したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |
レス数が1スレッドの最大レス数(1000件)を超えています。残念ながら投稿することができません。

尚六SS「永遠の行方」

247永遠の行方「呪(155)」:2009/10/10(土) 12:56:26
 いったん止まった涙がふたたび溢れてくる。
 自分は彼の意志を尊重し、一言一句聞き漏らさず、誠実に国府に伝えるべき
なのだろう。六太自身が倩霞こと暁紅の新居を知っていたらひとりで訪問した
ろうし、そうなればこんな機会を与えられる者もいなかったはず。だからこれ
はむしろ僥倖なのだ……。
 理性でそうは考えたものの、感情は追いつかなかった。つらいのは身代わり
になる六太のほうなのだから、たまたま居合わせた傍観者に過ぎない自分は、
もっとしゃんとしているべきなのに。
 泣き続ける鳴賢に、六太は優しく語りかけた。
「なあ、鳴賢。人は誰しもいつかは死ぬ、それが理だ。しかし死が確実に訪れ
るからと言って、よしみを結ばないとか愛さないと考えるのは本末転倒だよな。
人生の結末だけを見て、その人が生きてきた軌跡をまったく顧みないというこ
とだから。ならば王朝も同じだ。王はいずれ斃れ、王朝はいつか滅びる。だか
らと言って昔の俺のように、はなから王を信じないなんて愚かなことだし、人
というものがいずれ必ず死ぬから知り合わない愛さないと主張するのと同じく
らい馬鹿げた考えだ。永遠に続くものしか信じないという無い物ねだりは、不
遜だし悲しいことじゃないだろうか。だから俺は王を信じるし、五百年もの間、
雁のために粉骨砕身してきた王にこのまま国を委ねたいと思う」
 鳴賢は顔を上げ、泣きながらも「うん……うん……」とうなずいた。そんな
彼を六太はしばらく黙って見つめていた。
「こんなことを言っても無理かもしれないが、あまり気に病まないでくれ」や
がて六太はそう言った。「なぜなら麒麟にはもともと何もない。生命すら自分
のものではなく、王を敬愛するのも天帝に仕組まれた本能でしかないんだ。本
当は自分の意志だってない。言ったろ、王を選ぶのが嫌で逃げ出したはずなの
に、実際は王のいる場所に引き寄せられていただけだったって。麒麟は所詮、
天意を受けるための器、天の傀儡でしかない。さっき暁紅はただ生きているだ
けの木偶になると言ったが、もともと天の木偶なんだから、おまえは本当に何
も気にしなくていいんだ」
 鳴賢は途端に激しい感情が沸き起こるのを感じた。それは憤りに似ていたが、
とてもやるせなく切ない感情でもあった。
 彼自身も今まで、他の民と同じく延麒について一方的な幻想のみをいだいて
いた。慈悲深く気高く、雲の彼方に住まう至高の神人だと。それは王について
民が考えるのと同じく、尊崇という言葉を理由に個性はまったく問題にしない
ものだった。麒麟の存在意義は民に慈悲を施すこと。何を思い悩もうと、いや、
麒麟が民への慈悲以外に思い悩む可能性があることさえ考えが及ぶことはなか
った。




掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板