したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |
レス数が1スレッドの最大レス数(1000件)を超えています。残念ながら投稿することができません。

尚六SS「永遠の行方」

220永遠の行方「呪(129)」:2009/08/29(土) 00:06:25
「何しろ梁興の謀反から二百年も経っている。そのため当初は残党の仕業であ
る可能性は低いと思われていたが、王に昏睡の呪をかけて絶命した呪者が、梁
興の寵姫だった晏暁紅の下僕である線が濃くなった。そのため暁紅を首謀者も
しくは謀反の協力者と推定し、行方を追おうとしているところだった」
 六太はそう言って、険しい表情で倩霞を見やった。彼女に対し「晏暁紅か」
と問いかけ、それを倩霞が肯定したことを思いだした鳴賢は身を震わせた。
「なんで、そんな――」動揺のかけらも見せず、ひたすら倩霞を気遣って側に
侍っている阿紫に呼びかける。「――阿紫……」
 阿紫は鳴賢に一瞥を投げたものの、冷ややかなまなざしだった。女主人が座
る榻の傍らに膝をついたまま、ふたたび気遣わしげに倩霞を見あげる。
「まさか、この家の者すべてが知っているのか? ここは謀反人の根城だった
とでも言うのか?」
 倩霞の店は女向けの小物を扱っていただけに、従業員も若い娘ばかりだった。
それもほとんどが恵まれない境遇から倩霞の家に引き取られたため、一緒に住
んでもいたはずだと思い、鳴賢は信じられぬ思いで倩霞を凝視した。だが彼女
は相変わらず微笑を浮かべているだけ。その静かで妖しいほほえみに、鳴賢は
自分の発した言葉が真実であることを悟らずにはいられなかった。
「他の娘たちはどこだ? 郁芳とか……。頼む、話をさせてくれ」
 何かの間違いではないのかと祈りつつ、鳴賢は訴えた。しかし倩霞は答える
代わりに、傍らの阿紫の手にそっと自分の手を重ねた。
「もう誰もいないわ、誰も。残ったのはこの子だけ」
「逃げたということか……?」
「いいえ。みんなわたしに命をくれたの。あの呪を行なうためには若く健康な
命がたくさん必要だった。みんな喜んでわたしに命をくれたわ」
 ――狂っている。
 鳴賢はそんな言葉を飲みこみ、倩霞、いや暁紅を凝視した。言葉もない鳴賢
の前で、六太は悲痛な表情でしばし瞑目した。




掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板