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尚六SS「永遠の行方」

118永遠の行方「呪(30)」:2008/11/21(金) 18:09:04
「そりゃ――まあ――」
 言いかけて、結局何も言葉が出てこずに口をつぐむ。そんな鳴賢に楽俊は言
った。
「ま、無理にとは言わねえけどな。もし気が向いたら、母ちゃんに聞いてくれ
れば、団欒所の開放日はわかるはずだ。母ちゃん、海客のとりまとめ役をして
る人とも話したことがあるらしいから。雁に来たばかりのとき、母ちゃんもあ
ちこち出歩いて団欒所に迷いこんだんだと」
 そう言って笑った楽俊は、鳴賢の茶杯が空になっているのに気づき、「もっ
と茶、飲むか?」と問うた。

 とはいえ鳴賢自身に、海客にほとんど関心がないのは確かだった。そもそも
大学を落ちこぼれかけている今の彼はそれどころではない。だから翌々日に団
欒所なる場所に出向いたのも、当人にしてみれば、友人たちが帰省してしまっ
て閑散とした寮の中で、ふと気まぐれを起こした以上の意味はなかった。
 もっとも楽俊にも彼の母親にも開放日を確認せず、こっそり出向いたことを
思えば、無意識に気になっていたということなのかもしれない。あるいは楽俊
に「行ってみたけど、別にどうってことなかったな」と事もなげに言い、以後
の勧めを封じるためのものだったのか。
 いずれにしろ鳴賢は、久しぶりに街で食事でもしようと思って小銭を持って
出、そのついでという感じで国府の役人に海客の団欒所について尋ねてみた。
するとかなり奥まった場所にある堂室がそれだと教えられた。
 一口に国府と言っても文脈によって意味はいろいろで、広義では王宮を含め
た凌雲山全体を指すし、狭義では凌雲山の入口である皋門から雉門付近にある
官府のこととなる。役人が言った場所は皋門と雉門の中ほどにあり、広途から
はずれた建物のさらに奥だった。鳴賢はぶらぶらと歩きながら、確かに目的を
持って歩かないかぎりはわかりにくい場所かもな、と思った。
 だが件の建物に入っても別に音楽らしきものが聞こえてくる気配はなかった。
すれ違う官吏たちの雑談めいた声が耳を通りすぎる程度で、むしろ静まりかえ
っていると言ってもいいくらいだ。先ほどの役人は確かに今日が開放日だと言
っていたのに、と鳴賢は訝しんだ。




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