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尚六幾星霜

46「人を模した神獣」12:2018/02/24(土) 17:18:50
六太を残して部屋を出た尚隆は、その足で玄英宮を後にして関弓の街に降りた。
感情の抑制が効かないまま王宮にいるべきではないと思ったからだ。王として振る舞える気がしなかった。

騶虞で降り立ったのは街の片隅、夜は殆ど人通りのない場所だ。たまをその場で解放し、尚隆は特にあてもなく歩き出した。
ひとりで冷静になれば、胸の奥底にわだかまっているものの正体を掴めそうに思った。だが奇妙なことに、それを知るべきではないと、どこかで歯止めがかかっている。何かがそれを理解するのを拒んでいるような気がするのだ。

六太に投げつけた幾つもの理不尽な言葉を思い返すと、自己嫌悪を通り越して呆れ果てる。
男達に狙われたのは六太のせいではないと、もちろん分かっている。あの時、絡まれた六太自身が最も不快な思いをしていただろうに、冷静に対処しようとしたのだ。責めるべきことは何もない。
それなのに感情的な台詞を吐いた尚隆に、六太は激怒しているだろう。部屋を出る時背後から罵声を浴びせられたが、当然のことだ。

暗い夜道をひとり歩きながら尚隆の脳裏に去来するのは、六太が今日見せた様々な表情だった。
昼間玄英宮を共に出奔する時に見せていた、楽しげな笑顔。
金を返しに行かねばならぬと尚隆が告げた時の、心底呆れたような顔。
今まで見たこともなかった大人びた微笑み。
嘘をつく時に逸らされた視線。
拗ねたように俯いた、子供じみた表情。
睨みつけてくる怒りに満ちた瞳。
こんなに喜怒哀楽が豊かに表れる麒麟が他にいるだろうか。十三で成長の止まった幼い外見も、王に歯向かう態度も、他に類を見ない。
いったい何故だろうか、と尚隆は自問する。天は何故、あれを半身として尚隆に与えたのだろう。

ふと気がつくと、尚隆が歩く街路の先からは人々の喧騒が聞こえてきた。日頃の習慣とは恐ろしいもので、こんな心理状態でも足は自然と歓楽街へと向かっていたらしい。尚隆は自嘲するように口元だけで笑んだ。
今夜は妓楼も賭場も行く気にならない。楽しめないと分かり切っている。だが酒を飲むのは悪くないかと思いながら、そのまま歩を進めていった。
行きつけの酒場で顔見知りに会うのは避けたかったため、よく訪れる界隈からは離れた場所へ行くことにした。花街への曲がり角には目もくれずに直進する。少し行ったところで、一本の通りに何気なく目を止めた。
そこがどういう場所かということを、尚隆は不意に思い出した。男色の嗜好を持つ者が集まる通りだ。花街の妓女のように、ここでは男娼が男の相手をする。そういう娼館が立ち並ぶ通りだった。
尚隆は全く興味がなかったので、今までそこに足を踏み入れたことはなかった。ただそういう場所だと知っていただけだ。

今日行った街にもこういう場所があるのだろうか、とふと思った。あれだけの規模の街だ。あって当然かもしれない。六太が待っていた広途の近くに、ここと同じような通りがあった可能性はある。
少年を買おうと歓楽街へ向かっていた男達が、その途中で見かけた六太に目をつけた。大方そういうことだったのだろう。


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