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尚六SS「永遠の行方」

901永遠の行方「絆(64)」:2017/07/04(火) 22:04:34

 ある日の午後、尚隆は朱衡を長楽殿の一室に呼んだ。茶を供してから女官
も侍官も退出させてふたりきりになったため、朱衡は首を傾げた。
「何か、内密の案件でしょうか?」
「うむ」
 尚隆はうなずいたものの、どうやって話を切り出そうかとしばし悩んだ。
 六太との関係は、長楽殿で身辺に侍る女官たちに限って言えば、当然わ
かっているだろう。それ以外の官で気づいている者はほとんどいないようだ
が、尚隆自身は、実は六太との関係を特に隠そうとはしていない。だから多
少注意深い官であれば、むしろ気づいて当然と言えた。
 中でも朱衡はずっと親しく過ごしてきた臣だけに、どうやら薄々勘づいて
いるようで、だからこそ今回の相談相手に選んだ。
「六太の目が覚めた直後、おまえに問われたな。どうして呪が解けたのだろ
うと」
「ああ、はい……」朱衡はそう答えてから、すぐ表情を引き締めた。「原因
がおわかりになったのですか?」
「六太に接吻した。それが鍵だったようだ」
 あっさり告げると、朱衡は驚愕の表情で絶句した。だがその目にすぐ理解
の色が浮かぶ。論理的な思考から、六太がずっと尚隆を想っていたことに思
い至ったのだろう。幾度か激しくまばたいたあとで、視線を落として「なる
ほど、それで……」と、どこか呆然としたようにつぶやいた。
「幾度も口移しで水や果汁を与えてきたのでな、てっきりそれと変わらぬ行
為だと思っていたのだが違ったらしい。あれで六太の願いが叶ったことに
なったのだろう」
 尚隆はそこで言葉を切り、朱衡の反応を見守った。朱衡は顔を上げると、
今度ははっきりとうなずいてみせた。
「了解いたしました。先の朝議でおっしゃったように既に解決を見たことで
すし、冬官たちの結論でも、呪の悪影響は窺えないとのこと。となれば、今
になって特に他の官に伝える必要はないでしょう」
 わざわざこんな席を設けて明かした理由を察したのだろう、きっぱりとし
た口調だった。




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