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尚六幾星霜

221「確信」2:2019/08/18(日) 18:41:24
街の様子を眺めつつ当たり障りのない雑談をしながら暫く歩き、やがて大きな門のある舎館に到着した。
出迎えた厩番に、利広は笑顔で「世話をよろしく」と騎獣の手綱を差し出す。厩番の男は緊張の面持ちでそれを受け取ると「誠心誠意お世話させていただきます」と言って深々と礼をした。
厩舎へ戻りながら彼が同僚らしき男に「騶虞が二頭なんて初めてだ」と興奮気味に言っているのが小さく聞こえた。

少年と一緒に建物の中へ入り、宿泊の手続きを済ませた。利広は少年を振り返る。
「きみは、ここに一人で泊まってるのかい?」
少年は首を振った。
「連れがいる」
「部屋に?」
「いや、今は出掛けてるよ」
「そう。……そろそろ夕餉の時分だけど、きみは連れを待つのかい?」
「待たない。遅くなりそうだから先に食ってろって、言われてるし」
「では、良かったら夕餉を奢らせてもらえないかな。案内してもらったお礼に」
「お礼?––––いらないよ、そんなの」
両手を振って断ってから、彼は軽く首を傾けた。
「……けど、一緒に食うのは、いいかもな。ここの食堂、結構うまいんだ」
少年が笑って言うので、利広も笑って頷いた。
「荷物を部屋に置いてくるから、席を取っておいてくれるかな」

利広が二階の部屋に荷物を置いてから一階に戻ると、食堂の卓についた少年がこちらに向かって手を挙げた。利広は彼の対面の、湯呑みが置かれた席に着く。
この食堂で何度か食べたという少年に、料理の選定は任せることにした。利広は湯呑みを両手で包んで、品書きを見ながら手際よく店員に注文する少年の横顔をじっと観察する。
––––間違いない。
彼の紫色の瞳を縁取る長い睫毛は、明るい金色だった。見た目の年齢は十三かそこら。その条件に合う麒は、今現在一人だけだ。
––––延麒。
ということは、連れはおそらくあの男だろう。
「……腐れ縁ってやつかなあ」
苦笑と共に、利広は呟いた。殆ど声を出さない独白のつもりだったが、料理の注文を終えた少年がこちらを見て首を傾げる。
「何か言ったか?」
「ん?……いや、何も」
店員が立ち去ってから、利広は卓に肘をついて少し身を乗り出すようにする。
「きみも騎獣で旅をしているんだろう?ひょっとして、騶虞かい?」
少年は若干身を引いて、怪訝そうな目で利広を見返した。
「……うん」
「さっき私の騎獣を預けた時に厩番がね、騶虞が二頭なんて初めてだ、って言ってたから」
「ああ……そうだったんだ」
納得したように頷いて、彼は笑った。
「けど、厩には今いないよ」
「連れが、乗っていった?」
「そう」
「きみの騶虞?」
「まさか」
「てことは、きみの連れの騎獣なんだね」
「うん」
「へぇ……なるほどね」
利広は頬杖をついて微笑みながら、ふとした悪戯心が芽生えてくる。
こちらの正体に果たして彼は気づくだろうか。少年の連れは、どこまでを彼に話しているのだろう。
「……騶虞の名前、当ててみようか」
やや声を低めて利広が言うと、少年はきょとんとした顔で瞬いた。
「騶虞の、名前?」
「そう、名前。––––別に当たったからって、何かくれとは言わないけどね」
「……当たらないと思うけど。かなり珍しい名前だから」
「そうかな?」
利広は笑って、考え込むふりをした。少年は興味深げにこちらを窺っている。
「––––たま」
利広が呟くと、少年は目を見開いた。
しかし次の瞬間には表情が引き締まる。警戒心も露わな眼差しで、彼はまっすぐ利広を見据えた。
「……あんた、誰」


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