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尚六SS「永遠の行方」

836永遠の行方「絆(25)」:2017/05/07(日) 00:10:42

 あちこちに置かれた灯が放つ、温かな黄色の光に照らされた臥室。その夜、
被衫姿の六太は座っていた椅子から立ちあがり、ほんの数歩、歩いただけでふ
らついた体を支えるために目の前の小卓に両手をついた。頭をめぐらせて、半
分ほど開いている大きな框窓を見やる。填められている大きな玻璃の板は、都
度、蓬莱から技術や文化を容れてきた豊かな雁ならではだ。その先の露台も、
穏やかな夜の中でいくつかの灯に照らされて、光と影が織りなす美しい姿を見
せていた。露台では尚隆が雲海のほうに視線を投げ、立ち尽くしたまま、先ほ
どから何やら物思いに沈んでいる。
 ふと彼の目がこちらに向き、静かに歩み寄ってきた。そのさまがなぜか獲物
を視界に捕らえた猛獣のように見えて、六太は知らず、ぶるりと震えた。
「尚隆」
 六太は努めて普通に装い、明るい声を出して呼びかけた。
「なんだ」
「俺、そろそろ仁重殿に戻るわ。もうだいたい良くなったし」
 戻りたい、ではなく、戻る。六太はこれで自分の意志をはっきり伝えたつも
りだった。
 だが尚隆は露骨に顔をしかめた。臥室に戻り、掃き出し窓を閉めてから遮光
と目隠しのための垂れ幕まできっちり引いて向き直った。
「莫迦なことを言うな」
「え?」
 尚隆は大股に歩み寄ってきたと思うと、卓に両手をついたままの六太の後ろ
に立ち、長い金色の髪を愛でるように手にすくった。そんな彼の仕草を、六太
は首をめぐらせて不思議な思いで眺めた。尚隆は今まで六太にそんな仕草をし
たことはない。直に身体に触れられるより逆に官能的な気がして、それに気づ
いた六太は内心で少しうろたえた。
「俺は、またおまえと離されるつもりはないぞ」そう言った尚隆は、後ろから
六太の両肩に手を置いた。「身体が良くなったというのなら、もう待つ必要は
ないな。来い」
「……へ?」




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