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尚六SS「永遠の行方」

421永遠の行方「王と麒麟(76)」:2011/07/18(月) 09:33:31
それは六太のほうも同じだ。王を求める麒麟の本能として以上に尚隆を想うこ
とはないだろうし、今回の事件で主君に言伝の一言も残さなかったという事実
がそれを裏付けている。六太の最大の関心事はあくまで雁が――できれば他の
国々も――平和に治まっているか否かなのだ。
 ――そのはずなのに。
 尚隆はその場にたたずんだまま考えこんだ。
 いったい六太の一番の願いとは何だろう? 呪者にあさましいと嘲られても
否定せず、恥じ入って口にしなかった。しかも絶対に実現しないであろう事柄
だと言う。帷湍が言ったように個人的な願いごととしか思えないが、尚隆には
さっぱり見当がつかなかった。これだけ長いこと一緒にいれば、他の者はさて
おき、彼なら多少なりとも推測できても不思議はないのに。
 ならば――そう、ひとまず自分自身に置き換えて考えてみよう。俺自身の一
番の願いとはなんだろう? 延王尚隆としてではなく小松尚隆としての願いと
は?
 だが、結局彼は自嘲気味に低く笑うしかなかった。彼は雁の王だ。雁の繁栄
と民の安寧以外に望むことなどない。六太は変に気を回していたようだが、王
にとって国は体であり、民は体をめぐる血流だ。五百年以上もこの国に君臨し
ている尚隆にとって、もはや意識の上でも公私を分かつことなどできはしない。
六太は王を憐れみ、鳴賢も感傷的になっていたが、人柱などという発想は王と
国が別物と考えるから出てくるのであって、尚隆にとっては既に雁こそが自分
の血肉なのだ。
(だが……おまえもそうではないのか?)
 牀榻に向かって心の中で問いかける。そうしてしばらく考えをめぐらせたの
ち、踵を返して臥室を出て行った。宮城での聴取は夏官や冬官に任せるとして、
やはり市井でも引き続き話を集めたほうが良さそうだ。中でも事情を話したり
作り話をする必要がない鳴賢には、間をおかずにさらにいろいろ尋ねるべきだ
ろう。あの様子ではうまく記憶を呼び覚まさせればまだまだ興味深い話題が出
てきそうだし、本人も協力的だ。それを取っ掛かりに、たとえば他の大学生に
聞き取り範囲を広げることも容易だろう。




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