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尚六SS「永遠の行方」

681永遠の行方「王と麒麟(262/280)」:2013/11/30(土) 18:15:47
守真はそれに気遣いのある目を向けながら、尚隆を背の高い仕切り板の向こう
の小部屋に案内した。出入口に当たる部分にはきちんと扉が取りつけられ、そ
こを開けると重く帳が垂れていた。帳を開けた向こうは意外と広い空間で、小
さめの臥牀と椅子、小卓が用意されており、尚隆は示されるままに臥牀に六太
をおろして寝かせた。臥牀に載っていた褥も衾も高価なものには見えないなが
ら、ふかふかと柔らかく手触りも良い。椅子にも詰めものがいくつも置かれて
いて座り心地は良さそうだった。小卓の上には軽食のたぐいだろう、何やら盛
り上がって布巾のかかった大皿が置かれ、傍らに水差しと杯、おしぼりまで
あった。
「面倒なことを頼んですまないな」
 尚隆がねぎらうと、守真はにこやかな顔で「いいえ」と首を振った。
「この出入口は堂室の扉とも近いので、外の厠に行くときも目立たないと思い
ます。来てくれるお客さんには、ここでわたしたちが打ち合わせや裏方の作業
をしていると説明しておくので、籠もっていても不審には思われないだろうし、
わざわざ扉を開けてまで覗く人もいないでしょう」
「うむ」
「こちらのお皿は軽食で、飲みものは水差しに。果実酢を水で割ったものです。
お酢は体にいいし、さっぱりしてけっこう美味しいんですよ。温かいお茶がよ
ければお持ちしますけど」
「いや、そこまでしてもらわずとも大丈夫だ」
 尚隆はそう言って、勧められるままに臥牀の傍らの椅子に腰を降ろした。尻
の下や背の詰めものが心地よく身体を支えた。
「なかなか具合がいい」
 尚隆が明るく笑いかけると、守真も笑顔で返した。ついで彼女は少し表情を
曇らせて六太を眺めやった。
「六太はまったく目を覚まさないのですか?」
「うむ……。時折目を開けることはあるのだが、意識そのものはないらしい。
だが根気よく手足をさすったり話しかけたり、好きな音楽を聞かせたりすると
回復することがあると知り合いの瘍医が言っていた。むろん当てにはできぬが、
これの両親にくれぐれもよろしくと頼まれたことでもあり、少しでも可能性が
あればすべて試したいのだ。何より六太はにぎやかなことが好きだから、親し
い者たちの歓談の様子を聞くだけでも喜ぶのではと思ってな」




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