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尚六SS「永遠の行方」

598永遠の行方「王と麒麟(200)」:2013/03/23(土) 10:38:58
 決断、というほどのことはない。このまま手をこまねいていれば、おのずと
六太は見捨てられる。しかしそうすべきだという王としての理性と、個人とし
ての感情はいまだに折り合いがつかなかった。
 それでいて焦りがあるかと言えば、不思議なことに逆なのだ。理性と感情の
狭間にあって、どちらにも行けない今、心中はむしろ凪いでいた。それは平静
というより、亡国もやむなしとする諦めの境地に近い。これからの人生を半身
たる麒麟なしで孤独に生きることを考えると、王朝に対する未練は自分でも意
外なほど感じなかったからだ。
 積極的に死にたいわけではない。しかしあらためて終わりのない生と王の重
責を思うと、いかに雁を愛していても気が重いだけだ。ここまで国を繁栄させ
るのも相当な苦労だったのだから。
 そもそもこれだけ長く生きたのだ、いつ死んでも文句のあるはずはない。そ
ういえば六太も同じことを鳴賢に語ったのだったか。
「五百年、か」
 乾いた声でふとつぶやく。われながらよくぞここまでもったものだと、尚隆
はしみじみ思った。
 潮時なのか、とも考える。これは寿命のない王に対する運命からの宣告の一
種なのか。
 決して国を滅ぼしたいわけではなかった。だが孤独をかかえたまま重責を担
い続けなければならないとしたら、この際、風のように消えていくのも悪くな
いように思えた。第一どの道を選んだとて、終焉自体は必ずやってくるではな
いか。
 いずれにしろ、このまま日々を漫然と過ごしていても遠からず王朝は傾くだ
ろう。王が迷いに囚われるようになったら最後なのだから。毎日の政務を機械
的にこなす程度では、国が徐々に疲弊していくのは避けられない。だがそのこ
とに諸官が気づいたときには遅いのだ。
 もちろんすぐには影響は出ないだろう。雁の体制はそれほど脆弱ではない。
仮に尚隆が政務を放棄したとしても、祭祀さえ行なっていれば数十年程度はも
つと思われた。しかし王の乱心による亡国が犯罪によるむごたらしい即死のよ
うなものとしたら、職務放棄による消極的な傾国は、みずから望んだ断食によ
る緩慢な衰弱死だという程度の違いしかない。




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