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尚六幾星霜

54「人を模した神獣」18:2018/03/06(火) 19:43:55
これまでああいう連中に絡まれて、笑えたことは一度もなかった。そんな気持ちの余裕など全くない。本当はいつも怖いのだ。腕力ではかなわない大人の男、しかも大概は複数だ。そして人数が多いほど強引で、六太の抵抗は殆ど意味をなさない。
そんな相手でも、怪我をさせたくないと思ってしまう。それは麒麟の性だ。誰かを傷つけるのが怖い。しかし身を守るためには、使令をうまく使って逃げるしかないのだ。
今日だってそうだった。不快で、怖かった。それでも懸命に冷静さを保って、できることなら穏便に追い払いたいと我慢していた。だから尚隆の気配が近くに来たのを感じて、心底ほっとして、嬉しかった。
でも、と六太は考える。そうやって尚隆に頼ってしまったことが事の発端なら、いつも通り自分ひとりで対処すればよかった。
自分の選択が悪かったとは今でも思わない。それでも、絡まれた時にためらわず逃げていれば、と後悔が募る。もしそうしていれば、今頃は街の舎館で夕餉を取って、酒でも飲んでいたかもしれない。尚隆と一緒に。

六太はうなだれて目を閉じた。
尚隆の気配はとうに王宮から消えている。ひょっとして暫く帰ってこないのでは、と思いついてひどく心許ない気持ちになった。
当分そのままでいろ、と尚隆は言った。当分、とはどれくらいの期間だろうか。転化できないことは、六太にとってたいした問題ではないが、あんな喧嘩をして和解もしないまま、長らく離れてしまうのが嫌だと思った。

身じろぎひとつせずに目を瞑っていると、夜風に乗って遠くから複数の人々の声が聞こえてきた。耳を澄ますと、天官や夏官が六太を探しているようだった。
尚隆と喧嘩したことは当然伝わっているはずだし、正寝から仁重殿へ駆けてきたのは見られていただろうから、なかなか主殿に戻らない六太を心配して探しているのだろう。
灯りを持って余程近くまで来ない限り、ここにいる六太を見つけるのは難しい。じっとしていれば暫くは見つからないだろうが、あまり周囲に心配をかけるのは本意ではない。
六太は溜息をひとつ吐いてから立ち上がり、主殿へ向かってゆっくりと歩いて行った。

主殿へ戻ると、官たちの質問責めにあった。
獣型でいるのは何故か、喧嘩の原因は何か、王は出奔したようだがどこへ行ったのか、等々。
だが答えられるのはひとつだけだ。
「勅命で転化を禁じられた」
淡々とした声で答えてから、六太は臥室へ向かった。
側仕えの女官たちが獣の姿に戸惑いながらも、六太の世話をするためいつも通りに取り囲んでくる。
「もう寝る。世話はいらない」
それだけ言うと、六太は牀榻に入った。


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