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【尚六】ケータイSS【広達etc.】

422「青眼 〜前〜」3/12:2008/08/22(金) 18:49:04
「いや、別に……」
 どうして急にそんな事を訊くんだと眼で訴えた桓堆に、黎阮は揶揄混じりの
口調で続ける。
「先刻お前が登楼してから、まだ半刻も経ってないだろう。幾らお前が早漏で
も、流石に早過ぎるんじゃないかと思ってな。──彼奴と何かあったのか」
 その言葉に桓堆は礑と歩みを止めると、隣の男を濃紺の三白眼でぎろりと睨
め付けた。
「誰が早漏だと?……今夜はただ、そう云う気分にならなかっただけだ」
 そう呟いて再び足早に歩き出す。行先は州都の東南に位置する辰門だ。彼等
はこれから、其処で明朝まで門卒の任務に就くのである。
 桓堆も黎阮も、麦州師左軍で半獣の兵卒のみによって構成された両伍の伍長
を務めている。半獣はその性質上、兵士に適した者が多い為、時に軍内部では
重宝がられる存在だが、例えどれほど手柄を立てようと、決して栄達出来無い
旨が慶の国法に明文化されている所為で、熱意に満ちてその任に当たる者は殆
ど居なかった。
 斯く云う彼等もその例に漏れず、軍規に触れない範囲で適度に手を抜きつつ
日々を過ごしていると云うのが現状だった。今日とて、本来ならば一度兵舎に
戻り、身支度を整えてから門に向かわなければならないところを、彼等は部下
に命じて皮甲や戈戟を直接、辰門まで運ばせていた。そのお蔭で、任務の直前
まで悠長に妓楼で遊んでいられたのだ。
 尤も、登楼したところで花娘を買うのは専ら桓堆のみで、黎阮の方は一人、
美味くも無い酒を飲みつつ時間を潰していると云うのが常であった。彼に言わ
せれば「ぎゃあぎゃあ五月蝿い女などより、酒壺を抱いて眠る方が余程幸せ」
なのだそうだ。
 この少々変わった同輩を、桓堆は割合気に入っていた。歳が近い事や、州師
に配属されたのがほぼ同時期だと云う事もあったが、何より黎阮が自分に近い
存在なのだと実感する瞬間が多々あるからだった。また彼が時折見せる、微か
な諦観を滲ませた眼差しや自嘲混じりの笑みも、桓堆にとっては覚えのある、
馴染み深いものだった。


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