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尚六SS「永遠の行方」

327永遠の行方「王と麒麟(5)」:2010/05/19(水) 20:06:59
「そう案ずるな。目覚めるものならそのうち目覚める。謀反人との取引の結果
とはいえ俺が目覚めたということは、同様に六太の呪も解く方法があることを
示しているのだからな」
「もちろんです」
 朱衡は硬い表情ながらも、しっかりとうなずいた。このまま六太が永遠に目
覚めないなど、絶対にあってはならないのだから。

 仁重殿に赴いた尚隆は、まっすぐ主殿の臥室に向かった。出迎えた女官らは
複雑な表情だ。王が目覚めてほっとした代わりに、直接の主である六太が昏睡
に陥ってしまったのだから無理もない。
 厚い帳で閉ざされた牀榻の扉の奥を見た尚隆は、控えていた黄医に「どのよ
うな状態なのだ?」と尋ねた。
「昏々と眠り続けておいでです。主上の侍医とも話を致しましたが、症状とし
ては主上が昏睡に陥っておられたときと非常に似通っているようです。ただ主
上は何の反応もお見せではなかったそうですが、台輔は普通にお寝みであるか
のように、多少は表情などを動かされることがあります」
「ほう?」
 わずかに考え込んだ尚隆は彼らに「少しはずしてくれ」と言って人払いをし
た。帳を開け、その奥に横たわるおのれの半身を目にする。
 軽く吐息をついてから、尚隆は臥牀の端に腰掛けた。手を伸ばして六太の金
の髪に指を通し、頭をそっとなでる。何の反応もないが、傍目にはぐっすりと
眠り込んでいるだけとしか見えなかった。
「まったく……」彼は口の端に困ったような笑みを浮かべた。「おまえは心底
から麒麟なのだな。民のためとあらば、嫌いな王の身代わりになるのも躊躇せ
ぬか」
 鳴賢の証言を衝立の裏で聞いていたとき、尚隆は初めて六太の身の上を知っ
た。おそらく朱衡もそうだろう。これだけ長い時間をともに過ごしながら、尚
隆は六太が蓬莱で両親に捨てられたことなどまったく知らなかったのだ。それ
が蓬莱で為政者が起こした戦乱のせいであることも、ゆえに六太が為政者と名
の付く存在をすべて厭い、かつて王を選ぶことさえ拒んだことも。
 だが知らずとも無理はなかった。麒麟は本来、蓬山で生まれ育つ。蝕によっ
て蓬莱なり崑崙なりに流されたとしても、民らが願うのは幼い麒麟の帰還のみ。




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