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尚六SS「永遠の行方」

950永遠の行方「絆(88/100)」:2017/08/15(火) 21:58:01
 これまで無数の女と簡単に関係を持ってきた尚隆に、六太の一途さと真剣
さの度合いを真に理解することはかなわなかった。好きあっているのなら体
をつなげてしまえば何とでもなると思ったのもそのせいだ。その見通しの甘
さがこの結果だった。
(まずいな。元の木阿弥になるとか、むしろ悪化するとかしたりせんだろう
な)
 ひやりとした尚隆は、「六太」と優しく声をかけるなり強引に抱き寄せた。
腕の中を見おろせば、相変わらず伏せられていたとはいえ涙で顔がぐしゃぐ
しゃなのは明らかだった。ついに嗚咽をこらえられなくなった六太は、それ
でも何とか普通に話そうとしていたようだが、口から出てきたのは、ぜいぜ
いと苦しそうな荒い呼吸だけだけだった。
 もうこれではお茶どころではないし、政務にもならないだろう。尚隆は六
太の背を撫でながら、女官たちに「六太の体調が悪い。本日の政務は終わり
だ」と言いおいて久しぶりに六太を横抱きにし、そのまま長楽殿に戻った。
 いつもの臥室に六太を連れていき、気持ちが落ち着く薬湯を用意させて強
引に飲ませる。かたくなに顔を伏せて泣き顔を見せないようにしている六太
を慮り、「おまえ、具合が悪いのだろう?」と誤解しているふうを装って無
理に寝かせた。六太は無言で頭から衾をかぶると、尚隆に背を向けて体を丸
めたが、興奮したせいかあまり薬湯が効かなかったらしく、ずいぶん経って
からようやく眠ったようだった。
 特に急ぎの書類もなかったので、尚隆はそのまま臥牀の傍らで見守ってい
た。自分の不用意な行動のせいで、ここしばらくの配慮が台無しになったこ
とが我ながら業腹だった。
 夕餉の時刻を過ぎてから六太は目覚めたようで、もぞもぞと動きだした。
しかし臥牀の上から衾の中を覗きこんでもどこかぼんやりとした様子で、尚
隆に背を向けたまま、悄然と横になっていた。
「腹が減ってないか? 何か食うか?」
 尚隆の問いかけにも反応がない。このまま寝かせておくかどうか迷ったも
のの、結局何か食べさせたほうが良かろうと、ぐったりとしていた六太の上
体をそっと起こした。抵抗はまったくなかったが、盛大に泣いたせいだろう、
乱れた髪の間から見える目はずいぶんと腫れぼったかった。




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