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尚六SS「永遠の行方」

301永遠の行方「呪(205)」★オリキャラ中心★:2010/03/14(日) 12:43:49
 王の視線を独占している延麒の姿をぼんやりと眺める。少年の様子はかつて
崆峒山で乱の生き残りを引見したときを彷彿とさせた。王の前で我が物顔に振
る舞っていた、あのさまを。人は麒麟を慈悲の権化だと言う。しかし暁紅には
少年が王の寵愛を一身に受け、すべての言動を許されて、ただ自分の思うがま
まに振る舞っているだけと思えてならなかった。
 雑踏の向こうの屋台では延麒が食べものを王にねだっていた。ぶつ切りにし
た羊肉やら乱切りの野菜やらを、ただ串にさしてあぶっただけの簡単な食べも
の。たれさえつけることなく、さっと岩塩をふっただけの粗末なものだったが、
根菜だけの串を延麒はうれしそうにほおばった。暁紅たちがなけなしの銭をは
たいて干し苹果を買ったのは、荒民を装ってほとんど金を持ってこなかったが
ためで、でなければ薄汚い屋台などには絶対に近づかなかった。しかし延麒は
何も感じていないらしい。庶民的と言えば聞こえはいいが、驚くほど卑しい麒
麟だと暁紅は思った。
 だがその少年に、傍らの王は笑顔を向けているのだ。彼女には決して向けな
かった、愛情に満ちた顔を。
 王の鋭いまなざしから刃のきらめきを失わせ、闇の向こうをひたと見据えて
いた暗い視線を光の側に向けたのは延麒に違いない。寵童なのだからそれも当
然と言えば当然だが、暁紅は失意の中にも苦々しく思った。昼も夜も常に傍ら
に侍り、こうして市井におしのびで出るときさえ王のそばを離れない。王は延
麒のものなのだ。後宮にどれほどの女が囲われていたにせよ、たったふたりで
親しく出歩いているこのありさまを見れば、延麒がその頂点に立っているのは
明らかだった。
 梁興の時代から、いや、おそらくはその前から、少年はその座を占めていた
のだろう。そんなことも知らず、一時とはいえ栄光を夢見て浮かれていたのだ
と思うと、今さらながらに貶められた気がした。それと同時に、野性味あふれ
た王の牙を抜き、羊のように飼い慣らした不遜な麒麟をいまいましく思った。
自分に目もくれなかった王のことは確かに恨めしかったが、それ以上に延麒が
憎かった。
 ――そう、暁紅は延麒を憎んだ。激情がほとばしるほど強い感情ではなかっ
たし、むしろ心の中は冷え冷えと凍るようだったが、それでもちろちろとくす
ぶる燠のような小さくて静かな炎は、確かに彼女の胸の内で青白く燃えあがっ
たのだった。




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