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尚六SS「永遠の行方」

643永遠の行方「王と麒麟(237)」:2013/05/10(金) 19:18:09
「これはまた、急なことで」
 驚きのまま、拝礼もそこそこに言うと、尚隆が「善は急げというからな」と
笑った。
「蓬莱で意識が戻らず疾医(いしゃ)に見放された病人に対し、伴侶が声をか
けたり手足をさすったりする献身的な看護を続けていたら目覚めた例があるそ
うだ。それを思えば、麒麟は王といると嬉しい生きものゆえ、俺のそばに置い
て俺が声をかけたり手足をさすったりすれば良い効果がもたらされて呪が解け
ぬとも限らぬ。まあ、蓬莱の例はあくまで病の話だし、奇跡とも騒がれた稀有
な例だそうだから安易に期待はできぬが、何もせずに手をこまねいているより
はましだろう」
 朱衡は、なるほどと納得した。そうしてから、これほど好ましい措置もない
だろうことに気づいて、提案したという陽子に感謝した。これで玄英宮で一部
に広がりつつある、王はもう宰輔を見捨てたいのだという見当違いの噂を抑え
ることができようからだ。六太を王の臥室に寝かせること以上に、尚隆の関心
と気遣いを示す行為はない。しかも王みずから運んだとあっては。主君の見舞
いが間遠になっていたことを憂(う)いていた六太の近習にしても、これで力
づけられるに違いない。
 さらに朱衡は、六太の胸元を飾る碧双珠の青い輝きを認めていっそう驚いた。
玄英宮に滞在している間だけとのことだったが、いかに後援である雁を頼りに
しているとはいえ、慶の大事な宝重なのだ。まことに景王は情に厚い人柄だと、
彼は感服した。
 尚隆が言った。
「六太の世話の勝手がわかっているだろうから、六太の近習もこちらに移す。
それ以外はもともと人手が足りぬでなし、正寝の者で何とでもなろう。殿閣の
手入れもあるから、仁重殿を完全に空けるわけにもいかぬしな。六太が目覚め
れば、また戻ることになるのだし」
「冢宰へは」
「先ほど使いをやった。あとのことは白沢が適当に計らうだろう」
 主君の声音には張りがあり、朱衡は安堵した。油断はできないにせよ、気分
が浮上したらしいことは単純に喜ばしい。
(やはり景王においでいただいて良かった)




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