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尚六SS「永遠の行方」

170永遠の行方「呪(82)」:2009/04/26(日) 23:08:57
 未来を、国土を見据えて舵を取り、あとは臣下を信頼して任せること。その
意味では尚隆は申し分のない王だった。
 だが、その王を実質的に失ってしまっては。
 かつて、そんな尚隆もいずれは失道し、国を荒らすのかとぼんやり考えたこ
ともあった。だが、自分がまんまと謀反人に謀られ、国家を転覆させようとす
る企てに荷担した格好になるとは、夢にも思ってはいなかった。令尹の士銓な
どは、抗議するように「荷担とは違うでしょう」と言ったが、いくら尚隆自身
の望みだったとはいえ身分を伏せて彼を幇周に伴い、結果的に謀反人の一味と
相対させてしまったことは、痛恨の極み以外の何物でもなかった。

「呆けている暇はないぞ」
 王と空行師を送り出したあと、数日来の緊張が一気にほどけて腑抜け顔にな
った諸臣に、帷湍は叱責の声を投げた。中には、これ以上自分たちに何ができ
るのかと最初から諦めてしまっているような者もいて、戸惑うように主君に言
った。
「関弓ならば、主上の昏睡の原因もすぐにわかるのではないでしょうか。優秀
な典医も大勢いるでしょうし……」
「それならばそれでいい。だが最初から関弓を当てにしてどうする。事件はこ
の光州で起きたのだぞ。関弓は遠い。ここでしかわからないこともあろう。何
より謀反人のことが何ひとつわかっておらんではないか」
 そう言ってから、傍らの令尹に「例の女の身元はまだわからんのか」と鋭く
問う。
「益のある情報はまだ何も」
 令尹は頭を下げたまま、苦しそうに答えた。
 例の女とは、幇周で尚隆を罠にかけた若い母親のことだ。当初は誰もが子を
亡くして気が触れた幇周の民だと思い込んでいた。しかし実際のところは幇周
どころか近隣の里の者ですらなかったのだ。
 女がいつ呪者と接触したかを調べるため、里の者に聞き取りをしたところ、
明らかに女の容姿に食い違いがあった。渋る里人を説得して遺体と面通しさせ
てみると、果たして別人。そうこうしているうちに道端の、雪かきされた雪が
積み上げられていた中から本物の母親の遺体が見つかった。どうやら病人を収
容した仮小屋から抜けだしたあと、呪者に殺されたらしい。呪者は子の遺体を
奪い、さも自分が母親のような振りをして兵らを油断させ、王を罠にかけたと
いうわけだ。




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