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尚六SS「永遠の行方」

188永遠の行方「呪(99)」:2009/07/04(土) 13:57:55

 朝議のあと、昼餉をはさんで大司寇府で執務に精を出していた朱衡は、仕事
の切れ目を見つけて仁重殿に赴いた。昔ならいざ知らず、王も宰輔も必要な執
務量はかなり減っているから、六太はいつも遅くとも午後の半ばには靖州府を
退いて自分の居宮に戻るようになっていた。
 夕刻の退庁を待たずに出向いたのは、朝議の際の六太の様子が気になったか
らだ。相変わらず静かな緊張が宮城を支配している今、彼も何か吐き出したい
こともあるのではないか。そんなふうに思う。
 ただの主従関係であってもこれだけの歳月をともに過ごせば、仲間意識も情
も自然と芽生えてくる。実際朱衡は口に出さないだけで、尚隆にも六太にも深
い親愛の情をいだいていた。一介の仙に過ぎない自分でさえそうなのだから、
六太はそれ以上に尚隆に情を持っているに違いないのに、王が昏睡に陥ってか
らこちら、あまりにも感情を見せないのが逆に気になった。
 むろん実質的に王が不在の今、臣下の筆頭である宰輔が取り乱してはいけな
いだろうが、普段率直に心中を吐露することが多いことを思えば、あまりにも
不自然だった。これだけ長く仕えると何とはなしに微妙な変化も感じ取れるよ
うになるものだ。
 六太は無条件で王を慕うとされる麒麟だが、普段の彼からはあまりそんな印
象を受けない。尚隆といると確かに嬉しそうな顔になるのだが、それでいて王
が示した政策を簡単に否定しては鋭くなじることも少なくないからだ。昔は他
に麒麟の知り合いなどいるはずもないからそういうものだと思っていたし、特
に不思議とも思わなかったが、長い間に接することになった他国の麒麟と、六
太はあまりにも違っていた。たまに仲良く揃って逐電するくせに、雁の王と麒
麟は互いに一定の距離を置き、そこから相手の側には決して足を踏み入れない
ように見えた。
 その昔、六太は「王なんて存在は民を苦しめるだけだ」と事もなげに言いは
なって、朱衡をびっくりさせたことがある。よくよく話を聞いてみれば、六太
は蓬莱で庶民として生まれ、戦乱を嗜むその土地の為政者に相当苦しめられた
らしい。当人が話したがらなかったため詳しく聞き出すことはできなかったが、
それで、と納得したことを今でも覚えている。




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