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尚六掌編

9便利な言葉:新刊発売まであと56日:2019/08/17(土) 08:59:52
『一人カウントダウン企画』第四弾は、他者視点の尚六。
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 楽俊と並んで街中を歩いていた鳴賢は、雑踏の向こうに人待ち顔でたたず
む風漢を見つけた。風漢のほうもすぐ彼らを見つけ、「おう」と笑顔で声を
かけてきた。
「こんなところで何をしてるんだ? 誰かと待ち合わせか?」
 鳴賢が尋ねると、風漢は「まあ、そうだ。逢い引きでな」と答えた。
「逢い引き?」
 ――女か。
 鳴賢のほうは男ふたり、それも獣形の楽俊と色気もなく連れだっていたと
あって顔をしかめた。うらやましい、という言葉は飲み込んでおく。
 そこへ。
「おー。待ったぁ?」
 片手を振りながら、ぱたぱたと風漢に走り寄ってきたのは六太だった。い
つもどおり元気いっぱいだ。
「よっ、楽俊に鳴賢じゃんか。元気?」
 ご機嫌で挨拶してくる。鳴賢はぽかんとしながらも、「あ、ああ」と答え
た。六太は嬉しそうに風漢を見上げ、急かすように相手の服を引っ張った。
「あっちの屋台でうまそうな焼き菓子を売ってた。それから巳門の近くで朱
旌が新しい見世物を――」
「わかった、わかった」
 風漢は苦笑しながら六太の背を軽くたたいた。そうして鳴賢らに「では、
またな」と言い残して、ふたりしてすたすたと歩き去っていった。
 唖然として彼らを見送った鳴賢は、やがて傍らで同じように黙って見送っ
ている楽俊に視線を落とした。
「なあ、文張」
「ん?」
「逢い引きって言った風漢の言葉は冗談だよな?」
 すると楽俊はそれには答えず、「蓬莱には便利な言葉があるそうだ」と言
い出した。
「慶にいる知り合いに聞いたんだが、きっとこういうときに使うんだろうな」
「へえ? なんて言葉だ?」
 楽俊は淡々とした口調で「ノーコメント」と答えた。


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