したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |
レス数が1スレッドの最大レス数(1000件)を超えています。残念ながら投稿することができません。

尚六SS「永遠の行方」

611永遠の行方「王と麒麟(211)」:2013/04/04(木) 19:24:25
「申し訳ないながら、主上が気晴らしになるような話でもしていただければと。
景王も主上と同じく胎果であらせられる。もし主上が興味をお持ちになれば、
現代の蓬莱の話などはいかがでしょう」
 陽子は押し黙った。蓬莱のことは、陽子にとってもまだ思い出になってはい
ない。そんな状態で、なりゆきで自然と話が及んだならともかく、意識的に話
を振るのは気が進まなかった。そもそも励ましのための話題としてふさわしい
だろうか。そのときはお互いに楽しいかもしれないが、あとになって空しくな
らないだろうか。
 彼女はふと、自分が五百年後にその時点で流されてきた海客と蓬莱の話をし
た場合を想像してみた。懐かしいというより――ちょっとした拍子に切ない気
持ちのほうが大きくなって気鬱になるかもしれない。公私ともに充実して精神
的に満たされているときならまだしも、少なくとも苛立ったり暗くなっている
ときにしていい話ではないだろう。
 むろん六太となら現代の蓬莱の話もたくさんしたが、彼はいくらでも蓬莱と
自由に行き来できた。陽子にとってもまだ自分の記憶と乖離しない情報だから、
郷愁の念を覚えるのはさておき、彼がもたらす話を興味深く聞くことも可能
だった。どちらも尚隆とは条件が違う。
「延王がお望みになればいくらでも話はしますが」彼女は慎重に答えた。「た
だ、気晴らしといっても、正直なところ若輩者のわたしにうまくできるとも思
えません」
「何でもいいのです。少なくとも変わりばえのない官の顔を見、変わりばえの
ない話を聞くよりはずいぶんと違うはずです。それに麒麟が昏々と眠り続ける
などという事態は前代未聞で、そうなると同じ王としてのお立場を持つ景王か
らのお言葉は、我々のような臣下が何を言うよりはるかに重みがあります」
「しかし……お役に立てるかどうか」
 そう答えながら、陽子は六太とかつて話した内容を思い出していた。
 彼は言ったのだ、国同士が交流するのはいいことだ、自然と王同士も交流す
ることになるからと。王の気持ちは王にしかわからない、だからそういった日
頃の交流があれば、いざというときにも孤独に陥らず、王の支えになるだろう
と。




掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板