したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

【尚六】ケータイSS【広達etc.】

430「青眼 〜前〜」11/12:2008/08/22(金) 19:01:21
 そんな桓堆の動揺を他所に、隊列は郡境の山道を進んで行く。この峠は高低
差はさほど無いものの、樹木が濃く生い茂っている所為で見通しが効かない。
飛行する騎獣で空から警戒しようにも、木々の枝葉に阻まれ対象が認識出来無
い上、返って此方の存在を敵に知らせてしまいかねない。その為、相手の気配
や匂いを敏感に察知出来る半獣に頼るしか無いのだ。
 暫くすると、先行していた黎阮が合流して来た。
「どうだ、様子は」
 騎馬を並ばせつつ尋ねると、至ってつまらなそうな答えが返る。
「静かなもんだ──この先は伯頤達に任せてあるから、まず問題無いだろう」
 伯頤は黎阮の部下の狼半獣で、人の姿でいる時も五里先の相手の匂いを正確
に嗅ぎ分ける事が出来た。
「そうか。──このまま、何事も起こらなければいいんだがな……」
 ぽつりと呟いて空を見上げる。穏やかな季春の陽は、そろそろ中天に達しよ
うとしていた。
「もうすぐ峠の頂上だ。其処を過ぎれば下りになるから駟の速度も上がるし、
少しは楽になるだろうさ」
 桓堆が渡した竹筒の水を飲みつつ──酒じゃないのかよ、と不満げに零した
後で──黎阮が暢気に言った。
 それに無言で頷いてから桓堆は再度、視線を列の前方に向ける。縹色の位袍
を纏った姿勢の良い背中は、それまでにも何度と無く見ていた所為で直ぐにも
視界の中央に捉える事が出来た。
 ──何故、こんなにも気になってしまうんだろう……。
 隣に騎首を並べた州宰らと意見を交わしつつ進んでいるのだろう、時折見え
る細面の横顔が、頷いたり微笑んだりしている。結った髪を包み肩まで覆った
帛巾の端が、春の微風を受けてふわりと戦ぐのが見えた。
『──桓堆……』
 嘗て一度だけ字で呼ばれた時の、柔らかな響きの声音が忘れられない。その
声を思い返すだけで、桓堆の身体は瞬時に熱くなった。


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板