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【尚六】ケータイSS【広達etc.】

423「青眼 〜前〜」4/12:2008/08/22(金) 18:50:51
「──明後日の穀物輸送の件、その後どうなってる?」
 辰門の歩牆から宵の幄に包まれた街道を見下ろしつつ、黎阮が尋ねる。門卒
の交代を済ませ、部下達を各々の持ち場に配置すると、彼等は楼閣の最上階に
上がって見張りを開始した。玉座が空の時期にあって、夜間の門衛は妖魔の襲
来から街と人々を守る重要且つ過酷な任務だが、ここ半年ほど、不思議と妖魔
の出現回数自体が、僅か乍ら減少して来ている様だった。
 そんな中、彼等の両伍は、郊外の義倉に穀物を補充する傍ら視察に赴く州侯
一行に、警護の為同行する事が決まっていた。
「……ああ、それなら万事予定通りだ。俺達の役目はいつもと変わらず斥候と
索敵、それから最後衛での妖魔避け……」
 槍を持ったまま、大きく伸びをしながら桓堆が答える。このところ連日の様
に夜遊びを続けていた所為か、幾分身体が重い。明後日の護衛の事もあるし、
この任が明けたら久し振りに兵舎に戻って、少し眠っておいた方が良いかも知
れないな、とぼんやり思った。
「……ふん、一番危険な任務は、俺達半獣に押し付けておけばいいって訳か。
まったく毎度の事乍ら、上の奴等の考えは有り難くって反吐が出るな」
 箭楼の床に戟の石突を強く打ち付け、忌々しげに黎阮が吐き捨てる。
「──しかし、麦侯もつくづく物好きな方だな。選りに選ってこんな時期に、
わざわざ危ない処へ進んで出て行かなくても良いだろうに……」
 黎阮が「麦侯」と云う敬称を口にした途端、再度伸びをしていた桓堆の動き
がぴたりと止まった。
「──ん?どうかしたのか」
「……いや。何でもない……」
 訝る同僚に視線を合わせず答える。門前に広がるとろりと湿り気を含んだ晩
春の宵闇を見遣りつつ、彼の脳裏にはつい数日前の出来事が蘇っていた。
 州侯及び荷駄の護衛の任務を拝命する為、珍しく訪れた州城で、彼は麦州侯
浩瀚その人に出会ったのである。


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