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【尚六】ケータイSS【広達etc.】

424「青眼 〜前〜」5/12:2008/08/22(金) 18:52:25
 桓堆は勿論、麦侯と一対一で会うのも初めてなら、言葉を交わすのも初めて
だったが、驚いた事に主の方は彼の存在を知っていた。
 訊けば、州師の演習を時々こっそりと覗き見ているのだと言う。この大変な
時期に随分と暢気な御仁だな、と一瞬呆れた桓堆は、直ぐにその解釈が間違っ
ていた事に気付いた。
 彼は自ら見極めているのだ──この乱世に於いても、軍の規律がきちんと守
られ、統制がとれているか。桓堆達の様な末端の兵卒が、不当な扱いを受けて
いないかどうかを。
 更に桓堆は、別れ際に麦侯から掛けられたある一言を、どうしても忘れる事
が出来ずにいた。
『辛い時も、笑ってみると案外道が拓けるものだぞ……』
 そう言って微笑んだ主の、柔和な顔が脳裏を過る。
 ──何故、侯は俺にあんな事を言ったんだ……?
「……堆……桓堆。おい、聞いているのか?」
 黎阮が訝しげに呼ぶ声で、ふと我に返った。
「──ああ、すまん。何だ?」
 二、三度軽く頭を振ってから、不審げに見つめる同輩を振り返る。黎阮は眉
間を狭め、微かに心配そうな表情を浮かべていた。
「なあ、本当に大丈夫か?先刻の事と云い、いつものお前らしくないぞ……ひ
ょっとして、この前登城した時に何か良くない事でも言われたのか?」
「──いや、そうじゃない。別に、大した事でもないんだが……」
 伊達に付き合いが長い訳では無いな、と桓堆は僚友の勘の鋭さに思わず苦笑
する。門の内外に幾つも焚かれた燎火の為、宵闇の中にあっても箭楼の周囲は
かなり明るく照らされている。その篝火の焔を反射し鬱金に光る同僚の瞳を見
返しつつ、桓堆は何気無く尋ねていた。
「──なあ、俺ってそんなに人相悪いか?」


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