「殺す、殺す、殺す殺す殺す殺す殺す!」
シャナは咆哮しながら走る。
「殺して―――(殺して?)血を―――(!?ち、違――)」
自分の言動に奇妙な一節が入った、と思ったとき、今まで感じていた痛みが変化した。それは、まるで快感のような、開放された痛み。しかしシャナはその痛みをも跳ね除ける。理性ではなく、本能で。
(ここで負けたら、私 が 私 じ ゃ な く な る !)
さらに加速しようとして、前のめりに倒れ、転んでしまった。その勢いで道路を外れる。慣性の法則に忠実に従い、シャナの体は地面を何度も転がって、何か硬いものにぶつかってやっと止まった。
彼女の体力は尽き果てていた。それでも立ち上がろうと―――【硬いもの】が手に触れる。
(・・・・・・血だ)
眼前には湖が広がっており、そして眼下には血が、男の死体が転がっていた。心臓を貫かれたようで、もうかなり血は固まっている。だが吸えないほどではない、シャナは刹那まるで宝物でも見たかのように目を輝かせたが、首を振って自分に言い聞かせる。
(今は駄目、泣き叫ぶあいつを殺して血を最後の一滴まですすりつくし、それから悠二に――)
シャナは最後まで考えずに、弾かれたように道路へと戻り、尽き果てたはずの体力で、走り出した。
その姿は美しい少女のままだったが、もはや心は血を見ても「吸いたい」としか思わない、吸血鬼へと変わっていた。
吸血鬼は走る。その心にわずか残した人間の一部、それを殺した者の元へ。

259修正版【吸血鬼、吸血姫、殺人鬼。】 ◆B.KZUEhlgg:2006/01/19(木) 23:08:17 ID:ztJ7GxaY

「かなめ・・・何だその釘バットは」
宗介は散歩の前にトイレに行きたいと言って出て行ったかなめの持つ物騒な凶器を見て言った。
「教会の前に落ちてたの。護身用に持っとこうと思ってね」
「護身用か。いい心がけだな、かなめ。お前は常に自分の身を守ることだけを考えろ」
「じゃ早速。」
宗介は殴られた。・・・・うん、レディの小用にこっそりついて行ったら殴られてもおかしくない。
ちなみに、流石に明らかに幾多の血を吸ってきた感のある釘バットでは殴らず、ぐーパンでだ。
「誤解するな、かなめ、おれはお前が心配で」
「あーーもう、さっきのロマンス的なアレはどこいったの!行くわよっ!」
「あ、ああ」
宗介はかなめを追いかけて美姫たちに着いていった。


「む?」
先頭を歩いていた美姫が歩みを止め、小さく声を立てた。
「どうした?」かなめを気遣いながら歩いていた宗介が不審そうに聞く。
「ふふ、散歩を始めてよかったわ。私がかなめと同じく吸血鬼にした者が近づいてきておるぞ」
「え、私以外にもそんな人がいるんですか?」
普段の口調が少し戻ったものの、流石に敬語で話しかけるかなめ。
「うむ、このゲームの開始直後に戯れにな。まあ、あちらから誘われてきたのだが」
「何故わかるんだ?」
宗介の言葉に、嘲笑とともに美姫は答える。
「愚か者。主語は明確にせんか。ふむ、なるほど、お前の考えているような事ではない、ただの匂いじゃ、私の血のな」
たやすく自分の心の中を読まれ、宗介はいつぞやを思いだして一瞬言葉に詰まったが、かまわずもう一つ気になっていることを聞こうとする。だが、それは轟音によって中断される。前を見ると、一台のバイクにまたがった男がこちらに向かってきている。
「アシュラム、少し待て、奴がどのような行為に出るか興味がある」
青龍偃月刀を抜いて構えようとしていたアシュラムを言葉一つで制すると、美姫はバイクを停めて此方をうたがっている男に向かって声をかけた。
「追われておるのか?」

260修正版【吸血鬼、吸血姫、殺人鬼。】 ◆B.KZUEhlgg:2006/01/19(木) 23:09:13 ID:ztJ7GxaY

男、零崎人識はこの島のほとんどの人間が目を奪われるであろう美姫の美貌に、そしてオーラに呑まれることなく飄々と答える。
「ああ、今ちょっとそこで人を殺したんだが、そいつの仲間に追われてる。とある男の助言で説得を試みたんだが、ほら、えっと、なんだっけ、喋るバイク君」
「エルメスだって・・・・餅つく暇もない、だよきっと」
「そうそれ。で、ずっと追われてる訳よ。そっちに殺りあう気がないなら、通してくれねーか?殺りあう気があっても俺は逃げるけどな」
かはははっ、と嗤う男に美姫以外の3人は驚愕する。こんなゲームの中で初対面の相手に殺人をカミングアウトしたことに対してか、バイクが喋ったことに対してなのかは三者三様だったが。
三者三様。かなめが後者でアシュラムが前者、そして宗介は―――――男の嗤い声にだけ驚愕していた。
「貴様―――あの時の!」
「あ?何だテメエ、俺はお前なんかしらねえぞ」
丸腰で飛び掛ろうとしていた宗介は相手の返答を聞いて踏みとどまる。自分はあの時痛みとその場から逃げることで頭がいっぱいで、自分の両腕を切り落とした者の顔を見ていない。嗤い声だけが耳に残っていた。
だからと言って目の前の人間が嘘をついていないとは限らない。だが、自分はこの一日突発的な行動でかなめを危険な状態にしてしまい、テッサを結果的に死に至らせ、つい数分前もかなめに激怒されてしまった。最後だけはまだ自分が正しいような気もするが、しかしそもそも同列に並べることではない。
ここは一旦様子を見よう。――――その判断は、間違っていなかった。この場に限っては、だが。
「いや、すまん。おれの勘違いだった」
「だろ?」
男はにっこり笑う。
(いくらなんでも殺そうとした相手の前でこんな顔はできまい、肯定だ)
美姫が口を挟む。
「ところで、その殺した奴の仲間と言うのは女学生か?」
「ん、女だったが、可愛い可愛い学生さんって言うにはちょっと我が強いな。問答無用で殺しに来たし・・・って、こんなこと喋ってる場合じゃねえんだ、もう行くぜ」
「待て。説得したいといったな?私が協力してやろう」
美姫から出た意外な言葉に、喋るバイクに乗ろうとしていた零崎も、宗介もかなめも、アシュラムですら信じられないという風に表情を変える。
「質疑は受け付けぬ。―――――零崎とやら、この道路を道沿いに進んだすぐそこに教会がある。そこで待っておれ」
「あ?いや、でもよ、あいつは――――」
「二度は言わん、安心しろ、我が強い女をねじ伏せるのは私の得意分野だからの」
「・・・・・・・・・・・・」
これ以上何を言っても無駄だと感じたのか、言葉の端に怪しい感じを受けたのかはわからないが、零崎はじゃあ、頼むぜとだけ言い残して道路を走り去った。

261修正版【吸血鬼、吸血姫、殺人鬼。】 ◆B.KZUEhlgg:2006/01/19(木) 23:11:40 ID:ztJ7GxaY
「―――――、どういうことだ?」
男が去った後、宗介は美姫に問いかけた。
「まあ、そなたの言いたいことはわかる。心を読まずともな」
楽しそうに笑いながら、美姫は答える。
「人助けをしている場合ではない、か?」
「ああ、メリットが期待できないどころか、仲間を殺されて怒り狂っている者を第三者が説得するなど、不可能だ。明らかにデメリットのほうが大きい」
宗介の正論を、しかし美姫は一笑に付す。
「第三者ならそうかも知れんがな、おそらくその女は私の血を受けて吸血鬼になった者であろう。そうであれば【制御】は簡単だし、そうでなかったとしても、力でねじ伏せるのみよ。かなめはお前が守ってやるがよい」
「――――ああ、わかった」
「それにしてもあの男、零崎人識。実に面白い。あそこまで闇に満ちた心を見たのは久方ぶりよ」
「闇?」
かなめがその言葉に反応する。闇と言う言葉は、どちらかと言えば美姫が他人に言うよりはその逆の、と思ったからだ。
(闇、か。それなら俺も)宗介はその言葉で自分がかなめを助けるために行った行為を思い返す。
アシュラムは、少し身震いしたように見えたが、美姫の言葉の続きをいつものように待った。
「そう、少し心を覗いただけでも常人なら発狂するほどのな。奴の心に一刹那見えた鏡のような存在とやらにも、いつか会いたいものだ」
叶うはずもない願いを抱きながら、吸血姫はまもなく来るであろう自己と同種の存在を待ち構える。
さながら、きまぐれに谷から突き落とした子獅子が大きく成長して帰ってくるのが楽しみで仕方ないとでも言わんばかりに。

262修正版【吸血鬼、吸血姫、殺人鬼。】 ◆B.KZUEhlgg:2006/01/19(木) 23:12:26 ID:ztJ7GxaY
「ねえ、教会に行かなくてもいいの?」
「ああ、初対面の人間は信用するなって大将に言われててな」
ある程度先ほどの場所から離れた、しかし美姫たちの姿はうかがえて且つあちらからは気づかれにくいと言う森の一角を容易く見つけた零崎はそう嘯く。放送が流れているが、特に気にしない。
「それに、あの女―――」
「うん、名乗ってないはずなのに君の名前を知ってたね」
エルメスは長い間キノと旅を続けてきた。キノが他の旅人や国の住人と会話しているとき、何もしてないしなにもできないので、自然と他人の話をよく聞く癖がついていたのだ。
キノも用心深いところがあったので、エルメスは目の前の軽薄そうな男とキノの意外な共通点に驚いていた。
「いや、なんか雰囲気エロかったな」
「きみをキノと一緒にしたことを謝りたい、キノと、後、善良なる読者の皆さんに」
「なんだそりゃ、戯言か?よし、お前を戯言使い2世と呼ぶことにしよう、これで解決だ」
「そんな格好悪い肩書きはいやだよ―――何やってんの?」
零崎はエルメスが講義しているのを全く聞かず、寝転がって本を読み出した。
「何か動きがあったら教えてくれ、さっきからずっと内容忘れて気になってる処があったんだ」
「・・・ボージャック夫人!! 」
「そうそれ」

ちなみに、零崎人識は宗介のことを本当に忘れていた。それは、本の内容を忘れていたことと同じく、彼にとってはどうでもいいことなのだろう。


――――――殺人鬼は、あくまで悪魔のように傑作だった。

263修正版【吸血鬼、吸血姫、殺人鬼。】 ◆B.KZUEhlgg:2006/01/19(木) 23:13:19 ID:ztJ7GxaY
【C-6/道/1日目・17:56】


【シャナ】
[状態]:火傷と僅かな内出血。悪寒と吐き気。悠二の死のショックと零崎の戯言で精神不安定。 肩に包丁の一部が刺さっている。吸血鬼化ほぼ完了。それに伴い憎悪・怒りなどの感情が増幅 、吸血衝動(自分の力でまだ抑えられなくもない)
[装備]:贄殿遮那
[道具]:デイパック(支給品一式(パン6食分・水2000ml))
[思考]:1-零崎を追いかけて殺し、血を吸う
     2-殺した後悠二を弔う
     3-聖を倒して吸血鬼化を阻止する (希薄)

[備考]:内出血は回復魔法などで止められるが、体内に散弾片が残っている。
     手術で摘出するまで激しい運動や衝撃で内臓を傷つける危険有り。

264修正版【吸血鬼、吸血姫、殺人鬼。】 ◆B.KZUEhlgg:2006/01/19(木) 23:14:12 ID:ztJ7GxaY
【D-6/教会前道路/1日目/17:58】

【相良宗介】
【状態】左腕喪失、右腕は通常時より少し反応が鈍る可能性あり、それ以外は健康
【装備】なし
【道具】なし
【思考】どんな手段をとっても生き残る 、かなめを死守する


【千鳥かなめ】
[状態]:通常
[装備]:なし
[道具]:荷物一式、食料の材料。鉄パイプのようなもの。(バイトでウィザード「団員」の特殊装備)、 エスカリボルグ
[思考]:宗介と共にどこまでも。


【美姫】
[状態]:通常
[装備]:なし
[道具]:デイパック(支給品入り)
[思考]:まもなく現れる同属への説得(手中に収める)。零崎に興味。
(美姫はシャナのことをおそらく聖だろうと思っています。放送3分後ほどに接触。)

【アシュラム】
[状態]:健康/催眠状態
[装備]:青龍堰月刀
[道具];冠
[思考]:美姫に仇なすものを斬る/現在の状況に迷いあり

265修正版【吸血鬼、吸血姫、殺人鬼。】 ◆B.KZUEhlgg:2006/01/19(木) 23:15:02 ID:ztJ7GxaY

【c-5/教会裏の森/1日目/18:01】
【零崎人識】
[状態]:全身に擦り傷 疲労
[装備]:自殺志願  エルメス
[道具]:デイバッグ(地図、ペットボトル2本、コンパス、パン三人分)包帯/砥石/小説「人間失格」(一度落として汚れた)
[思考]:シャナが美姫たちに接触するまでは読書、事がどう運んでも一旦は佐山たちと合流しようと思っている。
一応もう一度シャナを説得しようとは思っている。

[備考]:記憶と連れ去られた時期に疑問を持っています。

266Fake&Liar ◆jxdE9Tp2Eo:2006/01/29(日) 16:20:39 ID:JCBd.oTo
「たすけてぇ!!」
密室に千絵の悲鳴が響く。
ベッドサイドには割り箸を組み合わせて作った十字架を持ったリナの姿。
「いやぁぁぁぁ、お願いこれ以上それを近づけないでえ!!」
喚く千絵の顔を見るリナの瞳が加虐に酔っていく。

「そう…でもね、アメリアはもっと…」
そう言って千絵の足に十字架を押し付けようとしたリナだったが。
「もういいでしょう」
保胤が寸でのところでリナを制止する。
「でもっ!」
「しっかりしてください、恨みを恨みで重ねればそれこそ思う壺です」
その言葉にはっ!と保胤の方を振り向くリナ。
その通りだ、憎しみを加速させることこそ奴らの狙い、わかっていたはずではないのか。
だが、それでも目の前の吸血鬼がアメリアを殺したかもしれない…そう思うと怒りを抑えることができない。
リナの拳がふるふると震え、ギリッと噛み締めた歯が軋む音がはっきりと聞こえる。
「あんたが代わりにやって…」
そう保胤に向かって呟くとリナは壁にもたれかかり、ため息をひとつついた。
「ご存知のことをすべて話していだだけますね」
保胤の言葉に、千絵は力なく頷いた。

「そんじゃアンタも噛まれたわけね」
保胤とリナの質問に千絵は逆らわず淡々と応じていく。
「はい…噛まれる前の事とかは正直覚えてないですけど」
「で、噛んだのがその聖って女ね、あいつがご主人様?」
ご主人様という言葉に嫌悪の表情を見せる千絵。
「そういう意味じゃなくって、あいつが伝染源なのかってことよ」
「違うと思います…あの女も噛まれたみたいですから」
「なるほど…」
「その聖さんを噛んだ方のことは聞いてらっしゃいますか?」
「はっきりとは…でもマリア様よりも美しい方と言ってました」
「マリアってことは女?」
「はい、あの女はレズなので」
リナはシャナに牙を突き立てた聖の恍惚の表情を思い出して、頷く。

267Fake&Liar ◆jxdE9Tp2Eo:2006/01/29(日) 16:21:35 ID:JCBd.oTo
「そう…わかったわ」
それだけを言うと、リナはもう用は済んだとばかりにまた千絵の傍を離れる。
だが、やはりその握られた拳は小刻みに震えていた。
リナが部屋から出て行ったのを確認し、保胤は千絵にまた質問する。
「お体は大丈夫でしょうか?」
もうこの少女は魔物と変じている、そう知ってながらも保胤には迷いがあった。
もしかするとまだ手段はあるのかもしれないと。
「足元が寒くて…毛布ありませんか?」
だから、千絵の言葉に頷くと保胤は毛布を千絵の体にかぶせてやり、リナに言われたとおり
手製の十字架を枕元において、部屋から退出していった。


「もう…こんな時間ですか…」
保胤は手に持ったタンポポの綿毛を夜風に空かす。
もう太陽は霧の中最後の一片を地平線の彼方へ隠そうとしている。
そして…淡々と死亡者の名が告げられる中…保胤は結論を出した。
もう、これ以上は無理だと…自分の気持ち一つで彼女をまだこの世界に留めてはおける。
だが…肉体を失った魂は容易く怨念に取り込まれる、それは自分自身何度も見て経験したことだ。
…摂理には従わねばならない。
「貴方は死んでいるんです…さようなら」
それだけを呟き、保胤は綿毛を夜空に飛ばした。

「急ごう、もう日が暮れる」
霧の中静雄と由乃は落ち着ける場所を探していた…だが。
由乃の動きが急に止まり、その体が小刻みに震えだす。
「おい…?」
由乃の背中をさすろうとして、ああコイツは幽霊だったなと思い直す静雄だが。
ここで重大なことを思い出す…時計を見るのを忘れていた、今の時間は…。
「もう時間が来たみたい」
苦しげな息の中で途切れ途切れに話す由乃。
それを愕然とした面持ちで見る静雄、確かに最初に出会ったときからその話は聞いていた。
だが、この3時間強の時間の中でそのことはいつしか忘れ去られていた。

268Fake&Liar ◆jxdE9Tp2Eo:2006/01/29(日) 16:22:42 ID:JCBd.oTo
それほど静雄にとっては由乃の存在は有意義で、そして心地よいものだったのだ。
生まれ持った肉体と粗暴な性格のため、仲間らしい仲間もほとんどおらず。
そのやるせない気持ちを暴力という望まぬ形でしか発散できなかった、
哀れな男が初めて誰かに必要とされた…今ならわかる、時間を見るのを忘れていたんじゃない、
時間を見るのが恐ろしかった、この時間を失うのが恐ろしかったのだ。
静雄はなんとか引きとめようと、由乃の手を力いっぱい握り締めようとするが、
その手はむなしく空を切る、そして…
「……!」
由乃は何かを最後に静雄に向かい叫ぶ、だがその声が届く前に…島津由乃は天に還った。

「おい…さっき何って言ったんだよ…なあおい」
由乃が消えた場所にへたり込み地面を掻き毟る静雄。
「なんで!なんで!なんで殺しやがった!!まだそこにいてまだ話せてたんだぞ!!」
確かに理屈ではわかる、だが静雄にとって由乃は体が存在しないだけで、その一点を除けば、
生々しい、まさに生きた存在だった。
どんな理由があるのかは知らない、知りたくもない。
「時間が来たらハイそれまでよか!だったら中途半端に勝手に生き返らせるな!畜生がっ!!」
怒りの赴くままに静雄は近くの大木を次々と蹴り倒していく。

この島で誓ったことを忘れたわけじゃない、誰かのためにこの力を使いたい気持ちに偽りはない。
だが…それでも由乃を生き返らせて、そしてまた殺した由乃が言うところの平安時代の男だけは許せない。
せめて一撃くれてやらんと収まらない。
(平安時代って何時代だったか?まぁいいや、俺がそう思えばそいつが平安時代だ。)

269Fake&Liar ◆jxdE9Tp2Eo:2006/01/29(日) 16:25:44 ID:JCBd.oTo
一方のリナは来たるべき戦いについて思案していた。
セルティにも聞いたが、どうやら多少の差異こそあれ吸血鬼の弱点・習性はどの世界でもほぼ共通のようだ。
ならば…吸血鬼は強大な魔力を持つ、魔族の王と自らを誇っている。
…だがその強大さと引き換えに弱点の多さでも知られている、
だから奴らは隠れるように古城の中に息を潜め暮らしているのだ、正直、自分の敵ではない。
『本当に来るのでしょうか?』
「下僕同士はともかく、吸血鬼は仲間意識が強い種族よ…必ず取り戻しにやってくるわ」
セルティの質問に即答するリナ、仲間意識だけではなく、奴らはプライドも必要以上に高い、
自分の下僕が虜になったと悟れば必ず来る…、ましてその大っぴらな吸血ぶりから考えて、
自分の弱点を知るものがいないとでも思っているのだろう。
「殺すのかって?違うわ、まだ殺さない」
自分たちの世界の吸血鬼と違い、聖や千絵らはある種の呪縛のようなもので吸血鬼と化している。
親玉ならばその呪縛を解除することも出来るはずだ。
単に殺すだけでは一緒になって滅んでしまうかもしれない、それを確かめなければ。
「大丈夫よ、そいつの魔力がどんなに強くても、奴らには決して逃れ得ない弱点があるもの」

しかし…リナは思い違いをしていた。
十字架もにんにくも千絵には何の脅威にもなっていなかったのだ。
残酷なようだがリナが千絵に十字架を押し当てるところまで行っていればそれとすぐに看破できたのだが、
これも運命の悪戯だろうか?
千絵は天井を眺めながら心の中であざ笑う、リナの性格はアメリアから聞いていた。
頭は切れるが早合点で自信過剰という話はどうやら間違いないようだ。
だが、ここまで頭に血が上りやすいとまでは聞いてなかった。
おかげで聖に全責任を押し付けるという計画は取りやめるしかなかった。
あの調子だと自分まで共犯者にされてしまう、なら自分も彼女も被害者として説明し、
会ったこともないマリア様とやらに責任をかぶってもらう方がまだマシだろう。

そして千絵は毛布で隠された足元をぎこちなく動かしている。
「ええと…ビデオではこうやってたかな」
最近学び始めた護身術、そのビデオの中に紹介されていた縄抜けの方法を千絵は実践しようとしていた。
そしてそんな彼女の首筋には、もう傷はなかった。

270Fake&Liar ◆jxdE9Tp2Eo:2006/01/29(日) 16:26:59 ID:JCBd.oTo
【C-6/住宅地のマンション内/1日目/18:00頃】
『不安な一室』
【リナ・インバース】
[状態]:平常
[装備]:騎士剣“紅蓮”(ウィザーズ・ブレイン)
[道具]:支給品二式(パン12食分・水4000ml)、
[思考]:仲間集め及び複数人数での生存。管理者を殺害する。
     吸血鬼の親玉(美姫)と接触を試みたい。
     

【セルティ・ストゥルルソン】
[状態]:疲労から回復
[装備]:黒いライダースーツ
[道具]:携帯電話
[思考]:静雄の捜索及び味方になる者の捜索。


【慶滋保胤】
[状態]:不死化(不完全ver)、疲労は多少回復
[装備]:ボロボロの着物を包帯のように巻きつけている
[道具]:デイパック(支給品一式(パン6食分・水2000ml))、「不死の酒(未完成)」(残りは約半分くらい)、綿毛のタンポポ
[思考]:静雄の捜索及び味方になる者の捜索。 シャナの吸血鬼化の進行が気になる。

【海野千絵】
[状態]:吸血鬼化完了(身体能力向上)、シズの返り血で血まみれ、厳重な拘束状態からの脱出を実行中
[装備]:なし
[道具]:支給品一式(パン6食分・シズの血1000ml)、カーテン
[思考]:チャンスを見計らい脱出、聖を見限った。下僕が欲しい。
     甲斐を仲間(吸血鬼化)にして脱出。
     吸血鬼を知っていそうな(ファンタジーっぽい)人間は避ける。


【H-5/砂浜/1日目・18:00】
【平和島静雄】
[状態]:下腹部に二箇所刺傷(未貫通・止血済)
[装備]:神鉄如意
[道具]:デイパック(切り裂かれて小さな穴が空いている、支給品一式・パン6食分・水2000ml)
[思考]:由乃の伝言を伝える。セルティを捜し守る。クレアを見つけ次第殺害。
    保胤を見つけてぶん殴る。(由乃からは平安時代風の男の人としか聞いてません) 

【島津由乃:成仏】

271互い違い修正 ◆eUaeu3dols:2006/02/28(火) 16:41:23 ID:o3j/ZK5.
まず冒頭部の「どういう事?」までを下に差し替えてください。
――――――――――――――――――――――

18時の放送。それはこれまで最大の死者の数と、仲間の死を伝えた。
テレサ・テスタロッサの死。仲間の、親友や恋人の死。
更にその放送の終わりと同時にモトラドの音と、電話の着信音が部屋に響いた。
リナの携帯電話に掛かってきたベルガーからの連絡だ。
「どうしたの、ベルガー? 今さっき、エルメスの音がしたけど……」
『エルメスは盗られた!』
「……それで?」
冷静に先を促す。
電話の向こうから高速で駆ける音と粗い息、ベルガーの声が聞こえてくる。
『乗ってるのは零崎という男だ。坂井悠二を殺したと自己申告してきやがった』
息を呑む。それは確かにほんの先ほどの放送で告げられた死者の名だ。
「どういう事?」

――――――――――――――――――――――

加えて最後の方の下の部分を修正してください。
『坂井悠二の事は放送の直前に電話も受けたが〜』
            ↓
『坂井悠二の事は放送の直後に電話も受けたが〜』

状態表の時間については修正の必要は有りません。
まず、よろしくお願いします。

272まったりとした時間・修正 ◆eUaeu3dols:2006/02/28(火) 16:48:45 ID:o3j/ZK5.
――――――――――――――
ふと心配に思う。
「志摩子や祐巳ちゃんはどうしてるのかな。生きてると良いんだけど。
――――――――――――――
から
――――――――――――――
「でも、祐巳さんは『悪神祭祀』さんが会った時にはもう絶望してたって言ってたな。
 多分、嘘じゃないと思うけど」
――――――――――――――
までを下の内容に差し替えて下さい。
(8/12)の後半から(9/12)の前半辺りの部分です。
――――――――――――――――――――――――――――

ふと心配に思う。
「志摩子や祐巳ちゃんはどうしてるのかな。生きてると良いんだけど。
 ……祐巳ちゃん、祥子ちゃんが死んだのを聞いても大丈夫で居られたかな」
「福沢祐巳さんなら、『悪神祭祀』さんに乗っ取られてるよ」
「【…………え?】」
沈黙を守っていた魔女・十叶詠子の唐突な言葉に、聖の声と子爵の文字が驚愕を交えた。
「夢の中で会ったんだけどね、『悪神祭祀』さんはその福沢祐巳さんを乗っ取ってるの。
 名前はカーラっていうんだけど、名簿には載ってないよ。
 『悪神祭祀』さんは支給品のサークレットだから」
驚愕の内容。だが、聖も子爵も気づいている。
彼女の言葉に嘘は無い。
「祐巳さんがもっとも掛け替えのない人の死を聞くのは正午の放送。
 だけど『悪神祭祀』さんは福沢祐巳さんを乗っ取って、その悲しみを封じてしまった。
 それが放送の前なのか後なのか……ううん、もう関係ないかな。
 だって祐巳さんが聞いても『悪神祭祀』さんが聞いても、その記憶は祐巳さんの中にある。
 『悪神祭祀』さんが外れるまで、その悲しみは記憶の底に眠ったままだけれどね」
「そうそう、祐巳さんは『悪神祭祀』さんが会った時にはもう絶望してたって言ってたな。
 多分、嘘じゃないと思うけど」
――――――――――――――――――――――――――――

細々とした修正をお願いする事になりますが、どうかよろしくお願いします。

273白天の破壊 夜色の空・修正 ◆E1UswHhuQc:2006/03/05(日) 01:25:20 ID:wqfCkfUA
18レス目の
「あれによる傷は深い。正直なところ、『零時迷子』の少年には感謝している」

「あれによる傷は深い。このような場こそ『彼』の問いかけの場に相応しいというのに、出られないでいる」
に、

16レス目の最後の行、
天変する。

転変する。
に、それぞれ修正お願いします。

274魔剣の行方・修正 ◆685WtsbdmY:2006/03/13(月) 19:18:48 ID:cgcidm6Y
3レス目について
「スプライトよ、小さき精霊よ……」
      ↓
「見えざる小さき精霊よ……」

8レス目の文の全体について以下のように、
 結局、説明書は見つからなかった。
 無論、そのこと自体はクエロの嘘を立証するものとはならない。例えば、説明書が無い代わりに大量の弾丸を同梱したのだという話も考えられないことでは無いからだ。
 だが、今頃サラあたりがクエロから聞き出しているだろう魔杖剣の用法の説明が裏付けられるということも無い。一方で、クエロの所持していた弾丸が、魔杖剣とともに使用するものであることはほぼ間違いない。
 また、クエロが元の世界から知る者の名としてあげたのはガユスとギギナの二名で、クエロ自身と合わせて三名。これまでに見つかった魔杖剣も合わせて三振り。ほとんど言いがかりのようなものだが、数は一致する。
 いくつかは――もしかしたら全てが――偶然かもしれないが、それを信じられるはずも無かった。
 空目たちの言うようにするにせよ、この魔杖剣をクエロに見せるのは得策ではない、とピロテースは判断した。
 重い荷物を抱えていざというときに行動を制限される愚を避ける意味でも、鞄ごとこのまま放置し、合流後にせつらかサラに回収を任せることにする。
 他の参加者に奪われてしまう恐れがあるのが少々気がかりだが、天候の推移や、城や洞窟との位置関係から考えれば、その可能性自体はそう高いものではない。
 説明書の代わりに見つけた、この鞄の持ち主へとメフィスト――せつらの知り合いだと聞いている――が当てたと思しき手紙(意図しない誰かに読まれる危険を考慮してか、肝心のところが欠けていた)と魔杖剣を元の鞄に戻し、ピロテースは西の森へと向かった。

10レス目後半について、
 説明書にいわく(中略)待つばかりだ。
     ↓
 説明書にいわく。これをかぶっている者は、見ている者とって好ましいように見えるのだという。地味だが、情報を得るために他の参加者と接触する機会があれば、それなりに有用となることだろう。
 また、今回は洞窟からの距離が近かったので、他の支給品も鞄ごと持ってきてあった。一つの鞄にまとめて持ち歩いても良いのだが、戦いともなれば、身のこなしのほんの僅かな差が生死を分けることもある。
 結局、後で分配するときのことも考え、それらについては拾った方の鞄にいれたままにしておくことにした。
 これで、付近の警戒以外にすることはなくなった。あとは、皆が来るのを待つばかりだ。

という風に、修正をお願いいたします。

275Spine chillerの修正 ◆GQyAJurGEw:2006/03/27(月) 20:58:40 ID:MqxFG5Y.
本文と状態表の、「魔術師」の単語を「魔術士」に変更お願いします。
お手数をおかけして申し訳ありません。

276空想科学世紀のシンパシーの修正◇MXjjRBLcoQ:2006/05/29(月) 20:32:39 ID:G30VWF.2
本文最後コミクロンの台詞中のヘイズをヴァーミリオンに変更お願いします。

277白天の破壊 夜色の空の修正 ◆E1UswHhuQc:2006/06/17(土) 22:07:39 ID:wqfCkfUA
三段落目(っつーか二個目の○の辺り)を以下に変更お願いします。

 体当たりでフリウを突き飛ばし、一緒に地面を転がる。かつて無礼な男に捕らえられた時と同じように。
 銃声が響き、何かが高速で大気を突き破っていった。
 ……危なかった。
 安堵と同時に、怒りが生まれる。
 立ち上がり、霧の白界の先にいるはずの相手を睨む。
「なんで」
 呟きを殴るように三度目の銃弾が飛来し、霧を巻いてどこかへと抜けていく。
 四度目、五度目。銃声が連打し、同じ数だけ霧に渦を描く。その渦さえも長くは残らない。風に乱され、消えていく。
 再度、呟きを漏らした。
「なんで……」
 奥歯を噛み締める。砕けてもいいほどに噛み締めるが、痛みは来ない。
 肩に重みを感じて振り向けば、フリウが厳しい瞳でこちらを見つめる。
 足に触れたのはロシナンテ。白い毛皮のほとんどを赤く染めて、しかし気丈な瞳を向けてくる。
 その両方に頷きを返して、要は大きく息を吸い、目を閉じた。
 霧に閉ざされた白い視界から、真っ暗な闇が視界に変わる。
 転変する。
 体が変わる――人にあらざる姿へ。四足を持った獣の――麒麟の姿へと。
 霧を祓うように黒いたてがみを一振りし、フリウへと視線を向けて体を傾ける。
 彼女は驚いた様子だったが――、乗って、と一声かければ頷きを返した。
 人の重みを体で感じたと同時に、視界の隅にいた白い仔犬――仔ドラゴンの姿が変わる。ドラゴンと呼ぶに相応しい巨体へと。
 負っていたはずの傷はいつの間にか消えている。
 要は穢れ無き白色を持つ竜と視線を合わせ、同時に頷いた。首を上げ、暗くなり始めた空を見上げる。
 暗雲に包まれた空。黒の絵具を水でとかしたような曇天を仰ぎ見て、二人が飛んだ。
 飛ぶ。心地よい感覚が体を支配する。
 背には少女。隣には白竜。
 失った人はいる。もう逢えない人はいる。
 だがそれでも――
 下を見た。大地がある。街があり、森があり、川があり、海がある。それらを覆っていた霧は、いつの間にか消え去っている。
 ……なぜだろう。
 疑問はあったが、それよりも気になるものを見つけた。
 一人の男。
 見たことのある顔で、テレビに出ていた悪い人たちが持っていたような、拳銃をもっている。
 ……あれで、撃ったんだ。
 静かに納得した瞬間、男の顔が変わった。会いたかった人の顔に。
 ……!?
 泰王――驍宗。
 その姿は、記憶に残る彼の姿と同じだった。
 だが、
 ……違う!
 王気が感じられない。
 強烈な拒否感が沸く。麒麟として、王と定めた者の贋物を拒否している。
 贋物が口を開いた。

「――慈悲ではない。慈悲などではないのだよ」

 その声もまた驍宗のものだった。
 怒りが生まれた。使令が――傲濫がいたら、怒気を感じ取って即座に攻撃していだろう。
 それぐらいの怒りだった。

「本来ならば『彼』の役目なのだがね。君の庇った少女も知る、獣の業火」

 と、贋物の隣に人影が生まれた。一つだけではない。
 李斎。蓉可。禎衛。祖母。母。弟――
 全て、贋物だと判った。
 吐き気を感じて、怒りのままにそれらをどうにかしようと地上に向かう。

「あれによる傷は深い。このような場こそ『彼』の問いかけの場に相応しいというのに、出られないでいる」

 が、それを動きとする前に、隣の白竜に止められた。
 ……なんで!
 抗議を発すると同時に、息を呑む。
 彼を止めているのは白竜ではなかった。女の上半身に魚の首、豹の下半身に蜥蜴の尾を持つ、女怪だった。
 ……汕……子……!?
 はっとして、自分の背を見る。
 背に乗せていた少女はいつの間にかいなくなり、そこには一匹の仔犬が――仔犬の姿をした強大な妖魔、饕餮が居た。
 ……傲濫――!
 傲濫は――いや、傲濫の贋物は、汕子の贋物と共にこちらの動きを封じてくる。

「さて――問いかけよう」

 月の浮かぶ夜色の空の中。
 贋物達が一斉に――嗤う。


「心とは実在するものだろうか?」


「――――――――!!」

 なんと叫んだのかは、判らない。
 叫べたのかすら判らないまま、泰麒は夜色の中に没した。

 空が、

278 ◆E1UswHhuQc:2006/06/21(水) 19:27:53 ID:wqfCkfUA
たびたび申し訳ありませんが、上記の文章の中の

 怒りが生まれた。使令が――傲濫がいたら、怒気を感じ取って即座に攻撃していだろう。



 怒りが生まれた。使令が――傲濫がいたら、怒気を感じ取って命ずる前に攻撃していたかもしれない。

に変更お願いします。

279 ◆eUaeu3dols:2006/07/21(金) 06:28:18 ID:2N2nYd96
遅くなりましたが、ロスト・ライブス(悼む傷痕)についての部分修正稿です。

――――――――――――――――
>修正前
その闇夜から切り取られた一角に、赤い血溜まりと一つの死体が転がっていた。
無数の銃創が全身を穿ち、苦痛と絶望で固められた死に顔はただ闇夜を見つめていた。

      ↓
>修正稿
その闇夜から切り取られた一角に、赤い血溜まりと一つの死体が転がっていた。
無数の銃創が全身を穿ち、瞳だけは閉ざされた顔はそれでも苦痛と絶望の最期を感じさせた。
――――――――――――――――
>修正前
額にはシーツの端を破った包帯を巻いた。
最後に茉理の顔に触れて、その瞳を優しく閉じてやった。
絶望を映して闇夜を見続ける瞳が、静かな眠りに就けるように。
終はその作業が終わるのを待って、一言だけの言葉を掛けた。
「…………おやすみ、茉理ちゃん」
夜は更けていく。

      ↓
>修正稿
額にはシーツの端を破った包帯を巻いた。
そこまでの作業を終えたセルティはもう見ても良いと合図する。
終は振り返って茉理を見つめて、一言だけ言葉を送った。
「…………おやすみ、茉理ちゃん」
夜は更けていく。
――――――――――――――――
以上です。
指摘から時間が空いた事と、毎度毎度修正が出てすみませんが、よろしくお願いします。

280導き修正 ◆AInrN85iiA:2006/08/22(火) 01:16:29 ID:inE0PF92
訂正おねがいします


[備考]:誰かとかすれ違ったかも

[備考]:誰かとすれ違ったかも

281我ら、炎によりて世界を更新せん『修正ver』 ◆ozOtJW9BFA:2006/09/23(土) 23:59:39 ID:10YvUZzQ


「………退屈」

人形使いは今の現状に退屈していた。こんなにも面白いゲームなのに想像を越えるアクシデントがなに1つ起きないのだ。
最初の退屈がきた時は暇を潰す物が落ちていたのでよかった。ホールで魔術師に殺された二人を拾い、死体兵士を造りながら時間を潰した。しかし、いつもは吸血鬼相手を兵士にしているせいか、只の人間二人は時間もかからず作れてしまい、少しの時間しか潰せず直ぐに退屈になってしまった。こんな事ならモニタールームで参加者達の会話を聞いたほうがよかったかもしれない。
後悔しつつモニタールームに行くとワイン『ペイル・ブライド(青ざめた花嫁)』を片手にモニターを見ている先客がいた。

「それでどんな感じ、イザーク?」

「“人間は一人一人見るとみんな利口で分別ありげだが、集団をなせばたちまちバカがでてくる”━━━シラー………今のところは予定通りさ、人形使い。参加者は群れを作りだした。ついでに私達自慢の刻印もすこしづつだが、解除されようとしている」

“私達”か。
あの協力者を思い浮かべながら天使の顔を美しく歪める

「嘘を言わないでよ。あんなチャチな物が自慢の品なんて君も皮肉がきいてるね。僕にも手伝わせてくれたら、もうちょいマシなモノが出来たね。あんなモノよりもね」

「“われわれの最も誠実な努力はすべて無意識な瞬間に成就される”━━━ゲーテ………酷い言われようだな。あんなモノでも私達が作った刻印だ。頑張って解いてくれることを、おや?」

そのままワインを飲もうとしている黒髪の紳士の手からワインを没収すると、鳶色の髪の若者は悪戯っぽく唇を尖らせた。

「ワインを飲みながら管理は出来ないでしょ」

ワインをとられて非難がましい色を湛えて上がった相手の視線は無視して、沢山の参加者が映すモニターに眼をむける。その様子を見ながら魔術師はとられたワインのかわりに細葉巻(シガリロ)を口にくわえる

「人形使い、君の賭けた参加者は死んでしまったようだね。」

「それって僕に人を見る目が無いっていう皮肉かい、イザーク?」

282我ら、炎によりて世界を更新せん『修正ver』 ◆ozOtJW9BFA:2006/09/24(日) 00:00:35 ID:10YvUZzQ


あらゆる機械類が所狭しと設置してあるモニタールームには魔術師と人形使いしかいない。部屋に響く音は二人の会話と端に置いてあるコーヒーメーカーのコポコポというBGMだけだ。

「そういえばさ外の方がなんだか騒がしいんだけど何か知らない?」

「騒がしい?何がかね、人形使い?」

「とぼけないでよ、知ってるんだろ。外でいろんなのが集まってるってことをさ。」

人形遣いはまるで愉快と言わんばかりの笑みをする。その様子に魔術師は興味なさげにモニターを見るばかりだ。
魔術師にとって外にいる組織のことは興味や好奇心が湧く相手ではない。興味があるのは塔に眠るあの男、“01”のみ。…………そして、参加者を助けにきたであろう組織も眼中にはないようだ。妨害等取るにたらない要素。ま、いつもいつも作戦の度に妨害されている身だからから、馴れちゃってるんだろうね。実際問題、外の連中は何回か空間に穴を開けようと努力しているらしいけど効果はあがってはいないらしいし。

それにしてもと人形使いは思う。この邪悪な魔術師のことだから、ろくでもないことか、さもなくばよからぬことを企んでいるのだろうが、いずれにせよこの魔術師が次にすることはすぐに予想がついた。

「ねぇ魔術師、君がこれからすることを当ててみせようか?もっとひどいことをするんだろ」

「その通りだ人形使い。もっともっとひどいことをするんだよ」

そう言うと魔術師は細葉巻を灰皿に押し付けた。


美しきもの、醜きもの

強きもの、弱きもの

善きもの、そして悪しきもの

すべて灰に帰さん

我ら、炎によりて世界を更新せん!



【一日目 18:25】

283カウントダウン一部修正 ◆eUaeu3dols:2006/12/12(火) 20:05:43 ID:tDnvYDPc
もしシャナがこの女を殺しておけば、少なくともこの男は死なずに済んだ。
殺そうとしなかったのに女は死んで、女を殺さなかったせいで男が死んだ。
あまりに皮肉な連鎖だった。
手向ける言葉すら思い浮かばず、ただじっと死体を見つめる。

――そして、シャナはそれに目を奪われた。

殺された男、ヤン・ウェンリーのデイパックから幾つかの装飾品が転がっていた。
まるで血のように紅い宝玉の付いた、4つで1セットの装飾品。

     ↓この部分を修正。

もしシャナがこの女を殺しておけば、少なくともこの男は死なずに済んだ。
殺そうとしなかったのに女は死んで、女を殺さなかったせいで男が死んだ。
あまりに皮肉な連鎖だった。
手向ける言葉すら思い浮かばず、ただじっと死体を見つめる。
その時に気づく機会は有った。
死体がナイフや銃創だけではなく、それ以上に無惨に壊されている事に気づく機会は有った。
『死体が7時に発動した刻印により破壊されている』事に気づく機会は有った。

――しかし、シャナはそれに目を奪われた。

殺された男、ヤン・ウェンリーのデイパックから幾つかの装飾品が転がっていた。
まるで血のように紅い宝玉の付いた、4つで1セットの装飾品。

284ロイヤルストレートフラッシュ一部修正 ◆eUaeu3dols:2006/12/12(火) 20:16:17 ID:tDnvYDPc
それは島の何処からでも見えた。
マンションの屋上から曇天の夜空へと赤い柱がそそり立っていた。
煌々、轟々と迸る閃光は上空の雲を貫いていた。
その下に在る何者かを誇るかのように。
やがて閃光は消え。

     ↓この部分に追記。

それは島の何処からでも見えた。
マンションの屋上から曇天の夜空へと赤い柱がそそり立っていた。
煌々、轟々と迸る閃光は上空の雲を貫いていた。
その下に在る何者かを誇るかのように。
全てを睥睨し、刃向かう者に振り下ろす鉄槌を示すように。
やがて閃光は消え。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

折原臨也の禁止エリア解除装置により解除されていたC−8の禁止エリアが再起動する。
刻印が発動する。
ヤン・ウェンリーの死体も、御剣涼子の死体も、発動した刻印に砕かれる。
既に失われた命が、肉体が冒涜され、魂さえも失われる。
そして――

――シャナの刻印は、発動しなかった。

     ↓この部分を修正。

折原臨也の禁止エリア解除装置により解除されていたC−8の禁止エリアが再起動する。
その中にある刻印は全て発動する。
ヤン・ウェンリーの死体と御剣涼子の死体が2時間以上前に刻印に砕かれたように。
既に失われた命さえも、肉体を冒涜され、魂までもが失われる。
ならば――シャナの刻印は?

シャナの刻印は、発動しなかった。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

以上です。
銃弾についての矛盾は次以降の書き手に委ねる方向で。
修正が遅くなり申し訳有りませんでした。

285カウントダウン更に一部修正 ◆eUaeu3dols:2006/12/21(木) 17:55:12 ID:TeVC8iVA
「……でも、死んだ」
その女と、そのすぐ近くにもう一人男の死体が転がっていた。
女の手の中には柄だけのナイフが有り、男の胸には刃先だけのナイフが突き刺さっていた。
あの女はシャナが見逃した直後にこの男を殺して、そして自分も誰かに殺されたのだ。
(殺しておくべきだったんだ……)

        ↓以下の様に修正

「……でも、死んだ」
その女と、そのすぐ近くにもう一人男の死体が転がっていた。
何かに刺された男と、銃で撃たれた女。
全ての凶器は持ち去られ、何がどう転がってこうなったのかは判らない。
だけどそれでも死体の向きや手の形、形相や足跡が作る周囲の空気が朧気ながらに教えてくれる。
あの女はシャナが見逃した直後にこの男を殺して、そして自分も誰かに殺されたのだ。
(殺しておくべきだったんだ……)

――――――――――――
と修正します。何度も申し訳有りません。

286No Mercy 2:King's Howling (4/28)  ◆l8jfhXC/BA:2006/12/23(土) 23:26:49 ID:5E.0R55A
名前欄のレスの一番最後に、三行開けて以下の文を追加お願いします。

「ベルガー!?」
 溜まっていた息をすべて吐き出したような悲鳴が響いた。
 終の真正面の食卓机。
 その向こうに、床へと倒れ込むベルガーの姿があった。 
 両手を押さえつける胸部に、わずかに血が滲んでいる。

287 ◆l8jfhXC/BA:2007/01/02(火) 21:19:03 ID:AYOPCiX2
以下のレスの部分を→以降に修正お願いします。
新年早々お手数おかけして申し訳ありません。

No Mercy 2:King's Howling (10/28)
>始さんっ!続くん!終くん!余くんっ!』
→始さんっ!続さん!終くん!余くんっ!』

No Mercy 2:King's Howling (18/28)
> 情報交換の際、訪問者の片割れである古泉一樹に対して、互いに手を汚す覚悟があることと、集団に手を出さないことを言外に伝えていた。
→ 情報交換の際、訪問者の片割れである古泉一樹に対して、互いに手を汚す覚悟があることを言外に伝えていた。

> その後それとなく釘を打っておいたのだが、どうやら無駄だったらしい。
→ それをふまえて、集団に手を出さないようそれとなく釘を打っておいたのだが、どうやら無駄だったらしい。

288 ◆685WtsbdmY:2007/02/03(土) 00:52:28 ID:IevLOmL6
第484話「魔剣の行方」および第499話「灰色の虜囚」の
ピロテースの状態表について以下のように修正をお願いします。

第484話:魔剣の行方
(誤)[状態]: 多少の疲労と体温の低下。クエロを警戒。
 ↓
(正)[状態]: 多少の疲労と体温の低下、気力の消耗。クエロを警戒。

第499話:灰色の虜囚
(誤)[状態]: 多少の疲労。
 ↓
(正)[状態]: 多少の疲労と気力の消耗
       (魔法の使用については上級のなら一回、初級のものでもあと数回が限度)。

289 ◆5KqBC89beU:2007/02/03(土) 02:02:52 ID:Us6r9odY
第533話:殺戮島事件 のウルペンの状態表を以下の通りに修正お願いします。

(誤)[状態]:疲労/絶望

(正)[状態]:左腕が肩から焼失/疲労/絶望

290大崩壊・修正点 ◆eUaeu3dols:2007/02/10(土) 22:46:47 ID:uqyY/Dqg
遅くなりましたが、大崩壊6部作における修正点です。
まずは誤字、誤表記の類について。


大崩壊/ディストピア(憎いし苦痛)
大崩壊/フォールダウン(地獄姉妹)
大崩壊/ストレイロード(正に外道)
大崩壊/デスマーチ(人生終了)

のフリウの台詞、思考より。
[『ロシナンテ』で検索し、全て『チャッピー』に変更]してください。

>大崩壊/デスマーチ(人生終了) 第11レス辺り
「で、ですが、片方を見捨てるなどと……」
「片方だけでも助けられる事を神様に感謝しなくちゃあ。俺は信じてないけどね。
 それに狩りに両方とも助けられても、半死半生になってしまったらどうするんだい」
臨也は最も無難な選択肢を吊して、嗤った。
「それだと、『助かったところで二人は足手まといになっちゃう』ね」
その言葉に保胤の頭にも血が上った。

[狩りに両方とも → 仮に両方とも]


>大崩壊/デスマーチ(人生終了) 第14レス辺り
(殺せる機会は逃すべきではないでしょうね)
古泉はゆっくりと終に近寄るとまず騎士剣“真紅”を持ち上げてみた。
……残念ながら、随分と重い。……残念ながら、随分と重い。
(これは狙いがずれるかもしれませんね)
狙いがずれればあの鱗に止められてしまうだろう。
古泉は騎士剣を諦め、終の腰からサバイバルナイフを抜きはなった。

[騎士剣“真紅” → 騎士剣“紅蓮”]
[サバイバルナイフ → コンバットナイフ]


>大崩壊/ユートピア(美しい国)
>大崩壊/リベンジワード(放送禁止)
クレアの状態表をそれぞれ次のように修正してください。
具体的にはサバイバルナイフと鋏の消去です。

>大崩壊/ユートピア(美しい国)
【F-1/海洋遊園地/1日目・21:40】
【クレア・スタンフィールド】
[状態]:健康。激しい怒り
[装備]:大型ハンティングナイフx2/シャーネの遺体(横抱きにしている)
[道具]:デイパック(支給品一式・パン6食分・水2000ml)、コミクロンが残したメモ
[思考]:この世界のすべてを破壊し尽くす。/
    “ホノカ”と“CD”に対する復讐(似た名称は誤認する可能性あり)
    シャーネの遺体が朽ちる前に元の世界に帰る。
[備考]:コミクロンが残したメモを、シャーネが書いたものと考えています。

>大崩壊/リベンジワード(放送禁止)
【B-6/森/1日目/23:50】
【クレア・スタンフィールド】
[状態]:健康。激しい怒り
[装備]:大型ハンティングナイフx2
[道具]:デイパック(支給品一式・パン6食分・水2000ml)、コミクロンが残したメモ
[思考]:この世界のすべてを破壊し尽くす/目の前の奴らをCDの仲間と誤認
    “ホノカ”と“CD”に対する復讐(似た名称は誤認する可能性あり)
    シャーネの遺体が朽ちる前に元の世界に帰る。
[備考]:コミクロンが残したメモを、シャーネが書いたものと考えています。
    シャーネの遺体は足下に置いています。

291大崩壊・修正点 ◆eUaeu3dols:2007/02/10(土) 22:52:24 ID:uqyY/Dqg
次に問題のベルガーが破壊精霊に“運命”を振るう場面です。
かなり悩みましたが修正案を一つ提示します。

――――――――――――――――――――――――――――――

>大崩壊/ストレイロード(正に外道) 第7レス辺り
運命は彼の手に握られている。
素早く単二式精燃槽を連結し振り上げる。
正面から。
《運命とは切り抜けるもの》
滅びの運命を切り抜ける刃を振り下ろしそして――

#この部分を以下のように修正。

運命は彼の手に握られている。
素早く単二式精燃槽を連結し振り上げる。
正面から。
如何な破壊であれ、その辿るべき運命を切り裂けば訪れる事はない。
(だが機会は一瞬)
迫り来る破滅の運命は剰りにも強大で、彼の手の中に有る精燃槽は僅かしかない。
刃を振り下ろすその一瞬に全てを賭けなければならない。
(――十分だ)
ベルガーは破滅を前に尚も不敵な笑みを崩さない。
破壊精霊の拳が辿り着く直前に、ベルガーは運命を振り下ろした。
黒い刃が降りる。進む。ベルガーの目前に。
破壊の拳は迫る。唸る。ベルガーの目前に。
逃れ得ぬ破滅の運命を前にベルガーは片肺から音を紡ぐ。
ベルガーは運命を変える詞を舌に乗せそして――


>大崩壊/ストレイロード(正に外道) 第14レス辺り
だから、その偶然の悲劇はある意味では必然だったのかも知れない。
困惑と驚愕の声が混ざった和音が響くマンションの一室で、
ダウゲ・ベルガーの握る“運命”の刃はリナ・インバースを切り裂いて、
リナ・インバースの握る光の剣はダウゲ・ベルガーの左肺を貫いていた。
破滅の転輪が廻る。

#この部分に加筆修正

だから、その偶然の悲劇はある意味では必然だったのかも知れない。
困惑と驚愕の声が混ざった和音が響くマンションの一室で、
ダウゲ・ベルガーの握る“運命”の刃はリナ・インバースを切り裂いて、
リナ・インバースの握る光の剣はダウゲ・ベルガーの左肺を貫いていた。
あまりに唐突すぎる状況の変化はダウゲ・ベルガーから判断を奪い、
予想だにしなかった光の刃は運命を変える筈だった詞を作る言葉を生みだす吐息の根源たる肺を破壊した。
破滅を切り裂くはずだった“運命”は、破滅の“運命”となりて全てを奪う。
破滅の転輪が、廻る。

292大崩壊・修正点 ◆eUaeu3dols:2007/02/15(木) 20:32:10 ID:VXZWWo2.
ベルガーが破壊精霊に“運命”を振るう場面については、
議論スレで出た意見を参考にして次のように修正します。
長らく時間をお掛けして申し訳有りませんでした。

>大崩壊/ストレイロード(正に外道) 第7レス辺り
運命は彼の手に握られている。
素早く単二式精燃槽を連結し振り上げる。
正面から。
《運命とは切り抜けるもの》
滅びの運命を切り抜ける刃を振り下ろしそして――

#この部分を以下のように修正。

運命は彼の手に握られている。
素早く単二式精燃槽を連結し振り上げる。
正面から。
如何な破壊であれ、その辿るべき運命を切り裂けば訪れる事はない。
(だが機会は一瞬)
迫り来る破滅の運命は剰りにも強大で、彼の手の中に有る精燃槽は僅かしかない。
刃を振り下ろすその一瞬に全てを賭けなければならない。
(――十分だ)
ベルガーは破滅を前に尚も不敵な笑みを崩さない。
破壊精霊の拳が辿り着く直前に、ベルガーは運命を振り下ろした。
黒い刃が降りる。進む。ベルガーの目前に。
破壊の拳は迫る。唸る。ベルガーの目前に。
逃れ得ぬ破滅の運命を前にベルガーは自ら運命を紡ぎ出す。
ベルガーは運命を変える詞を――


>大崩壊/ストレイロード(正に外道) 第14レス辺り
だから、その偶然の悲劇はある意味では必然だったのかも知れない。
困惑と驚愕の声が混ざった和音が響くマンションの一室で、
ダウゲ・ベルガーの握る“運命”の刃はリナ・インバースを切り裂いて、
リナ・インバースの握る光の剣はダウゲ・ベルガーの左肺を貫いていた。
破滅の転輪が廻る。

#この部分に加筆修正

だから、その偶然の悲劇はある意味では必然だったのかも知れない。
困惑と驚愕の声が混ざった和音が響くマンションの一室で、
ダウゲ・ベルガーの握る“運命”の刃はリナ・インバースを切り裂いて、
リナ・インバースの握る光の剣はダウゲ・ベルガーの左肺を貫いていた。
あまりに唐突すぎる状況の変化はダウゲ・ベルガーから判断を奪い、運命に抗う力を打ちのめす。
破滅を切り裂くはずだった“運命”は破滅の“運命”へと変わり果てる。
破滅の転輪が、廻った。

293道は通ずる(11/12)  ◆l8jfhXC/BA:2007/02/16(金) 17:05:16 ID:eDUsQ7E.
>※メガホン、強臓式武剣”運命”が床の上に落ちています。



※メガホンと
強臓式武剣”運命”(単二式精燃槽四つ装填・少量消費済)が床の上に落ちています。

に修正お願いします。

294名も無き黒幕さん:2007/02/18(日) 19:45:12 ID:NiVEQTJ6
>293の修正を撤回し、以下の物を適用+追加お願いします。お手数おかけして申し訳ないです。

11レス目 マンションの状態について
>※メガホン、強臓式武剣”運命”が床の上に落ちています。

※メガホンと
強臓式武剣”運命”(単二式精燃槽一つ装填・少量消費済)が床の上に落ちています。

12レス目 ベルガーの状態表
>[道具]:携帯電話、黒い卵

[道具]:携帯電話、黒い卵、単二式精燃槽三つ

295 ◆l8jfhXC/BA:2007/02/18(日) 19:46:16 ID:NiVEQTJ6
トリップorz

296 ◆CDh8kojB1Q:2007/04/03(火) 17:07:30 ID:9yaTnsNo
【小早川奈津子】
[状態]気絶中、右腕損傷(完治まで一日半)、たんこぶ、生物兵器感染
   胸骨骨折、肺欠損、胸部内出血、霊的パワーによる体の痺れ
[装備]ブルートザオガー(灼眼のシャナ)
[道具]デイパック(支給品一式、パン三食分、水1500ml)
[思考]意識不明
[備考]服は石油製品ではないので、生物兵器の影響なし
   約九時間後までなっちゃんに接触した人物の服が分解されます
   九時間以内に再着用した服も、石油製品なら分解されます
   感染者は肩こり・腰痛・疲労が回復します
   停止心掌は致命傷には至っていませんが、胸部にかなりのダメージを
   受けました

297絶望咆哮修正 ◆CC0Zm79P5c:2007/04/13(金) 14:08:25 ID:6AH3Zsjo
修正をお願いいたします。
本スレpart10 レス番号83 十行目から以下に差し替え

「……殺すまでもない。貴様は散々アマワに弄ばれ、それを決意と勘違いしたまま死ぬがいい」
 鬱憤をすべて吐き出した後、最後にぽつりと付け加える。
 声が小さくなったのは、自身の台詞に覚えがあったからだ。
(精霊に弄ばれ死ぬ、か)
 ――まるで、生前の自分だ。
 熱い吐息と共に、胸中で吐き捨てる。
 だが漏れる吐息に混ざらず、胸の奥にこびりついて離れない物もあった。
 それは本当に経過したのか信用できない、過去の一点。彼の終着。
 ――死だ。死の感触。生きているはずなのに、それが彼を満たしてやまない。
 まるで返しの付いた銛先の刺さるが如き、消えない棘の痛み。
 それは小さな棘だが、ピタリと急所をその殺傷範囲に収めている……
(俺は……何なのだ? 生きているのか、死んでいるのか……そんな安息すら世界は俺に与えてくれないというのか?)
 あるかどうか分からない。そこにあっても信用できない。故にそれらに意味はない。
 ウルペンはそういった存在を知っていたはずだった。
 だが解に辿り着く前に、視界が揺れる。まるで足場が消失でもしたかのように、ガクンと陥る無重力状態。
 それも長くは続かない。地面に膝をつくのみならず、ウルペンは五体投地するかのように土に突っ伏した。
 冷たい腐葉土の温度を感じる暇もなく、五感は異常を高らかに叫んでいる。
 熱病に冒された時のように熱っぽく脈動する全身。痙攣する指先。回る世界。
 心臓の鼓動は跳ねるように肥大し、肺を圧迫する。断続的に吐くだけの息は、いずれ尽きるだろうことを予測させた。
 限界が来たのだ。引き攣る横隔膜を宥めようとする無駄な努力の傍ら、それを悟る。
 腕を焼き落とされる重傷を負い、休憩も少し眠った程度で満足に取らず、ひたすらに動き続けた。その代償。
 しかし、何故いまになって?
 体の欠損には慣れているはずだった。かつて目を奪われ崖から投げ落とされた時も、彼は独力で帝都に帰還した。
 叫びながら走るのをそれほど負荷だとも思わなかった。彼はいつだって叫んでいた。
 そも、この島で腕を焼き切られてからすら、彼はひたすらに奪い続けていた。
 だが――と、既に得ていた解答が後を継ぐ。
 だが、それらはどうして成し得たのであったか?
 死ぬべき所で死なず、あの決闘まで生き延びたのは何故だ?
 ――契約の有効性を信じていたから。
 これは確たるモノであると、ずっと叫び続けていたのは何故だ?
 ――手に入るはずだと信じたかったから。
 いまの今まで動き続けられたのは何故だ?
 ――他人を自分と同じ絶望に引きずり込めると信じていたから。
 そう。彼は信じていた。ただそれだけ。
 念じれば働く念糸のように、彼はひたすらに信じていた。
 どれだけ歪んでいたとしても、それがどんどん磨り減っていっても、彼は信じていた。
 信念は死体すらゾンビに変える。それが妄執だというのなら、ウルペンもまた妄執の産物だ。死してなおここにいる。

298絶望咆哮修正 ◆CC0Zm79P5c:2007/04/13(金) 14:09:24 ID:6AH3Zsjo
 だが、今は?
 怪物領域の住人に打ちのめされ、綱渡りだった信念を完全に打ち砕かれた今は?
 ――無論、信じることなど出来ないに決まっている。
(……終わりか。それもいい)
 ぼんやりと幕の到来を予感し、独りごちる。
 頬に触れた湿った腐葉土の匂い。木々の枝間から注ぐ静かな月光。
 悪くはない。彼は断じた。それほどまでには――いやむしろ分不相応なほど。決して悪くはない。
 ここで、こんな終焉を迎えられるというのなら。
(――ならば、何故動く?)
 他人事のように、ウルペンは未練たらしく地面を引っ掻く己の隻腕を見つめていた。
 かりかりと地面を掻き続ける指。その指すら五指には足りない。あまりにも弱々しい。
 無駄だとウルペンは呟いた。どこか震えを含んだ声で、呟いた。
 だがその呟きも、指先が地面を抉り、捉えたともなれば絶叫に変じた。
「やめろ……! 俺を、俺を終わらせてくれぇっ!」
 それでも止まらない。信じることの出来なくなった彼には、体を支配することは出来ない。
 ――『それ』は、そこにあったとしても信用できない。
 いまのウルペンには信じることも、だが完全に否定しきることも出来ない。
 無様に絶望を叫びながら、しかしその裏では希望を期待している
 故に、彼を動かすのは生存本能と自殺願望。流転する二律背反。
 生存本能は彼を存続させようと体を動かす。自殺願望は彼の唇から怨嗟を垂れ流す。
 ――やがて軍配は、生存本能に上がる。
 舞台から降りようとした彼を引き戻すかのように、地を捉えた腕が支点となってウルペンの体を持ち上げた。
 絶叫は懇願へすら変じた。それでも動きは終わらない。ついに腕はウルペンの上半身を起こし、手近な大木へと寄りかからせた。
 動悸は収まらない。全身は弛緩し、脱力しきっている。
 それでも、確かに彼が予期した確実な『終わり』が去っていく足音をウルペンは聞いた。
 嗚呼、と泣くように呻く。今度こそ訪れてくれる筈だった終幕という確たるモノは、またも零れ落ちていった。
「どうしてだ……何故俺を連続させる。俺はもう終わった。終わっていい筈だ。どうして」
 ぐるぐると回る疑問肯定否定。パラノイアじみた妄想が彼を脅迫する。
 その果てに浮かぶのは、あの忌々しい不定の形姿。
「アマワ……お前か? これは戯れか? まさかな。お前がそんな酔狂をする筈がない」
 ひたすらに心の証明を求めていた奴のことだ。これもその一環に違いない。
 ならば、それを証明してやればアマワは確たるモノをくれるだろうか?
(クッ――まさか。それこそ否だ)
 己の思考を嗤い、否定する。
 アマワは奪っていくだけだ。何も残しはしない
 ――だが、それさえも信じることが出来ないのならば。
「俺は……どうすればいい。何を信じればいい?」
 彼のあずかり知らぬ所でだが、かつてミズー・ビアンカは彼のことをこう評した。
 死を恐れない子供、と。
 彼がまだ契約の有効性を信じていた時だ。だから彼は死を恐れず、剣の達人たるミズーと互角以上に打ち合えた。
 それでも信じるべき拠り所が無くなれば、彼はただの子供だ。ひとりで歩くことさえできない。

299絶望咆哮修正 ◆CC0Zm79P5c:2007/04/13(金) 14:10:04 ID:6AH3Zsjo
 ――そして彼の泣き言に答えたのは、手を引いて歩いてくれるような存在ではなかった。
「……さあ? とりあえず死ねば?」
 自問に帰ってきた返答に、だが驚くほどの気力もなく、ウルペンはゆっくりと視界を上げた。
 いつの間にか、金属製の筒のような物を構えた男がほとんど目の前に立っている。
 赤銅色の髪。常にやる気のなさそうだった顔は、あの時のまま無表情という絶望に凍り付いていた。
 感情を含まない視線を向けながら、ウルペンはぼんやりとその顔を思い出していた。
(……契約者)
 自分の意志は信じられると断言した黒髪の少女。その連れだ。名前は――ハーベイ、とか言ったか。
「……あれからずっとあんたを探してた。叫んでるなんて思わなかった」
 自分自身に確認するような口調で呟きながら、その男は銃を照準し、その凶器越しに冷ややかな視線を向けていた。
 どうやら叫び声を聞きつけてきたらしい。だが真に恐るべきはこの瞬間にウルペンの近くにいたという幸運よりも、その執念か。
 赤髪は表情をほとんど変えないまま、だが強く睨み付けてくる。そこには一分の隙もない。
 念糸の効果を知り、警戒しているのだろう。武器は例の自動的に動く腕が握っている。
 金属製の筒は、ウルペンも似たような物をこの島で何度か見ていた。
 ボウガンのような武器だろう――威力も速度も桁違いだが。
 何にせよ、すでに照準されているのなら、念糸では対抗できない。
 もっともいまのウルペンに念糸は紡げないだろう。思念の通り道たる念糸。ならば思念の無き者に使えぬは道理。
 念糸は、ありとあらゆる制限を踏破してその効果を発揮する。
 ただし諦観にまみれ、信じるものを打ちのめされていなければだ。磨耗しきり、心が冷えれば念糸は使えない。
(……それに、これ以上落ち延びて何になる?)
 決まっている。無様を晒し、苦痛を味わうだけだ。だからウルペンは終わりを望む。
 まるっきり精神を病んだ者の表情で、ウルペンは目の前の男を見た。それに救いを求めるように。
「……お前は、俺を終わらしてくれるのか?」
「ああ、殺す」
 躊躇いもなく放たれた死刑宣告。赤髪の揺れない双眸からも、それが冗談で無いことを窺わせる。
 故に、ウルペンは表情を変えた。万の絶望に一滴だけ混じった期待の表情を――失望のそれに。
「それでは駄目だ」
「……何が」
 胡乱な目つきでこちらを見ている不死人を、ウルペンは茫洋と見つめ返す。
 だがその目は焦点が定まっておらず、もはや象を結んでいないことは明白だった。
 ウルペンは半ば目の前の男の存在を無視するように、ぼそぼそと呟き続ける。
「死だと……? そんなものは終わりではない。
 呼吸が止まる? 心臓が停止する? そんなものが終わりか? ならば俺は何故ここにいる?
 殺されるなど、もはやなんでもない。それに伴う苦痛も無意味だ……」
「てめっ……!」
 ウルペンの吐き続ける言葉に、ハーヴェイは怒気を孕んだ言葉をぶつけた。
 銃を握る右腕の義手も猛るように甲高いモーター音を響かせる。
 悠久の時を不変の肉体で生き、感情を磨り減らした彼にとって、ここまで感情をむき出しにすることは珍しい。
 それほどまでに、ウルペンの言葉は許せないものだった。
「お前があいつを、キーリを殺しておいて――何でそんな言葉が言えるんだよ!」
「あの少女、キーリというのか。あれが……貴様にとっての確たるものか?」
「そう」
 間隙無く答えたハーヴェイに、ウルペンは場違いな笑みを浮かべた。
 殺される者と殺す者。その間には似つかわしくない――祝福するような微笑みを。
「即答できるか。それは……羨ましいな。愛しているということか?」
「ああ」
 と、これも即答するハーヴェイ。

300絶望咆哮修正 ◆CC0Zm79P5c:2007/04/13(金) 14:10:50 ID:6AH3Zsjo
 だが不死人はその答を返した直後、ふと何かに気付いたように瞬きを数度繰り返した。
 そして、ああ――と納得するように頷くと、まるで自分に語りかけるかのような口調で告白を紡ぐ。
「俺はアイツが好きだったんだ。
 面倒くさくて今まで考えないようにしてたけど、無くしてみて分かった
 俺にもあったんだ。あんなナリでも、キーリは俺にとって大きな存在だった。
 不死人として惑星中を彷徨ったけど、俺は、あいつが、きっと一番くらいに大切だったんだ」
 普段はほとんど無口で、喋ったとしてもぶっきらぼうなこの不死人のかつて無い長口上。
 知らぬ内、ハーヴェイの左拳は握りしめられていた。いまだ触覚のある肉の腕。
 それほど手を繋いでいた記憶はない。だが、そこには少女の掌の感触が残留している気がした。
 ――そうだ。離さないように、しっかりと握っておくべきだった。
 あの頼りない、だけど自分を引っ張って行ってくれそうな、そんな感覚を伝えてくる少女の手を。
 ――何十年も惑星を歩いて、それ以上の年月を不死の兵士として過ごして。
 殺伐とした無味乾燥な日々。戦争中はレゾンデートルの為に何となく殺して、戦後はすることもなく何となく放浪した。
 そうして無駄に永遠の日々を過ごしていたある日、ちょっとした目的が出来た。
 かつて自分が殺した兵長の霊を、その墓地まで埋葬しに行くことになったのだ。
 兵長とはそれほど仲が良かったわけではない。当然だ。自分が殺してしまったのだから。
 あるのは罪悪感だけで、言ってしまえば腫物だった。
 過去の清算。埋葬を引き受けたのも、そんな思いがどこかにあったからかもしれない。
 埋葬した後は、いっそ自分もついでに『心臓』を引きずり出して、その場で自害しようとも思っていた。
 その途中だ。あの少女に会ったのは。
 第一印象は……やかましく、鬱陶しい。その程度だった。
 ひょんなことから(半ば強引に)その旅に付いてきて、いざ兵長と別れようとすると泣いてしまって。
 本当に鬱陶しく――それでいて放っても置けず。
 そして気付けば、兵長とキーリと三人で旅をしていた。
 ……謝罪の対象だったラジオの憑依霊と、やたら付きまとってくる少女に対する認識が変わってきたのは、いつの頃からだろうか。
 そして、いつからだったのだろう。キーリと兵長との三人旅から抜け出せなくなってしまったのは。
 幸せなんてぬるま湯と同じだ。浸かっている間は暖かくても、そこから出てしまえば風邪を引く。
 加えて、不死人はずっとそのぬるま湯に浸かってなんかいられない。
 暖かな液体は冷えていく。不死人だけを残して、環境は早足に過ぎ去っていく。
 残るのはパレードが終わった後ような紛らわしようのない寂寥感。不死の兵士に唯一有効な刃。
 絶対に、後のタメになんか、ならないのに――
 ……いつからだろう。それにずっと浸っていたいと思い始めてしまったのは。
 飢餓感すら麻痺した不死の彷徨者。
 ――その動く死体に最後まで残留していた感情は、彼を殺戮に駆り立てた。

301絶望咆哮修正 ◆CC0Zm79P5c:2007/04/13(金) 14:11:52 ID:6AH3Zsjo
 そして復讐者の告白を、被復讐者たるウルペンは聞いていた。
 目の前の男が放つ少女への信頼に満ちた言葉。心地よいはずのその宣言。
(……ならば、何故だ? 何故俺は――)
 上半身を寄りかからせている、手が回りきらないほどの巨木。
 それに全体重を預ける心地で、ウルペンはずりずりと、まるで幽鬼がするように立ち上がっていた。
 相変わらず体は壊れかけ、限界を迎えている。だが脱力していたはずの四肢に、僅かに熱が宿っていた。
 それはとても小さい炎だったが、苦痛を無視できるほどには熱い。
 確たる言葉に情熱を感じたか――?
 ――否。この熱はそんなに品の良いものではない。
 ウルペンが動くのと連動して、突きつけられる銃口も移動していた。
 死を吐き出す丸い淵。地獄の穴を思わせる漆黒の空間が、仮面越しにウルペンの目を捉えている。
 だが恐怖は覚えない。一瞬後には脳髄が吹き飛ばされているとしても、そんなものは怖くない。
 くっくっ、と心底愉快そうにウルペンは笑う。
 その気に障る笑みに、ハーヴェイはトリガーを引き――
「――奴の真似事だ。お前に問おう」
 ――そして寸前、それを遮るように、ウルペンの口から疑問が吐き出された。
「お前は何がしたいのだ?」
「何、って――」
 キーリを殺されたから。キーリがこの男に殺されたから。だからハーヴェイはここまで来た。
 それは誰にでも分かることだろう。酸素を呼吸することのように、それは当たり前であるはずだった。
 それはウルペンにも分かっていただろう。だが彼は問い続ける。
「お前は愛しているという。お前は信じているという。
 ならばそれは失われていないはずだ。確たるものは失われてはいけないはずだ。
 それなのにお前は俺に銃口を向ける。俺はその少女を奪えたのか? 結局お前は何がしたいのだ?」
「……言葉遊びは好きじゃない。
 キーリは死んだ。お前が殺した。それが事実だ」
「なるほど。つまりお前は彼女の復讐を成就させるため、俺を殺したいわけだな?」
「そうなるな」
 言葉が詰まることはない。
 この代償行為を他人に復讐と言われたところで気にもならない。
 余計なものはあの砂浜に置いてきた。だからハーヴェイに迷いは無い。

302絶望咆哮修正 ◆CC0Zm79P5c:2007/04/13(金) 14:12:49 ID:6AH3Zsjo
 だがその覚悟を嘲るように、ウルペンは嗤う。
「――ならば貴様の大切にしていた少女はいない」
「……何が?」
 疑問符を返してくるハーヴェイに、ウルペンはさらに嘲笑を強くする。
 それはとても衰弱した、弱々しい表情筋の収縮だったが――
「そうだ! 貴様が信じていないというのなら、あの少女はもういない。
 俺に確かなものが何一つないというのなら、俺はあの少女を奪えていなかった!
 ならば少女はどこにいった――!」
 ――その体には、溢れんばかりの狂気と怒りがあった。
 信じるものを全て取り上げられた彼は、ただ狂うしかなかった。
 意味も分からず溢れ出てくる怒りは、死に体であるウルペンにほんの僅かの動作を許した。
 そしてハーヴェイはそれを察した。戦場での経験で知っている。こうなった人間は何より危険だ。
 トリガーを引こうとする。だが、それより僅かに速く、ウルペンはその言葉を突き出していた。
「――そう、あの少女を殺したのは貴様だ! 俺は八年も信じていたぞ! 例えそれが手に入らないと宣告されても!
 狂信もできない輩が、愛を語るなぁ!」
 どこまでも身勝手なその宣告を、だがハーヴェイは聞き流した。
 構わずにウルペンが動く。ともすればバラバラになりそうな関節を無視して、木の外周に沿うように右に踏み込む。
 引き金が引かれる。乾いた死刑宣告に従い、鉛の死神が音速を以て飛びかかる。
 ――初弾は外れた。
 心臓に照準されていた弾は、本来ならば移動差を含めても左肩に当たったのだろう。そして動きを止めていたはずだ。
 だが、すでにそこに肩はない。焼き落とされている。
 それでもハーヴェイは焦らなかった。
 一歩目で避けられても、二歩目を踏み出されるよりもう一度銃を撃つ方が速い。
 仮にあの乾かす糸で攻撃されても、金属製の義手に効果はない。そして不死人は核がある限り死なない。
 ハーヴェイは盤石の態勢でこの勝負に挑んでいる。故に計算違いは起こり得ない。

303絶望咆哮修正 ◆CC0Zm79P5c:2007/04/13(金) 14:13:44 ID:6AH3Zsjo
 ――そこに、不確定要素が入り込まない限りだが。
「なっ……!?」
 右腕が――義手が、動かない。完全に動かないわけではないが、それでもまるで反応が遅い。
 見れば、そこにはウルペンの念糸が巻き付いていた。
 ウルペンに信じられるものはない。それでも彼の狂気はその異能によって道を紡ぐ。
 金属に乾かす能力は通用しないし、思念の糸は普通の糸のように拘束等の働きは出来ない。
 だが念糸にはもう一つの特性があった。念糸で紡いだサークルは、一時的に精霊を捕らえられる。
 ウルペンは、まず相手の武器を持っている腕を落とそうとした。義手の付け根を壊死させようとしたのだ。
 狂気で念糸を紡げるとはいえ、体の消耗は大きい。
 駆け寄って格闘に持ち込めない今の彼にとって、その分の悪い賭けが唯一の可能性だった。
 本来ならば、そこでハーヴェイの勝利は確定していただろう。
 念を込めている間に、ハーヴェイの射撃はウルペンを殺すことが出来る。
 だが一つの意味に硝化し生まれた精霊と、主人に仕えるという単一思念で誕生した義手の霊は、その性質が酷く似通っていた。
 ウルペンは右手に念糸を繋いだ瞬間、精霊を相手にしたような反動を感じ取り――自動的に動く腕の秘密を知ることとなる。
「精霊の腕――それがカラクリか!」
 念糸を逆行してくる反動は、かつての破壊精霊ほどではない。一瞬で爆死して果てるような威力ではない。
 それでもボロボロの体はさらに破壊されていく。悲鳴をあげる壊れかけの体に鞭を入れ、ウルペンは逃走を開始した。
「っ、の――!」
 動かない右腕から左腕に銃を持ち替える。
 だが弾が放たれるよりも早く、ウルペンは木の後ろに逃げ込んでいた。
「逃がすか――!」
 それをハーヴェイが追う。いかに巨木とはいえ、回り込むのに一分や二分もかかるわけではない。
 一弾指の後、ハーヴェイは容易く仮面を被った黒衣の姿を捉えていた。
 ――こちらに向かって隻腕を突き出しているウルペンの姿を。
「――!」
 その姿に悪寒を感じ、即座に引き金を引く。
 だが、まともな照準がされていなかった銃弾は、今度はウルペンが装面していたEDの仮面を掠めるに終わった。
 さらにウルペンが後退し、木の陰に隠れながら念糸を放つ。
 体がどれほど欠損しようと、それこそ動けなくなるほどの大怪我であろうと、思念があれば念糸は働く。
 大木の幹を貫通し、念糸がハーヴェイを捉えた。
 ハーヴェイの左肘から先が消えた。骨と皮だけになった掌から、重い音を立てて銃が落ちる。
 拾い直している暇はない――ハーヴェイはそう判断するとウルペンとの距離を詰め、拘束の解かれた義手の拳を叩き込んだ。
「ぐっ……!」
 回避できずに腹部に一撃を貰い、さすがに苦しげな息を漏らすウルペン。いや、息だけではなく胃液も吐いていた。
 べちゃりとした液体が喉を遡り、彼の気道を塞ぐ。膝から力が抜け、その場に崩れ落ちる。

304絶望咆哮修正 ◆CC0Zm79P5c:2007/04/13(金) 14:14:26 ID:6AH3Zsjo
 だが、その瞳に宿る狂った意志は全く弱らない。
 臓物ごと吐き出す勢いで胃液を吐き捨て、絶え絶えに、それでもウルペンは絶叫する。
「貴様などに……殺されてやるものか!」
「やろっ……!」
 倒れ込んだウルペンの顔面に、ハーヴェイの蹴りが叩き込まれる。
 しかし、その打撃は本来の威力を失っていた。
 胴体と繋がりっているので分かりにくいが、人の腕というのはかなり重い。
 左腕が壊死し、急激に変わった体重のバランスが、ハーヴェイの打撃を不完全なものとしていたのだ。
 それでもハーヴェイは不死人だ。体が損傷した状態での戦闘には慣れている。
 だがあの戦争の時には付けていなかった金属製の義手が、彼の知らないアンバランスを生んだ。
 本来ならば意識を刈り取っていたはずの蹴りは、ウルペンの頭蓋を揺らすに留まる。
 不死人の膂力にのけぞり、脳が揺れる感覚に吐き気を覚える。
 しかし吐くべき胃液もない。だから代わりに、ウルペンは血と呪いを吐いた。
「俺を殺すだけしかできない輩などに、俺は殺されてやるものか!
 確かなものがない世界ならば終わってしまえ! 否、こんな盤上は俺が壊してやる――!」
 もはや絶叫に使う呼気もなく、それは只の掠れ声に過ぎない。
 それでも彼は呪っていた。
 泣かずに逝けた男が、今は泣きながら世界を呪っていた。
 ――彼を突き動かした憤怒。いまならばその正体が分かる。
 ウルペンはどこまでも信じたかったのだ。
 我が物にはならずとも、せめてこの世界には確たるものがあると――それこそ誰にも奪えないものがあるのだと。
 だからウルペンはハーヴェイに賭けた。
 目の前の赤髪が愛していたと言った少女が確かなものだとすれば、この男は『喪失』でない別の理由で銃を向けているはずだ。
 ――だがその願いは、とても自分本位なものだ。それが他人に伝わるはずなど、ない。
 もとよりそんなものは、狂人の妄想なのだ。
 だが狂人だからこそ、ウルペンは止まらない。
 ハーヴェイが蹴り足を引き戻し、再度の打撃を準備するのに半秒。
 ウルペンは霞む視界にその蹴り足を認め、全力で念を注ぐ。
 視覚は歪み、脳は揺れ、声は出ない。
 それでも胸中はただ一色。燃え盛る業火の色に染まり尽している。
 その色彩が噴出した。銀の実体無き糸を通り、ハーヴェイの軸足を汚染する。
 倒れ込む不死人。そこにウルペンの念糸が殺到する。
 月下に連続して響く炸裂音。脳、肺、心臓、肝臓、脊髄。およそ知りうる限りの人体の急所を壊死させる。
 そうしてあらかた奪い尽すと、ウルペンは最後の念糸を紡いだ。
 巨木の根本を壊死させ、ハーヴェイを叩き潰すように倒れさせる。

305絶望咆哮修正 ◆CC0Zm79P5c:2007/04/13(金) 14:15:30 ID:6AH3Zsjo
 だが、その刹那。
「……リ」
 ウルペンは、声を聞いた。
 確かに聞いた。小さな囁きだが、確かにウルペンはそれを耳にした。
 ――男が発した、キーリ、という呟きを。
 復讐を果たせなかった謝罪では無く、助けを乞うような縋る言葉でもなく。
 それは、そういったものを超越した種類の、不可侵の言葉だった。
 不死人に霊体は、無い。彼らは動く死体。死ねば――否、『元』に戻れば消えるだけだ。
 エイフラムでないハーヴェイという存在は、消える。遺言すら葉擦れの音に吸われて残らず、消える。
 無論、ウルペンはそれを知らない。だが、男の希薄さは感じていた。
 ――だが、何故だろう。
 その男の言葉は、どこまでも残響し続けて消えることがない――
(……死を目前にして、か。もしや――)
 僅かな疑念が起こる。
 肺も声帯も脳も。すべて破壊された状態で紡がれた言葉は。
 それだけは、もしかしたら……
『未来永劫、お前は何も信じられまい』
 ――もっとも。
 その疑念の解が如何なる物であろうが大木の倒壊は止まらず、既に狂っている男を変えられるわけでもないだろうが――


◇◇◇

306絶望咆哮修正 ◆CC0Zm79P5c:2007/04/13(金) 14:17:36 ID:6AH3Zsjo
 轟音と地響きが、一瞬だけその場を支配した。
 ハーヴェイは死んだ。核を砕かれて、不死の兵士は死体に戻った。
 だが、その義手はまだこの世界に在った。
 憑依している霊は仇を取ろうとした。だが焼かれる前の完全な状態だったのなら兎も角、今のように腕だけではどうしようもない。
 だから彼は銃を探した。幸い、それほど離れていないところにそれは落ちている。
 だが同時に、彼はもう一つ見つけてしまった。
 それは敵討ちの相手であるウルペンだった。かなり衰弱しているようで、それでも瞳の輝きだけは劣化していない。
 ウルペンは片手で這いずって、義手に近づいてくる。
 その動きは極めて緩慢だ。だが、その様子に義手は確かな狂気を覚えた。
 義手は急いでハーヴェイとの接続を断ち切ると、まるで指を虫の足のように動かして移動し始める。
 ――いや、移動し始めようと、した。
 パン、という乾いた音。それと同時に、義手が足場にしようとしていた土が、蟻地獄のようなさらさらの砂に変じる。
「……本来ならば、このコンディションで念糸は紡げないだろうな」
 体の不調は、そのまま思念に影響を及ぼす。
 だが、いまのウルペンの思考に曇りはない。五感は途切れ始めているが、それでも狂気が薄まることはない。
 砂の上で藻掻いている義手の横を追い越して、ウルペンは拳銃を手に取った。
 前に奪った炭化銃のお陰で、操作方法はだいたい分かる。
「精霊を殺せるのはより強い精霊だ。生憎、いま俺は精霊を持ち合わせていない。
 それでも、それほど強くない精霊ならば――」
 義手にほとんど銃口を押しつけるようにして、ウルペンは銃を撃った。
 さほど強くない精霊ならば、傷くらいは付けることが出来る。関節等の機構を破壊すればしばらくは動けまい。
 ウルペンはそう当たりを付けていたが、しかし彼が撃ったのは普通の銃ではなかった。
 吸血鬼狩りにも用いられていた呪化弾頭が、義手に取り憑いている霊そのものを破壊する。
 それに気付きもせず、ウルペンは残弾を全て叩き込んだ。ケーブルが断線し、フレームが歪む。
 最後に弱々しいモーター音をひとつだけあげて、義手は活動を停止した。

307絶望咆哮修正 ◆CC0Zm79P5c:2007/04/13(金) 14:18:39 ID:6AH3Zsjo
 ウルペンは軽くなった拳銃を捨てる。遠くに投げ捨てる力はすでになく、ほとんど取り落とすようなものだったが。
 体は限界を迎えていた。念糸で義手を捉えた反動で、酷く衰弱している。
 だが、それでも自分は死ぬまい――いや、死ぬ前にやらなければならないことがある。
 先の銃撃で破損した仮面を外し、顔を外気にさらした。
 黒衣を気取る気はない。もはや自分は逆しまの聖域すら信じられない。
 聖域の外で、彼は宣言する。この世界に確たるものが何一つないのなら――
「アマワ……貴様の契約すら確たる物でないのなら、俺は貴様を殺しに行くぞ。
 俺に終わりが与えられないのなら、俺がこの世界をすべて殺してやる」
 自分が終わらないのなら、それが最終的な目標だ。
 だが、彼の言う終わりとは何か?
 死ではない。圧倒的な力に遭遇することでもない。
 ――ウルペン自身にすら分からない。それを探しながら、ウルペンは殺戮を続ける。
「この盤上遊技も、貴様の下らない問いかけのだろう……アマワよ。
 ならば、それも俺が殺す。すべて殺す。
 嫌ならば出てこい。怪物領域から出てこい、アマワ……」
 最早そこに明確な論理はない。ただの狂人の奇言だ。
 信念を貫き通すために狂ったのでもなく、ただ矛盾と分裂に満ちた、本当の意味での狂人。
 だがひたすらに狂っても、絶望すら信じることが出来なくなっても、やるべきことは変わらない。
 アマワに答えを捧げよう。貴様の求める物は手に入らないのだと教えてやろう。
 そのために奴を引きずり出そう。この島の参加者を皆殺しにしてでも。
(俺は虚無だ。何もない男だ)
 何も信じることができない、あやふやな存在だ。
 だが、それでいい。
「さあ――殺されたくないのなら、俺に終わりをもたらせるか、な?」
 ――この島から、俺がすべて奪った時に残る物。
 それはとても不明瞭で、グシャグシャの、底抜けにグロテスクなものに違いない。
 その思考を最後に、ウルペンの意識は闇に落ちた。
 ……だというのに、その場には哄笑が残った。
 ウルペンは確かに昏睡している。それでも彼の嗤いは確かにある。
 それはまるで精霊のように、どこまでも狂気に純化した、そしてあるのかどうかも分からない哄笑だった。


【017 ハーヴェイ 死亡】
【残り 44人】

【B-6/森/1日目・21:40頃】
【ウルペン】
[状態]:左腕が肩から焼け落ちている/極度の衰弱/昏睡/狂気/腹部に打撲/
[装備]:なし
[道具]:支給品一式
[思考]:参加者を皆殺しにし、アマワも殺す。終わりを探す。
[備考]:第二回放送を冒頭しか聞いていません。黒幕はアマワだと認識しています。
    第三回放送を聞いていたかどうかは不明です。
    チサトの姓がカザミだと知り、チサトの容姿についての情報を得ました。
    これからは終わりを探しながら、参加者を皆殺しにするつもりです。

※【B-6/森】に破損したEDの仮面、壊れたハーヴェイの義手、Eマグ(弾数0)が落ちています。

308怪物対峙改定 ◆CC0Zm79P5c:2007/04/13(金) 14:22:04 ID:6AH3Zsjo
本スレpart10 レス番号123から以下に差し替え

 ――瞬間が訪れるのは、いつだって唐突だ。
 竜堂終が咆吼する。異形の声で咆吼する。
 想像は怒りを。怒りは感情の噴出を。そして激情は変化を促した。
 肌が真珠色の鱗に覆われ、瞳孔が爬虫類のそれに変わる。
 圧倒的な存在感と畏怖を見る者に与える竜王の姿へと、竜堂終が化性していく。
 変化は外形だけに留まらない。竜堂終はその身が感情に満たされれば、それを制御することは出来ない。
 ラッカー・スプレーで塗り潰されるようにじわじわと、だが素早く。理性は荒ぶる感情に塗り潰されていく。
 ――霞んでいく心象風景。竜の姿を顕す時、竜堂終はただ直情に任せて破壊する。
 気付くのはすべてが終わった後だ。
 守りたかったはずの人達。心に残る彼らの表情。怒りはそれらを際限なく飲み込んでいく。
 それは、なんという矛盾か。
 復讐で喜ぶ故人は――いるのかも知れないが、少なくとも兄や茉理はそれを望む人種ではない。
 それは理解している。だが理解してなお、竜堂終は彼らのために怒り、復讐を為そうとする。
 ならば、せめて。せめて覚えていなくてはならないはずの彼らの笑顔を忘れてまで行う殺戮とは――なんだ?
 意味など無い――それも、分かっている。
 この行為は無益。残るのは疵痕だけ。炎症を掻いて誤魔化すのと同じ。ただの自傷以外の何でもない。
 それでも変化は止まらない。一度始まってしまったのなら、竜堂終では止められない!
 溶ける理性。穿たれた笑顔。消失する意味。
 ――だが全てが暗闇に沈む寸前に、見えた物があった。
 最初は光だと思った。眩い光。暗闇では光を包めない。だから残ったのだろうと思った。
 だがその光も霞み始めていた。その金色が黒く薄れていく。この怒りは光さえ食い尽くす――?
 違う。終は直感的に否定した。これは光ではない。
 ならばこの金色は何だ。万物を駆逐する憤怒に抗えているこの『強さ』は――何だ。
 金色に触れるのを恐れるかのように、闇の侵攻は遅々としたものだった。
 そして気付く。その金色の背後に、死んだ兄と従姉妹の顔がある。
 守っているのだ。金色は、一時の激情が竜堂終から喪失させることを拒んでいる。
 彼らを守るために、その身を盾にし続けている。
 ならば、なおさらその正体が分からない。
 兄貴は死んだ。茉理ちゃんも死んだ。ならば何だ? そうまでして竜堂終を守ろうとするモノは何だ?
 ――居るではないか。居たではないか。
 気付くと同時、金色が振り返る。金の髪をたなびかせ、強靭な『女王』が振り返る。
 彼らの旗。潰えたと思っていた旗。
 だが、そうではなかった。
「……ああ、そうだ」
 理解し、言葉を紡ぐ。怒りに満ちた咆吼ではない、人としての意味ある言葉を。
 それを合図とするように、ささくれだったような鱗は再び人肌に戻り、針のように細められた瞳孔も丸く戻り始めた。
 ――まだ、ここにある。失う寸前だったが、それでも竜堂終は喪失を防いだ。
「……負けて、たまるか」
 憤怒が冷めたのではない――冷ましたのだ。終単身では制御できなかったはずの竜化を、制御していた。
 怒りはある。ともすれば簡単に吹き出すだろう。
 だが、それでも、
(……そうだ。俺は託された)
 ――あの時、ダナティアが自分を止めた理由。
 それが分からないほど終は愚かではない。それを伝えられないほどダナティアは無力ではない。
 憎しみに任せての殺人を自分の仲間達は止めてくれた。それを無駄にする? そんなことには耐えられない。
 自分が手玉に取られた所為で舞台は崩壊した。そんな失態を二度も晒す? そんなものは冗談にもならない。
 彼らは憎しみの連鎖を起こすために凶行を止めたのではない。竜堂終は、竜堂終の自意識をもって敵を退けなければならない。
 ――そうだ。やはり彼は単身で己を制御していたのではない。
 竜堂終を、その尊厳を繋ぎ止めていたのは――
「あんたなんかに――譲れるかっ!」
 ――遺志だ。ダナティア。ベルガー。メフィスト。彼らが竜堂終に託していった遺志だ。
 目前では少年ががゆっくりとした動作で立ち上がっている。左腕は折れ、それでも退かずに立ち向かってくる。
 その様はまるで不死身の怪物のよう。竜すら喰らう巨大蛇のよう。
 それでも竜堂終は前進する。受け取ったものを無駄にしないためにも。
 遺志とは継ぐもの。後継者を守り、正しい方向へと導くものだ。
 そう――竜堂終には、遺志がある。

309ペイン(私の人生)修正 ◆eUaeu3dols:2007/04/16(月) 00:03:55 ID:RMey9W1M
(1/31)〜(3/31)までを以下に差し替え
――――――――――――――――――――――――――――――

最早そこにあったのは痛みだけだった。

何も出来なかった。それが痛みの理由だ。
少女はこの世界の在り方を認めはしなかった。
だから足掻いた。走り、戦い、選び続けた。
それなのにあまりに多くが喪われていった。
それを悔いて選んだ最後の選択さえもたったの三十分で打ち破られた。
シャナはそうやって、死んだ。

「心なんて無ければ良かった」

心底からそう思う。
そうすればこんな痛みを味合わずに済んだのに。
こんなに苦しまなくて済んだのに。
――思わず嘆いたその言葉を。
声にならないその言葉を、御遣いは確かに聞き取った。

「君は心の実在を知るものか?」

唐突に響いた声も、シャナに痛み以外をもたらさない物だ。
シャナはその声を知っている。
それは彼女が辿り着けなかった全ての元凶の声だ。
この世界で皆を殺し合わせ、数多の悲劇を、悲哀を、悲痛を、悲壮を生みだした権化。
それなのに憎しみが沸き上がる事すら無かった。
ぶつける事すら出来ない憎しみに何の意味も無いのだから。
憎しみはない。
悲しいだけだ。
あまりにも辛くて、苦しくて、切なくて、痛くて、悲しいだけだ。
引き裂かれた体が痛くてたまらないのに、それ以上に引き裂かれた心が痛いだけだ。
だからただ答えた。
「知っている。わたしは心が在る物だという事を知っている」

310ペイン(私の人生)修正 ◆eUaeu3dols:2007/04/16(月) 00:04:54 ID:RMey9W1M
それは問うた。
「では問い掛けよう。君はどう答える?
 御遣いの言葉になんと答える?
 ――心の実在を証明せよ」

シャナはしばらく押し黙った。
噛み締めるように。味わうように。
焦れるようにアマワの声が響く。
「必要ならば……一つ問い掛けを許そう。その問いで私を理解せよ」
「うるさい」
聞きたくはなかった。
よりによって坂井悠二の声を借りて明らかに別物として聞こえてくる声を聞きたくなかった。
だから答えは簡潔で感情的な物だった。
「うるさいうるさいうるさい!
 もしも心が実在しないというのなら、どうしてわたしはまだ痛いの!?
 痛い、痛いよ!
 胸も頭も何もかも! 心が無いなら痛みなんて有るわけがないのに!」
「君の体は消し飛んだ。激痛と共に」
「そうだ、そしてわたしは飛ばされた! 薄い空間の向こう側に……ここに」
コミクロンの空間爆砕はシャナを消し飛ばした。
シャナの肉体は確実に滅び命も失われた。
しかしシャナは、依然自らの存在を知覚できる事を認識する。
周囲を知覚している事を認識する。
そこは闇の荒野。
石にも、金属にも、無意味にも、重要にも。如何様にも見えるモノリスが遠方に乱立していた。
ただ荒野という荒れ果てた印象だけが強く焼き付く。
空は暗黒の黒一色。
にも関わらず視界が妨げられる事は無く、遥か遠方の無数のモノリスが、地平線が見えていた。
そこは“無名の庵”だった。
神野の支配する領域であり、アマワもまたそこに現れる。
この殺し合いを開いた黒幕の住処にシャナの魂は在った。

311ペイン(私の人生)修正 ◆eUaeu3dols:2007/04/16(月) 00:08:56 ID:RMey9W1M
「そう、そして君は飛ばされた。君はまだそこに居る」
「意識が残っていたって体の痛みを感じる道理なんて無い。心が無い限り」
「君が感じる痛みをどうやって証明する」
「わたし自身が痛みなんだ! わたしの魂は痛みで埋め尽くされた!
 わたしは……痛みそのものなんだ……」

それは変えようの無い事実。
シャナの魂のカタチは痛みに埋め尽くされた。
有り余る悲劇と不運、齟齬と絶望が強引に詰め込まれ、心はずた袋のようにほつれてしまった。
だからそれは歴然とした現実。
それでも尚。
「ならば君が痛めているものが心である事を証明せよ」
全てに理由を求めるアマワの餓えは満たせない。
どれだけ理屈を並べ、理論の穴を埋めて論理を積み重ねたって隙間が消える事は無い。
それが何故か、シャナにはなんとなく判っていた。
教えられて知っていた。
「千草が……悠二のお母さんが言っていた。
 心の問題は客観的な言葉では語れない。
 人の主観に基づく曖昧で不確かな経験でしか語れない」
「存在する物は理論で証明出来る」
「それなら心なんて存在しない」
シャナの言葉に僅かな間が惑う。
「おまえの言葉は心の実在を前提にしている」
「そう、心は在る」
その迷い無き言葉に惑いは広がる。
「……おまえの答えは矛盾している」
「心に確かな答えなんて何処にも無い」
在るわけが無い答えをアマワは求めている。
シャナはそれに気づいた。
その事が可笑しく、そんな事が全てを奪っていった事が……悲しかった。
「答えを答えと認められないおまえは永遠に悩み続けるんだ」
それがシャナの答えだった。

312ペイン(私の人生)修正 ◆eUaeu3dols:2007/04/16(月) 00:14:01 ID:RMey9W1M
――――――――――――――――――――――――――――
>第11レスの脱字を訂正。
「アシュラムはパイフウが体力を回復する間の休憩所となった」
「美姫千鳥かなめを人質にして相良宗介を殺し合いに乗らせた」
「彼らは光明寺茉衣子の心を壊す一因となった」
       ↓この真ん中の行に「は」を追加。
「美姫は千鳥かなめを人質にして相良宗介を殺し合いに乗らせた」


>状態表修正(抜けていた単二式精燃槽三つを追加)

【X-?/無名の庵/2日目・00:30頃】
【ダウゲ・ベルガー】
[状態]:左肺損傷、右肺機能低下、再生中、不死化(不完全)
[装備]:PSG-1(残弾20)、鈍ら刀、コキュートス
[道具]:携帯電話、黒い卵、単二式精燃槽三つ
[思考]:往こう。

※:ダウゲ・ベルガーは黒い卵の転移効果により現れました。
  シャナの名は第四回放送で呼ばれます。
  アラストールはこれといって何もしなければすぐに紅世に送還されます。
  シャナの名残である存在の力と、砕けたタリスマンの力が周囲に満ちています。
  神野陰之が目の前に居ます。
  零時になった為、アマワはギーアに阻害された状態に戻り、しばらく出てこれません。

――――――――――――――――――――――――
修正は以上です。遅くなり申し訳有りませんでした。

313最強証明 前編 ◆CC0Zm79P5c:2007/05/07(月) 12:24:51 ID:6AH3Zsjo
 空を舞うシャナの超視覚は、すでに四人を捉えていた。
 故に、その変化も見逃さない。
「……二手に分かれた。ひとりがこっちに向かってくる」
「本当? どっちを狙うの?」
「三人の方を。逃げられると厄介だから――っ」
 だが判断した途端、狙ったようなタイミングで銃弾が炎の翼を掠めた。
 射撃は恐ろしいほど正確。初撃からここまで迫れるとは、並みの腕ではない。
「……訂正、銃を持ってる。背後を突かれると面倒だから、先にひとりの方を――」
 シャナはその視界に敵を収める。ならば、そいつは最早逃げられない。
 彼女たちは言霊を口にした。自分たちを存続させる言霊を。
「殺す」
「壊す」
 翼を翻し、シャナは標的を捉える。
 左目に視界を開き、フリウ・ハリスコーは標的を見据える。
 最大の終末達は、ちっぽけな標的に迫る――

◇◇◇

 かつて人は闇を恐れた。
 見通せない暗闇を。人智の及ばない何かが潜んでいそうな黒色を恐れた。
 人は灯りを造った。知識の灯火は、しだいに暗闇を生活の圏内から遠ざけていった。
 だが、それでも暗闇は無くならない。闇を忘れても、人は闇を恐れる。
 パイフウは暗闇の森を全力で走る。そこに恐怖はない。あるとすれば怖いくらいの歓喜だった。
 彼女の足取りに迷いはない。外套を脱ぎ捨てたパイフウの体は軽い。
 だがそれ以上に、彼女の体を強く後押ししている物がある。

 それはとてもとても古くさく――
 それはとてもとても青くさく――
 だが世界の何よりも強靭だった。

 聞かれれば赤面してしまうほど恥ずかしい。だが、いまはそれがむしろ誇らしい。
 今も昔もこれからも、これはきっと最強の武装だ。
 その最強を胸中に抱き、パイフウは歓喜を吼える。
(ほのちゃんを助けられる。ほのちゃんの為に戦える)
 冷徹を気取り、管理者の犬になることは我慢できた。
 だが、嫌悪はあった。いくら押し込められても気に入らないことには変わりない。
 いまは、それがない。
(私はいま――臆面もなくほのちゃんの為に戦えている!)
 空を見上げる。輝く翼で飛行する物体は目立ったが、的は小さい。
 構わずにパイフウはライフルを構えた。彼我の距離は遠いが照準は瞬時。一発だけの射撃。
 観測手は居ない。だが弾丸は敵を掠めた。有り得ざる手応えにそれを感じた。感覚がひたすら鋭敏になっている――
(私は最強だ)
 パイフウは一点の疑問もなくそれを信じることが出来た。
 自分は死ぬ。それはきっとひどく火乃香を悲しませるだろう。
 ごめんなさい。ほのちゃん。あなただけにはこの苦しみを背負わせたくなかった。
(私が殺した人達も……きっとそう。悲しんだ人がいた)
 静かに、認める。
 どうしようもなかったのだ。パイフウは火乃香を守りたかった。
 だけどそれは彼女の都合。それを押しつけられ、殺された連中にとって知ったことではない。
(ごめんなさいとは言えない。償うことも出来ない。
 これは代償なんでしょうね。悲しみは連鎖する。それが私の所までやってきた)
 だから、逃れられない。パイフウはここで死ぬ。
(だから……今一度の、自分勝手を)
 パイフウは跳躍した。
 太い木の枝に掴まり、逆上がりの要領で一回転。幹に背を預けて、射撃体勢を取る。
 ――思ったよりも速い。スコープに映った大きな影を、パイフウは睨み付けた。
 きっとあれは自分を殺す。
 そしてきっと、あれは自分より弱い。
 思わず唇の端が吊り上がり、真珠色の犬歯が覗く。
 弾倉内に残っていた弾丸を全て撃ち込む。火薬が連続して炸裂する威力に銃が震える。
 だが、パイフウはそれを完全にコントロールしきっていた。迫る二人組が回避の為に旋回し、僅かに遠ざかる。
 パイフウはすぐにその場から飛び降りた。一秒後、影が再び接近し、樹上に銀の巨人が現れる。
 タリスマンのブーストを飛行に使っているので、破壊精霊の力は再び制限されている。
 それでも銀の一撃は、パイフウが足場に使っていた大樹を粉微塵に打ち砕いていた。
 パイフウは走る。できるだけ火乃香達から遠ざかるように。
 背後で銀の巨人が消え、再び影が上空に舞う。
(やはり、あの巨人はある程度近づかないと使えない)
 どれだけ離れても使えるのなら、先程の戦闘であんな奇襲をする必要はない。
 地上に降りてくれば、闇に乗じての狙撃と奇襲に秀でるパイフウの餌食になる可能性がある。
 だから空の利を捨てるつもりは無いのだろう。しかし、ならば一撃でパイフウを仕留めなければならない。
(ならば一撃で殺されなければいい)
 その根拠の無い自信は、無限に沸き上がってくる。

314最強証明 前編 ◆CC0Zm79P5c:2007/05/07(月) 12:27:43 ID:6AH3Zsjo
 疑問の声が聞こえた。落ち着き払った、だがどこか苛立ちを含んでいるようにも聞こえる。
『……君は誰だ。かつてのミズー・ビアンカなのか?』
 その質問に、彼女は大笑した。
 誰が発した疑問なのかは知らないが、馬鹿げたことを言う。
「愚問」
 彼女はパイフウ。ただのパイフウ。
 現在、この島にいるどの参加者よりも強い最強者。誰にも冒せない無敵の存在。
『何故奪えない……君は心の証明なのか?』
 証明せよ。心の実在を証明せよ。
 問うことだけしなかった精霊は、理解できない。

 ――それはとてもとても古くさく――

 ――それはとてもとても青くさく――

 どこまでも陳腐なそれは、だが世界の何よりも強靭だった。

「私から、心を奪う?」
 浮かべるのは優しい笑み。火乃香のことを想うだけで、この笑みはひたすらに尽きない。
 それを論理で証明することは出来ない。それでも尽きないと断言できる。尽きないのなら奪えない。
「奪いたければ触れるがいい。だけど、誰も私からは奪えない」
 空を見上げる。影は直上から一気に降下。最速の加速を付けて、炎弾と破壊精霊を繰り出してくる。
 パイフウは、吼えた。ライフルに新しいカートリッジを叩き込み、初弾を薬室に装填する。
 ――彼女は取り戻した。完全にとまではいかないが、奪われていた物を取り戻した。

「――私は、最強だ!」

◇◇◇

 ――それから数分後。
(……思ったよりも手間取った)
 地面に着地して、無感動にシャナは呟いた。
 幾度目かの突進の末、解放された破壊精霊ウルトプライドはその豪腕を標的に叩きつけた。
 標的が、この世界いたという痕跡も残さずに消失する。
 今の彼女にとって、殺人とは時間の経過という意味でしかない。
 だがその無感動の中に、彼女は奇妙な違和感を覚えていた。
(なぜだか、勝った気がしない)
 確かに『殺した』。確かに『殺されていない』。自分は負けていない。
 こうしてわざわざ地面に降りて確認もしてみた。討ち損じた、という訳でもない。
 だというのに、なぜだか――実感が湧かない。
(……まあいいか)
 それよりも、自分にはやるべきことがある。
 振り返る。そこには精霊を封じ、空虚な眼差しを彷徨わせているフリウの姿があった。
「さあ急ぐわよ――あの三人も、そして他の参加者も」
「うん……全部、壊す」
 再びデモンズ・ブラッドを活性化させ、増幅した翼を具現化。破壊と殺人の申し子は空に舞い――
 そして二人同時に眉をひそめた。
「……なに、あれ」
 鬱蒼と木が生い茂る森。
 先程まで、確かに森だった場所。
 その一部分。ある箇所に生えている木々の群れが、次々と切り倒されていた。

315最強証明 後編 ◆CC0Zm79P5c:2007/05/07(月) 12:31:45 ID:6AH3Zsjo
◇◇◇

 夜の森。木の葉は彼らを上空から覆い隠し、暗闇は痕跡を見つけにくくしてくれる。
 それでも死神は追跡をやめないだろう。この島から敵となる生命が消えるその時まで。
 ヘイズの背後からは、途切れ途切れに轟音が追いかけてくる。
 パイフウは善戦していた。この音が続いている限りは、自分たちが殺される心配はない。だが。
 ――演算終了。逃走成功確率12,74%
(クソっ)
 先程から行っているI-ブレインの演算結果は、相変わらずろくでもなかった。
 逃げれば逃げるほど逃走成功の確率は上がる。だが、それはコンマ小数点以下の微々たる物でしかない。
 まるで、どれだけ足掻いても逃れられない未来を予告するように。
 バラバラに逃げれば確率は跳ね上がるだろう――だが、誰もそれを提案しなかった。火乃香すらも。
 パイフウと別れた後で、一番最初に走り出したも彼女だった。
(火乃香は強い――フリをしてるんだろうな、きっと)
 横目で、隣を走る彼女を見やる。
 パイフウという、彼女と浅からぬ縁のある女性から受け取ったコートを大事に着込んで走る表情に迷いはない。
 だが、それは感情を押し込めているだけだろう。演算ではなく、直感でそれを察する。
 それでも、気丈だ。そうして他人を気遣えるのだから。
 思わず口許に笑みが浮かぶ。
 それを見たコミクロンがぜいぜいと喘ぎながら、それでもどうにか優雅に喋ろうと無駄な努力をする。
「どう、したヴァー、ミリオ、ン。酸素、欠乏症、で、幻覚でも、見えたか」
「お前こそ、息、上がってるぜ?」
 二人で、声を殺して笑い合う。それでさらに肺に負担が掛かる。
 だが、誰も止まろうとはしなかった。いつしか牛歩に劣る速度になろうとも、止まることはしない。
 魔界医師メフィスト、そしてパイフウ。
 自分たちを生かしてくれた彼らに報いる方法は、きっとそれだけだ。
 ひたすらに逃げ続けて、そして――まあ、そこから先はあとで考える。
 そのためにも、逃走を完了させなければいけない。
(それでも逃げるだけじゃ、成功しない)
 盲信ではなく、決意でもなく、生き残るためならば現実を直視しなければならない。
 それは絶望ではない。生存への意思だ。
 ヴァーミリオン・CD・ヘイズ。彼は最強ではない。
 フレイムヘイズとやり合えるほどの技量はなく、破壊精霊と殴り合えるほどの膂力もない。
 ならば考えろ。もとより自分は欠陥品。その欠陥品のみに許された超速演算。人食い鳩が持てる武装はそれっきりだ。
 I−ブレインが稼働する。あらゆる情報、戦術、経験を統合し組み合わせ、生存へのロジックを組み上げていく。
(……クソ、足りねえ)
 だが何をするにしても、戦力が足り無さすぎる。
 自分の記憶容量が狭いとはいえ、それでも遭遇はつい先程。脳裏に残る残像は鮮明だ。
 だから分かる。炎使いの馬鹿げた身体能力には対抗できず、最強無比の巨人には対応すら出来ない。
(……ひとつだけ分かったことがあるとすれば、あの巨人の有効範囲くらいか)
 ぽつりと胸中で洩らす。独り言に使えるような酸素は、もはや持ち合わせていなかった。
 演算から導き出された結果。あの巨人は制御されているようで“されていない”。
 戦術、破壊対象への選別にムラがありすぎる。手近な物から破壊している感じだ。
 つまり、障害物が多いところで使用するにはある程度目標に接近しなくてはならない。
(だが、それなら一番近いところにいる使用者に危害が及ばないのは何故だ?)
 何者からも制御されないような存在を武器にできるはずがない。どこかで詐欺をやられている。
 さらに演算を続行する。
 戦闘中、巨人が奇妙な方法で移動することがあった。まるで瞬間移動でもするかのように。
 だが本当に瞬間移動が出来るのならば、走ったり跳んだりする必要はない。おそらくはここに意味がある。
 科学者が対照実験から見出すように、瞬間移動した瞬間と、その他の時の情報から共通点と異なっている部分を検索。
 ―――エラー。ほんの僅か、情報が足りない。喉を掻きむしりたくなるようなもどかしさ。
(……クソ、あとひとつ、なにかあれば――)
 計算しかできないということは、解答に従うしかないということだ。
 ヴァーミリオン・ヘイズ。彼自身に解答を書き換える力はない。
 だからヘイズは偶然を望んでいた。緻密な計算によって戦闘を行う彼にとっては、忌むべき要因でさえあるそれを。
(……けっ。らしくもないか)
 そんなものに縋るとは、情けないにも程がある。
 演算を止めずに、こうなりゃぶっ倒れるまで走ってやる、と覚悟したその時。
 不意に、前方の茂みから人影が飛び出してくる。

316最強証明 後編 ◆CC0Zm79P5c:2007/05/07(月) 12:34:04 ID:6AH3Zsjo
(っ――こんな時に!)
 三人は急停止した。合わせるように、人影も警戒するように拳を構える。
 暗がりで不鮮明にしか確認できないが、どうやらそれは服の色のせいもあるらしい。全身黒ずくめ――
(最悪だ――思いっきりマーダーくせえじゃねえか!)
 あまりにも強大なマーダーに追われていたため、遭遇戦など予期していなかった。
 三体一とはいえ、ここで光や音のでる攻撃をしたら追撃者達に居所がばれる。
 仮に相手が格闘の達人なら、無音で無力化できるのは剣技に秀でた火乃香しかいない。
 だが、敵には無音という制限がない。銃器や魔法のような武器を持っているのだとしたら牽制しなくてはいけない。
「お前は――」
「お前ら――」
 発言は同時。だが、構わずにヘイズは続けた。
「このゲームに乗った奴か!?」
「この近くで戦闘があったのか!?」
 叫び合った内容から、情報を確認する。
 互いにマーダーでないことが、一応は宣言された。だがヘイズ達には時間がない。
 警戒は解かず、視線を逸らさないまま首を振る。生存を保証してくれる地響きはまだ続いていたが、いつ途切れるとも知れない。

「悪いが話してる暇はない。後ろから超弩級のマーダー組が追撃してきている。いまは仲間が足止めしているが――」
「どうでもいい! 戦闘があったのなら、そこに金髪の小娘がいなかったか!?」
 無視するようにして叫ぶ黒ずくめ。噛み合わない会話と時間の浪費に苛立ちが募る。
「いなかったよ! とにかく今はそんな場合じゃないんだ――!」
「ヘイズ、時間の無駄よ。まだ先生が食い止めている内に、早く」
「うむ。その通りだヴァーミリオン」
 コミクロンが最後にそう断じた。黒ずくめにびしりと指を突きつけ、宣告する。
 その動作に黒ずくめの注意がコミクロンに向き、そしてその白衣姿を認めると、なぜか悪い目つきがさらに吊り上がった。
「貴様、とにかく道を空けろ! でないと俺様の問答無用調停装置が――」
「って――コミクロン!?」
 黒ずくめが驚愕し、彼の名を絶叫する。
 どうやらコミクロンに原因があるようだが――
(――おい、待て)
 ヘイズは違和感に気づいた。まだこちらはコミクロンの名前を口にしていない。
 ヘイズとコミクロンは最初期の頃から組んでいるが、この目の前の男に遭遇したことはない。
 ならば、この黒ずくめは――

317最強証明 後編 ◆CC0Zm79P5c:2007/05/07(月) 12:36:15 ID:6AH3Zsjo
「むう。貴様、何故この世紀の大天才の名を――ああ、俺が天才だからか」
「やっぱりコミクロンか。いや、俺――僕だ! キリランシェロだ!」
「……なんだと? キリランシェロ? 嘘を付け、リストには載ってなかったぞ」
「いまはオーフェンって名乗ってるんだよ――ていうか、クソ。こんなのありなのか?」
「つまり――」
 ヘイズは会話を遮った。時間が惜しい。
「あんたはコミクロンと同郷の――魔術士か? 証明できるものは?」
「<牙の塔>、チャイルドマン教室で一緒に学んだ。チャイルドマンはキエサルヒマ最強の黒魔術士だ。
 ついでに、これがその証明だ」
 黒ずくめが銀色を投げてくる。ナイフを警戒したが、どうやらそれはペンダントらしい。
 コミクロンがキャッチし、裏側を確認する。
「コミクロン?」
「……確かに、キリランシェロのだ。言ってることも正しいが……」
 むむ、と唸るコミクロン。時間の経過に苛立ちを隠しきれなくなってきた火乃香。
 ――パイフウと別れてから約一分。命と引き替えの足止めも、そろそろ限界だろうとヘイズは踏んでいた。
 だがコミクロンと同郷だというこの黒魔術士の協力が得られれば。
 事態を好転――とまでは行かなくても、破滅を先延ばしくらいは出来るかも知れない。
「キリランシェロ――だったか? 急いでいるようだったが、ここから先には進めない。
 凄腕のマーダー二人がこっちを追跡している。誰彼構わず殺しまる最悪の奴らだ。だから俺たちと――」
「――悪いが組んで逃げるっていうのはなしだ。それよりも、くそっ。誰彼構わずだと? 最悪じゃねえか!」
「アンタは何しにここへ? 目的があるんなら協力できるとは思わないか?」
 相手の返答に失望を覚えながらも、ヘイズは根気強く尋ねた。
 このまま逃げ続けて僅かな確率にかけるか、あまりレートの良くない博打にかけるか。
 確率としては五分五分だろう。もっとも、それもこの黒魔術士の目的次第だが。
「……この近くで零時に仲間と待ち合わせをしていたんだが、付近にマーダーの痕跡を見つけて戻ってきたんだ。
 いまから一時間くらい前に待ち合わせ場所に着いた。そしたらついさっき爆音と叫び声みたいなのが聞こえた。
 仲間が被害にあったのかもと思って見に行こうとしたら、いまここであんたらに会ったわけだ」
 一息でそう言い切ると、オーフェンは急にあれ? といって辺りを見渡した。
「そういやあの人虫、どこにいきやがった? さっきまでその辺にいたんだが」
「連れがいるのか?」
「いや、きっぱりと連れってほどじゃないんだが、そいつの知り合いがいたらしくてな。
 話を総合すると、どうもアンタ達のいってるマーダーがそうみたいだが――」
「――待て。敵の知り合いがいるのか?」
 ヘイズははっとして、オーフェンに詰め寄った。
 オーフェンは肩をすくめるような動作をすると、頷いた。
「ああ。つっても人畜無害……いやまあ、とにかく物理的な攻撃力はない奴だが」
「んなこたどうでもいい!」
 急に声を荒げるヘイズ。その変貌に、残りの三人が絶句する。
 ヘイズ自身も驚いていた。自分のことなのに、そうする理由がよく分からない。
 だが、胸中に怒りはなかった。あえてカテゴライズするとすれば、それは――
「そいつはどこにいる!? いや、アンタでもいい。敵について何か聞かなかったか!?」
「ちょっと、ヘイズ――」
「おい、ヴァーミリオン?」
 火乃香とコミクロンの問いにも、ヘイズは答えない。

318最強証明 後編 ◆CC0Zm79P5c:2007/05/07(月) 12:37:09 ID:6AH3Zsjo
 オーフェンはしばらく考えるように虚空を見やっていた。記憶を辿る。
 待ち合わせ場所で待っている間、スィリーはいつものように人生について意味のない見解を垂れ流していた。
 だが巨大な咆吼が響いた時、それにスィリーは反応した。ただし、やはりいつもの軽い空虚な口調で。
『ぬう。あれはまさしく小娘魔神の雄叫び』
『小娘?』
『小娘を知らんのか? 増長し、すぐに泣き、さらに喧しく、俺様を拉致監禁しようとする残酷な生き物だが』
『……さっきいってた奴か。そいつが……近くにいる? あの叫び声はそいつのか?』
『あんな声で叫ぶのは小娘とはいわん気がする。絶対ナイフとか舐め回してるし、無駄にマッチョそうだ。
 しかしまああれだな。無抵抗飛行路に干渉できる精霊が解放されたとしたら、俺も安全じゃねえしな。
 逃げていいか?』
『危険なのか!?』
『お前さんには魔神のことを話した気もするが。
 つっても地べたを這うしかできない哀れな生き物に期待するのも酷だあな。
 とはいえ長老は言っていた。水晶眼に掴まりたくなかったら人間には近づくな、と。
 まあ実際のところ近づいて水晶眼に掴まる可能性は皆無なわけだが、死んじまう可能性があるというのは洒落にならん。
 ――っておい黒ずくめ、急に走ってどこにいく?』
 リピートされた人精霊の声に頭痛を再発させながらも、さほど長くはかけずに答える。
「……水晶眼がどうこうだとか、魔神だとか、そういう益体もない話は延々と聞いた」
「水晶眼? 魔神?」
「さあな。意味までは知らねえよ。というより、あの人虫の言うことに意味があるのかどうか――」
 かぶりを振りながら、オーフェンの言葉の後半は呻き声になっていた。
 だが、ヘイズはそれを聞いていない。I−ブレインが再び高速で演算を開始している。
 そうして、ようやく“答え”がでる
(――繋がった)
 あと少しが、繋がった。
 情報が足りなかった部分に、その黒魔術士が何の気なしに呟いた単語がぴたりと当てはまる。
 偶然にも。
「くっ――はははははは!」
「ちょ、ヘイズ!?」
「ヴァーミリオン!?」
 壊れたように笑い出したヘイズに、火乃香とコミクロンが絶句する。
 それでも笑いは止まらない。ひたすらに馬鹿馬鹿しい。こんな偶然は彼の高度演算機能ですら算出できない。
 だからこそ、あの常識外なマーダー達に打ち勝てる。
「――あるぞ」
「……え?」
 ぴたりと笑いを収め、唐突に冷静な呟きを発したヘイズ。
 それにきょとんとする二人と黒ずくめ――確かオーフェンだかキリランシェロだかと言ったか。
 彼らを見渡しながら、ヘイズは紡いだ。反撃の言葉を。
「この戦いに勝つ方法だ。俺たちは勝ち残れる」

319最強証明 後編 ◆CC0Zm79P5c:2007/05/07(月) 12:38:25 ID:6AH3Zsjo
◇◇◇
 
 タリスマンの力で炎の翼を増幅。飛翔し、目標を捉えるまでに一分と掛からない。
 だが、シャナはこのまま突撃することを得策ではないと判断する。
 吸血鬼は夜に生きる生物だ。いまのシャナは、暗くて視界に困るということはない。
 その超視覚が、敵の奇妙な動作を見破っていた。
 十メートル四方ほどに木が伐採され、平地となったその中心に顔までは見えないが三つの人影がある。
 影の数は逃走前と同じ。僅かに危惧していた分散して逃げられるということはなかったらしい。
(たぶん、待ち伏せ)
 シャナは決して自分の力を過信してはいない。
 そこに油断はない。なぜならば、彼女には果たすべき目標があるからだ。
 敵を、殺す。自己保存の為ではなく、他者の生存の為に殺す。
 殺さなければいけない。その義務のために、彼女に失敗は許されない。
 故に、彼女に油断はない。
 敵もまさかこの局面ではったりはあるまい。待ち構えているということは、こちらを打ち破る自信があるということ。
 おそらくはあの急造の陣地も、何かを狙ってのことなのだろう。
(なら、こっちもそれを利用する)
 フリウはシャナ。シャナはフリウ。
 この短時間での戦闘で、彼女たちはお互いの癖や性質を完全に把握し始めていた。
 歪んだ心の合致は、それほどまでに強い。
「真上から仕掛ける。障害物がないから、おまえの破壊精霊を最大射程で使える」
「分かった」
 フリウが答える。
 彼女の使う破壊精霊はあくまで虚像。ただの投影ゆえに、精霊は彼女からそれほど離れられない。
 かつてリス・オニキスニに師事する前。生涯で二度目の解放をした時に、彼女は精霊に引きずられていた。
 先程のパイフウとの戦いで、すでに彼女たちは障害物の多いところは不利だと悟っている。
 待ち伏せされているのだったら、接近戦もそれほど安全ではない。
 ――ならば一番の有効策は、最遠距離から最大火力を叩き込むことだ。
「上空に到達したら、翼のブーストを解いておまえに回す。一撃で決めて」
 言い放つより速く、シャナは急上昇を開始する。
 フリウ・ハリスコーは念糸を紡ぎ始めた。水晶眼に接続し、開門式を唱えるタイミングを計る。
 ふと、フリウはシャナを右目で盗み見た。
 抱えられているため、接している部分からは人の温もりを感じる。だが。
(……あたしは、この人と同じ)
 この温もりは他人の温もりではない。
 自分の温もりならば、信用できない。それは錯覚かも知れない。
 かつてフリウ・ハリスコーは未知を下した。
 信じるに足る、確たる物。それを問われ、フリウ・ハリスコーはひとの繋がりを示した。
 証拠などない。だが信じられるもの。
 ひとは独りでは生きられない。だが、ふたりならきっと信じられる。
 シャナにはいる。多くを失ったが、それでもシャナは己が信じられる者の為に戦っている。
 フリウにはいない。全てを失い、フリウ・ハリスコーは孤独だった。
(だから、あたしは何も信じられない)
 気配がした。気のせいかも知れない。だがどちらも似たようなものだ。その本質は果たされるであろう未来にある。
 精霊アマワ。フリウはぼんやりとその名前を繰り返した。
 黒幕はきっとこいつだろう――シャナから聞いた時、フリウは確信していた。
 アマワはいつも奪っていく。そしていまのフリウにそれを止める術はない。
(サリオン……アイゼン、ラズ、マリオ、マデュー、マーカス、ミズー・ビアンカ……)
 もう会えない彼らの名前。そこにフリウはいくつか名を付け加えた。チャッピー、要、潤、アイザック、ミリア。
 失ったものは、取り返せない。この異界に来て、フリウ・ハリスコーはすべてを失った。
 信じられない……ひとりであるかぎり何も信じられない……
(だから、全部壊そう)
 暗い決意と共に、知らずの内俯いていた顔をあげる。と。

320最強証明 後編 ◆CC0Zm79P5c:2007/05/07(月) 12:39:18 ID:6AH3Zsjo
「よお」
「……」
 そこには見覚えのある顔があった。
 いや、顔というには語弊があるか。こちらから十センチほどしか離れていないのに、その全身象が視界に収まる。
 最初に浮かんだ感情は、懐かしさというよりは単純な疑問だった。
「……スィリー? なんであんたここにいるのよ」
「さあなぁ。高度すぎて言っても小娘には理解できないかもしれんし」
 羽があるというのに、相変わらず人精霊はそれを無視した姿勢で飛行していた。寸分違わず、こちらと同じ速度で。
 その理不尽さ、意味の無さは相変わらずだ。
 そして相変わらずなものだから、やはりかつてのように無駄な話を展開する。
「しっかしまあ、随分な挨拶だぁな。
 俺を置いてった黒ずくめを追いかけてたら、何やら森林破壊活動に勤しんでる小娘を見つけてわざわざ来てやったのに。
 まあ小娘だからな。ああ小娘ならしょうがないな」
 うんうんとスィリーは勝手に納得すると、だがすぐに顔をしかめた。
 ようやく周囲の状況に気づいたとでもいうように辺りを見渡し、言ってくる。
「ぬう。しかし小娘も飛べるようになっていたとは小癪千万。
 こうして制空権まで奪われて、俺は西へ東への根無し草。まあもともと飛んでるのに根っこも何もないが」
 以前と変わらず、何の益体もないことを言う人精霊は、しかしある一点で視線を止めた。
 その視線を辿ろうとし、全く辿れないことで理解する。スィリーは念糸の繋がれた水晶眼を注視していた。
「……制空権の徹底的剥奪か? いや、答えんでいい。ところで俺帰ってもいいか?」
「あ――」
 その言葉に。
 無意味なはずの人精霊の言葉に反応するように、フリウは反射的に念糸を解こうとしていた。
 ――その刹那。
 きゅぼうっ、というゴム地を指で擦るような音と共に、火球がスィリーを飲み込んだ。
 火は一瞬で消えるが、その時にはスィリーも焼失している。
「……余計なことは考えなくていい」
 耳元で、そんな声が響く。
 シャナは気づいたのだろう。繋がっていた同一の存在が、同一でなくなろうとした瞬間を。
 歪みで練り上げられた彼女たちの絆。強い絆。強固な絆。全てを殺害して破壊する絆。
 それはあらゆる意味で、この世の如何なる物質をも破壊できる破壊精霊と同じだ。

 それはもしかしたら、一番弱い。

 手軽く簡単に信じることの出来る手段。だが、最強ではない。
 怒りは湧かなかった。フリウは再び俯いて、念糸を繋ぎ直す。
(……あたしは、これで本当に全部なくしちゃった)
 気づけば上昇は終わり、下降に転じている。
 フリウ・ハリスコーは開門式を唱え始めた。シャナも翼のブーストを解除し、増幅の呪文を唱える。
 再び彼女たちは同一となった。完全に息のあった動作で、その他余分なものは一切無い。
 それでもフリウは自分の頬を撫でてみる。
 しかし一筋も濡れていないことだけを確認すると、彼女は再び狂気に没した。

321最強証明 後編 ◆CC0Zm79P5c:2007/05/07(月) 12:40:26 ID:6AH3Zsjo
◇◇◇

「真上から来たか」
 火乃香の努力によって突貫工事で造り上げた舞台。その中心に根付いている切り株の上でヘイズは待ち構えていた。
<I−ブレイン。動作効率を100%に再設定>
 抵効率で直前までひたすら演算させていたI−ブレインを一気に引き上げる。
 初撃は自分が担う。失敗すれば全滅だ。
 それは許されない。だからこうして周到なまでの用意を行った。
 夜の静寂は空気分子の運動予測演算を容易くさせた。
 舞台を整えれば、木の枝や葉がぶつかり合うことで空気分子の運動を不規則にさせることもない。
 パイフウがいなければ、こんな大がかりな仕掛けは用意出来なかった。
 だから失敗は許されない。支払ったものを無駄には出来ない。
 ヘイズは上空を睨みやる。
 木を切り倒したのは、演算の補助ともうひとつ理由があった。視界の確保。
 こちらが相手を確認でき、さらには相手からもこちらを確認してくれなければならない。
 双方がお互いを認識していると確認することで、奇襲という可能性は消える。
(そうすると、互いのアドバンテージは待ち伏せの罠と、突貫の勢い)
 こちらの罠が相手を打ち破るか。それとも相手の圧倒的戦力がこちらを打ち破るか。
 ――決まっている。
(俺たちが、勝つ)
 敵は炎の翼で姿勢を制御しながら降下してくる。
 降りてくるのは小娘ふたりだが、その脅威は隕石が降ってくるのと然したる違いはない。
 未だ、翼の光は豆粒のように遠い。だから錯覚だろうが、ヘイズには彼女たちの顔が見えるような気がした。
 白い眼球を、こちらに向けた姿が。
(視線か)
 巨人の瞬間移動の謎は、僅かに情報が足りずに解けなかった。
 だが、オーフェンが洩らした単語。眼という単語。それがヒントになった。
 銀の巨人は、常に少女の目の前にいた。目の前にしかいなかった。
 これならば全ての仮定に説明が付く。少女が自分を見ないかぎり、自分が攻撃の対象になることはない。
 おそらくは眼球が向いている方向にしかあの巨人は顕現も出来ないし、進むことも出来ないのだろう。
 恐ろしいほどの偶然が、最後の一押しとなった。
『俺の先生曰く、起こっちまった偶然を否定するのは愚か者だってな』
 そういえば全ての事情を話したとき、あの黒魔術士はそんなことを言っていたか。
(……腑に落ちないが、確かに疑ってもしょうがない)
 この反撃は全てが笑ってしまうほどの偶然によって成り立っていた。
 頭上の点が大きくなる。重力に引かれ加速しながら、破壊の使徒達が舞い降りてくる。
 だが、ヘイズはその降下を完全に予測演算していた。
 速度、炎の翼による空気の揺らぎ、そして取るであろう最適戦術。
 ありとあらゆる要因を予測し尽し、仮定の未来を見ることは容易い。
 なぜならば、彼はヴァーミリオン・CD・ヘイズであるからだ。
(お前達の判断は正しい。あの時点での急襲は、本来俺たちにとってチェックメイトだった。
 ただ、誰も予測できないクソみたいな偶然が全てを変えた)
 ――彼らは知る由もないが、それは偶然ではなく必然だった。
 この島の『偶然』は全てアマワの物だ。契約者たるアマワ。契約はあらゆる偶然をもってして存続される。
 アマワが誰かに味方することはない。ただ、解答を提示できそうな者を存続させるだけ。
 いまならば、それはシャナとフリウだった。全て破壊し殺戮の限りを尽し、それでも残るものが在ればそれは心だ。
 故に、本来ならばヘイズ達を偶然は助けず、逆に破滅させる。
 ヘイズ達はオーフェンと偶然にすれ違っただろうし、あるいは偶然に最強の戦闘狂と再会する可能性もあった。
 だが、アマワはその時余裕がなかった。
 ただひとり――最強を自ら証明する者が居たために。実在する心があったために。
 シャナとフリウが近づく。水晶眼の最大射程。それはヘイズの射程より、僅かに長い。
 コミクロンの魔術ならば迎撃も出来ただろうが、怪物となったシャナに防がれるのは自明の理だ。
 故に、コミクロンは動かない。ただ、ヘイズだけが一直線に敵を見据えている。
「此に更なる魔力を与えよ!」
「――開門よ、成れ!」
 破滅が宣告される。
 音もなく、完全な破壊精霊ウルトプライドがヘイズの傍らに現れる。
 破壊精霊は最寄りの物質から破壊する。この場合は、平地の中心に『ひとり』佇むヘイズから。
 だが、誰も動じない。
 ウルトプライドが拳を振り上げる。それでも誰も叫ばない。

322最強証明 後編 ◆CC0Zm79P5c:2007/05/07(月) 12:41:24 ID:6AH3Zsjo
(敗因その一。俺はすでに、その巨人を一度見ている)
 故に、予測演算のための情報には困らない。
 拳が振り下ろされ、着弾して、ヘイズがこの世から消滅する瞬間。
 その死までの予定時刻を、ヘイズは完全に予測しきっていた。
<予測演算成功。『破砕の領域』展開準備完了>
 空を飛ぶ彼女達。上空から落ちてくるのならば、それはこちらに近づいてくるということだ。
 銀の軌跡がヘイズを捉える直前――その僅か寸前に、射程に届く。
 ヘイズは指を鳴らした。パチンという小さな音が、だが決定的に静寂を揺るがす。
 指先から生じた空気分子の変動が広がっていく。それは瞬時に夜空を駆け昇り、巨大な論理回路を展開する――!
 破壊を司る巨人が、消えた。
「っ!?」
 彼の『破砕の領域』では、巨人に致命傷を与えることは出来ない。無論、上空の彼女たちにもだ。
 だが、ひとつだけ例外があった。
 彼女たちの姿勢を制御していた物。破壊精霊を宿すフリウが下を向いているために必要な物。
 炎の翼が、情報解体される。
 咄嗟のことだ。スカイダイビングの経験者だって即座に対応することは出来ない。そしてフリウにその経験はない。
 体勢が落ち葉のようにクルクルと回転し、破壊精霊の照準が定まらない!
「くっ――!」
 シャナはフリウを後ろから抱きかかえているため、破壊の視界に入ることはない。
 それでもこのままでは激突死は免れない。
 シャナは意識を集中させた。再び翼を作り、姿勢を制御――
(それも、予測済みだっ!)
 だが前の一撃の後、ヘイズはすでに次の演算に移っている。
<――『破砕の領域』展開準備完了>
 ヘイズがもう一度指を鳴らし、翼を散らす。
 まるで神話にある蝋の羽の英雄のように、彼女たちの落下は止まらない。
 シャナは翼を展開し続けるのは難しいと判断した。よって、その選択肢を排除。
 地上ギリギリで一瞬だけ翼を構築し姿勢制御、吸血鬼の身体能力を使い、落下の衝撃とフリウの体重を支える。
 フリウは目が回っていたが、それでも吐き気は堪えていた。歪む視界にヘイズを捉える。
(壊れろ!)
 念じる。破壊精霊が狙いを取り戻し、再びヘイズを狙う。
 ヘイズに避ける手段は、無い。
 だが、やはりヘイズは動じない。避けるでもなく、じっと精霊の拳を見据えている。
(敗因その二。俺たちの方が手足の数は多い)
 ヘイズに避ける手段はない。だからヘイズの代わりに、未来を書き換える者が居た。
 ガサリという木の葉が擦れる音。
 倒木の、葉っぱが生い茂ったたくさんの枝。そこからコミクロンの上半身が突きでている。
 敵の上昇を見て取った瞬間、すぐにヘイズ以外の『二人』はその中に隠れたのだ。
 コミクロンは頭の中で編んでいた、巨大な魔術構成を解き放つ。
 ヘイズの論理回路と相克し、黒魔術は弱体化する。
 だがそれも、構成が酷く単純で見習いでも発言できるようなものなら支障はない。
 しかしシャナの反応も速い。瞬時にコミクロンとの間に夜傘を展開し、防御の体勢を取る。
 だが、それも関係ない。
 なぜならば、それを打ち破るのは破壊の王なのだから。

323最強証明 後編 ◆CC0Zm79P5c:2007/05/07(月) 12:42:56 ID:6AH3Zsjo
「コンビネーション0−2−8!」
 フリウはその破壊の左目の中に、ヘイズを映していた。
 だが、その姿が変化する。
(……誰?)
 見覚えがあるようで、ないようで、はっきりしない。
 だが、すぐに気づく。見覚えはある。だが、それを生の視線で見ることは無かった。
 フリウ・ハリスコー。絶対破壊者が己の視界の中にいる。
(どうして――!?)
 コミクロンの使った魔術は光線の屈折。
 百八十度屈折し、反射となった視線はフリウ自身を捉えていた。
 破壊の王が顕現する。フリウの前に、初めてその破壊意思を主に向ける。
「――!」
 慌てて閉門式を唱え、精霊を封印する。
 フリウと繋がっているシャナも、視界の変化を感じていた。だが、戸惑いはない。
 贄殿遮那を一振りする。瞬時に平地は炎に満たされた。
 通常の炎ならば魔術に干渉は出来ないだろう。だが、シャナの炎は普通の炎ではない。
 コミクロンの魔術の構成が焼き尽くされ、さらに拡大してヘイズとコミクロンを狙う。だが。
「我退けるじゃじゃ馬の舞い!」
 だがフレイムヘイズの炎が魔術に干渉できるのなら、魔術もまたその炎に干渉できる。
 パン――という乾いた音がして、炎が鎮火される。
「新手か!」
 シャナとフリウが声の方を見やると、やはりコミクロンと同じように隠れていたオーフェンの姿があった。
 魔術は防御と攻撃、そのふたつを同時に行えない。
 その欠点を補うため、一方が防御を、そしてもう一方が攻撃を司る。
 オーフェンの世界での強力無比な戦闘集団。宮廷魔術士<十三使徒>の常套手段。
 だがその戦術は、彼らの異能が連発できないということを暗示していた。
 シャナはそれをすぐに看破し、フリウと共に次の行動に移っていた。予想外。だが、まだ戦力はこちらの方が上だ。 
(わたしがあの白衣を殺す。おまえはもう一度精霊を)
(わかった)
 言葉すら使わず、意思の疎通が行われる。故に彼女たちの行動は最速。
「通るならばその道。開くのならばその扉――」
 フリウの開門式を背に、シャナが駆け出す。左手に贄殿遮那。右手に神鉄如意。
 だが、一歩目を踏み出す時にシャナは違和感を覚えた。
 黒ずくめの出現は予想外。ならば。
(もうひとりは――どこだ!?)
 気付き、コミクロンへと向かう速度を上げる。
 その時、声が聞こえた。
「敗因その三――」
 もはや空気分子の振動のことを考えなくてもよいヘイズが呟いている。
 炎の余波で『破砕の領域』は使えない。だが。
「――うちのお姫様を怒らせたことだ」
 鮮血が舞う。
 背中を袈裟に斬られ、シャナはその場に崩れ落ちた
 倒れ臥す最中、見ると虚空から騎士剣と、そして無慈悲にこちらを見下ろす少女の顔が浮いている。
 火乃香だった。形見の迷彩外套を身に纏い、敵が着地した瞬間から気配を絶って忍び寄っていたのだ。
 奇襲ならば、身体能力の差を零に出来る。
「――先生の、仇だっ!」
 そう叫ぶ彼女の顔は、泣いているようにも見えた。
 居合いの勢いは、体を両断するものだっただろう。
 だが寸前に気付いたシャナは、何とか回避行動を取れていた。
 傷は深いが生きている。そして生きているなら――
「――殺す!」
 具象化した炎の拳が、火乃香を打ちすえようと振るわれる。

324最強証明 後編 ◆CC0Zm79P5c:2007/05/07(月) 12:43:56 ID:6AH3Zsjo
 だが、そこに標的はいなかった。
「――え?」
 最初から、火乃香は二撃目を振るうつもりはなかったのだ。
 すでに彼女は引き始めている――『射線上』から。
 いつの間にか、コミクロンとオーフェンはヘイズの元に駆け寄っていた。火乃香も大きく迂回しながら、それに合流する。
 あらかじめ計算され尽されて立案された作戦。だが、この短時間の内に――?
(不味い――!)
 コミクロンとオーフェンは、すでに次の魔術構成を展開していた。
 傷ついた体を無理に動かし、シャナが無防備なフリウの前に立つ。防御用に夜傘を再び展開。
「敗因その四。偶然この場にいた魔術士は、コミクロンより強力だった」
「ふっ、この天才の人脈だっ!」
 騒ぐ二人を横目に――
 オーフェンは力強く、真っ直ぐに指さした。眼前の敵を。自分と探し人を危険にさらす存在を。
 大規模な構成を編み上げる。魔力は弱められたが、訓練による自制は損なわれいない。
 だが、本来の規模でなければ威力が足りない。
 その威力をコミクロンが補い、構成を編む一弾指を火乃香が稼ぐ。
「我が左手に――」
「コンビネーション――」
 だが呪文を唱え始めた瞬間、フリウが開門式の末尾を唱えた。
「開門よ、成れ!」
 破壊精霊が顕現する。不完全だが、それでも人を殺すには十分な力を持っている。
 フリウはこの瞬間を待っていたのだ。視線をねじ曲げられる術を使う二人が動けなくなる瞬間を。
 視界を得た水晶眼に、四人を映す。
 ウルトプライドは咆吼をあげ、目の前の一番手近な物質を殴り飛ばした。
 剣が、舞う。
「――!?」
 弾き飛ばしたのは、火乃香が投擲した騎士剣だった。
 それでも破壊精霊は突進するだろう。そして敵を破壊するだろう。
 ――だが、それは失われた未来の出来事だ。
 膨大な演算の先に、小さな勝利を掴み取る。
 全てを予測し、計算し尽したのはヴァーミリオン・CD・ヘイズ。
 ――それしかすることのできない、欠陥品の人食い鳩である。

325最強証明 後編 ◆CC0Zm79P5c:2007/05/07(月) 12:45:56 ID:6AH3Zsjo
「――冥府の王!」
 魔術が発動する。キエサルヒマ大陸でも最高峰の魔術師達が吼える。
 崩壊の因子。それは破壊の王の胸部に着弾し、着弾した部分を崩壊させ、大爆発を引き起こした。
 物質崩壊が破壊精霊を消し飛ばし、夜傘に傷を付ける。
 それでもアラストールの皮膜は威力の大部分を削いだ。
 ――そして、次の攻撃は防げない!
「――5−3−8!」
 コミクロンの不慣れな空間爆砕の構成は、それでも傷ついたシャナとフリウに逃げる暇を与えなかった。
 空間が踊る衝撃に夜傘が完全に引きちぎられ、その主と背後の絶対者を吹き飛ばす。
 ――そして荒れ狂う衝撃が止むと、そこには何も残ってはいなかった。
 勝敗は、決したのだ。
「……やった、のか」
 ヘイズはその場に座り込んだ。I−ブレインを酷使したため、酷く頭痛がする。
 誘われるように、コミクロンとオーフェンも腰を下ろした。巨大な魔術の使用は、容赦なく体力を奪う。
「――肝が冷えたぞヴァーミリオン。この天才も、二度くらいもう駄目だと思った」
 コミクロンはそんなことを呟きながら、蒼白な顔を両の手で覆っていた。
 オーフェンは呻く体力も惜しいのか、ただ荒く息を吐くだけだ。
 黒魔術の最終形態の一、物質の崩壊。その代償は大きい。
 だが、立ったままの火乃香。聞いたところによれば、彼女は大切な人を失ったばかりだという。
 オーフェンにはクリーオウがいる。火乃香にはもういない。
 彼女が支払ってしまった代償は、もう返ってこない。
 だがその横顔を見て、オーフェンの胸中にはある言葉が浮かんだ。

(それでも絶望はしていない、か。この島にも、まだ希望は残っている)

 決意を秘めた少女の表情に、思わず苦笑いを浮かべる。
 ――この島に神はいない。
 人は疑心暗鬼に殺し合う。
 だが。

「だが、絶望しない。してたまるかってんだ」

 冷えた夜に、荒く白い息が立ち昇る。
 それを見ながら、オーフェンは苦笑していた。

326最強証明 後編 ◆CC0Zm79P5c:2007/05/07(月) 12:48:30 ID:6AH3Zsjo
◇◇◇

 目を開けると、そこは森の中だった。
 それは当たり前だろう。吹き飛ばされたのだから、背後の森の中にいるのは当然だ。
 ――だが、それを見ることが出来るのは不自然だ。
(――生きている? 何で?)
 フリウは己の生存に驚愕していた。
 あの瞬間、死ぬのは当然だと思った。破壊精霊を失った眼球の痛みを感じた瞬間。
 そして目前で同一視していたシャナの体が消失した時、ならば自分も死ぬのだと思っていた。
 だが、生きている。
(……そうか)
 破壊精霊は、死ぬ間際まで破壊を止めない。
 爆破の瞬間に、拳を振り下ろしていたのだろう。それが威力を相殺し、尚かつシャナに守られる形になったフリウを救った。
 ウルトプライドの真の性質を見抜けなかった、ヘイズの冒した唯一の計算違い。
(なら、壊さなきゃ)
 破壊精霊は使えない。虚像とはいえ、それは破壊精霊の力そのものだ。しばらくは回復しない。
 体は動かない。両腕が折れている。罅の入っていた右腕はともかく、左腕までが折れているのは――
 言葉を思い出す。シャナとフリウが同調した時の言葉を。
『もしもわたしが死んだ時、絶対におまえを道連れにしてやる』
(そうか、あの時――)
 夜傘の皮膜が破れた瞬間、シャナはフリウを神鉄如意で打っていた。誓いを果たすために。
 だが凶器を振り切る時間はなく、左腕を折るに留まったたのだろう。
(……絶望していたからかな)
 防御が破れた瞬間、彼女たちは死を予測し、それに縛られた。
 もしかしたら、荒れ狂う衝撃の渦の中でも生き延びられたかも知れない。
 たとえばフリウが念糸を使えば。たとえばシャナが贄殿遮那を用いて全力で防御していれば。
 ……絶望していなければ。
 それが――そんなものが、勝敗を分けたのかも知れない。
(皮肉なもんだよね。あの人は仲間の為に敵を殺さなきゃいけなかった。
 あたしは理由もなく壊すだけ。なのに生き残ったのはあたし)
 ため息をついて、俯く。
 それでもフリウは壊すだろう。半身を失っただけでやることに変わりはない。全て壊す。
 ひとりでは何も信じることが出来ない。だから壊してしまってもいい。
 集中し、念糸を紡ぐ。
 念糸に五感は必要ない。相手を目視する必要もない。
 あらゆる制限を突破し、念糸は相手に触れられる。人の思いのように。
 フリウは顔をあげた。茂みの向こう、自分を殺しかけた四人組全員に、同時に念糸を繋ぐ。


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